もう笑うきゃありません。
対中貿易戦争でトランプ、なにひとつ成果が現れないうちに早くも譲歩してしまいました。
報じるCNNの行間にも苦笑が漂っているようです。
「香港/ワシントン(CNN) 米国のトランプ大統領は22日、ホワイトハウスで、中国製品に対する関税は「大幅に引き下げられるが、ゼロにはならない」と述べ、中国との貿易戦争をめぐり方針を転換する可能性を示唆した。
トランプ氏の今回の発言は対中姿勢の軟化を示しているようだ。何週間にもわたる強硬姿勢と報復措置によって、トランプ氏は中国製品に145%の関税を課している。
トランプ氏は大統領執務室で記者団の質問に答え、145%の関税率は非常に高いとの認識を示し、「そこまで高くはならないだろう。大幅に下がるだろうが、ゼロにはならない」と語った」
トランプ氏の今回の発言は、ベッセント財務長官が米中間の高関税が両国の貿易を事実上の禁輸状態に陥らせていると発言したことについて質問された際に出た」
(CNN4月23日)
トランプ氏、対中関税は「大きく下がる」 方針転換を示唆 - CNN.co.jp 。
自分で目一杯吊り上げておいて自分で落す、しかも中国がナニひとつ譲歩していないのに、というんですから中南海の皆さんもさぞかしたまげたでしょうな。
理由は米国債市場の崩壊危機です。いわば自爆。
「トランプ米大統領が示した関税の規模は多くを驚かせた。同氏がいつ妥協するのか、あるいは妥協することさえあるのかも不透明だ。さらに、これらの関税が米経済に与える影響についても問題視されている。
関税がリセッション(景気後退)を引き起こし、インフレが弱まれば、米金融当局は利下げに踏み切る可能性が高い。通常であればこれは米国債の魅力を高める要因となる。しかし懸念されているのは、関税が物価を押し上げ、成長鈍化に対応する米金融当局の能力が限られてしまうことだ。これは米国債にとってマイナス要因となる。こうした不確実性は、ボラティリティーが高止まりする公算が大きいことを意味する。
投資家が米国債を含むあらゆる米国資産を敬遠し、リスクを減らす中、債券を手放しているだけという動きかもしれない。
そうなると、実質的な安全資産は現金だけとなる」
(ブルームバーク4月10日)
安全な逃避先のはずが、混乱時でも米国債が下げ止まらず-その理由は - Bloomberg
財務長官のスコット・ベッセントは、投資ファンドマネージャーをしていたウォール街の住人でした。
当然、為替のプロ中のプロですから、その関税爆上げのリアルな危険性はわかっていたようです。
ちなみに日本で儲けた経験があるそうで、やや日本に甘いとトラ親分に睨まれているとか。ま、どーでもいいですが。
トランプにもいまのようにムチャクチャな関税をかけていると「持続不可能」、つまり事実上の禁輸に相当するために米国の国債市場は危機回避のために売り一色になるぞと警告していたようです。
しかしトラ親分は「混乱は短期的だ」と歯牙にもかけなっかたようです。
「ベッセント米財務長官は23日、中国との貿易を巡る交渉を進展させるには緊張緩和が必要とし、米中が互いに表明している関税率を現在の過度に高い水準から引き下げる必要があるとの見解を示した。
ベッセント長官は国際通貨基金(IMF)・世界銀行の春季会合に出席した際に記者団に対し、世界の二大経済大国が貿易関係を再調整するためには緊張緩和が必要との考えを示した。
このことは米国の対中関税率145%、中国の対米関税率125%の引き下げを意味するのかとの質問に対して、「そうあるべきだと考える」とし、「米国も中国もこれが持続可能な水準とは考えていない。禁輸措置に相当する水準だ。両国間の貿易の断絶は誰の利益にもならない」と述べた。
この日は米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)がホワイトハウス当局者の情報として、トランプ政権は中国との緊張緩和を目指し、中国製品に対する関税を50─65%程度に引き下げることを検討していると報じた」
(ロイター4月24日)
米中関税の相互的な引き下げ必要、進展に緊張緩和不可欠=米財務長官 | ロイター
米、日本に24%相互関税 トランプ氏「非常事態」 産業に打撃懸念:ニュース:中日BIZナビ
しかしトラ助はやっちまったんですな。得意満面でデタラメな数式にデタラメな数値を入れて、トンデモな追加関税を世界にかけてしまいました。
しかもトラさんには敵味方の識別ができないので、自由主義陣営にもたっぷりと追加関税をかけて恐慌に陥れたのですから目も当てられない。
言っていることはおめーの国の国防費は少ないからオラの国が損しているべぇということと、オラの国は貿易赤字で損しているべぇのふたつ。
そもそも安全保障問題で追加関税をかけるなんて筋違いもいいところ。
貿易赤字といっても、世界が自由貿易で回っているのはこれも常識。
文句があるならG7閣僚会談という枠組みで協議するのが常道です。
国防費なら2+2の場があるでしょうに。
それをいきなり、相手産業を潰すような高関税をかけて得意になっているのですから、手に負えません。
まるで国防費減らして社会福祉上げろという共産党みたいないい分です。
そのうえにウクライナをプーチンと一緒になって叩き潰し始めたのですから、もうこいつは本当に米国大統領なのかというところです。
かくて一瞬で自由主義圏は米国に対する不信感一色となりました。
まるで悪い冗談のような一場でした。おっと、まだ終わっていないか。
自由主義圏崩壊と米国経済の危機が同時に押し寄せたんですから、さすがにトラさんもビビったのでしょう。
同盟国がどんなに悲鳴をあげようと知ったことではなかったトラさんですが、もう辛抱たまらぬというわけで、自分から関税を引き下げてしまったようです。
まことに世界に自分の馬鹿を大公開してしまいました。
これで今後、関税交渉する国はだいぶ楽になったことでしょう。
ただし早々とホワイトハウスで赤いMAGA帽子かぶった人はピエロみたいですがね。
今朝の某硬派情報ラジオ番組を聞いていたら、いつもはガサツな関西弁でまくしたてるヒゲの某教授が妙におとなしく、トランプのウクライナ和平案はしかたがないね、クリミアはすでに還ってこないのだから、みたいなことを言っておりました。
おいおいですが、実はトランプはそれがつけ目なんです。
ゼレンスキーの拒否回答に対してトランプの弁。
「トランプ米大統領は23日、ウクライナのゼレンスキー大統領がロシアによるクリミア半島支配を認めないと発言したことを非難し、「ロシアとの和平交渉に非常に有害」との認識を示した。
トランプ氏はSNSトゥルース・ソーシャルに、「ゼレンスキー氏のような扇動的発言が、この戦争の解決を非常に困難にしている。彼には誇れるものなど何もない。ウクライナの状況は悲惨であり、彼は和平を選ぶか、もう3年間戦い続けて国全体を失うかのどちらかしかない」と投稿した」
(CNN4月24日)
トランプ氏、ゼレンスキー氏を非難 ロシアのクリミア支配を認めない発言は「有害」 - CNN.co.jp
