チョーイチさんの三線その2 やんばるオジィライフ
チョーイチさんの生活には電気、電話はない。新聞や手紙は、海岸のムラの共同売店(*沖縄北部独特の住民が共同で経営する売店。原初的な生協のようなもの)までしか届かない。
しかし、そもそも新聞は読まないし、手紙など来るはずもないと決めつけているので、取りにもいかない。だから、まったく不便は感じない。
郵便物は、溜まると共同売店の可愛いネェネェ(お姉さん)が車で届けてくれる。「オジィよ、元気しとるかぁ」とチヤホヤされるので、オジィはそれを楽しみにしている節もあるが。その時に、必要な食糧や雑貨品も注文する。何日かで届けてくれる。オバミーチー(おばさん)が来ると、ぷっとむくれる。素直なもんである。
大部分の野菜は家の後ろのアタイグァ(自家用菜園)で採れる。けっこうマメに作っている。もともと湧き水が豊かな土地なので、水には困らない。ニガナ、ウイチョーバー、チョーメイグサ、ハンダマ、ナーベラ、ゴーヤなどを作る。ひとりでは余るので、私たちの所にもおすそ分けでよく頂いたものだ。もっとも、帰りには、うちの卵をしっかりと抱えていったが。
料理はこなす。ある時は沖縄スバ(そば)まで打ったことがある。この話しはまたべつの機会に。
税金は払ったことがない。課税したくとも、収入がないからだと、いばる。では、生活保護をと言おうものなら、またしても、帰れと言われる。「わんはクチョーさ、ふら~んかいするな」(馬鹿にするな)。
ところが、実はオジィには立派な現金収入があったのである。ハブ採り。オジィからすれば、この山奥から転居したら、ハブ採りができなくなる。ハブは一匹ホンハブで1万円、ヒメハブで5千円で保健所が買い取ってくれる。血清をつくるのだ。「即金だからムゼーよォ」とオジィは嬉しそう。一晩で、いい時で2、3匹捕まえれば、なかなかの収入となるという寸法である。
ハブが沢山採れた翌日は、オジィは昼からシマザキ(泡盛)を傾け、三線を奏でる。枯れた、透明な音色がヤンバルの森に滲みていく。
そんな時にうっかり、私が通りかかろうものなら、「うりゃ、ニセー(青年)、寄っていかんかねぇ」。断ることは不可能だ。もう今日は仕事にならないと覚悟しよう。
なぜ、オジィひとりの村に私がいるかって?そう、チョーイチさんのたった一人の山奥生活は案外早く終わったのだった。去った村人に替わり、おかしな人達が島内はおろか、ナイチ(本土)からもやってきたのだから。
(もしかして続く)
この写真は、私の三線。オジィが弾いたら、どんなにか素晴らしい音がでるだろうか。
*この「幻の村」は現存します。これからこのシマの人々を何回かにわけてご紹介しますが、関係者は大多数ご健在です。しかも、あまり書かれることを好まない人ばかりです。そのため、個人ブログですが、人物背景、人物名、事件関係などは、あえていくつかの人やケースを混在させたり、脚色を加えて書いていきます。ご了承下さい。
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コメント
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もしかして続くのですよね・・・。ぜひ、聞きたい、でも大変だから一日に一話でいいですよ。なに?湧いてくる?
投稿: 余情 半 | 2008年6月15日 (日) 23時56分