宮崎口蹄疫事件その8 種牛まで処分された! 空気感染によるパンデミックが始まっている
一昨日、衝撃的なニュースが日本畜産界を走りました。あろうことか川南町の南隣の高鍋町にある宮崎県家畜改良事業団に口蹄疫ウイルスが浸入し、肥育牛259頭忠5頭に陽性反応がでました。
殺処分の対象には種雄牛49頭が含まれており、その中にはあまりにも高名な「安平」が含まれていました。2007年第9回全国和牛能力共進会で父牛系統第1位に輝いた「安平」はまさに日本畜産の宝石とでも言うべき存在でした。いわば日本畜産界のディープインパクトのような雄牛です。
宮崎県の畜産関係者は、血の涙を流したことでしょう。その悔しさをお察しいたします。残った種雄牛6頭は、緊急に西都市尾八重に移動しました。もう大畜産県宮崎に残ったのは、この難を逃れた6頭、「福之国」、「勝平正」、「忠富士」、「秀菊安」、「美穂国」、「安重守」の系統のみとなりました。
一般の方には実感が湧かないかもしれませんが、作出するのに短くて7年、それまでの世代も入れれば、そろばんを弾くことすら難しい種牛というのは価格があるようなないような存在です。競りにもかけられません。それをこともあろうに、全国和牛共進会第1位の「安平」を失うとは・・・!
宮崎牛は各地に肥育前期の牛を供給している大本なので、松坂牛など各地にもしわ寄せが遠からず行くことになります。
さて、今回の事態の深刻さは、川南町の県畜産試験場(県試)に次いで、もっともウイルス防御が高いはずの、宮崎畜産の中枢施設に易々と侵入を許してしまったことです。
県試や肉牛試験場には、私も何回か足を運んでいます。このような県の畜産施設は、おおむね獣医師資格をもった職員によって運営されています。またウイルス・セキュリティも当然ハイレベルです。
私たち民間の畜産屋の目からみれば、獣医師が税金を使ってやっている農場という実にゴージャスな存在なわけですし、ましてや、今回の口蹄疫のパンデミックという状況下で、最大限の防疫措置が取られたであろうことは想像に難くありません。
車両、機材、飼料、糞の処理、人員の出入りなど最大限の防疫対策がされていたはずです。となると、もはや原因はひとつしか考えられなくなります。そうです、空気感染です。この可能性しかありえません。消去法で考えると、いくら車両、機材を消毒洗浄しても、侵入したとなると、それはもはや防ぐ術がない「空気」によるものしかありえません。
コメントを頂きました「うま」様によりますと、口蹄疫の感染スピードは、1週間で200㌔という信じがたい速度を持っているそうです。私が経験した5年前の茨城トリインフルH5N2など、口蹄疫と比較すればまことにのどかなものでした。
私たちは接触感染を中心に対策をたてればよかったからです。農場に侵入する車両のタイヤ、人員の衣服、靴、機材などに消毒し、生石灰を散布すればことが足りました。しかし、空気感染においては、対策の立てようが事実上ありません。空気には遮る壁などないからです。
たぶん、私の推測では4月28日の川南町の県試における豚の感染の発見が、大きな分岐点でなかったのかと思います。牛の最大2千倍ものウイルスを気道から排出し続ける豚にウイルスが伝播してしまうことを許してしまったことが致命的であったと思われます。
死んだ子の歳を数えてもしかたがないのかもしれませんが、この時点までに初動で制圧すべきでした。殺処分が8万頭を超え、100例をこえて、種牛まで殺処分する状況となって、いまさら対策本部に首相がなるそうですが、もうあんたらには怒る気にもなりません。これが新型インフルの強毒タイプだったのなら、もう何万人か死んでいますよ。民主党には危機管理という概念自体が欠落しているようです。
平野さんなにをいまごろ「水際作戦」ですか。すでに空気感染が始まって、改良事業団で種牛が殺されている時期に寝言言ってんじゃないよ。「水際」なんてとっくに破られてんだよ。
ああ、いかん、こんな愚か者を相手に腹をたてていてもしかたがない。私なりに問題を整理します。ええっとその前に、いただきましたコメントに少しお答えをせねば。
「宮崎県」様、いつも熱いコメントをありがとうございます。通常は重複コメントはありがたくないのですが、今回はむしろ大歓迎です。今後も現地の生の声をお伝えください。
