パンとサーカスの政治では未来は見えない
私の友人たちがこのブログで事業仕分けされたことを知り、びっくりしたとのメールが何本かありました。友人たちの意見はおおむねこのようなものです。
「事業仕分けは、今まで密室でされていた予算編成を、国民に見える場所にひきずり出した。無駄を省いたのは大きく評価できる。しかし、有機農業まで削るとなると、ミスもあるのだろうと驚いた」。
おおよその国民の意見の最大公約数もこんなところでしょうか。
私は違和感を覚えています。それは単に今回たまたま、「仕分けされる側」になってしまったからではないようです。
この事業仕分けは、不況にくさくさしている国民にとって痛快な同時進行の政治ショーでなかったのかと思います。裁判官と検事を兼ねた女性議員が弁護人ぬきで、ペンを突きつけながら早口で悪である官僚をやっつける。口ごもると、すかさず、次の質問。答えようとすると容赦なく、言葉を被せる、話の腰を折る。
そしてあっけないほどの短時間で終了し、「はい、要りませんね。廃止!」
このような政治ショーは、今まで私の記憶にもありません。私には日本がまったく別の国になってしまった悪夢のような気さえします。まるで古代ローマの五賢帝時代が終わり、暗愚の皇帝コモドウスがしたという「パンとサーカス」の政治のようです。
コロッセオに甘いパンを籠にたくさん盛った美しい乙女が現れます。そして大観衆にパンを撒きながら、そして始まるのです、血なまぐさいショーが。
この「パンとサーカス」によって、古代ローマの愚民化政治はただならぬところまで進みました。市民は、かつてのような共和制を思い出すことなく、政治的に頽廃し、古代ローマは衰退への坂を転がり落ちていくのでした。
「パン」を子供手当て、農家個別所得補償、高速道路無料化に読み替えてみれば、「サーカス」とは何なのか、申し上げなくても、わかって頂けると思います。
私には、ここで仕分けられた事業のひとつひとつについて、知る立場にはありません。ですから、私が今ここで問いたいのは、個々の事業の仕分け結果ではなく、その「やり方」なのです。「切る」・「廃止する」という場面のみが国民に強調されて、「なぜ」、「なにを」、「今後どうしていくのか」、あるいは「なにが大事なのか」という議論がまったく不在のまま、鳩山首相は公開された国民監視のもとの政治が行われた、これこそが民主主義なのだ、と言いきってしまいました。
国民はその場を共有しているようですが、実は大事なことは何も知らされていません。有機農業支援事業が廃止となったことなど、100人の国民のうち1人でも知らされていますか?モデルタウン事業が一律に廃止になりましたが、その中で環境関係が多く含まれていることを知っている人が何人いますか?いや、事業仕分けの中に入っていたことすら知っていましたか?
そしてその廃止理由が、単なる「効率的ではない」ということだと、何人の国民が知りえたでしょうか。「効率」という経営的な裁断で、有機農業支援という未来への投資が打ち切られたことを、誰が知っているのでしょうか。
私たち国民は、ほんとうは、目隠しをされたままま観客席に連なる「客」にすぎないのです。手には何の資料もなく、闘技場をテレビやネットで観覧することのみしか許されない「客」にすぎないのです。私たちは、・・・この有機農業者である私も含めて、事業仕分人の大袈裟なショーに、歓声を上げることしか許されないただの見物人なのです。
国民は、その手続きも、選ばれた理由すらあきらかでない仕分請け負い人をただ「見る」ことだけで、民主主義がなされたと思い込まされてしまったのです。公開というトリックにだまされたのです。もしそんなに「公開」が素晴らしいのなら、公開処刑も「密室で今までされていた死刑が、公開されて素晴らしいですね」と言うのでしょうか。
ほんとうに重要なことは、たとえば私たちの有機農業支援事業ならば、目先の効率ではなく、将来の日本の農業や環境を日本がどうしていくのか、国としてどう考えていくのか、どのような政策を持つべきなのか、そここそを明らかにせねばならなかったはずです。少なくとも国が主催する事業ならば、それが大前提なはずでした。
そのような議論が一切ないところで、効率とコストのみで仕分けすることを、国民が「監視している」という理由で、それを「民主主義」と呼ぶならば、どこか大きなところで踏み外していると私には思えてなりません。
■上段・事業仕分け第3ワーキング・グループの仕分結果、有機農業支援部分(3枚目の2)。いかに貧弱な議論しかされなかったのかわかって頂けると思います。これに対する批判は別途いたします。
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ある人が今日のブログで「民主党は議員を沢山持っているくせに、「力」がない。方針や哲学がないんだ、あの政党は」と言っていましたねぇ。
投稿: 余情 半 | 2009年12月 6日 (日) 17時18分