日本農業はこうして腐った その2 農業、かくも幸福な稼業?
旧聞になりますが、一昨年、遠藤農相が辞任しました。わずか数日間の任期でした。赤城氏、故松岡氏と並んで続けざまに3人です。私はこの事件でとても憂鬱になりました。
自民党のワルの首が 取られて民主党政権が接近してメデタイなどとという気分には到底なれないのです。
皆さん、この事件でなにを感じられましたでしょうか?自民党政権の腐敗?いえいえ、そのような表層のことだけではなく日本の農業そのものが根っこから腐っていることをお感じになりませんでしたか?
なぜ、かくも農相ばかりに不祥事が続発するのか、しかも今まで比較的に地味だと思われていたこのポジションに続発するのか。3回連続というのはタダごとではない。
日本農業は金まみれです。これほどまでに税金が注ぎ込まれた産業分野は他に知りません。あきれるほど多種多様な戸別農家への補助金、巨額の基盤整備事業、農業団体や農業共済団体への補助などは他の産業には見られないものです。
都市の商工業者で、そうですね、たとえば板金プレスの町工場が機械を買い換える時に補助金がつきますか?運送業者がトラックを買い換える時に補助金がもらえますか?国民金融公庫や信金にお百度参りをして融資をもらっています。それどころか少し前までは貸しはがしなどという目にもあってきました。多くの商工業者は買い換えのための資金を積み、コスト計算をして経営をしています。
町工場の親父が、機械の8割はタダになるよ、いや倉庫だってほとんどタダだよ、同業者のハンコを借りてきて組合をデッチあげて、いったんもらっちゃえばあとは監査なんか事実上ないよ、と聞いたら目を剥くでしょう。こんな馬鹿げたことがあった、いや今でもあり続けているのが、わが農業の世界です。
農家の倉庫に行ってみて下さい。仮に大きなトラクターがあるとしますね。そのトラクターには「平成○○年度農業基盤強化促進事業」だとか補助事業の名前が書いてあるかもしれません。あるいは書いていなくとも、近代化資金や、そこに跡取りがいるなら多くは後継者資金で1%、ときには0%利子(!)、しかも2年据え置きつきで買ったものも多いのです。
それどころか、倉庫自体も近代化資金で半額以上の補助をもらって作ったものかもしれません。やれ、家畜糞尿が社会問題だといえば「家畜糞尿等適正処理事業」(仮名)ナンジャラなどという補助がでて搬出用トラックがほとんどタダで買え、それを耕種農家に置かせてもらう堆肥場がいるとなれば今度は農家の側にも補助がつき、切り返すタイヤシャボが欲しいとなればこれまたタダ同然で買ってもらえる。このご時世にこんな「幸福」な業種はほかにあるでしょうか?
このやり方は実に簡単です。3軒農家が集まってハンコを借りて組合のひとつでもデッチ上げ、それを受け皿にして補助金を呼び込むだけです。もらった後は、形式的な監査しかありませんから事実上私物化しても誰も文句は言わない。酒を一本もっていって、別な時に自分のハンコを貸してやるだけです。
どうして年間売り上げが多くて1000万円かせいぜいが2000万円ていどの農家が、アタッチメント(付属品)まで入れれば800万円以上もするトラクターを買えるのでしょう。もし、真剣に農家経営の回転を考えたら、そのような重装備が経営破綻をもたらすのは目に見えています。にもかかわらず、できてきた、それをやらせてきたのが補助金農政なのです。
わずか1反、2反の水田に6条植えの田植え機やコンバインを皆が買い込み、年に数日しか使わず、いつもは自分は街に働きに出かけている。農家をやるのは年間に1週間ほど。こんな農家ともいえない「農家」を増やしたのもまた減反という形をとった巨大農業トラストです。この減反政策を維持するためにMA(ミニマムアクセス)米を買い込み、それを100億円に近い税金を投入して保管しているというのも、また形を替えた助成金と言えるのではないでしょうか。
あるいは、減反と引き換えに転作奨励の大豆や麦を植えるだけ植えて、手もかけず「捨て作り」にしてたいした収穫にもならないが、できようとできまいと国が所得補償をしてくれる、こんな経営ともいえない農業経営を許してしまったのも同根です。
そして、転作奨励の大豆栽培のために多くの汎用コンバインが助成金で導入されました。それの末路をご存じでしょうか。大部分が、ろくに使われもせず、手入れもされずに、クモの巣だらけで農家の納屋でスクラップになっています。こんな農業機械が一体わが村に何十台あるのでしょう。見当もつかないほどです。
このようなことを1960年代以降綿々と50年間、2世代に手が届く長きに渡ってやって、農民がダメにならなかったらかえって不思議です。今や日本農民には何か国が「してくれて」あたりまえ、いったん補助が切れると泣いたり怒ったりするという奴隷根性がしみついてしまいました。まず、自らの足で立とうとする前に、補助金を頼りにして、自前の経営を組み立てる前にハナから税金の補助金を当て込んで考えてしまう。
日本畜産の自立を掲げた飼料米作りなどの飼料自給運動すらもが、当初から行政の助成金をコスト計算の中に折り込んでしまっている始末です。実に4割もの助成金を貰いながら、「自立」を語ることのおかしさに気がつかないのです。やんぬるかな。
農水省やJAが産地指導と称してなにを作れ、産地形成しろというと、自分でマーケティングもせずに盲従してしまい、失敗すると農政を恨んででしまう。いつから日本農業は、自立した農業経営者の魂を失ってしまったのでしょうか。この砂糖菓子にむらがるアリのような貧困な精神を捨てない限り、日本農業の自立など百年清河を待つというべきでしょう。
■写真はアルゼンチンの霧に煙るフィツロイ。中はイグアスの滝。下はブエノスアイレスのボカ地区のカミニート。(カミさん撮影)
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