ウクライナにとって、クリミア半島は領土であると同時に失敗の側面もありました。
エドワード・ルトワックは、ウクライナについてやや皮肉ぽっくこう言っています。
「ウクライナは、今回の戦争でロシアに抵抗することを通じて一人前の国家となり、明確な国民意識を形成することができた。これは大きな成果であり、和平に向けたウクライナの自信にもつながる」
(産経4月24日)
トランプ氏、空振りのプーチン氏擁護 「終戦の意思」なきロシア、和平交渉は挫折濃厚 世界を解く-E・ルトワック - 産経ニュース
いい得て妙です。ウクライナ戦争が始まるまでのウクライナは、統一された民族意識も薄く、政府は腐敗し、軍隊はボロボロでした。
とてもではないが「一人前の国家」ではなかったのです。
これがウクライナ戦争を体験することで「ウクライナ人」の自覚をもつに至ったのですが、それまでのウクライナはロシアのカモにされても仕方がないような有り様でした。
クリミアを奪われても怒りもせず、ドンバスなどの東部2州に傀儡政府をつくられても真正面から戦おうとしなかった、その結果がこれです。
クリミア簒奪時のウクライナ政府はすでにゼレンスキーでしたが、ロシア正規軍が侵攻しているにもかかわらず、外交でどうかなるという誤った考えをもっていました。
「ウクライナ政府は外交圧力によるクリミア奪還をめざしており、2021年8月23日、「クリミア・プラットフォーム」初会合となる首脳会議を首都キーウで開き、合計46の国家と国際機関が参加した。首脳級は14人で、シャルル・ミシェル欧州理事会議長(EU大統領)のほか、ロシアの脅威にさらされている東欧諸国からポーランド大統領、リトアニア大統領、モルドバ大統領が参加した。米独はエネルギー担当閣僚に、日本は駐ウクライナ大使にとどめた。ロシア政府は参加国に対抗措置を警告して「非友好的な行事」と非難した」
ウクライナ紛争 (2014年-) - Wikipedia
ウクライナの希望は虚しいものとなりました。
自国の領土を奪われたにもかかわらず国際社会に解決を求めた結果は、後に大きな禍根を残すことになります。
オバマとヨーロッパは口先だけの制裁しか唱えず、わずかな経済制裁で終わりにしてしまったのです。
これを見て気をよくしたプーチンは次の領土切り取りの段階へと進みます。
「クリミア自治政府共和国」とセヴァストポリ特別市で「住民投票」を実施して完全併合を合法化したのです。
「住民の意志で併合を望んだ」という建前ですが、軍事占領下での「住民投票」なるものは無効です。
しかしこれで完全にクリミアの領土化は完了してしまいます。
しかもこれで終わりませんでした。
次なる獲物は東部2州でした。
ウクライナは東部のドネツク州とルガンスク2州でもクリミアと同様の手段で、ロシアの傀儡武装勢力が決起して州政府を占拠し、後に「住民投票」で併合されてしまうことになります。
このとき結ばれたのがミンスク議定書です。
ミンスク議定書はロシアと2州の傀儡国家、西側諸国(欧州安全保障協力機構・OSCE)の三者で成立したものでした。
すでに合意自体が傀儡国家の存在を前提としており、彼らに「特別の地位を与える」としていました。
ウクライナ東部とロシアに緩衝地帯を作ることが骨子でしたが、これを守ったことなど一度もなく常に武力挑発の震源地でした。
このような無責任なヨーロッパと米国の態度が、西側はウクライナを守らないという信号となりました。
そしてさらにこれが呼び水となって、2021年春のウクライナへの本格侵攻を招くのです。
戦うべき時に戦わないで領土問題を国際間の話し合いで解決しようとすると、こういうことになるのです。
ところでトランプはゼレンスキーの言っていることを「有害だ。何年前のことを言っているのか」と言っていますが、何年たとうと領土は領土です。
日本が事実上北方領土を失ったのは、占守島防衛戦が終わった1945年8月21日でしたが、むざむざと無抵抗で引き渡したのではなく樋口季節一郎中将以下の将兵の英雄的な抵抗が停戦した後でした。
日本軍のこの戦闘での戦没者300名、露側3千人とされています。
占守島の戦い - Wikipedia
つまり、日本はきわめて強い軍事抵抗を見せた後、北方領土を奪われているのです。
ここが決定的にウクライナにおけるクリミア問題とは違う点です。
だから今に至るもそのロシアの違法性を何年たとうが、何十年たとうが日本は北方領土は日本の主権下にあると世界に向けて胸を張って宣言できるのです。
このように考えると、トランプの論法を認めたならば、北方領土は二度と永遠に還ってこないことになります。
そのうち習とディールがついたから尖閣は中国領土とすることにした、なんて言いかねません。
それにしても他国領土のグリーンランドを欲しいといい、隣国カナダはオレの国の州になれといい、国際地名のメキシコ湾はアメリカ湾とするという、この人物にとって小国の主権などハナクソのようなものなのでしょう。
たまらんなぁ。
とうとうトランプの「調停案」なるものが明らかになったようです。
予想どおりのシロモノで、これがロシア案だと言われても納得してしまいそうなものです。
トランプには恥を知る心がありません。
先だっての4月15日、ウクライナのスムイ市へのロシア軍のミサイル攻撃による民間人死者に対してこう言っています。
「トランプ氏は、「悲惨な出来事」であり、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領による「過ち」だと指摘する一方で、ゼレンスキー氏もやり玉に挙げた。
中米エルサルバドルのナジブ・ブケレ大統領との会談中、「数百万人の死者」を出した責任はゼレンスキー氏とプーチン氏、ジョー・バイデン前米大統領にあると主張。
「プーチン氏が1番目だが、バイデン氏も自分が何をしているのか全く分かっていなかったという点で2番目、そしてゼレンスキー氏だ」と述べた。
ゼレンスキー氏について、「ミサイル購入を常に画策していた」とし、「戦争を仕掛けるなら、勝算がなければならない」「自らの20倍の(戦力を持つ)相手に戦争を仕掛け、ミサイルを供与してもらうことを期待するなんてあり得ない」と批判した」
(AFP4月15日)
ウクライナ北東部攻撃、民間人標的をロシア否定 トランプ氏はゼレンスキー氏非難 写真4枚 国際ニュース:AFPBB News
米大統領の代理人ウィトコフ氏、外交手腕に世界が注目-政権で存在感 - Bloomberg
ほぼ同時期、トランプの「最終提案」なるものが提示されました。
サンクトペテルブルクで今月、米政権のスティーブン・ウィトコフ中東担当特使と会談した際に伝えられたそうです。
このウィトコフはズブの外交素人で、トランプが連れてきたビジネス人ですが、言うことは100%プーチンナラティブです。
こんな男を特使に仕立て上げた時点で、トランプが言う「仲介」なるものがいかなるものかわかります。
ゼレンスキーはウィトコフを評してこう言っています。
