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2024年9月 7日 (土)

日本農業は世界有数の「農業大国」

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今週は珍しく農業特集となってしまいましたが、いちおう今日にて終了します。

ところで、農業という分野はろくなことが起きない限り、都市の人たちに思い出してもらえないようで、やれリーマンショックで失業者が増えれば、そんな連中は田舎にやって農業をやらしたらどうだとか、TPPともなれば農業は日本経済のお荷物だ、とんでもないニッポン農業を守れだとか、そしてコメが余ったから困ったと言っていたのに、今度は手のひら返しをしたみたいにコメを食わせろです。
たまにはいいことで思い出してほしいものですね

私はちょっと前に「日本農業滅亡論」も、その反対の「日本経済、農業によって滅亡論」もメダルの表裏だと書きました。なぜなら、この一見正反対のこの議論は、同じ根から生えた夫婦樹のようなものだからです。
同じ根とは、いうまでもなく農水省卸もとの「食料自給率40%」という国民的常識です。この食料自給率とはカロリー自給率であり、複雑怪奇な計算式を使います。

計算式は複雑怪奇ですが、訴えるイメージは強烈です。なんせ、日本人は自給率4割、裏返せば6割を外国農産物に頼っているってことですからね。
日本農業は自分の同胞の食さえ満足に供給していないんだ、と誰しも思うわけです。
ほとんどの論者が、日本農業を語る時、「食料輸入大国」とか、「輸入食料依存大国」だのと枕言葉のように使います。
年中、「輸入食料依存大国」だと書き散らしている評論家に、ある人が、日本農業の生産額の国際的順位を聞いたそうです。
その評論家先生、「そうね50位?まぁ最下位から数えたほうが早いよな」、だそうです。

日経新聞なんぞこんなことを書いていました。

「食卓から国産の農作物が消えていく。民間の推計では2050年、国内の農業人口が現状より8割も減る。生産は激減、必要なカロリーを賄うためにイモが主食の時代がやってくるかもしれない。世界で人口が増える中、輸入頼みを続けられるか。飽食の意識を変える必要がある」
(日経2023年9月17日)
農家が8割減る日 主食はイモ、国産ホウレンソウ消滅? 1億人の未来図 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

なぁに言ってんだか。
いかにも財務省機関紙らしい記事ですが、「開かれた日本農業」と連呼していたカン総理大臣閣下も「80位くらい」だなんて言っていました。
とんでもない、日本は世界第5位の農業国です。
これは先進主要5カ国という枠組みをはずして、全世界の国々の中の農業生産額の順位です。
順位は、第1位が中国、第2位が米国、第3位がインド、第4位がブラジル、そしてわがニッポンは第5位、第6位はフランスです。
これはFAO2005が根拠ですが、さらに日本は先進主要5カ国国でいえば、実に世界第2位となります。

では、先進主要国の農業生産額の順位をみてみましょう。
第1位が米国1826億ドル、第2位日本826億ドル、第3位フランス549億ドル、第4位ドイツ379億ドル、第5位英国184億ドルとなります。第5位の英国の実に2倍超です。
ついで世界の農業大国といわれるロシアは世界順位第7位269億ドル、オーストラリアは17位259億ドルとなります。わが国はこの両国の3倍以上になるわけです。

このどこが衰亡でしょうか!?なにが50位だ!何が80位だ。80位といえば破綻国家のアフガニスタンやウガンダ並の最貧国じゃないか。こんな程度の農業知識しかない男が国の舵取りをして「開国元年」などと言っていたのですから、ゾっとします。
とまぁ、このように私のような農業者が啖呵を切ると、かならず返ってくる反論があります。そう、例の「日本は農産物が高いから、そのような生産額になるのだ」というものです。
日本農産物が、高関税で輸入をブロックしているから、日本の消費者は世界で最も高い農産物を買わされている、という言いぐさは、もう耳にタコが出来るほど聞かされてきました。

では、食肉を例に取ります。下の図を見てください。広大な面積と少ない人口密度をもつ米国の優位は揺らぎません。しかし、同じような広大な面積の国土を持ち、農民収入は月1万円に届くかという中国とはどうでしょうか。
中国と日本は、豚と鶏肉価格においてはほとんど同じ水準の価格だと分かります。所得水準から言えば、驚異的なことです。牛は飼育面積が大きいためにどうしても米国が有利となります。しかし、その分、わが日本の牛生産は世界で比肩するものがない超高品質を持っています。

 

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日本の農産物が高いかどうなのかは、家計内の食料支出をみれば見当がつきます。その数字も出ています。
2003年に総務省統計局が出した「世界の統計2003年版」に家計消費支出の食料支出の占める割合が日本は25%弱です。
この数字はカナダ、ドイツ、イタリア、イギリスとまったく一緒です。
日本の消費者が不利益をしているというのはまったくのデマです。先進国としてはいたって平均的水準で、デフレが進んだ時期にはもっと下落した数字が出るはずです。

自給率で比較するのも考えものの側面があります。
たとえば広大な国土を持ち、人口密度が低く、所得水準が低い国がどうしても高く出る傾向があります。
広大な土地と低い人口密度の米国やオーストラリア、ブラジルなどがそうであり、貧困国はそもそも外貨で輸入食料が買えないために自給率はイヤでも高くなります。
また、輸出が輸入より多い国も、自給率は高く出ます。フランスやドイツがそうです。

わが国は農産物輸出はほとんどなく、国土も狭く、人口密度は世界有数です。このようなハンディを持ちながらも、世界主要5カ国で農業生産額第2位、世界順位第5位のステータスにいることは、わが日本農民は誇りに思うべきです。
農水省はカロリー食料自給率40%という、世界のどこの国も採用していない恣意的な数字を弄ぶことでコメを聖域化し、日本農業を不当に卑しめ、農業者の誇りそのものを奪ってしまったのです。

 

2024年9月 6日 (金)

水田、環境維持のためのスタビライザー

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では、なぜ日本人はコメを捨てられないのでしょうか。
結論から言えば、農業という環境維持のためのスタビライザー(安定化装置)を利用しないと、防災インフラを再構築せねばならなくなり、その公共投資のコストは天文学的になるからです。
農業という存在を田んぼ単体で考えているから分からなくなるのです。田んぼは「システム」なのです。 

 

Photo                     図 座間市HPより

田圃にはその灌漑のための水系が付属します。河川から水を取り込む小規模河川、網の目のような農業用水、そして干天に水を放出し、大水の時に水を蓄え込むため池などがそうです。 
また、田んぼに常に水を涵養しておくための山も重要な存在です。田んぼを作るためにはげ山に植林し、その森林が水をしっかりと蓄えられるようになって初めて「田んぼ」が出来るのです。 
いわゆる水田は、田んぼという土と水のエコシステムの一部でしかありません。さらにこの水田から出来るコメだけ取り出して700%の関税がうんぬんという議論は、木を見て森を見ない議論に思えます。
もっと大きな目で見て御覧になりませんか。これが分からないと、ではどうやってこの700%超の関税を改革していくのかという議論につながりません。
そうでしょう。その価値がわからない人が、コメの価格だけ高い安いと言っても始まりませんものね。

さて、北朝鮮でなぜ大水が頻繁に起きるかご存じでしょうか。酔狂にもわざわざ見に行った人の話によれば、天井川になっているのです。 
天井川とは、河川の底が土砂で埋まって岸より高くなっている河のことです。こんな河はたいした大雨でなくてもすぐに溢れます。 
この土砂はどこから来るのかと言えば、河沿いの山肌の崩落が原因です。北朝鮮の山ははげ山なのです。
それは樹を引っこ抜いて、山に土留めもせずに根の浅いトウモロコシをビシッと植えたからです。こんなことをすれば、山はどんどん崩れていくのは当たり前です。 

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今、現代日本人が漫然と見ている山もかつての先人たちの営々とした植林によって出来ました。
盛んになるのは江戸中期頃からですが、 米を食いたければ山に樹を植えるところから始まりました。
漫然と植えたのではなく、樹が水を蓄えることを当時の人が知っていたからです。それが治水に役立つこともそれ以前から知っていました。
苗を植えて100年、やっと山が緑に覆われてくる頃、初めてそこから湧き出る水を集めて田んぼを作りました。 
そして水を山から引く農業用水路を整備し、天候の変動に備えてのリザーブ・タンクとしてのため池を堀りました。
もちろん縄文末期から田んぼはあるのですが、植林、山の手入れ、水路などを一体のものとして作り始めたのはこの頃からです。
こうして、今の見学の外国人が公園のようだと評する農村風景が出来上がりました。

樹を植えて三代。そこから稲ができるまでまた1代。毎年の山の手入れは永代。川さらい、農道の普請は地域で毎年。まったく気長な話です。これを営々と村の共同の作業として維持してきたのが「田んぼ」なのです。 人々の汗の積み重ねがあって、日本の土と水は保全されてきたといえます。
この営為を「生活」のためだというなら、そのとおりです。 「生活」のためにコメを作り、森林を保全し、河川を維持してきたのです。そのなにがいけないのでしょうか。

