宮崎口蹄疫事件 その47 クローズアップ現代・英国口蹄疫緊急対策 第6回 確定-処分-補償の同時進行
今回の宮崎口蹄疫の初動の遅れの原因は多岐に渡っています。農水大臣、農水省、疾病小委員会、宮崎県知事・・・責任の軽重はありますがほとんどの関係者が満遍なく失敗をおかしてしまいました。
その最大の原因は、感染速度があまりに想定を超えて速かったということに加えて、旧態依然たる防疫指針、家伝法が役に立たずに、関係者がバラバラの意志で動いてしまったために、有効なひとつの「システム」として機能しなかったことにあります。
さて、初動における処分を遅らせた原因のひとつに補償の問題がありました。生産者は自分が手塩にかけた家畜を処分されることに対して、当然のこととして消極的です。自分の経済基盤の崩壊にもつながりかねないことですし、事態を呑み込めないので逡巡してしまいます。
また処分を納得したとしても、一律いくらというわけにもいかずこの査定額をめぐって交渉が長引けば、それこそウイルス感染を拡大する危険を増大させることになります。
従来の日本の口蹄疫の補償の考え方には、英国の緊急対策計画のように「処分と補償の同時進行」という考え方は存在しませんでした。ですから、今回も農水大臣が素人考えでうかつにマスコミにしゃべってしまった「60万円」という数字がひとり歩きしてしまい、和牛農家をいっせいに硬化させてしまい、処分がいっそう遅れるという悪循環すら生まれました。
また、今回の補償金額の設定も口蹄疫特別措置法の時限立法を法的根拠とするもので、2年後には無効となってしまいます。つまり、わが国には、恒久的な家畜伝染病に対する補償の仕組みがないのです。
では、今回はクローズアップ現代の「口蹄疫初動がなぜ遅れたのか」(6月4日放映)をテキストにして英国の補償方法をみてみましょう。
なお、あらかじめお断りしますが、この2007年の英国口蹄疫の原因はデフラ(英国の農水省に相当)研究施設からのウイルス漏洩だと言われています。したがって、口蹄疫処分補償のみならず、国家責任賠償という側面も存在します。
しかしこの番組で説明された補償システムの「流れ」(フロー)の原則には変化がないと思われますので、テキストとして有効だと判断しました。
おさらいになりますが、英国の口蹄疫緊急対策のもっとも重要な考えは、「数時間以内の初動制圧」です。このことを可能にするために英国はその障害となる要素をひとつひとつ解決していきました。
まずバラバラであった責任や権限体系を国が一元化しました。口蹄疫と疑われる牛が出た場合、国への通報窓口に直接にコンタクトできるシステムが確立されました。そしてデフラの口蹄疫対策即応チームと処分チームが現地に飛び、判定がクロだとなった段階で処分を開始します。
このとき同時進行で、国はデフラ、首相、閣僚、官僚など関係30組織に口蹄疫の緊急速報をかけます。そして確定判定が出た段階で、「中央危機管理委員会」が立ち上がり、国内のすべての牛の移動は即時凍結されます。
実は、このときに動いているもうひとつの緊急対策ブロックがありました。それが査定人グループです。英国においては国が指名した査定人グループが常設されているのです。
査定人は常に最新の家畜相場を把握した査定のプロです。日本のように、当初は「財産権があるので処分は難しい」と言い、数日後には事態に慌てふためいてとんでもない補償金額を口走って混乱に輪をかけてしまうような最高責任者はいません。
「口蹄疫は出てからでは遅い」というのが大原則です。その意味で、感染が確定する以前の平時こそが、この英国口蹄疫対策の神髄であるのかもしれません。平時に危機管理システムを構築しておかねば、緊急時に初動ができるはずもないではありませんか。
話を戻します。口蹄疫が確定されたと同時に査定人は農家を訪れ、補償金額の取り決めをして処分が直ちに行われるようにセットします。処分にかかる費用も国が負担します。
まさに確定判定-処分-査定の三つの要素が同時に進行しているのです。逆に言えば、この三つが揃わなければ初動制圧は困難だということになります。
この番組の中で処分農家のエマーソンさんがインタビューに答えてこう言っています。
「国は充分に補償しようとしてくれました。これがなければいやだと言ったでしょう」。
この言葉は、実はもうひとつの初動制圧の側面である感染していず、発症していない牛も同時に一定枠内で処分するという方法にもつながっていきます。それは次回にということで。
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コメント
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『判定・通報→処分→査定&補償』
これを同時にかつ迅速にってことですね。
今回は行政の動きが遅すぎたのが致命的でしたが、前回よりはるかに感染力の強いウイルスであったのに、経験が邪魔になり、始めから鷹をくくっていた印象を受けています。
まさかあそこまで爆発するとは…と。
ところで、今時の苦しい米農家や果樹農家は、天候不良で被害があると「農協共済からの補償積み立て金」が拠出されます。
数年前には「この地域は被害が小さかったけど、今まで一度も適用されてなかった優秀なトコだから」と『なあなあで』一帯を共済で補償適用範囲にしてくれた。なんてこともありました。これも問題ですが…特別ボーナスで皆喜んでましたよ!