「ゼレンスキー大統領は17日にキーウで記者会見した際、「ウィトコフ氏はロシア側の戦略を取っていると思う」と述べ、「これは非常に危険だと思う。意識的なのか無意識になのかはともかく、彼はロシアの言い分を広めているからだ」と批判した」
(BBC4月18日)
ゼレンスキー氏、ウィトコフ米特使が「ロシアの言い分を広めている」と批判 - BBCニュース
内容的には、あーあやっぱりね、というような内容で、歴代大統領ならこうまで破廉恥なものはだせないでしょう。
「文書では、2014年にロシアが一方的に併合したウクライナ南部クリミア半島の支配を米国が承認することを明記。ロシアが支配している4州のほぼ全域の占領も非公式に認め、現在の戦線を凍結する内容となっている。
米欧各国はクリミア併合後に対露制裁を強化したが、文書では14年以降に科された制裁の解除も掲げた。
ロシアが求めているウクライナの北大西洋条約機構(NATO)非加盟を「約束」する一方、文書では欧州連合(EU)加盟を容認する方針が示された。
ウクライナ側の要望も踏まえ、ロシアの再侵略を抑止するための「強固な安全の保証」として、欧州有志国などで構成する平和維持部隊のウクライナ駐留を認める。
ロシアが占領中のウクライナ北東部ハルキウ州の一部地域を返還することに加え、ウクライナの再建に向けた「補償や支援」も盛り込まれたが、誰が補償するのかは明示されなかった。南部のザポリージャ原子力発電所の周辺地域は米国が管理する方針も掲げられた」
(読売4月23日)
アメリカ和平案、ロシアによる4州占領容認…クリミア支配も承認にゼレンスキー氏「我が国の領土だ」 : 読売新聞
ウィトコフが「5つの地域」と言い出したとき、それはクリミアを含むというのはすでに予測がついていました。
クリミアは2014年の侵略を国際社会はこぞって否認しており、経済制裁の対象としてきました。
これを真正面から覆しクリミアはロシアの領土として認定する、経済制裁は解除するというのですから、もはやなにをかいわんやです。
ゼレンスキーはこの「最終調停案」を即座に拒否したようで、ルビオ国務長官も協議に出ないようです。
「米国のルビオ国務長官が、ロシアによるウクライナ戦争の終結に向けてロンドンで23日に開かれる協議を欠席する見通しであることがわかった。ウクライナ側は、3年に及ぶ戦争の終結に向けたトランプ米政権の提案に盛り込まれた重要項目を拒否する構えを示していた。
ルビオ氏は、ウクライナや英国、欧州の当局者らとの協議に出席するとみられていたが、国務省報道官は22日、「物流的な問題」で欠席すると明らかにした」
(CNN4月23日)
米国務長官、ウクライナ協議を欠席へ ゼレンスキー氏は米国の和平案を拒否 - CNN.co.jp
ウィトコフはこの「最終仲介案」なるものが、米露のビジネスチャンスを修復し発展し、米露関係を修復すると言っています。
ゲスな下心を漏らしてしまいましたね。
ちなみにウィトコフは「プーチンとトランプは素晴らしい友情で結ばれている」と言っています。
「「それに加えて、とても魅力的な商機を通じて、ロシアとアメリカの関係を再構築する可能性があると信じている。それが、この地域にも本当の安定をもたらすと思う」と、ウィトコフ氏は話していた」
(BBC前掲)
かねてからウクライナ和平に絡んで出てきているのがこの「商機」という和平交渉にはそぐわない概念です。
なんの商機なのか、これもわかってきています。おそらくは石油と資源利権の回復です。
私はこのての米国は石油のために戦争をしているという類の噂は信じないことにしていますが、今回はどうやらそのとおりのようです。
「18日(現地時間)、ウクライナ戦争終息のための米ロ間初の歴史的交渉が行われたが、平和という本質が抜けて天然資源利権に偏ったという皮肉が出ている。
ニューヨークタイムズ(NYT)やポリティコなどの米国メディアや海外通信社の報道を総合すると、ロシア代表団として今回のサウジアラビア会談にロシア代表団として参加したキリル·ドミトリエフ·ロシア国富ファンド(RDIF)会長は、交渉のテーブルで自国のエネルギー開発の議題を伝えたものと把握される。
彼は会談開始前の短いメディアインタビューで「米国の石油メジャーはロシアで非常に成功的なビジネスをしてきた」とし、両国関係改善で米国メジャー石油会社が終戦を通じて対ロシア事業機会を再び得ることを示唆したのだ。
さらに、「ウクライナ戦争の勃発で、米国企業がロシアのエネルギー事業から一斉に撤退し、ロシアが被った経済的被害が3000億ドル(432兆ウォン)に上るという点も、今回の交渉で提示するだろう」と伝えた。
露骨な利権と取引的アプローチを追求するトランプスタイルに合わせて、ロシア側が交渉テーブルに念仏(平和)より「縄張り」(天然資源事業)を投じる戦略を示したのだ」
(韓国毎日経済2025年2年19日)
念仏よりご飯に関心を示すトランプ式取引主義が早くもうわさを残している。18日(現地時間)、ウクライナ戦争終息のための米ロ間初の歴史的交渉が行われたが、平和という本質が抜けて天然資源利権に偏ったという皮.. - MK
ウクライナ侵略による経済制裁で、ロシアに投資していた石油メジャーは撤退を余儀なくされています。
ウクライナ「和平」が達成されれば、さぁ経済制裁も解除だ、ロシア産天然ガスで大儲けするぞ、というメジャーの声が聞こえるようです。
ゼレンスキーに資源利権を要求したのも同一の文脈のはずです。
そしてもちろんトランプの環境保護政策を切り捨ても一緒です。
ステーブ・ウィトコフはトランプと同じ不動産富豪で、ウィトコフグループの総帥です。
すでにホワイトハウスの補佐官に就任しています。
トランプの盟友らしく、イスラエル特使もしています。
スティーブ・ウィトコフ - Wikipedia
「高級不動産を扱うウィトコフ・グループを率いる同氏は、資金力のある国際的な投資家から多額の資金を確保し、不動産を販売してきた。トランプ氏のディール(取引)を重視する世界観と一致する経歴だ。
しかし、政権内での高い地位は、トランプ氏の財務を巡り生じる疑問と同様、外交で重要な役割と自身のビジネスをどう分けるのかとの疑念を生じさせる。
ウィトコフ氏はウェストウイングの執務室からインタビューに応じ、利益相反の可能性を回避するため、不動産会社と暗号資産(仮想通貨)投資から撤退し、保有資産を息子らに移転していると説明。自身の評価について、和平交渉と人質解放の「結果で判断してほしい」と語った」
(ブルームバーク3月14日)
米大統領の代理人ウィトコフ氏、外交手腕に世界が注目-政権で存在感 - Bloomberg
一方、3年間をウクライナの任地ですごし、ウクライナを励まし続けた米国の良心とでもいうべきブリンク米国大使は辞任しました。
CNN
「トランプ政権が発足し、米国の政策がウクライナからロシア寄りへと劇的に転換して以降、ウクライナと米国の関係は大きく変化している。ブリンク氏の突然の辞任もそうした変化の最新の事例だ。
