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2024年3月 4日 (月)

ナワリヌイ葬儀、一粒の種

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ナワリヌイの葬儀が行われました。

「ロシア北極圏の刑務所で急死したと2月16日に発表された野党指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏(47)の葬儀が1日、モスクワ南部で執り行われた。葬儀の行われた教会や墓地には、ナワリヌイ氏を追悼するために数千人の市民が集まった。多くの人が花を持ち、ナワリヌイ氏の名前や反政府のメッセージを連呼した。
教会や墓地周辺には朝からフェンスが設けられ、警察官も多数出動した。
人権団体によると、同日夜までにロシア各地でナワリヌイ氏の追悼に参加した人が90人以上逮捕されたという。
ロシアのテレビ局は、ナワリヌイ氏やその葬儀についてほとんど報じていない。そのため葬儀の様子は、ナワリヌイ氏が立ち上げた「反汚職基金」が、ナワリヌイ氏のユーチューブチャンネルからリアルタイムで実況した。
葬儀は現地時間午後2時に、モスクワ南東部マリイノ地区にある教会で始まった。マリイノは、ナワリヌイ氏がかつて住んでいた地域。
教会に霊柩車(れいきゅうしゃ)が到着すると、集まった人々は拍手で出迎えた。
(BBC 2024年3月1日)
ナワリヌイ氏の葬儀、モスクワで執り行われる 数千人が集まり行進 - BBCニュース

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BBC

ナワリヌイの葬儀の情報が一切禁止される中、彼の遺したチームは教会での追悼式をユーチューブでライブ中継し、数十万人のロシア国民がその画像を追ったといいます。
当局は、ユーチューブの動画に妨害をかけ、たびたび中継はダウンしましたが、最後まで続けられました。
この葬儀参列は、FSBなどの監視の中で行われ、参加すること自体が身ばれによる不利益や拘束を被る可能性が高かったのですが、その葬列は長く続きました。

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ロイター

なお、葬儀にはモスクワ駐在の欧米各国の大使たちの姿が見られました。
日本大使の参列はなかったようです。

一方、葬儀の日、プーチンはこんな演説をしました。

「ロシアのプーチン大統領は、日本時間の29日夜、内政や外交の基本方針を示す年次教書演説で、3年目に入ったウクライナへの軍事侵攻について「ロシア軍が主導権を握っている。さらに多くの領土を解放している」と述べ、ロシア軍が攻勢を強め戦果を得ていると強調しました。
また、ロシアの核戦力を誇示するなど、ウクライナへの支援を続ける欧米側を強くけん制しました。
ロシアのプーチン大統領は、日本時間の29日夜6時すぎからモスクワ中心部のクレムリン近くで、2時間以上にわたって年次教書演説を行いました」
(NHK2024年2月29日)
プーチン大統領 年次教書演説 “ロシア軍が攻勢”戦果を強調 | NHK | プーチン大統領 

核兵器を誇示し、ウクライナ侵略を完遂するとのことです。
拍手はまばらで、さすがのロシア国民もしらけきって見ていたようです。

ところで、プーチンは赴任5年目の1989年11月、目の前で一国が崩壊する姿を目撃しています。
当時、この男はKGB工作員として東ドイツに赴任し、西ドイツの過激派のハンドラーをしていたといわれています。
東ドイツ秘密警察のシュタージやKGBの予想を裏切って、11月9日、東西分断の象徴であったベルリンの壁は民衆によって叩き壊され、東西ドイツは一気に統合を目指します。

東西ドイツの再統合とは、東ドイツの崩壊を意味します。
ソ連圏随一の優等生として安定していたはずの東ドイツでは、全国に民主化デモの波がわき起こり、壁崩壊から1カ月後の12月にはプーチンが住んでいたドレスデンも民主化デモに洗われます。
12月5日、プーチンの事務所があったシュタージの建物は真っ先にデモの標的となり、市民はシュタージが作った市民の監視記録を奪おうとして押し寄せました。

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 NHK

民衆は怒りの声を上げながら、シュタージの建物を占拠しましたが、その時のデモのシュプレッヒコールは、「我々が人民だ!我々が人民だ!自由を手に入れろ!」だったそうです。
「我々が人民だ、自由を手に入れろ」、この市民の声は一生プーチンの耳から離れないはずです。

そしてれから1年後の1990年10月、東西ドイツが統一し、東ドイツは崩壊しました。
そしてプーチンが祖国に逃げ帰った後を追うように、ソ連もまた1年後の1991年12月、多くの衛星国を独立させ、崩壊します。
独立を得た国のひとつにウクライナがありました。

これがプーチンの原体験です。
プーチンがもっとも恐れるものは米国ではなく、民衆の民主化への希求なのです。 

「ウィーンコン発フィデンシャル」の長谷川良氏はこう述べています。

「そして今回、プーチン政権の強権の犠牲となったナワリヌイ氏の追悼式に2キロ余りの列ができた。これを“ナワリヌイ・ライン”と呼びたい。追悼式に参加した人々からは「ロシアに自由を」「愛は恐怖より強い」といった声が飛び出していた。ナワリヌイ・ラインを見て、クレムリンの主人プーチン大統領はどのように感じただろうか。
 「一粒の麦が地に落ちて死ななければ、それはただ一粒のままである。しかし、もし死んだなら、豊かに実を結ぶようになる」(「ヨハネによる福音書第12章24節)というイエスの言葉を思い出す。ナワリヌイ氏の犠牲が近い将来、ロシアで豊かな実を結び、ロシア国民が独裁政権から解放されることを願う」
ウィーン発 『コンフィデンシャル』 (livedoor.blog)

 ナワリヌイはこのプーチンが恐れる民衆をまとめる「一粒の麦」でした。
それがゆえにプーチンはナワリヌイを殺したのです。
私もナワリヌイの葬列に手を合わせて祈りましょう。

ロシアが一日も早くプーチンという名の悪霊の手から自由を取り返しますように。

 

 

2024年3月 3日 (日)

日曜写真館 春暁のすべての中に風秀づ

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一つぎつぎて春暁の火となりにけり 日野草城

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一湾の窪みは鴨をもて埋む 山崎みのる 

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ありがたき春暁母の産み力 森澄雄

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一湾に光あまねし花菫 市堀玉宗

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春暁のうす紙ほどの寒さかな 細見綾子

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春暁のダイヤモンドでも落ちてをらぬか 波多野爽波

 

 

 

2024年3月 2日 (土)

座礁した米国EV革命

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自動車販売の中心地である米国では、EV化に暗雲が立ち込めています。
いままでバイデンのグリーンエコノミー政策に乗って熱気に包まれていたはずのEV市場が冷め始めています。
ひと頃はEV生産を4倍にすると強気だったフォードはその計画を取りやめました。
EV工場から従業員を通常のガソリン車の工場に移動しています。

「デトロイト郊外のフォード工場でピックアップトラックの検査を担当しているマシュー・シュルテさんは、突然の変化に「少し驚いた」と話す。「現実が見えてきた」
ほんの1年前まで、自動車メーカーは電気自動車(EV)需要の高まりに対応するのに苦労していた。ところが、数カ月の間に状況は一変し、多くの自動車メーカーが全速力で推し進めてきたEVシフトにブレーキがかかった」
(ウォールストリートジャーナル2024年2月21日)
EV革命頓挫、6カ月で何が起こったのか - WSJ

なぜでしょうか。理由は簡単、要はEVなんて売れないからです。

「全米の自動車ディーラーによると、航続距離や信頼性、価格をめぐる懸念が立ちふさがり、電気自動車(EV)を売り込むのが難しくなりつつある。
自動車ディーラーのポール・ラロシェル氏は、米フォード・モーターが電動ピックアップトラックを発売すると聞いた時、自身のビジネスの見通しに胸を躍らせた。
「100万台作っても売れると思った」。米東部バージニア州やメリーランド州、首都ワシントンで十数ブランドの車を販売するシーヒー・オート・ストアーズでバイスプレジデントを務めるラロシェル氏はこう語る。
 現実はそれほど甘くなかった。同社の保管場所には6~12カ月供給分に相当するEV在庫がある、とラロシェル氏はこぼす。これに対し、ガソリン車は1カ月分だ」
(WSJ2023年12月14日 )
EV購入を依然ためらう消費者も 米ディーラーが実感 - WSJ

100万台売れるどころか、滞貨の山を作っただけだったというわけです。
米国のディーラーは、メーカーのEVシフトを拒否し、ハイブリッドに転換するように要請しています。

「一部の有力な米自動車販売店は、米ゼネラル・モーターズ(GM)にハイブリッド車の導入を迫っている。電気のみで走る完全な電気自動車(EV)に乗り換えるつもりがまだない顧客を失うリスクを懸念しているからだ。
 最近、GMの諮問委員会の委員を務める複数の販売店は会議を重ねる中で、GMのラインアップにハイブリッド車を加えるよう同社幹部に強く要請してきた。議論に関与した関係者らが明らかにした。GMは近年、完全なEVに重点を置き、ハイブリッド車をほぼ見送ってきた。ハイブリッド車は、内燃機関であるエンジンに小型バッテリーと電動モーターを組み合わせ、優れた燃費を実現する」
(WSJ2024年1月30日)
GMにハイブリッド導入迫る米ディーラー 顧客失う恐れ - WSJ