私たち遠く離れた茨城の農家も皆、毎朝心配でならなくって口蹄疫から農業新聞を読むんだと言っています。初めのうちは、「うちの県の牛屋、相場が値上がって喜ぶっぺな」などとひどいことを言っていましたが、ここまでとなると、カンパをするべいとなってきています。いつもはライバルですが、今回は全国の農家が味方ですよ。
「ほんだ」様、ワクチンは打ちたくても打てないのですよ。口蹄疫やトリインフルは家畜伝病予防法に指定されたウイルス伝染病で、ワクチン投与は法的に認められていません。お上うんぬんではなく、現在のところ打つと違法となり処罰されます。私はこれを合法にしろと主張しているわけです。あと、農業過保護論については、この事件が終わったらおつきあいします。今はお分かりのようにそれどころではないのです。
さて、「うま」様。専門的なコメントをありがとうございます。教えられること多々ございました。「うま」様のコメントをまとめますとこのようになります。
■① 口蹄疫は伝播スピードが驚異的に速い。
■② 感染地区からの輸入は禁止される。
■③ 感染した家畜は1週間か2週間で自然治癒するが、ウイルスは体内に残存する。
■④ 罹患した家畜の肉、精液等は拡大感染の危険を持っている。もし今回患畜と知らずに販売してしまったケースが出た場合、訴訟に発展するケースがありうる。
■⑤ 感染源から半径1.5㌔ほどに緩衝地帯を設ける対策もあるが、現実には困難か。
④の患畜の販売は、今の段階ではわかりませんが、第1例で獣医が見逃したほどですので、現場サイドでは重篤にならないかぎり出荷してしまう場合もなしとはいえません。ただ、常識的に言って、家保が緊急に全頭検診をしているはずですので、その編み目を潜ってというのもありえない気もします。
⑤緩衝地帯は、宮崎県知事が発生源から一定の範囲を全頭処分するという方針を出しました。赤松さんは「財産権に抵触する」などと言っているようですが、素人のごたくはともかく、ありえる方法です。
ただ、私としては・・・とてつもない痛みが伴う非人道的な方法です。私自身がその緩衝地帯の畜産農家だったら、「陽性もでていないうちの家畜を殺すなら、オレも一緒に殺せ」と叫ぶだろうな。防疫作戦としては頭で理解できても、人の道に反します。健康な手塩にかけた家畜を殺すことなど、私にはできない。
私は25年前にニューカッスル(ND)をもらったことがあります。当時幼稚な反ワクチン主義者だった私は、目の前でバタバタ斃死する家畜をただ見ていることしかできませんでした。そして唯一できることは、殺処分です。
発生した棟と発生していない棟の中間の棟の家畜を伝染緩衝地帯として殺していくのです。まだ罹患していない健康なヤツを殺す。気道を切り裂き、脇の樽に捨てていく・・・悪夢です。しかも悪夢にだんだん無感覚になって行く悪夢です。自分が人間でなくなっていくような気分でした。もう二度と御免です。しかも感染を止める効果はなかったのですから。
たぶん既にウイルス汚染濃度が上昇し、空気感染の段階になっていたようです。そうなった場合いくら緩衝地帯を設けようと、そのときの風向きで汚染されていきます。
今回の宮崎では、防除方法の問題点が浮き彫りになりました。これも箇条書きにしてみます。
■① 牛に発生した初期例の初動制圧に失敗した。
■② 牛の感染が明らかになり、、感染の増幅家畜である豚に感染し始めた5月初めから一気に川南町を中心とする空気汚染濃度が高まった。牛からの伝染病が、いったん豚に感染し、増幅してウイルス排出をし、更にまた別の牛に感染して拡大を増殖させる構図ができてしまった。
■③ 口蹄疫になると「家畜伝染病予防法第16条屠殺の義務」により、家畜防疫員(要するに家保)の命令で家畜を殺す義務が生じる。これが今問題となっている殺処分です。
■④ しかし現実には、患畜を殺処分するには獣医師の資格が必要であり、発生現場において充分な獣医師が圧倒的に不足するために、殺処分が大きな遅滞をする。一日、殺処分できるのはせいぜいが100~150頭であり、現実には8万頭の処分対象に対して3万頭しかできない。
