2004年の奇跡・米国ケリー民主党大統領候補の農業政策
Sas様。コメントありがとうございます。私の農政の師匠である笹山先生です。先生からコメントをいただくと身が引き締まる思いです。
やはり、農村地域疲弊原因の根幹に、これまで有力な兼業先であった誘致企業の空洞化という問題がある、というところが、なかなか、理解されていない点があますね。
というか、政治的に利用されていない点というか。
農村地域居住者の総合的収支改善のための政策、という視点がすっぽり抜け落ちてしまっている。
そんな感じがします。
農村地域における無数の換金回路の創出の必要性と、そのためのインセンティブの必要性を感じます。
私は一昨年まで民主党が農政の舵をとってくれることを期待していました。これは私に限ったことではなく、有機農業関係者共通の思いだったことでしょう。
有機農業推進議員連盟事務局長のツルネンマルティさん、地産地消やフードマイレジーの主唱者である篠原孝さんなどが゛居並ぶ民主党は、従来の薄汚れた利権の湿地帯のようになっていた農政を大きく変えてくれると期待していました。
ツルネンさんの講演会をつくば市で主催し、その勢いで茨城県の有機農業推進フォーラムを作り、県独自の有機農業推進法を作ろうと意気込んだものでした。
それから2年。私の民主党に対する眼は冷え切っています。
民主党は、私が衆院選の前に感じた危惧を、そのままなぞっています。
ひとつは篠原孝議員が唱えた、直接支払い制度が、完全に換骨奪胎されて減反政策の中に折り込まれてしまったことです。もともと篠原氏が思い描いたであろうEU型直接支払いではなく、米国共和党政権型の直接・不足払い補助金制度(DCP)に酷似したものになってしまいました(*細部においては異なります)。
結局、民主党は米国の不足金払い制度(DCP)の失敗から何も学んでいなかったと思います。米国のこの補助金制度は、米国内の大規模パッカー業者に有利な制度であり、それは地域農業の核であったはずの家族農業を徐々に締め上げていきました。
笹山先生が2004年7月5日に書かれた「ケリー米国大統領候補のルーラル・アメリカ強化プラン」の記事は、私にとって刺激的な内容でした。ブッシュ 大統領と戦い破れた米国民主党大統領候補者のメッセージは、日本農民の私にも感動的ですらあります。
ケリー民主党候補はこう語り始めます。
われわれは、アメリカの家族農業のために戦う時を迎えた。
大統領として、私は、ルーラル・アメリカの声となるであろう。
それは、21世紀に農業が強力な競争性を備えるために戦うことでもある。
農場経営者や牧場経営者たち、全ての生産者が、公平な活動分野をそなえることによって、有利に競争できるようにし、そして、パッカー業者による家畜の保有というような、不公平で反競争的なものに対して、攻撃をすることが出来るような、包括的ブランを、私は有している。
ブッシュ政権の政策は、アメリカの小農を痛めつけてきた。
ケリー候補は、明確に地域における国の根っこのような家族農業者の立場にたった政策を立案します。その多くは日本の農業風土と事情は異なるもののはずですが、これがかならずしもそうとは言えないのですから楽しい。
ケリーさんは、米国の食肉生産業者や加工業者のインテグレーション(統合化・大型穀物業者や加工業者が家族農業を傘下に収めて、事実上子会社化してしまうこと)に対する対抗プログラムをつくろうと呼びかけます。
思わず私はこれに膝を打ちました。野菜作りや畜産が食品会社や巨大流通、あるいは商社系などに統合化されて、がんじがらめになっている我が国にも言えることです。
そして、ケリーさんは「地域の食料システムの進展」を提唱します。「付加価値のある農業に対する融資の増大や付加価値生産補助金」などです。
これが遅まきながら、わが国でも始まりつつある「地域ブランド」作りを、実に6年も前にケリーさんは米国農民に語っているのです。
CSAプログラムもそれにからめて展開していきます。CSA、コンシュマー サポート アグリカルチャー、まさに篠原孝さんが提唱したそれぞれの地域の農産物を、遠くまで高い運送賃を使って運ばないでも、その地域で市場を作って食べていこうという考え方です。あ、これを話しだすと、私も長くなるので、先にいきましょう。そのうちゆっくり。
そして、農業資源保護施策の拡大。土地の生産性の保全や、生物棲息地保全のためのプログラムです。これなど私がやってきた「霞ヶ浦・北浦環境パートナーシップ市民事業」まんまです。
簡単にいえば、農業と環境保護を別に考えないで、農業-環境保護運動をひとつに融合させた地域プログラムを作ろうや、という試みでした。
この後に、自然エネルギー、食の安全や貿易システムの対抗プログラムが続きます。
やはりケリーさんの政策の核は、地域経済の核になるのがいろいろな意味での「農業の可能性」であり、その農業の可能性を発掘するために合衆国政府が援助しますよ、と言っています。
農業が都市の産業の下請けで安住していてはダメで、自分の能力を使って付加価値生産をしていこう。そのためには農家単独ではできないのですから、消費者や流通を編み込んだ地域ブランドや地域市場を作っていこう、とケリー候補は訴えているように聞こえます。そこに合衆国政府は金を使うんだと言っています。
まったく見事な体系化された「有機」農業政策体系です。私はこのような農業政策をもった2004年の米国民主党に敬意を表します。
ケリーさんは有機農業という言葉は一言も使っていませんが、これがまさに「有機農業」です。有機農業は、化学農薬化学肥料を使う、使わないなどという農業技術論のレベルで自らを主張すべきではないのです。
ひるがえって考えた時、今のわが国民主党政権の農政は自民党農政のダラダラとした、つまらない延長戦であり、露骨な票田狙いであり、ほんとうに次に来るべき日本農業の哲学がすっぽりと欠落しています。
魂と哲学のない民主党農政は必ず失敗します。
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ケリーの演説
「いまや、ファミリー農家のために戦う時が来た!! ルーラル・アメリカを強くするためのプランを描き続けよう!!」
(It's Time We Fought for Family Farmers:Continues to Outline Plan to Strengthen Rural America)
ですね。
本当に、あの時は、震えるような、力強いものを感じました。
私のブログからのリンクは、すでに切れているようですが、有料となってしまいますが、次のサイトから、いまでもダウンロードできるようですね。
Kerry: It's Time We Fought for Family Farmers; Continues to Outline Plan to Strengthen Rural America (1/3)
http://www.encyclopedia.com/doc/1P2-13186573.html
Kerry: It's Time We Fought for Family Farmers; Continues to Outline Plan to Strengthen Rural America (2/3)
http://www.encyclopedia.com/doc/1P2-13186571.html
Article: Kerry: It's Time We Fought for Family Farmers; Continues to Outline Plan to Strengthen Rural America (3/3)
http://www.highbeam.com/doc/1P2-13186572.html
投稿: Sas | 2009年11月20日 (金) 18時37分