グローバリズムの洪水の前に その3 メキシコ農民は10年間で160万人減ってしまった
昨日の千葉県君津市の記者会見において、民主党最高実力者の小沢一郎氏は、「日米FTAを締結する方針に変わりはない。農家は理解してくれている。どのような状況になっても、生産者が再生産できる戸別農家補償制度を作る。批判は既得権者のためにするものだ。相手にする必要はない」(産経新聞8月26日)」と改めて強調しました。
まぁ、彼は本気でグローバリズムをやる気ですね。米国に追随したアフガンへの軍事も含む直接関与政策、それと一対になったような経済グローバリズム政策への道が、この4年間に踏みしだかれていくのでしょう。ことに来年の参院選で安定多数を取れば、こうるさい社民党、国民新党などとの連立を解消できますから、そこからが小沢流グローバル主義の本番といったところでしょうか。
しかしそれにしても、それが近未来なのに、なぜか妙に白茶けた過去のような気分がするのはなぜでしょう。
NAFTAがアメリカ、カナダ、メキシコの3カ国で締結されて15年になります。メキシコは米国の輸入シェアの第2位に躍り上がりました。ただし、輸出品目は電機機械、自動車部品などで、確かにメードインメキシコには違いがありませんが、しかしなんのことはない多くは米国企業の出先の企業にすぎません。
一見米国との市場統合で繁栄に向かうかに見えたメキシコのGDPはといえば、ほとんど増加をしていないのです。雇用すら伸びていません。では輸入のほうに目を転ずれば、想像どおり米国産農産物の輸入量が2倍となりました。
これにはトリックがあるのです。米国産は輸出に際して過大な輸出補助金をつけることで悪名が高いからです。メキシコの実に30倍(!)もの補助金の竹馬を履かせています。WTOの交渉の席上でも、言いたいことははっきり言うEUにコテンパンに批判されている輸出補助金制度です。
このような米国が主導しているはずの自由貿易体制を崩しかねない巨額の国家補助金による他国への洪水的農産物輸出が、米国の国際戦略であることはいうまでもないことでしょう。
2003年初頭から、米国産農産物の大部分の関税が撤廃されてしまいました。これはFTAでいうところの「移行措置」(例外措置)と呼ばれる協定で、重要でない農産物から徐々に関税を撤廃していくという取り決めです。
それによって豚肉、ジャガイモ、コメなどが雪崩を売ってメキシコ国内に流入し、市場のシェアを制圧してしまいました。豚肉生産はこれにより5%減少しました。メキシコは豚肉の純輸入国で2000年には276万tを輸入しています。米国が圧倒的に多く87%を占めます。
こんな米国産農産物と競争を強要されているメキシコ農民が哀れです。実際この洪水に流されるようにして1991年から2000年までの約10年間の間に、実に農業人口は160万人も減少してしまいました。また洪水に流されまいと必死に土にしがみつくようにして生きる農民の27%にあたる220万人の農民は、無収入の生活に突き落とされています。
一方メキシコは豚肉の輸出もしており、この輸出先のトップはなんとわが国で95%を占めています。ただしこれにも例によってウラがあって、対日輸出をする会社の90%はメキシコにある米国資本の会社で、ロスアンジェルス港から出荷されているそうです。ちなみに日本におけるメキシコ産の豚肉のシェアは第4位です。1位米国、2位デンマーク、3位カナダとなります。
この大量に米国産豚肉を輸入しながら、一方で輸出をするといったメキシコのアンバランスな輸出入の構造を見ると、このように言えると思います。NAFTAは、米国産農産物輸入の洪水の堰を切って落とし、メキシコ産のタグを付けた米国資本の農産物輸出のみを増やした、と。
では、かんじんのメキシコの人々のソールフードであるトルティーヤの原料であるトウモロコシは、NAFTAでどうなっていったのでしょうか。長くなりますので、これについては次回ということで。
■写真は、南米3大カーニバルのひとつがあるオルーロの町。
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