私がグローバリズムと戦おうと思ったわけ その3 アメリカの農産物輸出のために作られた有機JAS
JAS有機認証(以後「有機JAS」と表記)という法律は、さりげなく農林規格(JAS)という実に地味な法律の枠内に納まっています。改正JAS法で、2001年4月実施の有機農産物が入りました。このJAS法というのは、醬油の特級がどうしたの、スパゲティの太さがどうしたのという、まぁ今やあってもなくてもいいと言うとなんですが、古色蒼然とした法律です。
ところがこの一見地味な有機JASは、とんでもない食わせ者でした。というは、普通、JAS法は国内法であると思われるでしょう。ところがそうではないのです。有機JASは、なんと青い眼をした「出身欧米、現住所日本」というヤツだったのです。
有機農産物、オーガニックだけは、実に変わった輸出入における性格を持っています。輸出した先で「有機農産物」と商品名をつけるにはその当該国の有機認証法をクリアせねばなりません。そして、出す方の国も同様な有機認証制度を持つ必要があります。
ですから、アメリカの有機農産物を日本に輸出したい場合、名無しならどうでもいいのですが、「有機農産物」(オーガニック)と商品を名乗りたいのならば、アメリカで同等の有機農産物の表示法があり、かつ、日本の有機認証を受けてパスせねばなりません。
これがWTOが定めた有機農産物貿易のルールです。そのため、欧米、ことにアメリカにとって日本市場にオーガニック農産物を輸出するためには、是非この有機認証制度を日本で作らせる必要があったのです。
こうした外国の、ありていに言えば、アメリカの利害によって作ることを命ぜられた法律、これが有機JASです。
私が有機JASは日本の有機農業のために生れたのではなく、アメリカの利害のために生れたグローバリズムの法律だと言っているのは、そのためです。
ですから、初めに出てきた有機JASの素案にあった生産基準の文言などは、まさに横文字の羅列化、判じ物のような直訳ばかりでした。訳している農水官僚が、有機農業など学んだことも、見たことすらないのですから、宇宙人から頂戴した手紙といった塩梅。
法律が施行されるまでに大分ましになりましたが、そもそも日本で出来たものではなく、日本の有機農業などどうでもいいと思っている農水省が押しつけてきた有機JASの生産基準は腰を抜かすような文言に溢れていました。
たとえば、有機圃場(畑のこと)と圃場の距離は20m開けろと出てきた時には、怒るよりも爆笑の渦でした。そんなところが言うも愚かですが、日本のどこにあるというのすか。これだけの距離がないと農薬の飛散を防げないと言う。やがて、言っている農水省の役人も苦笑し始めます。これも後に、どうやらアメリカ大陸の道路の幅員が根拠だと分かってきました。
あるいは、慣行農法(通常の化学農法)の畑で使用したトラクターは、完全に洗浄しなければ、有機圃場で使用できない。その洗った記録を残すこと。はいはい、あんたら現場を知ってるのかねぇ・・・。
はたまた、同じ作物を慣行と有機で並行して作る場合は、農薬飛散の可能性があるため、収穫時に慣行との境界の有機を4mを慣行として出荷しろ。つまり、せっかく作った有機農産物を、隣に慣行の畑があったら災難、有機としては捨てねばならぬってことですな。
土壌資材として一切の化学処理されたものは禁じる。これの打撃は大きかったですね。原料が天然素材であったとしても、その工程の中でたとえばひとつでも硫酸などが使われていたら、もうその資材は使えなくなります。これによって、リン系や苦土石灰系の資材が軒並み使用不能になりました。
別に危険だからウンヌンではなく、ただ化学資材が微量使われていたというだけで、今まで堆肥を作る上で不可欠だった安価な過リン酸石灰や苦土石灰などが使用不能となり、わざわざバカ高いグアノというフィリピンの孤島で採れる水鳥の糞を使わざるをえないというお笑いです。
また、培土や種子にいたるまで一切の薬品の使用が禁じられました。培土はともかくとして、種子は種屋から購入する以上、既に保護薬がコーティングされていました。市販品には存在しないのです。種がなくて、農業をやれとでも?これはさすがに多くの有機農業団体が抗議したために、猶予期間が認められましたが。
このような今までの日本で培ってきた農業現場での経験や伝統、そして技術を一切無視して突然に日本に降って湧いたのが、この有機JASだったのです。
このような実情を無視した有機JASのために、日本の市場には外国産の有機農産物が溢れる一方、有機農業は拡がるどころか、多くの日本農民にとって無意味に狭き門と化していきます。
(続く)
■わが村の化蘇沼稲荷神社の祭礼の風景。名物の童女による巫女舞や奉納相撲もあり、実に楽しいお祭です。
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コメント
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お久しぶりです♪
あまりにもお役人さんたちのアホさ滑稽さに・・・
日々「はあ???」です。
もう情けなさと悔しさで涙が出てくる日も。
中身は関係ない。
予算を組んだ事業をただ実施したという報告が出来ればいい。それだけ。
しかも責任を負わされることは避ける。
無意味なことが多すぎる!
すみません!
グローバリズムという大きな話なのに・・・
ちっちゃな町のちっちゃな出来事を・・・
大きく愚痴っちゃいました♪
投稿: ゆっきんママ | 2009年9月25日 (金) 17時39分
濱田さんがあるところで、小沢民主党の農業政策は農産物輸入自由化を考えており、竹中ー小泉の新自由主義を農業政策に継承しているという主旨を記載していることに関心を持ち、最近、このブログを読み始めた百姓の子の一人です。
濱田さんの;
アメリカの有機農産物を日本に輸出したい場合、名無しならどうでもいいのですが、「有機農産物」(オーガニック)と商品を名乗りたいのならば、アメリカで同等の有機農産物の表示法があり、かつ、日本の有機認証を受けてパスせねばなりません。
これがWTOが定めた有機農産物貿易のルールです。そのため、欧米、ことにアメリカにとって日本市場にオーガニック農産物を輸出するためには、是非この有機認証制度を日本で作らせる必要があったのです。
こうした外国の、ありていに言えば、アメリカの利害によって作ることを命ぜられた法律、これが有機JASです。
私が有機JASは日本の有機農業のために生れたのではなく、アメリカの利害のために生れたグローバリズムの法律だと言っているのは、そのためです。
を読んで、竹中ー小泉前政権が、米国の年次改革要望書に沿って政策を進めたと言われていることに対応しているように思いました。
投稿: 百姓の子 | 2009年10月 4日 (日) 14時08分