新しい有機農業支援予算事業とは その2 有機JAS五割増し目標は空論にすぎない
この新予算の最大の問題点は、「有機JASを26年度までに5割伸ばす」という、なにを根拠にしたのかさっぱりわからない有機JASの拡大目標が突如登場したことです。
今や、有機JASは今の日本の有機農業の桎梏と化しており、現実に当初期待された減農薬減化学肥料栽培の層には、完全にそっぽを向かれてしまい、新規の申請もほとんどないありさまです。農水省は、取得者の有機JAS返上が年々増加していることを知らないのでしょうか。
今盛んに申請してくるのは、外国の有機農産物加工品原料のみといった状況で、それを5割も延ばすという目標は、現実無視も甚だしいと言わざるを得ません。
まずは今、農業現場の有機農業者が有機JASを取得して何の壁に突き当たっているのか、どこに問題点があるのかを、各地域の有機農業推進協議会に予算をつけて調査をさせ、それの結果を踏まえてから、次の「ではどうやって有機JASの欠陥を改善して、伸ばしていきますか」という段階に進むのがものの順番ではないでしょうか。
現状調査活動⇒調査結果の集約⇒改善点の洗い出しといった施策のきめの細かさがないとダメです。これに関しては、県や市町村の農政課レベルと、有機農業推進地域協議会が協同して調査事業に当たるべきでしょう。まずはこれに予算をつけるべきで、いきなり、「技術力強化」、「販売企画力強化」などと寝言を言われても困ります。
本筋から離れるので短くコメントすれば、有機農業30余年の歴史の積み重ねの中で、有機農業の技術や販売力は独自の展開を見せているのです。30年前だったらありがたかったでしょうが、現時点で必要なことはむしろ有機農業技術の整理と体系化、そして次代を背負う農業者や、減農薬、減化学肥料の生産者へどのように繋げていくのかがポイントなのです。
また、「有機農産物マッチングフェア」ということも述べられていますが、ほんとうに農水省はなにもわかってないのですねぇ。有機農産物は売るのに困ってはいないのです。私たちが売り先がなくて困っていると農水省は認識していたんだと、かえって妙に感心してしまいました。
なるほど、こう現状認識がズレていては話がスレ違うはずです。山間地などの市場から遠い地方や、新規就農者は別種の問題点があるのでひとまず置きますが、有機農業団体はおおむね「売るものがなくて困っている」のです。
特に有機JAS出荷をしている団体は、有機JAS農産物は減少の一途をたどっており、市場の需要との需給ギャップが生じているのです。この有機JAS農産物の減少による需給ギャップ問題は深刻で、有機農業団体の伸び悩みと直接につながっています。
このようなことの原因はいつにかかって、有機JASの現実にそぐわない硬直した基準・表示体系の内部にあります。この矛盾を素通りしたまま「5年後に5割増せ」とは片腹痛い。寝言は寝て言え。
繰り返しになりますが、まずは、有機JASの問題点の洗い出しを行った上で、それに立ったところで、なんらかの大幅な有機JAS制度の見直し、あるいは、直接支払いまで視野に入れた「国策としての」本腰を入れた支援策がない限り、国産有機JASは5割増しどころか、いくら予算を注ぎ込んでもざるで、立ち枯れていくでしょう。
この部分を農水省はどのように考えているのでしょうか。それが明らかにならないままに、こちらの農業現場にただ「有機JASを増やせ。予算をつけたぞ」と振られても困るというのがこちらの正直な気分です。
(この稿続く)
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