地球温暖化について考えてみよう 第3回 海水面はどれだけ上昇するのかの謎
地球温暖化を訴える上で最もショッキングだった予測は、前回もふれました海水面の上昇、いや巨大な上昇でした。
上の図は「ニュートン」誌2008年別冊号に拠ります。薄い緑色が海抜ゼロメートル地帯です。次にその周りを取り囲む薄い青色が、海面が59センチ上昇した場合のゼロメートルです。そして一番外にある濃い青は、同じく59㎝上昇した場合の満潮時+高潮時にゼロメートル地帯です。これによる被害予測は、東京で322㌔平方キロ、東京の人口は415万人に減少します。この59㎝という数字は、IPCC(気候変動政府間パネル・他にも訳語あり)の第4次報告書の数字に基づいています。ちなみに、うちのカミさんの実家はモロに水没ですな。ぐはは(笑っている場合か)。
ただしこれは2100年、あくまでも約100年先の予測数値だということをお忘れなく。実際には突然起きるものではなくジリジリと毎年1.4㎜という㎜刻みで上昇するわけですから、仮に福田さんのような人が首相であり続けたとしても(悪夢だぁ~)、100年間なにもしないということはありないでしょうね。防潮壁などを建設してくい止めることになるとは思われます。
さて、この春頃までの私でしたら、この記事はここでめでたくお終いでした。しかし、資料や本を読むにつけそうそう単純なことではないように思えてきました。というのは地球温暖化問題の総本山、世界的権威であるはずのIPCCの発表する予測数値がだんだんと下方修正されてきているからです。
この図は横軸が年代です。1850とは1850年のことで2000年まで記録されています。縦軸は海水面の変化です。㎜で表示されています。(典拠/アラスカ大学北極圏研究センター所長・赤祖父俊一教授・北極圏研究の世界的権威)
このグラフでわかることは、過去100年間の海面上昇が17㎝(1年1.7㎜×100)で、また1950年代を境にして上昇率が鈍化し、1960年代には1.4㎜に落ちたことです。
ここで一点ご注意を。地球の海面上昇という自然現象にはあたりまえですが、大きな地球の自然変動があるということです。すべてが人為的なものではないのです。というのは、CO2は1940年代から増大しているとされていますから、60年代からの鈍化を人為的なCO2増大だけで説明できないことになります。この点には後の回で触れます。
さて、 下の3枚目の図は、2007年に発表された最新のIPCCによる未来の海水面上昇の予測図です。
右端の薄いグレイ部分が海面上昇の予測の範囲を示しています。
これを見ればお分かりのようにIPCCは18㎝~59㎝としています。中央の平均予測値で38.5㎝です。しかも100年後です。
実はIPCCはこの第4次報告書までに上昇率予測の書き替えを何度かしており、この回で海面上昇予測数値は下がるという奇怪なことになりました。
まず、もっとも有名で、世界に衝撃を走らせた2001年報告では、9~88㎝という大きなものでした。これがよく言われる「88㎝上昇すれば、高潮の時には1mを超えるだろう」という説の大元です。ツバルなどに関わるNPOの多くの方々はそのように言っています。
前日の記事でもお話しましたが、この誤りは、ひとつにはIPCCの海面上昇の88㎝という最大予測数値が、現在のものではなく、2100年のものであるということです。あくまでも100年弱先の数値であって、現実にはわずか数㎜の海面上昇しか観測されなかったわけです。
これを誤解して、100年先の確証もない、あくまでも予測数値でしかない88㎝の海面上昇を、現に今の上昇の数値としてして理解してしまった。そしてこれを現在のツバルの沈降の主原因としてしまいました。これに地球が危なければ危ないほど売れるという傾向があるマスコミが飛びつき、かくしてひとつの地球温暖化の偶像が生まれてしまったのです。このような現象を情報の伝達の失敗、あるいは、その一人歩きと言います。
IPCC自体は、このように一人歩きする地球危機の数値に気象学者としての危機感を感じたようです。そしてこれに下方修正をかけたのが2007年版第4次報告書です。ここで新たな数値予測として、最大値を88㎝から59㎝に修正しました。これには地球が危ないと言われるほど妙に張り切るように見えるグリーンピースhttp://www.greenpeace.or.jp/などが大いにイカって「生ぬるい」と大騒ぎをしたようです。
グリーンピースさんのお怒りはともかく、実は2007年当時既にもっと過激でセンセーショナルな予測数値が世界中に定着していました。
え~皆さん、ここで元アメリカ合衆国副大統領であり、ノーベル平和賞を、ほかでもないIPCCと共同受賞されたアル・ゴアさんにご登場いただきます。皆様拍手を!
