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宮崎口蹄疫事件 その41 コメントにお答えして なぜ国が一元化せねばならないのかについて

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いくつかのご指摘にお答えいたします。
まず
beachmollusc様、いつも該博なご意見をありがとうございます。ご紹介あった貴ブログも拝見して、おおいに学ばせていただいております。特に口蹄疫と野生偶蹄類との関わりの知見には非常に教えられました。皆様もぜひご覧ください。
「ひむかのハマグリ」http://beachmollu.exblog.jp/


さて2007年英国の口蹄疫発生が、他ならぬデフラ研究所からのウイルス流出であることをお教え頂きました。おっしゃるとおりまったくお粗末な事故です。

しかし今回、私がテーマとしていることは、頂いたコメント前段にもありますように、この2007年発生の原因を究明することではなく、英国が(飛び火したとしても、)なぜ初期制圧に成功したのか」の理由を明らかにする、この一点にあります。

したがいまして、私は英国の口蹄疫緊急対応計画にのみに焦点を当てて考えています。英国の緊急対応は、FAOの口蹄疫対応指針であるAnimal Health Manual(2002)の第6章「口蹄疫緊急時に対する早期対処緊急時計画」とも通じるものがあり、現代における口蹄疫防疫先進国のひとつの範たりえるものだと考えております。

今、私は英国とFAOの口蹄疫緊急対策が、「通じるものがある」と言いました。そのもっとも大きな共通部分は「国家による一括責任体系」と「緊急時の権限の集中と、その通達体制」です。これは、今回の宮崎の事件においての最大の失敗が、地方行政と国との曖昧な責任の線引きにあり、またリーダーシップのとり方にあると感じたからです。

これについては私の口蹄疫シリーズその34に詳説いたしましたので、ご覧いただけましたら幸いです。この中で私は県と国の「実務と決定の二重構造」の矛盾を指摘いたしました。

「全くの一般人」様が知事でもできると言うのは、現在の家伝法や防疫指針の規定どおりですが、私がこのシリーズで再三問題視しているのは単なる半径10キロ、20キロ(*このような単純なゾーニングそのものに私は懐疑的ですが)の家畜移動制限区域の設定だけではなく、たとえば国交省管轄の国道や空港、港まで含む統制と徹底消毒、集会などの人が集まることに対する一時的な制限という市民生活に踏み込む内容が多くあるからです。

また英国で全国の家畜の移動制限をかけるのは、既に発生県から子牛などの形で出荷されている中に、潜伏期間の個体が含まれることがありえるからです

発生県の知事には他県までの制限を言う資格は当然ありません。これができるのは唯一国です

英国での緊急対応組織に外務省まで含まれるのは、海外への口蹄疫の持ち出し、あるいは流入に対しての対応だと思われます。これまた県知事には外国とそのような対応する権限はありません。実際、発生してしまったら県にそんな余裕などないでしょう。

結局、現在の県知事は県非常事態宣言という名称の響きは大きいがなんの法的裏付けがない「お願い」に頼るしかない非力な存在なのです。国道ひとつ遮断できず、口蹄疫の「確認」判定すら農水省が権限を握っています。都城市で現場で写真判定しても、それを判定するのは東京の農水省の獣医官です。

ところで、これを書いて以降いくつかの批判をいただきましたが、その多くは「県行政はなにもしなくてよいのか」、「県行政は現地にいるのだから素早いのではないか」というものでした。「全くの一般人」様もご同様なご意見を言われています。

英国では処分チームがどのような出動態勢をしているのかは、今の段階では私も把握していません。今後の調査とさせて下さい。
しかし12時間以内の対応をしているわけですから、ロンドンからガタゴトと行ったかどうか。なんらかの州ごとの事前配置があったような気がします。

同様に、日本で国の口蹄疫緊急即応チームを作るとすれば、各県レベルに重機などの緒器材をあらかじめ事前集積(デポ)しておかねばならないと思います。

また、その緊急即応チームの現地への移動は中型ヘリを用意せねばならないと思います。なにを大袈裟なと思われる方は、この宮崎口蹄疫事件においてものべ数万人の自衛隊員が出動している事実があることを思い出して下さい。

このように書くとものすごい費用がかかりそうですが、こども手当などというドブに金を捨てるような2兆ナン千億円(!)のほんの一部でもあれば簡単に整備できるでしょう。なにも戦車やジェット戦闘機を買おうというのではなく、専用ダンプ、ユンボと防疫器材ていどです。その予算もないというならば、地元の業者に補助金と引き換えに緊急時の供出を義務づけるという方法もあります。

わが茨城県のトリインフル事件でもそうでしたが、いったん伝染病をアウトブレイクさせてしまってからでは大変なコストと人員がかかります。最低限の被害でくい止めるための初動のスピードを確保する力は、残念ながら平時の県の行政システムにはありません