宮崎始め和牛は子牛も含め特に高額になるし(査定も難しいでしょう)
しかし、迅速に正確に査定できるチームの創設が必要ですね。
また、農協や行政とは別に畜産・酪農関係者で独自の積み立て(保険)はあるんでしょうか?
今回の口蹄疫は我が国全体の畜産の脅威です。
全国の畜産関係者から広く薄く集めておいて、真っ先に配る。
イギリスのケースだと、後で国家賠償を求めて裁判も必要になりますし、怪しげな公役法人が仕切って使途が不透明になったりしないような、より強力な補償機関の設立を提案いたします!
事業仕分けで、畜産振興基金が切られて動けなかったとも聞きました。
だからあくまで『緊急補償だけでも自分たちで出来るシステムを』と。
それこそ民間保険会社に委託でもいいと思います。
投稿: 山形 | 2010年7月 7日 (水) 10時58分
山形様
「農協共済」ではなく、「農業共済」ではないでしょうか?
農業共済の中に、家畜共済があります。和牛繁殖、酪農、肥育、養豚、それぞれで加入できます。
また、農家が払う掛け金の中にも、伝染病等に対応する部分が含まれています。宮崎ではかなりの数の畜産家が共済に加入されていると思いますが、大規模になるほど掛け金も高額になりますので、中には加入されていない所や、企業での加入は出来なかったと思います。また、行政等以外での保険は家畜は無いと思います。(私の知る範囲では)
今回の宮崎での口蹄疫の際、前大臣が口にした「60」と言う数字は、平時の家畜共済の繁殖和牛の評価額だと思います。通常は、その額の6割補償になると思います。その数字では、農家の同意が取れないと言うことで、特措法により「81」と言う、とんでもない数字が出てきたと思います。
また、家畜共済は加入農家への補償ですので、未加入農家は当然補償がないために、今回のような非常時には、特措法みたいな法律が必要になったものと思います。ただ、そのために本来ならもらえるはずであった共済加入農家の共済金が、もらえないと言う不公平が生じています。
投稿: 一宮崎人 | 2010年7月 7日 (水) 12時33分
あ、農業共済ですね。失礼しました。
特に畜産は1撃のダメージが大きく金額もデカイ。
だからこそ(法との関係も含め)総合的に見直して、民間業者委託でもなんでもいいから、こんな時にすぐに全戸に共済金を出せるような素早く動ける、従来の慣例に囚われない組織を!という趣旨です。
畜産農家は埋却地確保の義務付けとか言ってるくらいなので、このような新しい共済制度があったらと…。国も自治体も赤字で爆発しそうですし、あくまで畜産農家の「自衛」のためにと出たアイデアでした。
投稿: 山形 | 2010年7月 7日 (水) 14時56分
コメント同士の情報交換の場所ではない事は承知していますが、参考情報です。
家畜の「農業共済」の他に、今回のような海外悪性伝染病発生時における救済策は無いか・・・・との事ですが、「海外悪性伝染病防疫互助制度」と言うのがあります。内容を知りたい方は下記を参照下さい。
http://www.pref.fukushima.jp/chikusan/eisei/gojokikin/kaigaibyou/gaiyou.htm
濱田様お邪魔し、申し訳ありません。
投稿: 北海道 | 2010年7月 7日 (水) 16時01分
北海道さん、そして皆さん。あまり狭くルールを考えないでくださいね。今日の記事のテーマは口蹄疫の補償問題ですから、むしろどんどんおやりになって下さい。
口蹄疫に関しては掲示板的に利用していただいてもかまいません。
それとかつての「ひよこ」氏のようにコメント欄をひとりで独占してしまうような極端な長文は困りますが、ある程度長くても問題ありません。
