一国ずつ異なる飼料事情・食料自給率の国際比較ができないわけ
Sas様コメソトをありがとうございました。実はSas様こと笹山登生氏は勝手に私が農業政策の師と仰ぐ方でいらっしゃいます。広い経験と深い造詣に支えられた氏のサイトに学ばせていただいて、客観的な農業政策のあり方を教えられております。感謝に耐えません。ぜひ、皆さまにも訪問されることをお勧めします。おそらくは日本屈指の農業政策サイトであると思われます。http://www.sasayama.or.jp/wordpress/
実は私、この食料自給率という概念自体にあまり意味がないと思うようになってきました。その最大の理由は、もっとも人口に膾炙しているカロリーベースの統計の取り方があまりに恣意的であるために、今の日本の農業の実態を映し出していないためです。前回の記事と重複しますが、あくまでもカロリーベースなために、カロリーが低い作物はいくら国産自給率が高かろうと、総合自給率に反映されないという致命的な欠陥をもっています。
このために米と並ぶ重要な作物であるはずの野菜が、まったくこの統計数字に反映されていません。野菜は6割以上を国内で自給しています。また、私の家業である畜産に至っては、ケンモホロロの扱いです。鶏卵などは96%の国産自給率を持ちながらも、わずか5%しかカウントされていない有様です。豚肉も同様でほとんどノーカウントといった情けないていたらくです。
いわば、私たち畜産屋は、この日本で自給率に限っていえば、いないのも同然ということになります。かのイセファームという世界一の鶏卵大企業もユーレイのように消えてしまうのですから、こりゃ小気味がいい。
しかし、これはいくらなんでもバーチャルじゃないかと思われませんか?フードアクションジャパンのCMで石川遼クンが「ボクは自給率60%」なんて言ってますが、君がいくら国産の野菜や卵、豚肉を食べようとノーカンなんだぜ。じゃあ、なにを食べたら君の自給率が上げられるか?そう砂糖ですよ。ですからご飯には砂糖をたっぷりまぶして食べて下さい。農水省のお役人が大喜びをしますよ。ただワジマみたいになった君を女の子は見たくないだろうなぁ。
あれぇ?あの宣伝に野菜や畜産品も登場していたような・・・。今度しっかり見て、もし野菜、豚肉、卵が出ていたらおおらかに許してやって下さい。
さて悪タレはこのくらいにして、この畜産品が自給率に入らない理由は、農水省の「国産であっても飼料を自給している部分のみを自給率に参入する」という方針があるからです。たしかに、国際的に数字を比較する場合は、穀物自給率を元に算定します。これはFAOも使う方法で、農水省もこの穀物自給率で計算をしていますので、その限りにおいては国際的な統計方法を採用しているとは言えます;
しかし、この時問題となるのはこの飼料自給率とは一体なんだ?ということです。(*これについては笹山登生様のサイトで学ばせて頂きました。感謝致します)
私たち日本人は牛の粗飼料を除いて、ほとんどの飼料を外国に頼っています。それは過去ログでも記事に致しました。日本畜産の致命的な欠陥あることは認めます。
その原因については、長くなりますので簡単にしますが、日本の風土が牧草を作るより遥に米作りをすることに向いていたために、歴史的に牧畜ではなく、米作を主体に発展してきました。
ゆっきんママさんがたぶんイギリスの車窓から見たであろう、行けども行けども平坦な丘の牧草地という「異常な風景」は、日本ではありえませんでした。褶曲に満ちた里山を中心に展開する農地、わずかな平地には、米と蔬菜が中心となる風土の特性があったわけですし、それを十二分に活かしたのがわが日本のお百姓でした。
しかし、百姓の子様がおっしゃるように日本の食生活は大きく洋風化していきます。その端緒となったのが学校給食のアメリカが過剰に作りすぎた小麦によるパンと、本来子豚の餌であった脱脂粉乳でした。オレたちはなんのことはない豚の飼料で育ったってわけです。うぎゃ~!
この世代(つまり昭和30年育ちの私の世代ですが)から食生活を洋風にして、ジーパンを履いて、ロックンロールに夢中になることがカッコイイというノータリンな風習が定着していくわけです。
アメリカ型食生活洗脳第1世代としては、まことに慙愧の念に耐えません。私の後の人生をこの修復に捧げる所存でありますということで先に行きますが、本来日本人の食生活になかった畜産が、木に竹を接ぐようにして発生していくわけです。
そのために日本の畜産はとても歪な形になってしまいました。欧米が、牧草地というバックヤード(後背地)が存在して畜産があるのに対して、それがなくて、畜産を作るということをやらかしたのです。したがって、牛の粗飼料(牧草のこと)を除く、ほぼすべてを外国、特にアメリカに依存せざるを得ませんでした。
好むと好まざるとを問わず、これが日本の伝統です。ラジカルな食育運動家や有機農業者から、「加工畜産はやめてしまえ!」と年がら年中言われて、耐性がついたカメムシのようになっておりますです、はい。
ことほど左様に、国によってその農業のあり方は千差万別です。ヨーロッパと米国ですら大きく異なっています。ニュージーランドやオージーとアメリカとも違います。
例えばNZやオージーなどでは、牛肉、羊肉などは非穀物から作っています。なんせ放牧主体ですから。NZなんて放牧の羊や牛のほうが、人口より多いんですから(ほんと?)。それに対してアメリカは穀物が主体で放牧もあります。
先進国間ですらこれだけ違うのに、まして発展途上国においておやです。穀物のように人間と競合する食料を家畜にやるはずもありません。
となると、飼料の自給率という概念自体が千差万別であって、穀物自給率一本の単純な尺度で計ることは不可能だということがおわかり願えたでしょうか。FAO自身もこう言っているほどです。「飼料に関しての歴史的データは、摂取量のデータよりも信憑性に乏しい」(*笹山氏のサイトに拠る)
要するに、こう言うことなのです。日本でカロリーベースの自給率計算は確かに可能です。しかし、それを外国と比較するとなると、一国ずつの飼料事情がまったく異なるために、統一された基準を作りようがないのです。
ですから、一見農水省が作った前回のような>食料自給率を国際比較した表の根拠自体がはなはだ危うい憶測の上に成り立っているとも言えます。
この根拠の危うい数字を基礎にして、農政の戦略を考えていくとしたらとんでもないことになります。民主党さんには、せっかく統治者になられたのですから、今までのような票目当てのポビュリズム政策ではなく、しっかりとした10年先を見据えた農政をしてほしいと思います。
(続く)
■なんの花か分かりました?お茶です。
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