ブリンク氏に好意的な見方をしているウクライナの元当局者はCNNに対し、ブリンク氏がもはや新政権では正しいことができないと考えていると述べた。「ブリンク氏は(キーウでの)3年間、非常に組織的にウクライナを支援した。ウクライナの成功のため、ブリンク氏は自身の立場で許されることを全て実施した。ブリンク氏の信念は、それと反対のことをするのを許さなかった」
(CNN4月13日)
米国のブリンク駐ウクライナ大使の辞任、両国政府から圧力か 情報筋 - CNN.co.jp
ウィトコフ、「結果で判断」させていただきます。
あんたらがしたことは、長年において米国が世界に示してきた自由主義同盟の破壊以外なにものでもありません。
「トランプが同盟国を平気で敵視することによる地政学的コストもある。大統領の側近達は、米国は欧州の将来に対してほとんど戦略的な利益を持たないと信じているようであり、それゆえに大西洋同盟の国々の信頼を失っても気にしないのかもしれない。(略)
日韓豪といった国々は、中国の力を抑制・管理するために米国と協力する意思を示してきた。それは、最終的には米が自分達を守るために戦ってくれると信じていたからだ。しかし、トランプの取引主義で、予測不可能、かつ敵意を強める行動は、その信頼を破壊している」
(フィナンシャルタイムス2025年4月5日)
‘Trump’s destruction of global alliances
このような不動産屋特有のディール、つまり目先の取引を国際政治に持ち込んで、一国の平和と安全をただのカードと見なすやり方は、自分の商売の中だけにしてください。
その発想は、不動産ビジネスや債務再編ではカネを稼ぎだしたのかもしれませんが、国際政治においては米自身にも世界の平和にとっても極めて高い代償を払う結果となりました。
この「最終仲介案」を見て、西側同盟各国は一斉に米国から引き始めました。
ヨーロッパはもはや取り返しのつかないほど米国への不信を露にしています。
ウィトコフは盛んに「商機」といいますが、ロシアのナニを欲しいのか知りませんが、その代償としてヨーロッパ全体を失いました。
ヨーロッパは米国をむしろ拒絶して新たな自由貿易圏をTPPに求めとしています。
いままで英国がTPP加盟するのさえいい顔をしていなかったのに、EU全体も加盟することもやぶさかではないというのですから驚きです。
亡き安倍氏が作ったTPPは、いまやとてつもない大きさの経済ブロックに成長しようとしています。
ただし安倍氏の想定とは異なって米国を除外して、ですが。
「欧州連合(EU)が、日本や英国など12か国が参加する環太平洋経済連携協定(TPP)との連携強化を模索している。関税引き上げを乱発するトランプ米大統領に対抗し、自由貿易を推進する狙いだ。
EUの執行機関・欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長は15日、シンガポールのローレンス・ウォン首相と電話会談し、「公平で開放的な世界貿易システムは重要だ」と強調した」
(読売4月16日)
EUがTPPとの連携強化を模索…関税引き上げ乱発のトランプ大統領に対抗、自由貿易を推進 : 読売新聞
いままでヨーロッパと米国は必ずしも考え方で歩調があっていたわけではありませんが、しかし最終的には、米国との同盟は共通の利益と価値観、あるいは理念という堅固な岩盤の上に成立しているという安心感がありました。
それが根こそぎ破壊されたのがトランプ関税であり、外交の禍々しい登場でした。
「関税によって打撃を受けた多くの政府は、経済への被害を緩和しようと、トランプと取引を結ぶために奔走する可能性がある。しかし同時に彼らは、米国による威圧的行為に対する脆弱性を減らすために、長期的な政策調整にも動き出すだろう。それはやがて、米国の富と力に長期的な影響を及ぼすだろう」
(フィナンシャルタイムス前掲)
とうとう来るところまできてしまいました。
米国は深甚な孤立を味わうことでしょう。
バイバイ、アメリカ。バイバイ、トランプ。そして呪われなさい、トランプ。
※関連記事
パンスよ、なにが「外交」だ: 農と島のありんくりん
米中貿易戦争をもう少し細かく見ていきます。
世界関税戦争の本丸ともいえる対中関税戦争ですが、なかなか面白い展開となっています。
中国の海運がガラガラとなったのは昨日書きましたが、実になんと8割の米中便が止まっているそうです。
ほとんど通っていない状況ですね。
あたりまえですが、米中にはトラック便はありませんし(あってたまるか)、空輸もありますが、軽いものしか運べないですし、高いのでごくわずかです。
なんたって海運こそが大動脈で、中国系の海運会社が仕切っていました。
現在、この中国から米国への大動脈の海運の8割以上が停止しており、郵便小包も輸送が停止する予定となっています。
中国の輸出国第1位は、こともあろうに仮想敵国第1位の米国です。
「中国貿易相手国ランキング」中国貿易で注意すべきポイント | 海外進出ノウハウ | Digima〜出島〜
輸出品目はこのようになっています。
中国から米国には2次製品が多く、逆に米国から中国には1次産品です。
ここだけ見ていると、先進国と途上国貿易のようです。
ただし、技術と資本を中国に与えたのが米国でした。素晴らしい恩返しです。
米中貿易は典型的な非対称で、圧倒的に中国からの輸出が多く、金額的には約5倍にも達します。
米国にとってはトラが病的に嫌う貿易赤字国の堂々第1位です。
前述したように、米国から中国への輸出は主にエネルギーや穀物などの一次産品である一方、中国から米国への輸出は工業製品などの二次産品が主体です。
米国からのエネルギーや穀物は行き先を変えて転売すればよいのですが、中国のそれは個別の売り手宛ての荷物ですから潰しが効きません。
そのために米国には空コンテナ山積みという風景はありませんが、中国では空コンテナの置き場さえないような状況となっています。
また中国は報復として米国のボーイング社製旅客機を不買にするといい出しましたが、米国は痛くもかゆくもありません。
ボーイングは半完成品で中国に輸出し、現地で完成させていますが、すでに返品が開始されているようです。
「アモイ航空の広報担当者は21日、同社向けの航空機2機が米国へ向かったことを認めたが、理由は明らかにしなかった。
これら2機の米国返送を決定した当事者は判明していない。
ただ、ボーイングは代わりの買い手を見つけられそうだ。マレーシア航空はこれまで、中国の航空会社が納入受け入れを停止した場合のジェット機取得についてボーイングと話し合っていることを明らかにしている」
(ロイター4月21日)
中国から米ボーイング機返送、2機目がグアム着=飛行追跡データ | ロイター
ボーイングは決して経営が言いわけではありませんが、強みはバックオーダーがたっぷりあることで、通常は受注から数年待たされるのですが、中国航空会社の塗装を塗り替えてすぐに納品が可能となるというだけのことです。
したがって、困るのは中国の航空会社です。