さてこれを「水田以外の方法」でやってみるとなると、どうなりますか。 
今、60年代に作った全国の公共インフラは耐用年数を迎えつつあります。笹子トンネルの崩落事故などはその前兆です。
「コンクリート」と「人」は対立する概念ではない: 農と島のありんくりん (cocolog-nifty.com)
これは公共事業=悪玉論によって公共事業費を削減し続けたからです。公共事業費を消すると、真っ先にメンテナンス部門にしわ寄せが行きます。 

ですから、今早急に道路、河川、トンネルなどの補修事業をせねば、想定される大地震などの天災でまた多くの国民が亡くなってしまうことになります。 
それだけで巨額な公共投資を要します。しかし、やらないわけにはいかないわけです。 
この時期に、わが国の国土特有の治水の要である水田や小規模河川、それに付随するため池、農業用水、そして山の手入れを全部潰すとなるとどうなるでしょうか。 
基幹的公共インフラの整備ですら膨大な財政支出が必要な上に、今まで「農業」という見えない形で支えていたものが消滅していきます。

ちょとした線状降水帯が現れただけで河川は溢れ、住宅地や農地は水に漬かり、道路は寸断され、トンネルは埋まり、河口付近の湾は河から押し流される土砂でとんどん浅くなって港湾機能も失われていくことでしょう。
これを「他の方法で」で解決するとなると、田んぼの代わりに小規模多目的ダムを全国に無数に作ることになりますね。もちろん税金でです。まぁ、そんな金があったらの話ですが。

ちなみに、多目的ダムはこんな概要です。
治水ダム - Wikipedia

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美和・小渋ダムの治水|天竜川ダム統合管理事務所 (mlit.go.jp)

容量は河川によっても異なりますが、たとえば小型の熊本県球磨川・五木ダムが36万㎥の貯水量があります。
建設コストは一概に言いきれませんが、群馬県倉淵ダム(建設中止)、当初予算の275億円は最終的には550億円となったようです。大体は用地買収などが手間取って当初予算の数倍にハネ上がっています。
そもそも作りたくとも今や例の八ッ場ダムで分かるように、環境破壊がひどいので建設のためのコンセンサスがとれなくなってきています。

一方、仮に田んぼに20㎝分だけ貯水したとすると、大分県の試算では、10アール当たり200トンの雨水を受け止めるのに相当し、大分県内の水田(4万2500ヘクタール)すべての貯水量は、1240万㎥となり、小型ダム約3基分に匹敵する貯水量があります。
馬鹿げてはいませんか。農業が黙々とやってきた環境スタビライザー機能を他の手段で置き換えるというのは。言うのは簡単ですが、まったく割に合わない愚行なのです。

別にこれはわが国だけに限ったことではなく、世界中どこの国でも農業が国土の基本インフラであるのは常識です。農業は取り替えが効かない部門なのです。
だから農業保護ということにどこの国も必死になるわけです。それをしなければ、国土が崩壊して、外国産の安い農産物で潤う以上の損失を国土にもたらすことがわかったからです。

よく「食の安全保障」といいますが、それは単にカロリーで表記できるだけのものではなく、農業が守っている国土インフラ保全の安全保障まで含む概念だと私は思っています。
今の中国のように無計画にそれを壊してしまうと、修復にはとてつもないコストと時間がかかることを、多くの国は理解しているからです。

だから、一般的な競争原理にはなじみません。といって、誤解されたくはないのですが、まったく今までどおりでいいとも私は思っていません。減反政策と高関税は一対のものです。減反を維持するために馬鹿げて高い高関税を敷いているのは事実で、もはやこのような関税ブロックは賞味期限切れです。
しかし国土の強靱性を保つためにも、水田は残さねばなりません。
どうやって残すのか智恵を絞るべき時です。

 

2024年9月 5日 (木)

兼業農家保全のためだけの減反

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昨夜の6時台のニュースはほぼすべての局がコメがあるスーパーはここだ、みたいな内容でしたね。
やれやれ、困ったスカベンジャー(腐肉食動物)たちだ。
新米価格を高騰させたくてしかたがないみたいです。
踊らされないでくださいね。もう新米が溢れるほど出ているんですから。
新米価格が気になる方も多いでしょうが、とうぜんこれだけ騒動を煽れば上がるに決まっています。
まったく馬鹿じゃないか。

「JAしまね(松江市殿町)は26日、コメを出荷した農家に支払う2024年産米の概算金(コシヒカリ1等米、60キロ当たり)を23年産より4600円高い1万6800円に引き上げると発表した。増額は3年連続で、15年の概算金制度導入以降では最高値。生産資材高騰が農家の経営を圧迫しているのに加え、国内の消費拡大に伴う全国的な価格動向を踏まえて決めた」
(山陰中央新報8月27日)
コシヒカリ 最高値更新 24年産米買い取り価格 JAしまね | 山陰中央新報デジタル (sanin-chuo.co.jp)

ついでにこの間転化できなかった機械、燃料コストなどの上昇も、この時とばかりに乗せるでしょう。
と言っても概算支払いにすぎませんから、相対取引で決まるのが大部分です。
農家はクールに眺めていますが、消費者がテレビに踊らされて騒げば騒ぐほど市場価格は上がるのです。
コメが喰いたいとデモするよりお平らに、お平らに。
スカベンジャーらの言うことは、8掛けで聞いて下さいな。

さて、昨日からの続きです。
ではコメの生産量管理制度が守ろうとしている「農家」とは誰のことでしょうか。
コメ生産で言う「農家」は、稲作に関わる生産者のことです。
したがって、プロフェッショナル農家だけではなく、パートタイム農家、つまり兼業農家も含んでいます。
生産管理制度の最悪なことは、プロもパートタイムも含んで一律に規制をかけていることです。

野菜や畜産、果樹では勤め人が片手間にやることは不可能ですが、コメは農業全体を見渡してももっとも機械化が進んだ分野なので、わずか2週間程度の労働で出来てしまいます。
兼業農家も先祖からもらった水田を持っていますから、作らないでペンペン草を生やしていると村内で肩身が狭いのです。
まして改良区と言ってパイプラインで大面積を給水する大規模水田に、自分の田んぼが統合されようものなら、やらないと隣の農家の視線が痛いわけです。

だから、コメではまったくといっていいほど儲からないのに、兼業農家は泣くような思いで、一年に数日しか使わないトラクターやコンバインを買ってコメを作っているのです。
機械なんか共同化しろなんて言う経済評論家もいますが、あんたねぇ同じ時期に収穫期が来るんですから、共有なんぞしたら毎日取り合いです。
こういう評論家に限って、農村では家に3台も車がある、なんていかにも儲かってウハウハだみたいな言い方をしていますが、それは子供たちがそれぞれ別なところに働きにいくからです。田舎には電車なんか通っていないしね。

コメを作ると悪いことのようで、減反割り当てが、たとえば36%と決まると、減反の消化で本業の農業がおろそかになるほどです。なにせ36%なんてザラです。

このように村のしがらみでやっているパートタイム農家と、本格的に水田を借り集めて、大型機械で耕作し、自分で売るルートも開発するというプロフェショナル農家も、等しく耕作する水田の実に4割弱を「作るな」というのですから無茶いいなさんな。
こんな馬鹿なことを農家にやらしている国は、自慢じゃないが、世界広しといえどわが国だけです。
立派なカルテル行為です。公取委なんとかしろ。

昔は青刈りといって植えてまだ実が入らない前に刈り取っていましたが、余りに農業者の評判が悪いので(そりゃそうだ)、何か植えることにして「転作奨励」という形にしました。
そこで、登場したのが当初は大豆などでしたが、農家にやる気が出ずに捨てづくりとなって品質劣悪で失敗。

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次に登場したのがエサ米(飼料用米)といって、人が食えるシロモノでないコメが大量に出来る品種を作って、家畜にやるのが流行っています。
これは一頃大流行しましたね。なんで世界一うまいコメを家畜に食わせるのよ、やればやるほどバカバカしくてやってられんと、これまた捨てづくり。
そしていまの流行は米粉です。作っている友人が言っていましたが、一粒一粒ホカホカの米粒が立つ、キラキラと輝いてえもいえず美しい、これを目標に研鑽してきたらお国がすり潰して粉にしろ、ですか。冗談ではない。
馬鹿にするのもいいかげんにしろ、とは思っても、これを飲まなきゃとコメを作れないのですからしかたがありません。
もう笑うきゃありません。ここまでして「減反」やらなきゃならないのか、と思いました。

官僚の作ったエサ米のお題目は、笑えることには「家畜飼料の国産自給」です。これには腹を抱えました。
税金の補助が大部分の竹馬を履かせて、なにが「国産飼料の自給」なんだか。
霞が関文学の真骨頂。役人の苦し紛れの思いつきを、さも政策のように語るんですからつきあいきれません。
家畜飼料が外国依存なのは構造的な問題で、この構造を指導したのは農水相でしょう。

それを捉えて、リベラルな消費者団体好みの「国産自給」という題目と絡ませて、実は減反奨励でしかないエサ米を拡げようとします。
内実はなんのことはない、税金まみれの減反対策、すなわち、コメを作らせない国家カルテル維持の手練手管にすきません。

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そんなバカな減反があるのは、「赤信号、皆んなで渡れば怖くない」とばかりに、先の兼業農家を大量温存をしてしまったからです。
そしてそれを集荷するJAにとってみれば、コメの扱い手数料は馬鹿になりません。
JAにすれば、兼業農家もプロの農家も等しくひとり一票の組合員。
出荷してくれれば、等しく手数料が取れます。これが馬鹿にならない。
かといって、JAが儲かっているかといえば、そういうふうにも見えないので、なんのことはない、こんな馬鹿げた農政も大量に利害関係者がいれば合理化できるというわけです。

