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2010年7月

2010年7月31日 (土)

宮崎口蹄疫事件 その62  移動制限解除となっても農家の困難は続く

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お暑いので、涼しい写真を。今年3月にわが農場の欅に降った雪です。もうわが農場の女性従業員のトリさんはバテバテで、まぁいいか無理すんなよってかんじです。この焼けつくような酷暑の中、復興に励まれている宮崎現地の皆さんに、心から敬意を表します。

このような復興期は今までの防疫問題だけではなく、経営問題も噴出してきます。私の時の茨城トリインフルもそうでした。殺処分による補てんがあっても、いちばん応えるのがローテーション(*ロットの回転のこと)でした。

移動制限がかかっている場合、新たなロット更新が出来なくなります。これはどういうことかと言えば、処分されて空っぽになった畜舎を補充できない期間が存在してしまうということです。

つまり、石灰がまるで化石のように堆積したわが畜舎に復興の新たな芽である次のロットを導入できないことになります。脱線しますが、今「化石のようになった石灰」と書きましたが、言葉のアヤではなく消毒液をかぶった石灰はほんとうにガチガチの板のようになります。一時は私の農場もアルカリ砂漠と化していましたもんね。

私の農場はいわゆる「一貫」といって、雛から廃鶏までを一貫して飼育しています。いまでは非常に少ない形態で、普通は生育期間は別の業者に委託するのですが、わが農場は「一貫」飼育にこだわっています。

ですから、ロット更新が出来なくなると、丸々半年間の経営上の空白が生じてしまうわけです。これに移動制限で出荷も出来ないとなるとその期間、宮崎県の場合3カ月間が丸々空白となったわけですから、加えてそこからのローテーションの空白と合わせて非常に長期の経営上の空白期間が出来てしまうわけです。

あるいは、移動制限地域外でも、セリが立たないために、出荷適齢期を過ぎても延々と飼い続けなければならないことになります。これも痛い。

「日本農業新聞」(7/20)を読むと、移動制限地域外の高原町などでも、セリが3カ月間たたなかったために畜舎が出荷適齢期を超えた牛で満杯になっていることを伝えています。

肉用はかなりタイトに出荷適齢期があり、それを越すと飼料効率が非常に悪くなり、ときには肉質にも影響が出たりする場合があります。たとえば肉用牛ならば300~400キロが出荷適齢期ですが、それを100キロも超えてしまいます。

また出荷ができないため見込んでいた収益がなく、代わりにその間の飼料代がズシッと乗っかってくるわけです。だいたい和牛繁殖で100頭規模の農家だと、約200万円の飼料代が毎月かさんでいくことになるそうです。

しかし、一貫飼育農家や肥育農家はまだセリが立てば出荷ができるわけですが、種付けの自粛が4月下旬からかかっていた繁殖農家はまったくどうにもなりません。今回私がいちばん心配しているのはこの層です。

経営的に弱い農家は資金繰りがつかず、真剣に廃業を考えることになります。若い農家はまだ公的融資やJAからの借り入れでつなぐ気力がありますが、後継者がいない高齢の農家などは、ここが潮時だと廃業の決断を迫られてしまっうことも多々あると思います。ほんとうに痛ましいことです。

このように畜産農家、特に牛は飼育期間のスパンが長いので、負債を抱えながらの経営が常態化しているケースがあります。宮崎県の場合、このような過去の負債を免責しないと、たぶん立ち直れないのではないでしょうか。

そのための負債を国が買い上げるための緊急基金が必要です。ただしそれも、どこで線引きするのかということを考えると、ある意味、県内全部が丸ごと被害農家という激甚災害だったわけですから、頭が痛い問題となります。

処分された家畜には特別措置法や家畜共済(免責条項を読むとけっこうめんどくさそうですが)で補償されるとして、短期のつなぎ資金や負債整理資金を複合させていかないと現実には立ち行かなくなると思われます。

国や県は、農家の側にたった再建計画を作って下さい。お願いします!被災農家が新たな宮崎牛を出荷できる日まで、宮崎口蹄疫事件は終息していないのですから。

頑張れ、宮崎の農家!頑張れ、宮崎人!

2010年7月30日 (金)

宮崎口蹄疫事件 その61  疫学調査チーム第4回検討会報告速報 侵入ルート明らかにならず!

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ようやく農水省疫学調査チームの報告書概要が公表されました。以下全文を掲載いたします。なお太字及び改行は引用者です。
[引用開始]

      口蹄疫疫学調査チーム第4回検討会概要   (7月23日)


1 初発農場等について
(1)これまでの現地調査、抗体検査等の結果から、ウイルスの侵入が
最も早かった農場は3月31日の検査材料でPCR検査で陽性であっ
た6例目の農場であり、ウイルスの侵入時期は3月中旬頃と推察さ
れる

(2)(1)と同様の結果から、1例目及び7例目の農場には、3月下
旬頃ウイルスが侵入しており、1例目の発生が確認された4月20
日時点では、少なくとも10農場以上にウイルスが侵入していた

推察される。

2 ウイルスの侵入経路について
分離されたウイルスは、今年に入り韓国、香港等で確認されたウイ
ルスと遺伝子配列が極めて近縁であったことから、アジア地域から人
あるいは物の移動等に伴って日本へ侵入したと考えられるが、現時点
ではその経路を特定することは困難
である。
6例目及び7例目農場では、中国産稲わらは使用されておらず、ま
た、輸入に際して加熱条件等が定められていることから、中国産稲わ
らが口蹄疫ウイルスに汚染され、原因となった可能性は極めて低い

3 感染拡大要因について

(1)川南町を中心とする地域において、感染が拡大した要因を以下の
とおり考察する。
①人:発生農場からの人の動きを通じて周辺の農家へ感染が拡大した
可能性
がある。また、共同たい肥施設や倉庫、器具・器材の共同利
用による感染拡大も考えられる。

②車両(家畜や飼料の運搬車等の畜産関係車両):えびの市での発生
事例については、川南町の関連農場から出発した家畜運搬車両等が
関連していた可能性があり、他の事例においてもこれらを含む畜産
関係車両が感染拡大に関与した可能性
が否定できない。

③近隣伝播:ネズミ・鳥・ハエ、飛沫核(※)等を介した周辺農場で
の近隣伝播の可能性が考えられるが、広域に感染した原因である可
能性は低い。
※ 飛沫核とは、ウイルスを含む微少な粒子で、風により運ばれるが、
1km以上飛散することはない。

(2)ワクチン接種区域外への感染拡大の要因については、以下のとお
り考察する。
西都市(283例目)及び日向市(284例目)については、児湯
地区の発生農場と同じ飼料運搬会社の人・車両が、その発生農場へ
の運搬と同日または連続した日に使用
されていたことが確認されて
いることから、この車両によりウイルスが伝播し、感染した可能性
がある。

西都市内の発生農場間(283例目と289例目)で、それぞれの
農場から牛を出荷する際、同一車両が使用された
例が確認されてい
ることから、当該運搬車両を介してウイルスが伝播し、感染の原因
となった可能性が高い。

③宮崎市内の3農場(285例目、291例目及び292例目)の発
生については、同一地区に存在し、農場間の距離が数百メートル程
度であることから、飛沫核による近隣伝搬の可能性
を否定できない。

4 今後の飼養衛生管理・防疫措置に関する提言
今回の発生事例を受けて、既に実施されている項目もあるが、これ
までに確認された疫学調査等の結果を踏まえ、改めて今後の飼養衛生
管理・防疫措置について下記の提言を行う。

(1)畜主は飼養衛生管理(管理記録の保存を含む。)を徹底し、流涎、
跛行等口蹄疫の臨床症状の早期発見を含め、毎日欠かさず家畜の健
康観察を行うとともに、異常を確認した際は直ちに獣医師・家畜保
健衛生所へ通報すること。

(2)関係者以外の農場への立入を極力控えること。また、関係者が農
場へ立ち入る際も農場ごとの専用の長靴及び作業着を着用し、消毒
を徹底すること。

(3)飼料運搬車両等については、車体の外側だけでなく、運転席内や
荷台についても十分に消毒すること。(例:適切な消毒薬を湿らせ
たタオル等によるハンドル等の消毒、運転マットの洗浄及び消毒等)

(4)ワクチン接種農場や防疫措置完了後の農場における家畜排せつ物
・飼料等の処置については、「口蹄疫に汚染されたおそれのある家
畜の排せつ物等の処理について」(平成22年7月1日付け22消
安第3232号動物衛生課長通知)に基づき、県は適切な処理を行
い、確実にウイルスを不活化すること。

(5)都道府県は今後の発生に備え、迅速な早期殺処分・埋却を実施す
るための埋却地の確保の調整を行い、発生時に大量の人材・資材を
投入するための体制の構築に努めること

[引用終了]

なんというか、コメントをつける気力が萎えてきます。隔靴掻痒とはこのことでしょう。ほとんど新しい情報はありません。公表された概要以外に本文があるのでしょうが、「みやざき甲斐」さんの現地からの報告のほうがよほど詳細かつ肉薄した内容です。

目立ったこととしては、第6例が3月中旬として初発に確定され、4月20日の確定以前に10農場以上にウイルスが侵入していることが明らかになったことです。

わが国への侵入ルートは特定されませんでした。ここまで絞り込んできて、どうして更に遡及できないのか、逆に不思議な気持ちさえします。

侵入を媒介したものとして中国産藁は否定されました。残るは「人」と「物」ですが、なぜこれが判らないのか逆に不思議です。ここはマザー牧場のような観光牧場ではないので、外国から来訪した「人」など5本の指の数以下のはずです。特定できないのはおかしい。あまり考えたくはありませんが、政治的な裏を勘繰りたくなります。

これについては「みやざき甲斐」さんが執拗に調査していますので(いつもながらすごい馬力です!)、その結果を待ちたいと思います。

ウイルス媒介として、人、車両、器材による伝播が上げられて、いくつかの事例で具体例が示されました。飼料運搬車、家畜移動車両は予想通りでした。これも既に社名まで特定されています。

宮崎市内の例は飛沫核による空気感染とされました。なおやや意外なことに、他の地区では飛沫核による伝播は否定されています。というと、川南町の豚の連続感染事例は飛沫核でなかったということになります。

精肉、加工肉、野生動物についての言及はありませんでした。これは調べなかったというふうに解釈していいのでしょうね。

今後の対策は、まぁご覧のとおりで常識的なことです。私だってもう少し気の利いたことを書ける。ただ埋却地と資材、人員の早期投入の体制作りの提言は県は重く受け止めるべきです。

ちなみに国への要望はありませんでした。いいのでしょうかね。脱力感です。

というわけで、だいたいこのような内容が農水省の最終報告書の骨子となることがわかりました。実に空疎です。かえって私は意図的な情報隠蔽がありえることを確信しました。このままではうやむやのままに終わる、とした私の警告が当たりそうな気配です。

官がこの体たらくならば、私たち在野の有意の人々が真相を明らかにしていかねばなりません。

■写真 昨日に続き月見草です。桃色や淡い黄色など実に美しい。

2010年7月29日 (木)

宮崎口蹄疫事件 その60 家伝法が改正されそうだ!防疫関係者に農場立ち入り権限を与える動き

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家畜伝染予防法(家伝法)の改正が決まりそうです。

[以下引用 太字引用者]

口蹄疫 家畜伝染病予防法改正へ 国の権限強化、強制調査も

(産経新聞) 7月28日(水) 08:00:00

 口蹄(こうてい)疫問題で農林水産省は、感染予防などで国の権限を強めるため、家畜伝染病予防法の改正案を来年の通常国会に提出する方針を固めた。山田正彦農水相が27日、閣議後会見で表明した。

 改正案には感染経路を調べるため、農場などを強制調査できる権限を国などが持つことも検討する。現行法は殺処分の命令など重要な決定は都道府県が行うことになっている。だが、今回の口蹄疫問題では、現地に対策本部を置いた国と、県との責任の所在があいまいで混乱したとの指摘が出ている。

 山田農水相は「今後は国がきちんと危機管理体制に責任を持つ形にしていかざるを得ない」と強調。「諸外国では感染経路を調べるため、強制調査ができる」などと述べ、改正案にはこうした権限を国が持てるようにする意向を示した。

 また、農水省は同日、国や県などの対応を検証する第三者による検証委員会を設置した。8月5日に初会合を開き、11月ごろのとりまとめを目指す。

 委員会は識者や弁護士らで構成し、発生前のウイルス侵入防止対策▽初動対応▽殺処分や消毒など防疫措置の進め方−などについて、国や自治体、個々の農場のそれぞれの対応を検証し、改正案に生かす。

 また、事実上停止している牛肉の輸出再開を目指し、農水省は10月、国際獣疫事務局(OIE)に、口蹄疫の発生していない「清浄国」への復帰を申請する。

 一方、野田佳彦財務相は27日、今回の口蹄疫対策として、家畜伝染病予防法に基づいて今年度予算の予備費から追加で88億円を支出することを決めたと発表した。家畜を殺処分にした農家への手当金などに充てる。支出は今回を含む3回分を合わせて、計411億円に膨らんだ。
                                       [引用終了]

この記事を読む限り、改正の要点は二点です。
第1に、かねがね必要を叫ばれていた防疫関係者の農場立ち入りの調査権の強化です。国がその調査権を持つとされています。

第2に、今回、現場で混乱を究めて県と国の感情的対立にまで発展した県と国の権限を、国を主体として危機管理体制を作っていくことで整理していきたいようです。

直接改正とは関係ありませんが、第三者による検証委員会が8月に開催されて11月に答申されるそうです。

私のコメントを加えます。
まず第1の、国の調査権の強化ですが、遅すぎたくらいでした。前回の茨城トリインフル時は違法ワクチン接種が引き金だというのが防疫関係者の一致した見方でした。家保の獣医師などは、「もしこれが違法ワクチン由来でないという者は獣医師免許を返上しろ」と言っていたくらいでした。

にもかかわらず、家畜防疫員たる家保、あるいは国の疫学調査チームのいずれも「誰が見ても怪しい」農場に立ち入り調査ができませんでした。いや、正確には仮に入場しても、欲しいロット管理記録、衛生管理記録、あるいは車両や人員の出入りを示す帳票類を「任意で見せてもらう」うかできないのです。

これらを押収して(柔らかに言えば「提出願って」)、精査することができないことが、9割クロだという言われる対象を法廷に引っ張りだすことができなかった大きな理由でした。

そりゃそうでしょう。いくら疫学的に詰めていっても、肝心な物証がないんだもん。いわば状況証拠の積み重ねのようなもので、これでは検察は立件してくれません。

今回の宮崎でも、感染をバラまいて、それを隠蔽しようとしたといわれる農場があります。これに対しても、家畜防疫員や疫学チームは、「資料を見せてもらう」ことはできても、調査の為に農場に立ち入って聞き取りをして、関係書類を押収する権限までありません。

これは捜査権という司法権の範疇であり、例外はありますが原則として警察と検察が占有しています。今回のような大規模な政治問題化した事件ですと、地元警察のみならず検察機関が動く可能性もあり、多少状況は違うのですが、一般的に言えば、警察関係はど素人です。ぜんぜん判っていないんですな、これが。

茨城トリインフル事件の時は、石岡署の生活安全課の気のいいお巡りさんでしたが、同時に捜査していたのは痴漢でしたか。伏魔殿のようになった事件の全容を、何の畜産知識もないお巡りさんが、それもたった1~2名で聞き回ってなにが出来ます。

