風土と畜産について考えてみた 第2回 欧州は農用地のうち6割しか畑にしていない!?
え~皆様、なにがバカバカしいかと言って、比べようがないことを比べる愚かさです。え、なにを言っているかと申しますと、もちろん農業の話です。
なにかと言えば、日本の農産物が「モ~レツに高い」ということをブツブツ言い、国際農産物価格なるものを尺度にして我ら農民に講釈を垂れます。だいたいが、たとえばの話、ドイツと日本の農産物価格を比べてなんの意味があるのでしょうか。こんなことは少なくともグローバル化とやらがない時代にはありえない発想でした。今、このいびつにグローバル化した世界経済そのものが問い直されている時に、農業のみが蚊帳の外に居ていいはずがありません。
こんなリクツを良く聞きませんでしたか?まずは国土が狭い⇒農地が狭い⇒大規模化ができていない⇒小規模農家が過剰な機械化をしていて非合理的な経営をしている⇒その非合理的経営を価格に転化して消費者に高い農産品を押しつけている⇒農産品の自由化をすれば農産品は安くなる、とまぁざっとこんな論理です。
この論理のキモは、一戸あたりの農用地面積です。日本の農用地はドイツの20分の1、イギリスの38分の1、イタリアの26分の1と来て、最後に参ったかぁとばかりにアメリカの数百分の1というもはや天文学的差を突きつけられます。農水省までもが、自分の農業政策がさんざん失敗したことを棚に上げて、日本農業の国際競争力のなさの根拠にこの数字を持ち出すんですから、なんともかとも、はぁ~(ため息)。
この数字はひとり歩きをしていて、日本農業をバッシングする際になにかと使われます。私はこれに疑問を感じて検証のシリーズをしたことがあります。その時に素朴な謎につきあたたったのです。調べてみて分かったのは(本ブログ8月9日記事を参照下さい)ドイツあたりだと農産物価格が日本のそれとほとんど変わらないという事実でした。「日本には農業なんかいらない派」の方々はこの事実を見てなにも疑問にかんじないのでしょうか?
なぜなら、日本とEUは機械化などの近代化において、あるいは所得水準などはほぼ同一の水準だと思われます。農用地の広い狭いが生産性や価格と直結するのならば、なぜ、EUの農産物価格が日本の20分の1にならないのかと。
その理由が氷解したのは、左の資料を鯖田豊彦さんの「肉食の思想」(中公新書)で発見した時です。表の2番めの項目の「農用地のなかで耕地の占める割合(%)」という項目に注目下さい。日本は約8割までが耕地、つまり畑と考えていいでしょう。一方、ドイツなどは約6割、アメリカにいたってはたった約4割しか耕地で使用していないのです。ですから野菜を作る畑でEUと日本を比べれば、極端な農産物価格の差が出にくいということです。
これを見た時に私は、眼からウロコがコンタクトレンズのように一枚ポロリと落ちました。なんのこたぁない、諸外国は農用地が広い、広いと言ったって、その6割ていどしか畑に使っていないのです。では何に使っているかというと、表の項目の3番めの「食糧自給率」をみれば納得します(*この資料は1960年代の古いものですが、本質的には変化がないと思われます)。ドイツの小麦の自給率は90%、アメリカなど約300%、わが国はたったの4割に過ぎません。
これは、はっきりと彼我の国の農業の作られかた、スタイル、国情を物語っているのです。わが国では農用地は米と畑専用であるのに対し、欧州は4割までもが小麦を生産し、アメリカに至っては自国が必要とする実に300%、3倍もの小麦生産をするという初めから輸出指向の農業スタイルをとっているのです。
次回はこの小麦が何に対して作られているのかをみていきます。すると、欧州、米国は日本とまったく異なった農業の姿をしていることがもっとよくわかってくると思います。
■ 今年の秋野菜は豊作。白菜も丸々と太っています。白菜漬けを早速作りました。
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