宮崎口蹄疫事件 その26 自治体は移動制限の権限をギリギリ一杯まで使って防御してほしい!
鹿児島県が準非常事態宣言を発して、鹿児島県と宮崎を結ぶ道路6本を封鎖したことが伝えられました。しかし、これらはいずれも県道であり、国道という主要幹線は国交省の管轄であるために対象に入っていません。しかもえびな市側ルートなどは遮断されていないようです。
また意地の悪い表現で恐縮ですが、宮崎県も出した非常事態宣言は、県民に団結を呼びかけるための一種のパーフォーマンスであり、現実に県知事が非常事態特別法制を行う権限を持っているわけでもありません。
さて、児湯郡の被害を大きくしたことの原因のひとつに、この「移動制限」があります。私のブログでも触れましたが、先だって新聞で「えびの市の口蹄疫発生ルートは川南町からのものだった」という報道が、農水省疫学調査チームの発表でありました。
この事件の不思議なことは、感染ルートが一切明らかにされてこなかったことです。これが韓国研修生説(誤報)や、果ては某国による農業テロだなどという無責任な風聞を生む素地になってしまいました。
この川南町のえびの市への感染伝播も、あくまでも家畜移動車両のことであり、「ただ川南町の牛をえびの市に移したかは確認されていない」(読売新聞)というあいまいさが残っています。
今回「移動制限」と消毒ポイントの設置は4月20日の発生確認とともになされています。(宮崎県プレスリリース参照)http://www.pref.miyazaki.lg.jp/contents/org/nosei/chikusan/miyazakicow/h22koutei_press.html
消毒ポイントは半径10キロに2カ所、半径20㎞に2カ所です。後のパンデミックを考えると、あまりに少ないと言えますが、とりあえずこれは結果論として置くとしましょう。
むしろ問題は別なところにありました。4月21日には「一定の条件の下に、家畜を移動する車両の国道10号(*川南町を通過する国道)の通行が可能になった」。(宮崎県プレスリリースとPDF参照)http://www.pref.miyazaki.lg.jp/parts/000138895.pdf
そして、鹿児島大学岡本嘉六教授(獣医衛生学)によれば、現在は削除されていますが、この4月20日の時点では昼間のみの制限であり、「畜産車両は制限時間内にお通りください」とされていたそうです。
言い換えれば、これは家畜関係車両においてすら「時間制限外は無規制」だったことになります!夜間に移動してしまえば、川南町からどこに家畜を移動しようと自由だったわけです。
そしてこの昼間移動制限、夜間は自由通行という曖昧で不完全な移動制限内にやって来たのがGWでした。このGW時期に国道10号を通過した一般車両は膨大な数にのぼったと思われます。これら観光地に向かう一般車両はまったく制限にかからずにウイルスを拡散していった可能性が高いのです。
本来、発生と同時に家保の家畜防疫員(獣医師)は昨日述べたように殺処分などに携わることなく、その本来の仕事である発生動向調査に専念すべきでした。
しかし、それがなされないまま殺処分に追われ、馴れない大型家畜にの扱いにふりまわされてしまいました。その光景はNHKクローズアップ現代にも登場します。
そして家保の農家に立ち入っての発生動向調査(サーベイランス)ができないために、「農家からの通報待ち」というパンデミック時とは思えない受け身の発生動向確認となってしまいました。
本来は、発生地点からの発生拡大調査により、汚染地区を確定し、対策を立てるべきであるのに、農家や市民は発生状況が後追いでしか知らされず、また日に日に拡大する感染情報にふりまわされる形で不安ばかりを増大させていったのでした。
岡本教授によれば、この時点で、発生動向調査が完了するまでの時点まで、一般車両まで含めた交通遮断をすべきでした。家畜伝染病予防法(家伝法)第15条にはその権限をこう記しています。
第15条 (通行の制限または遮断)
