NAFTAの近過去、日本の近未来 第1回 アメリカはメキシコの輸入制限枠を無視した
台風一過の青空がようやく今朝になって戻ってきました。曇天続きだと表の農作業も楽しくないですね。
台風による稲の倒伏は、予想ほどなかったけれど、乾いた田んぼに水が入ってしまい、グチャグチャの田んぼもかなり出ました。倒れるまではいかないですが、寝かかった田んぼもあります。特にコシヒカリは腰高で茎が細いのでよくコケます。この青天が続いてくれると助かるのですが。
さて、メキシコのトウモコシに戻ります。NAFTAとメキシコのトウモロコシを語る上で、問題点はふたつあります。
ひとつはNAFTAによりメキシコのいわば命の食とでもいうべきメキシコ国産トウモロコシの輸入量がどのように変化したのか。そしてもう一点は、質の問題として、遺伝子組み替え・GMトウモロコシの侵入がどのていどなされてたのかです。この二点を中心に考えていきます。
なぜこの2点を大事だと私が思うかといえば、たぶん日本が日米FTAを結ぶことになれば、メキシコのトウモロコシに当たる日本のコメがこの運命を辿ると想像できるからです。
では、まずNAFTAによる米国産トウモロコシの輸入量をみてみましょう。アメリカからの輸入トウモロコシは、1991年締結時が131万トンであったものが、2005年には580万トンと4..4倍に膨れ上がりました。
なんだそんなていどかと、ふっと読み過ごしてしまうかも知れませんが、トウモロコシは実はメキシコ政府が国民の食の基本だとして重要品目(「センシティブ農産物」と呼びます)に特別に指定して保護してあるものなのです。
ですからNAFTAにおいても1991年から2008年1月1日まで最長スパンで保護関税が認められていたのです。
本来、FTAにあっては「例外なしの関税撤廃」が原則です。ですから、当該政府がこれだけは待ってくれ、という品目(センシティブ農産物)を巡っては熾烈な交渉となります。日本ではさしずめコメを中心にして、麦、牛肉、豚肉、乳製品あたりとなるでしょう。
メキシコ政府はとうぜん国民の主食の地位にあるトウモロコシに対して、高関税をかけてブロックしようとしました。ただし、さきほども言いましたが、条約で認められた最長幅である15年間に限ってですが。
ちなみに私は日米FTAが締結されてしまった場合、15年間ていどしか国産のコメを防衛できないと考えています。それはNAFTAの前例が有効だからです。
それはさておき、メキシコの現実はどうであったでしょうか。上の表(・農民連「メキシコ農業の実情」より引用)にその内実が無残に現れています。表の中心を斜め右上に伸びているのが、輸入制限枠です。毎年少しずつ輸入枠が増加する取り決めでした。ところが、現実は、斜め斜線で塗られた部分が輸入超過分です。
米国はまったく輸入枠制限を遵守しませんでした。平然と、輸入制限枠を超えて輸入を増加し続けたのです。 本来、これにかけられるはずのメキシコ政府の関税損失分だけで12年間累積で33.6億ドルにも登っていると試算されるそうです。
このようにしてメキシコは、本来の移行期間においてすら主食のトウモロコシを防衛できませんでした。そのために今や米国のトウモロコシ輸出国の第1位日本に継ぐ、第2位の国となってしまったのです。1991年のNAFTA締結前には100%の自給率を誇っていたメキシコ国産トウモロコシは、2005年には既に67%にまで落ち込んでしまっていたのです。
自分の国の主食も守れんし、米国から関税も取れないなんて、メキシコ政府、まるでアホやんけ~、と思うのは私だけか。
(続く)
■メキシコのNAFTAシリーズ「グローバリズムの洪水の前に」は、途中中断が続いてしまった上に、本物の嵐が来てしまいましたので、ゲン直しにシリーズ名を変えました。
■黒鳩さん、いやもとい鳩山首相がグローバリズム批判の論文を書いたそうで、私もざっとですが「VOICE」誌で読ましていただきました。まぁね。、本気かよ、ってかんじです。本気なら日米FTAをマニフェスト化しないだろうに。ただ、これを見ても、民主党執行部の考え方には大きな差があるということは理解できます。
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