ライバルのエアバスは生産能力が低い上に、部品の多くには米国製を使っているために対中制裁をかけられれば手も足もでません。
中国製旅客機はあるにはあるようですが、中国でできるのはドンガラだけで、アビオニクス(航法システム)やエンジンは米国製です。
ですから、この関税戦争はチキンゲームにはなりようがありません。
これではセルフ制裁です。
ところで、いまさらですが、習近平の権力の根源は経済です。
経済が右肩上がりなうちは、いくら民主的でなかろうが、選挙がなかろうが、情報統制でなにもしゃべれなかろうが国民は耐えます。
ところが経済が低調となり、やがて崩壊の兆しが見えてくると激しく動揺します。
そしてこの中国経済は輸出によって支えられています。
日本や米国は、昨日見たように経済のけん引力は個人消費で、おおよそ6割を占めています。
しかし中国はGDPにおける個人消費の割合は40%台と低いのです。
つまり中国は、昨日見た日本と違って「中国商店街」で買いましょうという内需主導に転換することがきわめて困難な構造なのです。
ですから、対米輸出が滞り、工場が長期レイオフとなり、庶民の収入が途絶えると一気に庶民の不安に火がつき、不満の矛先は政府に向かうことでしょう。
当座、習はその庶民の怒りの矛先を米国に向けるでしょうし、臆病な習としては清水の舞台から飛び下りた気で台湾を攻めてみるかもしれません。
戦争以外でいちばん誘惑にかられるのは、しこたま持っている米国債の売却ですが、できるでしょうか。
世界一の米国債保有国は日本ですが、かつて日本が冗談半分で米国債売却を匂わせたところ、反応は激烈で、以後二度とそれを口にしなくなりました。
そのくらい過激なカードで、これを使った瞬間戦争になると覚悟したほうがいいようなものですし、そもそも売った瞬間に米国は当該の債権を無効にするでしょうしね。
そして返礼として中国共産党幹部の海外資産凍結くらい平気でかますことでしょう。これは効くでしょうな。
10月の海外勢の米国債保有額、6ヶ月ぶりに減少に転じる!中国の米国債保有額、2009年2月以来の低水準!! – 豊トラスティ証券マーケット情報
したがって米国に対抗して東南アジアを巻き込んで反トラ同盟を作るしか手がないのです。
しかしそのような強硬姿勢を取り続ければ、妥協する余地がどんどん狭まっていき、社会不安の内圧は高まっていくはずです。
また長引けば、米国市場を支配したかに見えた中国製品の多くは、アパレルや玩具などのように米国にシフトすることは容易ですから米国に回帰するでしょう。
移転が難しかった電子機器、携帯、PCは早々に追加関税からはずしてしまいましたしね。
ですから貿易戦争になれば、中国側の経済の方が打撃が大きいのは当然のことです。
このように中国にとって使える選択肢は狭いのです。
中国が深刻な経済停滞に襲われているようです。
これまでの過剰生産をなんとか強引な輸出でカバーしてきたものが、このトランプ関税で一気に宿痾の病が吹き出しようです。
強気の中国政府とは裏腹に、関税戦争の波をもろに食らって、大量の商品が輸出できずに港湾のコンテナヤードに滞留している様が報告されています。
米国への輸出企業は受注ゼロとなり、また輸出産業だけではなく、多くの関連企業が今月末からのメーデー連休明けに仕事を止めるか、労働時間を圧縮することを選択せざるを得なくなっています。
この現象は輸出企業が集中する浙江省だけでなく、蘇州、江蘇省、東莞、広東省などにも広がっています。
東経
「米中貿易戦争が激化する中、中国の主要輸出省である浙江省は、かつてない課題に直面しています。 大量の商品が滞留し、海外からの注文が急激に減少したため、多くの企業がメーデー後の業務停止や労働時間の短縮を余儀なくされています。 この現象は浙江省だけでなく、蘇州、江蘇省、東莞、広東省などにも広がりました。
中国の「メーデー」休暇が近づき、何百万もの外国貿易工場が米中貿易摩擦の影響を受け、米国の注文はほぼゼロに戻りました。 浙江省、江蘇省、広東省、その他の南東沿岸地域の外国貿易企業は、前例のない「集団休暇の潮流」を先導しています。
Douyinプラットフォームで拡散された複数のビデオによると、メーデー以降、浙江省の外国貿易企業の50%以上が長期休暇のために仕事を停止します。 この現象は、浙江省から蘇州市、江蘇省、東莞市、広東省、その他の重要な輸出都市に広がり、現在の中国の対外貿易の寒い冬の縮図となっています」
(ラジオフリーアジア2025年4月17日)
外国貿易企業「集団休日の潮流」中国の貿易業者:「数十年ぶりの経済状況」 – 北京語ホームページ
ラジオフリーアジア(RFA)は米国が流している宣伝放送なので割り引いてみていましたが、中国の独立系メディアである「財新」からの別の情報も届いています。
「埠頭のコンテナヤードに、空きコンテナが溢れんばかりに積み上がっている。こんな光景は何年も前から見たことがない」。中国最大級のコンテナ港である上海港で荷役作業に携わるオペレーターは、そう困惑した表情で話す。これは上海港だけの話ではない。中国各地の大型コンテナ港に、うずたかく積まれた空きコンテナの山が出現しているのだ」
(東経2月27日)
中国の港に「空きコンテナの山」が積み上がる事情 コロナ禍での不足から一転、深刻な供給過剰に | 「財新」中国Biz&Tech | 東洋経済オンライン
中国経済は米国市場をアテにして作られてきました。
たとえばこの浙江省は中国の主要な対外貿易地域であり、2024年には輸出が省のGDPの実に70%を占めています。
つまりほとんどが米国向けで省の経済が成り立っていたのです。
これは習近平が打ち出した「双循環」政策といって、国内経済循環と国外経済循環をリンクさせた戦略が破綻したことを意味します。
国内の輸出企業の85%以上が国内販売もしていますが、輸出が主で内需が従であるために、企業本体の経営が行き詰まってしまいました。
「浙江省嘉興市では面積2万平方メートルの倉庫内で、対外販売が滞留している商品が山積みになっている。ある動画で、撮影者が、米国では売れば本来数十ドルする商品が、今や数ドルの値段でも誰も欲しがらない、と嘆いていた。」「関税戦争によって、外国に輸出できずあぶれた商品は、まったく悲惨な状況で、米国で一着100ドルで売ることができていた洋服が、今や一トンいくらで投げ売りされている。一着平均、数セントぐらいになって、この2万平方メートルの倉庫で塩漬けなっている」
(RFA前掲)
習近平の経済政策は土地を担保にジャンジャン低利で融資して、過剰生産もなんのそので安価で売りさばいて相手国の市場を独占してしまうという方法でした。
普通の自由主義経済ですと、過剰生産は国内市場の需要の収縮により在庫過剰となって頭打ちとなるものですが、中国は無制限な海外輸出をかけることで過剰生産を続けたのです。
スゴイね、この国。まるで19世紀の野蛮な帝国主義国家だよ。マルクス先生もビックリ。
ついでに南シナ海要塞のように領土侵略もするのですから、まがうことなきリッパなオールドタイプの帝国主義です。