かつて民主党が大勝利した時に、いままで自民党の票田だったJAの多くが1人区で民主党支持に回りました。
なんせ民主党は個別農家補償制度なんて言い方で、まるで各戸にカネを配るように聞こえる政策を出していましたからね。
ちなみにこの言い方を考えたのが、あの小沢御大です。
一方、自民党が進めようとした品目横断政策は集約化を目指すと思われて、JAの逆鱗に触れました。
その時、多くのJA関係はなんと言ったのでしょうか。「小規模農家切り捨てを許さない」でした。
「小規模農家」と言うとまるで零細農家のように聞こえますが違います。兼業切り捨てるなということです。
かくしてコメは、聖域のようになっていたのです。

このコメの聖域化は誰かが作った人工的構造ではなく、自然にできてしまったしがらみのような構造的宿痾ですので、それを半世紀もやってくればもはや各層の利害でがんじがらめで、身動きがとれなくなってしまいました。
コチラが減反縮小といえば、アチラが反対というわけです。
しかも最大の農業団体であるJAが、(単協によって温度差がありますが)、兼業農家をたくさん抱え込んでいれば皆揃ってこれも村の衆なので、切り捨てるわけにもいきません。
減反やめたら、価格維持ができなくなって米国産並に下落するぞ、と農水に脅されれば、そんなリスクはとりたくない、だから揃って大反対というわけです 

この減反は、農業者のやる気を著しく削ぎました。説明する必要もないでしょう。パートタイム農家も、20ヘクタール、50ヘクタールやっている本気の農家も減反割り当ては一律なんですから。
この減反を墨守するために、外国からの安価なコメと価格競争しないように、高関税が必要だったのです。
農業以外の人たちに誤解していただきたくないのですが、こんなおかしな制度はコメだけです。
よく知ったかぶりのコメンティターが、「高関税で守られている農家のために、都会の消費者は世界一高い農産物を食べさせられているんですよ」などと聞いたふうなことを言っているのを聞くと、情けなさでがっくりきます。
そりゃコメだけだろうって。
ひたすらコメが、若い人の集団に混ざった年寄りよろしく、平均を押し上げているだけで、全体は主要国としては平均値です。

 

Photo_8(図 主要国関税率比較)

だから、コメを他の品目と同じ扱いにしろ、と私はかねてから主張しています。
そのためにもし政策誘導したいのなら、関税ではなく各農家の工夫と努力に対して支払われる直接支払い制度が望ましいと思っているわけです。
さまざまな方法が考えられます。担当省庁は農水省の専管である必要はまったくありません。
というか、農水からもぎ取って、各省庁断にするほうがかえって今までの農政とのしがらみがないだけ自由です。

たとえば農地の規模に対しては、コメなどでは、いままでのように減反したら補填されるのではなく、逆に農地を集積して大規模化した農家に対しては、10ヘクタールにつき一定の直接支払いをする方法もできます。これは農水。
棚田などの伝統的な農法による景観の保護のための直接支払いは環境省。
あるいは、水源保全や水利を目的とした国土環境保全目的での支払いは国交省。
もちろん、有機農法やアイガモ農法などの環境保全型農業には、環境省と農水省と文科省。
このように、農業者のやる気を出させる支援をせねば、税金は捨て金となってしまいます。

いままでのように、「皆で知恵を絞って作るな」と均一に減反させるのではなく、「皆で智恵を絞って儲けよう」に転換せねばなりません。

 

2024年9月 4日 (水)

日本農業の宿痾、減反

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久しぶりにホームグラウンドの農業をテーマに書いています。
さて、私は減反は日本農業の宿痾だと思っています。
減反とは、文字通りコメを生産管理して「反」(たん)を減らすことです。
反とは10アールのことですが、ここでは象徴的に使っています。

減反政策とは、政府が国家規模のカルテルを結んで、米価を一定の水準に保つことで「農家を保護」する仕組みです。
70年頃からコメ余りになった結果、食管制度(食料管理制度)が財政的に持たなくなったために生れました。
おいおい、今どき社会主義やってんじゃないよ、と思いますが、そのとおりです。
念のために言っておくと、こんなダルな社会主義統制経済をやっているのはコメくらいなもので、他の農産品は熾烈な産地間競争をしています。

ですから、たまに元気のいい農家がオレは50ヘクタールの大規模コメ農家になるんだ、と資本主義宣言をすると、行くところ行くところで頭をぶつけコブだらけになるという仕組みです。

それはさておき、かつてのガチガチの減反をやっていた頃の食管制度は、下図のような仕組みでした。
戦時経済統制が、そのまま戦後の今もそのまま残存していたのがおわかりでしょうか。

 

Photoなんとこの時代は、作れば全量をお国がお買い上げ頂いてお金を支払ってくれるという夢のような時代だったのです。
こんな無茶ぶりな制度を作ってしまったのは、戦後の食料難の時代に、なんとしてでも主食のコメを確保しようと考えたからです。
今では信じられませんが、1970代まで一家に一冊、米穀通帳(知ってます?)なるものがあって、消費すら一定の枠があったという時代です。
もっと食べてくれぇと叫んでいる今とは違いすぎてウソみたいですが、この米穀通帳がないとコメが買えない時代があったのです。
ですから米穀通帳は身分証明書代わりにもなっていました。

生産部門には食管制度、消費部門には米穀通帳というわけで、川上から川下までお国が一元支配していたのです。
社会主義だねぇ。日本社会は妙にこういう社会主義制度となじむ体質があるらしく、まったく違和感なく社会になじんでいました。
下写真が実物です。

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そもそも生産奨励や、農家にきちんと供出させる意味で作った食管制度を作ったのですが、ところが豊かな時代になると、コメは余り始めます。米穀通帳まで作って、喰いすぎるなと言っていたのが、もっと喰ってくれという悲鳴が上がるようになったのです。(笑)

下図をご覧ください。

Photo_2(図 農水省米改革の取り組みよりhttp://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/h19_h/trend/1/t1_1_1_02.html

グラフのオレンジ線がコメの個人あたりの消費量です。1960年代から較べて2007年には約半分です。政府は食管制度を維持するために、備蓄しまくっていました。
グラフ下の棒グラフを見ると、1960年代から70年代かけては700万トンという凄まじい量を備蓄して、古米、古古米の山を築いていました。
こんな備蓄を抱えながら、なお全量買っていたのですから、そりゃパンクするわな。これに音を上げた政府が1970年から始めたのが、減反です。
政府指導でコメの生産調整をしようと考えたわけです。
戦前や終戦直後には農家はいかに多く作ったかを競い、多収量を達成した農家は農林水産大臣賞が貰えた時代から一転、作らないように励むとお褒めに預かる時代になって、今に至ります。

 

Photo_4(図 東京新聞2013年11月8日より)

今は表面的にはとりあえず、「食管はなくなったことにしよう」「減反もないことにしよう」ということになっています。 
正式には、2018年度に完全廃止ということになっていますからね。
もちろんウソです。
なぜこんな見え透いたことを言っているのかといえば、80年代に吹き荒れた貿易自由化交渉において、農業保護をしているとなると交渉で著しく不利になったからです。
WTOやFTA交渉に行けば、こんな前近代的な農業保護をいまだしていることが知れると、肩身が狭いでは済まなかった時代がやって来たのです。

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しかし現実には、今でもコメは農水省が生産調整を行なったり(地域に丸投げしていますが)、備蓄米を作ることで、裏減反は健在です。
村や地域などには生産調整の枠があり、それに合わせて、過剰になったコメは米粉にしたり、あるいは、その分エサ米に転換したりしています。協力しないと補填金を受けられませんが、この補填金というのも一般には分かりにくいものでしょう。
日経の(2015年6月15日)の記事をご覧ください。


「農林水産省は5日、2014年産コメの価格下落を受け農家に総額514億円(計5万8千件)の補填金を支払う見込みだと発表した。07年に発足した収入減少影響緩和対策制度に基づく支払いで、07年の313億円を上回り過去最大となる。
 補填金は国と農家が3対1の比率で拠出している。減収額の9割までを補填する仕組みで、コメ以外には麦や大豆なども対象となる。14年産コメの60キログラムあたりの収入額は全国平均で約1万2千円で、過去5年間の標準的収入を3千円程度下回った。60キログラムあたり約2500円が農家に渡る見込みだ。
 国は15年度予算で802億円を計上しているため、支払いに問題はないという」

これは農水省が、今年の米相場が悪そうなので「収入減少影響緩和金」を800億用意しているよ、という「心強い」ニュースです。
これがコメの補填金です。農家も3分の1払っていますが、国が3分の2出して、事実上国の価格支持政策です。
いちおう食料管理制度(食管)がなくなったというのがタテマエなのですが、なんのことはない内実は一緒なのです。
「生産調整」という名の減反、作りたくても作れない仕組み・・・、この国の農業のコメ部門だけだけには社会主義計画経済が生き残っています。なんというアナクロ。
しかし、これが始まって半世紀。もはや村の「和合」の象徴のようになってしまいました。

