宮崎県口蹄疫事件その1 口蹄疫は殺処分しか方法がないのか?
口蹄疫感染による殺処分対象が4万5千頭にものぼりつつあります。やれやれですな。一部では「日本畜産業壊滅!」などという声すら上がっています。うーん、これも困ったリアクションなんだなぁ、正直言って。
心配していただいているお気持ちはありがたいのですが、畜産屋としてはあんまりテンション上げて煽らないで欲しいんだな。その理由は前回お話しましたよね。風評被害というのは、実際の感染被害以上に二次災害として深刻なんです。
それと政局絡みはやめにしませんか。もちろん今回は民主党政府のあまりにツーレイト、ツーリトル、おまけに指揮官カリブ海へと逃亡では、お話にもならない。途中で帰って来るくらいのパーフォーマンスみせてくれねばやれん。
いみじくも、かの小沢一郎自身が一昨年でしたか、大連立を執行部に否決された時に言っていたじゃないですか。「民主党には政権担当能力はない」(爆笑)。わかってたらやるなよ。国民、迷惑だから。
毎度のことながら枕が長くなりました。で今回、私はやや違った角度から今回の宮崎県口蹄疫事件を見ることにします。どうしてこんなに大量に殺処分、つまりは殺さねばならなかったのか、です。
そしてもうひとつ、誤解を恐れずに言えばですが、口蹄疫ってたいした病気じゃないんですよ。
こんなことを私が言うのは、業界内と業界外の受け止め方がかなり違うんです。今回の事件をみていると、なんか畜産界の外の人は大変な誤解をしているんじゃないかという気がしてきました。つまりイメージとして、バタバタ牛豚が折り重なって死んでいるってかんじじゃないですか。それも死ぬも死んだり4万5千頭。屍の山。
ん~ですかね。畜産業界に生きる人にとって、参ったな、なんであんなチンケな病気でうちの牛豚が殺されにゃあならんのだ、というのが本音じゃないでしょうか。
そう、意外かもしれないですか、口蹄疫は死亡率は非常に低いのですよ。Wikipediaから引用します。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%A3%E8%B9%84%E7%96%AB
「一般的には、感染すると発熱、元気消失、多量のよだれなどがみられ、舌や口中、蹄(ひづめ)の付け根などの皮膚の軟らかい部位に水泡が形成され、それが破裂して傷口になる(但し、水疱が形成されないケースも報告されている)。「口蹄疫」という病名はこれに由来する」
そして続けてこうあります。
「患畜がウイルスの感染そのもので死亡する率は低いが、水疱が破裂した際の傷の痛み(細菌によるその後の二次感染も含む)で摂食や歩行が阻害され、体力を消耗する」
ね、カッタルイ専門的表現ですが、即死ぬって病気じゃないんですよ。摂食量の低下に伴う乳量の低下とは、要は「腹がへんないで、乳の出もよくないっすよ」と牛が言っているだけの話でしてね。
そこで、牛屋のオヤジが調べたらヒズメの付け根に水泡があったり、口や舌にも水泡があったと。同じ畜舎にいる連中も皆んな同じで、ヒズメと口にブツブツがある。これが獣医に見せたら、なんと口蹄疫!
ガビコーン(←古いね)ってなもんです。家畜にとっても人間サマにとっても。だってこの瞬間、口蹄疫という法定伝染病と認定されて、この牛豚と畜産農家の運命は決まったも同然だからです。
しかし口蹄疫は確かに感染力は強いのですが自然治癒しちゃうんです。そんなていどの病気なのです。だから私は前回の記事でも「騒がないでくれ」と書きました。人獣共通感染症であるH5N1トリインフルのようなヤバイものではないのです。
それを全部、うーもスーもなくすべて殺すという今の防疫方針にも問題があると私は思っています。
長くなりそうです。このテーマもう少し続けます。
■追記 サブタイトルは当初「あえて問う、口蹄疫はたいした病気ではない」でしたが、コメントをいただきまして、誤解をうける可能性があることに気がつきました。
私が問題としたいのは次回に詳しく展開しますが、殺処分を中心とする防疫方法と、その発想の大本にある「清浄国」思想です。私はここをテーマにしたいのですが、その前段で「経済的には被害があるはずだ」というコメント氏のおっしゃるような誤解をうけるのは避けたいと思い、表記に差し替えました。
コメント氏様。私は現場を持つ畜産農家ですので、経済的ダメージは百も承知です。ただ、殺処分とした場合の、経営の壊滅的打撃や、ブランド品種系統から根こそぎにされてしまう地域経済の壊滅的結果と相対的にどちらが大きいのかを問うています。詳述は次回で行いますので、それをご覧ください。
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いやいや、十分たいした病気でしょ。
感染力強いし、かかったら商品価値激減。
そのまま育てたとしても経費ばっかりかかって
逆ザヤじゃない。
経営としてやっていけないでしょ。
殺処分しないで封じ込めはどう考えても難しい。
他の県の豚屋牛屋は戦々恐々
投稿: | 2010年5月 8日 (土) 22時58分
貴重な情報ありがとうございます。
大変勉強になります。
口蹄疫はトリインフル等とはまったく違うということがよくわかりました。
そなると、口蹄疫から治癒した豚を食した場合、まったく問題ないということでしょうか?
今の清潔志向の政策とはまったく逆になりますが、厚生大臣がカイワレ大根の時のように口蹄疫から治った豚をTVで食べたりした方がいいのでしょうか?
さらに屠殺しないで治った豚を食べようといった消費者運動のようなものがあり得るということでしょうか?
また勉強させていただきます。
風評被害等で大変でしょうが頑張って下さい。
一消費者として応援させていただきます。
投稿: yoji | 2010年5月15日 (土) 10時23分
畜産に携わっている方からの貴重な意見を拝借しました。確かに動物が好きな私で、かなり理不尽な対処の仕方であると思う一方、これを放置すれば全世界に蔓延し、畜産農業の衰退、ウイルスの強化による事態悪化が懸念されてのことと思います。
これが一つの島単位で収まる出来事なら殺処分をしなくても良いと思いますが、今回はかなり多くの伝染になったことが残念でなりません。
投稿: 8823 | 2010年5月15日 (土) 11時10分