メールマガジン「オルタ」様の求めに応じて書きました原稿です。このブログの読者にはどこかで読んだ文章だとは思いますが、まとめて掲載致します。
[以下メルマガ原稿]
極めて危険な民主党農業政策・日米FTA締結促進政策にみられるグローバリズムへの傾斜
民主党農業マニフェストについて考えます。現在の状況に大きな変化はみられず、このメルマガが出されて半月後には、私たちは民主党政権の誕生を確実に見ることになるでしょう。その前夜です。
私は腐敗した自民党にいささかの未練も、同情もありません。政権は交代されるべきです。
自民党の農政は現行の農政の延長上からまったく自由になりません。それが善くも悪しくも、政権党というものです。いまさら新味もなにもない。とうの昔に賞味期限切れ。ただ反面、矛盾だらけの現実を踏まえてはいますので、堅実ではあります。まぁ、取り柄はそれだけです。
問題は何によって、どのように変化するのか、です。結論から言いましょう。民主党の農業政策は今まで日本農業の政策の中で、たぶん一度も陽の目を見なかった農業全面自由化路線に踏み込もうとしています。
これは日本農業にとって根底的な方向転換、いや瀕死の床にある日本農業の頭上に最後の一撃となって打ち下ろされるハンマーです。民主党岡田氏が「4年以内に日米FTAを締結する」と言い切りましたから、そこから多少の段階を踏んで、日本農業は早くて5年以内、長くとも7、8年以内には、ほぼ壊滅状態に追い込まれることでしょう。この民主党農業政策は、絶対に選びとってはならない資本グローバリズムの前に日本農業を差し出すことにほかなりません。
さて、このマニフェストが出た時、民主党のマニフェストは単なる農村へのバラマキ政策のように見えました。バラマキに対する財源論で終始するかに思われました。戸別農家所得補償と言っても「生産目標達成農家」にしかやらないのだから、減反死守の自民党と一緒に見えます。子供手当てのような「生活を守る」政策と同次元で見られたのです。しかしそうではなかったのです。
なんとマニフェスト最後に「外交」欄にひっそりと入っていたのが、この超弩級の仕掛け爆弾、日米FTA締結促進だったのです。誰しもが夢想だにしなかった政策です。さすがの減反反対、がんじがらめの農業に対する規制を廃止しろ、兼業農家重視から専業や法人農家にスタンスの重心を移せ、と年中言っているこの私ですら絶句しました。しかしあまりにも意表を突かれたために、戸別農家所得補償とFTA政策のふたつがうまく頭の中でくっつかなかったというのが、私の本音です。
そもそも民主党はそのように分かりやすくマニフェストを書いていません。戸別所得補償はあたかも生活防衛の福祉政策のように、そして一方のFTAは外交にと、意図的にわかりにくく偽装されて混入されています。
所得補償で、前回の参院選に民主党に大きな追い風を送った農村部でも、さすがこのFTAには大きな動揺が走りました。わが村でN賀氏という自民党大物に猛追していた民主党新人の事務所には連日電話が鳴りっぱなしだったといいます。かんじんの民主党農村部候補者ですら、いや驚くべきことには、「次の内閣」元農水大臣だった篠原孝氏も、民主党農水族の大物山田正彦氏すらこの日米FTA締結促進などという政策は事前にまったく相談されていなかったことが後に判明します。
なんと民主党マニフェストは、このような日本農業の面運を左右する重大な内容をもちながら、一切の党内議論も省略し、専門委員を入れぬ密室で、わずか8名が1カ月半で即席に作り上げたものだと、後に分かります。日本農業の命運は、このようにしてあっと言う間に素人の密談で決定されてしまったのです。
とうぜんのことながら、選挙直前に農業を潰すと公言するに等しい民主党マニフェストに、日本農業の総本山であるJA全農は猛反発しました。記者会見の矢面に立った菅氏は「FTAは締結ではなく、促進、農業自由化は考えていない」という1カ月後に政権党になるとは思えない支離滅裂な言い訳をしました。同様な声明も発表されました。JA全農中枢との接触が計られ、手打ちもあったという情報もあります。これはindex2009政策集の中で、あからさまな農協敵視し、解体を目論むような文言が入っていたためもありますが。
しかし多くの農民にとって、このような民主党の言説のブレはかえって不信を呼びました。なぜなら、日米FTAにおいて農産物自由化を除外しての交渉など絶対にありえないのは常識の範疇だからです。
米を筆頭に麦、大豆、豚肉、牛肉、乳製品などの完全自由化を前提としないFTA交渉などあり得ません。そもそもFTA自体が完全なる無条件の市場開放を前提とする相互の国家間の市場統合、地域グローバリズムなのです。そしてこの日米FTA交渉によって日豪、日中そしてアジア太平洋地域での同様のFTA交渉へと波及していくことでしょう。
つまりは、WTOドーハラウンド交渉が未だ継続されている中で、守ろうとしている日本農業の城壁の門戸を内側から破るが如き行いだからです。はっきり言えば、わが瑞穂の民を敵に回す政策を民主党は選び取ったと、多くの農民は感じたのです。
一方このような動揺を尻目に、民主党最高実力者である小沢氏はまったくブレていません。氏は日米FTA締結マニフェストを修正するなどとは一言も言っていない。他の幹部の自由化撤回発言を全部否定しています。小沢氏は岡山市での記者会見で、こう述べています。
「たとえ安い輸入品が入ってきても戸別農家所得補償が農家を守る。消費者にとって海外の安いものを選択できる。安全安心の国産も選択できる。消費者、生産者双方にいい政策である」(「日本農業新聞8月11日2面)
これで分かりました。戸別農家所得補償と日米FTA締結促進政策はメダルの表裏の如き一対の政策だということが!