米国消費者の消費選択は冷厳です。
米国消費者はこんな不便でハンパな性能の自動車は買わないということです。
そんなに脱炭素したいなら、ハイブリッドのほうがはるかに完成されているし安いじゃないか、なぜわざわざ不便で性能的にもガソリン車に及ばず、航続距離が短いようなハンチクなモノを買わねばならないのか、ということです。
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CNN
EVは、特に氷点下前後で致命的に無様な姿をさらしました。
通常の内燃自動車ではありえないことばかりなために、多くのEVユーザーがヒドイ目に合いました。
なんせ最悪、バッテリーが低温では起動しないのですから、ただの鉄の箱です。
それも氷点下の気象だと、ドライバーの生命にかかわります。
「走行距離と充電時間は、ともに寒さの悪影響を受けてしまう。先ごろ米国を襲った大寒波ほど厳しい場合は特にだ。この寒波では、数日にわたって米国人口の70パーセント以上が氷点下の気温に見舞われ、非常事態宣言が発令された州もあった。
寒さから悪影響を受けるのは、EVを動かすリチウムイオンバッテリーがとても温度に敏感だからだ。同じタイプのバッテリーが使われる携帯電話やパソコンも同様である。
さらに極度に低い気温では、搭載されているコンピューターがバッテリーの使用を制限することがある。EVで最も高額なコンポーネントであるバッテリーを守るためだ。
テスラ「モデルS」のオーナーズマニュアルには、次のような注意書きがある。「寒冷地では、バッテリーの温度が低すぎるため、バッテリーに蓄積されたエネルギーの一部が利用できない可能性があります」
寒さから影響を受ける可能性があると、推定航続可能距離の表示の隣に雪のマークが現れる。一般的に寒冷地におけるEVの走行距離は、温暖な場所と比較して約20パーセント短くなる」
なぜ電気自動車は、寒いと性能が落ちてしまうのか? | WIRED.jp
かのEVの元祖テスラのイーロン・マスクすら見通しは暗いと正直に言い始めました。

「テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)ですら、同社の2024年の納車台数の伸びが「著しく低下する」との見通しを示している。 フォードのジム・ファーリーCEOは2月上旬の決算説明会で、「これは昨年後半の6カ月間に起きた劇的な変化であり、自動車業界の勝者と敗者が急速に選別されるだろう」と述べた」
(WSJ2024年2月21日)

一方、フォードは、F150ライトニングの注文が膨らんでいることに自信を得て、店頭価格を当初の水準から2万ドルも引き上げました。
結果は、大量に売れ残ったのです。
フォードは、昨年、EVで47億ドルという多額の損失を計上し、さらに今年はさらに損失が拡大し、50億~55億ドルにまで達すると見ています。
売り上げが下がってた時に値上げするのですから、赤字が積み上がってもあたりまえです。

一方、EVの流行が引き潮だと見たテスラは、昨年1月中旬に一部モデルの価格を20%余り引き下げてまで売ろうとしました。
その結果、新車のみならず中古車販売業者にまで影響が出て、抱えていたテスラの小型車「モデル3」とSUV「モデルY」の在庫は、その価値が数千ドルも急落し、もはや高値でテスラの高級モデルを買う者は激減しました。

「マスク氏はその翌日、金利が上昇し経済状況も厳しさを増していることから、テスラ車を購入できる人はそれほど多くないと述べた。同氏は7-9月期(第3四半期)の決算説明会で、値頃感が薄れていることが需要を抑えていると述べた」
(WSJ2024年2月21日) 

完全にマスクの戦略ミスです。
マスクはEVの供給過剰に恐怖して値引きという悪手を選んでしまったのです。
本来は、EVの欠陥の技術的解決と生産縮小で対処すべきだったのです。

「バンク・オブ・アメリカのアナリスト、ジョン・マーフィー氏は「EVの需要が供給を上回っているのに値下げする理由が分からない」と述べた。
マスク氏は需要に問題はないと強調した。同氏はアナリスト会見で、(値下げは)より手頃な価格にして訴求力を拡大することが狙いだと語った」
(WSJ2024年2月21日) 

テスラが値引きするなら比亜迪(BYD)はさらに値引きで対応するでしょし、それに容易に耐えるのはいうまでもなく輸出補助金をもらっている中国勢のほうです。
そしてそう遠からずEV市場は中国勢に支配されます。
そして中国は、市場を寡占支配した後におもむろに値上げするのですが、その時には対抗する米国EVはほぼ一掃されているという仕掛けです。
このように中国製EVは世界支配を早めていますが、唯一抵抗できる国があります。
他ならぬ日本です。
豊田章男会長はこう述べています。
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トヨタイムズ

「BEVやFCEV(燃料電池車)はインフラとセットです。
ただ全世界では10億人の方が電気の通っていないところに住まれています。トヨタの場合、そうした地域にもクルマを供給しておりますので、BEV 1本の選択肢では、すべての方に移動を提供できません
だから、いろんな選択肢を持とうとしております。
そして、トヨタにあって他の会社にないのがHEV(ハイブリッド車)です。HEVを日本で20~30年前に導入したおかげで、日本が唯一、先進国の中でCO2を23%も下げている国となりました。
ただ、メディア中心にどなたも説明をしてくれません。「トヨタはBEVで遅れている」としか言われません。
大事なことは、BEVにする、FCEVにするということではありません。敵はCO2です。なので、CO2を今すぐでも減らすことをみんなで考えようということです。
そして、どの地域や国、所得層の方からも、移動の自由を奪ってはいけないとトヨタは考えております」
(トヨタイムズ2024.01.23)
「決断と責任を取るのが私の仕事」 豊田章男がリーダー200名に伝えたこと (toyotatimes.jp) 

人類の10億は電気のない場所で暮らしているのに、インフラとワンセットでしか使えないEVしか選択肢がなかったらどうするのか、という豊田氏の提起はまったく正しい。
WSJも、いきなりのEV革命は危険だった、段階を踏んでハイブリッドに移行すべきだとしたトヨタの言い分は正しいと評価しています。

そして中国製EVにまたあらたな問題が浮上しました。

「アメリカのバイデン政権は2月29日、インターネットの常時接続でドライバーなどの個人情報などが盗み出される懸念があるとして、中国製の電気自動車のリスクについて調査を始めると発表した。
調査の対象となるのは、インターネットに常時接続して遠隔操作もできる「コネクテッドカー」で、中国製の電気自動車がほぼ含まれる。
バイデン大統領は声明で、「ドライバーや同乗者の大量の機密データを収集し、カメラやセンサーを定期的に使用してアメリカのインフラに関する詳細な情報を記録し、遠隔操作で操縦したり無効にしたりすることができる」と指摘した」
(FNN2024年3月1日)

 なんと今度はバックドアつき自動車だそうです。やれやれ。

 

2024年3月 1日 (金)

自国の自動車産業を潰すためにEV革命をしてしまったEUの悲喜劇

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ニッポン人の7割は自国が衰退していて未来はないと思っておるぞよ、という声がメディアから聞こえます。
ほんと、メディアは民草にペシミズムを配給するのが仕事だと思っているようで、こんな調子です。

「世論調査会社イプソスは2月28日、「ポピュリズムに関するグローバル調査2024」の結果を発表した。調査は2023年11〜12月に、日本を含む世界28か国2万630人を対象に実施した。
そのなかで「自国は衰退している」と思うかと質問。すると日本人の68%が「そう思う」と答え、世界各国と比較すると28か国中5番目に高い割合であることがわかった。
2016年からの経年変化を見ると世界各国平均ではほぼ変わっていない。にもかかわらず、日本人の場合は1.7倍にまで増加したのだ」
日本人の68%「自国は衰退」|ニフティニュース (nifty.com)

貧困と社会的不平等、そして経済の没落、そして朝日にいわせると、いまやわが国は世界の誰もがふりむきもしない「田舎の終着駅」になってしまったそうです。
この日本人のペシミズムの原因は、34年間も続いた経済のデフレ冷血症がもたらしたことは明らかですが、昨今はこれにEVが加わっています。
EV革命が起きたぞよ、EV後進国のニッポン自動車産業は壊滅だぁ、トヨタこけて日本経済全滅だぁ、とメディアはなぜかひどく嬉しそう。

「現在、ICE(内燃機関)自動車からEVへのシフトが世界で急速に進んでいる。そんな状況でも、反EV勢も多い自動車大国の日本は世界に差を付けられる「お寒い」状況が続く。基幹産業である自動車製造が衰退すれば、現在500万人以上とされる自動車関連産業の就業者は路頭に迷い、日本経済の壊滅も懸念されるだろう」
(Seizo Trend  2023年11月30日)

EVシフトで先進国“最低”のお寒い「日本」、世界との差は“ヤバい”が明るい兆しも? Seizo Trendキーパーソンインタビュー|Seizo Trend (sbbit.jp)

たしかにEUは一時期EV熱が加熱して、軒並みガソリン車とディーゼルを販売禁止にしようとしました。
「ドイツ連邦参議院を通過。ドイツの規制はEUやUNECEの規制に影響を与える 2017/9/24の選挙を前にメルケル首相は雑誌SUPERilluのインタビューに答え、ガソリン車・ディーゼル車の販売禁止を指示。具体的な時期として2040年を示唆」
各国のガソリン車禁止・ディーゼル車販売禁止の状況 - EVsmartブログ
しかしわずか6年で、EUはガソリン車販売禁止政策を撤回しています。
「3月25日、EU(欧州連合)の行政府である欧州委員会とドイツ政府が、水素とCO2で作る合成燃料「e‐Fuel(イーフューエル)」の利用に限り、2035年以降も内燃機関の新車販売を認めることで合意しました」
週プレ2023年5月2日)
EUが「2035年までにエンジン車の全面販売禁止」を撤回したワケ - クルマ - ニュース|週プレNEWS (shueisha.co.jp)
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週プレ
そして今やトヨタのハイブリッドは過去最高利益です。
「欧米、中国、日本を含む主要14カ国のハイブリッド車(HV)の販売台数が2023年、前の年から30%増えて電気自動車(EV)などの伸び(28%)を上回った。トヨタ自動車のHV販売台数も過去最高を更新した。品ぞろえの豊富さや使い勝手の良さが支持されたもようで、拡大を続けてきたEVの成長ペースが踊り場を迎えている」
(日経2024年2月19日)
ハイブリッド車世界販売3割増でEV逆転 23年、トヨタは過去最高 - 日本経済新聞 (nikkei.com)
おかしいではありませんか。「世界に差をつけけられて」壊滅寸前のはずの日本自動車産業のほうが伸びてしまうなんて。
ノルウェーは世界一のEV(電気自動車)普及国ですが、この国のEV自動車の普及率です。
全体の新車販売の半分がEVです。

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日経

「【フランクフルト=深尾幸生】ノルウェーの2020年の新車販売(乗用車)で電気自動車(EV)が初めて全体の半分を上回った。ノルウェー道路交通情報評議会(OFV)が5日発表した同年のEV販売台数は19年比27%増の7万6804台で、シェアは54%と12ポイント上昇した。単月では過半に達していたが通年で超えるのは初めてだ」
(日経2021年1月6日)
ノルウェー、EVシェア通年でも過半に 20年54%: 日本経済新聞 (nikkei.com)

