鎌田實 先生と中川恵一先生の癌対談
がん対策基本法の狙い
東大の放射線科の准教授、中川恵一先生と毎日新聞の仕事で対談をした。
中川先生とは『がん 生きたい患者と救いたい医師』(三省堂)という本を共著で出している。
今まで対談もやっており、今回が4回目だ。
がん対策基本法をつくるうえでは、かなり大事な役回りをした一人だと、僕は勝手に思っている。
乳がんは、1センチの大きさになるのに15年かかる。
直径1センチから10センチになるにはさらに5年、そのころには手がつけられなくなる。
1センチ以内で見つけるのはとても難しい。
だが、1センチから2センチになる1年半の間に、見つけることはできる。
だから、年に一度、がん検診が必要ということになるのだろう。
日本のがんの検診率は20%。
これを何とか50%以上にしないかぎり、がんでの死亡率を下げることは難しい。
たばこをやめること、健診を受けること。
そして、大腸がんなどは、軽い運動をすることが、あきらかに効果があることがわかっている。
赤や黄色、緑の色素の入った野菜を多く食べることもいい。
がん対策基本法の話になった。
この法律そのものが、「がんばらないけど、あきらめない」ことだと中川先生は言った。
僕のフレーズを使いながら、うまく説明をしてくれた。
がん対策基本法は、がんの三大治療である、手術、放射線治療、化学療法をバランスよく充実させることを一つの大きな目標にした。
手術や化学療法はがんばる治療であるが、放射線治療はがんばらない治療だ、と中川先生は言う。
脳に転移があっても、骨に転移があっても、あきらめずに放射線治療をすることで、しばらくの間、いい時間を過ごすことができる。
前立腺がんや食道がんでは、手術と放射線治療はほとんど効果は同等というデータが世界中で報告されている。
だとすると、高齢の場合は放射線治療を選んだほうがメリットが多いという場合が出てくる。
まさに、がんばらないけど、あきらめない治療なのだ。
放射線ががんに効くしくみというのも、意外に知られていない。
喉頭がんの放射線をあてると治るが、これは免疫なんです、と中川先生は言う。
がんは自分の細胞からの突然変異なので、免疫はなかなか異物とみなすことがむずかしい。
がんと闘うマクロファージなどは、がんを異物と同定することができず、見逃してしまうのだ。
だが、放射線をあてることによって、がんの隠れ蓑であるステルスを消してくれる。
それによって、がんがはっきりと異物と同定できるようになり、マクロファージががんを必死に食べ始める。
そして、喉頭がんが消えていく。
放射線で被爆をさせて、がん細胞を壊しているのではなく、
ステルスを消して、マクロファージに食べさせているのである。
なかなかわかりやすいなと思った。
もちろん、悪性リンパ腫のように、がん細胞にアポトーシスという細胞の自死をおこさせるものもある。
がんの痛みに関して、ぼくたちの国は、積極的ではなかった。
モルヒネは、カナダやオーストラリアの7分の1の量しか使用されていない。
医療用麻薬の使用量は、アメリカの20分の1である。
日本の医師は、患者の痛みに関して鈍感であった。
これをがん対策基本法では改善し、患者さんを痛みで苦しませないようにしようというのが、二つ目の大きな狙いだ。
そして、がんを早期発見するために、検診率を上げ、がん登録を推進して、がん治療の効果判定が科学的に同定できるようにしようというのが、がん対策基本法の考えなのだという。
がん対策基本法では、緩和医療の充実を強く後押しをした。
がんを治療をする外科医も内科医も、5年間に10万人が学ぶことを目標に、現在すすめられている。
だが、現実はまだまだ厳しい。
がん患者を救うはずのがんの拠点病院で、がん難民を生み出しているという現実を、中川先生も鎌田も指摘している。
この指摘にご不満のある厚労省の局長もおられたが、中川先生もぼくも、たくさんのがん難民が、大学病院やがんセンター、癌研、そのほか多くの拠点病院でつくられていることはよくわかっている。
いまの在院日数が病院の収入に影響するようなルールがあるかぎり、がん難民はある率、生じてしまうのである。
医師が忙しすぎることも、大きな原因である。
お産難民が母子の総合医療センターなどでつくられている。
救急医療のたらいまわしで、救急医療難民もつくらている。
この現実をきちんとふまえないといけない。
患者を救うのは、医者の仕事だけでは限界がある。政治の仕事が必要だ。
医療費の抑制政策をしていては、この問題を治すことはできないだろう。
■鎌田實先生のブログ「なげださない」から転載させていただきました。ありがとうございました。
「なげださない」http://kamata-minoru.cocolog-nifty.com/blog/2008/12/post-1bcd.html
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