グローバリズムの洪水の前に その4 日本農業はなぜ大型化が進まないのか
目先の衆院選と来るべき民主党政権をにらみながら、グローバリズムを考えるという展開になってきました。私としてはヒジョーに楽しい展開ですが、大部分の方にとってはもういい加減で止めたらというところでしょうか。
うちのカミさんなどその最先鋒で、「またぁ~、FTAなのぉ、パス!」と抜かしおった(涙)。そう言うのはわかるんですが、いちどどこかでしっかりとグローバリズムを整理して石棺にでも封じてしまわないと、日本農業そのものまでメルトダウンしてしまいまうと私は思っています。
日本の農業、農村問題の大きな悲劇はどこにあると思われますか?歴史的には、米軍政下(*ちなみに、軍事占領下で当該国の憲法や社会構造を改造することは国際法違反ですが)の農地開放に端を発する、小規模農家(小農)を量産した脆弱性にもあります。
しかし、そんな昔のことを今さらネチネチ言ってもしかたがない。よく農業現場を知らない人達、特にエコノミストや経済人と称する者どもが、「大規模に集約化すればいい。諸外国は皆そうしている。大型機械化は必須ではないか」てなことをしたり顔で言い散らしていますが、なにをいいやがる。それが農業現場で簡単じゃないから進まないのでしょう。
農業が生産基盤の集約化や法人化を避けて通れないことなどは、言われなくとも10数年前から私たちのグループは理解して、進んできました。しかし、せいぜいが直営農場で15ヘクタール止まり、それに契約農家15所帯を加えて50ヘクタールに届くか届かないかでした。有機農業では、これが限界だと思います。
なぜ、集約化が進まないのでしょうか。理由は簡単です。北海道などを除いて、農地があまりに細分化された所有形態になっているからです。地主がうじゃうじゃいて、しかも大部分兼業農家ときています。兼業には本業の町の仕事で安定した賃金があるので、あえてめんどくさい集約化に同意するはずもない。わざわざ先祖伝来の土地(といっても、たかだか終戦直後に法外な安値で得たケースが大部分ですが)を手放さねばならない等価交換に応じる積極的な理由がないじゃないですか。
たとえば、最も機械化による合理的な生産方式が定着しているはずの米作でも集約化や法人化は行き止まっています。町の人にはこの理由が分かりにくいようです。
では、集約化をして法人化したいとします。ラッキーにも土地を貸してもいいという農家もいる、田畑もあるとしましょう。しかし、大体うまくいかない。アッチコッチに田畑があるために、農業機械を搬送する手間がかかり過ぎるからです。貸してくれる農地に移動して30分、ここでトラクターでうなって1時間、トラックにそれを乗せる手間て15分、別の田畑に移動するのに30分、うなって1時間、トラックに乗せるのにまた15分、自分の家まで昼飯を食いに帰ってまた30分、これで午前の作業終了。これじゃあ仕事にならん(苦笑)。
では、集約化された唯一の農地である水田の土地改良区を貸してくれといえば、そこで36%という途方もない減反をこなさねばなりません。借りた農地の4割を使うなと!こんな馬鹿げた国が世界にあるのでしょうか、お聞きしたいものです。
大型トラクターならば、その能力が発揮できれば1時間で1ヘクタールを耕耘することなど楽勝です。それが土地が細分化されていて、離れているためにその能力の10分の1すら発揮できないわけです。
いかに米軍さんがやってくれた農地開放とやらが、禍根として日本農業の経営体質を弱体化させたのかわかっていただけましたでしょうか。ブシュさんあなた、「日本の民主化政策は大成功だった。イラクもそのようにする」ですと!大笑い。そんなマヌケなことを言っているから、ドツボにはまってしまったのですよ。自業自得。
それはさておき、まさに北斗の拳の十年殺しです。よくやってくれたよ、アメちゃん!半世紀後に、あなた方の目論見どおり、日本農業と食は日米FTAであんたの国の食の植民地入りだ。
兼業農家を完全に農地から引き離すことは事実上不可能にちかいことです。彼らもやりたくなくて農業をしていないわけではないし、育った村には愛着があります。また、この小農を組織基盤とするJAや、自民党農水族(農村部選出議員)の力は根強いものがあります。
しかし、従来の兼業農家と化してしまった小農を保護していく小農保護政策は、このまま行けば国際競争力うんぬんの前に、農家の平均寿命が来てしまいました。
一方、大型化、法人化は、農水省の4品目横断政策が圧倒的に農家の不評を買って前回の参院選で自民大敗の一因となったように、不可能とはいいませんが私たちのグループが辿ったように平坦な道ではないでしょう。
もう少しこの稿を続けます。メキシコのトウモロコシに行き着けません。どうしていつもこうなのか!
■写真 アルゼンチン・ブエノスアイレスのボカ地区の風物。実に南米的な色彩の豊かさですね。
■本稿は、次回分まで含めて一本でいったんアップしましたが、長文なために分割しました。
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