私がイヤだなと思うのは、コメント欄での他のコメントに対する批判めいた言辞です。これをやりだすとあまり生産的な場になりません。
その場合は、昨日のように管理者として介入させていただく場合があります。
昨日の「とみた」氏のケースは、おっしゃる内容は理解できますが、それに対して「みやざき」氏が返答を返して、また「とみた」氏が返すということをしたくなかったので、それが始まりそうな所で介入させて頂きました。
「とみた」氏にご注意した後に、「みやざき」氏の該当する1行のみを削除しました。
皆さんの情報提供は、私も非常に勉強になっています。コメンター同士で批判しあわないないというわきまえをもっていただいて、後はどうぞご自由にお使いください。
投稿: ブログ管理者 | 2010年7月 7日 (水) 16時40分
NOSAIの損害評価について疑問をお持ちでしたら、損害評価会に立ち会われてみてください。
どうも「感覚」での風評に近い気がしますので。
損害評価委員そのものや、生産組合長さんとして関わって頂ければ、もっと直接にご意見を反映できます。
今度の政権自体も、NOSAI制度を民間へ、というお考えのようです。
民間家畜共済で今回のような「激甚災害」に万全に備えるとなれば、掛け金は恐ろしく馬鹿高くなり、とても割に合わなくなるでしょう。
車の自賠責相当の平時保険があり、激甚オプションの任意保険が準備されるのではないでしょうか。
ただ、加入率は低くなり、結局は国に補償を求める・・・そんなシナリオが浮かびます。
NOSAI制度は、新幹線のように、外国へ輸出できるような規格だと思いますよ。
疫学的殺処分は国際・国内法に基づくものなのですから、補償も国家で準備するのが当然と思います。
投稿: shum34 | 2010年7月 7日 (水) 22時00分
濱田様
お気遣い頂き感謝申し上げます。
農業共済の評価は、基本的にその家畜の主観的な価値を認めておりません。北海道では黒毛和種については49万円が上限で、これをもとに掛け金等を算出しますし、死亡や事故の際には80%が支払われる仕組みになっています。
支払われる共済金や診療にかかる費用の50%は国から補助金として支出されます。(聞くところによると除々に引き下げられるみたいですが・・・)
主観的な価値を認めると、この牛は優秀だとか、高評価を得られた子牛を産んだ牛だから、100万円でも安いし500万円でも安い。いくらお金を出されても売りたくないし、ましてや殺すなんてとんでもない・・・と加入者が言い出せば、共済制度は崩壊します。共済制度自体(JAが行う人間の保険も共済と呼びますので考え方は同じです)相互扶助と言うか形を変えた互助制度の仕組みです。
第3者的に言わせていただければ、患畜や疑似患畜で殺処分された牛の補償は、上限いっぱいの補償をし、経営再開までの資金(生活費、経営費、家畜の導入費等々)については、家畜の補償とは別な考え方で支援をすべきだと考えます。ワクチン接種後の殺処分された家畜についても、同様な考え方での補償なり支援が必要だと思います。口蹄疫の発生は不幸な事ですが、生き物を飼い、それによって生活をしている以上、様々な伝染性疾病の感染は、常に覚悟をしておかなければなりません。その覚悟をした上で、少しでも感染リスクを低減させるために「バイオセキュリティ」対策を無駄と分かっていても行う事が必要だとおもいます。
目の前で大切に育ててきた家畜を処分される農家の人たちの心情は、痛いほど理解しています。理解しているうえで、あえて冷たい言い方をさせていただきました。
新聞で、ワクチン接種を拒否している「種雄牛(たねうし)」農家が1戸あり、法的手段も検討している。との記事が載っていました。
