• 20241013-133034
  • 20241013-134702
  • 20241013-140031
  • 20241014-045945
  • S3-004_20241012032201
  • S3-005_20241012032201
  • Ss3-007
  • S3-036_20241012032303
  • S3-041_20241012032101
  • 20241011-022642

« 宮崎口蹄疫事件 その33  農場は宇宙ステーションでも、大学の実験室でもない コメントにお答えして | トップページ | 宮崎口蹄疫事件 その35    英国が2001年のパンデミックを真剣に反省した勇気に学びたい »

2010年6月22日 (火)

宮崎口蹄疫事件 その34 口蹄疫緊急対応が県と国の二重構造なのが問題だ

092_edited1

先日のコメントにあった「口蹄疫問題が早期解決することなど夢みたいなこと」という言葉にひっかかっていました。たしかに一面そのとおりなのです。

私は、かねてから数日どころか、数時間以内の緊急対応をしろ、と主張してきました。この「数時間以内」という表現は私が作ったのではなく、この間私が再三引用しているFAO(国連食料農業機関) Animal Health Manual(FAO口蹄疫防疫指針)の第6章「口蹄疫緊急時に対する早期対処緊急時計画」に記されている文言です。(訳文は岡本嘉六鹿大教授・訳文はこちらから)
http://vetweb.agri.kagoshima-u.ac.jp/vetpub/Dr_Okamoto/Animal%20Health/Contingency%20Plans%20CHAPTER%206.htm

この第6章冒頭部分の「疫学的特徴」にはこうあります。
効果的であるためには、決して数日ではなく、数時間以内の活動が成功を左右する。可能な限り短時間で制御措置を講じなければならない」とあります。

では、現実に今の日本で口蹄疫に対して発生から「数時間以内の対応」が可能なのかと言えば、民主党がやろうが、自民党がやろうが無理です。あえて言うなら、民主党のほうがより無理です。なぜなら「政治主導」と「素人主導」をごっちゃにしているからです。

というのは、口蹄疫との戦いはかぎりなく「戦争」、あるいは「災害救援」に近いジャンルだからです。英国や韓国が「国家に対するテロ」と同等の重さで口蹄疫と闘うとしたのは、言葉のアヤでも単なる決意表明でもありません。こんな「戦争」を素人に指揮を取らせたら、結果の悲惨は目に見えています。現にそうなりました。

ですから口蹄疫対策には、テロに遭遇した緊急時の国家対応と同様に、一元化された指揮命令系統が貫徹します。まさに司令部と現地部隊との上意下達関係なのです

これについて先のFAOマニュアルは第8章「緊急事態対策期間中の組織配置」でこう書いています。(訳文は同上・こちらから)
http://vetweb.agri.kagoshima-u.ac.jp/vetpub/Dr_Okamoto/Animal%20Health/Contingency%20Plan%20CHAPTER%208.htm

「緊急事態において、利用可能なすべての情報分析に基づいて、迅速に決定を下す必要がある」とした上で、「国の獣医療組織本部から(略)現場と試験場のある最前線まで情報と命令が直接伝達されるとともに、現場の情報が本部にフィードバックされる効率的な仕組みが実行されねばならない。」

そしてその本部の命令を出す者に、「決定を命令に換える資格が不可欠である」としています。そして「緊急事態の期間を通じて国の獣医療組織は、この命令系統、あるいは指揮シテスムの下におかねばならない」とします。

この緊急時の命令系統のトップに立つのが、FAOがいう「首席獣医官」(CVO/Chief Veterinary Officer)です。CVOは「口蹄疫緊急事態に対する事前準備と管理についての総合的な技術責任者」です。

所轄大臣(日本では農水大臣)には最終責任がありますが、この緊急時の技術的な命令・指揮系統のトップではありません。この指揮命令系統の不在こそがこの宮崎口蹄疫事件で日本が犯したある意味もっとも深刻な失敗でした

