必要とされる有機農業・伸びない有機農業 その6 日本農民の土づくりの歴史をJAS有機認証は否定していった
昨日に大地を守る会の茨城県の生産者の新年会がありました。私がはしなくも幹事となってしまって、まぁそれなりに気ぜわしくも、楽しいひと時をすごさせていただきました。
おまけに、翌朝帰宅時に車をぶつけるという椿事も引き起してしまい、イヤ~参った、参った。
新年会の折りに、横に居た生産者に「JAS有機認証はどう思うよ」という問いを投げられました。耳が痛い。私は正直にこのようなことを応えたと思います。
「外国産有機農産物に道を開いてしまった法律で、有機農業にはなんの助けになるどころか障害物と化してしまったと思っています。ですから、今有機農業者にボディブローのように効いてきて体力を失わせています。これなら取らねば良かったという声さえ上がっているほどで、苦労して取った認証を自ら辞退のする人が私のグループでも出始めました」
「私自身、かつて10年ほど前に反対の立場から、旗を振った立場に変わったことを今は間違ったと思っています。ですからその総括をキチンとせねばならない立場です」
ま、実際は酔っぱらってもっとクドクドしていましたが、「まぁ責任とってガンバレや」と一献をいただき、いや、まったくありがとうございました!私にとってこんな重苦しい記事を書くのも、責任の一端を果たすためなのです。ああ、シンド。けど、ヤンド。
というのも、私が知る限り、JAS有機認証を実際取得した農業者やグループの責任者が総括をしたことをついぞ読んだことはありません。流通で、宣伝めいた書き方で説明してある本はいくつか存在します。あるいは、もともと取得しなかった人達の皮肉めいた見解はたまに風の便りで聞きます。
しかし、JAS有機認証の立ち上げ初期に組織的に全力をふり絞り、結果、その矛盾を力一杯背負ってしまった立場で書いている人の話は寡聞にして知りません。酔狂にも私のこのブログ記事がかなり初めのほうではないのでしょうか。たぶん、これすらも公的な文書としては発表する場所もないのも確かで、個人の責任において自分のブログでひっそりと書くしか方法がないのもこれまた確かです。
もうそのくらいJAS有機認証は農業の中や市場に浸透してしまったということですし、今さら廃止しようもないほど存在感があるということでもあるわけです。ただイヤミをひとこと言えば、唯一浸透していないのは、かんじんの消費者の中にだけじゃないですか!(笑)。
上の写真は私の出身母体のヤードの写真です。「農林規格JAS有機認証取得」とうれしそうですね。そう、実際この看板をかけた2001年の頃は嬉しかった。「2001年有機の旅」なんて高揚した気分がありましたっけね。
足掛け2年にも及ぶわけのわからない法律文言の理解があり、それを現場運用するにたいする理解、そしてそれを仲間の生産者や流通と共有する困難さ苦労と、何重もの困難なバリアーを乗り越えての取得でした。考えてみれば、日本農業で前代未聞の基準作りだったのですから、当然です。ですから、嬉しさのあまり看板まで出しちまったってわけです(苦笑)。
さて、数々の障害を乗り越えてJAS有機認証につきあってみると、コヤツは実に性悪の法律でした。なんつうのか、ガチガチに頭の堅い、ひねこびた優等生タイプというかんじでしょうか。ほら、クラスにいるじゃないですか、体育とか遊びではまるっきりダメだが、お勉強が大好き。その勉強も丸暗記系が大好き。友達づきあいは苦手だけど、教師には受けがいい。成績は1番だが、人望がない。ゼッタイにお友達や、ましてや飲み友達などにはしたくないよな、こんなタイプ。これがJAS有機認証クンでした。
最大の問題は、そのお役人様的杓子定規さにあります。それは「使用可能な有機資材」という農業のある意味、実際の運用の核心でいかんなく発揮されました。やや専門的な領域なので、できるだけかみ砕いてお話をしたいと思います。
昔、そうですね、かれこれ15年ほど前かな、私の尊敬する篤農家の稲作栽培ノートを頭をすりつけるようにして見せてもらったことがあります。
そこには、元肥として、骨粉、カニガラ、ナタネ粕、米糠、そして中期の追肥としては、硫安を20㌔、穂肥(*出穂しての最後の追肥)として過石(*過リン酸石灰/リン系の肥料)などが上がっていましたっけ。その場で必死に暗記したものです。
結論から言いましょう。この篤農家が長年使ってきたこの資材は、JAS有機認証においては米糠以外すべて「使用禁止」です。あるいは使えるとしても、その製造工程において一切の化学物質を使っていないという証明書を、製造元から正式に発行してもらう必要があります。
過石は、戦前から使用されてきた長年日本農業で堆肥作りで活用されてきた貴重な肥料です。原料は自然の鉱石ですが、その製造工程で唯一硫酸を使用してしまうために化学肥料へと分類されてしまったのです。ナタネ粕、苦土石灰、尿素などとというオーソドックスな肥料もすべて同じ理由で否定に等しい扱いを受けました。
これらは長年日本の堆肥作りの中で、安全性が確証されてきたものです。単に製造工程で硫酸を使ったことで安全性が損なわれますか?ありえない。ぜったいにあえない。むしろこれらの単肥(*たんぴ/単一の成分で作られている肥料)は、有機質の厩肥(*きゅうひ/家畜の糞尿由来の肥料)や、落ち葉、バーク(*木屑)、のこくずなどの植物質の肥料を混ぜ合わせる中で、非常に優秀な肥料となっていったのです。
この長い日本農民の土づくりの歴史をJAS有機認証は頭から否定していこうとしたのです。その替わりとしての代替物として許容したのは、例えばフィリピン産のグアノ(*アホウドリの糞が鉱物化したもの・孤島で採れる貴重な鉱物なため今は入手困難) などの外国産の高価な資材でした。国内の石灰から出来る資材を禁止し、CO2をまき散らしながら輸入する高価な外国産資材に依存せよというわけです。
JAS有機認証には「軽重の論理」がないのです。なにが大事で、なにが軽いのかという生きている農業を判断する基準を支える真の価値観がないのです。あるのは、ただ「化学物質を使ったのか、否か」という硬直した規範だけです。これですべての農の営みをビシッバシッと断罪するのだから、現場の農業者はまったくたまったもんじゃありません。
あ~、頭の悪い秀才ほどタチが悪いものはないと私は嘆息しましたね。このようなJAS有機認証の基準の内実が明らかになるに伴って、むしろ真面目に土づくりに取り組んできた篤農家はそっぽを向きました。「苦土石灰の何が悪いのか?」という私の師匠に対して、私はひとことも弁明できなかったのです。師匠は、その技術と精神においてもっとも優れた有機農業者でありながら、このJAS有機認証には来ることはありませんでした。
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