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2025年5月22日 (木)

トランプ式錬金術

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トランプが、ガザの惨状に眼を閉ざして自分の企業の営業に奔走し、あまつさえカタールから巨額のお土産まで手渡されたことに国内で批判が強まっています。
汚職を監視する米民間団体のCREWは、「大統領の名を冠した企業が外国政府と直接取引することになり、深刻な利益相反をもたらす可能性がある」と指摘しました。当然ですな。

中東で提携する不動産開発企業の親会社はサウジ政府で、中東によくある王族企業ですし、カタールの事業も似たような政府系企業です。
これらのプリンス企業がトランプとその一族を下にも置かないおもてなしをするのは、米国からの相応の「見返り」を期待しているからだというのは小学生でもわかります。

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トランプ氏「私を攻撃する者はみな消える」 本音と選挙戦略語る - WSJ

こうした批判に対し、キャロライン・レビット米大統領報道官は、「大統領はぜいたくな生活と不動産帝国を経営する人生を捨てて公務に就いた。実際には金銭的な損失を被った」と反論していますが、思わず苦笑してしまいます。
この人はまだトランプ幻想の信者なんですね。
今のトランプ政権はこんなゴマスリばかりで、本当に必要なはずのプロであるジョン・ボルトンやポンペオたちのような冷徹に国際情勢を透視できる人が皆無です。
彼ら1期の重要人物たちが残っていれば、プーチンとネタニヤフとの個人的関係に浸って、さんざん甘やかしたあげくウクライナとガザを解決不能の泥沼にしてしまうことはなかったことでしょう。

そもそもトランプは米国民にイメージさせているような「成功したビジネスマン」ではありません。
むしろトランプは倒産王です。
これらはカジノホテルです。大統領がカジノ王だというのもいかがなものかと思いますが、多くは倒産して破産申告しています。

1991年 トランプ・タージ・マハール(ニュージャージー州アトランティックシティ)
1992年 トランプ・プラザ・ホテル&カジノ(同)、トランプ・キャッスル・ホテル&カジノ(同)、プラザ・ホテル(ニューヨーク)
2004年 トランプ・ホテルズ&カジノ・リゾーツ
2009年 トランプ・エンターテインメンツ・リゾーツ

トランプはこれらの倒産について『ニューズウィーク』誌に「(債務減らしの道具として)破産法をうまく使っている」と発言しているそうです。
なかなか言える台詞ではありませんが、法律の抜け穴を使う、これがレビットが言うトランプが「ぜいたくな生活と不動産帝国を経営する人生」を得た秘密です。

「先に行われた第1回テレビ討論会で民主党候補のクリントン氏は、トランプ氏が税金を払っていないと攻撃した。これに対してトランプ氏は「自分が賢いからだ」と反論した。トランプ氏が所得税の支払いを免れたのだとしたら、損失による将来の課税所得の相殺を認めた「繰り越し損(NOL)」規定の活用が一つの道だ。米国の税法は有限責任会社、パートナーシップ、いわゆる「S法人」に対して不動産の減価償却や営業損失について個人としての所得申告を認めている」
(ロイター2016年10月4日)
コラム:トランプ氏「税金逃れ」のカラクリ | ロイター

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赤字のカジノ事業で儲けたトランプの錬金術 先週NYタイムズでもっとも読まれた記事 | The New York Times | 東洋経済オンライン

たとえば最初に出てくる1991年のアトランティックシティーのカジノ「タージマハル」は破産したものの、連邦破産法を巧妙に使って債務者である銀行に手を引かせて、出資者に債務を押しつけて納税負担を極小化させました。

「だがニューヨーク・タイムズがトランプのカジノ運営会社に関する規制当局の審査記録や裁判記録、証券取引委員会(SEC)への報告書を精査した結果、彼のカジノ事業は失敗の連続だったと言っても差し支えないことが判明した。アトランティックシティーのギャンブル産業は、長期的なビジネス環境の変化から低迷に陥った。自分のカジノ事業も同じだというのがトランプの言い分だが、実際には同市が不況に陥る前からトランプの事業はうまく行っていなかった」
(ニューヨークタイムス2016年6月17日)
赤字のカジノ事業で儲けたトランプの錬金術 先週NYタイムズでもっとも読まれた記事 | The New York Times | 東洋経済オンライン

それでも4回も破産申告して、とうとう91年には自己破産寸前にまで追い込まれていました。
ここでやったのが自分の財産と事業損失をわけて処理する方法です。
元々トランプは事業には自分自身の懐からはほとんど出資せず、個人的な債務をカジノに回したり、給与やボーナスその他の名目で巨額の金を受け取って「ぜいたくな生活と不動産帝国」を満喫していました。
そしてトランプの経営失敗のつけは投資家などの人々に回していました。

「トランプ氏は事業経営で過去に4回破産申請している。最初の申請は1991年で、アトランティックシティーのカジノ「タージマハル」が破綻し、個人的に保証していた8億3200万ドルを負債として抱え込んだ。タージマハルは連邦破産法11条の適用を申請し、トランプ氏も自己破産の申請に追い込まれかねなかった。トランプ氏は債権者に債務の再編を許されたが、ヨットの「トランプ・プリンセス」を売却せえざるを得なかった。
以来トランプ氏は、富裕層が納税負担を最小化している手段を用い、事業の損失と自分自身を遮断する取り組みを強めた。選挙活動費に関する公開情報によると、トランプ氏が関わっている有限責任会社、法人、パートナーシップは564社に上る」
(ロイター前掲)

この手口を繰り返すことでトランプは、倒産をくりかえしながら自分の財産だけ増えていくという錬金術を編み出しました。
なんか自分で小政党を作っては潰し、そのつど政党助成金をポッポに入れてきた小沢某を想起させます。

これがトランプが自慢する「ディール」戸やらの中身で、これを繰り返して自分だけに利益がころがりこむように話を仕立て上げていったわけでした。
1期めはうるさ方が大勢いたためにできませんでしたが、2期めは茶坊主ばかりなのでやりたい放題です。
今回の中東歴訪も同じことです。

トランプはまず個人的人脈を構築します。
トランプに気に入られれば何もかもうまくいく、濡れ手に泡のチャンスだと思わせるのは自分のカジノホテル経営と一緒です。
だから門前市をなす勢いで中東の王族はトランプに貢ぎ物を献上したのです。
トランプ・オーガニゼーションをやらせている次男のエリックは、カタールで同国初の高級ゴルフリゾートを建設する計画を発表させ、UAEのドバイでは、地上350メートル、80階建て、2000万ドル(28億6000万円)の悪趣味な「トランプタワー」建設を大々的に発表させました。

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ドバイのトランプタワー建設を853億円で発注、ナキール | 日経クロステック(xTECH)

またこれ以外にも、サウジを含む3か国で計6つの開発計画を進めています。
その見返りにトランプはカタールから4億ドル相当の金ぴかの「空とぶ王宮」を受領しました。

「民主党のチャック・シューマー上院院内総務はSNSで「カタール製エアフォースワンに乗ることが『アメリカファースト』なのか」と述べ、「単なる賄賂を超え、プレミアム級の外国の影響力行使だ」と批判した。民主党のアダム・シフ上院議員(カリフォルニア州)もSNSを通じて「明らかな外国収益禁止条項違反」であり、「露骨な腐敗だ」と一蹴した。
これに対し、ホワイトハウスのキャロライン・レヴィット報道官は「外国からの贈り物は常に関連法を完全に遵守して受け入れられる」と反論した」
「断る方が馬鹿だろ」カタール製ジャンボ機贈与にトランプ開き直り…民主党は「露骨な賄賂」、「国辱」と猛反発! 

2025年5月21日 (水)

10.7テロはサウジとイスラエルの国交正常化阻止が目的だった

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ウォールストリートジャーナルのスクープです。
ちょうど首謀者のシンワル兄(シンワル)に続いて弟(ムハンマド)も死亡した時を見計らったように、イスラエル軍が発見したハマスの秘密分子いが公開されました。


ヤヒム・シンワル
https://www.wsj.com/world/middle-east/israeli-military-says-it-is-investigating-if-it-killed-hamas-chief-sinwar-98b5e34b?mod=article_inline


シンワル兄弟はハマスの政治・軍事部門の指導者として10.7テロの首謀し、この数カ月停戦が模索された交渉の間、一貫して人質解放を拒んできました。
よくシンワル兄弟がいなくなると、交渉窓口がいなくなるという人がいますが、彼らこそ人質解放を渋りに渋って、戦闘を続けた張本人です。
彼らにとって、ガザ市民の犠牲者が増えれば増えるほど自らの政治的立場が強化されるといいう冷酷な判断があったはずです。
ネタニヤフは知ってか知らずか、ハマス最強硬派を喜ばせることばかりしています。

シンワルは組織幹部に向けたメールでこう言ってのけています。

「シンワール氏は最近、カタールおよびエジプト当局との合意を仲介しようとするハマス幹部へのメッセージで、「イスラエルはわれわれが望むところにいる」と語った。
ガザ地区南部ではイスラエル軍とハマス部隊の戦闘が続き、人道支援物資の輸送が滞ったり、民間人の犠牲者が増えたりしていることから、ハマスの根絶を目指すイスラエルに対して国際的な批判が高まっている。
シンワール氏の政治人生の大半は、自らが存在権を否定するイスラエル国家との血なまぐさい対立によって形作られてきたが、同氏はシンプルな戦略を堅持している。窮地に追い込まれると暴力に逃げ道を求める、というものだ。現在のガザでの戦いも例外ではない」

エクスクルーシブ |ハマスは10月7日の攻撃でイスラエルとサウジアラビアの取引を魚雷攻撃したかった、文書が明らかに - WSJ

イスラエル軍は、ガザ地区付近の町オファキムで射殺されたハマス隊員からも地形地物を詳細に整理した文書を発見しました。
この文書には、民間人居住地域、ユダヤ教会堂、幼稚園まで特定されていた。「北部小隊の経路」として町の位置に沿って赤い点線を描いた地図も見つかっています。