日本の場合、そもそもこの首席獣医官」に相当する部署はありません。というか緊急事態に対応する指揮・命令系統そのものがスッポリと抜けており、防疫指針や家伝法などはあっても、その権限者が県知事であったりしているわけです。

実はこのことにもFAOはマニュアルで触れています。
「近年、多くの国の獣医療組織が再編されるか、縮小された」と書きます。これはサッチャー保守党政権の失敗を指摘しています。

サッチャー政権では膨らみすぎた国家財政赤字を建て直すために、従来は国が管轄していた獣医医療分野においても、大幅な民営化や地方委託がなされました。その結果、ドカンと来たのが、あのBSEやサルモネラの世界的流行の発生であり(*両方とも英国が発生源)、そして2001年の口蹄疫大流行だったのです。

これに対しての深刻な反省から、このような地方委託や民営化は、口蹄疫などの強力な感染症と闘うにはふさわしくないとFAOは強く指摘しています。

ところが、日本においては英国やFAOの口蹄疫対策はなにひとつ学ばれませんでした。サッチャー政権と同じように口蹄疫対策を政府業務から降格し、県行政への名目的な委譲をしてしまいました
また実務を県家畜保健衛生所(家保)に移管したにもかかわらず、肝心な口蹄疫の疫学的「確認」は国管轄の動物衛生研究所でしかできないなどという、実務と決定の二重構造も生み出しました。

今回なにかと国と知事がゴタゴタし、非難合戦になってしまったのは、単に前大臣と知事の強烈なキャラクターにのみ理由があるのではありません。
名目だけで口蹄疫の防疫準備の予算配分もなければ、疫学判定の機材も権限ひとつなく、国道ひとつの交通統制も出来ず、現場の実務執行権の線引きひとつでも揉めるような緊急対策のあり方そのものに問題があったのでした

この典型的な一例が、種牛の処分問題でした。本来これは発症した種牛と同一の畜舎にいた牛すべてが無条件に処分対象とされるべきところを、県知事は「殺処分命令権者は知事である」という家伝法を錦の御旗として執拗な抵抗をしました。

種牛を和牛王国宮崎の至宝として守りたい気持ちは重々分かりますが、これでは一般所有牛と県所有牛の二重規範になってしまいます。本来やってはならないことです。しかし、これが法的には出来てしまうというのが、日本の口蹄疫対策のねじれをよく象徴しています。

私は、この事件を、国が悪い、いや県が悪い、民主党が悪い、いや違うといった低次元ななすり合いをするのではなく、著しく遅れた日本の口蹄疫防疫体制の抜本的な見直しの糧にすべきだと思います。

管直人総理は宮崎県で、「国家の危機」とまで言い切ったのですから、単にカイワレを食うようなパーフォーマンスではなく、きちんとした国が責任をとりきる口蹄疫緊急事態体制を構築していただきたいと思います。

■追記 川南町の埋却作業が終了したとのことです。ほんとうにご苦労さまでした。一日も早い再建をお祈りします。

■写真 霞ヶ浦の堤。


« 宮崎口蹄疫事件 その33  農場は宇宙ステーションでも、大学の実験室でもない コメントにお答えして | トップページ | 宮崎口蹄疫事件 その35    英国が2001年のパンデミックを真剣に反省した勇気に学びたい »

口蹄疫問題」カテゴリの記事

コメント

はじめまして。
宮崎在住の者です。畜産関係に携わっています。
今回の口蹄疫騒動で、色々ネットを検索していて
こちらのブログを知りました。
管理人様のご意見に強く同意します。
二重構造の弊害とも言うべき、マスコミを使ったミスリード合戦に辟易としています。
今回の口蹄疫が、終息した暁には、早急に、悪性伝染病に対して効果ある組織の構築が急務であると思います。法整備、組織整備を一刻の猶予なく進められることを望みます。