では、この「ムラの農家」ってなんでしょうか。
長くなりましたので、今日はここまでにします。

 

2024年9月 3日 (火)

「令和の米騒動」を煽ったメディアと野党の罪

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続けます。
政府は声を枯らして備蓄は充分にある、冷静にと呼びかけました。

「令和のコメ騒動といわれるほど一部で品薄となっているコメについて、坂本農水大臣は新米の流通などから供給が「順次回復していく」として、消費者に冷静な対応を呼びかけました。
坂本農水大臣はけさ、コメの品薄の背景について、▼地震や台風に備えた買い込み需要や、▼お盆休みで物流が滞ったことなどが主な要因だったと指摘。
そのうえで、早いところでは新米の流通が始まっているとして、供給は「今後、順次回復していく」との見通しを示しました。
坂本哲志 農林水産大臣
「消費者の皆様には必要な量だけのお米を買い求めるなど、落ち着いた購買行動をお願いしたい」
一方、大阪府が要望している備蓄米放出については、「民間流通が基本となっているコメの需給や価格に影響を与える恐れがあるため、慎重に考えるべき」と述べています」
(TBS8月27日)
農水大臣、コメの供給「順次回復していく」“令和のコメ騒動”に冷静な対応呼びかける|TBS NEWS DIG (youtube.com)

私としてはきわめて珍しく農水省の肩を持ちますが、まことに正論です。
原因については私が指摘しているとおりですが、大臣のコメントが一カ月遅いという鈍さ(いつものことですが)以外はまぁそのとおりです。
それと坂本大臣、下を向いて官僚が作ったペーパーをボソボソ読むのはお止めなさい。みっともない。
特に備蓄米について「民間流通が基本であって悪影響が出る」というのも確かです。

コメ価格は今や民間流通、すなわち相対取引が指標となっています。
これはJA全農や各農協などの出荷業者と卸売業者との間で、売買取引する際の主食用米の銘柄ごとの契約価格のことで、 農水省はコメ価格の代表的な指標としています。
この相対取引がもっとも注目されるのが今の新米が出てくる時期なのです。
これで一年のコメ価格が事実上決まってしまいます。
令和5年産米の相対取引価格・数量について(令和5年9月):農林水産省 (maff.go.jp)

新米が出て新たな年間の価格が決まる寸前に政府備蓄を放出したらどうなるのか、かんがえないでもわかるでしょう。
相対取引の年間契約価格は、落ち着いた状況を前提として決めねばなりませんが、それができなくなります。

しかしメディアの煽りはそれを押し潰します。
ともかく騒ぎたい、騒ぎ立てて大事にしたい、そして政府を追及したい、社会の安定なんて知ったことか、騒げば視聴率(ゼニ)になるんだ、これが社会のスカベンジャーたるメディアの本能です。
東京新聞はスーパーのカラッポの棚の写真つきでこう書いています。

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東京

「「1人1点まで」「品切れ中」…。
都内のスーパーマーケットをのぞくと、販売制限や欠品を知らせる張り紙を掲出する店舗が相次いでいる。
ある店舗では、もち米と玄米が少し残っているだけで、白米のコーナーはからっぽ。「あら、ここもない」と、女性客が足早に去って行った。
別の店も、白米の在庫はゼロ。物珍しそうに客が集まり、空の陳列棚の前に人だかりまでできていた」
(東京8月21日)
お米が売ってない…これいつまで続くの? スーパーを回って聞いてみた アキダイ社長「解消するのは…」:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)

そしてお定まりの備蓄米を放出せよ、と叫んでいます。

「備蓄米の放出について要望があったが、民間流通が基本のコメの需給や価格に影響を与える恐れがあるため、慎重に考えるべきだ」坂本哲志農林水産相は27日の閣議後記者会見で、そう語った」
(東京8月29日)
お米を買いたいのに…「政府備蓄米の放出」が実現しないのはなぜ? 坂本農相は「品薄は順次回復する」と語る:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)

共産党も便乗してこんなことを言っています。バカですねぇ、あんたらの中に農民はいないのか。

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Xユーザーの田村智子さん

備蓄米は主に政府が凶作時の供給不足に対応するため、100万トンをめどにして政府が備蓄しているコメのことです。
600万t~700tが平均年間収量なので、備蓄米100万tとは10年に1度の不作にも不足を来さない量の保管規模です。
政府は毎年約20万tの米を買い入れ、5年保管して、それを過ぎた米は飼料用米などとして売却しています
備蓄米を蓄える理由は、突然想定しなかった事態に備えるためです。

たとえば東日本大震災で、コメどころの福島、宮城、茨城の米作が大打撃を受け、さらに風評被害で流通量が減ったためにそれを補うため、政府は備蓄米4万トンを供給しています。
また熊本地震の際にも放出しています。

ですから、大地震クラスが襲来しない限り、ちっとやそっとの変動幅では市場機能でどうにかしてしまいます。

市場機能というのは、品不足になければ価格が上がって生産者の民間保管分からコメを吸い上げますし、余れば安くなって保管に回ることです。
新米が出る直前の時期なので、そう沢山保管米があるわけでもないので、農家はそう儲かったわけでもありません。
ここで政府備蓄を取り崩してしまって市場放出するぞという声がかかれば、市場価格はいったんは冷却しますが、それも新米が出て需給バランスがとれるまでのこと。
品不足によってコメ価格は一時的に跳ね上がり、
例年の安値で参っていた農家にはやや嬉しいことではありましたが、なにぶん現物が希少です。おまけに新米の登場まで半月ていどのことです。
つまりやってもやらなくても一緒。

今回一時的に消費市場からコメが姿を消したのは、共産党が言うような政府の減反とは無関係です。
減反は農家が自らの農地を100%活用できず、4割の水田でコメを作れないばかばかしい政策で、これはこれとしてしっかり問題ですが、今回の「コメ騒動」はこんな深い問題ではありません。
コメの少なくなる端境期に南海トラフ地震警報が出て、これを煽ることしかできないメディアが煽ったために、消費者が家庭の買いだめを増やしたことが原因です。

そしてコメがスーパーから姿を一時的に消すと、ほら見たことか「令和のコメ騒動」が始まったとまたまた煽れば、それはパニックになるかもしれませんね。

コロナのマスク騒動もそうでしたが、国民がパニくらずに落ち着いていれば、日本の製造基盤が破壊されたわけでもないので短期間で品不足は解消します。コロナの時を思い出して下さい。

「マスクがまったく売っていない」というメールが「ニュースあなた発」に繰り返し寄せられている。新型コロナウイルス感染症の拡大でメーカーはマスクの増産態勢を強化し、三月は六億枚を供給したが、店頭にマスクが並ぶ光景はなかなか見られない。政府はさらに一億枚の増産を目指すが、専門家は「七億枚でも十分とはいえない」と指摘している」
(東京新聞2020年4月6日)
<新型コロナ>マスク不足 解消遠く メーカー「供給追いつかない」:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)

医療メーカーはたちまち増産体制を作って1カ月に6億枚生産したのですが、それでも不足したのです。
ヘンですね。国民ひとりに5枚は来る勘定なのに、それでも足りないというのはなぜでしょうか。
たぶん中間業者で買い占めた転売屋が出たのです。
今回も「令和のコメ騒動」も似たようなものです。

日刊ゲンダイなんぞ、不平不満のタネを見つけられたと喜びで打ち震えながらこう書いています。

「あ~、やっとあった」
 5軒目でようやくたどりついたボクのお米。これで夫としての役割を果たすことができる。令和の米騒動。どうしてスーパーにお米がなくなったのか?
それは昨年の猛暑で不作だったほか、足元の「南海トラフ注意情報」が原因だ。一部の人たちに「備蓄しなければ」という危機感が生まれ、「いらない米」を買いだめしたのである。
「政府が余計なことを言ったからに!」
(日刊ゲンダイ8月29日)
家計を直撃!「令和の米騒動」は人災か【シニアのためのマネー講座】(日刊ゲンダイDIGITAL) - Yahoo!ニュース 

そしてすべて政府に責任を転化します。
メディアが自分らで火を着けておいて、コメがたりな~い、政府がぁワルイですから笑えます。

南海トラフ地震で警報が出たことまで「政府か余計なことを言った」ですから、もしほんとうに警報期間内になにかあったらあったで、「政府の予知対策がたりな~い」と騒ぐんでしょう。
こういう煽りをする人らって、煽り→買い溜め→品不足ということを見越して、買い占めているけしからん奴らと示し合わせてるんじゃないかなんて邪推してしまいます。
「令和のコメ騒動は人災だ」なんて言っていますが、確かに。
メディアとヒダリの皆さんが煽って出来た「人災」には違いありません。

というわけで、いまや続々と新米がスーパーに搬入されていますからメディアに踊らされないように。
ちなみにコメは生鮮品ですから、ポリ袋に入れたまま台所の隅になど置いておくと、確実に劣化しますので、備蓄もほどほどに。

減反については、明日に回します。

 

 

2024年9月 2日 (月)

コメ不足だって?