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秘密文書の中で、最も重要なのはアラビア語で「一級秘密(トップシークレット)と題した14枚分の作戦計画書でした。
この文書には、ガザ地区境界付近のメファルシム・キブツ(農業共同体)に浸透して住民を拉致するという作戦が記されていました。
民間人の人質をとる目的は「交渉に使うため」だと記してあります。

では、ここまで大規模なテロを働く目的はなんだったのでしょうか。
彼らはこの大規模テロが、中東の政治情勢に大きな打撃を与えて、一気に彼らが望むような政治地図に塗り変わることを意図してきました。

これについて2023年10月2日のハマス指導部会議の議事録で、ヤヒア・シンワルはこう嘆いて見せています。

「サウジとシオニストの正常化合意が大きく進展していることに疑いの余地はない。
サウジとイスラエルの国交正常化合意は「アラブ諸国とイスラム諸国の大多数が同じ道を歩むための扉を開くことになるだろう。
この動き(サウジとイスラエルの国交正常化)の前に、『普通ではない行動』が必要である」」
(WSJ前掲)

常々テロと暴動を手段としてきたハマスでさえためらうような「普通ではない行動」、これが10.7無差別テロだったわけです。
つまり、このテロのメッセージがむけられていたのは、イスラエルであるよりむしろサウジだったようです。
ハマスはこのテロで、サウジにイスラエルとの国交回復を断念させようとし、それにほぼ成功しました。

10.7テロの反撃として行われたイスラエルによる常軌を逸した攻撃により、ガザ市民の犠牲者は膨大に積み上がり、中東諸国もイスラエルと国交回復する空気が雲散霧消してしまったのです。
いわばハマスの術中にネタニヤフはしっかりはまってしまったわけです。愚かな。

その意味で、ハマスの10.7テロは「成功」したのです。

 

2025年5月20日 (火)

いいかげんにしろ、ネタニヤフ

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トランプが帰国したのを見極めたかのように、イスラエル軍が大規模なガザ侵攻を再開しました。
まぁ、ガザリゾート計画の提唱者が中東にいるときにやったら、いくらなんでも面当てにしか見えませんしね。

「イスラエル国防軍は、ガザ地区での「ギデオンの戦車」と呼ばれる大規模な攻勢の第一段階を開始したと述べている。
「先日、イスラエル国防軍は、ギデオンの戦車作戦の開始とガザでの作戦の拡大の一環として、ガザ地区の戦略的地域を占領するために大規模な攻撃を開始し、軍隊を動員した。これは、人質の解放とハマスの打倒を含むガザでの戦争のすべての目標を達成するためである。」と軍は声明で述べています。
「南方軍のイスラエル国防軍部隊は、イスラエル国民を保護し、戦争の目標を実現するために活動を続ける」と軍は付け加えている。
イスラエル当局者によると、ギデオンの戦車攻勢は、イスラエル国防軍がガザを「征服」し、領土を保持することになるという。パレスチナの民間人をガザ地区の南に移動させること。ハマスを攻撃する。そして、テロ集団が人道支援物資を支配するのを防ぐ」
(タイムズ・オブ・イスラエル5月16日)
イスラエル国防軍は「戦略的地域を掌握している」と述べ、「ギデオンの戦車」と名付けられたガザの新たな大規模攻勢の第一段階を開始 |イスラエルのタイムズ

「ギデオン」とは、旧約聖書の士師に出てくる「破壊者」という意味だそうです。
趣味悪い。
停戦と復興と平和を考えねばならぬこの時期になっても、まだ破壊者はないでしょう。
状況判断のパラメーターがイカレているとしか思えません。
ギデオン - Wikipedia

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イスラエル、ガザで大規模な地上作戦開始 停戦協議の再開直後、18日だけで135人死亡 - 産経ニュース

Times of Israel がカタールのメディアからとして伝えているところによると、とりあえず、アメリカの監視の元、2ヶ月停戦とし、その間に、恒久的な停戦について話し合われる方向で交渉が進んでいるそうです。
この間に解放される人質は10人で、引き換えに、イスラエル側が解放するパレスチナ人囚人は、200から250人になるとのこと。
イスラエル当局者は、これは最低限であり、ハマスがこれを受け入れないなら、さらに激しいガザ攻撃が続くだけだと言っています。
で、今回の「ギデオンの戦車作戦」は、さらにハマスに人質を返すようにさせるための攻撃ということになるようですが、逆効果もいいところです。

ハマスが人質を返さない理由はただひとつ。怖いからです。
警官隊に包囲された立て籠もり犯の心理と一緒で、人質を全員返したら楯がなくなって皆殺しにされると考えているからです。
だから、釈放した後に、二度と攻撃しないことを約束しろと叫んでいるのです。
ただし、ネタニヤフの思惑は、ここでハマスを根絶することにあるので、むしろハマスが頑強に人質を釈放しないことのほうが好都合です。
爆撃の口実ができますからね。
ですから、この状況を打開するにはハマスが全面無条件降伏をするか、ネタニヤフがハマス殲滅を放棄するかどちらかしかないわけです。

今、残る人質の生存者は21人だと推測されています。
イスラエル国内では、毎週土曜、安息日明けのデモが行われており、ハマスはこれを最大限政治的に利用して、これに合わせて人質のビデオを公開しています。
そのビデオには2名の男性人質が写っており、ぐったりした人質がもうひとりの横たわった者が「もうなにも食べられなくなっている」、と訴えています。

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人質生存者は3人減って21人か:ハマスが新たなプロパガンダ映像 2025.5.12 – オリーブ山通信

実に悪魔的な映像です。
これを撮っているのは拉致して監禁しているハマスなわけで、ならば降伏して人質を釈放すればよいだけのことです。

一方イスラエルも、今や誤った方向に突っ走っています。
イスラエル軍のハガリ報道官ですら、去年6月の段階でこう述べています。

「イスラエル軍の報道官が地元テレビのインタビューでイスラム組織ハマスについて「ハマスは思想であり、完全に排除できると考える人は間違っている」などと述べ、壊滅は不可能だという認識を示しました。これに対し、イスラエル首相府は軍は政府の方針に従うべきだとする声明を発表し、地元メディアはネタニヤフ政権と軍との間で緊張が生じていると伝えています。
イスラエル軍のハガリ報道官は19日、地元テレビのインタビューで「ハマスを壊滅、消滅させるという任務は人々に真実を見えなくさせる。ハマスは人々の心に根づいた思想であり、ハマスを完全に排除できると考える人は間違っている」などと述べ、ハマスの壊滅は不可能だという認識を示しました。
また、ハガリ報道官は「すべての人質を軍事作戦で取り戻すことは不可能で、ほかに帰還させるシナリオを見つけなければならない」とも述べたということです」
(NHK2024年6月20日 )
イスラエル軍報道官 “ハマス壊滅は不可能” 政権と軍が緊張か | NHK | イスラエル

この認識はイスラエル軍の情報関係の共通した認識のようで、似た趣旨の発言はなんどもなされていますが、ネタニヤフ政権はまったく耳を貸そうとしていません。

「首相府は声明を発表し「ネタニヤフ政権は戦争の目的の1つにハマスの軍事力、統治能力を破壊することを掲げている。それに従うことが軍の義務だ」として強い不快感を示しました」
(NHK前掲)

 要は、ハマスを物理的に徹底殲滅するのが目的だということのようで、そんなことが不可能だと軍が言っているのがどうしてわからないのか。
先に死亡したシンワル兄(ヤヒヤ)に代わってハマスを指揮しているとみられるシンワル弟(ムハンマド)も死亡したと報じられています。
シンワル弟が今のハマスの最高指揮官のようです。

「イスラエル軍は13日、イスラム組織ハマスの最高幹部ムハンマド・シンワル氏を標的にパレスチナ自治区ガザ地区南部の病院を攻撃した。イスラエルの高官や情報筋が明らかにした。
ムハンマド氏は、昨年10月にイスラエル軍に殺害された当時のハマスの最高指導者ヤヒヤ・シンワル氏の弟。ヤヒヤ氏の死後、ムハンマド氏はハマスの事実上の指導者となっている」
(CNN5月14日)
イスラエル軍、ガザの病院を攻撃 ハマス最高幹が標的 - CNN.co.jp

このシンワル弟への攻撃もガザの病院を標的にしており、いかにハマスが人間の楯を使っているからといって、もうこのような再三再四に渡る非人道的攻撃には目を覆いたくなります。
仮にこうしたことがハマスの攻撃を一時鈍らせることがあったとしても、必ず生き残った者から次の指導部が生まれ、新たな戦闘部隊をつくるでしょう。
なぜならハガリ報道官が言うように、「ハマスは人々の心に根づいた思想であり、ハマスを完全に排除できると考える人は間違っている」からです。
ハマスの思想そのものは非実体であり、肉体が滅びても生き続けます。

思想とはそのようなものだと、ハマスらと長年戦い続けているイスラエル軍は分かっているのです。

ネタニヤフは、かつてのようにイスラエルがガザを直接軍政下におくことを目論んでいるのでしょう。
ネタニヤフは都合よく1967年の第3次中東戦争を経て、イスラエルがガザを2005年まで占領し、その間ガザにイスラエル人の入植地を作り続けたことを忘れたようです。
これがうまくいったかと言えば否です。
イスラエル軍を圧制者と見たパレスチナ人は常に暴動を起こし、治安はまったく安定しませんでした。
そのために1993年にパレスチナ自治政府を認めて、自治権を与えるオスロ合意がとなったのです。
しかしこれも自治政府である、旧PLOの極度の腐敗から、ハマスにとって代わられることになります。
おそらく今回二度目のガザ軍政を敷いたとしても、結果は似たような結末になるはずです。

