エンザロ村のかまど ひとつのカマドからほぐれていく難問の糸玉
スワヒリ語でエンザロ・ジコ、エンザロ型かまどはものすごい勢いでケニアに拡がっていきました。今や数年前の調査(2007年1月産経新聞の調査)でなんと10万所帯です。それどころか、国境を超えてマリやニジェール、ブルキナファソ、ルアンダ、タンザニアでも作られ始めているそうです。
岸田さんがJICAに所属する栄養学者だったためもあり、JICAのプロジェクトによって、今度は大陸を超えて中南米のメキシコ、ボリビアにも伝えられました。
このエンザロ村のかまどは、主婦にとって大きな意味をもっていました。なにせ薪の使用量がわずか4分の1になっちゃうんです!これは大きい。私も入植した当座は薪ストーブと薪の風呂でしたので実感が分かります。毎日煮炊きに必要な薪を集めるというのは、かなり時間をくう仕事です。林に入って落ちた枝を拾ったり、私たちの場合はソッペといって製材屑をもらってきました。
そしてこれを鉈で割って使える長さに揃えるんですが、ズーンと腰に来ます。一年に何回かのキャンプならともかく、毎日の仕事ともなると、正直言ってプロパンガスに変わった時にはホッとしたもんです。
農村のお年寄りの女性になぜ腰が曲がっている方が多いのでしょう。もちろん農作業で中腰を強制されるということが最大の理由ですが、それだけではなく煮炊きやお風呂に使う薪作りにもあったようです。
この薪の使用量が4分の1になるということが、どれほどケニアの女性にとってすごいことだったのかご想像下さい。そしてこれは、人口増加による村周辺の森の乱伐にも歯止めをかけました。
今までアフリカの砂漠化の原因のひとつにあげられていたのは、絶え間のない人口増加、家畜の増加、それによる森の乱伐でした。これをくい止めるのに、ただ人々に「砂漠化をくい止めよう」などとのたまうてみても無駄です。なんせ皆、生活かかってますから、子供多いですから、食い物足りないですから。
子供が多いことのひとつは、哀しいことですが乳幼児死亡率が高いため多くの子供を出産してしまうことにありました。仮に10人の乳幼児のうち3人しか育たなかったとしたら、どうします。その分多く生んでしまうかもしれません。
実際、エンザロ村でも、ジコが普及する前には7人のうち1人が乳幼児の頃に亡くなっていたのです。それがこの5年間で、135人の赤子が生れ、わずか1名の死亡しか出ませんでした。
また、子供が多いために教育が満足に受けさせられず、少年期から厳しい労働が課せられてしまいます。ありとあらゆるアジア、アフリカに蔓延する忌まわしい少年労働は、決して宿命ではありません。
子供を適正な数にするためには、乳幼児死亡率を下げることがまず大事だったのです。このエンザロ村でも今まで家畜の糞尿で汚染されていたり、上流で感染症が起きている水を飲ませざるをえなかったために多くの乳幼児が死亡していたのでした。それがこのエンザロ・ジコによって、いつでも子供に煮沸した湯ざましを与えられるようになって、幼児死亡率が激減しました。すごいことです。ほんとうにうれしいことです。多くのお母さんの涙に終わる日がやって来たのです。
そして今では、薪取りや裸火で大変な思いをしていた女性が、その分の時間で畑を作ったり、家族の世話にかけたりすることが出来るようになりました。エンザロ村では実際、このジコが普及して農業生産も伸びていったといいます。それに連れて女性の地位も向上しました。
このようにしてたったひとつの日本の農村から持ち込まれた「顔のある技術」は、ひとつずつこじれた糸玉をほぐすようにしてアフリカの難しい問題を解決していっています。
第3世界援助には多くの解決方法があると思います。私ならばやはり有機農業や平飼養鶏を役立てたいし、ある人は樹を植えることから始めたいと思うかもしれません。木工や織物を教えたい人もいるでしょう。小規模の魚の養殖と村の糞尿処理を結びつけた循環システムを実験している人もいます。
そしてその時に大事なことのすべては、このエンザロ村の体験の中に詰まっていると私は思うのです。
□ 挿絵は「エンザロ村のかまど」さくまゆみ 沢田としき(福音館)から引用いたしました。このバナナを村人から贈られているのが岸田袈裟子さんです。かまどの写真はウイキペディアから引用いたしました。ありがとうございました。
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