新有機農業支援予算 費用対効果で有機農業が計れるのか?
昨日、さいたま新都心に、関東農政局の新有機農業支援法の説明会に行ってきました。いや、すごいすね、5年ほど前にも来たことがありましたが、また一段と磨きがかかった未来都市。
もはや「ブレードランナー」の世界。夕方5時まで延長した会議の後、自分の農場に帰り着いて、なんかもう後1年は都会に行きとうないわ。
さて、新有機農業支援法ですが、予想どおりに予想よりひどいです。
説明会は関東農政局の担当者により始まったのですが、肝心な新予算を作った本省(←というらしいです。古典的荘重な音色だね)の担当は来ておらず、それでまずムムっ。
だってそうでしょう。あれだけ全国各地の有機農業推進協議会を引っ張りまわして煮え湯を飲ませたんです。「すいません」の挨拶のひとことくらいあってもいいものだと思いませんか。確かに悪いのは、無知蒙昧粗暴野卑の民主党仕分け人どもですが、私たちは国と予算採択の契約をしたんであって、民主党とじゃないわけです。
まぁいいか、ドウドウと自分をなだめながら聞いていると、しきりと関東農政局の担当者が言うには、「私にはわからないことばかりで、これが決定ではないですので、あくまでも農水省のHPを見て頂いて」、あるいは、「そのご意見を上に伝えます」。
おいおい、なら、説明会なんかやるんじゃないよ。静岡や山梨からの遠方からも来ているんだから、やるならきちんと説明できる奴を連れてこいつうんだ、と胸の中で毒づきました。
それはさておき肝心な内容ですが、これまたなんともかとも。
農水省の担当は、財務省の下回りと化した民主党の仕分けグループに切られて、あせったわけです。ひさしぶりにいい予算案作ったと思ったんでしょうね。
農水省や文科省のトレンドの「モデルタウン」という柔軟性のある新機軸なら、いままで支援政策を組みにくかった有機農業支援ができる、と。
まぁ実際そのとおりで、有機農業のような「ハコモノなんぞ俺らちっとも欲しくない」と公然と言ってのけるような分野には、むしろ「地域の農業の新たな展開の核としての有機農業を作って下さい」なんて予算でおだててやったほうがいいのです(苦笑)。
ところが、これが浪速の金貸し顔負けの財務省の癇に触ったのですな。あいつらときたら、費用対効果と数字が命です。つまり「「算定基準の数値化」、「拡大目標の設定」、「生産拡大したことの数字による報告」の3点セットがないと、メシ食った気がしないという人種なんですな。今回の新予算はまさにこれらが前面に出てきました。
新有機農業支援予算は、まず「地域の成果目標」が前提とされました。ですから、推進協議会のある市町村の有機農業の平成21年度1年間の産出額の提出が必須とされます。
おいおい、簡単に言うなよ。JAで一元管理している有機農業の産地なんかないぜ。私たちの行方地域なんて法人あり、個人あり、出荷組合あり、どうやってこんな数字だしたらいいの・・・呆然とする私。
おまけに、今協議会に入っていない人、ないしは団体が後に加わってもそれは増加と認めないと。そんなこと言われたら、現状ですべての団体、個人が加入しているわけでもないわが地域は、算定基準なんか出るわけないじゃないですか。あるいは、協議会に入らなくてもいいから出荷の数字教えて、とでも頼むのかしら(苦笑)。
これを農政局から、「出せないと言うなら、そもそもこの予算はなかったことにしてくれ」とまで啖呵を切られては、さてさてどうしますかね。この冒頭の段階ではやばや私、どん引き。
それを仮にクリアしたとしても、次は生産拡大計画です。「産地収益力向上プログラム」ときたもんだ。人材育成、生産技術向上、販売企画力向上ウンヌンとメニューがあるんですが、これらすべて「当該地区の産出額増加に結びつく取り組み」という成果目標がついています。
ではたとえば人材育成を考えましょう。つまりは新規就農者支援のことのようです。新規就農者を受け入れるというのは、私たちも考えていましたが、問題は「当該地域の産出額向上につながる」か、です。
