日本農業が自由化されれば価格が下がるのか?最終回 中国輸入農産物の崩壊
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さて、いよいよシリーズ最終回です。野菜類の自由化を具体的に考えてみることにします。
まずホウレンソウなどの葉物やトマト、キュウリ、ナスなどの果菜類は鮮度が命の日配品扱いです。納品翌日の夕方には割引、3日目夕方で半額以下、そして返品、ないしは廃棄です。あまりよろしい商習慣ではないと思いますが、現実にはそうなっているようです。
こうなるとチルド(冷蔵)で運ぶしかないでしょう。冷凍野菜もあるにはありますが、議論の外としましょう。日本の農産物市場が冷凍野菜一色となるのは、想像するとかなり面白い風景ですが。
チルド輸出対応ができるのは、近隣諸国しかありません。中国、ロシア、韓国、台湾といったところでしょうか。わざわざ太平洋をまたいで、安いホウレンソウを運ぶためにバカ高い航空燃料を使ってまで米国や豪州から運ぶことなど絶対にありえないし、 露は論外、韓、台は耕地が狭隘なのでたいした輸出力がありませんので除外します。
ここでやや脱線しますが、農水省は欧州とわが国の農家一戸あたりの所有農地の大きさを比較したがります。そしてイタリアは日本の26倍、ドイツはと20倍とか言って、日本がいかに国際競争力がないのか、自給率がなぜ低いのかの論拠にしています。
農水省ですらこの有様ですから、この数字のトリックに引っかかる人は実に多くて、特にエコノミストという人種はコロっと引っかかってしまい、日本農業の生産性の低さの批判の根拠としています。農業現場と農産物流通現場を知らない人たちの哀しさなのです。
日本の耕地が狭いからと言って、だからなんなのです。こんな耕地面積の大小は、国際競争力を判断することについて無意味な数字です。だって、日本の農産物はEUへほとんどいかないでしょう。逆にドイツのホウレンソウがこちらに来ますか?イタリアの缶詰トマトくらいじゃないでしょうか。農産加工品は多少来ますが、たいしたことはありません。輸入農産物で来るのはNZのにんじん、豪州のカボチャ、米国のブロッコリーなどに限られています。後は保存性がいい玉葱、ジャガイモが少々かな。
つまり、遠隔地にあって、現実に相互に貿易を行いえない地域間で競争力を論じあっても現実には無意味なのです。日本のコメの競合関係にある外国産のコメが世界中に存在しないのに、その価格差を論じるのと同じです。
となると、現実には日本の農産物市場が開放された場合、国内市場を攻略できる国はただ一国しかありません。かつて日本商社に資金と流通を提供され、国内農産物市場を瞬く間に席巻し、日本の農業関係者を恐怖のどん底につき落とした、かの中国だけです。
結論から先に言いましょう。今や、もう中国農産物を中長期的に脅威だと思っている日本の農業関係者などひとりもいません。ある大手量販店の仕入れ担当役員と話したことがありますが、こう言っていました。
「私たちの量販店チェーンは中国産農産物と加工品が地雷源だと認識しています。中国農産物はいつなにが起きても不思議ではないと思っています。
また、水と土壌の汚染が限界まできていますから、商社の担当者が言うように製造管理だけでどうかなるというレベルを超えてしまっているようです。
それでも中国とつきあわねばならない漬け物などの加工業者や冷凍食品業者は、そうとうに苦労しているようです。現在オリンピックがらみであちらが輸出規制をかけていますが、今くらいの輸入量くらいが適当です。伸ばす予定は今のところありません。一時的な増減はあっても中長期的には中国場離れは止まらないでしょう」
実は、中国農産物が過剰に安いのには理由がありました。「訳あって安かった」のです。ひとつは、人民元為替相場の不当な人為的なコントロール、第2に、農民に対する暴虐同然の収奪政策、第3に、安全性を省みない自然破壊的な収奪農法、第4にホウレンソウにシロアリ駆除剤を散布するようなコンプライアンス(規範)無視の体質、そして第4に、毒餃子事件に典型のように、明らかな人為的な事故が起きても、シャラっと居直り、あろうことか被害国側に責任をなすりつける中国特有の傲岸不遜なキャラまで暴露されてきています。
結果、中国農産物は自分で自分の首を締めてしまいました。農民反乱は相次ぎ、日増しに大きく拡大しています。数万人規模の農民反乱もあったそうです。また頼みの人民元は諸外国の切り上げ圧力に直面してジリジリと切り上がってきています。遠からず、中国製=安価という神話は崩壊することでしょう。