販売車の半分がEVで、プラグを差して充電するプラグインハイブリッド車(PHV)のシェア20%を加えると7割以上がEVです。
EU全体でもEV化が進んでいます。

「欧州においては官民一体でのEVシフトは急激に進んでいる。先月2021年11月のドイツのEV(純電気自動車:BEV、プラグインハイブリッド車:PHEV)のシェアは34%を超えてガソリン車を超えた。これは北欧などの小国を除くと初めてのことだと思う。またその他英国やフランスのEVのシェアも20%を大きく超えてきている」
(黒木照弘2021年12月28日)
欧州、特にドイツにおける電気自動車の急激な普及 | アゴラ 言論プラットフォーム (agora-web.jp)

ちなみにわが国は、ハイブリッド車が37%であるに対して、EV普及率はわずか0.4~1.2%でまったく低調で、いま日本で電気自動車は意識高い系しか乗りません。
脱炭素を言うならハイブリッドで充分で、まだろくな急速充電インフラもないEVなど買う必要がないからです。

EVは実は大変なカネ喰い虫です。だってそうでしょう、急速充電施設を全国に張りめぐらすだけで気が遠くなるような数が必要です。
EVはこの充電施設がないかぎりただの鉄の箱となってしまいますし、航続距離が短いので今のガソリンスタンド以上に全国津々浦々に作らないと、EVは普及しません。
この無理を押して普及させようというのですから、国策としての優遇策を取りました。

「だがこの背景を探ると、その強引さが目立つ。石油には重い税を掛ける一方で、電気自動車は税の減免を受けている。EVは駐車料金や高速料金も割引されており、バスレーンの利用などの優遇措置も手厚い」
(キャノングローバル研究所・杉山大志氏『「EV先進国」ノルウェーを支えているのは"北海油田"という矛盾』20022年2月22日)
「EV先進国」ノルウェーを支えているのは"北海油田"という矛盾 | キヤノングローバル戦略研究所 (cigs.canon)

EVは取得減税、駐車料金は割引、高速道路を走ってもタダ同然、バスレーンも走りたい放題ですか、スゴイね。                                          ここまでしても、ノルウェイという人口500万人ていどの小国ですら肝心要の急速充電装置が足りないのです。
不足が特に露になるのが、人口が多い都市部です。

「人口が多いノルウェー南部では、EVシフトの悲惨な現実が浮き彫りになっています。ノルウェーの高速道路には多い所で20基以上の急速充電設備が設置されていますが、それでもお盆や正月は、交通量が増えて大規模な充電渋滞が起こります。
充電設備の数はおおよそ日本の20倍ほど設置されていますが、これだけ整備されても一切のストレスなくBEVを使うには不足する様子。充電渋滞は同じくEV先進国である中国でも問題になっています」
「EVシフトは綺麗事ばかり」電気自動車先進国の「悲惨な現状」とは | MOBY [モビー] (car-moby.jp) 

こうまでせねばEVは拡大できなかったのです。
そしてその結果がどうなったかといえば、失笑することには、いまや欧米市場のEVはメイドインチャイナのEVに乗っ取られ、EU製は片隅に追いやられつつあります。
なんだ自分の国の自動車産業を潰して、中国のためにEV化したようなもんじゃないですか。
事実、いまや中国は自動車生産台数で世界3位です。
このEV攻勢が続けば、近々ドイツを抜いて中国は自動車生産量で世界2位になるでしょう。

「中国EVの欧州急進出により欧州自動車企業は地元でシェアを奪われるリスクが高まっている。中国市場で高成長を謳歌してきたVWなどの欧州自動車メーカーは、今や攻守所を変えて、守る側に立たされつつあるのである。
2023年上期の中国自動車輸出台数は214万台(前年比76%増)のとなり、日本を抜き世界一となった。けん引役は、EVおよび民主主義国が禁輸している対ロシア向け輸出である。中国車のロシアでのシェアは2021年9%から22年37%、23年にはシェア50%を超え100万台に迫ると見られている」
(武者リサーチ 2023年10月3日)
窮地か?ドイツ企業の対中戦略検討とEU | 武者リサーチ (musha.co.jp)

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(EVsmartブログ
「中国EVメーカーからは今年、世界中に商品の波が押し寄せました。CAAMによると、中国は9月に昨年同月の倍となる5万台のNEVを輸出し、通年ではNEVの輸出台数が38万9,000台に達して昨年比で3ケタ台の成長率を見せました。
゛中国税関総局の最新データによると、中国は8月に11万2,000台のNEVを輸出し、8月までで輸出量の多かった国トップ3はベルギー、英国、タイでした。今のペースで行くと、中国は2022年に50万台以上のNEVを輸出することになります。また中国は9月までに昨年同期比で55.5%増の合計212万台の自動車を輸出しており、世界2位の自動車輸出量を誇るドイツを抜いて日本の下に着きました」
(EVsmartブログ 2022年11月1日)
中国勢のEV競争は新しいフェーズへ〜世界市場進出への急展開 - EVsmartブログ

そして中国のEVメーカー比亜迪(BYD)は今年、世界の頂点に立つ見通しです。
国際市場は中国製EVに制圧され尽くすでしょう。
BYDは2023年10-12月期のEV販売台数でテスラを上回り、世界首位となった。国内ではすでに昨年、ドイツのフォルクスワーゲン(VW)を抜き首位となっています。
さらに中国はバッテリー市場などのサプライチェーンもしっかりと支配しています。
「中国のCATL、Gotion、EVE、CALB、BYDなどのバッテリー大手は中国の外で生産を拡大しており、Gotionはミシガンでのプロジェクトに23億6,000万ドル(約3544億1,064万円)の投資をすることを最近発表し、CATLもメキシコで生産設備の投資をすることになっています」
EVsmartブログ
つまり、EVは完成車だけではなくバッテリーにいたるまで中国が支配してしまったのです。
これがメルケルの脱炭素の結果です。
ちなみにバッテリー生産は有害物質を出しまくるので有名な商品ですが、環境規制が甘い中国はどうやって作っているのやら。
しかし中国製バッテリーがないともはやEVは動かないのです。
このような中国の世界制圧に対して、ささやかな抵抗がEUでも始まっています。
中国がEU市場に進出できた秘密は輸出補助金であることに着目したのです。
[上海/ブリュッセル 12日 ロイター] - 欧州連合(EU)欧州委員会は、欧州の電気自動車(EV)メーカーを保護するため関税措置を課すべきか調査する一環で、数週間内に中国の自動車メーカーに対する査察を実施する。関係者3人が明らかにした。
査察対象は比亜迪(BYD)と吉利汽車、上海汽車工業集団(SAIC)米テスラやフランスのルノー、ドイツのBMWなど、非中国ブランドのEVを現地生産している会社は対象外となる。
欧州委の調査は昨年10月に始まり、1年1カ月続く予定。価格が安い中国製EVが国から不当な補助金支援を受けていないかどうか判断する。中国はこの調査を保護主義的だと主張しており、EUとの緊張が高まっている。
欧州委は査察を実施することを認めた。通商担当スポークスマンは「中国とEUのメーカーを代表サンプルに選定した。既に質問票に回答している」と説明し、1─2月に検証を実施すると述べた。
欧州委、中国EVメーカーを査察へ 補助金の有無調査=関係筋 | ロイター (reuters.com)
中国が輸出するEVに補助金をつけるという不公正な方法を使ってまで欧米市場を制圧したことに気がついたEUや米国では、急速にEV熱が醒めてきています。
遅いよ、もっと早く気がつけよと思いますが、自分の言っていたキレイゴトに自分でたぶらかされていたのです。

次回は米国を見ます。

 


2024年2月29日 (木)

北朝鮮の誘い水に乗るな

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なでしこ勝ちました。おめでとう。なかなか手ごわかった。

北のナンバー2である与正が、直接岸田氏に「拉致問題を議題にしないのなら正恩との首脳会談もありえる」と言い始めました。
与正は若すぎるために肩書は(党中央委員会)副部長のままですが、政治局員(対外担当責任者)として正恩とサシで話せる唯一の人物のはずです。
したがって与正の言うことは、正恩兄の言うことであると見てよいでしょう。

「北朝鮮の朝鮮中央通信は15日、金正恩(キムジョンウン)総書記の妹で朝鮮労働党副部長の金与正(キムヨジョン)氏の談話を配信し、正恩氏との首脳会談に強い意欲を示した岸田文雄首相の発言について、「解決済みの拉致問題を障害物としなければ」と条件をつけた上で、「肯定的なものとして、評価されないはずがない」との見解を明らかにした」
(朝日2024年2月15日)
金与正氏、「岸田首相が訪朝する日も」 拉致問題は議題にしない条件:朝日新聞デジタル (asahi.com)

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読売テレビ

ちなみに、与正は「個人的見解」だとしつつも、日本側が「政治的決断」を下せば、「いくらでも新しい未来をともに切り開いていける」といいながら、正恩ら党指導部は「関係改善に向けたいかなる構想も持っておらず、(日本との)接触に何の関心もないと理解している」とも付け加えてはいます。
ただし「なんの関心もない」なら、与正がいまさらこんなスピーチをする道理がないのです。
これは、岸田氏が訪朝を考え始めていることに対する北のアンサーだと考えるのが妥当です。
どうぞいらっしゃい、罠仕掛けて待ってますからね、というわけです。

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拉致集会で岸田首相「私の手で必ず解決する」 (youtube.com)

岸田政権は4月の米国国賓訪問の後に北を電撃訪問し、「拉致問題の何らかの進展」を得たいという情報を流していました。
とうぜん、こんな情報が出てくるくらいですから、水面下では日朝の秘密交渉で打診していると思われます。

