日本の野菜は高いのか?第1回 高い安いという前に
今度は野菜を考えてみましょう。題して「日本の野菜は高いのか?」です。
結論を急ぐ前に、いったいどのくらいの価格で農家は出荷しているのか、考えてみたことはおありでしょうか?
分かりやすく、よく100円均一なんかでスーパーの店頭に並んでいる慣行栽培の100円ホウレンソウとしましょうか。農家は、大体約50円で出していると思って下さい。栽培して、収穫して、選別して袋詰めして、ラベルを入れてだいたい50%です。これを高いか、安いと思うかはあなたたにお任せしましす。私は、先進国の物価水準を考えればかなり健闘していると思いますが。そしてその原価はたぶんその半額程度じゃないでしょうか。つまり25円くらいですね。これも作物によって大きく違います。あくまで目安です。
さて、ここからです。ややっこしいのでゆっくり理解していって下さいね。農家はこれを直接に小売りに持っていくわけではありません。小売りとの間に2ツの流通が挟まっています。
まず、野菜を農家はJAや生産団体などの集荷場に持っていきます。これが、一次卸(おろし)です。ここが、その時々、その卸によっても違うので一概にも言えませんが、だいたい手数料を8%~10%取ります。これは2次卸しまでの配送料込みです。
それを2次卸に持ち込みます。ここを「仲卸」(なかおろし)と言って卸と小売業の間を色々な形で取り持ちつ仕事をします。ここが関東各地や全国に配送するわけです。この手間賃として、これも力関係、需給関係がありますので一概には言えないのですが同じく8~10%は取ると思います。
残りが小売りのマージンです。20~30%といったところでしょうか。これも多くの店員や売り場の占有を考えれば無理なからんという利幅です。
やや見えて来ませんか。農家はたった5割(原価率はそのまた半分ていど)を稼いでいるにすぎないのです。これは先進国の人件費を考えれば、そうとうに頑張っているほうだと思います。つまりは、流通経費が5割もかかっているのです。これをして、「日本農業は非効率的だから、国際競争力に欠ける」とか「自助努力をしていない」とか言われると、やや日本農業サイドとしては「ぜんぶおれたちだけの責任かよ」とムっとなるのがわかるでしょう。生産部門だけがどうかしてもダメなのです。流通消費まで考えていかないと農産物の価格問題は理解できません。
「日本の野菜が高い」といわれる原因は、確かに農地の狭隘さもありすが、その劣悪な条件に対して日本の農家は健闘をしていると私は思っています。より大きな原因は、この複雑な農産物流通システムにあります。
もし仮にEU並に日本の農地の20倍といった大面積で栽培したとしても、原価率を10%台まで落すのはそうとうに困難なはずです。私が大規模化もひとつのオブションにすぎないと思うのはそこらあたりです。大規模化だけで解決にはなりません。流通と消費のあり方そのものを変えていかないと「日本の農産物が高い」という問題は変わりません。
日本では生産をしている地方には、いったん都市の卸売市場から農産品が戻ってくるのです。ヤレヤレですね。いったんトラックに乗って、高い石油を使って、炭酸ガスを吐いて東京の大田市場まで行き、そして翌朝には再び生産地に戻ってくるわけです。ウエルカムバック!
