宮崎口蹄疫事件その18 川南町・畜産の町の光と影
まずは、なんと言ってもえびの市の移動制限解除、おめでとうございました!ひさかたぶりの朗報です。私もえびのに親戚がいるので(私の父祖の地は鹿児島です)、他人ごととは思えません。
初動、それも豚の感染拡大をいかに制圧するのか、また緊急時にはえびの市のように現場の裁量において柔軟な対応が必要であることを全国に知らしめました。ぜひ緊急時マニュアルとして教訓化されるべき良き事例でした。
一方「みやざき」様のご報告どおり、川南町の苦戦は続いています。これは川南町特有の難しさが絡んでいるようです。
川南町で今回ほど被害が拡がった原因はいくつもありますが、そのひとつに畜産農家の密集地域であったことがあげられます。
私の住む行方市(なめがた)は面積が222㎢、人口が33万8千人です。一方川南町は面積90㎢、人口1万7千人です。わが市は3町村合併で大きくなりましたので、元の北浦町ていどのようです。
さて、川南町を特徴づけるのは2点あります。ひとつはさきほどから言っている畜産の町という点です。平成17年度の川南町勢要覧資料編によれば、豚の飼育が農家79戸で12万5千頭、肉牛が228戸で7千6百頭、乳用牛28戸で1万5千頭となっています。人より牛豚が9倍もいるのです。
牛と豚あわせて15万頭の産出額は、町の5割のを占めており、宮崎でもトップ。宮崎牛という日本有数のブランドを支えているのはこの川南町です。つまり、宮崎畜産の心臓部だったのです。
これは私の実感から言ってもとてつもないマスで、肉用牛228戸という数を見たとき、一瞬28戸の間違いではないのかと目をこすったほどです。私の市では私が知る限り肉牛農家は4、5軒しかありませんし、豚屋はもう少し多いですがせいぜいがふた桁でしょう。
このケタ違いの数の畜産農家が、私の市の3分の1の面積にひしめいているのですから、これは迫力だなぁ。これがどうしてなのかは川南町の歴史を調べてみるとすぐに分かりました。
川南町は、青森の十和田市、福島の矢吹町と並ぶ日本3大開拓の村なです。ああ、なるほど。でなければ、このような畜産に傾斜した産業配置にはならないわけです。
なぜでしょうか?私自身が畜産家だからハッキリ言いますが、「畜産は嫌われ者」だからです。蠅が出るといってはイヤがられ、臭いと言っては役場に電話をされ、夜鳴いたといって110番されたという仲間もいるほどです。かくしてつけられた行政の名前が「迷惑施設」。おいおい、俺らは社会のやっかいものかい。
ですから、都市近郊で畜産をやることはまず無理で、私のような純農村部で、しかも環境保全型畜産と銘打っている私ですら畜舎を建てようと計画をしただけで、近隣の土地の価値が下がると立ち退き要求までされた苦い経験があります。
これは古い農村であるほど、縦横斜めの人間関係が折り重なっており、畜産のような旧来の田んぼと畑を相手にした耕種農業とは体質的に異なる畜産への無理解が濃厚だからです。
また、これは話出すと長くなりますが、日本人の心理の基底にある神道的「畜生の汚れ」に対する嫌悪感、「血」への忌避感もあると思われます。
ですから川南町の特徴の2点目として、川南町のように戦後すぐに入植が始まった開拓地域であることです。村自体の歴史が浅く、村人もほとんど同じような境遇から出発している地域だと、旧村の縛りから自由です。「皆んなで畜産の町にしよう」という合意すらできます。
そして、ある程度の畜産産業の基礎が固まれば、むしろ集中して畜産基地化していくほうが経営的にはメリットとして働くでしょう。
まず、飼料搬入が当該地域で固まっているために合理的な配送がかけられます。10㎞離れた西にポツン、東にポツンそれぞれ月一回3トンバラ車では、飼料会社はたまったもんじゃありません。一地域で配送網を構築できるのは経済的にはデリバリー価格の削減となり、飼料価格を抑えることにもつながります。
次に、出荷にしてもこれもえらい遠くまで行くのと、一地域で集荷ができるのは魅力です。また宮崎経済連豚原種豚センター川南市場があるように、品種を更新したり改良したりする上でも有利です。
そして、困りものの畜産廃棄物の豚糞、牛糞の処理にしても共同で家畜糞尿処理施設を設けて優れた堆肥として販売することさえも可能です。
このように川南町は開拓の地ということをバネにして、全地域一丸となって畜産を押し進めてきた土地柄だったのです。これがいったんこのような強力な感染力を持つ伝染病が侵入すると、今までの有利なことがそのまま危険性へと暗転していきます。
それについては次回にお話ししましょう。
■写真 わが村の新緑に走る郵便屋さん。中央に見えますか?