一方、いままでネタニヤフの無条件な支持者だったトランプは変心を開始しています。

「今週のトランプのサウジアラビア、カタールとアラブ首長国連邦への4日間の慌ただしい歴訪は、儲かる投資によって特徴づけられる単なる外交上の見世物以上のものだった。
それは、新たなスンニ派主導の中東秩序の出現を封印した - それはイランの粉々になった「抵抗の枢軸」を覆い隠し、イスラエルを脇に追いやるものだと、三つの地域と二つの西側の情報源は言う。
イスラエルがガザでの停戦に至らなかったことに対するワシントンの苛立ちが高まる中、トランプの歴訪は、大統領が1月に大統領に復帰した後、ワシントンを訪問した最初の外国指導者である米国の親密な同盟国であるネタニヤフにとって冷遇的だったと、その情報筋は語った。
トランプのイデオロギー的ではなく、より結果重視の中東外交のビジョンでは、ネタニヤフはもはや彼の右翼のアジェンダに対するアメリカの無条件の支持を当てにすることができなかった、と情報筋は語った。(略)
しかし、トランプ政権は、ネタニヤフに、アメリカは中東で独自の利益を持っており、彼がその邪魔をすることを好まないというメッセージを伝えたかった、と情報筋は付け加えた」
(ロイター5月18日)
トランプ大統領の湾岸歴訪、中東外交地図を一新 |ロイター

明日詳報しようかと思いますが、WSJによると、ハマスは2022年9月29日の極秘会議で、アラブ諸国とイスラエルの国交正常化が「パレスチナの大義」にとって深刻な脅威となるということを話しあい、10月7日の大規模テロに踏み切ったようです。
つまり第1次政権の時の遺産であるアブラハム合意をハマスは恐れていたわけです。
トランプはこの中東歴訪でいっそうサウジ主導を盛り立てました。
いままでイスラエルしかなかった米国の外交拠点がもうひとつ増えたのです。

一方、あまりに頑迷なネタニヤフにトランプは匙を投げています。
ですから彼が訪米したときは、面会しないことで不快感を伝えました。
そもそもトランプは実利があるかなしかが判断基準の男です。

イスラエルは支援を要求するばかりでなんの富も産み出さない、新たな同盟国であるサウジ、カタール、UAEは新しい事業で米国に富をもたらす、そう考えているようです。

ちなみに、今回の歴訪でカタールには米国製武器を売りつけたようです。

「トランプ大統領は、14日にカタールと締結した防衛装備品調達契約は420億ドル相当と明らかにした。このほかカタール航空のボーイング機購入契約も締結した」
(ロイター5月15日)
トランプ氏、UAE到着 カタールでは米軍基地への100億ドル投資を歓迎 | ロイター
カタールはハマスのスポンサーですが、こんな国に武器を売ってよいのかとおもいますが、理念ではなくマネーがトランプなのです。
続いてUAEでは、いままでバイデン政権で禁止されていたAIチップ輸出を認めて、中東半導体パワーセンター構想に協力するとのこと。
「その後トランプ氏は、3番目の訪問国アラブ首長国連邦(UAE)に到着。アブダビ国際空港でムハンマド大統領の出迎えを受け、シェイク・ザーイド・グランド・モスクを訪問した。
ロイターは14日、米政府が暫定的な合意として、UAEが今年からエヌビディア(NVDA.O), opens new tabの最先端人工知能(AI)用チップ50万セットの輸入を認めると伝えた。
トランプ大統領の歴訪の最終行程ではAIが焦点となる見通し。バイデン前政権下では、中東などへの米国製AIチップの輸出に厳しい制限を課していた。トランプ大統領は、一部湾岸諸国との関係改善を政権の重要な目標に掲げている。湾岸諸国、特にUAEで提案されている半導体関連の取引がすべてまとまれば、AI競争において同地域は米国、中国に次ぐ第3のパワーセンターになる可能性がある」
(ロイター前掲)

ベタベタに甘い贈り物です。
一方、イスラエルには立ち寄りもせずにパスでした。

 

 

 

2025年5月19日 (月)

ユーはナニしに中東へ

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トルコで開かれたウクライナ-ロシアの高官級会談はなんの成果もありませんでした。
ウクライナ側は半数以上が迷彩服を着用し、ロシア側とは握手もしませんでした。
これが被侵略国の矜持というやつです。
内容的には、成果は捕虜交換で、互いに1000人が還って来ることになります。

「協議は2時間にも満たずに終了し、すぐに深刻な対立が表面化した。ウクライナ政府関係者によると、ロシアは「新たかつ受け入れがたい要求」を突きつけたという。その中には、ウクライナが自国領土の広範囲から部隊を撤退させることと引き換えに、停戦を実現するという内容も含まれていた。
予想された通り、停戦という重要な課題に関しては進展がなかったが、具体的な成果が一つ報告された。
両国は今回、互いに1000人の捕虜を返還することで合意した」
(BBC5月17日)
ロシアとウクライナが対面協議も大きな溝、捕虜1000人ずつ交換で合意 - BBCニュース

ふざけたことには、ロシアは「ウクライナ軍の自国領土からの撤退」すらテーブルに乗せる有り様で、停戦などする気はいささかもないことを満天下に示しました。
捕虜交換に応じたのは、EUの第18次制裁を回避するためにすぎません。

一方、トラ親方は例によって、自分を中心に世界は回っているようです。

「両国が同じテーブルに着いた一方で、アメリカのドナルド・トランプ大統領は、「意味のある協議は、自分とプーチン大統領の間で行われるものだけだ」と発言した。
トランプ氏は15日、大統領専用機エアフォースワンの機内で、「プーチンと自分が会談するまでは、何も起こらない」と述べた」
(BBC前掲)

なにをおっしゃる兎さん、プーチンはとっくにトラ親方の足元を見ていますよ。
米国はなにもしない、なにひとつできないということをプーは見切っています。
何度も書いてきていますが、プーチンは力の信者です。
絶対的に戦闘継続が不可能になるまで戦闘を継続しつづけることでしょう。
だからあいつに戦争を止めさせるには、戦争経済を継続する国家財政を破綻させるか、軍隊を壊滅させるしかないのです。

ところで、トラ親方は中東歴訪しに行ってました。
というわけで、すいません、アホンダラさん、気を悪くしないでください。またトランプ話です。
本来、今行くべきはイスラエルで、ネタニヤフに停戦合意を破るんじゃないぞと釘を刺すことだったはずです。
しかしイスラエルはパスして寄りもせず、なにをしに行ったのかといえば、ひとつにはシリアと手打ちをするのが目的です。

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BBCニュース

「ドナルド・トランプ米大統領は14日、シリアのアフメド・アル・シャラア暫定大統領とサウジアラビアで会談した。トランプ氏は会談後、自らの政権がシリアとの国交正常化の可能性を模索していると明らかにした。
シリアでは昨年12月、シャラア氏が率いる「ハヤト・タハリール・アル・シャーム(HTS、「シャーム解放機構」の意味)」が中心となってバッシャール・アル・アサド政権を打倒。暫定政府が立ち上がっている。
数カ月前には想像もできなかった今回の異例の会談は、37分という短時間ながらも重要な意味を持った。
トランプ氏は会談後、シャラア氏について「彼には可能性があると思う」と語った。
トランプ大統領は、シャラア大統領(42)が、混乱のシリアを多様性に寛容な国にしようと試みていることを評価し、それにチャンスを与えてもいいと語った。しかし、背後で、アメリカへの膨大な投資を約束したサウジアラビアと、トルコの要請であったと言われている」
(BBC5月15日)
トランプ米大統領、シリアのシャラア暫定大統領と会談 国交正常化を示唆 - BBCニュース

確かにアサドがいたら話にもなりませんが、アサドの後ろ楯となり、亡命した今も彼を匿っていたのはトラ親方の親友のプーチンですぜ。
まぁ、それは今はいいっこなしにしても、いまでもロシアの空軍と海軍の基地は置いているはずで、どうするんでしょうね。

このシリアとの会談が開かれたのがリヤドだったことからもわかるように、この会談自体ビン・サルマン皇太子がセットアップしたもので、これにトルコのエルドアンが協力したものです。
エルドアンがでてくるのは、シリアにクルド人武装組織キャンプがあったりするからです。
経済制裁を解除する条件として、シリア領内からパレスチナ人テロ組織と、すべての非シリア人戦闘員の国外追放が入っています。
これで一気にいままでイランの舎弟だったシリアを、サウジ主導の側に引き寄せるということのようです。

しかしこの不安定きわまるシリアに、ここまでノリでのめり込んでいいのでしょうかね。
シャラアは元アルカイダで米国からテロリスト指定されている人物です。
シャラアはシリアのアルカイダのリーダーで、大量の戦闘員を抱えて部下には自爆テロを実行させてきた人物です。

当時のコードネームは「ゴーラーニー」といい、シリア内戦の中でのいきさつから反アサド側に走っただけのことです。
いまでもアルカイーダとは絶縁したといいながら、イドリブ周辺を支配する旧アルカイーダの武装組織を持っています。
よくいっても一国の指導者というより、山賊の類です。
こういうタイプの人物を一目で気に入り、「可能性がある」とまで言っちゃうのが、さすがはノリとひらめきの男トランプです。

