日本農業が自由化されれば価格が下がるのか?その4 EUと日本は単純に比較できない
こんにちは、66ss様!いつもコメントをありがとうございます!いや、暑いですね。
当地は昨日から雨が少し降って救われました。干からびかかったカエルも元気になり、セミは短い生を謳歌しています。しかし、降るようなセミの声とはよく言ったもんで、カナカナ、ジージーと騒がしいこと、騒がしいこと、そちらはいかがですか?
さて、あなたのコメントは、色々の意味で励みになります。一見私と反対のことを言っているようで、反面ズバズバと都市住民の見方をしっかりと持って切り込むあなたに感心していました。
さて 66ss様、今回のあなたのコメントは、かつて海外安宿旅行が好きだった私にはよく分かりました。日本の農産品は「高い」と・・・。しかしそうかなとも思いました。私の経験を少しお話しましょうね。
1993年だったですかね、イギリスに行った時には1£(ポンド)180円でした。ですから、ヨーロッパは物価が猛烈に高いや、というのが印象です。今もけっこうこれに近いレートでしょう。いったんドボンしてしまえばそれなりに感覚が馴れるんですが、初めはキツイよね。特にアジアや中東からヨーロッパに入ると、いきなり生活費が数倍になりますもんね。
一方、95年にアメリカに行った時には、その正反対です。1$(ドル)なんと80円ですぜ!そこのけ、そこのけ「円」が通るって気分です。輸出企業にとっては深刻なショックでしょうが、申し訳ないことには、私たち外国にいる日本人は嘘のような物価安を享受できましたよね。
66ss様、しょせん海外での物価感覚なんてそんなもんなんですよ。絶対化はできない。為替レート次第です。あるいは、あなたは多分長期ステイか、留学をなさったのかもしれません。となると、交換レートには疎くなるでしょう。手持ちの円はすべてポンドに換えてしまってポンド世界にどっぷり漬かりますからね。
しかし、現実の国家間貿易は、為替レートが基本です。あなたのイギリスにいらっしゃった時代はいつか分かりませんが、為替レートがある以上、ある国とある国の農産物市場価格を比べるのはけっこう大変なのです。あなたが「安い」と思ったのは、あなたがた在英邦人に対してなのか、あるいはイギリスのサラリーマン庶民の所得に対してなのか、そのあたりもお考えください。
そしてもうひとつ、これはとても重要なことですが、EUは日本のモデルにならないのです。なぜでしょうか?
それはEU域内でのような、無関税,、統一生産物基準、統一生産物規格、それによる域内流通があってこそのEUの物価があることです。
このEU域内流通の自由化のために気の遠くなるようなルール作りを欧州諸国はやってきました。
マーマレード・ソーセージ論争という話があります。交渉の席でイギリスは「オレンジの皮だけで作るのが正しい」と言い、フランスは「とんでもない。果汁とスライスも入れないマーマレードなどありえない」と反論します。すると、フランスはソーセージについて「肉と香辛料のみで作るのが正しく、イギリスのようなパン粉など入れたのはソーセージの枠内に入れられない」と言い返すわけです。
パン粉入りのイギリスソーセージ、モソモソして相当にすごい味です。B&Bでずいぶん食べさせられました。しかし、これをソーセージの農産物枠内に入れられないと英国内では大変なことになるわけです。域内輸出に「ソーセージ」として出荷ができないからです。ま、あんなもんはイギリス人しか食べませんがね(苦笑)。
決着はどのようについたかはわかりませんが、これは欧州各国が皆、農業国で、その上食文化はお国柄ということをよく物語っています。こんなことを膨大な時間をかけてすり合わせたのですから、まぁ欧州人はタフというか、気が長いというかですよね。
こんな例を出したのは、いくら宗教や民主主義を共有し、生活レベルが同じ西欧諸国でさえもが、域内自由化がいかに難しいかということです。
たとえば、ジャガイモのEU域内での残留農薬数値、そうですね、硝酸態チッソの数値は2000㎎、保管したものは2500㎎と決まっていて、それを超えると域内流通ができません。とうぜん、ジャガイモだけではなく、すべての農産物にビシっと子細なEU域内基準体系が存在します。これに違反すると域内流通ができなくなります。
また、単に生産物基準だけポンとあるわけではなく、これに対応した検査・認証システムであるユーレルGAP(欧州小売店適正農業規範)があって明確に規定しています。このGAPなど、EUにとどまらず、今や世界各国の規範に発展しているほどです。ちなみに、日本にもJGAPがあります。
そして次に欧州は、地続きですから(英仏もトンネルで繋がっています)、シリーズ第2回で述べた大量安価輸送ができます。いちいち飛行機か船舶を使うしかないないわが国とは大きな違いです。
このような統一EU基準があって、それを裏付けるGAPがあり、域内無関税流通があり、そして陸上輸送が可能であるという諸条件があって、初めてEU諸国の農産物価格が存在するというわけです。ね、なかなかすごいでしょう。これがほんとうの「農産物市場の開放」という意味なのです。
66sst様、「農産物市場の開放」と言えばひとことですが、都会の皆さんはやや簡単に考えすぎておられます。ただ関税障壁をなくせばいいわけではないのですよ。入ってくる国と、受け取る側の国で先ほどでのEUのような相互の「地ならし」が必要なのです。それをしないで商魂だけで突っ走ると、この間の中国産農産物と加工品のような深刻な被害を出して、やがて消費者から総スカンを食って自滅してしまうことになりかねせん。
そしてあえてもう一点付け加えれば、EU域内では自由化しながらも、EU全体として、外国、特に米国に対してはきちんとブロックする姿勢を崩していないことです。域内は自由化し、外の地域にはあの手この手でブロックするというダブルスタンダード(二重規範)を百も承知でしているのもEUです。やってくれるなというか、見上げたものだといったらいいのでしょうか。
66ss様、これらEUに存在する農産物自由化のすべての条件がないわが国で、「農産物市場の自由化」をするということが、そうそう簡単なことではないことをご理解頂きたいと思います。
次々回で中国に触れますが、EUとは天地の差が存在します。ではまた明日。
写真は、稲穂。感動的です。出穂(でほ)から40日。収穫は9月なんにちと決まってきます。中は葛の花。いつも思いますが、こんなクズのでさえ美しい花をつけます。気がつくかないのは私たちだけです。下段は今から咲こうとしているサルスベリの花。これから満開です。やや暑苦しいけどね。野草の花は栽培種と違って、つつしみ深く爽やかです。下段は蝉の脱け殻。もう農場中脱け殻だらけです。
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