去年は東南アジア某国で2回接触しているようですから、たぶんこの場でも首相訪朝を匂わせたと思われます。

「北朝鮮による拉致問題の解決に向け、日本政府関係者が今年3月と5月の2回、東南アジアで北朝鮮の朝鮮労働党関係者と秘密接触していた、と複数の日朝関係筋が証言した」
(朝日2023年9月29日)
日朝、今春2回の秘密接触 東南アジアで その後の交渉、停滞:朝日新聞デジタル (asahi.com)

容易に予想できるのは、岸田氏が訪朝した場合のお土産は「二人の日本人」です。
この「二人の日本人」とは、田中実氏(政府認定の拉致被害者)と金田龍光氏(特定失踪者)です。
ふたりの共通点は、田中氏と金田氏は共に同じ孤児院育ちで日本には身寄りがなく、金田氏は在日韓国人で、双方ともに国内には身寄りがいないことです。

「田中さんは1949年、神戸市に生まれ。2歳の時に両親が離婚し、児童養護施設に預けられた。神戸工業高校を卒業後、いくつかの職場を経てラーメン店の店員に。78年、28歳のときにラーメン店の店主とともに、成田空港からウィーン行きの飛行機に搭乗後、消息不明となった。27年後の2005年、日本政府が16人目の拉致被害者に認定した。
金田さんは、同じ児童養護施設で育った友人で、「田中さんのところに行く」と言った後、消息を絶っており、拉致の可能性の高い特定失踪者だ」
(ZAKZAK2023年7月1日)
【葛城奈海 戦うことは「悪」ですか】心の闇の深さに慄然…演劇「よそのくに」から考える拉致被害者救出 田中実さんと金田龍光さんを描く 独立国なら2人を取り返すべき(1/2ページ) - zakzak:夕刊フジ公式サイト

このふたりに関して、なぜか北は公式に生存情報を日本政府に伝えています。

「日朝は2014年、北朝鮮が拉致被害者らの調査を行い、随時通報することを盛り込んだ「ストックホルム合意」を結んだ。
当時、外務事務次官だった斎木氏は朝日新聞のインタビューに対し、北朝鮮から田中さんや金田さんの生存情報が提供されたと報じられていることについて、「北朝鮮からの調査報告の中に、そうした情報が入っていたというのは、その通りだ。ただ、それ以外に新しい内容がなかったので報告書は受け取らなかった」と証言。インタビューは今年9月17日に朝日新聞デジタルで報じた」
(朝日2022年10月13日)
元外務次官の拉致被害者「生存情報」証言、林外相は「答弁控える」:朝日新聞デジタル (asahi.com)

北はこのふたりを返してもいいという意思表示をだいぶ前からしており、日本側がその情報の受け取りを拒否したということは、裏を返せば日本政府は、このふたりが北のエージェントである可能性をぬぐいきれなかったからだと考えられます。
ふたりとも海外で誘拐されるか、あるいは自分の意志で北に入国したと思われます。
北は拉致被害者を必ず結婚させていますから、すでに結婚して家族もいるはずで、生活の根は向こうにあります。
望郷の念があるかどうかはわかりませんが、こうまで北が差し出してくる以上、いったん帰国してもまた舞い戻ることになるでしょう。

ではなぜここで2名を返してくるのでしょうか。
北の代弁者をしている有田ヨシフは、2020年10月26日の参院質問書でこう述べています。

質問主意書:参議院 (sangiin.go.jp)

九 政府は帰国していない十二人の政府認定拉致被害者に序列をつけているのですか。ありていにいえば横田めぐみさんや有本恵子さんたちの生存と帰国のめどが立たないうちは、田中実さん、金田龍光さんの生存確認はしないということですか。拉致問題解決への道筋のなかでの田中実さん、金田龍光さん個人の位置づけについて明確にお答えください。

なるほどね。有田は、横田めぐみさんや有本恵子さんのような拉致被害者の象徴的な人たちより、北が返すといっている田中氏と金田氏を先に返してもらえ、そうすれば拉致問題は締めくくりだ、と言っているわけです。
つまり、このふたりを返してもらえば、それで拉致問題というのどに刺さったトゲは抜けて、さぁ制裁解除だ、日韓基本条約で韓国に与えた援助と同等のものを北にも寄こせという段取りになります。

元北朝鮮外交官・太永浩氏はこう述べています。

「もし首脳会談で拉致問題が議題に上がるのであれば、北朝鮮の外交戦術としては、『日本側が提起していない2人の日本人が北朝鮮にいるので、日本側が要求すれば日本に帰国させることはできる』ということを示唆するかもしれません。
第一段階として、今、北朝鮮が帰国させることができると言っている2人をまず連れて帰る。そして、北朝鮮が『拉致問題は完全に解決済み』という立場から一歩後退し、『今後、北朝鮮がこの問題を再び調べ直してみてからまた会おう』といったように、少し余地を残すような外交戦術を北朝鮮が使うかもしれません」
「岸田首相が平壌を訪問する日も来るだろう」金与正氏の談話の真の狙いを、元北朝鮮外交官に直撃!訪朝実現、そして南北軍事衝突の可能性は?「日本へのお願いの意味」「岸田政権の難局を見抜いている」|ウェークアップ|読売テレビ (ytv.co.jp)

まぁ、そのとおりでしょう。
安倍氏の時代からこのような誘い水はあったようですが、安倍氏はその手には乗りませんでした。
副官房長官として行った小泉訪朝時の体験から、北のやり口を熟知していたからです。 
今回の与正の誘いも危険な罠です。
与正は、「2つの国が近づけない理由はなく、岸田首相が平壌を訪問する日が来るかもしれない」と言っており、その唯一の障害が拉致問題だと認めています。

岸田氏はこのピョンヤンの誘いに乗る可能性があります。
というのは、有田にせっつかれなくとも、岸田氏は外務大臣当時、斎木外務事務次官と連れ立って官邸を訪れ、田中さん、金田さんの一時帰国と、それ以外の拉致被害者に関しては日朝合同調査委を設置するという案を進言しているからです。
つまり2名先行帰国案です。
これを認めてしまえば、拉致問題は事実上の幕引きとなることはわかりきったことですから、安倍総理はにべもなく拒否したそうです。
今回も安倍氏が存命だったら止めろと言ったことでしょうが、落ち目の支持率をなんとかしたい岸田氏は乗るかもしれません。
うちの首相が、妙に決意を込めて「拉致問題は私の手で」なんて言っているのを聞いていると、正直ゾっとします。

 

 

 

2024年2月28日 (水)

ウクライナ戦争の舞台裏でしのぎを削る南北朝鮮

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ご承知のように 現在、北朝鮮はロシアに防大な軍事支援を送っています。
その供給量もハンパではなくなんと100万発。
大砲こそ生命、戦場の女神とあがめるロシア軍の実に2カ月分だそうです。

というか、たった2カ月分。
いくらあっても足りませんから、正恩はここにビジネスチャンスを見つけたのでしょう。

「米紙ワシントンポストは4日、今年のウクライナ戦争の膠着状況を振り返る深層企画記事で、韓国製の155ミリ砲弾がウクライナに間接支援された過程を紹介した。その量は最大で33万発に上る。一方、北朝鮮はロシアに100万発の砲弾を提供したとされる。ウクライナ戦争はなお長期化の様相を見せている。今後も朝鮮半島からの直接間接の弾薬供給が続く可能性は高い」
(デイリーNK2022年12月6日)
ウクライナに30万発の韓国製砲弾、ロシアには北朝鮮から100万発…米紙など報道 #専門家のまとめ(高英起) - エキスパート - Yahoo!ニュース 

同じように、ウクライナと東欧に商機をみつけたのが韓国です。
すでに全欧より多い33万発送ったそうです。
そればかりではなく、ウクライナと国境を接するポーランドに猛烈な売り込みをしています。

「 韓国は、同国史上最大となるポーランドとの137億ドルの武器契約を活用し、巨大軍産複合体の基礎を築こうとしている。両国の軍需企業が期待するのは、遠い将来にわたって欧州の武器需要を満たすことだ。
韓国の国防省によると、同国の昨年の武器売却額は前年の72億5000万ドルから170億ドル以上に急増した。昨年は西側諸国がウクライナへの武器供与に奔走し、北朝鮮や南シナ海などでも緊張が高まったという背景がある」
(ロイター2023年5月30日)
焦点:韓国が武器製造でポーランドと大型提携、巨大軍産複合体目指す | ロイター (reuters.com)

どうやら韓国はポーランドの耳に、ただウクライナに砲弾を供給するだけでなく、韓国とジョイントすることで 東欧圏の武器を丸ごと韓国に引き寄せようぜ、とささやいたようです。
こういうマネはわが国には逆立ちしてもできないので、ひたすらやるねと思います。

「北大西洋条約機構(NATO)の主要メンバーであるポーランドとの昨年の武器取引には、多連装ロケット砲「チョンム(Chunmoo)」、K2戦車、K9自走榴(りゅう)弾砲、FA―50戦闘機など併せて数百基・両が含まれていた。その金額と数は、世界屈指の防衛産業の中でも際立っていた。
韓国とポーランドの当局者らは、両国の提携はウクライナ戦争後も欧州の武器市場を制覇することにつながると言う。韓国が高品質の武器を他国より迅速に提供し、ポーランドが製造能力と欧州への販売パイプを提供する形だ」
(ロイター前掲)

これは武器供与に息切れが目立ち始めた米国にも喜ばれているようです。

「米紙ワシントンポストは4日、今年のウクライナ戦争の膠着状況を振り返る深層企画記事で、韓国製の155ミリ砲弾がウクライナに間接支援された過程を紹介した。今年初め、米国の生産量では月に9万発以上が必要なウクライナの需要の10分の1強しか満たせないという判断が出ると、ホワイトハウスのジェイク・サリバン国家安保補佐官は、弾薬を大量に保有している韓国に目を向けた。
韓国は、155ミリ自走砲の世界最大の保有国であるとともに、頻繁に行われる大規模演習のため砲弾の消費量も多く、その需要を満たすため備蓄量・生産量ともに大きいという特徴がある」
「ウクライナに送られた韓国製155ミリ砲弾、欧州全体より多い」最大33万発、米紙報道 | NKR (nkreport.jp)