■⑤ これでは結果、処分を待つ患畜から日々ウイルスが排出され続け、感染拡大を阻止するはずの殺処分がかえって拡大の2次的原因となる。
口蹄疫の感染のスピードは驚異的であり、川南町から飛び火しています。たぶん早晩、県境を超えるでしょう。そしてもっともウイルス・セキュリティの高い公的施設にも浸入されました。次代を担う種牛も殺されました。・・・そして現在の政府の防疫方法では阻止することが不可能です。
残る方法は、宮崎県知事が提案する緩衝地帯の設定しかありません。つまり、川南町から1.5㌔を一切の家畜がいない地域とすることです。しかしその方法をとってもなお、「うま」様が言うように現実には野ネズミなどやタヌキなどの野生生物が感染媒介となり完全には遮断しきれません。
私は殺処分による防疫方法は完全に破綻したと思います。殺処分が有効なのは、初動制圧が可能であった条件下でなのです。
そして初動制圧ができなかった今回の場合、私にはこれを止める方法は、ただひとつしか思い浮かびません。川南町の周辺半径2キロの地域に予防ワクチンを接種することです。そして抗体があがらない家畜がいて発症した場合は投薬します。
現在の宮崎の状況に戻るならば、既に予防ワクチンがありえない以上、緊急に感染国からの口蹄疫や薬剤を輸入し、投与します。
したがってOIEとの関係で、日本は「清浄国」から「感染国」に転落し、経済的なダメージを被ります。OIEとの国際調整も多難でしょう。しかし、こういう時のために、つまり一地域で解決がつかない問題で中央政府があるのではないですか?
畜産が伝染病からわが身を守る方法は基本的にふたつしかありません。ワクチンと薬剤です。大きくは飼育方法や飼料組成がありますが、一般的にはそういっていいでしょう。このふたつを封じられてかくも恐ろしい口蹄疫を防げとは笑止です。
日本は今回の悲惨な宮崎の事件を機に、口蹄疫に罹ったら殺すしかないという迷妄から覚めるべきではないでしょうか。ひとつの町、ひとつの県の農家をまるごと潰しての「清浄国」なら、いったい意味があるのでしょうか。
■追加1
農林水産省は18日未明、宮崎県で発生した家畜伝染病・口蹄疫(こうていえき)の感染確定・疑い例は計126例で、殺処分対象の家畜が計11万4177頭になったと発表した。これを受け平野博文官房長官は閣議後の記者会見で、一定区域内の家畜全頭を殺処分するための措置を検討する考えを明らかにした。
全頭殺処分には、感染の疑いが出た農場の家畜に殺処分を限定している家畜伝染病予防法を改正するか、特別措置法を制定する必要がある。平野氏は全頭殺処分について「ひとつの考え方だ。封じ込めるためにはあらゆる検討をしなければならないと思っている。現行法でできるのか、法改正がいるのかを含めて検討した上で判断しなければならない」と述べ、早急に検討を進める考えを示した。
朝日新聞 5月18日
■追加2
赤松農相は18日の閣議後記者会見で、宮崎県側が口蹄疫の感染を見逃したことについて「いまは力を合わせて抑え込むのが最優先」と述べた。
また、感染の拡大を許したことに関し、「結果的に10年前に比べて大きな数が出てしまったのは残念。(現場の人員配置など)うまく仕切りがされていなかったのは反省点としてある」とした。しかし、自民党などから辞任を求める声が出ていることについては「対応のしようがない。わたしがやってきたことは反省するところ、おわびするところはない」と語った。
読売新聞2010年5月18日(火)
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コメント
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ブログ主は今回のパンデミックの責任が政府にあるとして激しく非難されてますが、国家公安委員長は「初動で口蹄疫でないと認定してしまったところから来る誤りだろう」と宮崎県の対応を非難してます。感染のの疑いがある水牛を3月末に家畜保健衛生所が立ち入り検査したが、感染を疑わず、見逃していたと今日報道されてます。
各都道府県にある家畜保健衛生所の業務は(1)口蹄疫等の予防の為の家畜の診断。 (2)家畜伝染病の蔓延を防止する防疫措置。