それはさておき当然ダブついているものを輸出しているのですから叩き売り、ダンピングです。
その結果、起きたのが市場の飽和による価格低迷と輸入国の怒りでした。
「中国指導部でさえも危惧している。中国共産党最高幹部が先月末に開いた会議では、企業間の「悪質な競争」を抑制する方針が示された。
ここ数カ月、産業界の過剰生産能力を巡る状況が一段とひどくなっている。中国の工場が生産できるリチウム電池やソーラーモジュール、鉄鋼の全てを吸収できるだけの世界需要はない。しかも、これは企業利益を犠牲にしている。
ゴールドマン・サックス・グループによると、ソーラーやEV、鉄鋼、建設機械の産業供給で半分余りが利益を上げておらず、状況は前年から急激に悪化。消費財を生産している企業にも恩恵はない。例えば、牛乳はここ14年間で最長の価格低迷に陥っており、経済をむしばむデフレの憂いが強まっている」
(ブルームバーク2024年8月22日)
【コラム】中国の過剰生産能力、習氏の統制も力及ばず-シュリ・レン - Bloomberg
中国の過剰生産はどこの国でも摩擦を呼びました。
あたりまえです。とんでない価格で売りさばくのですから、まともな競争が成立しません。
国内企業はことごとく敗北し、マネできないような高度の技術をもった高級品を作る企業しか国内には残らなくなりました。
今のわが国の国内企業が普及品は中国製造へ、国内生産は高級品にシフトしているのはそのためです。
図表1 中国鉄鋼の過剰生産能力と輸出量
(出所)中国国家統計局、税関総署、CEICより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成
(出所)中国国家統計局、CEICより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成
図表2 中国の設備稼働率(四半期)
「2024年4月上旬に訪中した米国のイエレン財務長官は、中国における鉄鋼やEVなどの過剰生産能力に対して懸念を表明し、中国政府による政策転換の必要性を強調した。バイデン大統領も同月17日、演説において「中国の鉄鋼会社は、中国が必要とするよりもはるかに多くの鉄鋼を生産し、過剰な鉄鋼を不当に安い価格で世界市場に投入している」と非難し、米通商代表部(USTR)による調査で反競争的な貿易慣行が確認され次第、中国製の鉄鋼・アルミ製品の輸入関税を3倍に引き上げると表明した。
欧州では、欧州委員会が2023年10月以降、欧州市場を席巻し始めた中国製EVについて、中国の不当な補助金が競争を阻害していないかの調査を継続しているが、2024年4月に入ってから、太陽電池関連と風力タービン関連の中国企業に対する政府補助金についてもそれぞれ調査を開始すると発表した」
中国経済の宿痾たる過剰生産能力 ─ 鉄鋼や「新三様」が貿易摩擦の火種に ─ | みずほリサーチ&テクノロジーズ
このような習近平指導部が意図的に作り出してきた過剰生産の山は、自転車操業よろしく輸出先の国の産業をなぎ倒してしまおうと、当該政府からダンピングだと提訴されようとどうしようと、カネが入ってくるうちはよかったのです。
それがトランプ関税でピタリと止まってしまったのですから、彼らの周章狼狽ぶりはハンパではなかったことでしょう。
いまや米国市場をせき止められたために、輸出製品を詰め込んで港を出て行くコンテナより海外から戻ってくる空きコンテナのほうが多くなってしまったのです。
そして中国の主要コンテナ港は、いずこも空きコンテナで埋まり、その置き場不足で港沖のコンテナ船にまで積み込んでいるとか。
ざまぁないですね。
長いので後半は次回に回しました。大幅に加筆します。
「アメリカのトランプ政権が自動車に25%の追加関税を発動してから17日で2週間となり、日本の自動車や部品メーカーも業績に深刻な影響を受けることになります。民間リサーチ会社の試算によると、今回の自動車関税で対策をとらなかった場合、大手自動車メーカー6社の営業利益をあわせて3兆2467億円押し下げるとしています。(略)
第一生命経済研究所は関税分が新車の販売価格にそのまま転嫁された場合、現地アメリカでの自動車の販売価格は平均で8.1%上昇し、新車の販売台数は12.1%減少すると試算しています」
これに伴い、日本からの輸出も減少して部品メーカーなど幅広い業種に影響することが見込まれ、日本のGDP=国内総生産を1年間で0.53%押し下げる可能性があるとしています」
(NHK4月17日)
米トランプ政権の自動車関税 発動で日本メーカーに影響 営業利益 3兆円押し下げる可能性も | NHK | 関税
当然です。今、こんなことをしたら米国がインフレ容認に転じたと思われて、ドル売りと国債が売りが激しくなります。「 ベッセント米財務長官が、パウエル連邦準備理事会(FRB)議長の解任は金融市場の不安定化を招くリスクがあるとして、ホワイトハウス当局者らに繰り返し警告していることが分かった。米政治専門サイトのポリティコが17日、関係筋の情報として報じた。
トランプ大統領は、パウエル議長の解任は「早ければ早いほど良い」と述べ、FRBに対し改めて早期利下げを要求した」
(ロイター4月17日)
米財務長官、ホワイトハウスに警告 FRB議長解任巡り=報道 | ロイター
「国内消費・投資を支える政策は通常、財政と金融の2種類。つまり政府が各種プログラムに直接予算を投入するか、中央銀行が政策金利引き下げもしくは流動性供給を通じて消費や投資を喚起するかだ。
これらの措置は総需要を拡大し、雇用を創出できる。だが物価を押し上げ、民間投資を閉め出し、自国通貨を弱めてしまう。さらに一国が財政・金融刺激策をどの程度打ち出せるかは、出発点での「余力」に左右される」
(ロイター2025年4月17日)
コラム:トランプ関税で迫られる内需型転換、アジア諸国の対応余力は | ロイター
トラさんはあいかわらず日米安保にご不満なようです。
「アメリカのトランプ大統領は日米安全保障条約について「私たちは彼らを守るが彼らは私たちを守る必要はない」と述べて不満をにじませました。
トランプ大統領は10日、ホワイトハウスで記者団に対し、アメリカが、これまで自国が不利になる取り引きを各国としてきたという認識を示した上で、日米安全保障条約について「日本とはとてもうまくやっている。しかし、私たちは彼らを守るが彼らは私たちを守る必要はない。私たちは協定を結んでいて、多くの金を払って、守っている」と述べて不満をにじませました。
そして「これは数ある取り引きのうちの1つだが、誰がこのような取り引きをしたのか疑問に思う。私たちの国を嫌っている人たちか、気にもとめていない人たちだ」と述べました」
(NHK4月11日)
アメリカ トランプ大統領 日米安全保障条約に不満 “私たちは彼ら守るが彼らは私たちを守る必要ない” | NHK | アメリカ
オレはお前を守っているが、お前はオレを守らないだって?
