農業にもメディア・レテラシーが必要だ 今回の衆院選報道に対する疑問
今日私が問題としたいことは、日本マスメディアのレベルの低劣さです。ふんふん(←鼻息が荒いぞ)私は今回の選挙戦で日本マスコミに対して深い不信に陥ったことを白状します。
今まで色々なマスメディアから取材を受けてきて、個々の記者は誠実であったとしても、ひとつの共通の「歪み」のようなものがあることに気がついてきました。それは予定した絵コンテや台本どおりを記事や映像にしたいという彼らの習性です。
今回の衆院選でマスメディアにとって欲しい絵と台本は、「民主党大勝利、政権交代」でした。あらかじめ絵と台本を作るのは、マスメディアのカラスの勝手の領分です。しかし、それに合致しない事柄が出てくると、意図的に切り捨てるとなると、これは尋常ではありません。
なぜならマスメディアの立場は、客観報道に徹した上で、その客観報道とは峻別したところで論評をする、というのが原則だと思うからです。しかし仮に、マスメディアがその原則を逸脱し、政治状況そのものを自分勝手が思うように、自らの絵と台本によって演出し始めたとしたらどうなるでしょうか。
となると社会を動かすのは、政治家でもなく、官僚でもなく、ましてや庶民でもなく、彼ら肥大したマスメディアとなってしまいます。いわゆる三権の外にある第四の権力です。
この衆院選報道では、「民主党大勝利、政権交代」というあらかじめ書かれた絵コンテからはずれるものはすべてカットされました。農業者として驚くべきことには、民主党の日米FTA締結という仰天マニフェストはまったく報道すらされなかったのです。
また減反問題という大きなことすら議論の対象にすらなりませんでした。ただ農家所得補償という甘い飴の財源がどうしたのという低いレベルの話題でかすかに触れられただけです。
いいですか、論議の対象になってどうじゃない、報道すらされなかったのです。この日米FTA締結ということが、どれほどまでに日本農業にとって危険極まりない重大な政策であるのかなど、マスメディアにはどうでもいいのです。
日本農業の崩壊が日本の二次的自然環境である里山の崩壊につながる破滅への号砲であることは、多少の理性と想像力があれば理解できるはずです。そして農業と環境の崩壊は、そのまま日本の食の危機とつながることも、毎日エコエコと騒いでいるマスメディアには分かっていたはずです。
にもかかわらず、マスメディアはこの民主党の日米FTA締結路線を、完全にスルーし、愚かにも赤城元大臣のバンソコーがどーしたの、中川元大臣の酔っぱらいがどーしたの、太郎ちゃんのビンボー人は結婚できないがどーしたの、といった、はっきり言ってどうでもいいような枝葉末節な自民党の揚げ足取りに狂奔しました。
そして民主党のマニフェストの日米FTAが農業団体の猛反発に会って、驚いた鳩山さんが引っ込めても何も言いません。これなど太郎ちゃんのブレといったかわいいレベルではないはずです。
なぜなら、日本農業がグローバリズムをとるか否かという日本の行く末に直結することだからです。そして、鳩山さんが、いやあれは書き間違いといった中坊レベルの言い訳のブレに、御大小沢さんが「いや、日米FTAはやる」と言い切ってもまたもやスルー。二転三転。私たち農民はなにを信じたらいいんでしょう。信じるとしたら、そんな先の国際舞台の話ではなくて、目の前に差し出された農家所得補償だけですか。
こんな重要な政策について、なぜマスメディアは公開討論を主宰しないのでしょうか。そして民主党内の発言の違いを問わないのでしょうか。党首討論などという総論の討論ではなく、しっかりとした各論がいるのです。
今回の衆院選でなかったのは、日本の農業と環境を巡っての真摯な討論でした。真っ正面から政策で戦ったらいいのです。そのような開いた農政議論の場が、選挙の時にしかできないことは自明です。そしてそのような開かれた討論の場を提供するのが、マスメディアの社会的役割なはずではなかったのでしょうか。アメリカのマスメディアは大統領選でそれをしてオバマさんを大統領にしました。゛
前回の衆院選において、マスメディアは小泉さんの「自民党をぶっ壊す」というアジテーションにまんまと乗ってしまい、郵政改革に加担しました。あげく今の衆院選と同じ自民圧倒多数というバランスの崩れた図式を4年間にわたり作ってしまった。その間、日本でなにがあったのか。地方や弱者が切り捨てられ、農業はいっそう崩壊の一途を辿りました。その原因を作り出した一端は、ほかならぬあの郵政解散選挙のバカ騒ぎを演出したマスメディアです。
それをいささかも反省せずに、こんどは立場を替えてまったく同じことを繰り返しています。どうかしているとしかいいようがありません。小選挙区制でこのようなムード的煽り方をすべてのマスメディアが一斉にすれば、どのように結果するのか誰が考えてもわかりそうなものです。
そのような雰囲気、「空気」を醸成したのはほかならぬマスコミです。語るべき政策は山ほどあるにもかかわらず、現実から目を背けて、選挙という唯一の国民の意思表示の場を、出来そこないのギャグ漫画のようにしてしまった。くだらない、まったくくだらない。芸能番組と報道の区別もつかないのか、あんたらは!私たち農民は瀬戸際なんだ。あなたたち世界最低のマスメディアの道連れにはされたくはない。
農業にもメディア・リティラシー(メディアの読み取り能力)がいる、それが今回の選挙でしみじみ思ったことのひとつです。次回の国会議員選挙の時には、もっと農業者が、既存の農政連や後援会の枠から離れて自由に国会議員や政党を呼んで語り合える場をつくらねば、またマスメディアの馬鹿どもにいいようにされてしまうでしょう。
もう私たち百姓には時間がないんだから!
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