皆んな百姓になれ!実践的就農マニュアル 最終回 あなたの行く空が晴れていたらいいね
凄まじい豪雨でしたね。被害はなかったですか?ラジオが「川に近寄らないに」という放送を聞いて、ひさしぶりに川ということを意識しました。近々川について考えてみたいと思っています。
さて、そろそろ稲刈りなのですが、たぶん9月の14、15日の連休がピークだと言われていますが、どないなもんでしょうか。もっと遅れると思います。というのは、このところの曇りと温度低下で、私たち鳥飼にとってはありがたいのですが、米作り農家にとってはなんとも憂鬱な天気です。
肝心なラストストレッチで勝負という時に、低温、日照不足というのは、コメの収量でハンタラ(半俵・30㌔)/1反は違うし、なんといってもコメの味が乗らないのです。いいデンプンになってくれない。皆、空を見上げて、もう雨はいらんから、頼むから晴れてくれよと祈っています。
このシリーズも長くなって、そろそろこれでお仕舞いにするかと思っています。「現代農業」誌などで、定年就農などが喧伝されるのを読むと、おいおいもう少しリアルに伝えろよ、入る人はそれこそ清水の舞台から人生を賭けて飛ぶような気持なんだぜという気分にさせられてきました。甘いことや、成功談ばかり書き連ねた自慢話のような就農紹介記事を、安易に信用してはなりません。
ですから、あえて厳しく書いてきました。甘く書いたのを読んで失敗するより、厳しく考えて準備するほうがいいからです。現実には、すべて万全の準備でなされるようなことはありえません。それでいいのです。それが普通です。
いくつか書き漏らしたことを書いておきたいと思います。まず、資金ですが、これは条件によって大きく差がありますから一概には言えません。土地価格は80~100万円/1反をボトムにして、その数倍まで分布していると思われます。前に書きましたように、めどはそこでやろうと思っている農業収益の5年分までが上限です。それ以上ですと、土地返済の圧力が大きくなりすぎます。
また、資金は農林公庫には新規就農者支援資金のような低利の資金枠が存在します。また返済期間の据え置き2年間なども用意されています。ぜひ問い合わせて下さい。●農林漁業金融公庫関東支店☎ 048-645-5496。
農業技術を学ぶための就農研修学校として、この2校を推奨できます。有機農業も研修出来ます。●日本農業実践学園 加藤校長先生 029-259-2002 ●鯉淵学園 涌井先生029-259-2881
また初年度から順調に収益が上がるという楽観はもたないように。私の場合、初め1年間はほとんど収入がないに等しく、翌年から細々と収益が入ってきました。
ですから、初年度1年間分の生活費ていどは準備して農業に入って下さい。いきなり生活に行き詰まっての日銭稼ぎのバイトでは、意気が萎えてしまいますもんね。
特に資金の据え置き期間2年を使った場合、2年目から毎月泣いても笑っても返済がかぶってくることを忘れずに。初め2年は楽でも、その間に軌道に乗せないと大変ですから。また、出荷から振込までスパンが1~2カ月間(取引先により締めが違います。JA系は15日間)あることも忘れずに。いったん順調に経営が進めば気にすることはないのですが、初めの出荷から入金されるまでの間はとかくやきもきするものです。それだけに初回の入金はことのほか嬉しいものですが。
機械はそれなりに必要です。特にトラクターと四輪駆動の軽トラック、刈り払い機ていどは必須です。中古でもいいですから買わないわけにはいかないでしょう。昔はスコップとマンノウからやった私たちですが、人生修養ではないのですから、無駄に疲れる必要はありません。
トラクターは農機具屋さんと仲よくなって状態のいいものを買って下さい。直し直し使ううちに機械にも強くなるはずです。馬力の大きさは、その土地の形状にもよるので一概には言えません。ただあまり小さなものは銭失いかと。トラクターの前にシャボ(排土板)が着いたもののほうが、堆肥の切り返しに便利です。
ただ、ぜったいに重装備はしないこと。何から何までいきなり揃える必要もないし、追々必要に応じて買っていって下さい。重装備をして返済圧力でコケたなんて笑えませんから。