米国は米国で、武器庫がカラッポになりかけてしまい、仮に中国方面が緊張した場合エライことになると心配したようです。

「米国などからの兵器がウクライナの「命綱」となる一方、前例のない規模の軍事支援を続けた結果、在庫が逼迫(ひっぱく)しはじめた。米行政管理予算局国防総省の予算戦略や兵器の調達を担当した米戦略国際問題研究所(CSIS)のマーク・カンシアン上級顧問は、「一部の兵器については、戦争計画を立てる担当者が『作戦に対応できなくなるのではないか』と心配する水準まで減っている」と話す」
(朝日2023年1月1日)
ウクライナに武器支援で在庫が逼迫 NATO「盆栽軍」の備えに懸念 [ウクライナ情勢]:朝日新聞デジタル (asahi.com)


そもそも、このようなヨーロッパ危機はNATOがガツンと防ぐべきでした。
ところが、ウクライナが加盟国でないことで部隊派遣は論外、いくつかのハイテク兵器は送ったものの、量がモノをいう戦場ではすぐにすり潰されてしまいました。
鳴り物入りで供与されたドイツ自慢のレオパルト2も、大きな力にはなっていません。
現地の整備能力が追いつかないようです。

「ウクライナからの熱望を受け、ドイツがレオパルト2を18両供与したのは昨年3月。12月にリトアニアの戦車修理工場を訪れたドイツ「同盟90/緑の党」のセバスチャン・シェーファー議員によれば、整備不良などで現在戦闘に使用可能なレオパルト2は数両しかないという。
戦闘による破損や、それがなくても消耗による修理・整備が必要になるが、リトアニアの修理工場では部品が足りていない。
独誌シュピーゲルによれば、シェーファーは配備可能な戦車は「数両」しかなかったとラインメタル社を含む独軍需企業に通知。ウクライナ軍は自力で修理を試みたが、ダメージを拡大させただけだったという。リトアニアの修理工場側は、修理には「長期間」かかるとしている」
(ニューズウィーク2024年1月10日)
実はほとんど機能していない...ウクライナ供与の独戦車「レオパルト2」に衝撃の事実が発覚(ニューズウィーク日本版) - Yahoo!ニュース

NATOの場合、トランプが飽きずに怒っているように、数十年にわたる軍備への過少投資の結果、NATO諸国は弾薬庫の備蓄が半分かそれ以下の状態でした。

しかもNATOは「いる時にいるだけ提供」という市場経済の方法をとっていたために、砲弾の製造が追いつかないことになりました。
こんな状態で、ウクライナ戦争が始まったためにたちまちに武器の備蓄が消耗し始めました。


「(NATOのロブ・バウアー軍事委員長は)大量に必要だ。我々が自由主義経済圏で30年間築き上げてきたジャスト・イン・タイム、ジャスト・イナフ(必要な時に必要なだけ提供する)経済は、多くのことに適している。しかし、戦時中の軍には適していない」
イギリスのジェイムズ・ヒーピー閣外相(国防)も同じフォーラムで、西側の軍事備蓄は「少し手薄に見える」と発言。NATO同盟国に対し、約束通り国内総生産(GDP)の2%を防衛費に充てるよう求めた。
「欧州で戦争が起きている今が、防衛に2%を振り向ける時期でないとしたら、いったいいつなのか」と、ヒーピー氏は問いかけた5
(BBC2023年10月4日)
西側諸国、ウクライナに供給する弾薬が不足 NATOと英高官が警告 - BBCニュース

つまりNATOは、ハッキリ言って、「戦えない組織」いわゆる張り子の虎になりかかっていたようです。
その張り子に空気を吹き込んだのが韓国だったというわけです。

一方北朝鮮です。
北はビッグビジネスとばかりに大張り切りしたところまでは韓国と一緒でした。
死蔵していた砲弾をジャンジャン売りましたが、その粗悪ぶりがバレはじめています。
そして弾道ミサイルも、供給も始めたと聞いたとき、あれあれあんなパッチモンで大丈夫かいな、と思ったのですが、案の定だったようです。

送ったのはイスカンダルもどきのパクリだったことが、残骸から確認されています。
ロシアを支えているのは北朝鮮製兵器: 農と島のありんくりん (cocolog-nifty.com)

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デイリーNK

このハルキウに着弾したロシアの弾道ミサイルの気圧計の部品には、ハングル文字が記されていました。

「CARが現地調査で発見した新たな事実です。「2月11日工場」は北朝鮮の咸興南道にある龍城機械連合企業所の工場名で、「112」が2月11日工場を指すと考えたのは日付の表示形式が日/月/年の順番になるイギリス的な発想だと思われますが、しかし北朝鮮の日付けの表示形式は年/月/日の順番です。「112」が2月11日工場を指すかどうかはCARも可能性があるという表現に止まっています」
(JSF1月21日)
ハルキウで発見された北朝鮮製KN-23弾道ミサイル(推定)の直径は110cm、イスカンデルMより太い(JSF) - エキスパート - Yahoo!ニュース

しかしなにぶん北朝鮮製の砲弾は不発や暴発が多くてロシア軍砲兵の恐怖の的になりかかっているようで、開けてビックリ中にあるべき配線がなかったりしたものが多く見つかったようです。
大いばりで送ったイスカンダルもどきも、うたい文句は変則軌道を飛行することから迎撃が困難であるということでしたが、変則軌道が過ぎてトンデモの方角に飛んでいってしまったようです。

「同氏によれば、「まず1月2日の『火星-11』はハルキウ市内に向けて発射されましたが、目標物と推定されていた工場建物の代わりに、アパートとアパートの間の広い空き地に落ちました。 2月5日、同じくハルキウ市内に発射された火星-11は、市内ではなく市内から5キロ以上離れた郊外農村の廃墟の建物に落ちた」という。
また、「2月15日にキーウに向けて発射された『火星-11ナ』もやはり都心ではなく北部の山林地帯に落ちて巨大なクレーターを作りました。弾着が確認された3発のうち2発がキロ単位の誤差が出たということは、事実上、目の見えないミサイルだという話ですが、これは最悪の命中率を嘲笑された旧ソ連の初期型スカッドミサイルにも劣る水準」だとしている。
同氏は北朝鮮製ミサイルがこうした劣悪な性能を見せた原因について、姿勢制御システムの劣悪さや、目標への軌道を維持する電子工学原点照準システムの欠如、またウクライナ軍によるジャミング(電波妨害)の可能性を挙げた」
(デイリーNK2022年12月6日)

どうやら北朝鮮はうなるほど砲弾を溜め込み、ミサイルも持っているようですが、使える代物かどうかはまた別の問題のようです。
ロシアは北の怪しげなミサイルの使用を諦め、イランからのミサイル400発に期待しているようです。

というわけで、ウクライナ戦争の舞台裏では韓国と北がしのぎを削っているようです。

 

2024年2月27日 (火)

中国と一蓮托生のドイツ

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さて、4番目のドイツのビジネスモデルです。
ドイツ政府は去年7月13日に、中国との関係だけに焦点を合わせた「中国戦略文書(China-Strategie)」を公表しました。
特定の国をテーマとする戦略文書は世界でも稀で、ドイツがいかに対中関係で深みにはまっていたのかを自ら証明したことになります。

ドイツは、かつて二度も世界大戦を引き起こした反省として、軍事力を行使せずに経済的関係を深めることで、相手国を変化させようとする関与外交をとってきました。
関与外交(engaged directly )とは、経済進出して相手国の経済と深く関わったり、経済協力により相手方の体制を民主化に誘導する「接近による変化」政策です。

結論からいえば、関与外交はひどい失敗でした。
中露の人権問題に目をつぶった結果、独裁政権を増長させて軍拡に走らせ、西側はなにをしても大丈夫だという妙な自信をもった独裁者たちは、クリミアや南シナ海に乗り出していったのです。

やがて中国は「西欧の押しつけられたか民主主義などいらない。西欧が作った世界秩序もいらない。中国を中心とする世界秩序を作るのだ」というという願望が目覚めてしまいました。
そしてそれを実行する超大国パワーも備わったと彼らに思わせたのが、リーマンショックでした。
中国は混乱が続く自由主義諸国をに追いつき、一気に世界有数の超大国となったのです。
ちなみにこの時期、日本はデフレ地獄にはまったままでした。

このような結果を招き寄せた関与外交は、米国民主党が行い、日本も大規模なODAという形で中国にインフラを提供し、ドイツは東欧圏、ロシア、さらに中国へとシフトしていきます。
ただし日本は対象国の港湾整備、道路・通信などのインフラ整備に対して、ドイツはひたすら経済進出をしていくというスタイルだったようです。
2005年から21年間も続いたメルケル政権は、それを対中戦略として定式化し、経済発展の結果生まれる中間層が中国の民主化を促すという幻想を強く持っていました。

この考えに基づいて、ドイツは中国政府とは親密にし、中国の宗教・人権・少数民族問題などには沈黙を貫きました。
要は、メルケルは、フォルクスワーゲンが売れれば良かったのです。

「現に、ドイツの主力産業である自動車産業の場合、いわゆるBIG3(フォルクスワーゲン、ダイムラー、BMW)の自動車販売の4割程度を中国が占めている。メルケル政権下でのドイツ景気の堅調は、まさしく中国の成長の果実を享受することで実現したのである」
(土田陽介2021年10月22日)
メルケル首相を「中国人の友」と持ち上げる習近平国家主席の魂胆 対中ビジネス依存度の引き下げを提言したメルケル首相だが(1/4) | JBpress (ジェイビープレス) (ismedia.jp)

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JBpress (ジェイビープレス) (ismedia.jp)

またサプライチエーンの鎖で自らをがんじがらめにしました。
結果、ドイツ経済にとって中国市場なくしては成り立たないようないびつな構造を作ったのです。

この光景はプーチンのロシアに対して独露蜜月関係とよく似たパターンで、メルケルなど在任中、中国訪問回数は12回なのに対して訪日は6回、しかもう3回はG7サミットですから実質たった3回というショボさです。
製造業ではライバル関係の上に、デフレで消費縮小していた日本などには用はなかったのでしょう。
とまれメルケルは、ロシアと中国をメタメタに溺愛していたのです。