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コメ不足と聞いてたまげしました。わきゃありません。
だって平常どおり去年は収穫量があがっているのですから、足りなくなるなんてどこの国の話なの。

「令和の米騒動」なんて騒ぐなら、まずは収穫量推移グラフくらい押さえてほしいものです。
市場に出回っている去年産コメの収穫量を知らないで、コメ不足もなにもありませんからね。

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水稲の収穫量に関するデータ | データで見る田んぼ | クボタのたんぼ [学んで楽しい!たんぼの総合情報サイト] (kubota.co.jp)

傾向的に落ちてきてはいますが、700万tから800万tの間で推移しています。
これは農水省が市場動向に合わせて生産量調整しているからです。

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kubota.co.jp

ちなみに去年2023年度は716.5万トンで、例年より10万トン程度の減少にすぎません。

「水稲の全国の10a当たり収量は533kgと見込まれる。 以上の結果、収穫量は716万5,000t(前年産に比べ10万4,000t減少)と見込まれる。 このうち、主食用の収穫量は661万t(前年産に比べ9万1,000t減少)と見込まれる」
令和5年産水陸稲の収穫量:農林水産省 (maff.go.jp)

次に、作柄の状況を示す作況指数です。
作況指数が106以上で「良」、105~102で「やや良」、101~99で「並み」、98~95で「やや不良」、94~91で「不良」です。
今回の「コメ騒動」で最初に思い出したのは、あのタイ米を嫌々食べさせられた1993年の作況指数が74の時だったかもしれません。
戦後で飛び抜けてひどい凶作は1945年の作況指数67があります。
敗戦の混乱と重なったために食料難が引き起こされました。
着物を抱えて田舎にイモを買い出しに行ったなんて話は、私が子供時代よく聞いたものです。
共に原因は冷夏です。
去年のような高温も困りますが、よりダイレクトに作柄に影響を与えるのは冷夏のほうです。
「令和の米騒動」なんて言われると、ついこういう記憶が一気にフラッシュバックして買いだめしたくなるのはわからないではありません。

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(199)1933年:コメ作況指数120【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】|グローバルとローカル:世界は今|コラム|JAcom 農業協同組合新聞

去年の作況指数は101、つまり平年並みですからコメパニックになるわきゃありません。

「農水省は 12 日、令和 5 年産水稲の最終作柄を全国作況指数 101 の「平年並み」と発表した。 前回の 10 月 25 日現在から変わらず、5 年連続の平年作が確定した」
k1b-info_20231222.pdf (agri-note.jp)

この「コメ不足」を去年の猛暑と結びつけて高温障害による作柄不振が原因と書いていたところもありましたが、確かに高温障害は出ましたが、2010年の猛暑時より、被害を被った水田は少ないのです。

「水稲の被害統計で高温障害が単独項目として区分され、被害分類がいまの形になったのは平成 14年産から。それ以降で高温障害面積が最も大きかったのは、昨年まで歴代 1位の猛暑年だった平成 22年産の 97 万 7500 ㌶ だった。今年は 22 年を大幅に上回る史上最高猛暑として記録を塗り替えた中、高温障害面積でも 22 年産を上回り、過去最大規模の約 100 万㌶に上った。直近 10 年では令和元年産 69 万 9200 ㌶、平成 30 年産 65 万 3300 ㌶を大幅に上回った」
(商経アドバイス令和 5 年 12 月 18 日)

しかし高温被害を受けた水田は少なかったものの、歩留りの悪さが響いて商品となるコメが減少しました。
そのために春には、政府備蓄と別にJAなどが保管している民間在庫がかつてない速度で減少し始めました。

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日本農業新聞

「4月末現在の民間在庫量は近年、200万~230万トンで推移しており、今年の180万トンは過去にない低水準だ。「十分な売り物がない」(西日本の米穀店)との声も聞かれる。 23年産米は猛暑の影響で生産量が下振れしており、JAなど出荷段階で在庫の減少幅が大きい。高温障害による精米の歩留まり低下も尾を引く。
米の需要が上向いたことも在庫の消化ペースを早める要因で、人流の回復を受けて業務需要が堅調で、家庭向けの消費も前年を上回る」
(日本農業新聞6月26日)
逼迫する米需給 現状と24年産の展望は / 日本農業新聞 (agrinews.co.jp)

このような民間在庫が減少する中で起きたのが、8月8日の南海トラフ地震警報発令でした。
この警報は広域に大地震が起きるという恐怖を国民に与え、一部の消費者はいっせいにコメの買いだめに走ります。
それを煽ったのがメディアと野党でした。
この根性がねじ曲がった人たちは常にことあれかしと狙っているようで、こういう社会が変動するととたんに元気になり「責任を追及するぅ」と叫び始めました。
長くなりそうなので、ここで切って明日に続けます。

 

 

2024年9月 1日 (日)

日曜写真館 台風が生れ天気図活気づく

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台風の押し上げて来し雲走る 右城暮石 

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のろのろと来し颱風の忽ち去る 右城暮石 

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いちまいの鏡くもらし颱風来 三橋敏雄

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み仏に颱風去りしことを告ぐ 高野素十

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台風に任すもの任されぬもの 後藤比奈夫

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孤り昏れ野の光も昏れ颱風の樹 赤尾兜子

 

 

 

 

2024年8月31日 (土)

習近平の「認知戦」のチャチさ

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先日、日本で初めての放送テロが起きました。
初めて尽くしの時期だとみえて、同時期には中国軍機による初めての領空侵犯が起きています。

「NHKのラジオ国際放送で、尖閣諸島(沖縄県石垣市)を「中国の領土」と主張し「南京大虐殺を忘れるな。慰安婦を忘れるな」などと発言した中国籍の男性スタッフを巡っては、NHKの待遇面に不満を漏らしていたとされる一方、仕事ぶりは「真面目」と評されている。アナウンス業務で中国の主張に沿った持論を展開するという極めて異例の事態だが、周囲の関係者は「単独犯」との見方を示している」
(産経8月29日)
NHK尖閣発言の中国籍スタッフ 「バイトテロ」単独犯の見方、在日中国人は非難「最低」 - 産経ニュース (sankei.com)

このテロを許したNHK国際放送は、日本政府の見解や日本文化を外国や外国にいる日本人に伝えることが目的で、国からテレビ部門に26.3億円、ラジオ部門に9.6億円、合計35.9億円の資金提供を受けています。
血税を使って反日放送を許してしまったということで、NHKはただ謝っただけでは済まないはずです。

この面妖なテロを起こした男は、東大大学院卒、文系で派遣社員としてNHKの海外放送の翻訳やアナウンスをしていたようで、その経歴は20年ちかくになるそうです。
当然、こんなことをしたらどうなるかわかってやったのでしょう。
同じ在日中国人は彼をこう評しています。

「派遣ホームページ(HP)や関係者によると、男性スタッフは49歳。中国・天津の大学で英語を専攻し、20代で来日し、東京大大学院を修了した。NHKの中国語ニュースで翻訳やアナウンス業務に関わるほか、企業や官公庁の中国向けビデオで中国語ナレーションも担当した。
香港の衛星放送フェニックステレビの東京支局でリポーターも務めたこともあり、東京電力福島第1原発処理水の海洋放出が始まった昨年8月は現地でリポートを行っている。
在日中国人の男性は男性スタッフについて「反日教育が強い時代に中国で育った世代で、元々愛国心は強かったのだろう。近年中国政府も(対外的に)横柄になったが、一般の中国人にとっては、日本政府も米国などに中国の脅威を『告げ口』するように映り、愛国心を募らせていったのではないか」と述べ、NHKで給与など待遇が長年変わらないことなどへの不満も蓄積した結果、突発的に行動に出たとみている」
(産経前掲)

それにしても、いままでの20年近いキャリアと信頼を全部ドブに捨ててまでやるかねと思いますが、じぶんはさっさと国に帰ってしまったようです。国では英雄視されているとか。
靖国神社でセコイ落書きをしたり、放送テロをしたりと、かの国の「英雄」もずいぶんと小さくなったもんです。(笑)
刑事訴追と損害賠償は免れないでしょうが、当人が国外にいる場合は実質無意味て、再入国ができなくなるだけにすぎません。

おそらくそれを見越しててNHK、あるいは外務省が「逃がした」という説もありますが、なんとも言えません。

いうまでもなく、これは中国が伝統芸とする「認知戦」に属します。
ただし、あまりに幼稚、かつ発作的であり、個人の思いつきの形で行われました。
大きい絵がないのです。

中国は従来、台湾に対して裏に表に激しい認知戦をしかけてきました。
時には、本土系のメディアを使っての偽情報を流布してみたり、時には独立派の仮面をかぶった過激な発言をネットでしてみたりと手を変え品を変え、繰り返しおこなってきたものです。
このようにして偽情報をばらまき、指導者への信頼を失くさせ、有事に際しては抵抗を失わせるというのが目的です。

最近台湾で中国の侵攻を扱ったリアルなドラマが作られていると報じられましたが、そこで中心となる中国の手口はこの認知戦でした。
金融機関やメディアに対するハッキング、偽情報の流布により国民を混乱に陥れて、政府への信頼を失くさせ、抵抗の意志をはぎ取っていきます。

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【狙いは?】“中国による侵攻”テーマのドラマ…台湾で制作 工作活動も描く (youtube.com)