ゴアさんは、今さら言うまでもなく、「不都合な真実」という著書と映画で、世界に地球温暖化の脅威を訴えた最大の功労者です。彼を「地球の救世主」とまで呼ぶ人達すらいます。実際、彼がブッシュ・ジュニアの有名な票をゴマかすという選挙詐欺に出会わねば、まちがいなく現アメリカ合衆国大統領はゴアさんだったでしょうから、米国民にとって、いや地球にとって実にもったいないことをしました。私も米国民だったら、間違いなく一票を投じたでありましょう。
ところで、ゴアさんはその功績も大きい一方、いささか引く言説も多々ある事で知られています。たとえば海水面上昇について、「グリーンランド、あるいは南極が解けるか、割れて海に流れ込むと世界中の海水は6.5~7m上がる」(2006年)、いやそれどころか「最悪、12~14mにもなります」(2006年)という説を出しました。
この言説の影響力は、ハーバード大卒、元ジャーナリストにして前副大統領&ノーベル平和賞、ついでにアメコミ的なハンサム(上の写真は「不都合な真実」の表紙。私もこんな顔だったら人生が変わった)というイヤミなまでのカッコよさも手伝って、すさまじいの一語に尽きました。瞬く間に世界中のプレスとテレビ局が飛びつき、まさに誰しも否定したらバチが当たるというような「不都合な真実」になってしまったわけです。
人の心理というのは面白いもので、破滅願望でもあるんでしょうかね。ゴア氏自身が一方で、6.5mと言っているのに、テレビが伝える時には、この激烈な14m説しか伝えないのですから。最大値というか、最大災厄のみが一人歩きしていきます。
いわくバングラデシュは全水没、ペキンも水没、ミクロネシア諸島も全水没・・・、彼の説を基にしたハリウッド映画「ザ・デイ・アフター・トモロー」まで作られて、地球温暖化のために大津波に会ったあげくカチカチになるというストーリーです。あの映画の愚かな副大統領がチェニー現副大統領のソックリさんだということに気がつきました?(笑)ゴアさんの怨念が忍ばれます。そして大ヒット。私なんぞこのDVDも買ってしまった。980円だったけど。
たぶん、この14m説に一番ぶったまげたのはIPCCであったと思われます。「こんな素人のヨタと一緒にされてはたまらん」とでも言いたげなIPCCの報告は、ゴア氏14m説の翌年の2007年にそそくさと発表されました。これが先ほど見た3番目の図のIPCC第4次報告書です。
このIPCC第4次報告書の最小予測値18㎝、最大予測値59㎝です。最小予測値の場合、小波ていどでしかありません。しかも年間の上昇は1.4㎜というさざ波レベルです。こうなるともう、「不都合な真実」を大絶賛していた太田光さんではありませんが、もはや爆笑問題の次元の話になってしまいます。その差を図式化したのが4番目の表です。(典拠・ビョン・ロンボルグに拠る。ただし私はロンボルグ説の総体を肯定するものではありません)
本日の締めくくりです。地球温暖化は真実です。気温は上昇し続けています。海水面も上昇をし続けています。また海水温も上昇し続けています。それを否定する科学者はほとんどいません。
しかし、その変動の幅についての予測値は複数あり、それがハルマゲドンなのか、否かはおのずと答えがあると思います。私たちは、地球環境の危機を危機としてとしてとらえるためにこそ、センセーショナリズムを排して見る必要があるのではないでしょうか。
今日始めてゴチックを使いました。変かなぁ?
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コメント
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おはようございます♪
私が見たどの内容のより、わかりやすく説得力のあるものです。
ありがとうございます。そして御苦労さまです♪
ところで、先日両親や弟が来たとき、ブナガヤさま伝授のゴーヤチャンプルーを作りました。
弟は何度も沖縄に行っているのですが、「美味しい!」と太鼓判を押してくれました。
我が家のチャンプルーはもうこれです。
ありがとうございました!
投稿: ゆっきんママ | 2008年9月11日 (木) 09時49分