以前からコメントを寄せている「みやざき」様と「みやざき甲斐」様は同一人物?チョット分かりませんが・・・
さて、その34を読んで・・・・全くその通りであり、濱田様のご示唆に感服する所であります。
「殺処分」に家保の防疫員(獣医師)しか従事できない問題については、法的には獣医師の資格云々はありませんが、動物福祉(安楽死)を考慮すると、一般の人で殺処分の技術を持ち得るのは数少ないと思います。現実的な対応としては、薬殺の為の注射技術に長けている人となれば獣医師が妥当であると考えます。また、豚の様に「電気による殺処分」となれば、獣医師でなくても可能かも知れません。
法の解釈的には、殺処分を実際に行うのは、獣医師の資格にこだわる必要はなく、技術があれば誰でも良い・・となりますが、現実的には技術のある獣医師を指名するのが、殺処分を進めるには容易である・・・と言う事だと思います。今回の様な爆発的な感染拡大の状況になれば、獣医師以外で技術を持った人を募るのも一つの方法と思います。全国から募集すればかなりの人が集まったかも知れません。要は正しい法の解釈を、特に指示しなければならない立場の人(あるいはそばについている人)は必要だと言えます。
また、ご指摘の「衛生指導協会」も北海道にはまだ存続しています。ワクチネーションや伝染性疾病に関して相談窓口として、しっかり機能しています。また、道内各支庁(現在は振興局と呼んでいますが)毎に、農業団体(JAやNOSAI、連合会など)と市町村の行政が参加する、「○○(十勝とか釧路とか)管内家畜自衛防疫組合」があり、伝染性疾病の発生の都度「防疫演習(机上ですが)」を行っています。
更に各市町村にも自衛防疫組合があります。構成は役場、JA、NOSAIや農家集団(黒毛和種組合・酪農振興会・馬の振興会)で作られており、ワクチン接種及び各検査(ヨーネ、結核・ブルセラなど)を行っています。
今回の口蹄疫発生を受けて、各市町村の自衛防疫組合では、消毒徹底の啓発・石灰や消毒剤の配付、異常家畜の調査、立ち入り禁止の看板配付など、それぞれの組合で実施しています。
事業仕分けをテレビで見ていましたが、仕分け人に専門家と言われる人も交じっていましたが、ほとんど素人の議員さんでは、表面的な事を捉えて判断しているように見えました。確かに天下り役員に考えられないような報酬や退職金を支払っている実態には呆れるものもあり、「無駄遣い」とバッサリやられるのは痛快ではありますが、その業界にとっては必要不可欠なものも存在する事も事実であります。本気で仕分けするのなら、もう少し時間をかけて、関係者からの意見も聞いてもらいたいと考えています。ハリキリ過ぎると、政権の足元がぐらつく事も認識しなければならない。野党から与党になった途端「何でも思うようになる」と言う思い上がりは、賢明な国民に暴かれる日は、そう遠くない時期に来ると思っています。
現時点で18日以降発生が無く4日間が過ぎようとしています。このままで推移し終息する事を祈っています。それにしても梅雨の大雨が心配です。ニュース映像を見るたびに、この雨の中で必死の処理に取り組んでいる関係者を思うと心が痛みます。
すっかりマスコミ報道も少なくなりました。口蹄疫サイトからこのブログに辿り着いた一人として、まだまだ関心を持って見守っていきたいと思っています。

>この典型的な一例が、種牛の処分問題でした。本来これは発症した種牛と同一の畜舎にいた牛すべてが無条件に処分対象とされるべきところを、県知事は「殺処分命令権者は知事である」という家伝法を錦の御旗として執拗な抵抗をしました。


 此処だけ引っ掛かったので、少しだけ。5月29日の日経新聞からの引用です。
『種牛の殺処分、慎重に』
 国連機関の主席獣医官 長期的視野も必要
「殺処分は感染の初期段階では非常に効果的だが、すでに拡大した今は長期的な視野を持つ必要がある」と説明。「殺処分は(畜産)資源に大きな損失をもたらす」(ファン・ルブロス氏)
 