ドイツの貿易において1990年には1%に満たなかった中国の割合は、2021年には9.5%にまで上昇しました。
一方、ドイツの中国からの輸入額は2013年からの10年間で150%以上伸び、2022年には約850億ユーロの入超となっています。
今や、ドイツにとって輸出入共に最も大きな単一の貿易相手国は中国です。
輸出先としては米国に次ぐ地位にあり、輸入元としては2015年以降7年間、中国は首位を維持しています。

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ドイツの対中戦略を読む:日本企業の欧州ビジネスと中国における競争への影響 | PwC Japanグループ

つい3年ほど前までは、他のEU諸国が中国の軍事膨張にを警戒して関係に距離をおき始めても、ドイツにはこの中国への強依存を改めるきはさらさらありませんでした。

「EUでは経済安全保障上の懸念から中国との関係を見直す機運が高まっているが、ドイツの政財界はそうした声から距離を置いていた。かつてのような高成長が見込みがたいとはいえ、中国経済は着実に発展し、今後も米国とともに世界景気をけん引し続けることになる。中国との良好な関係の維持は、ドイツの産業界の将来にとって必要不可欠だ」
(土田前掲)

そしてさらに関係を深めた結果、今度は中国のヨーロッパ市場の征服を手助けすることになります。
輸出入に変化が見られたのは、中国経済が猛烈な勢いでドイツ製をキャチアップしてしまい逆上陸を開始したからです。
攻守は逆転しまったのです。

いまやドイツはバッテリーや半導体製造で遅れをとり、さらにはメルケルが音頭を取った脱炭素の象徴であるEV市場では、中国製EVに欧州市場を席巻されてしまったのですからミイラ取りがミイラになってしまったというわけです。

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武者リサーチ

「貿易変調の最大の理由は、EV用主体のバッテリーと半導体(太陽光パネル、パワー半導体等)の急増である。中国の対ドイツバッテリー輸出は2020年16億ドル、21年37億ドル、22年80億ドル、対ドイツ半導体輸出は2020年14億ドル、21年18億ドル、22年31億ドルと倍々ゲームで増加し始めた(JETRO「地域分析レポート」)。クリーンエネルギーやEVにシフトすればするほど自動的に対中赤字が増加する仕組みがビルトインされている。
加えて中国EVの欧州急進出により欧州自動車企業は地元でシェアを奪われるリスクが高まっている。中国市場で高成長を謳歌してきたVWなどの欧州自動車メーカーは、今や攻守所を変えて、守る側に立たされつつあるのである。
2023年上期の中国自動車輸出台数は214万台(前年比76%増)のとなり、日本を抜き世界一となった。けん引役は、EVおよび民主主義国が禁輸している対ロシア向け輸出である。中国車のロシアでのシェアは2021年9%から22年37%、23年にはシェア50%を超え100万台に迫ると見られている」
窮地か?ドイツ企業の対中戦略検討とEU | 武者リサーチ (musha.co.jp)

メルケルが始め、バイデンが乗り、いまや世界の常識と化した脱炭素でもっとも恩恵を得たのはまがうことなくこの中国でした。
中国は、不動産バブルで得た有り余るチャイナマネーを、この脱炭素のサプライチェーンに惜しげもなく投入しました。
バッテリー、液晶、通信基地局、太陽光パネル、風力発電部品等には初期の巨額投資が必要ですが、国家財政の大規模投入で次々に世界の競争相手をなぎ倒してきました。
その結果、EVとEV用バッテリーの世界シェアは6割です。
いまやEVや風車、太陽光と関わることは、中国のサプライチェーンに組み込まれることと同義なのです。

「また5,000以上のドイツ企業が中国に拠点を持っています2。中国から輸入する中間製品に依存するドイツ企業の割合は、自動車産業や電気機器産業で70%超、比較的上流に近い化学産業でも40%以上にのぼります。ドイツはEU加盟国やG20諸国と比べても特に、中間財の供給国として、また販売市場として中国の重要性が高い国と言えます」
ドイツの対中戦略を読む:日本企業の欧州ビジネスと中国における競争への影響 | PwC Japanグループ

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 PwC Japanグループ

また中国企業によるドイツ企業買収も盛んで、中国資本は「中国製造2025」で掲げられたハイテク重要産業に集中して買収を重ねました。
このように「地球にやさしい」脱炭素政策は、確実に欧米日の産業に打撃を与え、国の体力を奪い、中国を肥え太らせたのです。

しかしご承知のように、その中国経済もデッドロックに突き当たりました。

「一方中国は深刻な経済困難に陥っている。国内ではバブル崩壊と消費の落ち込みによるデフレ化が進行している。金融緩和が不可欠だが、それは資本流出と人民元安圧力を高める。2022年までウォール街は中国応援団が多数派で、ワシントンの警告を無視して対中投資を積み上げてきた。しかしレイ・ダリオ、ジム・ロジャースなどのパンダ・ハガー(Panda hugger)は中国の独裁恐怖政治の確立、反スパイ法の制定、中国バブル崩壊と経済困難により対中政策を転換し対中投資の回収に走り始めた。これが中国株独歩安の原因となっている」

この中国経済の不動産と株式バブルの崩壊については、先日詳述しましたのでそちらをご覧ください。
中国恒大集団、清算へ: 農と島のありんくりん (cocolog-nifty.com)
中国逃げが始まった: 農と島のありんくりん (cocolog-nifty.com)

とまれ、ドイツはだましだまし進むしかないほど根本的なビジネスモデルの崩壊に瀕しています。
その結果としてのインフレ下の不況(スタグフレーション)という業病に罹患してしまいました。
こんなのでGDP3位になってもうれしかないでしょうな。
わかっていても元には戻れない以上、共に一蓮托生となるのでしょう。
それに引き換え34年ぶりでデフレトンネルから抜けつつある日本。
さて、どちらが健康な経済なんでしょうか。

2024年2月26日 (月)

日本のGDPが世界第4位に、だから?

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先日来、メディアは日本のGDPが世界第4位になったと嬉しげに報じています。
私からすれば、だからなんなのさ、経済はオリンピックしゃないんだぜ、と思いますが、こういう調子です。

「内閣府によりますと、日本の去年1年間の名目GDPは、平均為替レートでドルに換算すると4兆2106億ドルでした。
一方、ドイツの去年1年間のGDPは、4兆4561億ドルと日本を上回りました。
日本の経済規模は、1968年にGNP=国民総生産で当時の西ドイツを上回って、アメリカに次いで世界2位となりました。
その後、2010年にGDPで中国に抜かれ、世界3位が続いていましたが、去年、人口がほぼ3分の2のドイツに逆転され、4位となりました。
日本では1990年代にバブル経済が崩壊して以降、長年にわたって低成長やデフレが続き、個人消費や企業の投資が抑えられてきました」
(NHK2月14日)
日本の去年1年間の名目GDP ドイツに抜かれ世界4位に後退 | NHK | GDP 

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ブルームバーク

日本が世界の経済大国の地位から転げ落ちた、ニッポン終了バンザイ、とばかりに朝日は身悶えせんばかりのご様子です。
朝日は、メディアの仕事は国民を落ち込ませ、未来なんぞない、子供も作れない絶望大国だ、と国民に思わせることこそが仕事だとわかっておられます。
さっそく出した記事がこれ。行間から歓喜がにじみ出ています。

「半世紀以上掲げてきた「経済大国ニッポン」の金看板が危うくなっている。昨年の国内総生産(GDP)ランキングで日本がドイツに抜かれ、4位に転落した。
 2010年に中国に抜かれた際と同様のショックと受け止める向きもあるようだが、ノンフィクション作家の高野秀行さんは「日本はとっくに世界の蚊帳の外に置かれている」と語る。世界を飛び回りながら隅々まで見てきた目に、日本の針路はどう映るのか」
(朝日2024年2月15日)
「ニッポンは田舎の終着駅」 GDP4位転落、辺境作家が占う未来:朝日新聞デジタル (asahi.com)

タイトルからして「ニッポンは田舎の終着駅」だもんね。
いちおう経済のことがテーマなのに、めったに日本にいない世界放浪を生業にしている旅行作家が登場して、ニッポンは没落しているぞよ、いまや「辺境の地」と成り果てた、世界は誰もニッポンなんか相手にしてないぞ、廃線駅の裏で草むしりでもしていろ、とのことです。
この人どこを回ってきたんだろう。世界放浪してこういうことをいえる人って、そうとうにレア。

はいはいそれにしても、あまりの朝日節に吹き出してしまいました。
朝日さんはこの20年間、なにかというとこういう時には辺見庸のような作家を登場させて「足るを知れ、成長幻想から醒めよ」とのたもうていましたもんね。
その努力の甲斐あって、めでたくニッポン経済は世界経済の辺境、行き止まりの国となったのでしたとさ。ちゃんちゃん。
ペシミズムに染まってガス管くわえるのは勝手ですが、どうぞ自分の新聞業界だけのことにしておいて下さいな。
あそこは確かに「辺境の終着駅」そのものですからね。

メディアは日本が没落してドイツが躍進したというニュアンスですが、そもそもここからちゃいまんね。
ドイツは名目GDPが、ひどいインフレで水ぶくれしただけのこと。
IMFも「ドイツが3位になったのはインフレのためだよ」と言っています。

ニッポンひとり負け論の熊野英生氏はこう述べています。

「GDPの日独逆転の一因として円安の影響が大きいからだ。
第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは、為替要因に言及した上で、13年の大規模金融緩和以降の円安が「日本のドル表示の経済規模を小さくしている」と指摘。ドイツに抜かれたというよりも「日本の一人負け。実質ベースであれほど苦しんでいるドイツを下回ってしまっている」と語った」
(ブルームバーク2024年2月13日)
日本のGDP、世界4位転落が確実な情勢-存在感低下に懸念の声 - Bloomberg

あれ熊野さん、じゃあ円安止めます?
円安こそ日本の製造業に国際競争力をブーストしたんじゃなかったんですかね。
日本が円安インフレにならなかったのは、輸出力が増して企業業績が好調だからです。
この資本が成長力の弱い日本から逃げていき円安になるという悪い円安論は日経新聞が得意ですが、歴史的経緯を見落としています。
日本の低成長が定着した2010年以降の円高時代には、巨額の資本が成長率が高い海外へと流出しましたが、円高は続きました。
日本の成長力と為替レートはデュアルではないのです。

