なぜ、宮崎県口蹄疫の報道が少ないのか?
現役の畜産家として今ネットで伝播されている口蹄疫感染について、「なぜ報道が少ないのか。政府による報道管制ではないか」という疑問に答えてたいと思います。たしかに非常にもっともな疑問です。
普天間問題にかき消されたと怒っている方もいるようですが、これは次元の違う問題を一緒にしています。普天間問題は今や、単なる政局や国の安全保障場の問題だけではなく、「国のあり方」まで問う問題にまで発展しつつあります。一緒にしちゃいかんでしょう。
ではたぶん報道が「少ない」と思われるのは新型トリインフルエンザと比較されているからではないでしょうか。トリインフルH5N1型は人獣共通感染症といって、トリの感染症がヒトにも感染してしまいます。いや、まったく掟破りですな。
この掟破りの新型インフルに対して、まっとうな免疫機能がアウトになりますから、人間はタミフルとリエンザというふたつの薬品に頼るしかなくなるわけです。新たな人類の脅威といっていいでしょう。しかも、悪質なことには、感染性もH1という「極悪」区分けに示されているように強い感染力を持っています。だからすこぶるタチが悪い。
しかし、今回の口蹄疫は、牛と豚という別の種にまたがっていますが、口蹄疫という名称にあるように、要するにヒズメがある動物共通に感染していくタイプのウイルスです。ヒト感染はありえません。安心して下さい。新型インフルとはそもそも違うのです。
確かに4月20日の時点で、日本産牛肉は輸出禁止となりました。これはヒトに対する脅威のためではなく、あくまでも家畜の感染症を外国に持ち出さない国際時な取り決めに基づいた禁輸措置です。
では、「なんで報道が少ないのだろうか」という問題に戻るとしましょうか。理由は簡単です。風評被害を懸念しているからです。マスコミは今回、明らかにその配慮をしています。
宮崎県には「宮崎牛」や「はまゆうポーク」などといった優れたブランド畜産物があります。これらの優秀な系統を保持することは大変なことで、長い時間と手間、コストがかかっています。
報道が抑制されているのは、決して政府が自分の無策を隠蔽するためではなく(確かに大いに無策ではありますが)、これらの商品は既に大量に出荷されていて、これに対しての消費者の「食べたら病気になっちゃうの」みたいな忌避感を起こしたくないのだと思われます。いわゆる「風評被害」に対しての配慮です。
私自身かつての東海村原子力燃料会社の核事故(←スゴイね。でもホント)による広域の核物質汚染の時にさんざっんぱらやられました。私の村には核物質は降らなかったのですが、それでも、それをいくら証明しようと「危険な核汚染された茨城農産物」でひとくくりにされてしまいました。
■旧ログ http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2010/02/post-09ca.html
販売苦戦は実に10カ月ちかくに及び、いや~往生しました。ですから風評被害のスゴサは身に沁みています。近年では前回書いたメガ級の茨城トリインフル事件もありました。
私たち農家が恐れるのは、故無き風評被害です。これは風評、風の噂というくらいに根も葉もなくとも、消費者は「病気が出ているようなところのものは買いたくないわよね」という判断をします。例えば感染症が出ているA産地ブランドと、出てないB産地ブランドを売り場で瞬間的に選別するとしたら、あなたならどうします?
A産地ブランドは、実は質が良くても買われないかもしれません。かつての茨城産農畜産物、今の宮崎産がそれにあたります。ですから今、宮崎県知事の東国原さんや宮崎県の畜産家は複雑な心境もあると思いますよ。
東国原知事は、いままでさんざん広告塔になって「宮崎県産のセールスマン」となって宮崎農産物を売り込んできた努力が、一夜にしてパーになりかねません。大声で政府の対応の遅さをなじりたいでしょうが、それも今後のGW以降の展開を考えると出来ないのかもしれません。小沢一郎も来るそうですしね。
大声で叫べば叫ぶほど、自分のところの農畜産物がアブナイと言っているようなもんですから。皮肉にも知事や農家にとって報道が普天間一色だったのはかえってありがたかった側面もあったと思います。
これが私の2度に渡って巨大風評被害に翻弄された産地の農家の実感です。緊急に対策は立ててくれ、しかし騒がないでくれ、こりゃ無理な注文ですかね。しかしこのアンビバレンツなのが現場の心境なんですよ。
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コメント
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おっしゃる通りです。宮崎県自身が自覚していて、初期の段階から「各社報道自粛。現地への立ち入り厳禁。県のプレスよりきちんと発表しますのでご安心ください」という姿勢でした・・・。ただ逆に知っているのは宮崎県民のみ、という状況になってしまいました。
投稿: | 2010年5月16日 (日) 17時15分