一方、わが国に対する認知戦は、孔子学院を作って親中派を増やそうとしたり、「平和運動」の中に親中派を扶植する方向でした。
そのなかでももっとも力を入れたのが、政権与党である自公の議員に親中派を増やしていくことでした。
その工作の仕上がり具合は二階翁を見れば明らかですが、野党にもしっかり浸透していました。

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出展不明

上の写真は2009年12月。当時幹事長だった小沢一郎に率いられた民主党訪中団の姿です。
2009年8月に民主党は政権を取っていますから、小沢の第2次黄金時代でした。
その小沢が真っ先にやった外交がこれ。

総勢なんと630名、現職国会議員143名は史上最大規模で、民主党政権が丸ごと北京に移動したようなもので、中国のエライさんに拝謁して頂いております。
まるで清朝の三跪九叩頭のようです。

小沢訪中団 - Wikipedia

訪中時の小沢氏の梁光烈国防相会談における発言はなかなかのもので、ここまで朝貢してしまうと歴史に名を刻みます。

「日本では中国脅威論の名の下に防衛力強化の意見が根強くあるが、今後も専守防衛の原則に基づいて国防政策を進めていく」

さらにはここまで言うのかというリップサービス。

「日本は解放以前の蒙昧な国でございますが、小生、いち野戦軍司令官としてがんばっております」

わ、はは、当時も話題になりましたが「じぶんは野戦軍司令官であります」ですか。
こんな台詞を中国の国防相相手に言えば、自分は中国人民解放軍日本方面軍司令官であります、と言っているようなもん。
さすがは田中角栄の直弟子なるが故でしょうが、政治家としての品性のなさ、底が浅さが透けてみえます。
こんな男が政権中枢にいたんですから、なんともかとも。

とまぁこのような隷従を強いたり、ハニートラップでポマード首相を篭絡してみたりと、親中派を育成するのが基本的な方向だったようですが、それは他国にない大成功の部類でした。
しかし、それが今回の放送テロで様相を変えました。
台湾型に姿を変容させているように見えます。

今回、このNHK放送テロ男が選んだのが「福島核汚染水放出」に対する非難でしたが、これは執拗に中国が煽ってきたものの国際社会は黙殺しました。
あたりまえです。トリチウムを海洋放出していない国などないからです。

そして今回の放送テロとなるのですが、なぜか粗雑さを感じます。
工作としてはキメがすこぶる粗いのです。

中国の伝統的手法はじっくりと中国シンパを増やしていき、当人の自発的意志で極度の親中行動を取らせることです。
前述した小沢某などのケースはこれです。
あるいは新聞社やテレビ局に浸透して認知戦を展開しました。
これは心理戦、法律戦とならぶ三戦のひとつで、中国はこれを「砲煙の上がらない戦争」と位置づけて、血を流さずに相手を屈伏させる国際戦略としています。

1971年、朝日記者の本多勝一がものにしたような『中国の旅』のような記事を書かせて「南京大虐殺」を煽り、当時舞台裏で進行していた日中友好条約を有利に運ぼうと画策します。
この「南京大虐殺」キャンペーンは手が込んでいて、当時イヌイットの生活に飛び込んだり、アラビア半島で遊牧民と共に生活をしたりして人気を博していた若手の本多記者に、中国をルポさせるという企画でした。
そして当地で「南京大虐殺の生き証人」にこれでもかというくらい出会い、衝撃を受けてそれを朝日に連載します。

絶大なる影響力で、当時中学生だった私など新聞を切り抜いたもので、恥ずかしながらすっかり赤い反戦少年になってしまいました。
ところが日をおかずに、この「生き証人」が全部中国当局があらかじめ用意したものだと、わかってしまいました。
つまりなんのことはない中国当局の言うがままの場所に行き、用意された「生き証人」をルポしただけだったわけです。
共産圏諸国がよくやる詐欺ですが、まんまと朝日はこれに引っかかった、というよりわかって引っかかったふりをしたのでしょう。
大新聞社が中国の反日宣伝戦に便乗してしまったら報道機関としては自殺行為です。

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本多勝一『中国の旅』

もちろんこれで終わったわけではなく、2017年、中国は「戦勝70周年」として大規模な反日プロパガンダの認知戦を展開しました。
中国は現在、一昨年にユネスコの記憶遺産に「南京大虐殺」を登録し、2017年秋からはこの記憶遺産展示国際展示会を行いました。
たとえば、仏北西部カン市で、昨年10月23日から12月15日まで「1937南京大虐殺・南京の6週間」という企画展が催されたそうです。
この折に展示された「記憶遺産」には、米国人宣教師ジョン・マギー の撮ったとされるマギー・フィルムやドイツ人ジョン・ラーベなどの証言です。

米人が日本の非道を糺弾することによって、あたかも中立性が担保され、信頼性が飛躍的に高まることを狙っており、中国はそれに成功しました。
そして日本の教科書まで「南京大虐殺」を書き込ませるまでに、これは動かない歴史的事実として国際的に定着してしまいます。
逆にこれに異議を唱えようものなら歴史修正主義者として、発言の機会さえ奪われる有り様です。
この「南京大虐殺」と「従軍慰安婦」は、中国が日本に対して行った認知戦の2大成功事例でした。

これに較べて今回のNHK放送テロ事件は、しょせんと言ってはナンですがバイトテロにすぎません。
バイト店員の悪ふざけとそんなに変わらないレベルの行為で、かつての「南京大虐殺」キャンペーンのような恐ろしさはありません。
おいおい、中国の仕掛けはスケールがずいぶんと小さくなったな、昔のように大新聞動かして国際世論を味方にしてみろよ、と思うほどちゃちい。
これが昨日書いた習近平の裸の王様状態となにか関係があるのかないのか、悩ましいところです。

 

2024年8月30日 (金)

独裁者の疑心暗鬼が引き起こしたのか、領空侵犯

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中国は「領空侵犯の意志なし」なんて言っていますが、もちろん「軽い冗談」です。

[北京 27日 ロイター] - 日本の防衛省が26日、中国軍のYー9情報収集機が長崎県男女群島沖の領海上空を侵犯したと発表したことについて、中国外務省の林剣報道官は27日の定例会見で、関連部署が状況の把握に努めていると述べた。
同報道官は「双方は既存の実務ルートを通じた意思疎通を維持している」とし「中国にはいかなる国の領空を侵犯する意図がないことも強調したい」と述べた」
(ロイター8月27日)
中国外務省「領空侵犯の意図ない」、状況を把握中 | ロイター (reuters.com)

まぁ、その意志があって実行したとなるとリッパな戦争行為ですからね。
可能性としては三つです。

①習近平の直接の命令。
②習近平を困らせるための反対派の策謀。
③現場の軍の独走。

素直に考えれば、①の習近平の直々の命令でわが国の総裁選へ威圧をかけたとするのが常識的でしょうが、よくわかりません。
というのは習は軍幹部の粛正を繰り返していますが、その理由は軍が常に独自の勢力であることを企むのを止めず、軍を完全な支配下に置くこととができないでいるようだからです。

すると②の習反対派が、外交に乗り出して国際政治大物に成り上がりたい習の足をさらう目的でやったこともありえます。
この間のフィリピンへの執拗な圧力は戦争直前まで緊張が高まっており、米中戦争を招き寄せかねない結果となっています。
これなど習の命令でしているのかどうなのか。
ただしこういった領空侵犯やフィリピンに対する圧力は、習自身がしてきたことであり、結果でもあるために①も捨てきれません。
③の現場の独走は考えられなくもありませんが、あのような極度に中央集権的な国家では、共産党のいずれかの派閥と結びついてのことでしょう。

かつては香港ルートでそれなりに確度の高い情報が入ってきましたが、いまや国安法支配下で完全に情報パイプが目詰まりを起こしています。
そのために、共産党の情報がなにも伝わってこないのが現状です。
たとえば、香港にはサウスチャイナ・モーニング・ポストや蘋果日報が、中国政府の情報を伝えていました。
80年代から記者をしていた蔡咏梅はこう言っています。
「私が香港の自由を深く感じたのは、当時の深圳市の物語だ。深圳市の向こう側では、誰を罵ってもよかったが、ただ政府だけは罵ることができなかった。河のこちら側は、誰を罵ってもよかったが、ただ妻だけは罵ることはできなかった」

ニューヨークタイムズ、ウォールストリートジャーナルなどの新聞社は香港を拠点にその他の国家や地域をカバーさせていました。
それは香港が中国報道のみならずアジア全体の報道のハブだったからです。
これらの外国メディアは香港から撤退しました。
国安法は非常にあいまいです。蔡咏梅はこう言います。
「何を行えば、国安法に抵触するかはっきりしていない。あの法律は、思い通りに誰に対しても(容疑をかけらることが)可能のでみんなびくびくしている」

国安法のほんとうの恐ろしさは、解釈ひとつで中国政府に対する批判すべてを「国家転覆罪」として逮捕拘束できることです。
たとえば国安法第20条にはこう書かれています。

●国安法第20条
国家分裂、国家統一破壊の組織、計画、実施に参与したいかなる者も、武力を使用、あるいは武力を使用すると脅したか否かにかかわらず、すなわち犯罪である。

覚えておきましょう。いかなることも当局の恣意で「国家転覆罪」に仕立てることができる、これが全体主義です。
このようにして香港は中国の耳と口、そして眼であることを止め、深い沈黙に追い込まれたのです。
これは皮肉にも、中国自身の眼も塞いだことになりました。
それは中国当局にとっても、香港は外部世界の生の情報を取り入れることのできる、ほとんど唯一の接点、窓口だったからです。

