雛が入りました! その4 ヒトにとっての幸福、トリにとっての幸福
今回は硬くしゃべればいくらでも硬くなりそうなので、できるだけかみ砕いてお話します。
私は自分の農場が「5分の3経営」でいいと思っています。5分の3、つまり稼働率6割でわが農場は回っています。上の写真はわが農場の鶏舎ですがこのような建物が5棟あります。私の同業者は、仮に5棟あれば目一杯産む鶏を入れようとします。私はそのうち3棟しか経済性には使いません。
ちょっと算盤をはじいてみましょう。私の農場では、この1棟に収容できる限界を600羽~650羽としていますから、めっ一杯入れると約3千羽です。しかし現実には、私は3棟分しか産む鶏に使いません。約1800羽~2千羽といったところです。実に千羽強の差があります。実に我ながらゼイタクな使い方です。
これを収益に置き換えてみます。産卵率8割として、目一杯10割入れると2400個/1日が生まれます。一方、6割入れた場合1600個/1日です。800個/1日の差です。これを30円/1個で販売するとして、24,000円/1日、そして月で実に720,000円、年にするとなんと864万円もの収益の差があることが分かります。どひゃ~、こんなにあるのかぁ。計算すんじゃなかった(汗)。
気を取り直して、近代畜産は、施設を高速回転させて効率よく生産することを至上課題としました(←いきなり教師口調になる)ちょうど工場のベルトコンベアーを高速でぶんぶん回すのに似ていますね。
どんどんと家畜を入れて、がんがん出荷しようという考え方です。私のようにわずか6割の鶏舎しか使わず、のんびりとやっている低速回転農場など、現代畜産農家のいわば辺境だと思われてきました。
では、どうして私はこんな辺境農法をとっているのでしょうか?それは私の農場が「一貫」だからです。さてと、ここでまたひとつ専門用語が出てしまいました。説明をします。「一貫」とは、雛から最後の淘汰まで、文字通り「一貫」して自分の農場の責任で飼うことです。
なんだ、あたりまえじゃないかと思われるでしょうが、私の農場のような「一貫」は今やまったくの絶滅危惧種、レッドブック入りです。養鶏家は、外部の育成業者から産み出し寸前の120日齢(生まれてから120日め)の大きな鶏を入れて、ものの1カ月以内で産ませることになんの疑問を感じていません。言ってみれば、苗を自分の農場で育てず、よそから買ってくるようなものです。こうすれば、仮に5棟あれば、全部に産む鶏を入れてしまえることになります。残念ながら、今や平飼養鶏も含めて、大部分の養鶏農家はこのような方法で飼育しています。(私が属するGは全員が一貫飼育です)生育技術を持たない養鶏家などざらです。ついでに言えば、完全配合飼料を使った場合、餌もなにか知らないという知らない尽くしの人すらいる有り様です。これで鶏に愛情を持てるはずもないではありませんか。
では、なぜこのような「手抜き」をするのか?理由は、さきほど述べた経営的に施設稼働率を上げられるという事以外に、雛を育て上げるというのは神経がくたびれることだからです。一昨日に入った雛の様子を見に、今日も私は夜でも見回りを絶やしません。しっかりとした硬い羽根が生えるまでの1カ月間は寝不足の日が続きます。暴風雨や台風のときには、彼女たちを守るためにつきっきりで側にいます。濡れた雛は、一羽一羽よく拭いてやってぬるいドライヤーで温め、自宅のコタツに入れたりもします。食欲がない弱った雛には餌を練って口に運んでやります。そしてうまく育った時のなんとも言えない充実感と爽快感、彼女たちへの愛情、これが鳥飼という職業の醍醐味なのです。
このようなことを養鶏農家は忘れかかっています。企業養鶏はそもそも話の外です。彼女らを採卵マシーンとしか思っていません。農家が企業と張り合えるのは、そのきめの細かい愛情なのに、それを忘れかかっています。悲しい。
養鶏農家は高い雛を買い込み、淘汰をした後にすぐに鶏糞出しと消毒をし、そして数日以内にまた産み出し寸前の鶏を導入するという作業します。過酷な腰が痛む労働で、実際、養鶏農家の職業病は腰痛でなのです。
人は毎日鶏糞出しと消毒作業をし、腰を痛め、消毒農薬による肝臓障害などを起こしたりします。一方、産み出し寸前で入れた大雛は、新たな飼育環境に馴れないためにひ弱で、おまけに私の眼からみればバカ高い値段です。これを次から次に入れていけば、年間の雛代だけで膨大なものになります。計算したことはありませんが、たぶん私のような一貫飼育の数倍ではきかないのではないでしょうか。
私の農場では5分3しか鶏舎を動かしていませんし、育成期間中は1棟5部屋のうちの一部しか使わず、大部分は遊休期間としています。鶏糞は出しません。畑でいる時にだけ、必要なだけ出すだけです。ですから、鶏糞出しなどほとんどしません。そして、しかも雛は発酵鶏糞の上で育ち、その菌相に雛のうちから馴れていく強い鶏となります。鶏舎を休ませるのが、最大の予防防疫なのです。
このように、近代畜産では、確かに入ってくる売り上げは一見大きくなったようにみえても、消毒代、薬剤費、人件費、施設費などがかさんで、農家は心身ともよれよれにくたびれ果て、腰痛を患い、そこで一回どこかで事故が起きようものなら、倒産しかねません。これではヒヨコ屋、薬屋、資材屋を儲けさせるために農家が身を粉にしているようなものです。
そう考えると、私のようなグータラが5分の3回転などと言ってやっている農法と、結局はさほどの収益的な差はなくなりました。そして人と家畜の幸福という価値を考えると、高速で突き進むベルトコンベアーから降りるのが幸せではないかとふと思うのです。
« 雛が入りました! その3 ガリで、ドジな子の死 | トップページ | TV取材が来ました »
「鳥飼の矜持」カテゴリの記事
- 農場から出ていく鶏、そして入ってきた雛 ありがとうございました、そして、ありがとうございます(2009.09.20)
- すごいなぁ、でも相当に違うなぁ・・・トキワ養鶏さんのテレビ報道を見て(2009.07.08)
- 今が盛りの蜜蜂の採取飛行(2009.06.22)
- さじ加減という鶏との会話(2009.02.20)
- TV取材が来ました(2008.07.16)
おはようございます♪
以前内閣府の発表で、9割以上の人が食の安全に不安を感じているとありました。
でも、それって知らないから・・・きちんとした情報を持っていないから、やたら無意味に不安がっているってこともあると思います。
何か業者が問題を起こすと・・・十把ひとからげで、みんなが悪い事をしているのではないかという不信感・・・
そういう意味で、ブログ主さんのように、宣伝するためのものではなく、きちんとした情報を発信するということは、大変に大変によいことだと思います♪
投稿: ゆっきんママ | 2008年7月15日 (火) 08時55分
ぶんぶんこにどんどんこにがんがんこ。
子供を産むための機械と言われたのは
鶏なの?
人間を人間として扱えない、国。社会。
ぶんぶんこは頑固!。
投稿: ぶんぶんこ | 2008年7月17日 (木) 08時44分