風土と畜産について考えてみた 第5回 フランス農家は田んぼでたまげた
前回でヨーロッパと日本の気温と湿度の差からくる風土の違いをお話しました。
そして「農業」という分野には世界共通などはないのだとも書きました。
ヨーロッパの農民がこれが「農業」だと思っている概念や技術も日本のそれとは大きく異なっているかもしれません。
もかれこれ20年ほど前になるのですが、フランクさんという南仏のアビニヨンで農家をやっているフランス人が私の農場にひょんなことで訪れて滞在していったことがあります。ちょうどその時は夏の田んぼの真っ盛りの時で、私は除草を手伝ってもらったことを思い出します。
真夏の除草は田車といってガラゴロと畝間を人力ロータリーで引っかき回してコナギやヒエなどの野草を取っていくのですが、ホントにしんどい作業です。足は田んぼに埋まり自由が効かず、だんだんと足がず~んとおもくなってきます。徳富蘆花が「農家は草との合戦です」(「みみずのたはこと」)と書き残していますが、草を「取る」などという生易しい表現よりも、草と「格闘」しているという気にすらなる作業です。
除草剤が登場した時に、日本農民は歓呼して迎えたのは当然です。除草剤は生態系や田の生物に悪影響を及ぼすのは皆さんもご存じなとおりですが、この盛夏の田んぼの草取りをやってみてから批判して下さいというのも、私の気持ではあります。
さて、フランクさんはこの仕事を丸一日泥だらけになってやって、夕刻のビールを酌み交わしながら「こんなことを日本の農家はあたりまえにしているんですかぁ!フランス人なら1週間ももたないで~す。日本農民、とれびぁ~ん」と感嘆していました。彼に言わせれば、彼の農園の麦など耕して、施肥して、麦の種をぶん蒔いて、後は収穫までなんもすることはないのだそうです。
牧草に至っておや、です。私は低く生え揃った牧草が丁寧な管理によるものだとばかり思っていたのですが、違うようです。放っておいても雑草は生えないのですから。
この過酷な水稲の労働は驚くような米の奇跡を取り出しました。横の図をご覧下さい。これは無肥料でどれだけ収量が低下するのかを見た実験データーです。水稲はまったく肥料をやらずに連作をしても74%にしか収量が低下しません。一方同じ稲でも陸稲(おかぼ)になると麦とほど一緒の35%ていどにまで落ち込むのがわかります。つまり、水耕栽培という魔法により、絶えず田に流れ込む水の中にある里山から染み出す養分やミネラルによって収量が保たれ、連作障害を起こす物質も水で流されていっているのです。
方や陸作では、毎年施肥をし、圃場を変えなければなりませんでした。それをしてすら麦などの陸作は水耕栽培の米と比べて悲しいような収量しかなかったのです。それを次回に見ていきます。
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