それでなくても中国共産党とその政府のしもべたちは習の気に入る情報しか伝えなかったものが、いまやそれすらしなくなってしまいました。
習近平は確かな情報が得られずに裸の王様になったのです。
そこから芽生えるのは例の独裁者特有の真理、つまり疑心暗鬼です。
習近平の顔に貼りついたようになっている退屈と憂鬱な表情。
国のトップオブトップスに登り詰めた72の男とは思えない覇気のない気だるさ。
だれの言うことも信じられなくなった老人性鬱。

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中国・習近平の粛清でポンコツ化した解放軍、統制不能で暴走懸念は最高潮 13日には台湾総統選、「中国の軍事的脅威」とはいかほどか(1/6) | JBpress (ジェイビープレス) (ismedia.jp)

「中国共産党体制内の良心的な情報筋の説明によると、習近平は現在、いくつかの不安、それも極端な不安の中にいる。習近平はまた、このいくつかの極端な不安に基づいて、戦略計画を立てている。
現代の医学水準では、習近平が病気で死ぬ可能性は小さい。習近平の最大の不安は政治生命の安全である。
2人の国防相、秦剛元外相、ロケット軍や戦略支援軍の指導部に至るまで、習近平の側近だった解放軍の将官や外交幹部が、習近平に対し政治的に不誠実な行為を行っていた証拠が大量に判明した。秦剛、李尚福、魏鳳和およびロケット部隊幹部の粛清は、汚職が理由という人もいるが実は、政治的不誠実(習近平に対する不忠誠)問題が理由だ。これが問題の核心だ」
中国趣聞NO1054:北戴河会議で何が起きたか?噂の真相に迫る袁紅冰インタビュー

取り巻き幹部の誰ひとり信用できず、特にその疑惑は隠然たる巨大な力を持つ軍に集中しています。
国防相、ロケット軍という戦略ミサイル部隊の将官、外交幹部の「不忠分子」が次々に汚職を理由に粛清されていきました。

「過去6カ月の間に、少将以上の軍人だけでも15人が失脚した。その中心はロケット軍関係者。ロケット軍司令だった李玉超、ロケット軍政治委員だった徐忠波ら幹部がごっそり失脚した。年末、9人の軍人の全国人民代表資格剥奪が発表されたが、その9人のうち5人がロケット軍関係者だった。
また戦略支援部隊関係者も大勢失脚した。国防相だった李尚福は元戦略支援部隊副司令兼参謀長、第20回党大会で中央軍事委員を引退した魏和鳳(元国防相、ロケット軍初代司令)、最近動静不明の巨乾生・戦略支援部隊司令も2023年夏以降、汚職あるいはスパイ容疑で取り調べを受けているといわれている」
(福島香織2024年1月12日)
中国・習近平の粛清でポンコツ化した解放軍、統制不能で暴走懸念は最高潮 13日には台湾総統選、「中国の軍事的脅威」とはいかほどか(1/6) | JBpress (ジェイビープレス) (ismedia.jp)

いまや軍はもの言わぬ不忠分子の巣窟と見なされ始めました。
元来、習近平は軍に無知でした。
2915年の軍事パレードで左手で敬礼したほどです。

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中国人民解放軍建軍90周年--政治--People's Daily Online

歴代の中国共産党は軍の中から生まれました。
それは毛沢東の「革命は銃口から生まれる」という革命戦争思想の必然として、軍と共産党はふたつでひとつの存在だったわけです。
ごく自然に第1世代の指導者たちはすべて従軍体験があり、鄧小平は革命戦争の指揮官でしたから、軍の忠誠とリスペクトを最初から期待できた幸せな世代でした。

しかし最高指導者が文民に変わると、党は軍の支持を得るために必死にならねばならなくなりました。
江沢民は、中国の改革開放による経済成長のうまみを軍人にも分け与えるために軍がビジネスをすることを推奨し、大きな利権、特権を与えることで軍の支持を得ようとして成功しました。
要は江は札びらで軍の頬を叩いたのです。

この軍の利権の分配こそが、他国にない軍の財閥化を生み出し、今に続く軍のまったんまで染み込んだ腐敗構造を作り出していきます。
胡錦濤は軍から利権を奪おうとしましたが失敗します。

これを見ていた習は、軍を党のしもべとすべく徹底した「反腐敗闘争」という粛清を強引に進めていきます。
これは同時に、まだ存命していた江沢民派との闘争でした。
とうぜんのこととして、これはやればやるほど軍の反発と面従腹背を生んでいきます。
そして皮肉にも、江沢民時代と違って、いまや実際の戦争が起きる可能性がきわめて高いのです。

こういう状況の中で、このいままで歴代の指導者がしなかった領空侵犯事件が起きたのです。
果たして無関係でしょうか。
たんなる計器の故障かもしれませんが、私は可能性の4番目として、軍の習近平への「忖度」ではないかとも思うのです。
それはあの2分間という短い時間に、領空にタッチ&ゴーしたそぶりからも伺えます。
現時点では本格的に領空侵犯する気はないが、自衛隊機の動きを見ておきたいという合理的理由だけではなく、なにかそれ以外の脂っこい心理が隠されていそうです。

 

2024年8月29日 (木)

領空侵犯には無害通航はない

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中国軍機が領空侵犯しました。

「防衛省によると、領空侵犯したのは、中国軍のY9情報収集機1機。26日午前11時29分から同31分にかけて、長崎県の男女群島沖の日本領空を飛行した。領空侵犯は約2分に及び、防衛省関係者は「十数キロは飛行した可能性がある。2分は長い」として、何らかの意図的なものとの見方を強めている。
海洋進出を進める中国は、小さな動きを積み重ねて圧力を強める「サラミ戦術」を取っているとされる。尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺では中国海警局の船舶が領海侵入を繰り返し、九州西方でも中国の艦船や無人機などの活動がたびたび確認されている。
今回の領空侵犯は、こうした東シナ海での活動強化の一環だった可能性もある。中国側の目的に関し、木原氏は「事柄の性質上、確たることを答えることは困難だ」と言及を避ける一方、「警戒監視および対領空侵犯措置に万全を期していく」と強調した」
(産経8月27日)
中国軍機の領空侵犯は意図的か 2分間で数十キロ飛行 防衛相「主権の重大な侵害」と非難 - 産経ニュース (sankei.com)

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産経

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防衛省

上図の黒い日本を囲む線が領空で、8月26日午前11時29分から2分間にかけて、わが国領空の男女群島領空を侵犯しています。
領空侵犯したのは中国空軍所属のY9電子偵察機です。

機首下レードームから新型のY9ZDのようです。
Y-9 (航空機) - Wikipedia

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防衛省・自衛隊:中国機による領空侵犯について (mod.go.jp) 

ジェーンズ・ディフェス・ウィークリーもこんなツイートをしていました。
electronic warfare aircraftというのは電子戦機のことですが、さすが専門誌、各部の名称の説明つきです。
電子戦機 - Wikipedia

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XユーザーのJanesさん: 「Chinese Y-9 electronic warfare aircraft infringes Japan airspace https://t.co/8Ee7rVeKJg https://t.co/THHmzkNEqX」 / X

「Y-9DZには新型のセンサーと通信システムが装備されている。同機がEW(電子戦)や電子情報収集(ELINT)、電波探知(ESM)、合成開口レーダー(SAR)による敵軍の動向監視、ジャミング(電子妨害)、心理戦(PSYOPS)などさまざまな特殊任務を飛行できる新世代の多用途電子戦機であることを示唆している」
航空自衛隊スクランブルで初確認された中国軍機の正体とは?(高橋浩祐) - エキスパート - Yahoo!ニュース

この機体は中国メディアによれば「中国の強さと決意を世界に示している」そうです。(ああ、うっとおしい)

「Y-9Z情報収集機は、光学およびレーダー偵察装置を装備した偵察機です。 航空機は戦場の状況を認識し、戦場の情報を収集および分析でき、幅広い監視機能を備えています。 広い範囲では、わずかな変化でも監視できる。
この航空機は、台東の海況などの海域を監視するのに特に適しており、 さらに、台湾軍や米軍の艦船、潜水艦、航空母艦などの大きな目標と比較して、航空機にはより多くの利点がある。
Y-9情報収集機は重要な軍用機として、アメリカの航空母艦に対する捜索作戦において重要な役割を果たしており、中国軍が強力な情報収集能力を持ち、常に敵の行動をコントロールしていることを示している。
同時に、中国軍の強さと決意を世界に示している」
中国人民解放軍の新型機は台東上空に円を描くために派遣され、日本は米国に警告を発した (baidu.com) 

この中国の「決意」とやらを背負ってY-9DZは堂々とわが国領空を侵犯しました。
飛行経路について、防衛省は淡々と飛行経路をアップしています。

当該機の飛行経路のを遠眼でみると、大陸から東シナ海を経て侵入しているようです。
たぶん北部戦区所属なのかもしれません。

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防衛省

このY9ZDは、2023年に台湾島の東の太平洋海域で米国、日本、フランス、カナダが共同で実施している海軍演習を監視し、情報を収集するために配備されました。
環球時報はこう書いています。