軽トラは絶対に四駆を。畑の中にまで乗り入れられますから。車というより、農機具の感覚ですね。初めは乗用車などいらないくらいで、軽トラ一台でなんとかなります。家族が増えたら貨物車バンを買えばいいのです。あれなら出荷もできるし。フツーのセダンなど10年早いと思って下さい。持っていたら売ってしまいましょう。
共同についてもうひとこと。よく新規就農者同士の共同耕作をする例がありますが、まず失敗します。そのうち別稿で書きますが、農業とは個人の考えや、労働のリズムの差がかなり赤裸々にでてしまうものなのです。一緒にやってみれば、どうして共同農場が長続きしないのかよくわかるでしょう。止めておいたほうが無難です。
農業は自分と自分の家族、自分の農場の圃場にのみ根拠を置きます。そこがしっかり出来てきて、ようやく他者と結びあえるのです。自分がうまくいかないから、他者をあてにするような弱い心だと、自分の農場すらおぼつかないと思います。自分の生きる根をしっかりと持ちつづける人のみが、他者におもいやりをもて、そして宇宙を共有できるからです。
農業は、あなたの人生や人生観を大きく変えていくことでしょう。それまでの都市の生活が、自分のうちの一部分しか使っていなかったことが分かるでしょう。夫婦のあり方や、家族の関係の持ち方も大きく変えていきます。その意味で、宇宙を変えると言っても過言ではありません。
しかも本からではなく、土を握る手と、その地温を知る足の裏、植物や生きもののわずかな調子の差異を見逃すまいと見張る眼、明日の天気を知ろうとして風の音を聴こうとする耳、作物の芳香を嗅ごうとする鼻、そして味わい尽くそうとする貪欲で鋭敏な舌。それら、都市で死にかかっていた初源の感覚を甦らせて。
農は、他者に対する愛やおもいやり、協力、いたわりといった人間になくてはならないもっとも基本的なものを育んでいくことでしょう。
「ほんとうの幸福は、自分自身や親しい人々という限られた対象の幸せを気づかうことからもたらされるのではなく、すべての生きとし生けるものに対する、愛と慈悲の心を育むことから生まれてくるのです」 ダライラマ14世
最後に、あなたの行く空が晴れていたらいいね。
もしこれを読む新規就農希望者がいたのなら、遠慮なく質問を下さい。
写真は、稲刈り間近の稲。里の墓地。田んぼの風景。杉林。よく手入れされています。
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コメント
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ほんとにブナガヤさんとブナガヤ妻さまは、がんばってがんばって今の生活を築かれたんですねえ。スバラシイの一言です
投稿: ニーニャ | 2008年8月30日 (土) 21時38分
はじめまして。
なん日かかけて拝見させていただきました。
自然の魂ってなんだろうか…。
共存しあう魂は、自然の中に空気のごとく存在する。
東京にいる私はそちらの様子を文章からイメージします。
一粒の米や、玉子ひとつのありがたさが
身にしみている農家の祖父母の日常。
また、年がら年中何かしらん 村にはやっかいな揉め事あり。そんな中で新潟の祖母は夫に先立たれたシングルマザー。苦労した新潟の祖母の日常。
文章とお写真から子供の頃を思い出します。
投稿: bianca | 2008年8月30日 (土) 22時52分
こんばんは♪
いつもコメントをありがとうございます。
尊敬します!
投稿: ゆっきんママ | 2008年8月31日 (日) 20時18分
はじめまして
沖縄で農業に就いてる方のブログサイトを検索かけてましたら辿り着き。お気に入り登録させてもらってます~。様々に御苦労されながらもある意味“自由”さが感じられます。私は、沖縄・石垣島で農業をしています。(冬場の野菜栽培が主経営)全国各地の農の現場の様子を知りたく、最近から少しづつパソコン・ネットの使い方を習得する中、全国に交流の輪が出来ればと考えています。
投稿: haisaityaaganjuu | 2008年11月 3日 (月) 15時25分