「減反・この日本農業の宿痾その3」のコメントに答えて その2 9割の低関税と、1割の超高関税
前回からの続きです。いただきましたコメントについて「タリフライン」(関税品目)だけの説明で終わってしまって、私の意見を述べる紙幅がなくなってしまいました(汗)。
このコメント氏様は今まで何回か頂いている66CC様と同一のお方なのかな?いずれにせよ、発想が非常によく似ております。
コメント氏はまず「タリフラインは消費者が払うものではないので関係ないだろう」と言います。初めは何をおっしゃっているのかわからず、首をひねったものでした。というのは関税は別に国が支払うものではなく、輸入された当事国の消費者負担だからです。たぶんこのように氏は言いたいのだと思います。
日本の農産物のタリフライン(関税品目)が多く、障壁が高いので、実態として輸入ができない。「コメ、コンニャク、麦、乳製品などは馬鹿げた高関税だ」。そして文中にはありませんが、この論理の延長線を勝手を承知で付け足すのなら、「こんな一部の農家のための高関税のために、日本の消費者は不利益を被っている」・・・とまぁこんな感じでしょうか。まぁ、失礼ですが、言ってはなんですが、ステロタイプの日本農業高関税論ですな。特に目新しい論点はありません。
そこで上のグラフをご覧頂きたいと思います。出典は「現代の食糧・農業問題」(鈴木宣弘 創森社)です。データーは2000年のウルグアイラウンド終了時のもので、やや古いのですが、まぁ現在も大きな差異はないと思います。
これはタリフライン(関税品目)ベースですが,これをコメント氏のように「関係ないよ」と一蹴されると、有税品目というゼロ関税まで含んだ指標しか他に国際比較するものがないのです。もし、他にコメント氏様にお考えがおありならご教示下さい。
グラフを見れば一目で、日本がWTOの超優等生であることがわかりますね。そりゃそうだ、日本の国是は戦後一貫して貿易立国、つまりは輸出依存でした。そのような体質の国が自分の国の関税ガードを高くしておいて、輸出攻勢もないもんだからです。
米国のような世界中から輸入を吸い上げることで、ドルという基軸通貨をポンプのように世界に循環させていたという特異な構造の「ドル帝国」(これの危険性が去年末にバレたわけですが)と比較するほうがおかしく、もしどうしても比べるのなら、国の面積や生活レベル、工業化水準が近いEUでしょう。
EUは、19.5%、日本は11.7%です。ノルウエーなど127%です。これでも日本が、関税が高いというなら、なにを見てそう言っているのか論拠のデーターをみたいものです。
でなければ、スーパーにあんなに外国産農産物が溢れますか?牛肉や豚肉の半分は米国や豪州でしょう。果汁の大部分は外国産です。今のリンゴ農家の危機の原因は、この果汁にシフトできなくなったことにあります。また、農産物の多くは平均3%以下で、これを超えるのはコメント氏様のご指摘のようにコンニャクや落花生、エンドウマメです。消費者が買う主要な農産物である青菜類やキャベツ、カボチャ類などの野菜は関税ゼロ、ないしは低関税です。
今、国産の野菜が盛り返してるのは、関税のガード故にではありません。あまりに度はずれて中国産がハチャメチャだったってことです。そして、安全安心の「国産プレミアム」が認知されてきました。またこの「国産プレミアム」の浸透には、地域の農産物の直販所の浸透拡大も大きかったと思います。
福神漬けの袋にまで「国産野菜使用」と堂々と書かれる時代にとりあえずなりました。これはこれでまた大変な問題も食品流通のプロ中のプロである余情半さんに怒られそうですが、とりあえず日本農業の曲がった首が少しだけ正面に向いたようです。
こんな時代の中で、コメント氏様はなにをどうしたいのでしょう?コンニャクが高いのは、日本の山間地が産地だからで、関税ガードをなくすと山間地経済がそれでなくても危機なのに、いっそう危機になるからです。だいたいコンニャクやエンドウマメが高関税だって消費者になにか不都合がありますかね(苦笑)。こんなていどの関税なんか世界各国の常識ですぜ。コメント氏様は味噌もクソも一緒にしている。
米の高関税とコンニャクを一緒にしてはいけない。コメント様、焦点を絞りませんか?どの国でもやっていることと、ほとんどの国がやらないコメのような高関税を一緒にしてはいけない。
日本の農産物はもはやノーガードに近いのです。ただし、コメ、麦を除いて。9割の低関税、ないしはゼロ関税と、1割あるかなしやの超高関税が同居しているのがわが国の農産物の構造なのです。この特異な構造をコメだけ取り出して、あたかも日本の農産物全体が高関税で守られているので、消費者が損害を受けているといったデマ同然の説が平気で流されています。
このように日本の農産物の関税は非常に特異極まる構造をもっています。コメと麦だけが特出して高く、多分国際的にも最高の高さです。(下図参照)だから、諸外国からWTOの交渉で叩かれまくるわけで、叩かれれば叩かれるほど、財界からは「いつも足を引っ張る農業界なんとかせーや」といわれまくり、一部の経済評論家は「日本は高付加価値の工業製品を輸出して、いっそ日本は農業なんか止めてしまって安価な米などの農産物を買えばいい。そのほうが消費者の利益だ」という言説を許してきました。
そのような風潮に危機感をもったのが農水省とJAです。そして自給率低下の危機をアジり、自給率とはそれ自体なんの関係もない米を食べることが自給率向上につながると提唱し、MA米を大量に買っているあるまじき恥部を糊塗しようとしました。
なぜ、このような奇妙な自給率向上運動が出来てしまったのか、ほんとうに日本農業が強くなるにはどうしたら良いのか、そこを直視しない議論は、現実には無力です。なぜなら、日本農業の根幹である米作は、減反という巨大な病根を抱え持っているからです。減反を続けたいが故に高関税を維持し、高関税を維持したいがためにMA米を買い込むという負の循環をどこかで断たないと、日本農業の蘇生はありません。
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コメント
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でもその減反も結局は生産者つまり農家の為だよね。
生産者がガチで競争して、コメの値段が下がれば、消費者(少なくとも俺は)喜ぶよ。
投稿: | 2009年5月 1日 (金) 20時03分