「台湾島の東に位置するこの海域は、台湾問題において重要な戦略的価値を持つ、なぜならそこから人民解放軍が島を包囲し、外国の軍事干渉の試みを拒否する可能性があるからだ、と匿名を条件に語った中国の軍事専門家は日曜日に環球時報に語った。
また、外国の干渉勢力がこの地域を支配することができれば、「台湾独立」分離主義者の勢力を支援することができると専門家は述べた」
(環球時報 2023年6月11日)
中国人民解放軍が新型偵察機を配備、米国と日本の空母が台湾島の東で演習を実施 - 環球時報 (globaltimes.cn)

Y9の任務は、台湾周辺の米空母打撃軍と海自艦隊を追尾・監視し、それを随時対艦ミサイル部隊に通知することだとされています。

「オブザーバーによると、中国人民解放軍は航空部隊に加えて、これまでにも遠洋演習のために空母群をこの地域に数回派遣しており、ロケット部隊は対艦弾道ミサイルで敵艦を標的にすることもできる。
専門家によると、外部勢力が台湾問題を利用して中国を挑発し、地域の緊張を煽るのをやめるべきだという」
(環球時報前掲)

この対艦ミサイルはYJ-62と呼ばれるもので、すでに北部戦区に配備されています。

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中国海軍、朝鮮半島方面を管轄する北部戦区にYJ-62対艦ミサイルを初配備か(高橋浩祐) - エキスパート - Yahoo!ニュース

ジェーンズによると、YJ-62は弾頭1発で排水量最大5000トンの船舶にダメージを与えることができるという。ミサイル推進システムは、中国製のWS500ターボファンエンジンと未公表の固体燃料ブースターモーターで構成される」
(高橋浩祐) - エキスパート - Yahoo!ニュース

ところで、中国のSNSの香ばしい反応が届いております。

「中国の短文投稿サイト微博(ウェイボ)には26日、中国軍情報収集機による日本領空侵犯を伝える日本や香港のメディア報道が転載された。海上自衛隊護衛艦が7月に中国領海を一時航行したことに触れ、領空侵犯は「報復だ」「よくやった」などと肯定的に捉える投稿が相次いだ。
中国外務省は海自艦の領海航行を巡り日本に抗議し、再発防止を要求。日本側が「技術的なミス」と説明したと明らかにしている」
(共同8月26日)
中国SNS、領空侵犯に「報復」「よくやった」 海自の領海一時航行と関連付ける - 産経ニュース (sankei.com)

日本も空自がスクランブルをかけても「よくやった、報復だ」なんてわけのわーらんことをいう奴はいなかったようですが、中国はあいかわらず脳が煮えていますね。
「報復だ」というのは、今年7月、海自の「すずつき」が中国艦艇の追尾・監視をしていて、一時的に中国領海に入ったことを指しているようです。

「関係者によりますと、7月4日の午前、中国東部 浙江省の沖合を航行していた海上自衛隊の護衛艦「すずつき」が一時、中国の領海内に入ったということです。
「すずつき」は当時、中国軍の訓練の監視任務に当たっていて、中国側から退去勧告を受け領海の外に出たということです。
各国の艦艇は、沿岸国の秩序や安全を害さなければ領海を通過できる「無害通航権」が国際法で認められています」
(NHK2024年7月11日)
海自の護衛艦 一時 中国領海を航行 防衛省がいきさつを調査 | NHK | 防衛省・自衛隊

刺激するのは本意ではないでしょうが、国際法上はなんの問題もありません。
いままで中国など既に2回も領海侵犯していますが、中国SNSの連中は知らないくせに「報復だ」などと叫んでいるのでしょうな。困った人たちです。
海警の領海外縁の接続水域侵犯など年中行事です。

領海侵犯は、2016年6月、中国海軍ドンディアオ級情報収集艦が口永良部島(鹿児島県)西の我が国の領海(吐噶喇(トカラ)海峡)を南東進して、海自に警告を受けています。
2回目は2017年(平成29年)夏に中国海警局の公船2隻が、対馬海峡、津軽海峡及び大隅海峡沿岸の我が国領海内を航行しています。

『中国軍艦による我が国領海内の航行』参照
海上自衛隊幹部学校 (mod.go.jp)

海自「すずつき」の事案は、完全に国際海洋法第17条が定めた無害通航に属します。
では、中国艦艇のケースはどうだったでしょうか。微妙なんです。
「有害通航」について国際海洋法はこう既定しています。

「(1)有害な活動
   外国船舶による領海の通航が、沿岸国の平和、秩序又は安全を害するとされる活動の具体例は以下のとおりである(条約19条2)。
 (a) 武力による威嚇又は武力の行使であって、沿岸国の主権、領土保全若しくは政治的独立に   対するもの又はその他の国際連合憲章に規定する国際法の諸原則に違反する方法によるもの
 (b) 兵器(種類のいかんを問わない。)を用いる訓練又は演習
 (c) 沿岸国の防衛又は安全を害することとなるような情報の収集を目的とする行為

はい、中国の領海侵犯した艦種は情報収集艦でしたね。
元来このような艦艇は非武装ですから、一見外から見ても大砲がやミサイルが動いてはいませんが、艦内ではさまざまな電子情報を採取し、自衛隊の動きを探っているのですから国際海洋法17条1Cの「情報収集」に属すると、わが国が断定してもかまわなかったのです。
「すずつき」事案は純然たる無害通航、中国情報収集艦はグレーゾーンというわけです。

では、領空侵犯についてみてみましょう。
領空侵犯にはそもそも「無害航行」という概念自体が存在しません。

原則では、軍用機が領空を侵犯したら、即落されても文句がいえません。
実際に、トルコは領空侵犯したロシア空軍機を撃墜しています。

「2015年11月24日9時20分頃、トルコとシリアの国境付近で、ロシア空軍のSu-24戦闘爆撃機がトルコの領空を侵犯したとして、トルコ軍のF-16戦闘機に撃墜され、シリア北部に墜落した。トルコ軍は国籍不明機2機が領空を侵犯したと認識し、10回警告したが領空侵犯を続けたため1機を撃墜したと主張している。Su-24の乗員2人が死亡したとみられる」
ロシア軍爆撃機撃墜事件 - Wikipedia

しかし一律に領空侵犯即落せとはならず、個別の国内法規に従って判断しています。
日本の場合、自衛隊法第84条がそれにあたります。

第84条 領空侵犯に対する措置
「防衛大臣は、外国の航空機が国際法規又は航空法(昭和27年法律第231号)その他の法令の規定に違反してわが国の領域の上空に侵入したときは、自衛隊の部隊に対し、これを着陸させ、又はわが国の領域の上空から退去させるため必要な措置を講じさせることができる」

この「必要な措置」にも順番があります。
過去の国会答弁に基づけば、(1)領空侵犯機の確認、(2)領空を侵犯している旨の警告、(3)領空外への退去または自衛隊基地等への誘導、(4)武器使用という、段階的な措置がとられます。
最後の「武器使用」には、信号射撃(警告射撃)は含まれず、本気で撃墜することが「武器使用」に相当します。
しかしこれが可能なのは、領空侵犯機が自衛隊機の警告や誘導に従わずに退去せず、さらに自衛隊機に対して実力をもって抵抗してきた場合にかぎられます。

そしてもう一つは、国民の生命および財産に対して大きな危険が間近に切迫している場合です。
たとえば、日本の領空を侵犯した爆撃機が爆弾倉を開いた場合には、地上に住む国民の命、財産に危険が差し迫っていると捉え、これに対して武器を使用することができます。
ところが実際にはこれも微妙なところで、ただ領土上空を通過しただけだと、警告射撃を実施しても従わず侵入を続けた場合でも自衛隊は撃墜していません。
実例としては、1987年にソ連爆撃機バジャー2機が沖縄本島上空を侵犯しましたが、警告射撃までで終了しています。
結局、ソ連の言い分の「計器の故障」で済ましています。
対ソ連軍領空侵犯機警告射撃事件 - Wikipedia

落せば国際紛争になるという決意がつかないのでしょう。
わからんではないですが、戦闘機では一瞬で奥深く侵入され、「爆弾倉の扉が開けば」なんて悠長なことを言っている間に、ミサイルなら前兆なしで発射されてしまいますがね。
今回は電子偵察機だったから「よかった」ですが、これが爆撃機なら悩ましいことになったことでしょう。
ぜひ、この判断の責任をパイロットに押しつけず政府がとりきって頂きたいものです。

蛇足ですが、日中友好議員連盟の二階翁たちが5年ぶりに訪中しているそうですが、こんなレームダッックを頂く国の終わった人が団長の議員が行っても屁のつっぱりにもなりません。
というか、こんな時期に訪中する必要はまったくありません。こちらが融和的態度に出たと思われるだけです。
行けば豪勢な飯を食わせてもらい、要人と握手してやくたいもない「友好的な」言質を取られて、足元を見られることがいいことなのかどうかちっとはわかりそうなもんです。
行く前日に領空侵犯されているのですから、その時点で政府は訪中を止めるべきでした。
少なくとも国際社会からは、張り倒されてもニヤニヤしながら「「旧交を温めることができるのは大変喜ばしいことです」なんて言っている奴がキングメーカーをやっていられる国と写ることでしょうな。

 

 

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