事業団のエリート種雄牛は特例で移動・・・と言う「ダブルスタンダード」を行った事が、口蹄疫発生の初動時対策の失敗が1番目とすれば、2番目の失敗でしょう。
投稿: 北海道 | 2010年7月 7日 (水) 22時56分
濱田様 前回のコメントでは、風評被害を起こすつもりは全くなかったのですが。良く考えず事実、コメントでついてしまった事でご迷惑をおかけしました。事 実今後注意します。
北海道様 宮崎でもいざ発生してみると共済、海外悪性伝染病防疫互助制度にしても、実は未加入だった、という農家が続出していました。加入していても保有全頭数は掛けていない方が多かったです。保険ですから事後の加入は勿論認められませんので今のうちに十分確認されて下さい。(もうなさっているとは思いますが)。川南などでも発生して20km圏内に入ってしまうと加入内容の変更が一切認められず慌てました。私たちも加入は当然と思っていましたが、やはり何も起らなければ意識が薄れる事を発生してから実感しました。鹿児島・熊本でも慌てて確認されていました。
また主旨がずれますが未だに家保の対策に一貫性が見えません。もし、発生しても慌てない様に準備状態を確認なさって下さい。あらゆる事態を想定しておかないと翻弄されてしまいます。
6月25日(金)
宮崎市跡江285例目を中心に事前査実施(目視)…292例目含む
宮崎跡江周辺農場血清抗体検査の実施予定が6月30日(水)に決まっていたにも関わらず、微弱な感染を見逃していないか心配で、292例目を含む周辺45農場へ事前目視検査チームが入って牛にタッチ。殺処分に出ていた方々が共通。
6月30日(水)
周辺農場への血清抗体検査実施(採血)
この時も「292例目の感染の痕跡に気付かず」
7月1日(木)
東国原知事、非常事態一部解除宣
7月2日(金)
東国原知事、出張を解禁。(東京、北海道、島根県、大阪府、福岡)
7月3日(土)
宮崎県、鹿児島県集中豪雨(120~160ミリ)
3日午前発表、「行方不明者1人、床上浸水8棟、 床下浸水24棟」
東国原知事、出張先の北海道で午後講演、「宮崎は集中豪雨に見舞われ、床上床下 浸水が数件で被害がとどまっている。この後すぐに帰って対策に取り組まないといけ ない」と宮崎へ帰る事を宣言
7月4日(日)
・東国原知事、なぜか宮崎には帰らず、予定通り根県で公演。
・農林水産省 12時アップ「XXX例目発生」=研修用アップロードデータ。ミス操 作?すぐ削除
・6月30日(水)採血の検査結果が4日後の7月4日に判明。再度採血、感染の痕跡 (口腔のかさぶた)も発見。殺処分開始
7月5日(火)
・東国原知事、大阪・福岡で出張を済ませ夜中に宮崎へ帰る。
何故4日間も抗体検査の結果が判明しなかったのでしょうか・・・。しかも7月4日に立ち入りした時には既に3頭は治りかけていました。
家保では7月4日の発症をうけてなお、2~3日以内に再度事前目視検査実施を打診。何故そんなに拘るのでしょうか。6月30日の採血結果は292例目以外は全て陰性も判明しています。さらにこのまま発症が続かなければ7月10日以降に再度洗浄性確認検査で再度採血されるのですが。
そこまで慎重な手順に拘るのならば、強烈な発症を起こしていたワクチン患畜が多数存在していた西都での制限解除前の目視検査で、全頭検査しなかったのでしょうか?多数のパドックから抽出するのなら理解出来ますが、一部のパドックだけの検査で済ませてしまいました。県内ならまだしも、県外へ全頭出荷する農場も有ります。
不十分な検査結果で他県に撒き散らさないかとても心配しています。宮崎は6月30日の採血時の接触からの感染が心配です。7月7日~11日までの発症が無い事を祈っています。
投稿: みやざき甲斐 | 2010年7月 8日 (木) 07時14分