伝統と知恵を守る努力と、より良く変えようとする力のバランス
ひとつはあの小泉郵政選挙で日本国民が熱に浮かされたようになって、小泉さんを大勝利させてしまった運命の日であり、いまひとつは、世界をイラクとアフガンのアメリカの戦争に引きずり込んだワールド・トレーディングセンターのテロ発生日です。
この9月11日を節目にして、グローバリズムに対応して、旧来の日本の社会構造や経済構造を変えてしまおうという流れが始まったのです。アメリカの価値観、アメリカの経済構造、アメリカの商習慣、そしてアメリカの外交方針につき従っていこうという流れが社会の主流を占めていきます。
そしてイラク戦争が、アメリカの明らかな誤りであったことは今や世界中が認識しています。また構造改革の結果、ひどい社会の歪みが生じてしまったことに、国民は怒りを募らせました。
グローバリズムはほんとうに日本人を幸せにするのか。いや、もっと端的に言えば、アメリカにつき従って行くことがほんとうにいいことなのか、アメリカの言うがままに日本社会をいじりまわしたことが果たして良かったのか、今しっかりと考える時だと思います。
オバマ政権となって世界のリベラル側の人々は熱狂しました。しかし、彼はイラクに代わってアフガン戦争を勝つのだと言っています。
しかし、ブッシュ政権の対テロ戦争として始まったアフガンもひどい状況です。まったくお先真っ暗といっていいでしょう。イラク戦争には消極的だったEUも、このアフガンには積極的に軍事介入しました。日本と同じ敗戦国だったドイツすらも、戦後初めて国境の外にISAFとしてドイツ連邦軍を送り出しました。
結果はどうだったでしょうか。つい最近は、ISAFのドイツ空軍が民間人を誤爆して、百名以上の死者を出してしまうという悲劇が起きました。
ドイツ軍は今までタリバンの攻撃に対して受け身の立場でいたために、タリバンの集中的な標的にされていました。それを跳ね返すべく、反攻に出たことが裏目に出ました。タリバンの故意に民間人を巻き込む罠にかかってしまったと言われています。ドイツ国内でアフガン反戦運動が燃え上がるのは必至でしょう。
カルザイ政権の腐敗も限度を超えており、供与された兵器や物資の横流しが横行しています。今回の選挙も不正がまかり通っていました。しかし、オバマ大統領はまだ派兵の増強を続けるようです。その上、軍事作戦そのものにまで、制服組を差し置いて大統領自らが介入するために、国内でも失望の声が上がりはじめています。
一方、NATO諸国はこれ以上付き合い切れないとして、引き上げる意志に固まりつつあります。アメリカの最大の同盟国である英国ですら揺れています。アメリカは、再びブッシュ大統領時代の悪夢に戻る気でしょうか。
私はアフガンのすぐそばのパキスタン側国境まで行ったことがあります。もう十数年前で、まだ内戦の真っ只中でした。その時に、アフガンの部族のひとつであるパシュトン族のガイドが苦々しげにこう言っていました。
「アフガン人にちょっかいを出す民族は呪われる。イギリスも、ロシアも。だからパキスタンは燐国だが、国境を封鎖して、勝手に奴らに内戦をやらしているんだ。きっと連中はお互いに疲れきるまでやるさ」
このような国に西欧型民主主義を移植するなどと馬鹿な理想にとりつかれたのがアメリカです。イラクもそうでした。なぜアメリカ人は、西欧型民主主義がグローバルな統治形態だと勘違いしているのでしょうか。
日本の戦後をブッシュ前大統領がこう言っていました。「日本は大戦に負けることによって、アメリカにより民主主義を教えられた。イラクでも日本の戦後統治のようにうまくいくさ」
無知と傲慢、それとまずい飯屋が栄えたためしはない。日本は昭和の軍国時代以前まで政党政治を有していた民主主義国家でした。そして長い歴史の中で、独自の社会構造を維持してきました。
経済や社会構造は、その国その民族で大きく異なっています。その構造の条件自体が違っているのです。とうぜん、文化や価値観はその国の風土が影響します。それから切り離されて世界がひとつのグローブ、地球にまとまるはずもないではないですか。
私は若い日には、進歩主義者でした。社会が進歩することを当たりまえだと思っていました。その理想とする形態に差があるだけであると単純に信じていたのです。たとえば、それがソ連邦であったり、中国であったり、はたまた北欧であったりするだけだと思っていました。このことを語り始めると長くなりますが、三十歳代に農家となり、私は今その立場を捨てました。
日本人は目指すべき理想の国を、海の彼方に求めることは愚かであると思います。私たち日本人には、拠って立つ自前の伝統や共同体があり、知恵があります。
その伝統を守ろうとすることと、社会をよりよく変えていこうとすることの危ういバランスを保つ努力をすること、それが今の私の考え方なのです。
それを私は「農」と呼んでいます。
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