県規模の行政組織に、口蹄疫の非常事態緊急即応をする組織や装備を常備することなど、今の不況下で県税収が落ちている時期にまったく不可能だからです

ところで、「全くの一般人」様のご質問中に、指揮系統の問題がありましたが、これはFAO防疫指針では国が任命する「首席獣医官」(CVO)とされています。彼には、この「緊急事態の事前準備と対応の総合的な技術責任者」です。いわば、CVOはこの緊急事態の司令官的役割を果たします。

防衛において、首相-防衛大臣-司令官という関係があるとすれば、口蹄疫緊急対応においては、首相-農水大臣-首席獣医官となります。

また「土地勘」などの点や、別な以前いただいたコメントに「現地の獣医がもっともよく知っているし、扱いもうまい」というものがありましたが、私の経験上、獣医師の大部分は犬猫の小動物のみに馴れ、牛豚が扱える獣医師は一握りでしかありません。これは家保の獣医師も同様です。

宮崎事件の初期に起きた処分の遅れの原因のひとつは職員のこの大型家畜の不慣れでした。これについてはNHKがあたかもこれが主原因であるかのようにこの番組で報道しています(私はこれが主原因ではないと思っていますが)。

ならば専門の訓練を受けた処分チームを育成し、対応することのほうがはるかに有利であり、県の家保獣医師は発生地点からどれだけ拡大しているのか、していないのかを判定する発生動向確認の業務に集中するほうが有益だと思います。

「土地勘」については、現実には即応チームと地元の家保や県の防疫部局との共同作業になるわけですから、心配はないと思います。
また埋設地に関しては当然、英国モデルに拠らなくとも、国は今後、義務化すると思われます。だからと言って、埋設地だけがあっても、緊急即応できないという致命的な欠陥を持っている以上、どうにもなりません。

要は、口蹄疫緊急即応計画の責任体系を国が一元化すること、責任をとりきり、緊急時の命令系統を整理し、必要な器材を予算化し、いつ何どき起きるかわからない口蹄疫の発生に備えること、それに尽きます。

土地勘や器材などのさまざまな要件は、この主軸が出来上がればおのずと解決されていく従的な問題にすぎません。


今の日本のように国はゼニは出さない(パンデミックになり政治問題化すれば出しますが)、権限も中途半端にしか県に渡さない、そのくせ責任だけはしっかり県に行く、対策本部自体も県と国のふたつある、というわけのわからない複雑怪奇な防疫指針のほうがおかしいのです。

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コメント

同意です!

ひとつだけ、揚げ足とるつもりはありませんが、地方の空港・港湾は県の管轄です。

投稿: 山形 | 2010年7月 1日 (木) 18時51分

詳しい解説、お手間を取らせてしまいましたね。
違いについては良く分かりました。引き続き、更新楽しみにしております。ありがとうございました。

投稿: 全くの一般人 | 2010年7月 1日 (木) 20時54分

口蹄疫など強伝染性疾病に関しては、家伝法に指定されている他の伝染病とは別な特別な対応が必要である事が、今回の経験から明確になったと思います。
今回のパンデミックは、初期時における10年前の経験からの「甘い考え」と、家畜密度が想像以上に高く埋却地の確保が困難だった事と、濱田様がご指摘の権限や通報のあり方などが、一言で言えば「未熟」だった事が要因と思います。
十勝管内の或る町村では地元の建設業協会と、このような事態が発生した時スムーズに対応できるよう協定を締結しました。
行政が或る程度の機器(重機など)を用意しておく事は可能かもしれませんが、短時間に作業をするには、重機の扱いに慣れた建設業者のオペレーターが必要になります。その点では、協定を結んでおくことも方法だと思います。
全国各地域で、今回の事を教訓に備えておく事が被害を最小限に且つ短期間に収束させる事が可能になると思いますし、辛く悲しい思いをした宮崎県の方々に応える事だと思っています。
これまでより一つでも前進する事に期待しています。

投稿: 北海道 | 2010年7月 1日 (木) 21時29分

管理人様
こちらのコメントを通じてコメントのやり取りになる事、お許し下さい。これが最初で最後になると思っています。

みやざき甲斐様
唐突ですが、もしかすると、私は臨床家としての最初の日に先生のご自宅にご厄介になっているかもしれません。違うかもしれませんが、みやざき甲斐様が、コメントで述べられているKさんについては、ハッキリ理解できます。かの人物が述べられた記事について何も判らないのでコメント出来ませんが、行った事に対しては、激しく憤りを感じております。
決して表に出ることなく、しかし、全てを動かしてきた。
その政治力には敬服しますが、それを良しとしない人々もいる事を、もう判っても良いでしょう。いつまでも、自分たちが正義ではないです。
管理人様、貴重なスペース、すみませんでした。

投稿: 一宮崎人 | 2010年7月 2日 (金) 00時07分

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