その時から家畜防疫員、疫学チームに農場立ち入り、証拠物件の押収などの準捜査権を与えよという声は現場で高まっていたのです。今回はそれをおろそかにしたツケが回ってきて、ウイルス侵入ルートや感染ルートの特定が非常に困難になりました。

今回、これを改正するというのは非常に期待が持てます。これによって発生動向調査の遡及調査が強化されることになります。

ただこのような権限が国の疫学チームに限定されるのか、地元家保の家畜防疫員にまで及ぶのかは不明です。

私は国、県のいずれにも与えるべきだと思いますが、その場合の権限の整理とプライオリティ(優先権)を明確にしておかないと、ひとつの事例をめぐっての綱引きというバカなことになりかねません。
これは調査権のみならず、口蹄疫緊急対策の主体を国に置くのか、それとも法定受託で県に背負わせてきた従来の形のまま行くのかにもつながることです。

このあたりをあいまいにして調査権のみの強化はありえませんし、やったとしてもかえって現場での混乱に輪をかけることになってしまいます。

長くなりました。家伝法改正の第2点以降は次回ということにいたしましょう。

■追記 疫学調査チーム第4回検討会概要が発表になりました。侵入ルートを、はっきりと第6例を初発で、3月中旬と明記しました。明日はこちらの情報を優先します。

■写真 月見草です。実に可憐な花で私は大好きです。

2010年7月28日 (水)

宮崎口蹄疫事件 その59   清浄化確認が目視検査だけなのはちょっと心配だ

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清浄化のコースが確定したようです。昨日の移動制限解除を経て、8月27日が終息宣言という予定表が立てられました。ほんとうによかったと思います。宮崎を覆っていた暗雲の終わりとなることを心から祈っています。

もらろん、いささかの危惧もあります。喜びに水を差すようですが少しだけ書かせて下さい。

まず清浄化検査の方法が、目視検査にだけになったことが最大の危惧です。宮崎県のプレスリリース(7/21)を読むと以下のことが発表されていました。

  1. 期間  7月22日(木曜)~8月11日(水曜)
  2. 対象  県内で飼養されている全ての牛・豚
         対象戸数 約7,700戸(牛 約7,200戸、豚 約500戸)
         ※直近の清浄性確認済み農家を除く
  3. 方法  牛(肉用牛、酪農)については、農場巡回による目視検査、
         豚については、管理獣医師等の目視検査または電話聞き取り

私の知り合いに獣医師がいるのですが、彼にこの件を聞いてみました。すると、いつもはおおむね歯切れがいい人なのですが(特に酔うと)、今回は「他県がやることだからね。農水省も認めている以上なんとも言えないなぁ、ゴニョゴニョ・・・」。

私が「でも、前に口蹄疫は目視検査でよくわからないケースがあるって教えてくれたのは、あなたですよ」と水を向けると、
「うん、初期の症状や、治ってしまったケースは確かに解りにくいのは確かだがね。初期の場合はほかの病気との相似が多いし、自然治癒した場合は疫痕といってこれまた解りにくい。ただ熟練の獣医師がしっかり見れば判るから安心しなさい」。

「安心はしているんですけどね」と私もややしつこい。
「ひとつだけ教えて。疫痕のある家畜はウイルス保菌しているの?」

「保菌しているよ。だから今回は宮崎の医師も必死になって目視検査をしていると思う。もう決まった以上、彼ら現場の家畜防疫員を信じるのがベストだ」と獣医師。

よく私のブログで登場するFAOの口蹄疫防疫指針Animal Health Manualの第2章「口蹄疫の特徴」としてこうあります。

臨床症状がなくなった後、反芻動物の80%は持続的感染状態となる。この状態をキャリアー状態(保菌状態と呼ぶ」。

また同じく気になる一項もありました。「畜産物」という部分です。
口蹄疫ウイルスは(略)、リンパ節、骨髄、残血野中できわめて長期にわたって感染性を維持し、内臓でも短期間維持できる。ウイルスが長期間感染力を維持できるその他の製品には、未調理の塩漬け肉と加工品(略)、未殺菌の乳、乳製品が含まれる」。

このようなキャリアー状態の家畜は、牛で3年半の持続時間を持つとされているそうです。

どうして血清検査との併用に踏み切らなかったのか、私にはよくわかりません。血清検査をすれば過去の感染が明らかになり、キャリアー状態であるかどうかが明白になるからです。大丈夫と信じつつもやや不安です。なにせ検査数がハンパじゃないから。

そしてもう一点は、食肉加工製品です。これは相当数が既に処理済であり、移動制限解除となっていっそうその数を増すでしょう。もちろん人への感染はありえませんが、冷凍状態においてもキャリアー状態は維持されます。

この食肉加工品のキャリアー問題には、ほとんどのメディアが風評被害を恐れてか(確かに大いにありえます)、言及がない状態です。

最後にもうひとつ、野生偶蹄類がキャリアー状態になっている場合です。これに関してはもうまったくと言っていいほど情報がありません。 ・・・そしてなによりこれらすべてが杞憂でありますように。

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ところで、「日本農業新聞」(7/22)によると、簡易検査キットの導入が本決まりになりそうです。英国や韓国と同タイプだそうですので、上の写真のようなものかもしれません。

判定誤差があるので、遺伝子検査と併用するそうです。2011年の概算要求に盛り込まれるとのこと。まずは一歩前進ですが、県家保の支所にまで配備しないと意味がありません。しっかりこういうところには予算を使って下さいね、山田さん!

2010年7月27日 (火)

宮崎口蹄疫事件 その58  一寸の虫の歯ぎしりがこのシリーズの原動力です

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本日、移動制限解除となりました。おめでとうございます。この機会に、改めて今回の口蹄疫シリーズを書き続けることの意味を振り返ってみたいと思います。

今回、このよな長い口蹄疫追及シリーズを書くことになったのは、私が宮崎の被災地農民と同じ農民だからです。農民には国民一般では括れない農民独特の見方があり、農民の支援の仕方があります。

誤解を恐れずに書きます。
国民一般において被災地に対する同情と共感で済みます。それで充分であり、それは同胞を助けたいと思う美しい心情です。

しかし私たち農家、ことに畜産農家にとって口蹄疫問題は自らにはねかえってくることでした。正直に書けば、児湯地区で最初の発生を見たときに、私たちの多くはこんな気分にさせられたことだと思います。

「なんて防疫意識の低い人だ、今更口蹄疫をもらうなんて。しかし、すぐに消し止められるだろう。まったく迷惑なことだ」、と。もっともこの他県の畜産農家の感慨は、5月の連休明けに一変するこことなりますが。

「どこからもらった」というウイルス侵入ルート、「未だに感染拡大ルートが特定されていない」という感染情報の不透明性、そして感染拡大を許してしまった防疫当局の失敗などが、口の中に詰め込まれた砂利のように私たちに残り続けています。

これらのことを国民に説明すべき責任は、あげて行政にあります。それは家保を指揮する県知事であり、現地対策本部と疫学チームを指揮する農水大臣にあります。そして、発生から既に3カ月になろうとしている現時点においても、未だこの説明責任は果たされていません。

ありえないことです。情報の意図的な隠蔽を疑われても致し方がないことです。これは宮崎県口蹄疫の拡大を水際でくい止めねばならない私たち畜産農家にとって死活的な情報でした。これがなければ、防ぐに防ぎようがないではありませんか。

他県の畜産家は、目隠しをして防除しろとでも。ただひたすら怯えて、消毒液を撒いていればいいとでも。

私は、それらを自分なりに明らかにするために一個一個の石を積み上げるような検証作業を開始しました。またその検証の中から、今の家伝法や防疫指針の不具合が判りました。

私たちが、なんとはなしに世界で一流だろうと勘違いしていた日本の防疫体制が、実は抜け落ちだらけの年代物でしかなかったことも判りました。

私はこの検証作業をすればするほど、専門家任せにせずに新しい防疫体制のあり方を考え、このブログを読む人たちとすこしでも共有化していかねばならないと思いました。

そうしなければ、宮崎口蹄疫事件は、真の原因も明らかにされないままに疾病小委員会の疫学報告書の膨大な文書綴りの中に埋もれていくことでしょう。そして一般の人々の目に触れないまま専門家集団の中の専門性の闇の中に消えていくことでしょう。

残念ながら茨城トリインフル事件がそうでした。農家や農業団体も補償以外では声を上げず、うやむやのまま幕を閉じました。そしてなにひとつ物事は変わらなかった。

これではいくら被害を積み上げようと、家畜の屍と農家の涙を供物としようと、なにひとつ変わらない!
何の反省も何の検証もなく、防疫学者と防疫官僚たちが密室で作った作文が官報に掲示されてお終いです。

このまま推移すれば、宮崎でもまったく同様の結末となるでしょう。特別措置法で補償はしたと、その条件をめぐっての駆け引きはあっても、真相は明らかにされることなくそっとしておこう、農水省の疫学報告書が出るまで待とう、で終わりになっていくことでしょう。

これを許さないいわば一寸の虫の歯ぎしりが、この60回になろうとしている一連のシリーズです。

末尾となりましたが、今回の謹慎事件について書きます。
宮崎県は、この3カ月間未曾有の嵐の中にいました。それと闘うには県民が心をひとつにして闘うしかすべがありませんでした。なぜなら、本来、県民を守るべき国家が初期において県民を見捨てたからです。

団結には中心が必要です。そして「指導者」を必要とします。
宮崎県民がこの危機の時期において、知事を中心にして団結できたことを素晴らしいことだと思います。そして知事は、県民に危機を訴え、団結させ、外圧たる国と戦い、県の農家と農業を守ろうとしました。その意味で東国原知事は非常に卓越した指導者でした。

私への批判でいただいたコメントの中に「1年間は知事について外部の人にはふれないでほしい」という意味のものがあったことを覚えています。これを読んだ時に私は自分の犯した不覚に気がつきました。

不用意に団結の中心を批判したうかつさにです。今なぜ知事が95%以上という驚異的な支持率を誇っているのかに対して思いを致せなかった自分を恥ずかしく感じました。

さて今後ですが、私は知事の検証を続けるでしょう。なぜなら、もはや宮崎口蹄疫事件は、ひとり県民だけの災厄ではなく、国民全体が共有すべき災厄だからです。知事の存在なくしては団結がなかったように、知事なくしては今回の事件の全容を解明することは不可能だからです。

今後の日本の畜産のみならず農業全体は、この事件をどのように捉えて、教訓を活かしていくのかで決定されるでしょう。

明日から清浄化のことなどを具体的に論じていくことになります。よろしくご指導を賜りますようにお願いします。なお、コメント欄は口蹄疫をテーマにするかぎり良識をもってご自由にお使いください。

■写真 夕暮れの霞ヶ浦の岸辺。

2010年7月26日 (月)

宮崎口蹄疫事件 その57  ブログ再始動! 山内名誉教授の「第3の道」」説を考える

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1週間ぶりの更新再開となります。改めまして、皆さんこんにちは。ご心配、ご迷惑をおかけしましたが、本日をもって自主的謹慎を解除しました。今後とも、この反省をいかして農業問題を語り合えるブログ作りに励んでいきたいと思います。

さて、すさまじい酷暑が襲っています。体温よりも気温のほうが高いというのですからただごとではありません。 私は今年は冷夏と思っていましたので、私のような畜産屋にはたまったものではありません。36度を超えると、さぁ殺せというかんじになります。ましてや38度なんて、もうめちゃくちゃですがな。

しかし、ものには表裏があるとはよく言ったもので、稲や果樹には恵みの酷暑となることでしょう。今年の梨や西瓜は一気に日照不足を回復して、糖度が乗ってうまいようです。稲もがぜん復活しました。

ところで、先日、新聞を見ると山内一也先生(東大名誉教授)という防疫学界の権威の記事が目に留まりました。皆さんもお読みになられた方も多いでしょう。

朝日新聞7月23日の記事で、記者が座談をまとめた形になっています。
「殺処分減らせた可能性 口蹄疫対応識者が指摘」として

[以下引用]
 (略)欧米ではワクチン接種しても、殺さなくて済む方法への転換や研究が進んでおり、日本も採用していれば、殺処分を大幅に減らせた可能性があるという。

ワクチン接種後生かす道も
 山内さんによると、欧米の口蹄疫対策は2001年の英国での大発生を機に転換。600万頭もの羊や牛などが殺処分となった反省から「殺すワクチンではなく生かすワクチンを」という機運が高まり、抗体が自然感染によるおのか、ワクチン接種によるものかが判別できる「マーカーワクチン」が実用化された。
 OIEの国際規約では、「汚染国」と認定された国が発生の恐れがない「洗浄国」に戻るには、
①殺処分だけの場合は感染例が無くなってから3ケ月後
②殺処分に加え、ワクチン接種をした場合は接種された動物を殺処分してから3ケ月後、となっていた。
 OIEは02年の総会で、ワクチン接種した家畜に円感染による抗体がないことを証明すれば、6ケ月後に洗浄国に戻れる「第3の選択肢」を加えた。その場合、殺処分は接種した家畜すべてではなく、自然感染による抗体があるものだけでよい。

 
欧州では自然感染による抗体の有無を識別する研究が進んでいる。市販検査キットが01年に発売され、市販の4種と研究所で作った2種のキットを各国の研究者が比較評価した成績や、自然感染した数千頭単位の家畜について抗体検出の信頼性確認の成績も報告されている。

 宮崎で起用されたのもマーカーワクチンだったが、実践はされなかった。背景には、国内でこうした検査法があまり知られておらず、研究もされていないことがあるとみられる。山内さんは「国連食糧農業機関(FAO)が派遣を提案した口蹄疫専門家チーム受け入れを政府は断ったが、もし専門家が加わっていれば、欧州のこの10年の取り組みの成果を生かす方法亜あったのでは。殺処分家畜が少なくて済んだ可能性もあり、再発に備え研究課題にすべきだ」と提言している。
 [引用終了]

この山内名誉教授の「第3の道」説は、先日宮崎で問題となっていた民間種牛絡みのリングワクチン接種-殺処分問題を念頭においての発言だと思われます。私は一読してなんだかなぁ~というのが実感でした。
この記事は、明らかに東国原知事の一連のワクチン懐疑-民間種牛処分回避の言説の応援として書かれています。その意味では、学術的な体裁をとりながらも゛大変に政治的なものとなってしまいました。

山内名誉教授の発言でもっとも注目されることは、ワクチン接種をしても、02年のOIE総会で、6カ月後に自然感染による抗体がみつからなければ清浄国に復帰できる「第3の道」があるとしたことです。

今回の宮崎口蹄疫事件を現場で闘ってきた防疫関係者が読めば、「先生、なに寝ぼけておられるんですか。判らないことにはクチバシを突っ込まないで下さい」と言うことでしょう。

山内先生は事の前後を取り違えておられます。「なぜワクチを打たざるを得なかったのか」という前提を無視された議論です。

まず、4月28日を境にして感染が爆発期に突入してしまいました。これは処分されるべき患畜が、待機状態のまま処分保留になってしまったことによります。原因は、家保の処分の不慣れなことによる不手際や、絶対的な用地不足、それに加えて処分に対する県と国の補償交渉が長引いたためです。Photo_2

[図1・発生と処分頭数の推移 岡本嘉六鹿大教授より引用]

