うりずん、若夏、初夏、キビ刈りの思い出
こんにちは、昨日はメチャクチャに暑かったですね。もう初夏。沖縄風に言えばウリズンです。ウリズン、若い夏、初夏。
きっとうまく沖縄語を訳せなかったんで「若夏」なんて言ったのかしら。でも若夏も悪くはない語感ですが。
そう言えば、昔は「若夏国体」なんて呼んでましたっけ。今だったら「ウリズン国体」の方がむしろすっきりしてカッコがいいと思うでしょう。
僕はこの時期になると猛烈に沖縄が恋しくなります。理屈じゃありません。心の底で静かに、しかし、あらがいがたく醸されるような熱です。こちらに来い、ここにくればいいと呼ぶような声です。
この季節は沖縄ではキビ刈りが終わってコシユックイの頃でしょうか。コシユックイ、腰ゆっくり、ああご苦労さんだったね、サキグワ(酒)のひとつでも酌み交わして曲がった腰を伸ばそうかね。
昔は秋の田んぼの終わりの時でしたが、今は田んぼを沖縄はほとんど作らないので、キビ刈りの終わりなのかな。キビ刈りはそれは重労働なのです。
まず、キビ、サトウキビ、ウチナーグチでウージーがすっくとまっすぐ立ていると思ったら大間違いです。そのような性格のいいキビは半分程度しかありません。特に海岸に近いところで作ったら最後、Sの字です。
台風が東海岸を北上すれば、時計回りに暴風雨が吹きつけます。これでキビはひねて曲がります。そして今度は西海岸から来ようもんなら逆に曲がります。台風が一回で済むならいいのですが、まずない。往復ピンタのように何回も別方向から風速30mで煽られると、キビはなんとSの字になるのです。
これを切り倒すとなるとちょっとコツがいります。傾いだ逆から斧を入れていくのです。斧?そうオノ。キビは何で刈るのかと言えば、斧なのです。ちいさな手斧です。これで地面すれすれにガツっとかっとばします。
そして同じ方向に並べて、あとは頭の部分を切り、茎の部分の葉を落としていきます。これは男衆もしますが、主力は女衆です。炎天下に黙々とした作業です。
これを大きく一抱えほど束ねて約50キロ、いやもっとあるかな、道端に並べねばなりません。夕方に来る砂糖会社のトラックの荷台に一気にこのキビの束を背負って運びます。
荷台まで渡してある細い戸板にしっかりと足を踏ん張って、食い込むキビの束をヨッコラショと積み重ねていきます。ヤッとか、ソラッ、ヨッコラショ、ドッコイショという労働の掛け声がただあるのではなく、力を一点に振り絞る時に必要な声だとわかりました。
道から遠い畑の束は、えんえんと肩で背負って数十メートル運ばねばなりません。肩に濡れ手拭いをあてても、日没の頃には肩が真っ赤に腫れ上がってしまいます。初めの頃は痛くて夜眠れないほどです。それが面白いことには、キビ刈りの季節の終わりにはしっかりとした筋肉が張り、痛くもなんともなくなるのですから人体とはすごいものです。
夕方5時に村のサイレンが鳴って、こんな一日のキビ刈りを終えると、一風呂浴びたシマ(村)の誰ともなしに皆んなが集まってきます。いつもはアサブシ、ヨルブシ(朝星夜星)でも、なぜかキビ刈りの時だけは勤め人のように5時でお終いです。だって第一製糖のトラックはもう行ちゃいましたしね。ひとりで張り切ってもしかたありませんからね。
そして、もうひとつはキビ刈りというのは、本土の田んぼように村の共同体で揃ってやる仕事だからです。ユイマールといって労働の貸し借りを今でもひんぱんにします。
今日はシロタさんの畑、明日はウエバルのオジィのだ、来週月曜日はうちらが助けてもらう番だというように。
また、キビをひとりで刈ってみても、製糖会社のトラックは来ません。工場を動かすに足る量があって、運びに来るに足る量があって来るわけです。となると、とうぜんキビ刈りは村の共同体の仕事になってしまうのです。
さて、長い南洋特有の夕焼けパープルの陽が暮れ、男衆はゆるゆると集まります。手持ちの夕飯の余りのようなゴチソーを持ち寄り、シマザキ(泡盛)を飲みます。やがてほろ酔いともなると、誰かが得意のサンシンを奏で始めます。
恐ろしいことに、沖縄で男がサンシンひとつ弾けないのはブチョホー(不調法)といって死に優る屈辱なのです。男全員が唄えるのはともかくとして、楽器を弾けて踊れるというとんでもない芸能の島なのです、ここは。
負けずともうひとりが奏でて、やがてカチャーシーを踊って、ひとりふたりとへばって泥のように深く眠るのです。そしてまた翌朝からキビとティダ(太陽)との格闘が始まります。
これが僕の初めての百姓の場でした。沖縄のヤンバルといいます。赤土と赤瓦の屋根、紺碧の空、風に揺れる芭蕉の葉・・・ヤンバル、いいとこな。
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キビの収穫って大変なんですね。
それに、豊かなブログのお陰で
沖縄のひとたちの働く姿が目に浮かびます。
気持ちの持ちようも見習わなくっちゃ。
投稿: bianca | 2009年5月12日 (火) 22時55分