有機トマトの秘密 第2回 トマトの水への執念・それが生命力
上の写真は「有機農法G」の栽培風景です。写真の足元を見て頂くと、乾燥した地面が分かりますでしょう。これこそがパフパフ土壌、生育が始まるとまったく水はやりません。ですから、月面よろしく足跡が素直についていきます。
この「水をやらない」という農法に辿り着くまでには、いろいろ紆余曲折がありましたが、なんと言っても一番大きかったのは、心理的な抵抗感でしょうね。なんせ「水をやらない」んですぜ。われら日本農民は、毎日作物や家畜の顔を見て、「おはよう!おー元気かい?喉渇いていないか?新鮮な水やろうな」というのを美徳としていました。
その真逆の「元気か?あ、そうか、水いらないんだったよな」というのはこれもこれでツライものがあったわけです。ましてや肥料も最小限しかやらないときているんですから、篤農家ほど頭で分かっていても、やっぱりねぇ・・・という感じでした。
誤解されないように言えば、水はまったくやらないわけではありません。植えつけの前に深耕といって通常より深く耕します。そしてその時に水をたっぷりとくれておきます。つまり水を含んだ層は地下数メートルにあり、表面はパサパサとお考えになるといいでしょう。
そこにトマト苗を植えつけていきます。ただし、何度も言っていますように、いったん植えたら栽培終了時までほぼまったく灌水はしません(状況を見て、最小限の灌水をする場合もあります)。するとトマトはこの厳しい環境の中でどう生きていくのでしょうか?
深い層に水がありますから、主根は地下数メートル下の水を含んだ層に向けて、「水をくれぇ」とばかりにグイグイと根を伸ばしていきます。これが水を常にたっぷりと含んでいる土壌ならば、根はこんな苦労はしやしません。ノンベンダラリと地下数十㎝あたりで天下泰平のアーバンライフを決め込むことでしょう。かくて地上数メートルに延び何段にも渡ってトマトの果実をつける土台であり、かつ、栄養汲み上げポンプであるはずの根は、ゆるく、力弱く、そして惰弱になっていきます。
一方、主根からまるで白い網のように無数に伸びる毛根は、地下にも、また地表にも延びていきます。地中にわずかに含まれるわずかな水分や、地表表面の大気中の水分も一滴たりとも逃すまいとばかりにその両腕を伸ばしていくからです。収穫が終了し、トマトを撤去する時に引き抜くと、根から数メートルの白い毛根がまるで大きなネットのようにからみついて出てきて、なかなか抜けません。それはまるでトマトの抜かれてたまるかという生への執念そのもののようです。お百姓はナンマンダム、許せと唱えながら抜くはめになります。
では、今度はトマトの葉を見てみましょう。通常の作物、そうですねホウレンソウなどにあるツルっとしたクチクラ層は見られません。まるで産毛のような繊毛が生えているのが分かります。触ってみるとちょっとチクチクするかんじです。この繊毛の一本、一本からもトマトは空気中の水分を取り込もうとしているのです。
トマトは自分が生き抜くために必死になって毛根や産毛を伸ばし、空気中の水分を取り込もうとし、乏しい養分の中から栄養を取り出し、子孫を残そうと踏んばります。この厳しい環境で、いやだからこそ、自らの力を最大限発揮して個の生命体として生き残り、そして子孫にその命を松明のように託そうとする力こそを私は「生命力」と呼びます。
もともとあらゆる作物の中にはこの「生命力」が眠っています。それを眠らせたたままにするのか、それを開化させるのかは我ら人次第なのです。これが有機栽培トマトの味が濃く、香り高い美味しさのほんとうの理由なのです。
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コメント
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「正しく自分に絶望」「生命力」
身にしみます。
投稿: bianca | 2008年11月23日 (日) 17時25分