一義的的責任は国でなく、県にあることは明白です。全国有数の牧畜産業を誇る宮崎県の対応は真にお粗末で、自分達の責任を棚に挙げ、国の責任を追及し、財政的負担まで国に求める態度には怒りを覚えます。何でも国の責任にする無責任さが、責任回避の為の無意味な法制度を作り出すのです。
投稿: ほんだ | 2010年5月18日 (火) 20時21分
管理人さん、正式発表うんぬんは抜きにします。地図を手にして見て下さい。野尻町で牛に疑い濃厚が発生しています。牛→豚→豚の三次感染だと思います。
これでも殺処分で収めるべき病気なのでしょうか
投稿: みやざき | 2010年5月18日 (火) 22時18分
川南地区でも感染が分かって、当日からは授乳中の仔豚はかなり斃死率が高いのですが、離乳前後の骨格が出来はじめた豚はいわれる症状(つめ破れ、出血)が起こりますが、殺処分の埋却場所が決定するまで(早くて4日後、最近は7日あとがザラ)の間に、治ってるんです。肉豚舎の肉豚に至っては2~3日の間食欲が無くなる位で3日後には我先に餌を食べまくっています。なぜ人間の都合で殺さないといけないんでしょう
投稿: みやざき | 2010年5月18日 (火) 22時25分
野尻の件、いまだに「今日の時点では何も起こっていない」って、新富・西都への感染がはっきりしている今。両地区ではもう埋却準備に入っていますよ。101例目の事業団への感染が確認された時点で、加速しているのが分からないのでしょうか・・・。2次・3次感染後の増殖スピードを経験したことがなかった、という話はないですよ、後日。
今やっと公式コメントとして言われている「ワクチン緩衝帯」も緩衝候補地が宮崎に無くなってしまいます。野尻への疑いが疑いだったらよいのですが検査をした先生、どうなんですか?明日の結果待ちだったら、明日まで目と鼻の先にある非汚染地域は、通常の動きをしてしまいます。出荷、移動・・・。明日の時点ですでに感染していたのに、気付かず撒き散らしてしう、という事になりませんか?他人任せの県民性があだになってます・・・。「てげてげ」を勝手に解釈するな!誰かがなんとかするじゃろ~ではダメやよ!
投稿: みやざき | 2010年5月19日 (水) 00時05分
野尻の件はアマジシ(イボ)が口の近くに出来ていた
だけ!との地元での噂なのですが、それとは別の話しなのでしょうか?西諸管内では農家の方も敏感になってますので、少しでも牛に異常があったらとりあえず見てもらおう!という人がいるみたいなので、いろんな噂が流れますが、全部間違いでした。でも、牛の変化に敏感であることは大変いいことだと思います。
投稿: ポン | 2010年5月19日 (水) 17時02分
ポン さま
まずお詫びです。投稿頂いた件で確認が取れました。座論梅付近で大型農家への感染頻発開始、という状況と「今何も起こっていない家畜たちはひょっとして既に感染しているのでは・・・」と疑念が昨日から有り投稿してしまいました。野尻まで進んで来ていたら大いに有り得ると・・・。すみませんお騒がせした事お詫びします。
一番恐れているのが発症前(直前?)の家畜をト場へ持ち込んでしまう事です。「消毒ゲートをくぐって入って、消毒ゲートをくぐって出るんだから心配しすぎだよ」とおっしゃられるとそれまでなんですが。ただ係留場では糞しますし。消毒は車体のみにしか出来ないと思っているんで。他人の糞を持ち帰らせてしまうのが恐ろしいです
投稿: みやざき | 2010年5月19日 (水) 19時33分
49頭の種牛は宮崎県の宝
一頭の種牛が出来るまでの時間と金額を考えると、
「示しがつかない」で殺処分は、短絡的
投稿: | 2010年5月24日 (月) 14時07分
QIEじゃなくてOIEね。オーアイイーです。
ほんださん。もう見てないかもだけど言いたいことがあります。
3月の時点での見逃し、と一部報道されてますが、
あれで見抜ける獣医がいたら教えてほしい。
発熱と下痢だけで口蹄疫は疑えません。どうぞ、あなたの県にいる大動物獣医師に聞いてみてください。
報道を鵜呑みにされるのではなく、ご自身で色々な立場になって考えていただければ幸いです。
投稿: スピ | 2010年5月28日 (金) 19時05分