風土と畜産について考えてみた 第4回 ヨーロッパの自然と日本の気候は真逆だった
ヨーロッパと日本の気温、湿度の違いを比較した面白いデーター(下図)が鯖田豊之さんの名著「肉食の思想」(中公新書)にありましたのでご紹介しましょう。
東京とパリを比べたデーターです。上の実線が東京、下の破線がパリです。まず気温ですが、東京のピークは8月中旬、パリはそれより一カ月早く7月です。驚くのは、東京が26、7度であることに対して(今はもっと上がっています)、パリはな~んと20度にも達していないことです。
一方、もっとたまげたのは湿度です。同じ夏にもかかわらず、パリの温度が最も高い7月には湿度70%ていどです。東京は80%を超えています。
これからなにがわかるでしょうか。そう、ヨーロッパの夏の暑さのピークの山は、湿度のズンドコなのですよ!日本のように気温のピークと湿度のピークが重ならないんです!真逆なんです。
野草は暑くて、湿度という水分があればあるほどボーボーと生育します。ですから、私たちが見慣れた日本の自然風土では、夏はちょっと放置しておけば、庭でも畑でも草だらけになってしまいますね。
ところが、ヨーロッパではそうではありません。いったん温度が高くなって盛んな生育を開始し始めた野草(牧草)は、湿度(水分)が不足するために中途で生育を止めてしまうのです。つまり柔らかい若草の段階で成長がストップしちゃうんですね。
ヨーロッパの野草や牧草が家畜にとってちょうど食べるに適した硬さの若草である秘密はこの、夏の気温最高、湿度最低というところにあったのです。これこそが、ヨーロッパが牧畜に最適な環境をもたらしたわけだったのです。
フランスのラベル・ルージュ(赤札高級付加価値農産物)にブレス鶏というものがありますが、その生産基準の中に確か10アールあたり300羽の野外草地における放し飼いという規定があったことを思い出しました。写真で見ると、ダダーっと広い背の低い草地に点々と鶏が放されているのが見えます。
日本では現実問題として無理でしょう。単に空き地があるないではなくて、草の伸びる生産力に、鶏が草を食べる勢いが追いつかないからです。丈の高い草の陰から襲来するキツネや野犬の餌食となってしまいます。
これがアジア・モンスーン地帯の日本の風土です。モンスーン地帯では、高温と多湿が同時に来ますから、野草の根はガッチリと大地をつかみ、一気に背丈を伸ばします。そして一夏の間に、人の身の丈を超えるほどまでに成長してしまうのです。こうなってしまうと家畜の餌(粗飼料)には硬過ぎて向いていません。ひっきりなしの草刈りという作業という日常的な手入れが日本では必須なわけです。日本で唯一ヨーロッパ型牧畜が可能なのは北海道だけなのではないでしょうか。
畜産のみならず、有機農業と一口に言っても、欧州は日本のような野草との戦いがありません。野草の草陰で繁殖する害虫もいません。われわれ日本のお百姓とは比較にならない簡単さで有機農業を実践することができるのです。
私がグローバル・スタンダードであるJAS有機認証制度に深い疑問を持ち始めたのは、ひとつには欧州と日本の隔絶した環境風土を、世界共通の単一基準で裁断することのおかしさに気がついたからでした。
このようなまったく対照的な風土は、根本的に大きく異なる農業のスタイルを生み出しました。次回はそれを見ていきましょう。
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コメント
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新富町(酪農)でも発生してます・・・。5月16日に。総数27頭。風での感染でしょうね
頑張る宮崎!
投稿: みやざき | 2010年5月17日 (月) 07時10分