田んぼの旅 最終話 田が豊かになることで、お百姓も生き物も豊かになる
そういえば、小さな魚、例えばメダカなんかは珍しくなったな、とお百姓は思いました。
いちばんの原因は、言うまでもなく、世界一の頻度と濃度で散布される殺虫剤などの農薬です。この殺虫剤をかけると、今までうるさいほど飛来してきたゴイサギやマガモなどの野鳥は、てきめんに近寄らなくなります。殺虫剤で死んだメダカやヤゴ、クモ、バッタなどの死骸をうっかり食べると自分も死ぬことを体験から知っているからです。
かつて佐渡島ではトキは別に珍しい野鳥でもてんでもなかったようです。しかし、昭和30~40年代のDDTの大量散布で一挙に全滅に追い込まれました。多かれ少なかれ全国の村でも同じことが起きていました。農家は腰の曲がるような炎天下の重労働から解放されたかわりに、「生き物がなにひとつ住まない田んぼ」を手に入れたのです。そして肝臓や腎臓を壊す日本農夫病が頻発しました。今は農民自体がトキみたいに珍しくなっちまった、とはこのお百姓のひとりごとです。
次の理由はアレだな、とお百姓は用水路と田んぼの落差の部分を見ました。今の田んぼの大部分は基盤整備されています。これは農水省の肝入りで、一枚一枚チョコマカとあった田んぼを機械が入るように大型化し、ため池プールとポンプハウスを結ぶコンクリートの用水路網(あるいはパイプライン)を作ったことです。確かに便利にはなったのですが、いいことばかりではなかった。
用水と田んぼの魔の落差
そのひとつが田に水を入れる用水路と田んぼの間に落差がついてしまい、用水路から田んぼにメダカなどの小さな魚が入ることができなくなったことです。その用水路自体も護岸がされて野鳥や昆虫などにとっては巣をつくったり卵を産みつけたりしにくいものに変わってしまいました。また、水の流れがない田んぼで産卵して、川で成長しようとおもっても、またこのギャップが禍して川に出ていけなくなるケースもでました。つまり、今まで自然に行われてきた河川と田んぼの循環が断ち切られたことで、生き物の産卵→孵化→幼虫→羽化の流れが寸断されてしまうか、捕食する生き物がなくなることで生育条件がなくなってしまったのです。
田が豊かになることで、お百姓も生き物も豊かになる
それにしてもオレの田んぼの基盤整備はひどかったなぁ、とお百姓は思い出して今さらのように腹がたってきました。だって、そうだろ、暗渠(*あんきょ/排水をよくする目的で布設される地下の排水路)に川のジャリまじりの砂を大量に入れたんだぞ。おかげでと床土の下20㌢はジャリになてしまった。あの時にはほんとうに怒って、土地改良区(*基盤整備の単位)にどなりこんで「オレの田んぼを元に戻せ」と叫んだもんだった。だって、砂地に作った米がうまいわけがないもんな。
そうです、よく勘違いされていますが、実は田んぼに生きる生き物の利害と農民の利害はそんなに差はないのです。おいしい米も生き物も豊穣な田んぼ、それこそが「いい田んぼ」だとお百姓はひとりごちました。
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