ところでトランプが中東に前のめりなのにはわけがあります。
今度の中東歴訪も、ちゃっかり自分の商談もまとめてきているのです。

「米国のトランプ大統領が就任後初の本格外遊として2025年5月13~16日に訪れる中東3か国(サウジ、カタール、アラブ首長国連邦:UAE)、は、トランプ氏一族のビジネスと密接なつながりを持つ。一族が事業を急拡大させている地域への優先的な訪問は、利益相反や公私混同との批判を浴びている。
一族の中核企業「トランプ・オーガニゼーション:The Trump Organization」で取締役副社長を務める次男エリック氏は4月下旬、トランプ氏の訪問に先立って中東を訪れた。カタールでは、同国初の高級ゴルフリゾートを建設する計画を発表。
アラブ首長国連邦(UAE)のドバイDubaiでは、地上350メートル、80階建て、2000万ドル(28億6000万円)の「トランプタワー」建設を大々的に発表した。同社はサウジアラビアを含む3か国で計六つの開発計画を進めている。世界中に資産を持つ同社は、ホテルやゴルフ場に「トランプ」の名前を利用する権利を与え、報酬を得ている。オイルマネーが潤沢な中東は、事業を急拡大させている重要地域だ」
(ブルームバーク4月30日)
Trump Firm Sells Dubai Penthouses for $20 Million in Gulf Push - Bloomberg

その中東訪問の直前には、次男エリックが現地に入っています。
ドナルド・トランプには3度の結婚歴があり、子どもが5人、孫が10人います。
奥さんは全員高身長のスラブ美人で統一しています。

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トランプ・ファミリーを総まとめ! 子供や孫まで総覧

「一族の中核企業「トランプ・オーガニゼーション」で取締役副社長を務める次男エリック氏は4月下旬、トランプ氏の訪問に先立って中東を訪れた。カタールでは、同国初の高級ゴルフリゾートを建設する計画を発表。アラブ首長国連邦(UAE)のドバイでは、地上350メートル、80階建ての「トランプタワー」建設を大々的に発表した。同社はサウジアラビアを含む3か国で計六つの開発計画を進めている。
世界中に資産を持つ同社は、ホテルやゴルフ場に「トランプ」の名前を利用する権利を与え、報酬を得ている。オイルマネーが潤沢な中東は、事業を急拡大させている重要地域だ」
(読売5月14日)
ドバイに「トランプタワー」、カタールで高級ゴルフリゾート…米大統領親族企業が中東で大規模ビジネス : 読売新聞

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読売新聞

2016年の大統領選以降、トラ親方はトランプ・オーガニゼーションの経営からは退陣した形にして、長男トランプジュニアと次男のエリックに運営を任せていますが、親父はしっかりとトップ営業しているわけです。
しかしこの中東世界では、大手不動産開発企業は当該国政府の支配力が強いのは知られています。

今、サウジは不動産業が加熱していますが、それはサウジ政府の国家開発計画が青写真を描いているからです。

「長期的な成長と国際的な成功は、サウジアラビアの不動産市場に対する野心の中核をなすものです。これは、一つには、サウジアラビア当局が、居住用住宅販売市場への民間セクターの貢献増大を求めるサウジアラビアの「ビジョン2030」国家開発計画を実現する上で、また経済の着実な成長を確保する上で、不動産の重要性を長いこと意識してきたことによります」
サウジアラビアのダイナミックな不動産市場 | アブドゥル・ラティフ・ジャミール

このような政府主導で進められている中東不動産開発にトランプの名前を冠した企業が関わるのは利益相反を疑われてもいたしかたありません。
そのうえカタール政府から4億ドルもの航空機をプレゼントされてしまっては、なんともかとも。
中東の王族たちはトランプというギトギトの人物をよく研究しています。
極度にトラ親方はカネに弱いのです。そしてに気に入られたければ、貢ぎ物を持っていけばすんなり気に入ってもらえます。

それもわかりやすくピカピカで高いモノが大好き。
ピカピカのトランプタワーで王侯貴族を気取るのが大好きな人なんですよ。
こういうかんじですね。ウォー、絵に描いたような田舎成り金絵図。

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NYにある、不動産王ドナルド・トランプのゴージャス過ぎるペントハウスを公開!

「中東歴訪中のトランプ米大統領が、訪問先のカタールから「プレゼント」されると報じられた航空機を新たな大統領専用機(エアフォース・ワン)とする意向を示していることが、物議を醸している。安全上の問題のほか、外国から高価な贈り物を受け取ることによる法的・倫理的問題も取り沙汰されている。
問題となっているのは、カタールの王族が所有する約4億ドル(約600億円)相当のボーイング747-8ジャンボジェット機。複数の寝室や浴室、ラウンジなどを備え、「空の宮殿」とも呼ばれる」
(産経5月14日)
トランプ氏へのカタールの〝贈り物〟で物議 「空の宮殿」を大統領専用機に改修意向 - 産経ニュース

というわけで、今後世界各国は、カタールから「寄付」されたピカピカの「空の宮殿」に乗ってくる合衆国大統領をお出迎えすることになるようです。げっそり。

中東については大きなシフト転換をはらんだことなので、次回に続けます。

 

 

2025年5月18日 (日)

日曜写真館 バラモンの如くに黄菖蒲咲きにけり

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夏きたるかの堀切の菖蒲も見む 安住敦

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夜の菖蒲までは束の間せめて手を 林朋子

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打ちまじり咲きけり菖蒲燕子花 政岡子規

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いねてより菖蒲の匂ひ思ひ出す 細見綾子

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夜の菖蒲までは束の間せめて手を  林朋子

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よき年のよき日生れたまひ菖蒲葺く 山口青邨

 

 

2025年5月17日 (土)

経済学を知らないトランプ翁

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トランプはちゃんとした経済学を学ばないで大統領になってしまいました。
だから、中小企業のワンマン社長の体質のままでジジィとなり、自分の経験とノリで大統領をやっています。
似た体質は盟友イーロン・マスクもそっくり同じモノを持っていて、企業のオヤジ体質で連邦政府の「無駄」を切りまくりました。
マスクがやったことなど、かつての民主党政権時にレンポーのやった事業仕分けと同質です。
これを諫止すべきホワイトハウスのブレーンときたら、トラ社長に忠義一筋ですから怖い。
ホワイトハウスとバランスすべき議会は、ハリスの大敗北から立ち直れずにヘタレていますから、今の米国は転覆するまで突進する機関車みたいなもんです。

そのトランプ御大が就任早々言い出したのが「オラの国は搾取されているべぇ。世界の国がオラの国からカネ盗んでるから貿易赤字になるッペ」でした。
世界一のGDPを持ち、繁栄している国の大統領が言うのですから、なんのことだかわからずに、世界が呆然としているとやにわにやりだしたのが世界関税戦争ですから、なにがなんだか。

昨日も紹介したウォールストリートジャーナルの社説は、はこう評しています。

「トランプの知的問題のひとつは、貿易赤字の解消にこだわっていることだ。貿易赤字は経済的観点から問題視されるものではない。さらに、同盟国との間に通商問題があったとしても、それは2国間あるいは多国間のディールで解決できる。
国際貿易の最大の問題は、中国の権威主義的政権による自由貿易ルールの悪用だ。しかし、トランプの場当たり的で、手当たり次第の関税政策は、この問題の解決につながらない。トランプは、中国共産党を打撃する以上に、自身の掲げる大義と米国を痛めつけている」
(WSJ4月10日)
Does Trump Have a China Trade Strategy? - WSJ

どうやら貿易赤字=カネ盗られたと思っているみたいです。
しかし貿易赤字はWSJが指摘するように、そんなに悪いことではありません。
むしろ自国の消費があまりに盛んなので外国から買っているだけのことで、富裕国の証明みたいなもんですから自慢してもいいくらいです。
米国は、GDPの約7割を消費が占める消費大国です。これは世界最大の個人消費国ということで、今回の関税交渉の相手国中国などは4割ていどです。
個人消費が米国経済を活性化させ、世界でもっとも繁栄を謳歌できる国にした原動力となったのです。
かつて半世紀前には米国も貿易黒字国でした。
まだ米国のビッグスリーやUSスチールなどが君臨していた時代のことです。
ちょうどトランプの若い頃にあたりますが、その時代には追いついて来る日本製自動車産業と熾烈な競争を行い、下の写真のようにデトロイトで日本車をぶっ壊してオダを上げていた時代でした。
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プラカードにUAW(全米自動車労組)と見えるように、当時は日本の自動車産業が米国労働者の雇用を奪うと考えられていたのです。
そして80年代の貿易摩擦から学んだ日本は、生産を米国内へとシフトしていきます。

下図のようにいまや海外生産(赤)が国内生産(青)をとうに追い抜き、2018年には国内生産数が1000万台弱に対して海外生産数は2000万台弱と、ほぼ2倍の水準に達しています。
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日本車はその技術力と価格、そしてなによりその高い信頼性によって、たちまち米国経済の一角に根を下ろします。
そしてその相当数は、メイドインUSAの日本ブランドなのです。
そしてそれだけでも足りずに輸入しているから、こりゃ貿易赤字になりますよね。
その背景にあったのは3つの要素です。
「米国の貿易赤字の背景には、旺盛な消費によって消費財の輸入規模が大きいことが挙げられます。
さらに、米国のような先進国は、国際的な信用力の高まりから通貨高になる傾向にあること。
賃金を始めとする生産コストが上昇すること等を背景に、製造業の競争力が低下します。
それが、輸出の減少・輸入の増加を招き、赤字の要因となります」
(第1生命経済研究所斎藤まな)
このように書いてくると、トランプは見ろ、米国からカネが出っぱなしじゃねぇかと言うかもしれませんが、それはミクロ(小さい目)しか見ないからです。
マクロ(大きい目)で国際収支を見るとまったく違います。
トランプはミクロという会社経営の見方で米国経済を見て、大きくマクロに国際収支を見ていないから困るのです。
ちょうど日本の増税派が「日本の借金は世界一。孫子の世代にツケを回すな」と言っているようなもので、財政をトータルな収支バランスで見ないのと一緒です。
極端なことを言う時には自分に都合のいい部分だけ切り取って、そこだけを誇張して叫ぶというプロパガンダ的手法です。
トランプの場合はこれが貿易赤字でした。
国際収支は2つの部分からできています。
ひとつが経常収支で、単純化すると日常的な商取引で発生するカネの流れのことで、ここにトランプが騒ぐ貿易収支が入ります。
もうひとつが、金融収支といい投資や融資に関わるカネの流れを指しています。
これは工場建設などの直接投資、株式や債券の売買、銀行の貸し借りなどが入ります。