武者陵司氏はこのように見ています。

「これは日経が言い続けてきた日本の産業復興を切望する米国が、円安を誘導しているのだ。韓国が2008年から2013年の著しいウォン安の過程で飛躍的に競争力を強め日本のハイテク企業をなぎ倒したが、円安の定着は日本の劇的再台頭を準備するだろう。日本は巨大な製造業立国として、サービス(観光)立国として再登場するだろう。それにより長期的に日本の強い円は復活する。日本は今の円安の僥倖を享受するべきであり、間違っても円高誘導等、無駄な抵抗をするべきではない」
円安を享受せよ | 武者リサーチ (musha.co.jp)

米中対立が深刻化し、トランプが火を点け、バイデンも倣ったのは米中デカップリング(分離)でした。
中国台頭前の時期には、米国は日本をライバル視し、日本バッシングに狂奔した時期があります。
こうして円高デフレは根が生えたように日本経済に取り付き、日本を衰弱させました。
それはいまや逆転しました。中国と対抗するためには、中国経済と距離を開ける必要があり、そのためには世界を見渡しても日本しかその役割を担える国がないのです。
ですから米国政府は、対中デカップリングのために強い日本を必要とし、そのための円安を容認するようになったのです。

では、人口が3分の2なのに日本を抜いた、と囃したてられているドイツはどうでしょう。

「欧州連合(EU)の経済の中心であるドイツの消費者物価上昇率も歴史的な高水準であり、2022 年 10 月時点で前年比 12.8%になった。高インフレの最大の理由は、エネルギー価格の急騰にある。同月のエネルギー価格の上昇率は生産者物価ベースで同 123.4%と、2 ヵ月続けて伸びが鈍化したものの、9 ヵ月連続で 100%以上となった。
インフレの元凶であるエネルギー価格の急騰が生じた最大の理由は、欧米を中心とする主要国による対ロシア制裁にある」
(三菱 UFJリサーチ & コンサルティング 調査部土田陽介)
tsuchida_2023_02.pdf (murc.jp)

図表でみるとドイツのインフレの凄まじさがわかります。
まずは消費者物価。ドーン。

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三菱 UFJリサーチ & コンサルティング

そしてその原因となったエネルギー価格の爆発上げ。ドーン。

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三菱 UFJリサーチ & コンサルティング

ドイツ経済のビジネスモデルは4つありました。
ひとつは、エネルギー安です。
天然ガス供給量の実に62.4%(2022年現在)を占めるロシア産が安価かつ安定して供給される構造が、ドイツ経済の大前提でした。
石炭産業は伝統的に強かったのですが、メルケルの強引な化石燃料排除政策のために、天然ガスシフトに変えられてしまいました。

原発も同じで、全原発を原子力についても、稼働中の原発 3 基について、2023 年 4 月 15 日までの運転延長が決定ましたが、基本的には脱原発路線が引き継がれました。

メルケルは脱炭素・脱化石の切り札として再エネをすえましたが、ともかく天候に左右されて不安定で、電気料金を押し上げました。

「脱炭素化の旗振り役でもあるドイツは、2020 年時点で一次エネルギー(国内産出分)の 47.6%を再エネに頼っていた。しかし再エネは気象条件や地理条件の制約を受けるため、安定性を欠いている。特に近年は、異常気象の影響から再エネは風力を中心に不調が続き、それがドイツのエネルギー価格の上昇の一因となっている」
(土田前掲)

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ドイツの電力料金の構成と再生可能エネルギー付加金の推移‐ドレスデン情報ファイル (de-info.net)

もはや逃げ道は天然ガスしかありません。
したがって、ドイツのエネルギー構造はロシア産天然ガスだけに強依存する異常なバランスになってしまいました。
いや、他のヨーロッパもそうだろう、って。違います。
他のユーロ圏のロシア依存度は平均で34.4%にすぎませんから、ほぼ倍ロシアにベッタリと頼りきっていたのです。

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三菱 UFJリサーチ & コンサルティング

これが、ウクライナ侵略に対して当初ドイツが制裁に消極的だった原因です。
武器を送ってくれ、と要請しているウクライナにヘルメットを送りつけてウクライナを逆上させましたっけね。

ロシアが制裁に反発してノルドストリームのコックを締めてしまうと、一気にドイツのエネルギーは干上がってしまうことになりました。
あとは世界各地の産地に頭を下げて、高い天然ガスを売ってもらうというしかありませんでしたが、その時は遅し、他の国が押さえた後でした。
ウクライナ戦争が長引けば長引くほど、ノルドストリームの稼働はありえませんから、ドイツのインフレか改善する可能性はありません。
しかも強インフレ下の景気後退、つまりもっとも恐ろしいスタグフレーションの可能性もささやかれている始末です。
長年のデフレから復活し、再び本来の力を取り戻しつつある日本。

さてさて、日独どちらが「辺境の終着駅」なんでしょうか。

ところでドイツのビジネスモデルの2番目は、ユーロという魔法の箱を作ったことです。
ユーロが出来るまで、ドイツは慢性リウマチのように、マルク高に苦しんできました。
その原因は、皮肉にもドイツが貿易黒字大国だったからです。
輸出黒字が増えるほど通貨は信任されて買われてしまって通貨高になってしまう、という悲喜劇。
ドイツは人口が8千万人程度で内需の引きが弱いので、貿易の対GDP比率は40%という馬鹿げた輸出依存体質でしたから、イヤでも貿易黒字が積み上がっていきました。
ちなみに輸出産業国家と思われているうちの国は16.5%にすぎません。


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ですから、ドイツが独自通貨を維持していた頃にはマルク高は常態化しており、これがドイツの悩みでした。
一方、逆の現象はドイツの輸出の受皿国だったギリシャで起きました。
貿易収支・経常収支赤字が積み上がっていくために、通貨の価値が下がっていってき、ドラクマ安になるはずでした。
ところがならなかったというミラクル。
なぜなら、「ユーロ」という世紀の大発明があったからです。

ドイツが独自通貨ならば、マルク高が必ず起きたはずで、一方でギリシアが独自通貨だった場合、貿易収支・経常収支赤字が積み上がっていくために、通貨の価値が下がっていきます。
まぁ通貨安になることで、国際競争力が強化されるというメリットもあるのですが、ユーロは、あくまでも「みんなの通貨」(共通通貨)ですから、為替政策はギリシア一国の経済に関係なく、他国の貿易収支を加えてヨーロッパ中央銀行(ECB)がガラガラポンにする仕組みです。

これはマルクでいるよりも、ドイツにとって圧倒的に有利なシステムでした。
マルク高による、輸出ブレーキがないからです。
事実、マルクはユーロ加盟以前は常にマルク高に悩まされていましたが、ユーロになってからは、ユーロ安の恩恵を存分に浴びて、ユーロ圏、特に製造業が弱い南欧諸国への貿易で潤ってきたわけです。

その上に、関税というブレーキがユーロによってなくなったことです。
輸出依存国にとってユーロ域内はどこに行っても無関税 、ついでにヒトの動きも制限なしとなって安い労働力を南欧や東欧からいくらでも吸収できるようになりました。
つまり、ドイツのこの間の繁栄は、①安いエネルギー、②ユーロによる通貨安、③無関税、ヒトの動きの自由化による移民、によって成り立っていたのです。

そして4番目のドイツのビジネスモデルは、こうして得た経済力を中国にドッと輸出攻勢をかけたことです。
これが中国経済の失速と同時にお先真っ暗となっていますが、これについては次回にまわします。
いずれにしても、ドイツのビジネスモデルが八方ふさがりしたのはあきらかです。

 

 

2024年2月25日 (日)

日曜写真館  霧動くとき身ほとりの霧匂ふ

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肩抱けば霧の香まとふかなしさよ 稲垣きくの

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冬の波冬の波止場に来て返す 加藤郁乎

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寒し愛は波止場渡しということに 池田澄子

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土浦の入江に温みて蓮ひらく 乾 修平

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月青き波止場の猫の会議かな 眞鍋呉夫

 

2024年2月24日 (土)

北方領土交渉の失敗、反省をこめて

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認識を誤っていました。
ウクライナに対するロシアの姿勢を見て、ロシアに対する私の認識が根本的に甘すぎたことがわかってきました。
私の認識の甘さは、2019年1月に書いた『北方領土交渉は最終直線コースに入ったのかもしれない』によく出ています。
北方領土交渉は最終直線コースに入ったのかもしれない: 農と島のありんくりん (cocolog-nifty.com)

この記事は、2019年1月22日に控えた日露首脳会談前のラブロフとの会談後に書かれたものですが、私の記事は妥結までの最終ストレッチに入ったという誤った見方をしていました。
しかし現実には、ラブロフ外相はこう言っていたのです。

0029306132 時事

「会談後、ラブロフ外相が単独で記者会見に臨み、北方領土におけるロシアの主権を認めるよう、日本側に改めて要求したことを明かした。
また、日本の法律で「北方領土」という文言が使われていることについて「受け入れられない」と反発したことや、平和条約について交渉を進めるにあたり、日本側が第2次世界大戦の結果をすべて認めることが必要だと伝えたという」(ハフィントンポスト2019年1月15日)
https://www.huffingtonpost.jp/2019/01/14/meeting-taro-kono-sergey-lavrov_a_23642564/

ラブロフは、当時の河野外相に愛想もこそもなくこう言っていました。
「北方領土問題などというものはない。この諸島の主権はロシアにあり、日本はそれが第2次大戦の結果であることを認めよ」
この意味するところは、「戦争の結果」に従え」、もっと砕いて言えば、返してほしくば戦争するんだな、、ということです。
ロシアという国は、建国の昔から一貫して、戦争で領土を拡げてきたのです。

そして私の大きな判断の間違いは、これを単なる危険球だと軽視してしまったことです。
ラブロフは交渉というと必ず課題な要求を出して最後通牒めいたことを言うのが習いなので、また投げやがったと思ってしまったのです。
ところが、これは外交交渉上のレトリックではなく、まさにロシアの真意でした。
2020年には、とうとう憲法に「領土割譲禁止」を入れたくらいです。