この5月初旬から中旬にかけてのおびただしい処分ができないままに農場で待機し続けた家畜、なかでも豚の存在が、感染爆発をブレイクアウトさせた主原因でした。
図1をみれば、FAOの口蹄疫防疫指針の言う確定から数時間はおろか、当初から4日間以上、連休後半からは1週間以上、ときには3週間以上かかって処分していることがわかります。牛のウイルスを3千倍とする増幅家畜の豚の処分には2週間以上を要しています。あまりに処分対象が多かったためです。

5月3日の約7千頭の処分対象頭数が、翌日の4日にはなんと3倍以上の2万4千頭にまで達し、その後の10日間で一挙に6万頭にのぼる手がつけられない混乱状況に陥ったのです。

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[図2 口蹄疫発生戸数の推移 同上より引用]

図2をご覧頂ければ、現場の家畜農家と防疫関係者の絶望感が伝わってくるようです。まさに5月6日から始まる感染爆発は、児湯地域を地獄に落としてしまいました。長引く県と国の交渉とは無縁に、発症した家畜が、別の家畜を汚染し、今までのような車両と人という「点と線の感染」から、一挙に「面の感染」拡大となっていきました。

それは、伝染病でもっとも恐ろしいと言われる空気を伝播媒介とする空気感染の時期に突入したことを意味します。このような状況では、点と線の予防には一定の力を持った消毒液の散布は感染防止効果を上げ得なくなります。
45度の急角度で上昇する発生数は広域感染をもたらし、それまでの感染拡大にすら追随できなかった防疫陣を崩壊の淵に立たせていました。
この感染爆発をくい止める最終手段として国が出したのがリングワクチンでした。この判断を私は条件つきで妥当だと考えます。逆に他の方法が何かあったら教えて頂きたいものです

この時に、無能な大臣に替わるようにして宮崎県に乗り込んだのが山田副大臣(当時)でした。5月14日に開かれた農水省疾病小委員会は川南町では従来の防疫方法は副に立たないとした上で、「ウイルス量を抑制するためのワクチン使用」に踏み切っています。
とうぜん山田副大臣は現地対策本部長として乗り込んだ以上、その方針は既に胸中にあったはずです。

そして他ならぬ知事自身も、ウイルス排出量を抑えるためにそれを納得したのではなかったのでしょうか。今になって、「そもそも反対だった」ような言い方をされるのならば、この5月初旬のパンデミックと化してしまった事態をどのようにくい止める方針があったのかを問われることになります。現場最高指揮官が対案なく言われてもめんくらいます。

ワクチン以外に次善の方法は他になかった。これが厳然たる真実です。初動における殺処分が失敗に終わって、パンデミックによる広域感染の時期を迎えてしまえば、他に方法などあるはずもないのですから。

この段階であえて選択肢がありえるとすれば、ワクチン接種による清浄国からの離脱でした。私は4月の末から5月の初めあたりまでそう考えてブログでも書いてきました。しかし、すぐにそれは現実的ではないと思いあたりました。

宮崎県東部地区の初動防疫の失敗によるワクチン接種が、そのまま一国全体の清浄国離脱に直結できるはずがないではないですか。もし、それをすれば、児湯地区は、全国の畜産農家の怨嗟の対象になります

全国の畜産農家が、わがこととして児湯地区の農家を支援してきたのは、「宮崎県が口蹄疫をくい止めているのだ」という認識があったからです。児湯地区は、まさに全国の畜産農家の防波堤として闘っている、これを応援しなくてどうするのだ、という気持ちが多くの農家を支援に突き動かしました。

それは単なる同情ではありませんでした。もし児湯地区の阻止線が破られれば、次は隣県、あるいはとんでもない遠くの県に、つまりはわが身に飛び火してしまうかもしれないという恐怖でした。ここが一般国民と私たち畜産農家との温度差でしょう。

清浄国離脱がありえない以上、もはやワクチン接種の地域を設定した瞬間にその地域の家畜の運命は決せられてしまいます。したがって、そのワクチン接種地域の設定は疫学的な絞り込みが必要でした。いったん接種してしまえば、自然感染とワクチン接種による識別が困難となり、今後の防疫を進めて行く上で、一個体、一個体を検査によって識別するしか方法がなくなるからです。

ですから疾病小委員会も、ワクチン使用を答申しながらも「ワクチンの慎重使用」を付記していたのでした。しかし、現実にはどうだったでしょうか。投網をかけるように半径10㎞をリングワクチン接種地域としてしまいました。

私はこのリングワクチン接種半径10キロという荒っぽい設定に対して疑問を感じています。しかし、現実には、発生動向調査をするべき家保には既にその能力は失われており、毎日山積する処分対象の作業のみで身動きが取れない状況となっていました。

そしてここでも次善の策となりました。初動のつまずきが、より大きな感染拡大の引き金を引いてしまい、それが「点と線の感染」から「面の感染」へと爆発していき、次善の策としてのリングワクチンも本来の方法から離れた次善の方法で実施されたということになります。

山内先生はこのような宮崎口蹄疫事件の失敗の研究をなさってから発言されているのでしょうか?「第3の道」を言うのなら、せめて4月中か、遅くとも疾病小委員会がワクチン答申を出した5月14日直後に発言すべきでした。今更何をかいわんや、です。

2010年7月19日 (月)

宮崎県民の皆様へのお詫びと更新停止のお知らせ

宮崎県民の皆様。なかでも被災地の皆様。

暑さが厳しくなってまいりました。復興に日々励んでおられることと思います。
さて、私のブログ記事におきまして4回わたり東国腹知事を検証するとして、心ならずも被災地の皆様のお心を傷つける記事を掲載いたしました。

被災地において知事を批判することにより、多くのお叱りのお言葉を頂戴いたしました。大変申し訳ございません。心よりお詫び申し上げます。
ここに謹慎の気持ちを込めまして、不定期間、本ブログの記事の更新を停止さていただきます。

     平成22年7月19日 
                                  濱田拝

追記 なお、コメント欄は閉鎖いたしませんので、口蹄疫の情報交換の場としてお使いください。

2010年7月18日 (日)

宮崎口蹄疫事件 その56   東国原知事の戦いについて

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ずしっとくるコメントを大量にいただきました。東国原知事のことを評するにあたっては、私はそうとうに慎重でした。むしろ、ある方から「失笑」と言われてしまったくらい腰が引けていました。公選で選ばれた県知事、しかも危機の時のリーダーを評するということは私には気が重いことでした。

私には頭ではなく、実感で被災地を理解できます。何度か書いてきていますが、5年前の560万羽を処分して゛終息にまで1年間かかった戦後畜産史上最悪と言われた茨城トリインフルエンザ事件の渦中に私もいたからです。

殺処分の網から逃れたのはほんの偶然にすぎません。私の農場で家保が血清検査をするたびにその結果がでるまでの悶々とする時間の長さ、そして通知の電話が鳴るたびの飛び上がるような恐怖は今でも私の中に鮮明に残り続けています。

いまでも思うのですが、私は殺処分命令が下ったら抵抗していたでしょう。茨城トリインフルはH5N2型でした。N2はワクチンに使われるような弱毒型ウイルスでず。N1型のような致死型ではないし、人獣共通型でもありません。

そのまま放置しても、発症することなく抗体価が下がり続けるだけにすぎません。現在の宮崎県でのワクチン接種地帯とほぼ同じと思っていただければいいと思います。

それを殺処分しろと・・・、発症もなく、ただ抗体が陽性であり、仮にそうであっても清浄国を維持するために、ただその理由だけで殺処分しろと。

冗談ではない。私は自分の農場で陽性が検出され、殺処分命令が家保、つまりは県知事から来たのなら、空調のきいた県庁から出て、防護服に着替えて私の農場に来い、そして命令書を知事自らがオレに渡せと言ったと思います。

そして私は「いやだ」と返答し、知事を追い返したでしょう。そしてその後は容易に想像が出来ます。私を地域ぐるみで説得しようと実力者が押し寄せ、同業者組合は面会を求めて電話を鳴らし続けたことでしょう。

結局、私の農場からは度重なる検査にもかかわらず陽性は検出されることなく、私は今でもこうして農家を続けています。それは単なる偶然がもたらした幸運だったと思っています。

こんな私が薦田さんを突き放しているとおっしゃいますか?高鍋町の皆さんを侮辱するとでも?薦田さんのニュースを見て、私は涙が止まらなかった。ちょうど1カ月前に、川南の老農夫が埋められる牛を見て座り込むその背中に涙が止まらなかったように。

あの姿は、まぎれもなく、かつてそうであったかもしれない私自身の姿だったからです。

さて、東国原知事に対しての私の思いは複雑です。私が今回の種牛問題で、知事に言いようのない怒りのようなものを抱いているとすれば、それは薦田さんというひとりの農家にすべての重荷を、抱えきれないような重い責任を預けたからです。それも締め切り時間を背景にして。

まず、「闘うひとりの老農夫VS硬直した冷酷な国家」という図式を作ったこと自体が間違いです。このような図式を作れば、必ず全国のマスコミの好餌となってしまいます。なぜ、知事は事前に適格な保護をしなかったのでしょう。

薦田さんの手塩にかけた種牛を守りたいという純粋な心を、政治ショー化してしまったのは他ならぬ知事自身です。テレビの世界を熟知している知事にそれが予測できなかったはずがありません。ですから、私はあの構図は意図的に知事が作り出したものだと思いました。

そして、私は思いました。あれは知事の「政治闘争」なのだ、と。そしてその目的があるとすれば、山田大臣の首を取るという低いレベルではなく、発生以来一貫して県が苦渋を飲まされ続けてきた国の無責任、無作為、無為無策を撃つことではなかったのか、と。

その象徴的な場面に、県知事・東国原英夫は種牛問題を選んだのではないかと。そしてその戦いの彼方に彼が見ていたのは、国による防疫体制の一本化の道筋を県のイニシャチブで戦い取ることではなかったのか、と

そうだとすれば、私は東国原知事の同志です。私もまったく同じ意志を持つ者だからです。

県に過重な負担をかけ、責任のみ押しつけて、自らは口を拭って金も出さない、人も出さない、情報すら与えないような腐り切った今の国の防疫体制は間違っています。

4月28日に農水大臣が遊びに出かけてしまい、霞が関も脳死状態、5月7日に大臣が帰国しても、現地にも来ず選挙応援に行ってしまい、現地に来てもいばりちらすわ、居直りまくるわ、あげく国の現地対策本部が出来たのがなんと5月12日!遅いとかなんとかの次元ではありません。やる気がないのです。これを不作為、無責任と言わずしてなんと言いますか。

そして宮崎現地に対策本部長として乗り込んで来たのが、他ならぬ山田副大臣(当時)でした。そしてそのときにはもう既にワクチンを接種する方針を持っていました。ふざけるのもいいかげんにしていただきたい。現地にやって来たこともない連中が、霞が関の密室でゴチョゴチョと短時間会議して決めたのが、ワクチン接種でした。

初動数十時間はおろか、丸々一カ月間弱の期間をドブに捨てて、県が処分と埋却に忙殺されているのを他人事のように傍観しておきながら、何が今さらワクチンしか防ぐ方法はないだ。
同じことでも、自分の無為無策、無責任を恥じて辞表を出してから言え。宮崎県民に詫びてから言え!物事には順番があるのです。なんと傲慢な。なんと無礼な!

もちろん初動防疫上での知事の失敗はあります。しかし、ものには軽重がある。宮崎口蹄疫事件で犯した国の失敗の根深さと巨大さに比べて、県の失敗は比較になりません。中央からなんの支援もないところでの、ありうべき範囲内の現場の混乱でしかないと思っています。
ただ、それをも総括することなく先に進めない清浄化期間に来ています。だから反発覚悟で書きました。

このことは重要なことなので、繰り返します。私は口蹄疫事件において、農水省や農水大臣、民主党政権の失敗と、宮崎県、宮崎県知事の失敗を同列、同重量で扱うことはぜったいに誤りだと思っています。

口蹄疫は国際法定伝染病であり、激甚広範囲な口蹄疫を防疫する第一義の責任者は国家だからです。これを今のような感染速度を予測できなかった昭和24年に作られた家伝法や防疫指針のまま対処すること自体が誤りであり、その誤った法律と指針による第一義の被害者は宮崎県なのですからましてや発生農家の自己責任論に至っては、張り倒してやりたい類の俗論です。

ほんとうに告発されるべきは国の防疫体制の巨大な失敗でした。その意味において、東国原知事の戦いはまったく正しく、支持されるべきものと私は考えていました。

だから、きりぎり直前となってまたもや薦田さん個人の「決断」に委ねるような卑怯なふるまいは許せなかったのです。知事はこの時こそ自らが辞表を呑んで闘うべきでした。

薦田さんはこれまで血の涙を流してきた、地団駄踏んで自らの家畜を殺さざるを得なかった児湯の農民の魂を代表していたはずでした。薦田さんに「処分してくれ」と頼んだ児湯の組合関係者も泣いていたと聞きます。いちばん薦田さんを理解できるのは彼らですから。そして彼らの説得が薦田さんにいちばん応えたのですから。

だからこそ、東国原知事は腹をくくって「悪者」になるべきでした。畜産組合からののしられようとも、それで行政官かと県外から怒鳴られようとも、国から代執行という恫喝を受けようとも、薦田さんを徹底的に守り通すべきでした。誇り高い九州男ならそうすべきでした。

私の父親は明治生まれの鹿児島男でした。父の口癖は「議をたてるな」でした。ある場面となったらもう議論はいらない、決心を抱えて火中に飛び込むだけだと私は解釈しています。

県知事・東国原英夫は国の処分官に処分をさせて、一体なぜこのような事態に立ち至ったのかの理路を全国の国民を前に述べるべきでした。辞表を懐にして゛国相手の合戦をすべきでした。

そのような戦いをすれば、辞任しての選挙で宮崎県民は東国原氏をまた知事に選んだことでしょう。そのことによって知事の戦いは県民全体の戦いとなり、県民の戦いは国民の戦いたり得たえたかもしれないのです。私はそれをなしうるのがほんとうの「危機のリーダー」だと思っています。

なぜなら宮崎県は、いや宮崎県民は、なにより宮崎農民は間違っていないからです。間違っているのは国だからです。

空いた畜舎をなぜ毎日消毒せねばならないのでしょうか。名前をつけた子牛の命日に手を合わせる女の子の涙はなんなのでしょうか。宮崎球児の晴れ姿をなぜひとりの親も応援に行けないのでしょうか。隣県でなぜ宮崎県から来たというだけで差別まがいの扱いを受けなければならないのでしょうか。

間違っていない者たちが、真面目に生きてきた者たちが、なぜ涙を流さねばならないのでしょうか。そしてほんとうの原因を作り出した者たちを何の咎めもなく出世の階段を登らせていいのでしょうか。ほんとうにここで幕を引いていいのでしょうか。

しかし、宮崎県知事・東国原英夫の戦いは不発のまま終わりました。
農水省官僚は秘かに乾杯し、農水大臣・山田正彦は薦田さんに面会を求めて追い返されました。やっと
人間の顔に戻れたのかもしれません。彼も牛飼でしたから。

まだ夏は始まったばかりです。苦しい夏を生きる宮崎の皆さんに、茨城の空から手を合わせます。

2010年7月17日 (土)