農水省は新規就農者や研修生の実態をぜんぜん把握していません。私個人でも、団体でもかなりの数の人と出会ってきました。実際の研修生は、さまざまです。ある者は都会から来て農地を買う金もない、ある人は実家が農家で有機農業の研修を受けて帰ったらやるんだと希望を燃やす、はたまた、ある者は偶然この土地で農地が見つかったのでここで就農できた、あるものは、別な土地で見つけた・・・。
それを農水省は、この土地で研修を受けさせたら、この土地で就農させろと言う、それでないと、地域の有機農業産出額のアップにならんからですと。
同様に、技術力向上も付帯条件が付いていて「事業主体に従事する者に対する謝金」はダメとなっています。事業主体とは協議会を指しますから、これでは私たちが構想した「有機農学校」のように、現役地元の有機農家自身が教える有機農業学校などは無理となります。
私たちの地域ようなさまざまな分野のプロの有機農家が揃った地域で、わざわざ他地域からの講師を招聘するしかないということになります。各地の週末農園にしても、クラインガルテンなどでもそうですが、現役農家が来てインストラクターをしたら謝礼を払うのは当然ではありませんか。ここでも現実無視。
そして販売企画力の向上。何度も書いてきましたが、私たちは農水省が言うような「マッチンイグフェア」なんか開いてもらわなくとも結構なのです。だって、30年間かけて、シコシコとしっかりとした販売チャンネルを作り上げてきましたから。今更、なにがマッチングフェアだか。もう一回現実無視。
今、有機農業に必要なことはその質の深化なのです。ただ「作る」、ただ「売る」、ただ「産出額を上げる」などという浅い次元はとうの昔に突き抜けています。産出額を上げたかったら、いい風景の村を作らねば、というのが今の私たちです。
農作物を作る中で私たちがどれだけ自然を豊かに出来たのか、どれだけ生物種が増えたのか、単なる生産基盤ではなくどのように畑が、川が、湖が、そしてそこに生きる私たちが住む村が変わっていったのか、そして都市の消費者や村の中で「いい関係」を作れるようになったのか、こんなことが数字で目標数値化し、結果報告できますか?
たとえばそうですね、私たちが企画している田んぼの生き物観察など、「産出額」という概念とはまったく交わらないでしょう。生物種が有機農法によって豊かになる、その中に農業があるのだということは生産性に直結しないでしょう。
またそこに来る都会の人たちが、その豊かな生き物田んぼ体験を通過することによって、消費額が伸びるのかと言われれば、そうともかぎりません。そうかもしれないし、そうでもないかもしれない。
なぜなら、これは近視眼的な「産出額向上」のためにやっているのではないのですから。販促活動ではないのですから。
私たちはもっと遠くを見ているんですから。゛
そもそも有機農法というのは生産性向上という単純な近代農業のパラメーターの外にあります。有機農業の複雑で多様なパラメーターを、単純に「産出額の向上」にだけ置くというのが、この新予算案の後退した哲学です。
さて、どうしますかね。困った。こんな新予算。それにしても民主党さん、罪作りなことをしてくれたね。
■写真 今日の水たまり。面白いので撮ってみました。
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そもそも感性はいいと思うのだけれども、今日のアップの画像は一瞥で面白いと思った。なんていうのだろう、いいのね、みなさんは。で、どのみなさんとは言えないけれど。
御免なさい中味のことでなくて。でもうまくいえないけれど、言いたいことがわかる。響きます。
画像のことは最後にそう書いてあったものだから、思わず膝をたたいて「そう、面白い」と共鳴したわけです、それを伝えたくて。
投稿: 余情 半 | 2010年3月25日 (木) 22時45分