ところが2021年になっても、佐藤優はこう述べています。

「ロシアのプーチン大統領は4日、昨年7月に改正された憲法に領土割譲を禁止する条項が盛り込まれたことを踏まえ、北方領土問題について「憲法を考慮しないといけない」と述べた。この条項が領土交渉に影響する可能性を認めた格好だ。一方で「(日本との)平和条約交渉を止めるべきだとは思わない」とも語り、交渉継続に意欲を示した」
(毎日 2021年6月11日佐藤優 『北方領土交渉に対するプーチン大統領の意欲』)

そして佐藤はあの迫力のある顔で、ロシアが懸念する米国の中距離ミサイル配備を日本が拒否し、4島に固執せずに2島返還で折り合うならば北方領土は返還されると説いています。
この男のミスリードは政府にすら影響を与えました。

「プーチン氏は2000年の大統領就任直後、日ソ共同宣言の履行に前向きな姿勢を示したが、日本側が4島返還を求めたことに反発し、交渉が停滞した時期がある。
 一方、「日露とも戦略的観点から平和条約締結に関心を持っている」とも強調。ただ、米軍による日本への中距離ミサイル配備の可能性には改めて懸念を表明した」
(佐藤前掲)

この2島返還論は、鈴木宗男なども盛んに提唱していたもので、この平和条約を進めつつ並行して経済開発で信頼醸成し、2島先行返還交渉を具体化していく、米軍は駐留させない、という戦略に安倍氏も強い影響を受けたと思われます。
私もそれが現実的解決方法だと考えていました。

しかしこのロシアに歩み寄ったかに見える2島先行返還論ですら幻想にすぎませんでした。
ロシアにはテンから北方領土を返還する気などなく、返してもいいというそぶりはフェイントにすぎず、その裏にはなにかの政治的意図が針のように隠されていました。
ありていにいえば、ラブロフがいうようにロシアには「北方領土問題」など存在しないのです。
したがって、交渉そのものが無意味です。
わが国はロシアが1990年代のソ連崩壊直後のように疲弊にあえぐ時に機敏に再交渉するしか道はありません。

にもかかわらず、日本は北方領土交渉においてロシアに対して甘すぎました。
それにはいくつか理由があります。
ひとつには、ロシアが戦後処理を急いでいると考えていたことです。
ロシアにとって残された戦後処理は日本の北方領土交渉だけで、これか喉に刺さったトゲとなって日露平和条約は締結に至っていません。
ここで日本が考える「戦後処理」とは、あるべきものをあるべき者に返還すること以外にありません。
そもそも北方領土は、敗戦のどさくさに紛れて、ロシアの没義道な進攻によって奪われたわが国固有の領土だからです。
いわば「固有領土論」とでもいうべきものです。

ロシアが言っているのはそれと正反対に、「第2次大戦の結果をすべて認めよ」という「戦争結果論」の立場ですからかみ合うはずがありません。
彼らロシア人に言わせれば、第2次大戦の結果とは、今の戦後の国際秩序そのものであり、日本もその中で生きている以上、これを前提にするのが当然ではないか、というものです。
したがって、国境の変更を言い出しているのは日本の側であり、ロシアは戦後秩序の守り手なのだというわけです。

そしてプーチンはいくつもの餌を撒きました。
その最大のものは、プーチンが2001年3月のイルクーツクでの首脳会談での「1956年宣言」の有効性を認め、その履行はロシアの義務だ」という発言です。

「(日ソ)共同宣言の有効性を、ロシア首脳で初めて公式に認めたのがプーチン大統領だ。2001年、イルクーツクでの日ロ首脳会談では声明で、平和条約の交渉プロセスの出発点となる基本的な法的文書と明記した。大統領は日ソの両議会が同宣言を批准したことを重視し、ソ連の継承国として「履行義務がある」と言及している。
ただし大統領は、歯舞、色丹の2島を「どのような条件で引き渡すかは明記していない」とクギも刺している。主権の問題を含めてすべて交渉次第というわけだ」
(日経 2016年10月19日)
https://www.nikkei.com/article/DGXKZO08527230Z11C16A0EA1000/

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地球コラム】プーチン大統領、「2島マイナスα」が本音か:時事ドットコム

この「1956年宣言」とは、鳩山一郎政権時にソ連と締結した宣言で、この時も領土問題で行き詰まっていました。
平和条約を締結するにはまず相互の領土を確定せねばならず、この部分でスッタモンダのあげく、宣言はこういうことで落ち着いています。

●日ソ共同宣言(1956年)
歯舞群島及び色丹島を除いては、領土問題につき日ソ間で意見が一致する見通しが立たず。そこで、平和条約に代えて、戦争状態の終了、外交関係の回復等を定めた日ソ共同宣言に署名した。
→平和条約締結交渉の継続に同意した。
→歯舞群島及び色丹島については、平和条約の締結後、日本に引き渡すことにつき同意した。
外務省『北方領土』
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/hoppo/hoppo_rekishi.html

つまり、ソ連は日本と平和条約を締結された後に、歯舞・色丹を日本に引き渡す、ということです。
ですから、プーチンがこれは「1956年宣言はロシアの義務だ」とまで言ったということは、平和条約を締結すれば返すという意味以外に取りようががありません。

この理解に基づいて安倍氏はプーチンが危惧するトゲを抜いてやりさえすれば、北方領土は返還されると読んだのです。
このトゲとは、北方領土に在日米軍と中距離ミサイルなどを進駐させないことや、さらには民族主義者プーチンの国内への顔をどう立ててやるかということなどで、いずれも解決可能なことだと安倍氏は考えていたようです。

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プーチン大統領が「シンゾー」と言わないワケ

結局は、この安倍氏の判断が誤っていたのはご承知のとおりです。
プーチンはいかなる妥協も拒みました。

「しかし、2004~05年を境にその発言内容は一変、以降は「南クリルが第二次大戦の結果正式にロシア領になったことは、国際法で認められており、これについて一切議論するつもりはない」、あるいは「1956年宣言には、島を引き渡すとしても、どこの国の主権が及ぶかは書かれていない」、「日本との間に領土問題は存在しない」などという、日本としては理解しがたいレトリックを繰り返し、一貫して強硬な姿勢を示してきた。
特にここ数年のプーチン大統領の発言は、どれも2000年代前半の時分とはかけ離れたものだ。それにもかかわらず、安倍政権は当時のプーチン氏の発言に引きずられてきた可能性が高い。シンガポール合意で、日本が1956年宣言まで下りる決断をしたのも、まさにプーチン氏が当時、1956年宣言の履行はロシアの義務と認めたという一点に、望みをつないだ結果だったと考えられる」
(吉岡 明子 2021年1月13日キャノングローバル研究所)

思えばこのプーチンを日本に呼んで開かれた日露首脳会談時は、すでにロシアのクリミア進攻が起きていたのです。

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ロシア軍、クリミアの重要拠点を掌握 - WSJ

訪日に応じたプーチンの胸中にあったのは、2島返還などではなく、日本を西側陣営から領土交渉で釣り出すことだったようです。
まさに西側分断工作の一環だったのですが、安倍氏はそれに乗ったことになります。
そしてかくいう私もそれに引っ掛かってしまいました。

この2014年3月のクリミア進攻で、ロシアはG8として西欧と協調する路線を完全に放棄し、対決へと舵を切っていました。
これは単なる一時の局地的紛争ではなく、世界秩序を支える根幹の枠組みそのものの変更を迫るプーチンの挑戦状だったのです。

これは2点で重要です。
ひとつは、露骨なNATOへの挑戦です。
軍事的にNATOはすでに膨張を続けるロシアと対峙できる能力を喪失しかけていました。
あまりに極端に開いてしまったロシアとの軍事費の差は、まるでナイアガラのようです。
下図は、先日も紹介した1992年を基準値にして直近の2020年を比較し変動倍率を算出したものですが、ロシアは実に4千935倍というウルトラ軍拡をしているのがわかります。
一方、本来ならばNATOの中軸たるべきドイツ軍はメルケル緊縮でズタボロの状態でした。

米国は声を枯らしてNATOに国防費の2%の増額を求めましたが、応じたのは英仏ポーランドなどごくわずかというありさまでした。
クリミア進攻を待たずして、NATOは「戦っても勝てないから、戦わないように」という不戦敗の心理に陥り、初めから軍事的に対抗していく戦略を放棄してしまったのです。

そして第2に、ウクライナ問題において、NATO諸国が掲げるべき大義を裏付けるものに欠けていました。
型式的にはウクライナがNATOに加盟できていないことですが、それだけではありません。
本来なら、ウクライナに対するロシアの軍事侵攻は、1945年以降、国連を中心に形成してきた世界秩序そのものへの敵対であり、国連安保理はこのために作られたといって過言ではない機関のはずでしたが、これが完全に空洞化していました。

中国もほぼ同時期に南シナ海を軍事要塞化していきますが、ウクライナのロシアと一緒で、このならず者ふたりが揃って国連安保理の常任理事国であるという悲喜劇です。
不戦敗戦略を実質とったNATOは、頼みにすべきは国連安保理での制裁決議のはずでしたが、これも得られることは絶対にありえなくなりました。
理由はいうまでもなく、当のロシアが常任理事国なので拒否権を発動するに決まっているからです。
これがクウェートに進攻したイラクや、核開発に走る北朝鮮に対する時とは本質的に異なる理由です。
ましてウクライナは加盟申請中であって加盟国ではないために、米国とNATOは仮にロシアと軍事的に対峙しようと思うなら、「有志連合」の形をとらざるをえないのです。

つまり、2014年を境にして、東と西で大きなパラダイムシフトが起きていたのです。
西ではクリミア、東では南シナ海において。
私は、このような大きな戦後史の転換点を視野からはずして、日露2国間に狭めて考えていました。
もちろん、西側陣営のわが国もプーチンにとっては例外ではなかったはずでしたが、安倍氏は老練な政治家にありがちなプーチンとの強い人間関係を頼りに解決を図ってしまいました。
外交の天才とまで言われ、G7の指導的立場にいたた安倍氏の唯一の失敗でした。

 

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