宮崎口蹄疫事件 その55    「政治家・東国原」氏の敗北

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昨日、東国原知事は、ついに国に膝を屈しました。

では何の何に対する「敗北」なのでしょうか?それは「政治家・東国原」の敗北であって、行政官としては平常ルートに復したにすぎません。「行政官・東国原」氏としては、県側の防疫責任者としてあたりまえのことをしただけです。

防疫上、薦田さんの種牛を処分するのはあまりにも当然の統治行為であり、異論の入り込む余地がありません。なにも政治家に聞かなくとも、私たちのような畜産関係者百人に聞けば、百人同じ答えを出すでしょう。
「薦田さんには心から同情するが、処分することが正しい」と。

ワクチン未接種で処分をしないまま正常国へ復帰することなど夢想であるということくらい「行政官・東国原」氏はよく理解していたはずです。

また、処分できないままの移動制限解除などありえない以上、知事が誰よりも熱望する非常事態宣言解除もまた永遠にやってこないことも明白でした。つまり、「政治家・東国原」氏は、「行政官・東国原」氏に移動制限解除を担保に取られて敗北したのです

私は今回の種牛問題の本質は、東国原氏の政治闘争だと思って見ていました。それは、たぶん以下の「そのまんま日記」(7/10)に表明されているようなことではなかったかと思えます。

「現地対策本部長の篠原副大臣は「家伝法の見直しの中で国の防疫権限を強化する」「国が防疫態勢の全面に出てくるようにしたい」。また「今後のルール作りの中に、種雄牛の扱いを規定しなければならない」等と発言されている。至極正常・まとも・真っ当な指摘である」。

この中で篠原副大臣の口を借りて言っていることが、彼の政治目標だと私は思います。すなわち、宮崎口蹄疫事件のような広域・激甚な畜産伝染病における国家権限の強化一本化のための法整備を要求していく、いわばダシに種牛問題を使ったのです

清浄国復帰という壁を背中にして、種牛問題を争点化し、「ひとりの農家薦田さんVS硬直した国家権力」という単純な図式をあえて作りだすことによって、国の不当性をアピールする心づもりであったと思われます。
そしてこの交渉の過程で、先に述べた国家権限の強化による防疫一本化のための法整備の見直しの材料を引き出せれば、「政治家・東国原」氏の勝利でした。

私は篠原副大臣(現地本部長)が漏らしたとされる言葉(東国原氏の伝聞だとしても)が正しいのならば、政府内部でこのような見直しが俎上に乗っている可能性も大きいと思っています。農業新聞から漏れ伝わる「家伝法の抜本的改正」などという情報は、このあたりを指したものではないかと思われる節があるからです。

この私の推測が正しければ、知事の勝算はなくはなかったと思われます。なにぶん一度、国は県所有種牛の処分見直しに合意してしまったという痛い腹がありますし、清浄国復帰という至上課題のために農家の私有種牛6頭を県所有とするトリックを見ないふりをして容認する可能性もゼロではありませんでした。

ただ東国原知事が見誤っていたことは、山田大臣が「悪玉」となる」ことを厭わなかったことです。山田大臣は、もはや感情的対立のレベルにまで達した知事との死闘を譲歩しようとはこれっぽっちも思っていませんでした。大臣は、仮に国への権限一本化への道があるとしても、それを知事の手柄になどする気はさらさらなかったということです。

山田大臣の態度は人間味はまったくありませんが、統治者としては至極まっとうな意思決定です。

そしてこれは別の見方をすれば、国家の防疫方針に県が楯突くことをこれ以上容認しえないという農水省の強い意志でもありました。

かくして、16日という制限解除日を背景にしたチキンレースは山田大臣と農水省が勝利して幕を閉じというわけです。もちろん私の論評は憶測で、単なる東国原氏特有の出たとこ勝負だったのかもしれませんが。

■追記
皆さんのコメント投稿が盛んなことは喜ばしいのですが、コメント欄は2チャンネルの板ではありません。以下がルールですので、注意して気持ちよく使って下さい。
①コメンター同士の悪罵、暴言。
②同様な内容の度重なる投稿。
③あまりに長いと思われるもの。
④当日の記事から大きく逸脱した内容の投稿。

2010年7月16日 (金)

宮崎口蹄疫事件 その54  東国原知事の背信と薦田さんの孤立

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昨夜のテレビニュースで見た宮崎県の種牛農薦田さんはやつれ果てていました。松葉杖を引いて現れ、「国家権力がやれというんだから仕方がないだろう」、「県知事から明日10時までに処分の決心をしてほしいと言われた」と言葉少なに語りました。

今日の10時までが期限だそうです。想像がつきますか、今、薦田さんにのしかかっている重圧を。

「日本農業新聞」(7/14)には「早期処分要求」としてこんな記事が載っていました。

「宮崎県川南町などワクチン接種地域の畜産農家の代表らは13日、宮崎県庁を訪れ、早期に民間種雄牛を処分するように求めた。JA尾鈴畜産組織連絡会の江藤和利会長は県への要請後会見し、「特例を求めると今後の口蹄疫対策に禍根を残す」と県の対応の甘さを指摘した。
要請書では、①民間種牛所有者が経営する別の農場で疑似患畜が見つかっていることから種牛を飼育する農場も家畜が殺処分対象となる関連農場なのではないか、②県の防疫体制の甘さは、OIE(国際防疫事務局)野清浄国復帰の障害となる、と訴えている。」

一週間ほど前の薦田さんは、「この種牛がわしの命だ。これを殺されたら死ねというのといっしょだ」と語気強く語っていました。それから約1週間。知事と大臣の直接対決があり、そして川南町の畜産農家を含む畜産組合からの要請文が出ます。そして知事が決めた16日の移動制限解除のリミットが近づきます。

薦田さんは国と県というふたつの権力、16日というタイムリミット、そして自らが住む児湯地域の同業者にまで十重二十重に追い込められたのでした。

私はこのような個人の農家に最後の決断を迫る国や県のやり方を憎みます。
農水大臣はこういう言い方をします。
「県がワクチン拒否をして処分に応じない農家と同調しているのだから、国が代執行せざるを得ない」。
一方県知事はこのように切り返します。
「そもそもワクチン接種は国が押しつけたものだ。目視検査して県所有にすれば問題がないはずだ」。

東国原県知事はこのような国への申し出をする一方、種牛所有者の薦田さんには「16日午前10時までに処分する決断してほしい」と電話をしていました。これがほかならぬ薦田さんの口から明らかになってしまいました。

やんぬるかな・・・。このような行為を、私は背信行為と呼びます。もし、東国原知事は持論である、「種牛は県の至宝」という主張を通したいのならば、国に代執行をさせるべきでした。

国の農水省の執行官に薦田さんの種牛を殺処分する様に立ち会い、全国にその非を訴えるべきでした。それを前日になって腰砕けになるとは!そして弱い老人の背中に、国との対決を背負わせるとは!

薦田さんの息子さんから「県への無償譲渡」などという破格の条件を受けながら、その意志を継がず、最後の最後のどん詰まりとなると豹変して、「自分で決断してくれ」と圧力をかけるとは!

ならば、初めから県所有の種牛で騒がねばいい。そもそも宮崎改良事業団の防疫の失敗から種牛を感染させたのは県の責任ではないですか。

10年前の口蹄疫事件の総括の中に、「種牛は貴重なので、一カ所で飼育しないで分散飼育する」ということがあったにもかかわらず、それを履行せずに今回の失敗を招きました。

あるいは、川南の県試験場の豚感染爆発が川南地区全体の畜産を全滅に追いやったことと加えて、どうしてこうも県はバイオセキュリティが甘いのですか。県の畜産施設は指導機関であるにもかかわらず、それがかくも何度にも渡って破綻したのはなぜなのでしょうか。

県知事はその失敗を糊塗するために、「県種牛は宮崎の至宝」という主張をし、殺処分を政治問題化させてしまいました。これは情緒的には国民を納得させる論理ですが、諸刃の刃でした。

そうでしょう、この論理を延長していけば、当然薦田さんの私有種牛も処分するわけには行かなくなります。しかし、そうすれば、とうぜんのこととして清浄化は先延ばしになり、知事が熱望する非常事態宣言解除という「擬似終息宣言」を打つことができなくなってしまいます。

まさに自縄自縛。そこで、薦田さんに電話をして、「明日10時までに自分で決断してくれ」と頼んだわけです。

県に防疫上の責任を負わせ、本来国が責任をもって執行すべき処分を「代」執行するとうそぶく山田農水大臣。
自分の失敗の苦しいつけ回しをひとりの農家に押しつけた挙げ句、登った梯子をはずして恬として恥じない東国原県知事。

このような人たちを私たちはなんと評したらよいのでしょうか。

2010年7月15日 (木)

宮崎口蹄疫事件 その53  東国原知事を検証する

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私は今まで県知事に対しての検証をしてきませんでした。その理由は公選で選ばれた県知事は人格的に宮崎県民を代表する人格だと思ってきたからです。 今、まがいなりとも移動制限解除の時期を迎え、事件における知事の位置を抜いては話が進みません。 そしてなにより、先日の知事対農水大臣のバトルのように、公人たる知事と大臣みずからがその制約を外して場外乱闘をするに至っては、私のそんな気遣いは無用のこととなりました。

宮崎県民の方には不愉快に思われるかたも多いでしょうが、以後、知事に対する検証を解禁することとします。 さて前置きが長くなりました。誰しもが感じる事でしょうが、もしこの事件において彼が県側の最高指揮官ではなく、「あたりまえ」の霞が関官僚あがりの知事だったのならば、まったく違った展開となったことでしょう。

東国原氏はたぶん日本に数人しか存在しない政治家的知事でした。というより、中央政界願望が強烈な知事と言ったほうが正確かもしれません。

ちっとも面白くないコメディアンとしての道をスキャンダルで頓挫した後に、早大に社会人入学し地方行政を学び、県知事に打って出るというキャリアはなまじの東大卒、自治省あがりの知事らにないギラギラしたパワーを感じます。私自身、わが県の4期めの県政と引き比べて、新鮮味をかんじていました。

そんな彼は宮崎県民の信用を失墜させた「自民党総裁要求事件」に現れているように、宮崎の「田舎知事」に安住していることに飽きていました。もし、この忌まわしい口蹄疫事件がなければ、この参院選で「そのまんま新党」でも作ったことでしょう。

彼が望んだのは国政という大きなステージの中のキーパーソンで成り上がることだったようです。後の口蹄疫事件でたびたび現れる国との軋轢は、宮崎県を守るという純粋な意志によるものとはややはずれた、彼の個人的な政治的野心から出ていると見られてもしかたがないことが多かった気がします。

たぶん今回の口蹄疫事件での知事の最大のミスは口蹄疫を甘く見たことです。彼は自分が就任直後の2007年に発生したトリインフルエンザを抑え込んだことに自信をつけていました。

ちなみに、当時多くのマスコミを引き連れて発生現場を闊歩する知事に、私の地元家保の獣医が、「馬鹿じゃなかろか。あのマスコミ車両で感染拡大したら損害賠償は知事に送れ」と言ってたことを思い出します。

このような、「危機における強いリーダー」の過剰演出とパーフォーマンスの習癖は、今回の口蹄疫事件でも拡大再生産されていきます。

そして、もうひとつ2000年に宮崎で出た前回口蹄疫の処理が、わずか35頭の殺処分で済んだことも成功イメージとしてありました。

だから、前回有効だった防疫指針どおりに確定直後に県対策本部を立ち上げ、発生地から10㎞まで家畜を動かせない移動制限区域に、そして10~20㎞までを搬出制限区域に設定し、関係車両を消毒し始めました。

まさに国の定めたマニュアルどおりです。
ここが後に県知事をして「国の防疫指針どおりにやったのになにが悪い。悪いのは国ほうだ」という主張の論拠になっています。しかしこの知事の主張は半分正しく、半分間違っていました。

マニュアルどおりというのは正しいし、防疫指針も昭和24年に作られたような家伝法も旧態依然たるボロ家でしたが、現場指揮官としての大きな見逃しをしでかしていました。

知事が見逃した大きなほころびはふたつありました。ひとつは感染確定の4月20日以前に、ウイルスが多方面に車両や人などを介して広範に持ち出されていることを見逃したことです

ウイルスが確定以前に持ち出されたこと自体は致し方がない側面がありますが、この確定段階ですかさずその飛び火の規模やルートを調査すれば、アウトブレイクはなかったとまでは言えないにしても、はるかに小規模で終息したことでしょう。

これは発生点からの発生動向調査を怠ったことと、消毒対象を畜産関係車両に限定してしまったことが原因です。

そしてもう一点は、27日の県畜産試験場での豚の発症の重大性を認識していなかったことです。豚という増幅家畜を通して、川南地域のウイルス濃度は飛躍的に高まっていきました。

これら二点に関しては、大事なことですので別稿で詳述します。ここでは、知事の対応のみにふれます。

では、知事は確定判定が出た4月20日に何をしていたのでしょうか。午前11時に開かれた定例会見ではもっぱらくだらない新党ラッシュの話に終始しました。質問しているマスコミに口蹄疫の恐ろしさの認識が皆無だったのは当然として、肝心の指揮官たる知事にすらその認識がなかったのです。

ここで口蹄疫初動上もっとも重要な数十時間が空費されました。知事が事態の深刻さに気付いたのは翌日21日の県対策本部でのことでした。ここになって知事はようやく「10年前とは違う全身全霊で蔓延防止を」と呼びかけます。

どうもこの人のオーバーな表現が気にかかりますが、「全身全霊」とまで言うなら、確定当日の20日を丸々1日間棒に振ったことを問われるでしょう。26日には県議会で、自衛隊出動を求める議員に不要であると回答し、翌27日には口蹄疫陳情で上京するかたがた新党に挨拶に出かけています。
ほんとうに知事が状況を把握していたのか、「全身全霊」であったのか首を傾げたくなります。

彼の行動のおかしさは、5月に入りいっそう増幅していきました。これが今回の口蹄疫事件の最大の失敗である埋却地不足による処分の遅滞と、種牛問題のダブルスタンダード問題でした。これについては長くなりましたので、次回にします。

なお言うまでもありませんが、政府は事実上5月12日の現地対策本部ができるまで何もしていません。マヌケな疾病小委員会を4月28日に開いて県の対処を追認したことと、あろうことか農水大臣が不要不急の外遊でどこかに遊びに行ってしまったことくらいです。
したがって県知事を批判することによって、国が免罪符を得たわけではないことを付記します。ちょっと知事批判のトーンが強すぎたかもしれません。ごめんなさい。

2010年7月14日 (水)

宮崎口蹄疫事件 その52  宮崎県知事と農水大臣 深刻な対立に発展か

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昨日の県知事、農水大臣の会談において両者はきびしい批判合戦を演じました。それによって、宮崎県知事と農水大臣の確執は、単に薦田さんの種牛問題にとどまらないことがわかってきました。

県と国は、今までさまざまな局面で水面下のぶつかり合いをしてきました。先日、宮崎県知事が自分のブログで「山田大臣は副大臣だったのだから、前大臣となぜ一緒に辞任しなかったのだ」というようなことを書き、一方大臣も「こんな県の甘い対応が感染拡大の原因だ」というようなことを言い放つような感情論のレベルにまで発展している様相です。

私は知事が全面的に正しい、逆に大臣が是ということを軽々に言うつもりはありません。どちらもある意味正しく、どちらも別な面で間違っているからです。このように書くと、なにを評論家のようなというお叱りを頂戴しそうですが、まさに是々非々としかいいようのない対立なのです。