「アメリカは日本から多くの自動車や電子機器を買う一方、日本へ売るものは少ないため「貿易赤字」が発生します。
さらに、日本企業がアメリカに投資した資産(工場、株式など)から得る収益が、アメリカが日本に投資して得る収益より多いため「アメリカは所得収支も赤字」になります。
では、この「出ていくお金」はどうバランスが取れるのでしょうか?
答えは「投資」です。
日本からアメリカへの投資(アメリカ国債の購入、工場建設など)による資金流入が、アメリカの経常赤字を埋め合わせます。
このように国際経済では、モノやサービスの取引(経常収支)と投資(金融収支)が常にバランスを取り合う仕組みになっています」
貿易赤字とは?貿易赤字について出来るだけ分かりやすく説明してみる|Kei | MBA| 元銀行員

図にするとこうなります。

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Kei | MBA| 元銀行員

日本は確かに米国にモノを売って経常収支を黒字にしていますが、その分米国に工場建設や米国債を購入したりして米国にちゃんと還流させています。
つまり、貿易赤字によって米国から出ていったカネは、日本からの米国への投資という形で再び米国に戻ってきているのです。
これが「国際収支のバランス」という国際経済のバランス機能です。
実はこのていどのことは、学生時代に経済の授業で習う経済学の初歩なのですが、トランプは不動産売買しか学んできていなかったとみえます。

だから貿易赤字だからといってワーワー騒ぐほうがどうかしているので、トラ関税発動前に日本から米国に行った孫氏などが盛んに米国に投資すっからと言っていたのはこういう意味でしたし、日本政府が米国債を売る気がないと言ったのも同じく「国際収支のバランス」機能を見ての発言なのです。

ウォールストリートジャーナルはこう言います。

「貿易赤字自体が悪ではない。特にそれを2国間で均衡させよう、モノの貿易だけ均衡させようという考え自体が間違っている。
国は、ある国に対しては赤字、他の国に対しては黒字となり、グローバルで均衡を図っていくべきものだ。さらに、貯蓄なども含めて、マクロ的に考える必要もある。
米国の貿易赤字は、サービスの黒字や世界から流入する投資で埋め合わされている。トランプ政権は、経済は単なる積み重ねではなく、成長する生き物として、グローバルに、しかもダイナミックなものとして理解すべきだ」
(WSJ前掲)

そして「最大の問題は、中国の権威主義的政権による自由貿易ルールの悪用だ。トランプの場当たり的で、手当たり次第の関税政策は、中国問題の解決につながらない」と主張しています。
まったくそのとおりで、ホワイトハウスにポール・クルーグマンでも呼んで話を聞いたらいかがでしょうか。
あ、クルーグマンのほうがあんな無知蒙昧・粗暴野卑の巣窟に来たがらないか。

 

※扉写真 コウノトリです。

 

2025年5月16日 (金)

米中、自由主義圏の頭越しに手打ち

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米中が関税交渉で手打ちをしてしまったようです。

「アメリカと中国は、スイスで行われた貿易協議での合意を受けて、日本時間の14日午後1時すぎ、これまで互いに課していた追加関税を115%引き下げました。引き下げた関税のうち、24%については撤廃ではなく90日間の停止となっていて、両国は今後、アメリカが求める貿易赤字の解消などに向けて協議を進めることになります。
アメリカと中国は、今月10日から2日間、スイスのジュネーブで行った協議の結果、互いに課していた追加関税を115%引き下げることなどで合意しました。
これに基づき両国は日本時間の14日午後1時すぎに関税を引き下げ、アメリカのトランプ政権による中国への追加関税は145%から30%に、中国によるアメリカへの一律の追加関税は125%から10%になりました。
引き下げた関税のうち24%については撤廃ではなく90日間の停止となっていて、両国は今後、経済や貿易関係について協議を進めることになります」
(NHK5月14日)
アメリカと中国 互いの追加関税を115%引き下げ 中国への追加関税は30%に アメリカへの追加関税は10%に | NHK | 関税

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  NHK

トランプは上機嫌でこんなことをSNSに投稿しています。

「トランプ大統領は10日夜、日本時間の11日午前、SNSに投稿し「中国とスイスでとてもよい協議が行われた。たくさんのことが話し合われ、多くの合意があった。完全なるリセットについて友好的で、建設的な方法で交渉が行われた。われわれは、中国とアメリカ双方の利益のために、アメリカの企業に中国が開放されることを望んでいる。大きな進展があった」と強調しました」
(NHK5月11日)
トランプ大統領“大きな進展”米中貿易協議 初日終えSNSで強調 | NHK | 関税

いわば出来試合です。初めから落とし所が決まっていて、予定通り短時間でそこに落としました。
ベッセント財務長官は中国から米国へは30%というラインを狙って、予定通りそこで妥結に持ち込みました。
一般的に、米国への輸出品の平均的な採算ラインは関税率35%前後で、それ以上では輸出をすれば赤字になり、しないほうがましということだそうです。

30%だとかろうじて輸出が成立すると言われています。
中国としては、たぶんその5%分を輸出補助金のような国内助成でカバーする気でしょう。
WTO違反ですが、そんなことはずっと中国はやってきました。

つまり、今後もなんの支障もなく米国への輸出は続けられるということになります。
これでトランプが、中国とのデカップリングをまったく望んでいないということがはっきりしました。

トランプが本気で中国と戦う気があるなら、最善の策は中国の軍事膨張と権威主義的ルールの改悪との戦いという大義の下に同盟国を集結させることのはずですが、トランプはまったく関心を示さず、むしろ味方を窮地に追い込んで悦にいっています。
米国を中心とする巨大な自由貿易圏を作る気なら、1期目に中国が参加を拒否されていたTPPを強化すべきだったのに、逆にそこから離脱し、貿易面で中国を孤立させるための絶好のチャンスを逃しています。
中国はTPPに拒否されて以降、ACFTA(中国ASEAN自由貿易協定)などを作って、中国経済圏を強化してしまいました。 

いいかげん目を覚ましなさいと思いますが、いまだトランプ愛好者の皆さんはトラ関税を、中国包囲の形成だ、チャイナ・デカップリングが始まった、国内に製造業を呼び戻すためのだと言っていましたが、これでわかりましたか。
トランプには、中国と対決する気などさらさらないのですよ。
今回の交渉でなにか米国内に製造業回帰の兆候でもありましたか。
ナッシングです。そもそも米国には製造業を盛んにするだけの技術や人材が、この半世紀で完全に欠落してしまっているのです。

たとえば造船業です。
第2次大戦時のイメージからか、米国は圧倒的な工業生産力を持ち、軍艦を大量に造っていると思われがちですがとんでもない。
今の米国の造船能力には他の製造業と同じで往時の姿はありません。
それまでかろうじて軍艦だけは作ってきたのですが、冷戦終結による軍縮、予算削減にともないそれも大幅に削減されてい、よもや軍艦を中国につくらせるわけにもいかず韓国に頼むかというところまで追い詰められています。

USスチールだって、経営体力だけではなく技術力がどうにもならないほど落ちてしまい、日本製鉄に助けてもらわねば潰れるしかなかったのです。
日鉄が買収という手段を使わざるを得なかったのは、子会社化しないと技術がダダ漏れしてしまうからです。
資本が少なくて済む繊維・アパレルなど、とっくに米国から離れてしまいました。

そういう所に手を着けないで、関税だけでどうにかできるということ自体が拙速の極みです。
ただ手柄が欲しいだけでスタンドプレーを「やって見せた」だけのことです。

スイス・ジュネーブで12日朝、記者会見に臨んだベッセント米財務長官は、「双方は、デカップリング(切り離し)も禁輸も望んでいない」と言い切った。高関税による弊害の回避は、2日間の交渉を担った米中両国代表団の「コンセンサス(合意)」だったとも強調した。
両国が協議についたのは、米国から中国に145%、中国から米国に125%という異例の高関税を掛け合う事態を受けてのことだ。これほどの高関税下では通常の貿易の継続は難しく、米中双方の経済に良いことがないのは明らかだ。ベッセント氏は会見でこの点を踏まえ、「私たちは利害を共有している」という趣旨の発言を繰り返した。高関税の削減は米中双方の意思だったことを演出したものだ」
(朝日5月12日)
一転して関税削減合意、トランプ氏が急いだ理由 中国は自信深めたか [トランプ関税]:朝日新聞

もっとも一方の中国はこれで妥結したなんてまったく思っていないようで、こんなことを言っています。

「中国メディアの論評は、米側は「一方的な関税の慣行を正すべきだ」と繰り返し強調しています。 人民日報は5月10日付で、中米間の1回や2回の関税交渉で問題を解決するのは非現実的だとコメントしまています。中国は実際は「持久戦」を覚悟しているようです」
(福島香織中国趣聞5月13日)

目先の手柄にばかり気を取られて、ジグザグを繰り返し、出とこ勝負のトランプに中国を追い詰められるはずがありません。
かたや同盟国で妥結の方向に向かっているのは英国のみで、9割のトラ関税を吹っ掛けられた国々はいまだなんの光明も得ていません。
それなのに、ああそれなのに、主敵である中国とはさっさと手仕舞ですか、いい気なもんだ。
これではトランプの関税戦争は、同盟国と自国民を困窮させるためにやっているようなものです。

