チョーイチさんの三線その4 モロミザキさん、現る
新しい住民、モロミザキさんは、かつての自分の親類が住んでいた住居に越してきた。チョーイチさんは警戒した。外部から見れば、願ってもない新しい村人なのだが、なぜ警戒したとすれば、その理由はひとつだ。怖かったのだ。自由自在に生きていける「ゆ」(世)を作ってしまったチョーイチさんにとって、新たなこの「幻の村」の住人はうっとおしかったに違いない。
なぜか?簡単なことだ。今まで自在に生きられた自分が、他者から見られているような「気分」がする。それはあくまで気分であって、実際は違っていても視線を感じてしまう。 第一、誰か分からない。心を許せない。せっかく「孤独という悪虫」を退治したのに、どうしてコイツとつき合わねばならないのか。
たぶん、そんなところだ。昔のシマを、下帯もなしに歩くことが出来たクチョーにとって、また大嫌いな秩序が戻ってきたのだ。
しかし、チョーイチさんはクチョー(区長)だから凛々しく、新しい住民のところへ出かけて行った。モロミザキさんという住民は、オジィと同年輩であり、それもヤバかった。せめて、10ぐらい若かったらいいのに、とオジィは思ったことだろう。同年輩というのはなぜか口ごもる。
まぁいいか、と泡盛を一本引っげて訪れたチョーイチさんに、モロミザキさんはひとこと、「ワンは、飲まんさぁ」。これは沖縄では死の宣告である。とっ着けないと自分で言っているに等しい。まぁ、このあたりは本土でも同じか。
チョーイチさんが勝手にしろとばかりに見ていると、モロミザキさんはどんどんとチンヌク(里芋の一種・八頭の親戚)を植えていく。半年で荒れた畑が芋の青々とした葉に覆われていく。その間、たった2軒の間の会話はない。別に喧嘩をしているわけでもない。たまに道で会えば、「おっ」、「やっ」でお終い。幻の村から、不思議な村が始まってしまったようだ。
ところで、モロミザキさんはどのような人なのだろうか?後に分かってくることになる。
彼は若年でペルーに入植し、苦労したあげく,大きな農園を作ったが、働きすぎで酒と、当地の悪習の麻薬に染まってしまった。奥さんは自殺した。子供は親戚に引き取られた。農園も手放すことになった。そして、借財だけが残った。
親戚一堂から、抱えられるようにして沖縄に戻った。妻、子供、農園、すべてを失った。親戚から言われたそうだ。「クスリを抜け、真人間になれば、子供を返す」と。
以来、モロミザキさんは一滴の酒も飲まないと覚悟した。このようにしてモロミザキさんはこの「幻の村」に来た。
写真は、沖縄北部の潮が入る河口。
*この「幻の村」は現存します。これからこのシマの人々を何回かにわけてご紹介しますが、関係者は大多数ご健在です。しかも、あまり書かれることを好まない人ばかりです。そのため、個人ブログですが、人物背景、人物名、事件関係などは、あえていくつかの人やケースを混在させたり、脚色を加えて書いていきます。ご了承下さい。
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コメント
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展開が楽しみです。
投稿: 余情 半 | 2008年6月17日 (火) 05時26分
面白い。
本当に、面白い。
投稿: 野生のトキ | 2008年6月17日 (火) 07時45分
はじめまして!ハマタヌさんのブログは色々な話があふれ出るように次から次とあって面白いです。
投稿: ニーニャ | 2008年6月17日 (火) 20時22分