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2008年6月28日 (土)

なぜ、日本農業は大規模化できなかったのか 最終回 農家が土地を売らないわけ

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戦後日本農業が小農(小規模農家)の大量生産から始まり、それは同時に農地の諸外国の20分の1という細切れをもたらしたということを前回お話しました。

 コメント様がご質問の「なぜ、日本農民は土地にしがみつくのか」を今日は考えてみましょう。肝心なご質問への回答まで時間がかかってしまいました。しかし、農業をご理解いただくためには、それなりの前知識がいると思いましたので、いらいらしたでしょう。ごめんなさい。

 まず頭においていただきたいのは、農地というものが政策的に極端に流動性を制限されている地目だということです。農地売買の番人というべきかの悪名高き「農地法3条」というものがあります。これは、農業者資格を持つ者しか農地を売り買いできない法律です。法人は基本的にできません。できる法人は限定されおり、有限会社までです。この法律が厳密に適用されているために、農業外からの異業種参入はできませんでした。今は3条を撤廃する方向ですが、現実には進展はみられません。つまりは、農地は農家の中だけでしか流通できない非常に特殊な地目なのです。

 農水省の頭にあったのは、小農を保護する、その基盤である農地を異業種に買わせないことが基本方針だったということがわかります。現在は、WTOに対しての危機感から、農水省は大きく梶を切って大規模化、異業種参入歓迎の方向を取り始めましたが、WTOが決着まじかでは余りに遅過ぎる気がします

 さて、農水省はかつても大規模集約化を考えたことがありました。だいぶ前で、1960年代から70年代にかけてのことです。それは大規模化と謳うと抵抗があまりに大きいので、減反政策という衣を着ました。田んぼの作付けを仮に一律2割減という政策です。これは一見、食管が財政的に持たなかったという現実的な理由に見えますが、高度成長期に農村から若年層を中心に都市労働者となっていった都市への人の流れを、決定づけようとする意図が感じられます。

 農水省はこう考えていたと思われます。今までの「作りさえすれば、親方日の丸が丸ごと買い上げてくれる」というぬるま湯的な小農保護政策から、減反ショックを与えることで、立ち行く農家と立ち行かない農家を仕分けする。そして立ち行かない農家には都市に働きに出てもらい、その土地を強い農家が買い上げて大規模集合化する。農水省は口が裂けてもそうは言わないでしょうが(言ったら大臣の首が飛びます)、本心はそのあたりにあったのではないかと私は勘ぐっております。

 そして補助金も薄く広くではなく、このような強い農家に集中的に出すようにしたらどうか・・・と。このような考えはこの時期だけではなく、今に至るも4品目横断政策、かつての地域中核農家構想の流れへと続いていきます。たぶん農水省内にも二派あるのではないでしょうか。 

 ところが、この隠されたもくろみは大きくはずれました。農水が期待していた大規模化の道を農家は選ばなかったのです。農家は揃って土地を売らず、兼業化の道を選んでしまったからです。

 いちおう農業に本籍だけ置いて、現住所の実態はかぎりなく都市の勤め人。1年で農業するのはわずかという兼業化に道を拓いてしまったのです。土地保有者兼賃金労働者というのが、現在に至るも「農家」の大多数です。確かに農家に住み、村のつきあいはしていても、実際年間1週間も農地では働きません。むしろ土地保全管理者が、荒れないためにまぁ、ひとつ芋でも植えるか、ていどの農業です。米など圧縮すればトータルで1週間以内の労働です。

 よく長谷川慶太郎さんあたりに揶揄される「農家に車4台」というのは、別に農家によぶんな金があるわけではなく、単に子供たちが皆揃って町に働きに行く兼業農家のいち風景にすぎません。しかし、この兼業農家ですら、土地は売りません。なぜなのでしょうか

 その理由の深層には、農家の「土地」に対する深い思い入れがあります。農家の自我の核心には常に「土地」がデンとあるのです。もはやDNAの塩基配列にも刻印されているように思えるほどです。たとえば、隣家との境界の寸土に口角泡を飛ばす、隣の畑をジリジリとトラクターで削っていく、隣も気がつくとやり返す。まことにいじましいまでの農家根性です。

 しかし、それだけでは説明がつかないのです。というのは、ならば公共事業にかかることをなぜあれほど望むのでしょうか。わが村にも高速道路とインターができるそうで、村はこれが自分の土地にかかるかどうか注目しています。県の複合団地ができた、湖を超える大きな橋梁がかかるという計画が来るたびに村中大騒ぎです。条件がよければ、売りたくてたまらないようにすら見えます。