わが国の主要製造業である自動車産業は、首を並べて大幅な減収予測を出しています。

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Bloomberg 

「国内主要自動車各社の決算が14日までに出そろった。米国の関税政策により通期では数千億円規模で営業利益を押し下げると見込む会社もあり、改めて影響の大きさが浮き彫りとなった。
ホンダが13日、今期(2026年3月期)に関税影響で6500億円の減益要因を見込み、今期の営業利益予想は前期比59%減の5000億円とした。現時点で試算できる金額を全て反映したという。
トヨタ自動車は4-5月だけで関税が営業利益を1800億円下押しするとの見通しを示した。一方、関税影響として最大4500億円を見込むとした日産自動車は通期の利益見通しについて公表しなかった」
米国販売のおよそ半分を日本からの輸出で賄うSUBARU(スバル)の大崎篤社長は14日の決算会見で、関税が年度を通じて続き何も策を講じない場合に同社が受ける影響は約25億ドル(約3700億円)との見通しを明らかにした。同社は関税政策の動向など不透明な状況が続いていることを理由に今期の業績見通しは見通しとした。
国内自動車メーカーではマツダも通期の業績予想の公表を見送った」
(ブルームバーク5月14日)
トランプ関税が日系車メーカーの利益圧迫、大手3社は数千億円規模に - Bloomberg 

ダンピングをしたわけでもなく、粗悪な欠陥品を売ったこともなく、米国の雇用を奪ったのでもなく、米国の消費者から絶大な支持を受け、なんの罪科もないあたりまえの貿易行為をしていたらこんな狂ったような高関税を吹っ掛けられて、一気に予想もしなかった大減収とリストラの嵐です。
こんな馬鹿げた貿易戦争など聞いたことがありません。まるでヤクザの言いがかり。

米国自動車産業すら、グローバルサプライチェーンを破壊されて悲鳴を上げています。

「トランプ米大統領は、米国の自動車産業を脱輪につながるほど荒々しく運転しようとしている。26日の記者会見で、トランプ氏は自動車と部品に25%の関税をかけると発表したが、国境をまたぐグローバルなサプライチェーンを危険にさらすようなものだ。影響は自動車メーカーの総利益に匹敵する規模になるかもしれない。自動車は戦略的価値の高いセクターだが、これはあまりに速く、あまりに行き過ぎた措置だ」
(ロイター3月27日)
コラム:「制限速度」無視の米自動車関税、供給網の破壊招くリスク | ロイター 

ウォールストリート・ジャーナルは4月10日付け社説でこう述べています。

「トランプの対中政策には戦略が欠けており、対中問題の解決のためには同盟国の力が必要だがトランプは関税で同盟国を痛めつけている。
トランプが4月9日に関税の一部を停止したことを「勝利」として売り込もうとするホワイトハウスの情報操作には、思わず笑ってしまう。現実には、トランプは行き当たりばったりで動いており、特に中国への戦略が欠けている。
ベッセント財務長官は、米国の貿易政策の目標は最初から、中国を主要な違反国として孤立させることだったと述べた。略奪的な貿易慣行を考えると、中国に対し他と異なる対応を取ることには正当な理由がある。米国に対するサイバー攻撃、知的財産の窃取、中国での米国企業への不平等な扱い、新型コロナウイルスを巡る数々の嘘などだ。
しかし、トランプ、ベッセントが中国に何を望むのか、その達成のために如何なる戦略を取るのかは明確でない。米中の全面的なデカップリング(切り離し)を望んでいるのか。
145%という関税水準は、それを示唆している。しかしそれでは、短・中期的に経済的な大混乱になる。
米中は約6000億ドルに上る貿易取引を失うか、他の調達先や行き先を探すかの選択を迫られる。重要な物品に対する戦略的デカップリングの方が理に適っている」
(WSJ4月10日)

Does Trump Have a China Trade Strategy? - WSJ


まことにそのとおりです。
トランプがやっているのは同盟国に手ひどい打撃を与え、自国民と米企業を貧しくすることです。
トランプはとうとう外国で政策された映画にも100%の関税をかけると言い出しています。
そうなれば多くを外国で作っているハリウッドは、どえらいことになるでしょうな。
とてもじゃないが正常とは思えません。

なにがメイク・アメリカ・グレート・アゲインだ。
自国民と同盟国を踏みにじってナニを言っていやがる、不動産成り金め。

 

2025年5月15日 (木)

ロシア国内にドローンの雨

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今、ウクライナ軍はロシア深部の軍需産業を攻めています。
ロシア領のブリャンスク、クルスク、ベルゴロドなどへ、ドローンによる精密攻撃を連続して行い、ロシア軍のミサイル製造工場に致命的打撃を与えているよです。
たとえばこのブリャンスクの「クレムニ」工場では、このようなものを作っていました。

「ブリャンスクの「クレムニ」工場は、未知の無人機によって再び攻撃されました。ミサイルシステム、パーンツィリ防空システム、イスカンデルミサイル、レーダー、電子戦、ロシアのUAV用のマイクロエレクトロニクスを製造しています」
In Bryansk, the "Kremniy" plant, which produces electronics for Russian missiles, was attacked again - NSDC CCD | УНН

またモスクワにもドローン攻撃が行われました。

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プーチン氏、ウクライナは「ロシア国民を脅かそうとしている」 モスクワへの攻撃めぐり - BBCニュース

2025年4月30日には、クレムニ工場はドローン攻撃を受けており完全に破壊しつくされたようです。
このクレムニでは、ロシア軍のもっとも重要な兵器であるパーンツィリ防空ミサイルとイスカンデル短距離弾道ミサイルのに使われるマイクロチップなどの精密電子部品を製造していました。

また、ウクライナ国境に近い精密レーダーと電子システムを製造するストレラ軍需工場も攻撃を受けて、炎上しているのが映像で確認されています。
このストレラ工場を破壊したのは、ウクライナ軍のHIMARSミサイルとドローンだったといわれています。
下の衛星による爆発前後の写真を比較すると、ストレラ工場の復興はそうとうに難しいはずです。

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ストレラ軍工場が破壊:衛星画像でウクライナのロシア攻撃成功を確認 |ディフェンスエクスプレス

もっとも警戒が厳重だった5月9日のロシア戦勝記念日には、ベルゴロド州州政府庁舎が、厳重な防衛網を突破されて無人機攻撃を受け、州知事が式典で「永遠の炎」に点火した瞬間に庁舎が炎上したようです。
本日のウクライナ軍によるベルゴロドへの攻撃の結果、同地域の副長官が負傷した。

これらのドローン攻撃とは別に、ベルゴロド州ヴァルイキ駅では、武器集積所が爆破され、鉄道ハブも破壊されました。
これらはロシア人パルチザンによる破壊工作といわれていますが、詳細は不明です。

ところで衛星写真ではクリミアの主要な海軍基地をほとんど放棄されていて、ノヴォロシースクに籠もっていましたが、そこも追い出されそうです。
大海軍を誇っていたロシアが、水上艦艇を一隻も持たないウクライナに逃げまどっているのですから笑えます。

「「クリミアはもはやロシア海軍にとって安全な避難場所ではない」
セバストポリは伝統的に、黒海地域におけるロシアの主要な戦力投射拠点として機能してきた。しかし、黒海艦隊司令部は2023年9月の巡航ミサイル攻撃で破壊され、重要な乾ドック施設も同月、攻撃型潜水艦、揚陸艦もろとも巡航ミサイルで破壊された。
セバストポリの約160キロ東にあるクリミアのフェオドシヤ港も攻撃の的となっている。ウクライナは23年12月、フェオドシヤの揚陸艦を巡航ミサイルで撃沈したと発表した。今回公開された最新の衛星画像によれば、フェオドシヤには現在、目立ったロシアの軍艦は存在しないようだ」
(ニューズウィーク2024年4月15日)
大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア黒海艦隊「主力不在」の実態(ニューズウィーク日本版) - Yahoo!ニュース 

黒海艦隊の残された主力艦と潜水艦のほとんどがノヴォロシースクに移動していましたが、そこも執拗なウクライナ軍の水上ドローンの攻撃により機能停止に追い込まれたようです。
【ウクライナ戦況】ブリャンスク軍工場が炎上消滅!デンマークが1340億円を支援!黒海艦隊が完全消滅!ノヴォロシースク港を完全封鎖!

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ウクライナ、水上ドローンでロシア艦を攻撃と 黒海主要港で - BBCニュース

バンスはこんなことを言ってウクライナを腐しています。本当に性格の悪い男です。

「ウクライナの反転攻勢は破局に終わる、と思っていた。「いい国」と「悪い国」に分ける道徳主義に動機づけられ、戦略的思考が十分でなかったからだ。ロシアは十分に準備していた。米軍指導者と非公開の場で話せば、すぐ分かるが、彼らは「ウクライナが戦略的に打開できる」などとは思っていない。
ウクライナは戦闘を凍結すべきだ。そして、国の独立と中立性を保証する。長期的には米国が安全を保証する。この3つは達成可能だ」
(ニューヨークタイムス2024年6月13日)

ナニを言ってやがる、このポンコツ元海兵隊員め、お前の親分が大好きなプーチンに「戦略的思考」なんぞないよ。
そもそもプーチンは短期決戦を狙って緒戦で首都キーウを襲撃して撃退されました。

短期決戦なら「特別軍事作戦」という国民向けの言い訳もできたし、そもそも長期戦に対応できるだけのものがハード、ソフト両面でロシアにはなかったのです。

しかし、戦争は3年の泥沼と化し、昨日も書いたようにありとあらゆることが破綻しました。
昨日も書いたように、兵士は不足し、砲弾やミサイルは足りず、経済は強インフレに陥り、国庫は干上がり、外交的には勢力圏はズタボロです。
しかし止めるに止められない。
バンス、このどこに「戦略性」があるのでしょうか。

ダラダラと戦争を続けているのはプーチンの強みではなく、ここでバンザイしたらプーチンは即失脚だからです。
ブリゴジンがワグネルの乱を起こしたような叛乱がまた起きてしまうから、戦争を止められないだけのことです。
プーチンとしては「負けない」ままで戦争を引っ張るしかないのです。