そしてなにより、食べる人、住む人の安全性を一顧だにしない水と土壌のすさまじい環境汚染により、農業生産自体が崩壊の危機にあります。あの国には膨大な数の水俣病、イタイイタイ病などがあると考えるべきでしょう。たぶんかつての日本の高度成長期の数百倍、いや千倍以上もの数で。考えるだに恐ろしいことです。
しかもかの国ではいかなる団体結社、言論、宗教の自由が認められていないという前近代的な国家です。ですから日本であったような反公害闘争や住民運動、農民運動など起こる余地がなく、あるとすれば追い詰められた困民による暴動となってしまうのは、この間明らかです。
中国が今の愚かしい環境破壊をただちにやめない限り、いや仮に止めたとしても中国の国土の公害汚染からの回復には気の遠くなるような時間と費用がかかると思われます。何度か申し上げているように、中国産輸入農産物を輸入し続けるということは、そのまま中国の極度に汚染された水と土を輸入することと同義語なのです。
また、中国の国内食糧市場の逼迫により、輸出力が急激に鈍化しています。食料を売るどころか、買いつけに必死なのです。農産物輸出どころか、自分の国の内需すらまかなえない状況に立ち至っています。
このようにひとつひとつ具体的に見て来ると、私には農産物自由化⇒価格が低下するという楽観的な構図は迷信にすら思えてきます。日本の農産物の流通や生産方法の改善をすることはいうまでもなく必要なことです。しかし、それはどのような新しい農-流-消の関係を作り出していくのかという見取り図を作っていかなければなりません。それなくして、農産物の一部の要素でしかない「価格」のみを論じるのは果たして正解なのでしょうか。
続けて、2本の長期シリーズをやってしまい、昔、登山で縦走をしたことを思い出しました。息が上がっています。コメはまだまだ語り足りませんので、またいずれ再論いたします。自由化問題はとりあずこれで幕ということで。
しかし、調べてみると「日本の食料品は高い」という人はがっぽりいるのですなぁ。だいたい比較の対象はアメリカですが。あの国は世界一特別で異質な国なのですがねぇ。アホみたいに広大な国土と、ヒスパニック系の低賃金農業労働者によって成立しているんですが。個別にデーターを調べないで、数字も出さず高い安いをいうんだから困る。
ちなみにアメリカの野菜はうまいですよ。意外ですが、ジャガイモ、インゲン、ニンジン、カリフラワー、ことごとくへぇ~というほど美味しい。また逆に、キューバは「有機農業大国」として喧伝されていて、住みたいような国ですが、野菜はどしぇ~というほどマズイ。
6回にわたって長々とお話してしまいましたが、日本農業を囲む国際的な状況が少しでもご理解いただけましたら幸いです。明日からは軽いテーマで行くことにします。ゼーゼー、とうぶん農産物自由化のことは考えたくないや(笑)。
写真は、早朝に巣を張るクモ。ほんとにう美しい生物です。ただしタランチュラとジョロウグモは除く。次はカラスウリの花。まだ開花していません。乞う、ご期待。次の黄色の花は、すいませんわかりません。調べておきます。次はホオズキがぶら下がる台所の窓辺。下段は栗。
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コメント
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連載、おつかれさまでした。
とても興味深く拝読していました。
世界って面白いですね。
食べ物ひとつとっても、
経済、貿易、文化、環境、外交…
あらゆる切り口があって、どの切り口からでも語れて、しかもそれらが複雑に絡まりあって。
この歳になっても刺激的なことだらけです。
というか、この歳になったからわかるようになったというか。
こういう超大作系好きなので、また期待してます。
投稿: あずき | 2008年8月15日 (金) 10時06分
ほんとお疲れ様でした♪
一息ついたらまたお米のこと・・・色々と教えてください。
歴史は繰り返されるとは言うけれど・・・絶対、公害病で苦しむ人たちが出てくると思っていました。
そうですよね・・・分母が違うんですもの、きっとものすごい数でしょうね。
それでいて・・・
中国は年収1千万以上の人が人口の7%。
最初聞いた時、7%ね~って思ったけれど、13億かけたら、なんと9千万人!
ドッピェ~!なんと日本の人口の7割に当たる!
もう、中国を当てにしてはいけませんね~
投稿: ゆっきんママ | 2008年8月15日 (金) 16時48分