民主党政権のトンチンカンな農業政策の根っこには 自給率40%信仰がある
前々回、資料を使わせていただいた『農業経営者』副編集長・浅川芳弘氏がこんな話を紹介しています。彼は政治家と会うチャンスがあれば、ひとつの質問をしているそうです。
「日本の農業生産額は世界で第何位だと思われますか?」
前々回を読まれた方は、あっと驚く答えをご承知ですよね。
先進国5カ国中、実に第2位、世界ランク第5位です!農業大国と言われているオーストラリアやロシアの3倍を農業生産しているのが、わが国です。
もしこれがクイズ番組ならば罰ゲームクラスにハズしたのが、民主党政権の中枢(←たぶん、だよなきっと、最近顔見ないな)の国家戦略局(室)のイラカンこと菅直人副総理です。
菅氏の答えは「40位くらいだろう」。おいおい、いくらなんでも10倍ハズすなよ(爆笑)。ここまで見事にハズすなんて、きっといい人なんだろうな、そして家に帰るとまた奥さんに脇が甘いと怒られるんだろうな、と共感に似た感情すら起きてきます。
彼は選挙前に日米FTAで記者団に突っ込まれると簡単にブチ切れて、「自給率を40%に落としたのは自民党だろうがぁ!」と筋違いのことを言っていましたが、やはり「自給率40%」という強烈な刷り込みが、大前提にあるというのが分かります。
ですから、「自給率40%」の国が、まさか先進5カ国の第2位の農業生産高をもっているとは、夢々考えなかったのでしょう。無理はありません。菅氏は日本の常識を言ったに過ぎず、そのような世論誘導を省益がらみでしてきた農水省のミスリードです。
さて、私がここで問題としたいのは、民主党政権の農業政策が、しっかりと「自給率40%」=「国内農業が死滅しつつある国」という認識を前提に組み立てられていることです。
民主党政権の農業政策は未だグチャグチャとしていて、たぶん民主党自身が自分で何を言っているのかよくわかっていず、ただ一枚看板の「農家所得補償制度」を念仏のように言っているだけのような気がしますが、注意深くみれば、いくつかの柱があることが分かります。
この農家個別所得補償制度が一丁目一番地とするならば、2番地になるのが自民党の4品目横断政策(*農地や営農者を集積して力を蓄える農業主体を作り出すために、4ヘクタール以上の営農主体に対して補助金を与えていく制度)を全否定する政策です。
民主党は、この農地や営農者の集積化を「大規模農家ばかりを偏重していて、小規模農家切り捨てている」と批判しました。そして、自民党農政のアンチで出てくるのが、順番が逆になりましたが、1番地のすべての「農家」に定額給付金もどきの金を出そうという農家戸別所得補償政策です。
ところが、この農家版定額給付金を出すのは、実はすべての農業分野ではなく、国が指定する分野だけだとわかってきたんですね。
これが3番地に当たる農業予算をどの分野に投入するのかという方針なのですが、民主党が直接支払いで金を出すと言っているのは、実は大きくコメ、小麦、大豆の3種の穀物にすぎません。
野菜、花、畜産、果樹類は対象となっていないのです。これについては、農家側も善意の誤解(←欲かいてともいう)があるようで、ダウンロードしてじっくりと読めば細かい字で書いてあるのですが、「農家なら赤字こいたら、金が出るんだべぇ」とベリーシンプルに解釈しているフシもあって、村の衆、後から知ってイカルべさ。
ま、それはともかく、コメ、麦、大豆の3種・・・なにか思い当たりませんか?
そうなんです、あのカロリー自給率の中にあった、日本の自給率を大きく押し下げている穀類です。この穀類を国が農家に直接支払いまでして、「国家戦略として自給率を5年後に50%、20年後に80%とする」政策の基軸に据えしまったというわけです。
では、これら3種の穀類はどのていど日本の農業生産高の中にシェアを占めるのでしょうか。日本の農業総生産高は約8兆円です。
このうち日本農業の大黒柱のコメはさすが大きく1兆8千億円ありますが、後はシミジミとしたもの、小麦290億円、大豆280億円で、この3種類の穀類を全部足しても、2兆円に満たないのです。おおよそ20%といったところです。
その反面、野菜、花、果樹の生産高は、野菜だけで2兆300億円もあります。そし果樹も7500億円、花ですら4000億円と小麦、大豆とはケタからして違います。
これらだけで4兆円市場を形成しています。つまり、日本農業のメーンストリーム、主力軍団は、コメなどの穀類ではなく、明らかに後者の野菜・果樹類なのです。
よく民主党の政策全般に対して「成長戦略がない」と評されています。わが農業分野においても、残念ながらというか、ご愁傷様にというか、同じことが言えます。
地域農業の中で何を育てていくのかという視点が、民主党の農政には完全にスポンっと落ちています。「地域農業の活性化」のような一般論は言いますが、では実際に各地の農業で、今なにが足りないのか、今なにに力を注いだらいいのか、誰を育てていくのか、どの分野に力を入れるのかという政策的な眼がないのです。
学校の耐震化予算や、小児医療の集中治療室予算、緊急人材育成・就職支援基金(「反貧困」の湯浅さん、ほんとうにいいんですか・・?)などという今切実に必要な予算をバサバサ切ってまでかき集めた財源です。
願わくば、これを無意味な農業の穀類増産・カロリー自給率向上政策などに使わないでいただきたいものです。
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日本の農産物の価格は、国際的には高い
ので、生産額で自給率を評価すると高く
なって実態から高めに誤解されるので、
適切でないのではと思いました。
穀物の国際価格が安くなければ、日本の
畜産(養鶏・酪農含む)のえさ代が高く
なり経営が難しくなるのではと思います。
畜産は労働力(石油以外)は国産
でも、大きくなるもとである飼料の
大部分が海外依存状態に、この50-
60年の間に変わったと認識しています。
人も生物なので生きて行くにはエネルギ
ー即ち必要なカロリーが必要であるのは
車を動かすのにカソリン等が必要なこと
と同じなので、食料自給率もカロリー
ベースが国際的に共通の食料自給率の
代表的指標になるのではと思いました。
確かに、野菜等も人が生きていく上に
必要で、それは車のエンジンオイルの
ような必須であるが補足的な食料では
と思われました。
最近、1990年頃の農業関係の本を
読み返していたら、当時、カロリー
ベース食料自給率が50%を割り大きな
農業問題になっていたようです。
欧州では戦後、カロリーベース食料自給
率が低下して課題となり、適切な保護
政策で自給率が向上し、結果として逆に
農産物が過剰になり、輸出の保護政策を
取り現在に至っているようです。
日本のカロリーベース食料自給率40%
は、日本の農業が大きな課題を抱えて
いる証左ではと思っています。
投稿: 百姓の子 | 2009年10月27日 (火) 19時20分