実際、「ドネツク人民共和国」を自称している親露武装分離主義者のボスであるアルメン・サルキシャンは、ロシアが停戦や武装解除に応じれば、武装叛乱を起こすぞとすごんだあげく、モスクワで爆死しました。
たぶんブリゴジンと一緒で、プーチンに消されたのです。
しかし彼の部下は大勢残っていて、和平なんてとんでもないと、いまでも息まいているそうです。
ちなみに、2014年にマレーシア航空機MH17便の旅客機が撃墜されて乗客乗員298人が死亡した事件の犯人はこの連中です。
マレーシア航空機撃墜、「ロシアに責任ある」と国連機関(BBC News) - Yahoo!ニュース

ウクライナはそれをよくわかっているから、停戦交渉を武器にしてグイグイとプーチンを追い詰めているのです。
トランプ?来るわきゃないでしょう。
あの男は関税と一緒で行き当たりばっかりなのです。
もちろん直接会談をやったところで、なにひとつ決まらないでしょう。
それでもいい。交渉の場に引きづり出して、プーチンの欺瞞を暴ければいい、和平会議とはそのていどのものなのです。
戦争は、残念なことですが、戦場で決定されます。
むしろ和平会談が近づけば近づくほど、支配地域の拡大を目指して戦闘が激化するはずです。

 

 

2025年5月14日 (水)

ウクライナ和平交渉、トルコで直接会談か

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さぁ、どうなるのでしょうね、ウクライナ和平交渉。
ゼレンスキーはトルコでプーチンとの直接交渉をする、トランプにも同席を依頼しました。
今、トラ親方は中東歴訪していますから、トルコは目の前ですしね。

さて、プーチン、もう逃げられませんよ。

「ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は11日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と15日にトルコで自ら会談し、戦争を終わらせることについて話し合う用意があるとソーシャルメディア「X」に投稿した。
ゼレンスキー氏に対しては、プーチン氏が11日未明、トルコでの直接会談を提案していた
この提案については、アメリカのドナルド・トランプ大統領が同日、ウクライナは「直ちに」同意すべきだと主張。ソーシャルメディアへの投稿で、「少なくとも、合意の可否を判断できる」、「今すぐ会談しろ!」と書いていた。
ゼレンスキー氏はこの直後の投稿で、「殺し合いを長引かせることに意味はない。木曜日(15日)にトルコでプーチンを待っている。私自身が」と書いた」
(BBC5月12日)
ゼレンスキー氏、プーチン氏と会談する意向を表明 直前にトランプ氏が要求 - BBCニュース

トルコでの直接会談を提案したのはプーチンの側ですから、ゼレンスキーが応じた以上拒否する関係にはなりません。
ただし、プーチンは少し前にやった対独戦勝記念日でこう言っています。

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「プーチン氏の演説と、1分間の黙とうに先立ち、地上部隊のオレグ・サリュコフ司令官が、ウクライナで戦った約1500人を含む1万1000人の兵を率いて赤の広場に登場した。その後、アンドレイ・ベロウソフ国防相が部隊を視察した。
プーチン氏は演説で、ロシアは「ナチズムやロシア嫌悪、反ユダヤ主義に対する不滅の障壁であり、今後もそうあり続ける」と主張。ウクライナの指導者たちはナチスだという、事実と異なる主張を繰り返した。
「真実と正義は我々の側にある」とプーチン氏は続け、ウクライナ戦争の参加者を「この国と社会、国民全体が支持している」と主張した。
ロシアの発表によると、式典には27カ国の指導者らが出席した。特に目立っていたのはプーチン氏のほかは、中国人民解放軍の兵士100人超と並ぶ習近平氏だった」
(BBC5月10日)
ロシアで対独戦勝80年の記念式典、ウクライナの攻撃に備えてモスクワは厳戒態勢 - BBCニュース

なにがナチズムやロシア嫌悪だつうの。
ナチズムを叩き直してやるといって隣の平和な国家に攻め込み、虐殺を働いてきたのはどこのどいつだって言うのか。
その結果、世界から制裁を食らえば、こんどは被害者ヅラして「ロシア嫌悪」だと泣いてみせる。
対独戦とはまったく違う、一方的侵略をしたのはロシアなのです。
さっさと兵を引け、そうすれば「ロシア嫌悪」は雲散霧消するでしょうよ。(しないな)

ロシアがこの愚かな戦争で、なにを得られましたか。
獲得したのは、戦火で荒廃したマリウポリとドンバスくらいでしょうか。

一方、失ったものは、ウクライナ侵略戦争前の「勢力圏」の大部分です。
23年9月には、南カフカス地方の同盟国であるアルメニアがアゼルバイジャンに係争地ナゴルノカラバフを奪還されてしまい、同盟関係が崩壊しました。
また24年12月には、ロシアを後ろ盾としてきたシリアのアサド政権が反体制派の攻勢を受けて崩壊しました。
これでロシアがシリア国内に租借してきた海軍基地と空軍基地の処遇は不透明となり、中東、地中海、アフリカへの足掛かりを喪失しました。
双方ともに駐留させていたロシア軍を引き抜いて、ウクライナに突っ込んだからです。

ロシアと国境を接するフィンランドやバルト3国、スウエーデンは、いままで中立を保ってきましたが、ロシアがこうまで露骨な侵略をする国だとわかるや一斉にNATO加盟に踏み切りました。
このためにロシアのバルト海艦隊は、北海への出口を封鎖されてしまうこきとになりました。
そのNATOも揃って軍事費を嵩上げしました。

ウクライナ侵略に伴ってロシアが被った軍事的損失も膨大です。
ロシアの最大の軍事機密は自軍の損害です。
これは防大な数に登り、米欧諸国やウクライナの分析では、戦死者だけで少なくとも10万人。
負傷者はその数倍に上ると見られています。

英国国防省によれば、撃破された露軍戦車は3600両以上、装甲車両は8000両と、備蓄してきた大部分を喪失し、いまや新型戦車は怖くてウクライナには送れない有り様です。
ウクライナ戦争の海上戦力の主体だった黒海艦隊は、旗艦「モスクワ」など主力艦の多くが撃沈されほとんど解体状態で、いまやクリミア半島突端のセバストポリ軍港には怖くて艦船を置いておくこともできません。
空軍は対空ミサイルが怖くて使えないので温存されていますが、少しウクライナに飛ばせば直ちに落とされます。

経済はこの間書いてきているように、戦争経済をしているために強インフレが加速しています。

「ロシアが受けた経済的損失も大きい。ロシアは侵略で欧米諸国などから大規模な経済制裁を科され、先進技術のサプライチェーン(供給網)から切り離された。重要な外貨獲得源だった石油や天然ガスなどエネルギー資源の輸出では、主要顧客だった欧州が購入を大幅に減少させた。ロシアは中国やインドへの輸出を拡大しているが、足元を見られて割引価格での販売を強いられており、対欧州輸出の減収分を補えていないとみられている。
ロシアの国内景気は軍需生産の拡大で活況を呈し、賃金も上昇しているが、その反動としてインフレが加速している。露中銀によると、24年のインフレ率は9%を超える可能性がある。中銀はインフレを抑えるために24年秋、政策金利を21%に引き上げた。借入金を抱える企業は高金利のために利益を出すのが難しくなっており、銀行借り入れによる新規投資にも慎重になっている」
(産経1月2日)
ロシア、ウクライナに「もし勝利」でも大損失が確実 地政学・軍事・経済の全てで〝赤字〟 - 産経ニュース

常識的に考えれば、とてもじゃないがこれ以上戦争を続けるのは無謀です。
しかしこのプーチンという男をもう止められないでしょうね。

この対独戦勝なんじゃらには習近平も駆けつけて、こんなことを言ってくれています。

「習近平国家主席は「たった今、プーチン大統領と私は深く、友好的で実り多い会談を行い、多くの新しく重要な合意に達した。日本の侵略に対する中国人民の抵抗戦争、大祖国戦争におけるソビエト連邦の勝利、国際連合創設80周年を記念し、新時代における中露包括的戦略的協力パートナーシップのさらなる深化に関する中華人民共和国とロシア連邦の共同宣言に共同署名し、両国の関係部門間で多くの協力文書の交換に立ち会った」とのべました」
(福島香織5月10日note)

もういまさら中国の手前でも止めるとは言えないのでしょう。
愚か者がバクチをして大損し、それをとりかえそうとさらに大金を賭けて全部すり、泣きわめきながらもっと多くのカネと人の命を地獄の業火にくべるのですから、後世の歴史家はこのプーチンという人物をどう書き残すのでしょうか。

 

 

2025年5月13日 (火)

パキスタンの影の支配者・中国

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印パはとりあえず完全停戦になったのは、めでたいことではあります。
もちろんこれは山路さんがご指摘のとおりトラ親方の手柄でもなんでもなく、双方共にこれ以上やると損だから止めただけのことです。
インドは緒戦の空軍対決でふいをつかれて思わぬ惨敗を喫し、その原因は中国製の戦闘機と長距離対空ミサイル、そしてS-400という戦略的といっていいほど射程が長い(400㎞もあります)地対空ミサイルシステムの存在でした。
これらの背後には中国がいることは確実で、たぶん軍事顧問もいるはずです。
インドとしては、中国とまではことを構える気がなかったわけで、パキスタンに「負けた」というより、「中国の影」に怯えて、エスカレーションを止めたのです。

インドは中国をまったく信用していませんし、潜在的な最大の敵と認識しているはずですが、かといって殴り合う関係は望んでいません。
2020年に、ヒマラヤのてっぺんで双方共に素手で殴り合うという紛争をした後、2年間ほど冷却期間を置いて去年手打ちをしたばかりでした。