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コメント
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全国どこにでもあることでしょうが、
臭いものに対する忌避意識。あちこちで住宅街に近い畜産家の「悪臭問題」が出て、ローカルニュースで取り上げられます。
これを言っちゃ各方面からあらぬ人が来そうで怖いんですが、江戸時代に遡る差別制度が根底にあるのかと。
だからこそ、開拓地や山の中への牧場集積が進んで解決したはずが…今度は一度発病した場合の流行が極めて速いという事態に。
悩ましいことですねえ。
狭い日本ですから。
と、牛豚鶏(とくに廃用親鳥のコリコリ感が好き)も鯨も大好きな地方の消費者としての意見です。
最近スーパーでは、安い輸入肉が増えたけど、やっぱり安全な国産の美味しい肉が食べたい!!が本音
「とんかつ用」肉をソテーしてトンテキにしたりすると、味がまるでちがいます。
宮崎様
とにかくえびの地区のハザード解除おめでとうございます!
今日の山形は雨ですが、これから募金(千円だけですいませんm(__)m)をかねて、サッカー観戦です。
宮崎のみなさん、全国に味方がいます!まだしばらくかかることと思い、その後の苦難も想像を絶しますが、頑張ってください!!!
それしか言えません。
日本中でたくさんの人が応援してます!
投稿: 山形 | 2010年6月 5日 (土) 12時08分
濱田様 北海道様
赤松大臣再任辞退。やっと正しい判断をしてくれました。
6月4日時点で発生件数271例目(牛32,269頭 豚148,037頭,ヤギ・羊17頭 合計180,323頭)です・・・。1週間で47件の発症。高鍋の処分がかなり遅れていて川南みたいになって来ました。
ワクチン接種家畜の日向方面(5月23日ワクチン接種)の防御処分がスタート。東国原知事は「夏休み前に終息宣言出したい」と宣言なさっています。まだまだ先は見えない状況ですが皆頑張りましょう!
5頭の「陰性」、6月4日に抗体検査を実施し感染の痕跡が無いか検査に入っています。(6月6日判明)
山形さんみたいな方がいらっしゃいます。金額とか何をした、とかは本当に善意での事ですので、お礼の気持ちで一杯です。またお願いで恐縮ですが、今後とも宮崎に関心を持ち続けて頂けるとみんな励みになります。宜しくお願いします。濱田さんもおっしゃっていますが、畜産を好意的に見る方は圧倒的に少数ですね。どうしても防ぎきれない臭いの問題がやっぱり大きいですね。それに悪臭を開き直っている一部の農家の方々がいるのも事実です。好き嫌いは有りますが、レベルの高い事を365日繰り返して頑張っていますよ。今後も誤解される様な事をしない様にしたいものです。
10年前に口蹄疫が発生した後、各県で用地確保の状況について調査・指導が入ったのに宮崎県では何故行われなかったのでしょうか・・・。
投稿: みやざき | 2010年6月 6日 (日) 08時51分
濱田様宮崎様おはようございます。
宮崎さまのおっしゃる通り、高鍋町の方は24戸の発生でまだ15戸が残っているようですね。中々処理が進まない様子が、MAFFのホームページで確認しました。
今年の北海道は気温が低く且つ雨が近いので、中々播種作業が進まない状況です。また、目前に迫った「一番草」の収穫ですが、牧草の伸びも良くなく収量や栄養価の低下が懸念されている状況にあります。昨年も惨憺たるものでしたので、2年連続は牛にとっても農家経済にとっても厳しいものになりそうです。
ワクチンの効果?4日5日と発生件数が少なくなってきました。このままで推移してくれる事、早期に終息する事を祈っています。濱田様、川南町の家畜密度など詳しい情報ありがとうございました。
90平方キロの中に15万頭以上ですか・・・・我町の約3分の1の面積に我町の家畜頭数約15千頭の10倍以上がひしめいているのですね。このような伝染病が発生した場合、壊滅的な被害が出る事が容易に想像できます。児湯郡の牛はとても優秀で、児湯市場も高値安定で取引されていました。また、和牛全共でも優秀賞を獲得したほとんどが児湯生産です。濱田様が仰られる通り宮崎牛の屋台骨と言っても良い存在でした。
今後いつ同じことが何処で発生するか分からない・・・事を考えると、産地造成の方法も考えなければなりませんね。
色々と勉強させられました。
投稿: 北海道 | 2010年6月 6日 (日) 09時52分