では昨日に現れた対立点をまとめてみましょう。

①農水大臣は、ワクチン接種とそれによる処分を頑として拒んでいる薦田さんの種牛に対して例外を作ってはならないと主張。

➊宮崎県知事は、薦田さんの種牛が目視検査でシロ判定だったことから感染の危険性はなく、貴重な宮崎牛ブランドの血統を確保するために県が買い上げていく、と主張。また国の対応はあまりに柔軟性を欠くと批判。

②農水大臣は、例外を設けると他県でもワクチン接種を拒むケースが生まれると主張。

➋県知事は、そもそもリング・ワクチンは国の強い要請においてしたもので、接種をせずに防ぐ方法もあったはずだと主張。

③農水大臣は、県の対応が危機意識がなさすぎ、甘すぎた為に感染拡大したのだと県の責任論に言及。

➌県知事は、国が責任を持った強い強制力を持つ法整備が不足していたことを指摘。なお、7月10日の知事ブログに上記の大臣発言に対しての詳細な反論があり、一読の価値がある。http://ameblo.jp/higashi-blog/day-20100710.html

④農水大臣は、今後について、県が従わなければ地方自治法に則って県に代わって国が代執行を行うと警告。

➍県知事は、特別措置法で事足りるのになぜ地方自治法まで持ち出して代執行を言うのか理解できないと反論。

⑤農水大臣は、このままの状態だと、OIEは清浄国復帰を認めないので大変なことになると警告。

➎県知事は、清浄国の復帰は国が申告することで、3カ月発生をみなければ申請できると反論。

                 ~~~~~~~~~

■資料

●J-CASTニュース(7/11改行・太字引用者)

   山田農水相は
(1)「口蹄疫の問題は第一義的には県に責任がある」、
(2)「宮崎県は口蹄疫という国家的危機管理に対する意識があまりにもなさすぎる」、
(3)「県の甘さがこれだけの被害を生んだと言ってもいいのではないか」と宮崎県の対応を批判した

農水相の批判について、東国原知事は「これが本当なら、極めて残念なことである。これまで国や自治体等と連携・協力・協働し、口蹄疫対策に全力で取り組んで来ただけに、俄かに信じられない発言である」「広域災害や法定伝染病を地方の責任だという国家がどこにあるだろうか?」と指摘した。

●東国原知事ブログ 「そのまんま日記」(7月13日 太字引用者)
http://ameblo.jp/higashi-blog/

記者の質問・・・・「16日の移動制限を解除するためには、もっとキチンとした科学的根拠が無ければ、隣県や他都道府県に理解が得られないのではないか?」そんな意味の質問だった。

 答・・・・家伝法に基づく防疫指針において、移動制限項目は、「発生の確認後速やかに規制し、その制限期間は原則として最終発生例の殺処分完了後21日間とする」、これのみである

 つまり、最後の発生後、3週間新たな発生が無ければ、移動制限は解除出来るのである。それは、他都道府県も基本的には、この指針が基準になる。

 ただ今回、本県は国と協議して、念には念を入れるため、発生農場から3km以内はサンプル抗体検査、3km~10km圏は目視検査で安全性を確保している。まぁ、これは特例と言える。因みに、抗体検査はその専門性から国にしか出来ない。

 よって、16日予定の移動制限解除は、防疫指針に基づき、薦田氏の種牛6頭は目視検査で解除は出来るのである。ただ、その時、国が何と言うか?である。

東国原知事は、殺処分の対象になっている種牛6頭についても主力級種牛5頭と同様に救済する特例を検討していたが、山田農水相は「危機意識があまりにもなさすぎる。ワクチン接種の範囲は、知事が決めた」と7月9日に厳しく批判していた。

良く言われる質問・・・・・「この特例を認めると、今後リングワクチンをしようとする場合、拒否される農家が出て来て、防疫対策上如何なものか?」

 答
まず、二度とリングワクチンを強行しなくて済むような、徹底的な初動防疫・防疫対策等のマニュアル化・法制化が必要。次に、もし仮にリングワクチンをしなければならないような事態が生じた場合は、国が責任と強い強制力を持って行うことが出来る法整備を急ぐこと・

清浄国復帰について・・・・・これは、あくまで国がOIEに申請する。その条件として、患畜・擬似患畜を殺処分した後、3ヶ月間、新たな発生が無ければ申請出来る。

 記者の方々からは、まだまだ多くの質問があったが、僕の説明が今一つ不味く、理解出来なかったことやもっと詳細・明快な説明を乞うものであれば、県庁・秘書広報課の方まで問い合わせて頂きたい。

 大臣の話によると、今後、国は地方自治法を適用し、県に殺処分を勧告するらしい。特措法の方が優先されるし、実質的に代執行するなら、特措法の適用で十分事足りるのに、どうして地方自治法なのか? 分からない。

●平成22年7月13日 山田農林水産大臣会見(改行引用者)
http://www.maff.go.jp/j/douga/100713.html

まあ、そうなると住民も困るでしょうからね。そこは、これからちょっと検討したいと思いますが。
ただ、知事さんも、もう少し、しっかり責任を持ってやっていただかないと

、もし、もう一回こういうことがあった時に、もう既に何人か、各県の畜産農家から連絡入っていますが、「それなら、ワクチン接種を受けなくてもよかったじゃないか」と、そういう農家が出てくるということは十分あり得ます

やはり、こういう口蹄疫みたいな、新しい伝染病というか、口蹄疫も、韓国では1月に発生して、また3月にO型が発生するということがあるというように、これから、猛威を振るっているので、またどこかで、もっと強い、その伝播性の強いウイルスが出てくる可能性もありますし、

やはりリングワクチンというものは必要になってくるし、その時に、「私はワクチンを打たないで済む」ということがあっては、絶対に、日本の畜産は守れないと思っています。

2010年7月13日 (火)

宮崎口蹄疫事件 その51  宮崎口蹄疫事件の疑問をリストアップしてみた

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とうとうこの宮崎口蹄疫事件のシリーズも50回を超えました。一般ブログでこれだけ長期間の連続シリーズをしている所はないんじゃないかな。
ま、それを記念してというわけではありませんが、いい機会ですので、この口蹄疫事件の疑問を思いつくままに書き出してみます。

なぜ初動が遅れたのか。家保はどのように動き、何に失敗したのか。
なぜ、確定診断が20日間も延びたのか。
それは組織構造上の必然だったのか、単なる現場ミスの累積にすぎなかったのか。

4月28日の試験場の豚の感染はどうして起きたのか。それが5月初めのアウトブレイクとどのような関係があるのか。

処分の著しい遅れはアウトブレイクと密接な関わりがあるが、なぜかくも大きな遅れをきたし、患畜の滞留を招いてしまったのか。

家保の防疫員はもっぱら処分に投入されていたが、その判断は正しかったのか。
防疫員による発生動向調査は的確に行われていたのか。

ワクチン投与はどのような判断で、誰がしたのか。その時期は的確であったのか。

なぜ国はこの事態を5月10日まで放置してしまったのか。
農水省疾病小委員会はどのような位置にあり、どのような対応をしたのか。
農水省消費安全局と地元家保とはどのような関係にあるのか。

農水省防疫官僚と農水大臣はどのようなやりとりをしていたのか。
情報は正しく大臣に届けられていたのか。
なぜ、農水省幹部は4月28日に最高指揮官たる大臣の不要不急の外遊を許したのか。

口蹄疫情報は官邸や関係諸官庁、組織に届けられていたのか。首相はどのような判断をしたのか。
関係諸方面の各省は口蹄疫対応をしたのか。

宮崎県知事の初動は正しかったのか。宮崎県知事は正しく口蹄疫を理解していたのか。
知事はパンデミックの状況と対応していたのか。
知事の種牛の判断は正しいのか。

補償方法に問題はないのか。特別措置法が切れた後、新たにどのような補償体制を取るべきなのか。

家伝法や防疫指針に問題はないのか。
英国や韓国の口蹄疫緊急対策とわが国はどこが違うのか。

今後この宮崎の口蹄疫事件を教訓にして、どのような防疫体制を作り上げていくべきか。
今後、口蹄疫防疫対策を見直す上で、国がすべきこと、県がすべきこと、地域がすべきこと、関係団体がすべきこと、そして個人農場がすべきことは何か。

まだまだ延々とこのりストは続きそうです。そのくらいこの事件は巨大であったし、そして分かっていない部分も多くあるのです。皆様も思いついたらコメントを下さい。
そのうち余力があれば、時系列とジャンル区分けをして分かりやすくしてみるのもいいかなと思っています。しかし、これをまともに書いていったら一冊本ができますなぁ。

まっ黒な津波のようだった口蹄疫の嵐が過ぎ去ろうとしている今、単なる責任のなすり合いではなく、冷静な総括を始めるべき時期です。

■写真 ホウズキが成りました。まだグリーンアップルです。

■追記 宮崎県参院選においても、ほぼ2倍の圧倒的な大差をつけられて民主党候補が破れました。これは国の口蹄疫対策を県民が信任していないことを意味します。
山田さん、篠原さんはしっかりこれを噛みしめて、ほんとうにいい政策を作り上げていって下さい。お願いします。

■追記その2 このところわがブログのもうひとつの大ジャンルであった沖縄を取り上げられませんでしたが、ここでも民主党は全敗という無残な姿をさらしてしまいました。
喜納昌吉さん(県連会長)も得票を半分に減らして落選。いいチャンスです。そもそも反戦運動にも取り組む音楽家のつもりが、音楽もやる与党政治家となった時点で考え直すべきでした。短い人生です。ミュージシャンに徹して下さい。
   -氏の顔がどんどん悪くなる一方なので、心を痛めている元ファンより-

2010年7月11日 (日)

わが農村はどのような政治選択をするのでしょうか?

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本日は参院選挙です。私もお昼には小学校の投票所に行ってくるつもりですが、わが村の有権者がどのような投票をするのか興味があります。わが村(いちおう市ですが。出世魚よろしく名が変わっただけ)は純粋農村地帯で、銘柄豚の生産も盛んです。

去年の衆院選は、飲み屋で聞くとわが友人諸君も民主党に入れた奴が多かったようです。また、先日もお話した非JA系の独立農業団体も民主党支持に回った団体も多かったように見えました。

これはJAが農政連という形で、従来はガッチリとした自民党の集票構造を持っていたために、私たち独立系農業グループはそれと距離を置きたいという心理が働いたのでしょう。

しかしこの一年、「地元の農家の声を中央に伝える!」と叫んで当選した民主党新人議員は、小沢前幹事長の陳情窓口の幹事長室一本化方針でまったく地元議員としての出番を失いました。

地元議員は添え書きも禁止され、さまざまな地域農業の声は民主党県連で機械的に処理されて、果たして政府に伝えられているのか、いないのかさえもわからないブラックボックスの中に消えていきました。

地元議員は政策研究会の廃止で、専門分野を勉強する場すら奪われ、単なる賛成ボタンを押すことだけが仕事になっていったようです。そのエネルギーの捌け口にするかのように国会での統制のとれた野党への罵詈雑言が日常化しました。

政策研究会は復活したようですし、天皇陛下までをも顎で使に至った大幹事長は今は表舞台から消えましたが、今後どのようになりますことやら。このまま終わらないことだけは確かです。

また、いい意味でも悪い意味でもわが村の農業関係事業としてはもっとも大きかった土地改良区事業が、ものの見事にスッパリ半減されてしまったために全国の村の各所で工事途中で放棄される箇所が出てきました。全国理事長が小沢氏の政敵だった野中広務さんだったからだそうです。

一方、農家の懐に直接に金を配るとして出発した農家所得補償政策は,財源不足のまま、とりあえず米の生産量目標(要するに減反目標のこと)に達した農家には1反あたり1万5千円見当を配るということで見切り発車しました。今、村のあらゆる掲示板にそのボスターが見られます。

内容的には、まぁ減反政策のニューバージョンとしか見えませんが、本気で他の畑作や畜産でもやる気なのでしょうか。村の連中に聞くと、ありえねぇっしょとのことですが。

さてさて、小鳩内閣が恥をさらして潰れての最初の選挙、わが村はどちらを選択するのでしょうか。

■写真 わが家の欅。入植して5年目の記念日に植えてもう今や大木。

2010年7月10日 (土)

宮崎口蹄疫事件 その50 明日、参院選挙の各党の口蹄疫政策一覧

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明日は参院選挙です。昨日の「日本農業新聞」(7/8)に各党の口蹄疫対策の一覧表がありましたので転載いたします。

まぁ、ご覧のとおりですが、都市住民の方には口蹄疫をもって投票の基準とすることは少ないでしょうが、農村部に多い1人区ではやはり現地宮崎でなくとも、評価のめどのひとつとなるでしょう。

となると、やはり関心は民主党政権の口蹄疫対策でしょうか。なにせ赤松前大臣時代に破滅的な大失敗をしてしまった後の山田大臣(前農政時代の副大臣・当時現地本部長)の施策を、どのように選挙民が判断をするのかが注目です。

どの党も横並びで、経営再建や地域の復興を上げていますので、逆に評価基準にはなりにくくさえあります。

差異があるとすれば、共産党の「畜産農家への被害の全額補償と生活・経営再建への直接支援」が目を引きます。これは私の考えとほぼ一緒です。このあたりの感覚はさすがに選挙目当てだけで「生活第一」を唱える某党とは根本的に違って、きっちりと筋目が通っています。

他の政党、特に民主党は「再建に万全を期す」では、ちょっと政権党として弱いのではないかと思われます。

公明党の「担当大臣を置く」というのは、危機管理まで含んでの恒常的な担当相なのか、それとも再建復興担当なのか、もう少し聞きたいところです。恒常的担当相となると、ある意味面白くはありますが、農水省が黙ってはいないでしょう。まぁ、私の考えすぎか、復興だけだよね。

自民党は「口蹄疫特別委員会を定例日を設けずにフレキシブルに開く」ことを通して国政全体でケアしていきたい方針のようです。要するに、この口蹄疫事件の間、徹底してカヤの外に置かれたことに対する屈辱感が見え隠れしています。ホント、国会審議の民主党の口蹄疫審議は低劣野卑だったですからね。

社民党は総論だけで見るべきものがありません。福島党首が、赤松氏の代行だった時期にパンデミックに突入したわけですから、もう少し当事者意識があってもいいのではないかと思います。「沖縄を切り捨てない!」はいいですが、「宮崎も切り捨てない」で下さいね。

「みんなの党」は「現場に権限を与える危機管理体制が最優先」とありますが、現場に危機管理の権限をそっくり委譲したら、国は何をすればいいのでしょうか。協力?支援?いまでも建前はそうなんですが。
そしてたぶんそれなりの規模の危機管理作戦ですから、財政的裏付けはどうするのでしょうか。使った金のツケ回しがくるのかしら。それとも、今の危機的な地方自治体がそっくり引き受けて倒産するのかしら。あんまり真剣に考えていないようですね。

さて、私としてはやはりもう一歩進めて、感染経路の解明、本事件の総括と再発防止策を取り上げていただきたいものだと思っていましたが、あまり芳しくありません。

この部分には民主党はスルーです。誰にでもやりたくない気分はわかりますが。ただし、家伝法までふくめての抜本的見直しを進めている(「日本農業新聞」7月8日)そうですし、山田大臣の口蹄疫支援チームの内容ももう少し詳しく知りたいところです。