「国境問題をめぐって対立してきた中国とインドの首脳会談が5年ぶりに行われ、今後、特別代表団による対話を通じて関係改善を目指すことで合意しました。BRICSの首脳会議でロシアを訪問した中国の習近平国家主席とインドのモディ首相は日本時間の23日夜、5年ぶりに正式な首脳会談を行いました。
このなかで習主席は、「競争相手ではなく協力パートナーであるという共通認識を堅持し、ともに発展するための道を探っていくべきだ」と強調し、モディ首相も、「両国の関係は、世界の平和と繁栄、安定にとっても重要だ」と述べ双方が関係改善を目指す姿勢を示しました」
(NHK2024年10月24日)
5年ぶり中印首脳会談 関係改善を目指すことで合意 | NHK | 中国 

もとより中国とて、インドなどという腹にナニを隠しているかわからず、かつ人口と経済においていまや中国を陵駕しようとするライバル国なんぞこれっぽっちも信用しているわけはありません。
なんせインドは中国にいいようにあしらわれないように独自核武装さえしてしまった国で、しかも歴史的にはヒンドゥ国家でありながら共産圏の武器体系を導入して米国と張り合った歴史を持つ国ですからね。
いわば「アジアのフランス」のような国なのです。
それにしてもよくこんなスタンスの国が「反覇権国連合」であるFOIPに参加したものだと思いますが、これも故安倍氏の人徳あればこその奇跡でした。ゲルさんなど逆立ちしてもできっこない。

その中国がヒマラヤ越えで手を結んでいるのが、敵の敵であるパキスタンです。
このヒマラヤルートをカラコルム・ハイウェイと呼びます。
私もかつてここを踏破し、今回紛争が起きたカシミールも旅しました。
その前年には1カ月間、インドも回っていますので、肌感覚で見えてきます。
カラコルム・ハイウェイ - Wikipedia

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カラコルムハイウェイを北上せよ! - to the unknown ground

カラコルム・ハイウェイは、パキスタンの首都イスラマバードと、中国新疆ウイグル自治州を結ぶ920kmにも及ぶ交易路で、1958年に両国の合同事業として建設を開始し20年の年月をかけ、ヒンドゥークシュ山脈・カラコルム山脈・ヒマラヤ山脈の三方に囲まれた高地に道を通すという難工事でした。
いまやそれは延伸されてパキスタンのバローチスターン州内のグワーダル港につながっています。
グワーダル - Wikipedia

「パキスタンも一帯一路構想に入っている。それだけではなく中国とパキスタンの間にはCPEC(China-Pakistan Economic Corridor,中パ経済回廊)という構想が、一帯一路より早い2013年から動いている。これは中国西部を外洋に出る港と結びつける狙いがあり、具体的には中国の新疆ウイグル自治区からカラコルム・ハイウェイを通ってパキスタン国内に入り、南下してアラビア海に至るルートを確保しようとしているものである」
(近藤高史)
日本戦略研究フォーラム(JFSS) 

これは圧倒的に優勢なインド海軍にインド洋を押さえられた場合に、陸路で中国と繋がろうというパキスタンの思惑と、中国の新疆ウイグル自治区からカラコルム・ハイウェイを通ってパキスタン国内に入り、南下してアラビア海に至る一帯一路ルートづくり構想が一致して出来たものです。
中華帝国から四方八方に伸びる交易路、すべての道は中華につながる、これが習近平が描いた「中華の夢」です。

思えば、ベトナム侵攻の時に中国が使った言葉が皇帝が臣下に使う「膺懲」(ようちょう)ですから、アナクロの極みで、現代の話とも思えません。
膺懲の意味は懲らしめること。しかも対等な関係ではなく、歴代の中国王朝が冊封国に使った表現です。
中国がどういう眼で周辺国を見ているか、判ろうというものです。
彼らの脳みその中身は古代から不変で、常に中国は周辺国に三つのことを要求します。

ひとつめは、中国に服従を誓う従順な姿勢。
二つめは、国を安定させること。
三つめは、中国の国家戦略への絶対的服従です。

「服従・安定・従属」、香港国安法でも同じことを言っていましたが、逆に嫌うのは、自由主義諸国と友好関係にあって「帝国主義の走狗」がうじゃうじゃいるような国です。
彼ら西側の走狗共は、いつ何どき米国に寝返るかわかったもんじゃないので、ほんとうはきれいさっぱり属国にしてしまいたいと考えています。
その一番の良き子がミャンマーの軍事政権で、彼らは期待に答えて軍事クーデターを行い、民主派を徹底的に弾圧しました。
カンボジアはひたすら恭順です。

パキスタンには海に出る陸上ルートを求めました。
かつてロシアが温かい海を求めて南下したことで世界は動乱に叩き込まれましたが、いまの中国も同じように海に抜けるルートを作り続けています。
中国大陸沿岸は浅瀬が続いているために大型船が停泊できる良港に乏しいうえに、いったん米国と戦争になれば数日で機雷封鎖されてしまうといわれています。
だからその場合にでもサバイバルできる陸路で海洋に抜けるルートが欲しいのです。

このカラコルム・ハイウェイのパキスタン側の入り口こそが、今回の係争地であるカシミール地方であるのは偶然ではありません。
パキスタンはこの係争地カシミール地方が将来の火薬庫になることを見越して、その戦略的保険として中国の軍事的支援を得るためにこのルートを通したのです。

一方、パキスタンも緒戦に勝利したものの、戦闘を継続する力はもう残っていなかったようです。
元々パキスタンは、国力でいってもはるかにインドに及ばない上に、2023年から大規模な水害に見舞われて国土の3分の1が水没するという経済的困窮のさなかにあります。

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日本赤十字社

「2022年6月以降、パキスタンではモンスーンによる豪雨と深刻な熱波に続く氷河の融解の影響によって大規模な洪水が発生し[3]、政府によると国土の3分の1が水没した。死者は1,678人を超えており、全人口の約15%に当たる3300万人以上が被災している。8月25日、パキスタンは洪水のため非常事態を宣言した。パキスタン政府は、今のところ、洪水による損失が400億ドルに上ると見積もっている」
パキスタン洪水 (2022年) - Wikipedia

赤十字によれば、パキスタン全国で洪水、鉄砲水、地滑りなどが起こり、100万棟以上の家屋が損壊し、70万頭以上の家畜が失われ、更に3000km以上の道路と約150の橋が被害を受けるなど、インフラにも大きな影響を与えています。
【速報】パキスタン洪水:国土の3分の1が水没・日本赤十字社は海外救援金の募集を開始|トピックス|国際活動について|日本赤十字社

農業は壊滅状態で、ウクライナ産穀物の輸出がロシアによって阻害されているために食料難さえ起きています。
そこに燃料の高騰が被ってしまい、泣き面にハチ。
とてもじゃないが隣の軍事大国と戦争をするような余裕はなく、それどころか一昨年の2023年2月から3月の間にイギリスを通じてウクライナに122mmロケット弾17万発、155mm砲弾6万発を輸出し、3億6400万ドルの収益を得たと伝えられています。
またイスラムが国教でありながら、恥もかなぐり捨ててイスラエルにも砲弾を売却したようです。
軍は政府の財政難の煽りで、いかにサイフがカラッポなのか分かろうというもので、予算が2022~2023年は国家予算の16%に削減されています。

こんな中で起きたのがカシミール地方のテロで、まるでガザのハマスを思わすような悪質な無差別テロでした。

「インドとパキスタンなどが領有権を争うカシミール地方のインド支配地域で22日、武装集団が観光客らを銃撃し、地元民放NDTVによると少なくとも26人が死亡した。負傷者も10人以上に上っており、当局はテロとみて捜査を始めた。
現場は、美しい渓谷などから「小さなスイス」と呼ばれる北部ジャム・カシミールの人気リゾート地パハルガム。NDTVは目撃者の話として、森に潜んでいた武装集団が無差別に発砲を始めたと報じた」
(読売4月23日)
カシミール地方で武装集団が観光客ら銃撃、少なくとも26人死亡…インド首相「極悪な行為」と非難 : 読売新聞

これを受けてインドは即座に報復を開始し、それに呼応してパキスタンも制裁を課して報復合戦となりました。
 ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース - ジェトロ

この紛争の原因を作ったのはインドです。
インドはいままで与えていたインド側カシミール(ジャンム・カシミール)地方から自治権を奪いました。
ヒンドゥ原理主義者のモディさんの別の顔が覗いたのです。

「インドのナレンドラ・モディ首相は8日、実効支配するジャンムー・カシミール州から自治権を剥奪したことについて、同州の発展を妨げてきた「障害」を取り除き、「新時代」をもたらしたと、正当性を主張した。自治権剥奪をめぐっては、インドの支配強化につながるとして、物議を醸している」
(BBC2019年8月9日)
インド首相、カシミールに「新時代」と 「自治権」剥奪の正当性主張 - BBCニュース 

愚かな決定で、住民のムスリムを敵にまわすようなものです。
ヒンドゥ原理主義vsイスラム原理主義、これで戦争にならないわけがありません。
ちょうどユダヤ教原理主義のネタニヤフとイスラム原理主義のハマスとの戦いのようなもので、形を変えた宗教戦争ですから互いに互いを根絶するまで続きます。

そしてとうとう5月6日、この両者は本格的軍事衝突に発展したのです。

「係争地カシミールでのテロをきっかけとしたインドとパキスタンの軍事衝突。6日、インドがパキスタン領内のテロ組織拠点を空爆したのに対し、パキスタンは応戦し、ラファール3機を含むインド空軍機5機を撃墜したと主張した。当初は情報が錯綜していたが、少なくともラファールとMig-29戦闘機各1機の損失は確実と見られている」
(ミリレポ5月8日)
インド軍機を撃墜したされる中国製のJ-10C・JF-17戦闘機とPL-15ミサイル

空軍の戦闘には勝利したものの、パキスタンも空軍基地やそのほかの軍事目標に対するミサイル攻撃は防げていないようで、実際は五分五分だったようです。
すると緒戦でほぼ全力を出しきった感のあるパキスタンに、今後の継続戦闘能力は残りわずかでしょう。
というわけで中国を背後に置いたパキスタンと、それを嫌うインドの係争はどこまでも続くのです。


 

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