都道府県知事または市町村長は、家畜伝染病の蔓延を防止するために緊急の必要があるときは、政令で決める手続きに従い、72時間を超えない範囲において期間を定め、(略)口蹄疫(略)の患畜又は疑似患畜の現在の場所(略)、(または汚染した恐れのある度所を含む)とその他の場所との通行を制限し、または遮断できる。
また、家伝法第3条にも同様の自治体の権限がうたわれています。(家畜伝病予防法施行令を参照)http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxselect.cgi?IDX_OPT=1&H_NAME=%89%c6%92%7b%93%60%90%f5%95%61%97%5c%96%68%96%40&H_NAME_YOMI=%82%a0&H_NO_GENGO=H&H_NO_YEAR=&H_NO_TYPE=2&H_NO_NO=&H_FILE_NAME=S28SE235&H_RYAKU=1&H_CTG=1&H_YOMI_GUN=1&H_CTG_GUN=1
同様に「口蹄疫に関する特定家畜伝染病防疫指針」(*特別措置法とは違う)にも通行の制限が記されています。この中には以下のような内容も含まれています。
家畜伝染病防疫指針
ウ 通勤、通学、医療、生活必需品確保、郵便等のための通行は(略)、適当な消毒を行った上でを除き、不要不急の通行を禁止する。(PDF参照)http://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/katiku_yobo/k_bousi/pdf/fmdsisin.pdf
冒頭で自治体は非常事態法を作る権限がないと書きました。しかし、それは正確な表現ではありません。家伝法、防疫指針の移動制限条項には、国道、県道の区別がありません。自治体の判断ひとつで一般車両まで含めた一定期間(72時間以内)の車両通行の遮断まで含む移動制限が出来ます。
都城市、宮崎市、日向市、鹿児島県などは、この各種法令で与えられた権限を最大限に超法規すれすれまで使用して、移動制限に務めて下さい。
ためらってはなりません。今のひとつのためらいが、将来その百倍の禍根を残すことになります。
■写真 夕暮の霞ヶ浦。先日、同じ角度から昼間の風景を撮りましたが、覚えていらっしゃいますか?
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おはようございます。宮崎様「北海道様」に関しては全然気になさらないでください。
濱田様の様々な面についての分析、洞察には感服しております。これまでの感染拡大や個別対応についての要因は濱田様の仰る通りだと思います。
【総括すると】自分の考えも追加しますが・・・
①国内で初めての口蹄疫発生は102年前で、家伝法が作られたのは61年前の昭和24年である。10年前にも発生したが、比較的短期間で終息したため、今回の様な爆発的な感染拡大を想定していなく、法改正もされてこなかった。
②現在の行政や農業に関わる人たち(農家やJAなども含めて)は、10年前の終息状況から、「今回も大したことなく直ぐに終息するだろう・我町には・・・ましてや自分の牧場では発生しないだろう」的な「甘い」認識をしていた。
③事が起こってから法律を再確認する為に、発生直後では、今までの認識(法の解釈)で対応せざるを得なかった。
④常時一般の人たちが法を熟知しているわけではなく、行政の担当者の認識・理解で初動対応が行われた。(殺処分、道路封鎖等)思います。
以前のコメントの繰り返しになりますが、国際的にも最重要な伝染病と位置づけされている「口蹄疫」などは、初動から「やりすぎ」くらいで丁度良いのです。やりすぎないリスクより、やりすぎのリスクの方が、結果として、国民全体の利益になるものと思います。
その為には「超法規的」でも「特例」でも構いません。可能なあらゆる対策を即実行する事が望まれます。