これは生協産直ですら例外ではなく、例にとるとパルシステムでは、私たちグループの農産物はいったん相模と岩槻のセットセンター(SC)に全部集荷してから、そこでセットされて翌朝の便で茨城の単協に戻ってきます。生産地の農産物が遠い旅をして、また生産地に戻ってくるというのは、フードマイレージの見地からしてもおかしな話ですが、今の100万人生協の流通システムではこれ以外の流通方法は考えられないのです。
生協も、単なる巨大化ではほんとうにいいものを、手頃な価格で供給できなくなっています。産直といっても、パルシステムの場合は、消費者組合員の間に3ツ流通コスト(マージン)が入ります。まず、生産団体(1次卸)→GPS(2次卸)→単協(小売り)という経路を辿るために、その分どうしても時間と経費がかさんでいきます。地域の単協が今後もっと直接に自分の地域農業と結んでいく努力が必要です。
流通卸の多重構造をひとつ減らすだけで違うと言うのはお分かりいただけましたよね。農産物の半額は流通経費ですから。
ではなぜその削減ができないのでしょうか?そうとうに難問です。これは誰かが意識的に作ったものではなく、長い時間をかけて日本社会の中に根づいてきたものだからです。卸の人は皆誠実で、働き者でいい奴です。彼らに非はありません。既存の流通が大きな幹であることを尊重した上で、それと違う流れを作っていきたいのです。
嘆いてはいけない。希望はあります。いままでのような、大量生産-大量流通-大量消費→大量廃棄というモデルを変えてしまえばいいのです。大量生産-大量流通から始まる図式にとらわれているからおかしくなるのです。
「もうひとつの流れ」を作りましょう。今の既存の生産-流通-消費を否定するのではなく、ましてや破壊するのでもなく、新しい流れを作っていくのです。否定ほど疲れることはないでしょう。いっしょに併存し、共に豊かになる方法を考えていきませんか。
このひとつのモデルが道の駅です。農家はいきなり道の駅への持ち込みですから、卸をまったく省いています。小売りである駅のマージンだけです。すると今まで出荷を小売り値の5割で出荷していたものが、いきなり生産者手取りが6割、7割にはね上がります。しかも値決めは自分で出来ます。売れなければ、価格を考えればいいし、これという自信作は高く設定すればいいだけです。買う人は、作った人の顔と名前がわかり(ただし安全性とは別個の問題ですよ)、しかも一般の小売り値より2~3割以上も安い。消費者、生産者、共にニコニコというわけです。
このような農産物を、地域で既存の流通卸を通さずに流通させていくという方法は、21世紀の主流になっていくと思います。域内流通です。
今まで広域遠方出荷が主流で、茨城だと東京を主体に考えていました。CO2をまき散らしながら、高い石油を使って遠距離市場に配送していたわけですね。しかし、生産者自らは東京の大田市場には持ち込めないが、地域の道の駅には持っていけるわけです。
このような身近な地域市場を活用し、成長させていくことも解決のひとつの途ではないかと私は思います。その他にママさんグループが農家と手を組んだり、NPOで起業して農産物を自ら作ったり、運んだりしているグループもあります。もう百花繚乱で、今後この流れは太い大きな道になっていくことでしょう。
写真は、6月のジャガイモ畑。もう収穫を終わっています。次は乾燥させているにんにく。情景もいいでしょう。中段は珍しいカボチャ。すいません品種名を忘れた。次はトラクターでの堆肥の切り換えし作業。最下段は、個人産直のお百姓の本日のお品書き。今日はこんなものをお届けします。
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お恥ずかしながら、わたしも野菜の虫食いには
一瞬「ギョッ!」を隠せない人間です。
きっと、大規模開発の都市公団に生まれ育ち、
スーパーの規格野菜に囲まれて育ったからかもしれません。
たまに送ってくるおばあちゃんの手作りの野菜や、
近所の畑から背負子にたくさん詰めて行商に来るおばあさんの野菜に、
穴があいてたり、青虫が付いてたりするのを見ては、
全然別のものという印象を子供心に持っていた記憶があります。
おっしゃる通り、消費者がもっと見る目を持たなければ、ですよね。
この歳になっても、畑からは学ぶことだらけです。
投稿: あずき | 2008年7月30日 (水) 09時16分
こんばんは!
すごい!大作!
印刷して、ゆっくりと読ませていただきますね。
ありがとうございます♪
投稿: ゆっきんママ | 2008年7月30日 (水) 21時40分
こんにちは!
そうなんですね~
漠然とは知っていましたが、具体的な内容でよ~くわかりました。
ありがとうございました。
確かに、今直売所の人気はすごいですね!
ただ、たいてい郊外の不便な場所にあるので日々のお買い物には行けない・・・
先日、あるシンポジウムの中で・・・駅前のシャッターが下りたお店を直売所にしたらいいのでは・・・
という意見が出て、私はとてもいい案だと思ったのですが・・・
投稿: ゆっきんママ | 2008年8月 1日 (金) 17時37分