 発症の確定が4/20。移動制限区域に居た種牛の避難が認められたのは5/13でした。患畜でも擬似患畜でもなかったエース種牛たちは、その段階では殺処分対象ではありませんでしたよね?農水省が移動を認めたのも、そのためだったはずです。
 種牛の処分で県と大臣副大臣が揉めだしたのは、避難していたエース種牛に患畜が確定した5/21でした。
http://ja.wikipedia.org/wiki/2010%E5%B9%B4%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E5%8F%A3%E8%B9%84%E7%96%AB%E3%81%AE%E6%B5%81%E8%A1%8C#5.E6.9C.8816.E6.97.A5.E3.81.8B.E3.82.89_31.E6.97.A5

 発生後一ヶ月を過ぎた後の対処を「数時間以内の対応」と同じでいいのかどうか……一考の余地があるのではないでしょうか?
 参考までに、有志の方が切り抜いてくれた、5/29の記事をアップロードしておきます。
http://www1.axfc.net/uploader/File/so/46104
 パスワードはありません。御参照ください。

家畜伝染病予防法に関わる伝染病は,法令受託事務です.
そのため,発覚後の初動は県で行うものであり,国が関われる要素は非常に少ないです.
また距離的な問題としても初動は県のみで情報を開示した上でなされるべきでしょう.

国の問題点は,報道規制を行って,完全に裏目に出たという点です.
今回この初動が成功し,感染地域が小さいものであれば風評被害も抑え,素晴らしい規制であると言えますが,
今回はその見極めをあまりせずに一貫して報道規制を行い,更に感染拡大を引き起こす原因となっています.

2重構造が問題と言いますが,初動に関してはむしろ県主導で行う方が距離的にも連絡手段的にも全てにおいて優れています.

今回問題なのは,県と国が両方「失敗した」という最悪の展開であったためにそう思うだけではないでしょうか.

また,殺処分については獣医師に限って殺処分を行うのが問題なのではなく,
地方公務員(家畜防疫員)が非常に少ないというのがむしろ問題であると思います.
現在獣医学科4年目ですが,小動物臨床が完全飽和状態だというのに,小動物臨床に行かせたいのかい?というような感じの授業ばっかりです.
公務員に興味を持たせようとしない学校側のカリキュラムにも問題がかなりありそうだなと思いました.

しかしながら,
基本的に家畜伝染病予防法に関わる伝染病では,県からの家畜防疫員の派遣要請があれば,断ってはいけません.
その費用は,要請された都道府県がする訳ですが,これを国が補助すれば,いくら少ない獣医師といっても,足りないなんて自体には流石にならないはずだとは思うのですが・・・

知事が指定した移動制限区域(実質禁止)から、知事が種牛を特例で移動させようとしたことが問題なんです。
患畜・疑似患畜であろうがなかろうが、関係ありません。一切移動してはいけないのです。

そして、県だけが特例を認められ、民間は×の二重基準を可とする根拠は誰からも示されてませんね。

FAOのなんとかさんが述べたのは一つの選択肢であって、どういう選択をするかはこっちが決めるべき筋の物です。

北海道様
みやざきとみやざき甲斐は同じです。あらためて宜しくお願いします。
ワクチン接種家畜の処理が、大雨で全然進みません。
接種後の発症も有りましたが、症状が今までより変化が有ります・・・
西都のみなさん頑張って下さい!

みやざき甲斐様
口蹄疫ワクチンについて、どこのメーカーのものなんですか?接種後、抗体価はどのように上がっているのですか?お教えいただけましたら幸いです。

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

« 宮崎口蹄疫事件 その33  農場は宇宙ステーションでも、大学の実験室でもない コメントにお答えして | トップページ | 宮崎口蹄疫事件 その35    英国が2001年のパンデミックを真剣に反省した勇気に学びたい »