これを取り上げているのは、国民新党と「たちあがれ日本」です。国民新党は口蹄疫の「感染経路の経緯」を、「たちあがれ」は「危機管理の資金確保」を訴えています。

「国民」が言うように感染経路を国会で取り上げるのならば、当然のこととして初動からパンデミックにかけての経過の洗い直しが国民の目に触れることになり、大変に有意義なことです。

また「たちあがれ」が訴える「危機管理の資金の確保」が国会で俎上に乗れば、当然危機管理体制のあり方までワンセットで討議せねばならず、意味があることです。

そういった議論がなされるならば、自民党の提唱する「口蹄疫特別委員会を定例日を設けずに設置していく」ことは、その受け皿になっていくことでしょう。

さて皆さん。口蹄疫から世界が見えるというのが私の持論ですが、いかが思われたでしょうか。

2010年7月 9日 (金)

宮崎口蹄疫次元 その49   口蹄疫補償は本来国家の危機管理コストであるべきだ

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shum34さん。
私と意見が違うのはわかりました。あなたが「補償は国家でするのが当然」おっしゃられたので、うっかり「私の意見も近い」と書いてしまいました。

失礼ながら、私は現行の共済制度が、今回の宮崎の事例に使えるか否かということにはさほど関心がありませんし、そのような論旨を立ててもいません。私が関心があり、この間一貫して考えてきていることは、「この宮崎事件の再発をどうしたらくい止められるのか」ということに尽きます。

宮崎大学の末吉益男先生の感動的な言い方をお借りすれば、「日本の口蹄疫を、宮崎がくい止めている」という思いを、他の地域が我がこととして、次にどう活かしていくのか、それともうやむやのまま現行の枠組みの中で終わらせてしまうのか、を問うてきたつもりです。

ですから、かくも爆発してしまい、ワクチン使用までしてしまった後の焼け野原で、共済制度が「よくやっている」とおっしゃられても、そうですかていどの感慨しか湧きません。

あくまでも、私にとって今は「初動制圧を数時間以内にするためにはどうしたらいいのか」がメーンテーマであって、焼け野原の後片付けは私の任に余ります。ですから、そのような議論は私は一切していません。

これは私が共済制度に入っていない畜産農家だということが関係するでしょう。私の住む茨城でも他の地域に行くと、JAが圧倒的な地域では共済の加入率はほぼ100%だと思います。

しかし、私の住む茨城県行方地域は伝統的にJAとは無関係に多くの農業団体が花咲きました。この地で有機農業や有機畜産が盛んになった歴史はこれと無縁ではありません。JA傘下では、現在ではJAの理解も大きく進んできていますが、ほんの10年前までは有機農産物の出荷そのものがほとんど不可能だったからです。

形式的にはどうか知りませんが実態としては、JAと共済制度は両輪の輪のようなもので、JA出荷をすればほぼ自動的に共済制度に加入させられます。しかし、私が飼料安定基金に入ったのもある事情でJA系の飼料会社とおつきあいが始まったつい3年ほど前からにすぎません。今に至るも家畜共済には加入していませんし、今後する予定もありません。

茨城トリインフルエンザ事件の時も、私は完全に自腹でした。ただし、モニタリング農場だったせいもあり診察費用などはかからずに済ませましたが。

まぁ、その意味では私は日本の畜産農家のマイノリティであることを自覚をしています。私を範にしろなどと言う気は毛頭ありません。ただ、今回のような激甚伝染病を被ったら、加入も非加入も一緒ですよ、と言いたいだけです。

この共済制度は「掛け金の半分が国民の税金」だそうで、「国民の支持を受けている」とのことですが、ただ一般国民は知らないだけにすぎません。「支持」なんかしてはいません。知ったらたまげるだけで、いっそう農民の評判が悪くなります。私だってたまげたもん。JA系の農家の共済にオレの税金を使っていやがったんだってね。あ~むかつく(冗談。寛い心で)。

今後JA系は、よくも悪しくも「普通の農業団体連合」になっていくと思います。今の私も齢58となり、若き日のような反JAの旗はとうに降ろして、日本農業の背骨としてのJAを評価して共同の道を探っている立場です。

しかし、従来の農政の税金から投入されるJAへの過大な入れ込みにはあいかわらず批判的です。そんな税金で半額補てんしてもらっているような共済制度を当然と思うほうが、農業経営者としておかしいのです。

私はこんな農家のひ弱な経営体質が、農家自らをいっそう弱くしてきたと思っています。したがって、共済制度を「よくできた制度」などともまったく思いません。農業が自立を求められていて、財政状況が破綻しかかった時代にそぐわない古き社会主義的な制度だとすら思えます。

話を戻しましょう。私はJAの話となるとキリがないんで。なんせ20年間も歯を食いしばって(オーバーか)、非JAのデコボコ道を歩んできたもんで、つい(苦笑)。もちろんこれがテーマではありませんでした。

私は口蹄疫の補償は即座にされるべきで、共済加入、非加入と関係なく行われるべき、国家の責任においてなされる危機管理のコストだと思っています

今回のような人災といって差し支えない莫大な被害を出してしまった後は、危機管理というよりむしろ国家救済や、国家賠償に近い側面が出てきます。ですから、私は今回の宮崎の事態と、今後想定される口蹄疫危機管理フロー上の補償とは一線を画すると考えています

■写真 霞ヶ浦湖畔の水神様の鳥居です。

■蛇足的追記
beachmollusc先生。県知事のかんばしくない行状は私も漏れ聞いています。私も、このブログではほとんどあえて触れませんでした。それは国と県の責任の軽重の違いがあると思ってきたことがあります。
一時マスコミで巻き起こった宮崎県知事バッシングは、民主党政権の失態をうやむやにする意図がありありと見えました。

それと心情的には、県外の人間にはなんやかや批判があろうとも、県知事は「宮崎県民が選んだ代表」という性格があります。災害と闘う時期においてそれを批判することは避けたいと私は思いました。それが先生から苦笑されたあの表現です。

ただ、現在のように清浄化確認時期においては中間総括が厳しくなされるべきで、今までのような県知事に対する評価を封じる必要はなくなってきたかとも思っている昨今です。

2010年7月 8日 (木)

宮崎口蹄疫事件 その48   パンデミック激甚災害の補償をめぐって

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ブログ主宰者として言うのはナンですが、昨日の補償金のコメントはとても勉強になりました。非常に高い水準の議論をしていらっしゃると思います。

私としては、shum34氏のご意見に近いかな。
わが国が英国緊急対策をモデル直輸入するのが難しいひとつの理由は、わが国独特の共済制度にもあるようです。

結論から言えば、私は共済制度は使うべきではない思います。「平時」の疾病、台風や水害などの被害の補償と、今回のようなパンデミックとなった「非常時」の激甚災害の救済とは次元が違うと思えるからです。

今回のようなケースに共済を使えば制度そのものの財政的破綻を免れません。先だっての養鶏の飼料安定基金のように国家からの補助金導入なくしては、共済制度そのものが持たないでしょう。

また、共済加盟農家と非加盟農家の差をどうするのかという問題もあります。わが地域はJAの組織率が農家戸数の3分の1しかないJA弱体地域で、その代わりに各種の独立系団体が林立しているという一風変わった地域です。

私自身ある独立系農業団体の代表理事をしていましたが、JA系ではまず考えられないでしょうが、共済加盟率ゼロでした(←いいのか、おい)。これは極端な例としても、非加盟であろうとなかろうと、今回のようなケースに遭遇するわけですから、そのあたりの平等性をどのように確保するのかは問題となるでしょう。

また、今回のようなパンデミック「非常時」の国家による防疫作戦I上の処分と、共済が想定している「平時」とは次元が違うことです。あくまでも、国家が一元的な責任を持った伝染病制圧のための処分であり、それに対して国家が補償を用意するのは当然の筋道です。

国内法上は家伝法、国際的にはOIE「陸生動物衛生規約」・国際条約によって定められた防疫作戦上に生じた処分を、「平時」の共済で補償していくのはおかしいと思います。

処分においても、発症したか、陽性反応が出て処分するのか、あるいは処分圏内にかかって処分対象となってしまった非感染陰性個体なのか、はたまた、ワクチンの予防的接種による処分なのかの差もありえると思われます。

このような共済加盟、非加盟、あるいは、処分状況の立場の差などの不均等を是正する意味でも、一律に国家による補償をあらかじめ準備しておき、処分と同時に補償金が支払われ、再建にかかる資金が提示される平時からの制度作りが必要だと思います。

大事なことは、「数時間以内で初動制圧する」ためにどうするのか、という演繹的な思考です。

さて話は変わりますが、私有の種牛でやはりもめていますね。やれやれ、やはり出ましたか・・・。必ず出ると思った。県知事が県所有の種牛を国との交渉の材料に使った前例を、農家は見ているのです。当時の県知事の論法そのものを、この種牛農家も利用しています。

私も北海道様とまったく同意見です。このような前例が認められてしまえば、防疫上の処分が条件闘争の場になってしまいます。条件を個々が争って異議を唱え始めたら復興の場はたちまち生臭い修羅場になり、再建が長引きいてしまいます

県知事の不眠不休の戦いには賛辞を惜しみませんが、彼の過剰な「政治性」というか、政治的駆け引き好きのとんだツケが回ってきたようです。防疫作戦で二重規範はありええません。ディープインパクトだろうと、ロバだろうが(ウマは偶蹄類ではありませんが)平等に取り扱われなければ、防疫作戦は不可能です。

「日本農業新聞」7月7日によると、山田大臣(←いしいひさいちの漫画に出そうな名ですね)が「支援チーム」構想を打ち出しました。けっこうイイ線行っているような、ダメなような。わかっているような、わかってないような。
まぁ、その批評は長くなりそうなので明日にでもしましょうか。

■写真 私が大好きなムラサキツユクサです。

2010年7月 7日 (水)

宮崎口蹄疫事件 その47   クローズアップ現代・英国口蹄疫緊急対策 第6回 確定-処分-補償の同時進行

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今回の宮崎口蹄疫の初動の遅れの原因は多岐に渡っています。農水大臣、農水省、疾病小委員会、宮崎県知事・・・責任の軽重はありますがほとんどの関係者が満遍なく失敗をおかしてしまいました。

その最大の原因は、感染速度があまりに想定を超えて速かったということに加えて、旧態依然たる防疫指針、家伝法が役に立たずに、関係者がバラバラの意志で動いてしまったために、有効なひとつの「システム」として機能しなかったことにあります。

さて、初動における処分を遅らせた原因のひとつに補償の問題がありました。生産者は自分が手塩にかけた家畜を処分されることに対して、当然のこととして消極的です。自分の経済基盤の崩壊にもつながりかねないことですし、事態を呑み込めないので逡巡してしまいます。

また処分を納得したとしても、一律いくらというわけにもいかずこの査定額をめぐって交渉が長引けば、それこそウイルス感染を拡大する危険を増大させることになります。

従来の日本の口蹄疫の補償の考え方には、英国の緊急対策計画のように「処分と補償の同時進行」という考え方は存在しませんでした。ですから、今回も農水大臣が素人考えでうかつにマスコミにしゃべってしまった「60万円」という数字がひとり歩きしてしまい、和牛農家をいっせいに硬化させてしまい、処分がいっそう遅れるという悪循環すら生まれました。

また、今回の補償金額の設定も口蹄疫特別措置法の時限立法を法的根拠とするもので、2年後には無効となってしまいます。つまり、わが国には、恒久的な家畜伝染病に対する補償の仕組みがないのです。

では、今回はクローズアップ現代の「口蹄疫初動がなぜ遅れたのか」(6月4日放映)をテキストにして英国の補償方法をみてみましょう。

なお、あらかじめお断りしますが、この2007年の英国口蹄疫の原因はデフラ(英国の農水省に相当)研究施設からのウイルス漏洩だと言われています。したがって、口蹄疫処分補償のみならず、国家責任賠償という側面も存在します。
しかしこの番組で説明された補償システムの「流れ」(フロー)の原則には変化がないと思われますので、テキストとして有効だと判断しました。

おさらいになりますが、英国の口蹄疫緊急対策のもっとも重要な考えは、「数時間以内の初動制圧」です。このことを可能にするために英国はその障害となる要素をひとつひとつ解決していきました。

まずバラバラであった責任や権限体系を国が一元化しました。口蹄疫と疑われる牛が出た場合、国への通報窓口に直接にコンタクトできるシステムが確立されました。そしてデフラの口蹄疫対策即応チームと処分チームが現地に飛び、判定がクロだとなった段階で処分を開始します。

このとき同時進行で、国はデフラ、首相、閣僚、官僚など関係30組織に口蹄疫の緊急速報をかけます。そして確定判定が出た段階で、「中央危機管理委員会」が立ち上がり、国内のすべての牛の移動は即時凍結されます。

実は、このときに動いているもうひとつの緊急対策ブロックがありました。それが査定人グループです。英国においては国が指名した査定人グループが常設されているのです

査定人は常に最新の家畜相場を把握した査定のプロです。日本のように、当初は「財産権があるので処分は難しい」と言い、数日後には事態に慌てふためいてとんでもない補償金額を口走って混乱に輪をかけてしまうような最高責任者はいません。

「口蹄疫は出てからでは遅い」というのが大原則です。その意味で、感染が確定する以前の平時こそが、この英国口蹄疫対策の神髄であるのかもしれません。平時に危機管理システムを構築しておかねば、緊急時に初動ができるはずもないではありませんか。

話を戻します。口蹄疫が確定されたと同時に査定人は農家を訪れ、補償金額の取り決めをして処分が直ちに行われるようにセットします。処分にかかる費用も国が負担します

まさに確定判定-処分-査定の三つの要素が同時に進行しているのです。逆に言えば、この三つが揃わなければ初動制圧は困難だということになります。

この番組の中で処分農家のエマーソンさんがインタビューに答えてこう言っています。
「国は充分に補償しようとしてくれました。これがなければいやだと言ったでしょう」。

この言葉は、実はもうひとつの初動制圧の側面である感染していず、発症していない牛も同時に一定枠内で処分するという方法にもつながっていきます。それは次回にということで。

2010年7月 6日 (火)

宮崎口蹄疫事件 その46  野生偶蹄類に感染している可能性は高い! 「その44」の訂正をかねて

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今回の宮崎の戦後最大規模の畜産災害を見て感じることのひとつは、「政府」が横断的に統合して機能していないことです。
いままで初動にポイントを置いた検討をしてきましたが、現在の清浄化確認という時期を迎えてまた別の意味での「政府」の働きが問われています。

それは環境省、農水省管轄の林野庁などの持っているはずの宮崎県被災地地域の丘陵から山地にかけてのシカ、イノシシの生態情報が、いっかな口蹄疫対策に活かされていない現実です。

昨日beachmollusc様からいただいたコメントを拝見し、貴重な情報をご提供いただきました。教えられることしきりでした。ありがとうございました。

氏はある国立大学で教員をされていた生態系の研究者でいらっしゃいます。お読みになればおわかりのように都農、川南、高鍋、新富、木城地区などでは、野生偶蹄類と交差感染する可能性のあるケースが非常に多くあることが判ります。

私は前々回の記事(その44)で「野生の偶蹄類からの再感染の脅威度は低い」と書いてしまいましたが、まったくのミスリードでした。私がなまじ被災地の農家だった経験があるばかりに自分の体験に引きづられておりました。丘陵から山地にかけての牛の飼育形態と、私のような平地での養鶏とは根本的に異なる様相をもっていました。