なぜ小沢氏がブレないのか。理由は簡単です。あのFTA政策はほかならぬ彼が発案したものだからです。
小沢氏の農業政策は能弁な学者が代弁してくれます。池田信夫氏、ブログ界の帝王、そして隠れもしないハイエクとフリードマンを師と仰ぐ新自由主義経済学派の論客です。
[以下引用]
民主党が日米FTAについてマニフェストを修正する方針を決めたことに対して、小沢一郎が異議を唱えた。農業所得補償は「農産物の貿易自由化が進んでも、市場価格が生産費を下回る状況なら不足分は支払うという制度。消費者にとってもいいし、生産者も安心して再生産できる」という彼の議論は、経済学的にも正しい。(中略)
彼がFTAで日米の経済関係を緊密化するために農業所得補償を提案したのは、日本の政治家には珍しい戦略的な政策である。それは農業補助金を中間搾取してきた農協を通さないで戸別補償することによって、自民党の最大の集票基盤である農協を破壊するという点でも、自民党を知り尽くした小沢氏らしい。
[引用終了・下線引用者]
池田信夫 blog http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo
小沢氏の農業政策は、ひとことで言えば「改革派」農業路線です。いわば小泉-竹中改革の農業バージョンと言っていいでしょう。
小沢氏は、自民党農水族のように農業政策を国内政策=内政と位置づけません。
小沢氏は日本農業がいくら七転八倒しようとも国際市場からの開放圧力に抗せないと達観しています。点滴を受けながら延命しているような日本農業ならば、そのような脆弱な農業市場をいっそうのこと開放してしまえばよいと考えたのです。そして滅びる者は必然的に滅びる、食えないというのなら補償金代わりの農家戸別所得補償という名の見舞金をやる、ということです。
彼の考えでは、この農業市場開放により消費者は大きな利得を得ることが出来ます。その理由は、 農業市場開放によって消費者はより安い農産物を手に入れることができるという経済的メリットが手に入るからです。
また、とうぜん米国産の輸入農産物や加工品が雪崩をうって流入しますから、先進国の消費者にふさわしい選択拡大のメリットが生じます。仮に安くてまずいアメリカンアップルがイヤならば、高くて安全な国産ブランドを買えばいい、なにも小沢氏は日本農業を止めろとは言っていないのですから。ただ、安全で美味しい農産物はお金がかかることを認識しないといけないよと言っているだけなのです。ただし日本のリンゴが生き残っていればの話ですが。
納税者にとってもいいことずくめです。理由はわずか数兆円の財源支出と相殺されるだけの食費に関する支出減が見込まれます。
ウォールマート=セイユーのような一円でも安くのスーパー量販店にはアメリカンアップルが山積みされるでしょう。米国産牛肉、豚肉は今の4割安に、コメは約半値に・・・。日本農業が無に等しくなった新世界!農業なき田園、稲穂なき農村の新世界、この素晴らしき新世界!
ですからもちろんのこと、日米FTAを農産物市場開放抜きで進めようなどという児戯に等しいことなど氏が考えているはずもありません。なぜなら、FTAが無条件にすべての商品の関税自由化を意味する(*各種の条件は設定可能ですが)ことなど氏はとっくに承知の上だからです。
このことによって、日本は従来のWTO体制、すなわち自由貿易グローバリズムの障害的存在から、一挙に国際社会の中で賞賛される立場に変身できると考えていると思われます。これぞかつては、湾岸戦争時には時の海部首相などそっちのけで45億$という巨額の資金を米国にポンッと出し、また今回もアフガンのISAFに出兵しようという意志を隠さない小沢氏の「国際協調」路線です。
このような小沢氏だからこそ、弱体日本農業をグローバリズムの祭壇の生贄に捧げて恬として恥じないのです。大の虫を活かすに、小の虫を斬る、そしてすべて金で解決する、日本農業なき日本の自然風土がどのように荒廃しようと単なる環境問題として処理する、これが小沢流農業政策の本質です。
民主党は、かつての郵政選挙のように地滑り的な大勝利を手にすることでしょう。衆参での絶対多数、そして民主党内でたぶん100名を超える旧田中派のような大派閥に成長した小沢派によって、日本農業市場の完全自由化、その最大の障害となるJA農協の解体・株式会社化、農林中央金庫というメガ金融機関のJAからの分離、外資の農業市場への参入などという新自由主義的「改革路線」に突き進むことと思われます。これが、第2の郵政改革である農業改革です。
そしてかつての小泉改革に優るとも劣らない傷跡を日本社会に、いや日本の自然環境にも刻みつけることでしょう。日本人はとりかえしのつかない選択を、「一回変えてみよう」という浮かれた空気の中で決断しつつあります。
(了)
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