 日本の地価が限りなく上昇を続け、土地を持っている限り不動産資産が日増しに大きくなり、担保価値も上昇を続けるという土地神話がありました。こんなかつての時代状況で、農家が土地を安易に手放すはずもないではないですか。なぜなら、農家ほど土地を信仰している人達はいないのですから。

 これが「農家が土地にしがみつく」もっとも大きな現実的な理由です。農地は農家しか売り買いできず、従って流動性が極端に低い資産だとしても、右肩上がりの資産価値増大という幻影にとりつかれ、担保価値により有利な金融が受けられるというメリットで農家は土地にしがみ続けたのではないでしょうか。

 そしていまひとつの理由は、農地を買う側からみれば買うメリットがなかったことです。要するに、高過ぎたのです。農地という特殊な地目は、農家しか買えず、農業しかできません。となると、農業生産で採算の合う地価相場というものがあります。妥当な地価相場は、年間収益の5年間分だと言われています。 仮に米だとすれば、反10万円/年の5年間分で50万円ていどなら、5年間の償却期間を経て合うという計算になります。しかし、それが300万円だぁ、などと言われたら誰が買いますか。実際、バブルという土地神話全盛の頃にはその相場でした。これで誰が買うでしょうか、20年もかけて償却するような土地に。

 この間の土地神話の崩壊は、わが村の農地の地価を大きく落としました。一時は反300万円超(坪1万円)、都市近郊では1000万円を超えた農地地価も、今はその4分の1ていどの相場80万円ほどとなりました。水田など30~50万円です。自慢ではありませんが、わが村は純農村地帯なので、路線価で近在一安い(笑)。

 こうなるとさすがに、土地は流動化を始めます。「誰か買ってくれないかのう」という声がようやく出てき始めます。残念ながら、その時には農業が衰退しきり、買う人とていないのですが。

 また一方、農家の内部にも土地を手放さないというか「手放せない」理由が内在していました。土地は当主(長子)の持ち物ではないのです。それは一族のモノなのです。相続にあたって、土地を分割しないように下の兄弟は相続放棄をして、長子が一括して相続をします。ですから、いわば借りを兄弟から貰った形の長子が勝手に売り買いしようものなら、大波乱です。土地を売るに際しては、親兄弟が映画「八墓村」よろしく広間に集まり鳩首協議します。ひとりでも「うんにゃ」といえばお終い。世の中、金と土地ほど確執を生むものはないのです。ですから、そうそう簡単に売れないわけです。

 そんなこんなの利害が絡んで、農家は皆んな揃って兼業、皆んな揃って土地を売らない、ということになっていってしまったのです

 そして今、農村の皆が老い、農地を耕すことはおろか、草だらけにしてしまうという耕作放棄地という事態にまで到りました。この問題については、私のライフテーマですので、また稿を起こします。また、本稿において、農協や自民農政族が果たした役割は、煩雑に過ぎるのでバッサリ切りました。これはこれで戦後農業を考える上で、大きなテーマですので、そのうちということで。

 長くなりましたので、このシリーズはこれで打ち止めとします。コメント様、これでお答えになったでしょうか。忌憚のないご意見をお待ちします。

写真は収穫直前のジャガイモ畑。

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コメント

丁寧な説明、ありがとうございます。
行政や農家、(農協や農政族議員なども?)多くの思惑や利害が複雑に絡んでいたわけですね。
(割高な食料を買わされる消費者の事はともかく)まあ、日本国内だけで見れば、それなりに何とかなっていたんでしょうが‥
高齢化にくわえ、グローバル化が盛んに言われる世の中になると、その土台から危くなっている‥そんなトコですか?
とは言え、今更世界に背を向けては、農家ですら、成り立たないでしょう。

農業問題を語る多くの場所で、未だに「人手が足りない、もっと増やそう」と言った論調が多いのを見ると、「何か違うんじゃない?」と感じる事が多いです。
大規模化というのは、要は農家の数が減る事で、農家としては苦い選択肢ともなるんでしょうが、避けては通れない気がしています。
何か機会があれば、また語ってやって下さい。

とても分かりやすい説明でした。
現状、農業は農協などに縛られているというのが現状ですね。
農地を売買できる不動産市場がないので大型併合も難しく、企業も参入しにくいため大量生産もしづらい。
このままでは関税自由化の波にのまれ、一部のブランド化に成功して顧客を確保していた農家以外には厳しくなっていくでしょうね。
ここまで真剣に日本の農業を考えている人がいることに驚きました。これからも活動頑張ってください。

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