訂正をかねてbeachmollusc様のコメントを再掲載いたします。な お、氏のブログは一度紹介いたしましたが以下です。 同じ口蹄疫を取り上げておられて、私とまったく異なる視座からの鋭い論旨に目が覚める想いです。
「ひむかのハマグリ」  http://beachmollu.exblog.jp/


[以下引用・太字引用者]
(前略)野生動物のことは、外野から見ると分からないでしょうが、宮崎県北部の口蹄疫発生地域は(略)平野部の農村地帯とは違います。山地が海に迫っていて、起伏が激しい、海岸段丘がうねっている場所です。宮崎市の跡江も隆起平野の段丘が沖積平野の中に頭を突き出している場所です。さすがに跡江に鹿はいないでしょうが、猪はいるかもしれません。

都農、川南、高鍋、新富、木城は全て丘陵から山地にかけての斜面で、海に近い場所でも複雑な地形です。海岸に沿った砂丘地形もあります。家畜の畜舎の多くは人家から離れている所で丘や林に囲まれていることが多く、最近は山地に多くの農場ができています。また近隣の山には放牧地があちこちにあります

豚舎はよくわかりませんが、牛舎は大小さまざまで、多くは開放的であり、林、藪や草原に囲まれていて野生動物は日常的に周囲を徘徊しています。川南の市街地から近い発症豚舎に鹿が居座っていたことが目撃されています。餌のオコボレや堆肥を狙っていると思われます。猪は鹿よりも人家に近づいて、農地を荒らしまくっています

自宅の日向市の場合、市役所から車で10分、距離は5キロくらいの山地の入り口ですが、毎晩鹿が家の周りを歩いていますし、猪は裏手でヌタ場を作っており、林道に無数の獣道があります。夕暮れにはウリボウをゾロゾロ従えて母猪が林道を横断しています。周辺の谷間の水田には猪よけの電気柵が必須です。していなかった田んぼのなかで稲がなぎ倒されていたことを何度も見ています。

昨年都農の山中を調査していた時に見ましたが、山の放牧場(水牛牧場のすぐ近く)で鹿が昼間からウヨウヨしていました。木城町でマスコミが放牧場の牛と鹿を撮影していましたが、全く同じことは川南と都農でもおこっています

というわけで、野生動物の実情をよく知っているので、発生当初から野生動物と接触する感染リスクについてブログで情報発信を続け、県にもメールでアドバイスしたつもりですが、全く手ごたえがなかったので驚きました

野生動物が再感染に関係するリスクですが、このまま野生の鹿と猪の疫学調査なしで、感染を確かめないままの児湯地区の畜産業の再開は危険だと思っています。もしもすでに感染しているとすれば、野生の鹿と猪は畜舎の周辺に慣れている、言い換えれば共生関係になっている個体が多いはずです
[引用終了]

県当局に警告なさったことも書かれていて、まったくの無視を決め込まれたことも述べられています。清浄化期間において、野生偶蹄類への感染動向調査を行わないとすればまさに自殺行為です。

まして児湯地区の畜産業を開始することは、再度の感染の繰り返しを演じる導火線となりえます。

またブログ記事では環境省のまったくひとごとのような対応も批判されています。これは感染拡大期の国交省の対応にも似ています。要するに農水省の関係部局以外は口蹄疫に対してまったく無関心、無気力であるということです。一丸となって口蹄疫と闘おうという「政府の意志」が不在です。

宮崎県知事は、4日の宮崎市の発生を受けても、「移動制限区域なので非常事態制限の変更はない」(産経新聞7月6日)という対応をしています。

この時期での1例の発生の背後にはその十倍の潜伏個体がいると思うべきです。また児湯地区周辺の野生動物の発生動向など手つかずのはずです。このような状況のままで、非常事態宣言と移動制限解除などぜったいにありえないことだと言わねばなりません。

宮崎県知事は安易な人気とり政策に陥るのではなく、現実を直視した行政官の視点に戻るべきです。それがほんとうの護民官たる県知事の姿ではないでしょうか。

■写真 少し前のジャガイモの花。今はほとんどを掘り上げてしまいました。村中をジャガイモのヤレ(選別外品)が飛び回っています。作っていない我が家にももうダンボール一杯分が各所から舞い込んでいます。この時期のわが村の地域貨幣といったところですか。

2010年7月 5日 (月)

宮崎口蹄疫事件 その45   清浄性確認時期こそほんとうの修羅場なのです

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南九州の豪雨が気になります。人的な被害が出ないことを祈っております。また、せっかく撒いた消毒液や石灰が流れたり、作業が終了した埋却地が陥没したりしてはいないか気になります。

そんな折も折、4日、宮崎市内で清浄性確認中に陽性の牛が新たに1頭発見されました。292例目となり、この農家で飼っていた十数頭も処分対象となります。

今、目の前に光明が見え始めました。大きな嵐の暗雲が頭上をゆっくりと通りすぎていくような気持ちでしょうか。この時期は晴れた空が見えただけに、新たな清浄性確認作業期間の新たな発生は、より大きく精神に響きます。

私自身が体験した5年前の茨城トリインフルエンザ事件の時もそうでした。ある意味、清浄性確認時期ほどイヤな時期はありません。出荷すらままならず、蓄えは減る一方。
飼料の搬入ひとつも、幾重もの消毒ポイントを通過して真っ白になるようにして(実際はなりませんが)農場に到着しました。

農場は真夏なのに、季節はずれに現れた雪景色のように石灰で真っ白でした。目に痛いような真っ白で、いまでもあの事件を思い出すと、あの異様な純白を思い出すほどです。毎日の散布で、ゴーグルは汗ですぐ曇るのではずしてしまいます。そのために、目は結膜炎のように充血してしまいました。手もカサカサになります。目薬が必需品となりました。

N95サージカルマスクは一体何ダース買ったことやら。いまでも買い溜めの残りが数ダースあるほどです。あの宇宙服のような白い防護衣はさすがにあまり着ませんでした。あまりに暑くて作業にならないからです。その代わり一回の作業で上から下まで全部交換していました。

また、このトリインフルエンザは、人と鶏との共通感染が疑われていたために神経がピリピリとひりつくような毎日でした。処分作業をしている人に陽性が数名集団で出たという報を聞いた時には、心底ゾッとしました。

そのときのウイルス株はH5N2型という非常に強力な感染力を持ちながらも、毒性は弱いワクチンに使用されるタイプでしたが、連続して感染を続けると強い毒性株に転化する可能性も指摘されていたからです。

その集団感染は処分の過程で何らかの濃厚接触をしてしまったのが原因だと言われています。たぶん過って体液がかかったか、素手でさわってしまったのでしょう。

ある媒体に軽い調子であのトリインフルは人獣共通感染症だ、もう日本でもうつった人も出た、大変だ、というふうに書かれて、「バカヤロー、真っ先にそのときにくたばるのはオレたちだ!」と思いました。

今回も一部のウェッブで、口蹄疫は人獣共通感染症だなどと書き散らしている素人たちを見ると、一発張り倒してやりたくなりましたっけね。このタコ、他人の不幸がそんなにうれしいのか!

このごろはそんな素人の政治屋も赤松氏の首を取り損ない、口蹄疫にも飽きてどこかに行ってしまいました。実にすがすがしいことです。

それはさておき、もっとも気にしていたのが私たちトリインフルエンザの場合、野鳥の侵入でした。トリインフルは水鳥⇒野鳥というルートがはっきりしていましたので、私たち霞ヶ浦湖畔はまさにそのどんぴしゃの水辺エリアです。

スズメのサイズまで鶏舎侵入を防げる防鳥ネットを、漁網を切り貼りして各棟にスッポリとかけました。廃物利用で自分でやっても30万円近い出費でした。経済的に厳しい時期に痛い出費でした。

一度写真でお見せしましたが、実に作業性も悪くなり、うっとおしい。夏場に確保したい通風性も悪くなり、いやまったくわが農場も要塞化したもんだとため息が出たものです。ただし野犬やイタチ除けにはなりますが。

なによりこたえたのは、私たちの茨城トリインフル事件は、殺処分560万羽を出した戦後最大級の畜産災害だったにもかかわらずまったくと言っていいほど報道されなかったために国民の応援もなく、私たち現地農家は仲間の集会や会合を開くことも出来ず、入ってくる情報すらごくわずかな家保経由のものしかない状態でした。

そして目に見えないウイルスが、感染ルートを特定できないままにひたひたと押し寄せてくる恐怖と日々戦いました。それは「孤立感」という人間にとってもっとも恐ろしい心の伝染病だったのかもしれません。

この嵐が去り、遠くに太陽が弱々しく見える時期、そのような時期が清浄化確認期間です。

昨日、つい野生偶蹄類からの再感染はあまり危険でないように書いてしまいましたが、コメントのご指摘どおり慎重に対策をされることを望みます。希望がわずかに見え始めた時期こそが一番危ないのです。

このじりじりするような清浄性確認時期こそ、ある意味ほんとうの修羅場です。私の経験など比較にならない大規模な被害を被った被災農家の一日も早い復興を祈っています。
宮崎の皆さん、こんな応援ブログを書くことと、頑張って下さいとしか言えない自分が口惜しいですが、あなた方は絶対に孤立していないことだけは信じて下さい。
頑張れ、宮崎の同胞!

■写真 今が収穫期の村のタバコのお花畑。この花を摘花して、葉が黄色くなったら一斉に収穫していきます。このところの禁煙化で作付けがぐっと減りました。

2010年7月 4日 (日)

宮崎口蹄疫事件 その44    野生偶蹄類が家畜に再感染させる可能性は低いと思う

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清浄化が射程にあがって、真剣に口蹄疫の野生偶蹄類への感染を考えねばならない時期にきました。正直に言ってこの私も含めて、頭でわかっていても、そこまで考えられないというか、考えたくないというのが今までの現状であったかもしれません。

毎日数百頭の単位で処分対象の家畜が増えていき、ウイルスを発生させている待機家畜が数万頭いるといった状況の中では、野生イノシシ、シカが発生地区に出没しているという情報に接しても、もうしばらく後で対応しよう、というのが本音ではなかったかと思います。

しかし、先日の記事でも書きましたが、清浄国への復帰という新たな命題に向かった今、それは避けて通れない課題になっています。それは単に「陸生動物衛生規約」に基づく条約ウンヌンといった問題だけではなく、野生偶蹄類に口蹄疫ウイルスが持ち出されてしまっている可能性があるからです。

その場合、いわば里でウイルス感染した家畜やたい肥、敷料、糞尿の処理処分が終わっても(これも先日の「みやざき甲斐」さんのコメントでは大変な作業となっているようですが)、里山の野生偶蹄類に潜伏していた場合、再びいつ何どき口蹄疫が再発するのか判らないことになります。

ただし、私には野生偶蹄類からの再感染の脅威度は低いと思っています。なぜなら、ウイルス感染した野生偶蹄類から家畜が感染を移されるというケースは非常に限られた条件下だからです

家畜が野生偶蹄類と接触する機会は、日本では実はあまりたくさんありません。それは家畜の放牧地がある場合、山間地での電柵による放牧形式などの場合などで、柵の破損によって野生偶蹄類と濃厚接触してしまった場合だからです。

たしかに野生イノシシは豚と同様にウイルスの増幅動物ですから、いったん感染すれば牛の最大3千倍のウイルスを気道から排出します。その意味で危険ではあると考えられていますし、実際にアジア地域での感染拡大の原因になっているのは確かです。


しかし、飼育形式がアジア地域での柵がない完全自由放牧と、わが国では大きく違います。わが国の宮崎牛は畜舎での飼育が中心です。畜舎内部までイノシシやシカが侵入することはほぼありえない想定です。
あえて
あるとすれば、野生動物が落としていったウイルスを含んだ糞を人や車両が踏み、それを農場内部に持ち込む場合でしょうか。

あるいは、霧島の観光地のシカに万が一ウイルス感染していた場合、エサをやる観光客と交差して拡大する可能性もなしとはいえません。これもあくまで理論的可能性にすぎません。

これらの危険は、ともかく野生偶蹄類のウイルス発生動向調査をしてみなければなんともいえず、シカやイノシシ集団の密度や行動パターンが解明されなければなりません。

パニックになる必要は全くありません。

末尾ながら九州南部の記録的豪雨のお見舞いを申し上げます。被災地の復興が遅れないことをお祈りしております。

■追記 本記事の「野生偶蹄類からの再感染の脅威度は低い」という認識には誤りがあります。「その46」をご覧ください。 7月6日記

■写真 カボチャの花です。

2010年7月 3日 (土)

宮崎口蹄疫事件 その43   清浄国への復帰を政治的スケジュールにからめてはいけない

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宮崎県知事が非常事態を一部解除するとのプレスリリースがありました。(宮崎県の口蹄疫プレスリリースはこちらから)http://www.pref.miyazaki.lg.jp/contents/org/honbu/seisaku/emergency/100630.html

このプレスリースを読むと、7月16日からの夏休みにまで、本格的な解除をしたい意向のようです。

ほぼ同時期に篠原副大臣(現地本部長)は、移動搬出制限を7月16日午前零時に解除できると発表しました。(読売新聞6月26日記事全文はこちらから)
http://www.yomiuri.co.jp/feature/20100518-296281/news/20100626-OYT1T00763.htm

まずは、現地の農家の方によかったですね、と心から言いたいと思います。長い闇が晴れて、一筋の光明が見えてきました。
しかし、同時に一抹の不安が残ります。現地の農家の皆さんの神経を逆撫ですることを覚悟で、そこのところを今日はお話していきたいと思います。

さて、とうぜんのことですが、清浄国復帰への道と、なんの法的権限もない宮崎県の知事の「お願い」にすぎない非常事態宣言は別な次元の話です。
私は知事を馬鹿にしているのではなく、このような「お願い」しか出せない知事の歯ぎしりするような悔しさをわかった上で、OIEの「陸生動物衛生規約」
によって厳密に規定されている清浄国復帰への道程が同じ夏休み開始7月16日という日程をめどにに組まれてしまったことをいぶかるのです。
(OIEの訳文と解説はこちらから。抜粋は最下段を参照のこと)
http://vetweb.agri.kagoshima-u.ac.jp/vetpub/Dr_Okamoto/Terrestrial%20Animal%20Health%20Code/Terrestrial%20FMD.htm

一方この7月16日解除予告会見の後に、山田大臣は農水省定例記者会見でこう述べています。(農水省記者会見概要はこちらから・太字と改行引用者)http://www.maff.go.jp/j/press-conf/min/100629.html
[引用開始]

大臣 いろいろな疫学調査チームで、今回、民間の獣医さんも入れて、現地調査チームを私の指示で作らせて、現地へやっております。
その中で、いろいろな報告を聞いておりますが、やっぱり、いろいろなことが分かってまいりました。
そんな中で、やはり、
人とか、車両等々の感染ルートというのが、かなり濃いのではないかと思っておりますが、そういった時、まだまだ油断できないというか、
あそこに、あれだけ発生して、まだワクチン接種家畜も8千頭からいて、しかも、たい肥の量、糞尿の量が、半端じゃありませんで、
2か月間ですから、まだそこに生きてるウイルスがいるわけで、こういう時、ちょっと気を緩めたら、本当に、それは拡散してしまって、どうなるか分からないという、
非常に私自身は、こういう時が危ないのだという危惧を覚えておりまして、何となく、そんな予感がするところです。 
[引用終了]