いつまでも同じこと言ってろ、中坊かと罵りたくなります。
この人の日本認識は、自動車にしてもそうでしたが前世紀で止まったままなのです。
日本列島は米国の国際戦略の重要な、おそらく世界最大の拠点です。
日本列島には隅から隅まで実にたくさんの米軍基地が点在しています。
この米軍基地の駐留経費にする「思いやり」支援が、トランプがのたまう「米国が日本を守るため」に支出している予算で、この支援規模は文句なく世界最大です。
おもいやり支援、硬く言えば接受国支援、横文字でいえばホストネーション・サポートで、思いやり予算とはいかにもヤニ臭い自民党国防族の匂いがします。
それはさておき、トランプ如きにただ乗りとは言わせないのは、同じ米軍の駐留を受けている「ホストネーション」であるドイツ、イタリア、韓国にはないか、あったとしても日本の半分ていどにすぎないからです。
●2002年の米国の資料による各国米軍駐留経費負担率比較
・日本 ・・・75%
・ドイツ ・・・33%
・韓国 ・・・40%
・イタリア・・・41%
では次に、何に支出されているかを見てみましょう。
「現在は特別協定に基づく従業員の基本給、米軍の訓練移転費、光熱費に加え、協定外の従業員の福利費、施設整備費も日本が払っている」
(ロイター2025年10月12日)
「思いやり予算」の改定交渉、3回目も日米の溝埋まらず | ロイター
上の写真は筆者が撮ってきた横須賀軍港の未婚者用住宅地域の看板ですが、これも日本側の「思いやり予算」で作ったようです。
この他に、 日本はレストランやバーなど基地内の娯楽施設で働く従業員約5000人の給与や建設費なども気前よく負担しています。
ゴルフ場や教会も作っています。
あと出していないのは米軍将兵の訓練費と給料くらいですが、おいトラちゃん、ここまで出しちゃうと、もう君らは日本の傭兵ですよ。
さてトラちゃんは、「日本は米国を守っていない」なんて子供のようなことを言っていますが、日本に展開する米空軍、海軍、海兵隊の航空機や艦船は、別に日本のため「だけ」に存在しているわけではありません。
日本の領空や領海を守っているのは自衛隊や海保です。
深くトラさんは勘違いしているようですが、日本だけがいわゆる専守防衛している分には自衛隊と海保だけで事足りています。
ただ世界情勢が荒れて来た場合、自衛隊だけでは手に負えない事態になると予想されるために米軍を「置いてあげている」のです。
ただし、世界最強の軍隊に駐留してもらうメリットも大いにあって、特になにもしなくてもいるだけでドーンという存在感があって、邪なことを考える外国が手を出しにくくなります。
これをプレゼンス(存在感)と呼びます。
その法的裏付けが日米安保条約第5条です。
日米安全保障条約第五条
第五条 各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。
前記の武力攻撃及びその結果として執つたすべての措置は、国際連合憲章第五十一条の規定に従つて直ちに国際連合安全保障理事会に報告しなければならない。その措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全を回復し及び維持するために必要な措置を執つたときは、終止しなければならない。
資料69 日米安全保障条約第五条
トラさんはこの5条の「日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動する」の部分が、「日本は米国をら守らない」と解釈しているようです。
逆に聞きたいもんです、かつてメルケルはNATOでドイツ連邦軍の弱体化を指摘されて、「そんなに強いドイツ兵を見たいのか」と啖呵を切ってそうです。
それに倣えば、トラよ、そんなに強い日本兵を見たいのか。
日米安保は大昔安保条約ができた当座は「ビンの蓋」とたとえられたことがありました。
また軍国日本を復活させないために、在日米軍がいるのだという構図で、表立っては否定していますが、たぶんGHQは内心はそう考えていたはずです。その流れで9条なんてもんを押しつけたのですからね。
しかし時がたち、いまや合衆国大統領閣下直々に「日本は米国を守らないからけしらん」なんて仰せです。
勝手な言いぐさです、米国どころか自分の国さえ満足に守れない憲法を押しつけておいてヨー言うよです。
憲法論議にそれると長くなるので置きますが、前述したように米空軍、海軍、海兵隊の航空機のうち日本の防空任務についているものは1機もありませんし、艦艇で日本の領海を守っている船は一隻もありません。
逆に、在日米軍基地の防空をしているのは空自ですし、陸からの破壊活動に備えているのは陸自や警察です。
また、米海軍の空母打撃群を広い意味で守っているのも、海自の護衛艦隊です。
そのために安保法制すら改革したほどです。
いまは日米両国の統合司令部まで発展しており、海兵隊は戦車部隊を捨てて第1列島選に沿った海兵沿岸連隊(MLR)に改変しています。
「中国側の「接近拒否戦略」をかいくぐって、「第1列島線」の内側にとどまり、作戦を実行することが期待されているのが、「海兵沿岸連隊」なのです。
第3海兵沿岸連隊の司令部で話を聞いた兵士は、いわば「敵のふところ」近くにいることで、相手の動きを把握し、有効な反撃を行えると強調していました。
世界では『接近拒否戦略』の課題として現れているが、われわれが存在する理由のひとつは敵の兵器の交戦区域で活動することだ。その中にいることで、敵の脅威を認識し、そして後退させる手段を提供する」
(NHK2023年5月30日)
対中国で軍の再編急ぐ アメリカ 「MLR=海兵沿岸連隊」創設の狙いは? | NHK
米軍と共に尖閣・離島を守る時代へ: 農と島のありんくりん
この海兵沿岸連隊は沿岸戦闘チーム(LCT)が主力部隊であり、これは自衛隊の石垣、宮古、奄美に展開する長距離対艦ミサイル部隊と歩兵大隊を中心に編成されています。
さらにこのLCTは、いま自衛隊が奄美、石垣、宮古に展開している対艦ミサイル部隊と相互補完する部隊です。
南西諸島では、地対艦ミサイル部隊は地対空ミサイル部隊とともに、2019年に奄美、宮古島、石垣島に配備済みです。
このように海兵隊の海兵沿岸連隊構想自体が、自衛隊の対艦ミサイル部隊展開構想に影響されたもので、一体で運用されるでしょう。
これは日本を守るためだけにいるのでしょうか、トラさん。
あなたの頭は数十年ズレているのです。
たぶんトラさんが分かっていない部分は、米国が直接、日本を「守る」ために駐留していると考えていることです。