今は拡大防止と早期終息が最優先ですが、今回を教訓として家伝法の改正が速やかに行われる事を望んでいます。一昨日北海道の農業団体の対応もコメントさせていただきました。町村・地域・全道レベルの品評会及び、大勢の人が集まる「イベント」も次々と開催を見送っています。何もイベントが無くなったら寂しい・・と言う一般町民や商工業の方達を中心に当然います。しかし、その地域の酪農畜産が崩壊したら、町村も崩壊します。イベントは終息してからでも来年でも出来ます。酪農畜産業が崩壊したら1年や2年では再建できません。廃業される人もたくさん出てきますし、再建に向かったとしても5年10年かかります。国民全体が事の重要性を理解する必要があります。
千歳空港での消毒マット設置に50日間以上かかること自体、これら国際的重大な伝染病を軽く考えていると判断せざるを得ない。観光客が嫌がる、面倒がる、革靴やハイヒールを汚すのは嫌だ・・・無理強いすると観光客が来なくなる・・・こんなことでは防御は出来ません。ニュージランドやオーストラリアの入国審査の厳しさを理解させる必要があります。
愚痴も交じってしまいましたがご容赦ください。
九州地区も梅雨入り・・・と報道されていました。
対策や処分作業が益々やりにくくなってきました。濱田様がご指摘した「川や水の流れによる感染拡大」も心配です。
関係者のご努力を切にお願いするとともに、健康や事故に注意されます事を、遠い北海道より祈っています。
投稿: 北海道 | 2010年6月13日 (日) 10時38分
濱田さま 北海道様
4月20日に来てます。えびの1例目の後速攻で「えびの・小林・高原・高崎関連農場」一斉に調査しています。さらに他県(大分・熊本)まで調査行ってます。
川南地区との接点。
22例目の豚で発症した時に、緊急性から、速攻処分の為に地域(小林・高原・高崎)全域の獣医師総動員を検討。待機させてます。でも、出動前夜に「こっち(えびの)だけでやる」と決めて、えびの地区の獣医師のみで処理にあたりました。=隣接地域(小林・高原・高崎・野尻)との「接点」遮断→その後の他地域への拡散に役立ったのではないでしょうか。
投稿: みやざき | 2010年6月13日 (日) 12時41分
都城、1kmの検査結果が14日に出ます。結果を待って動きましょう。そして検査が入った農家は「検査に来た方を憶えておいて下さい。」
新富
濱田様北海道様
共通点
283例目と284例目:5月31日~6月2日みやちく都農早期出荷した農家。出荷時立会防疫チーム共通。
283例目と284例目と288例目:早期出荷時家畜防疫チーム共通
対策が長引いていて、極限の状態です。「穴」
特例再開・・・。今家畜は移動して良いのでしょうか?
D4
投稿: みやざき | 2010年6月14日 (月) 00時46分
宮崎のみんな
「5tで4000円」。トラック絶対注意して下さい。周りが何と言っても絶対に。
信じられるのは自分だけですよ。自分を守るのも、他県を守るのも。
「冷凍コンテナ」。トラック絶対注意して下さい。
「健康チェック」。絶対注意して下さい。4つの点の方々は特に。専門チームは作れる人間がいないんです。獣医師の先生だけでは足りないんです。
頑張ってみんな協力してくれているだけなんです。今も雨が降ってて外周部分の処理作業を必死でやってくれています。誰もあなたたちを責める人はいません。
目が回らないのも良く分かります。でも、今は4つの点で終わっていますが、既に西都では面になりつつあります。絶対ここで止める為には「グレーは黒と思わないといけないんではないですか?」
難しいことは良く分かりません。でも、農場の中で泊り込んだり、軽トラックで泊り込んだり、農場から外出は全てやめて、食べ物すら買出しを頼んでシャットアウトしているのに、「穴」をみつけてウイルスは動いています。
頑張れ川南!こうなると新たな発生地域を優先するしかないから・・・。でも見捨ててないですよ。絶対一緒に復活しましょう。
頑張れ跡江!頑張れ西都!きばっどみやこんじょ!
周りが何と言っても「自分」を信じて!
投稿: みやざき | 2010年6月14日 (月) 07時42分