さすがと言いますか、自分自身五島で牛を飼っていた山田さんだけあって、リアルな把握です。多少お世辞も含めてですが、赤松さんではなく、彼が当初から今のポストにいたらと思わせますね。

しかし、ならばどうして7月16日の移動制限解除が日程化されたのでしょうか?現在の日本の清浄国のステータスは「ワクチン接種を行っていない清浄国」の資格停止国状態です。ご承知のように4月20日の口蹄疫確認のFAOへの通知に従って、5月のOIE代表者国際総会で正式に清浄国の資格を剥奪された状態のままです。

清浄国復帰へは、国内に口蹄疫ウイルスがラボ以外にあってはならないことが前提とされます。

そしてこの清浄国復帰には、家畜とその副産物である「動物に由来する製品」(未加工も含む)、そして当該地区に棲息する野生の偶蹄類にも、口蹄疫ウイルスがないことを証明しなければなりません

とりあえず牛、豚の家畜の血清調査がシロだとしても(実際は山田大臣が言うにように予断を許しませんが)、問題なのは動物由来の製品と野生の偶蹄類のシロ証明です。

不安を煽るようで申し訳ないのですが、川南地区や西都市の山間部には多くのイノシシやシカがいることが知られています。今まで、家畜の感染拡大を阻止することで手一杯の状況で、家畜の発生動向調査すら満足におこなってこなかったのが実情です。

そこに今、清浄国復帰という新たな壁を前にして今まであえて見てこなかったもうひとつの危機、野生偶蹄類への感染拡大の潜在的可能性が登場したのです。
つまり、仮に家畜からは口蹄疫を一掃しても、堆肥、糞尿、ワラにも長期間(*口蹄疫ウイルスは糞尿中には最大6カ月間生存する)残存し、かつ野生動物の発生動向に至っては手つかずだというのが現実です。

これはなにを意味するのでしょう。野生偶蹄類に口蹄疫ウイルスが残存し、潜伏し続ける火薬庫の可能性を抱えているということです

このようなことを考えた時、7月16日、非常事態宣言と移動制限の同時解除という、ある意味、政治的なスケジュールが優先する清浄化への動きには大きな不安を感じざるを得ないのです。
徹底した清浄化確認を,家畜の血清検査はもとより、被災地区の敷料、堆肥、糞尿に至るまで調査し、さらには加工肉や野生偶蹄類のフィールド調査までをやり切って行く中からほんとうの「安心」を獲得すべきではないでしょうか。

今が、まさに山田大臣の言うが如く「もっとも危険な時期」なのです。光明が見えだした今、焦ってはなりません。

■資料

OIE 「陸生動物衛生規約」から抜粋 8・5・8条 清浄資格の回復  

1. ワクチン接種が行われていない口蹄疫清浄国または清浄地帯で口蹄疫またはFMDV感染が起きた時、ワクチン接種が行われていない口蹄疫清浄国または清浄地帯の資格を得るために以下の待ち期間の一つが求められる。

a. 第8.5.40条から第8.5.46条に従って殺処分政策および血清学的発生動向調査が適用されている場合、最後の症例から3ヶ月。または、

b. 第8.5.40条から第8.5.46条に従って殺処分政策、緊急ワクチン接種、および、血清学的発生動向調査が適用されている場合、全てのワクチン接種動物が食用と殺されてから3ヶ月。

2010年7月 2日 (金)

宮崎口蹄疫事件 その42 口蹄疫対策の新兵器登場!赤外線サーモグラフィ

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前々回(その40)の赤外線サーモグラフィについて、英国のものと形式は異なるようですが米国の同様の器材の詳報がありましたので、転載いたします。
鹿児島大学岡本嘉六先生のサイトから引用させていただきました。ありがとうございます。
なお、上記の写真も同サイトから転載させていただいた口蹄疫に罹った牛です。ヒズメに発熱の赤色が見られます。
http://vetweb.agri.kagoshima-u.ac.jp/vetpub/Dr_Okamoto/Animal%20Health/Technologies%20Improve%20FMD%20Detection.htm

[以下引用]

赤外線サーモグラフィ(IRT: Infrared thermography)は、人間の目では見ることができない熱を見ることができる。ニューヨーク東部にある農務省農業研究部ARS)のプラモ島動物疾病センター(PIADC )は、口蹄疫に感染した可能性がある牛を特定するためにこの技術を用いているのは、この理由からである。

「このIRT技術は、天文学から軍への法執行に至るまで様々な分野において長年使用されてきた」とPIADC研究主任のLuis Rodriguez氏は述べた。「これは、IRTを口蹄疫感染動物の早期発見のための手法とする最初の科学報告である」。

米国は1929年以降口蹄疫の発生がないが、この伝播力が強い疾病が永久に発生しないことを保証する手段はない。英国では2001年に発生し、34年間の口蹄疫清浄記録が途切れた。この疾病は、急激に広がり、貿易と輸送に大惨事をもたらすので、発生に備えることは米国政府の優先事項となっている。

封じ込めと根絶に必須の要素は、発生の範囲を迅速に査定する能力である。

「一頭ずつ動物を検査することは膨大な試みである。小さな農場でさえ、それは大仕事である」Rodriguez氏は述べた。彼と同僚は、感染したリスクがある動物を迅速かつ正確に発見するための新しい方法を評価した。その方法は、感染した可能性がある動物を迅速に特定するためにIRTカメラを使用するものであり、診断試験を行うものではない。むしろ、疾病に特異的な方法を用いたさらなる試験を必要とする動物を迅速に仕分けすることによって、科学者の資源を集中させることを可能にするものである。

IRTカメラは、何等かの臨床徴候を示し始める48時間前に、リスクがある牛を特定することができる。発生が起きた場合、この技術は疾病の迅速な封じ込めを容易にできるだろう。

発熱した蹄を見分ける

それはどのように働くか? 絶対零度(約―460˚F、―273.15)以上の全ての物体は、赤外線を放っている。物体の温度が高いほど放射量は多く、IRTカメラはその放射を可視化する。

口蹄疫ウイルスに感染した牛では蹄の温度が上昇し、IRT写真で目に見える違いとして示せる。この現象は、ミネソタ大学の野生生物学者 Craig Packer氏によって観察された。口蹄疫と関係ない研究のためアフリカで移動性動物集団を追跡している際に、Packer氏は野生哺乳類の写真を撮るために赤外線カメラを使用し、一部のインパラの頭部と脚部が非常に熱いことに気付いた。彼は、これらの動物が口蹄疫に罹っている疑いがあることを学んだ。その意味に興味を抱いたPacker氏はPIADCの科学者に連絡した。

彼らは、Packer氏の情報を調べ、PIADCの生物学的安全水準3の施設で公式の研究を行った。その結果は、牛が臨床徴候を示す最大2日前までに、IRT写真が上昇した蹄の温度を検出できることを示した。

蹄の発熱部位を観察することによって、34.4˚C以上であれば口蹄疫に感染している牛を特定できる。最大88%の信頼性をもって、その動物が48時間以内に臨床徴候を呈することを私達は予測できる」とRodriguez氏は言った。

一連の牛のIRT写真において、健康な動物の蹄は青緑色に見えるが、感染牛は橙赤色の蹄であった。この簡単な視覚的違いは、膨大な数の群れにおいて、科学者と獣医師が個別的に試験することなく感染した可能性がある牛を特定できるだろう。この技術は、全ての動物の個別的臨床検査含む既存のスクリーニング方法よりも安価で迅速である。

IRTは、優れた疾病発生対策のために農業研究部ARS)が開発したその他の手法と併用可能である。そのような手法の一つは、プラム島の科学者達が米国議会による2002年の要求に対応して開発した迅速診断試験である。

PIADCの科学者達は、2時間未満で口蹄疫ウイルスからRNAを検出できる試験法を開発するために生物工学会社Tetracore社と連携した。それは「リアルタイムPCR」として知られている技術を使用している。農務省の動植物衛生検査部(APHIS)はこの試験法を採用し、国立動物衛生研究所連携網で使用している。口蹄疫に係る非常事態が発生した時に、米国全土の研究所はサンプルを迅速に検査するためにその試験法を使用できる。それは、米国で時折発生する同様の症状を示す水疱性口炎と口蹄疫とを迅速に識別するためにも利用できる。

2010年7月 1日 (木)

宮崎口蹄疫事件 その41 コメントにお答えして なぜ国が一元化せねばならないのかについて

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いくつかのご指摘にお答えいたします。
まず
beachmollusc様、いつも該博なご意見をありがとうございます。ご紹介あった貴ブログも拝見して、おおいに学ばせていただいております。特に口蹄疫と野生偶蹄類との関わりの知見には非常に教えられました。皆様もぜひご覧ください。
「ひむかのハマグリ」http://beachmollu.exblog.jp/


さて2007年英国の口蹄疫発生が、他ならぬデフラ研究所からのウイルス流出であることをお教え頂きました。おっしゃるとおりまったくお粗末な事故です。

しかし今回、私がテーマとしていることは、頂いたコメント前段にもありますように、この2007年発生の原因を究明することではなく、英国が(飛び火したとしても、)なぜ初期制圧に成功したのか」の理由を明らかにする、この一点にあります。

したがいまして、私は英国の口蹄疫緊急対応計画にのみに焦点を当てて考えています。英国の緊急対応は、FAOの口蹄疫対応指針であるAnimal Health Manual(2002)の第6章「口蹄疫緊急時に対する早期対処緊急時計画」とも通じるものがあり、現代における口蹄疫防疫先進国のひとつの範たりえるものだと考えております。

今、私は英国とFAOの口蹄疫緊急対策が、「通じるものがある」と言いました。そのもっとも大きな共通部分は「国家による一括責任体系」と「緊急時の権限の集中と、その通達体制」です。これは、今回の宮崎の事件においての最大の失敗が、地方行政と国との曖昧な責任の線引きにあり、またリーダーシップのとり方にあると感じたからです。

これについては私の口蹄疫シリーズその34に詳説いたしましたので、ご覧いただけましたら幸いです。この中で私は県と国の「実務と決定の二重構造」の矛盾を指摘いたしました。

「全くの一般人」様が知事でもできると言うのは、現在の家伝法や防疫指針の規定どおりですが、私がこのシリーズで再三問題視しているのは単なる半径10キロ、20キロ(*このような単純なゾーニングそのものに私は懐疑的ですが)の家畜移動制限区域の設定だけではなく、たとえば国交省管轄の国道や空港、港まで含む統制と徹底消毒、集会などの人が集まることに対する一時的な制限という市民生活に踏み込む内容が多くあるからです。

また英国で全国の家畜の移動制限をかけるのは、既に発生県から子牛などの形で出荷されている中に、潜伏期間の個体が含まれることがありえるからです

発生県の知事には他県までの制限を言う資格は当然ありません。これができるのは唯一国です

英国での緊急対応組織に外務省まで含まれるのは、海外への口蹄疫の持ち出し、あるいは流入に対しての対応だと思われます。これまた県知事には外国とそのような対応する権限はありません。実際、発生してしまったら県にそんな余裕などないでしょう。

結局、現在の県知事は県非常事態宣言という名称の響きは大きいがなんの法的裏付けがない「お願い」に頼るしかない非力な存在なのです。国道ひとつ遮断できず、口蹄疫の「確認」判定すら農水省が権限を握っています。都城市で現場で写真判定しても、それを判定するのは東京の農水省の獣医官です。

ところで、これを書いて以降いくつかの批判をいただきましたが、その多くは「県行政はなにもしなくてよいのか」、「県行政は現地にいるのだから素早いのではないか」というものでした。「全くの一般人」様もご同様なご意見を言われています。

英国では処分チームがどのような出動態勢をしているのかは、今の段階では私も把握していません。今後の調査とさせて下さい。
しかし12時間以内の対応をしているわけですから、ロンドンからガタゴトと行ったかどうか。なんらかの州ごとの事前配置があったような気がします。

同様に、日本で国の口蹄疫緊急即応チームを作るとすれば、各県レベルに重機などの緒器材をあらかじめ事前集積(デポ)しておかねばならないと思います。

また、その緊急即応チームの現地への移動は中型ヘリを用意せねばならないと思います。なにを大袈裟なと思われる方は、この宮崎口蹄疫事件においてものべ数万人の自衛隊員が出動している事実があることを思い出して下さい。

このように書くとものすごい費用がかかりそうですが、こども手当などというドブに金を捨てるような2兆ナン千億円(!)のほんの一部でもあれば簡単に整備できるでしょう。なにも戦車やジェット戦闘機を買おうというのではなく、専用ダンプ、ユンボと防疫器材ていどです。その予算もないというならば、地元の業者に補助金と引き換えに緊急時の供出を義務づけるという方法もあります。

わが茨城県のトリインフル事件でもそうでしたが、いったん伝染病をアウトブレイクさせてしまってからでは大変なコストと人員がかかります。最低限の被害でくい止めるための初動のスピードを確保する力は、残念ながら平時の県の行政システムにはありません

県規模の行政組織に、口蹄疫の非常事態緊急即応をする組織や装備を常備することなど、今の不況下で県税収が落ちている時期にまったく不可能だからです

ところで、「全くの一般人」様のご質問中に、指揮系統の問題がありましたが、これはFAO防疫指針では国が任命する「首席獣医官」(CVO)とされています。彼には、この「緊急事態の事前準備と対応の総合的な技術責任者」です。いわば、CVOはこの緊急事態の司令官的役割を果たします。

防衛において、首相-防衛大臣-司令官という関係があるとすれば、口蹄疫緊急対応においては、首相-農水大臣-首席獣医官となります。

また「土地勘」などの点や、別な以前いただいたコメントに「現地の獣医がもっともよく知っているし、扱いもうまい」というものがありましたが、私の経験上、獣医師の大部分は犬猫の小動物のみに馴れ、牛豚が扱える獣医師は一握りでしかありません。これは家保の獣医師も同様です。

宮崎事件の初期に起きた処分の遅れの原因のひとつは職員のこの大型家畜の不慣れでした。これについてはNHKがあたかもこれが主原因であるかのようにこの番組で報道しています(私はこれが主原因ではないと思っていますが)。

ならば専門の訓練を受けた処分チームを育成し、対応することのほうがはるかに有利であり、県の家保獣医師は発生地点からどれだけ拡大しているのか、していないのかを判定する発生動向確認の業務に集中するほうが有益だと思います。

「土地勘」については、現実には即応チームと地元の家保や県の防疫部局との共同作業になるわけですから、心配はないと思います。
また埋設地に関しては当然、英国モデルに拠らなくとも、国は今後、義務化すると思われます。だからと言って、埋設地だけがあっても、緊急即応できないという致命的な欠陥を持っている以上、どうにもなりません。

要は、口蹄疫緊急即応計画の責任体系を国が一元化すること、責任をとりきり、緊急時の命令系統を整理し、必要な器材を予算化し、いつ何どき起きるかわからない口蹄疫の発生に備えること、それに尽きます。

土地勘や器材などのさまざまな要件は、この主軸が出来上がればおのずと解決されていく従的な問題にすぎません。


今の日本のように国はゼニは出さない(パンデミックになり政治問題化すれば出しますが)、権限も中途半端にしか県に渡さない、そのくせ責任だけはしっかり県に行く、対策本部自体も県と国のふたつある、というわけのわからない複雑怪奇な防疫指針のほうがおかしいのです。

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