それは半分正しく半分まちがっています。正確に言えば、「日本を守るためにもいる」のです。
これを前述したようにプレゼンスと呼びますが、「存在感」と和訳します。
微妙な言い回しですが、一般の語義どおり、「その独特の持ち味によって、その人が紛れもなくそこにいると思わせる感じ」のことです。
米軍は別に日本防衛のためにいるわけではないが、「いる」だけで、他国は世界最強の米軍が敵になるかもしれないとビビるわけです。
沖縄に米軍が「いる」というのも、このプレゼンスを中国が認識しているからです。
仮に米軍が、沖縄防衛のためにいるわけでなくても、沖縄に軍事攻撃を仕掛ければ、米軍を相手にせねばならないというのは、大変にイヤなことのはずです。
同じように、三沢の米空軍はアジア地域で紛争が起きた場合に、真っ先に乗り込んでレーダーやミサイル施設を破壊するためにいます。
横田の輸送機部隊もまた同様に、アジア地域の戦術輸送を担っています。
厚木は横須賀軍港の航空機のための基地で、米空母の運用のために作られています。
そして、横須賀軍港こそが、日米安保の心臓部です。ここにいる空母打撃群は、アジア地域のみならずアフリカ東海岸までエリアにした「動く航空基地」です。
日本はその米軍軍事力の世界拠点を提供しているのです。
そしていまや統合司令部を作って、海兵沿岸連隊のように一体化して中国に備えています。
このような世界規模のことを見通すのが米国大統領の仕事だとおもいますが、トラさんは極度の近視のようです。
SUMさん、「国家自由主義経済」とは私の造語ですが、共産党が統制する専制的で独裁的な国家経済のことです。
自由主義圏のそれのように、国家の干渉や統制を最小限にするリベラルな経済と対称させて使っています。
さて、第1回目の日米交渉が終わりました。
なんにも決まらなかったようですが、完全に米国ペースです。
「日米両政府は16日(日本時間17日午前)、米政権の関税措置を巡って閣僚級の交渉を米首都ワシントンで行った。交渉に先立ち、赤沢亮正経済再生担当相がトランプ米大統領とホワイトハウスで会談した。赤沢氏は閣僚交渉後に記者会見し、米国側から関税の取り下げについて確約を得られず、継続協議になったことを明らかにした。
赤沢氏は会見で、閣僚交渉で米政権による一連の関税措置が「極めて遺憾だ」と伝え、見直しを求めたと説明した。トランプ氏は赤沢氏と会った際に、対日交渉を最優先で進める意向を示したという。
両政府は今月中に次回の閣僚会合を調整し、事務レベルでも協議を進めることで一致した。日米双方が早期に妥結し、両国首脳による合意発表を目指すとした。
閣僚交渉には、米政権からベセント財務長官とラトニック商務長官、通商代表部(USTR)のグリア代表が出席した」
(産経4月17日)
日米交渉、関税取り下げは継続協議 トランプ氏「大きな進展」、赤沢担当相は「遺憾」伝達 - 産経ニュース
たぶんこんな中国貿易の制限も言われたでしょうね。
「トランプ米政権は関税交渉を利用し、米国の貿易パートナーに中国との取引を制限するよう圧力をかける計画だと、米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)が報じた。
事情に詳しい複数の関係者の話としてWSJが報じたところによると、ホワイトハウスが課す貿易・関税障壁を削減することと引き換えに、貿易相手国から中国経済を孤立させる上での確約を引き出すのが狙い。
米政府関係者は70カ国余りとの交渉を通じ、中国が自国経由で商品を輸出するのを認めないことや、中国企業が米関税回避のため拠点を置くのを防ぐこと、中国の安価な工業製品を自国経済に取り込まないことを要求する計画だという。
こうした措置は、中国経済に打撃を与え米中首脳会談を前に中国側の交渉力を弱めるのを目的としており、具体的な要求内容は各国の中国経済への関与により大きく異なる可能性があるとしている」
(ブルームバーク4月16日)
トランプ米政権、関税交渉を利用し中国を孤立させる計画-WSJ紙 - Bloomberg
なぜ日本が最初の交渉国になったのかわかりますね。
最弱の交渉国だからです。
余裕の笑みを浮かべるトランプの横でコチコチになって突っ立っているのがわれらが赤沢氏です。小者感満載。
自分で「格下の私に会って頂いて」というようなことを赤沢氏は言っているようですが、どうして突然予定になかったはずのトランプが飛び出てきたのかわかりますでしょう。
相手を呑んだんです。
そもそも、こんな第1回交渉に赤沢氏などという「大臣もどき」を出すこと自体非常識でした。
外交交渉には暗黙のプロトコルがあって、向こうが大統領というトップを出したら首相を出すのが礼儀です。
ベセント財務長官が出てくるのが分かっていましたから、日本からはカウンターパートの加藤財務大臣が行くべきです。
財務大臣なら関税は所轄ですしね。
できないならば、財務、外務、総務、経産、防衛という主要閣僚から選ぶか、自民党の幹事長、ないしは幹事長経験者が妥当でしょう。
最良なのは、かつての安倍政権下でシビアな交渉をしぬいた茂木氏だったでしょう。
茂木氏なら前回の日米交渉の裏の裏まで熟知し、交渉も英語でできるというこれ以上ないキャラでした。
あの人は首相という器ではないが、外国との交渉をまとめることにかけては今の自民で頭ひとつ抜けています。
赤沢氏が1番バッターで出たとき、世界はため息をついたことでしょう。
ああ、これでトランプの横暴がまかり通る、次の交渉国が大変だ、とね。
ゲル氏は、経済再生担当相という所轄官房を持たない人物を送ってどうするつもりだったのでしょうか。
ですから交渉役は、麻生氏か加藤氏、茂木前幹事長が妥当だったはずなのになんで赤沢氏を送ったのか、ゲル氏がいかに党内で頼れる「友達」がいないのか分かります。
第1回交渉役は、交渉の範囲を決定する重要な1番打者ですから、米国はトランプ御大を送ってきて一瞬で交渉範囲を確定させてしまいました。
やる前から負けです。
そもそもゲル氏くらい交渉ごとが苦手な人はいませんから。
彼の得意は評論です。
たぶん日米交渉は、対中貿易制限を呑まされて、日米安保の「おもいやり予算」を増額させられ、ドル高を容認させられ、米国武器やエネルギーはしこたま買うことになり、結局関税はほとんど負けてもらえないということになりそうな予感がします。
そして自民党、夏の参院選で大敗して下野。
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