宮崎口蹄疫事件 その52 宮崎県知事と農水大臣 深刻な対立に発展か
昨日の県知事、農水大臣の会談において両者はきびしい批判合戦を演じました。それによって、宮崎県知事と農水大臣の確執は、単に薦田さんの種牛問題にとどまらないことがわかってきました。
県と国は、今までさまざまな局面で水面下のぶつかり合いをしてきました。先日、宮崎県知事が自分のブログで「山田大臣は副大臣だったのだから、前大臣となぜ一緒に辞任しなかったのだ」というようなことを書き、一方大臣も「こんな県の甘い対応が感染拡大の原因だ」というようなことを言い放つような感情論のレベルにまで発展している様相です。
私は知事が全面的に正しい、逆に大臣が是ということを軽々に言うつもりはありません。どちらもある意味正しく、どちらも別な面で間違っているからです。このように書くと、なにを評論家のようなというお叱りを頂戴しそうですが、まさに是々非々としかいいようのない対立なのです。
では昨日に現れた対立点をまとめてみましょう。
①農水大臣は、ワクチン接種とそれによる処分を頑として拒んでいる薦田さんの種牛に対して例外を作ってはならないと主張。
➊宮崎県知事は、薦田さんの種牛が目視検査でシロ判定だったことから感染の危険性はなく、貴重な宮崎牛ブランドの血統を確保するために県が買い上げていく、と主張。また国の対応はあまりに柔軟性を欠くと批判。
②農水大臣は、例外を設けると他県でもワクチン接種を拒むケースが生まれると主張。
➋県知事は、そもそもリング・ワクチンは国の強い要請においてしたもので、接種をせずに防ぐ方法もあったはずだと主張。
③農水大臣は、県の対応が危機意識がなさすぎ、甘すぎた為に感染拡大したのだと県の責任論に言及。
➌県知事は、国が責任を持った強い強制力を持つ法整備が不足していたことを指摘。なお、7月10日の知事ブログに上記の大臣発言に対しての詳細な反論があり、一読の価値がある。http://ameblo.jp/higashi-blog/day-20100710.html
④農水大臣は、今後について、県が従わなければ地方自治法に則って県に代わって国が代執行を行うと警告。
➍県知事は、特別措置法で事足りるのになぜ地方自治法まで持ち出して代執行を言うのか理解できないと反論。
⑤農水大臣は、このままの状態だと、OIEは清浄国復帰を認めないので大変なことになると警告。
➎県知事は、清浄国の復帰は国が申告することで、3カ月発生をみなければ申請できると反論。
~~~~~~~~~
■資料
●J-CASTニュース(7/11改行・太字引用者)
山田農水相は
(1)「口蹄疫の問題は第一義的には県に責任がある」、
(2)「宮崎県は口蹄疫という国家的危機管理に対する意識があまりにもなさすぎる」、
(3)「県の甘さがこれだけの被害を生んだと言ってもいいのではないか」と宮崎県の対応を批判した。
農水相の批判について、東国原知事は「これが本当なら、極めて残念なことである。これまで国や自治体等と連携・協力・協働し、口蹄疫対策に全力で取り組んで来ただけに、俄かに信じられない発言である」「広域災害や法定伝染病を地方の責任だという国家がどこにあるだろうか?」と指摘した。
●東国原知事ブログ 「そのまんま日記」(7月13日 太字引用者)
http://ameblo.jp/higashi-blog/
記者の質問・・・・「16日の移動制限を解除するためには、もっとキチンとした科学的根拠が無ければ、隣県や他都道府県に理解が得られないのではないか?」そんな意味の質問だった。
答・・・・家伝法に基づく防疫指針において、移動制限項目は、「発生の確認後速やかに規制し、その制限期間は原則として最終発生例の殺処分完了後21日間とする」、これのみである。
つまり、最後の発生後、3週間新たな発生が無ければ、移動制限は解除出来るのである。それは、他都道府県も基本的には、この指針が基準になる。
ただ今回、本県は国と協議して、念には念を入れるため、発生農場から3km以内はサンプル抗体検査、3km~10km圏は目視検査で安全性を確保している。まぁ、これは特例と言える。因みに、抗体検査はその専門性から国にしか出来ない。
よって、16日予定の移動制限解除は、防疫指針に基づき、薦田氏の種牛6頭は目視検査で解除は出来るのである。ただ、その時、国が何と言うか?である。
東国原知事は、殺処分の対象になっている種牛6頭についても主力級種牛5頭と同様に救済する特例を検討していたが、山田農水相は「危機意識があまりにもなさすぎる。ワクチン接種の範囲は、知事が決めた」と7月9日に厳しく批判していた。
良く言われる質問・・・・・「この特例を認めると、今後リングワクチンをしようとする場合、拒否される農家が出て来て、防疫対策上如何なものか?」
答
まず、二度とリングワクチンを強行しなくて済むような、徹底的な初動防疫・防疫対策等のマニュアル化・法制化が必要。次に、もし仮にリングワクチンをしなければならないような事態が生じた場合は、国が責任と強い強制力を持って行うことが出来る法整備を急ぐこと・
清浄国復帰について・・・・・これは、あくまで国がOIEに申請する。その条件として、患畜・擬似患畜を殺処分した後、3ヶ月間、新たな発生が無ければ申請出来る。
記者の方々からは、まだまだ多くの質問があったが、僕の説明が今一つ不味く、理解出来なかったことやもっと詳細・明快な説明を乞うものであれば、県庁・秘書広報課の方まで問い合わせて頂きたい。
大臣の話によると、今後、国は地方自治法を適用し、県に殺処分を勧告するらしい。特措法の方が優先されるし、実質的に代執行するなら、特措法の適用で十分事足りるのに、どうして地方自治法なのか? 分からない。
●平成22年7月13日 山田農林水産大臣会見(改行引用者)
http://www.maff.go.jp/j/douga/100713.html
まあ、そうなると住民も困るでしょうからね。そこは、これからちょっと検討したいと思いますが。
ただ、知事さんも、もう少し、しっかり責任を持ってやっていただかないと
、もし、もう一回こういうことがあった時に、もう既に何人か、各県の畜産農家から連絡入っていますが、「それなら、ワクチン接種を受けなくてもよかったじゃないか」と、そういう農家が出てくるということは十分あり得ます
やはり、こういう口蹄疫みたいな、新しい伝染病というか、口蹄疫も、韓国では1月に発生して、また3月にO型が発生するということがあるというように、これから、猛威を振るっているので、またどこかで、もっと強い、その伝播性の強いウイルスが出てくる可能性もありますし、
やはりリングワクチンというものは必要になってくるし、その時に、「私はワクチンを打たないで済む」ということがあっては、絶対に、日本の畜産は守れないと思っています。
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コメント
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おせわになります。以下間違ってると思います。
➊宮崎県知事は、薦田さんの種牛が血清検査やPCR(遺伝子検査)でシロ判定だったことから
今は目視のみで、知事の判断だと思います。
投稿: 全くの一般人 | 2010年7月14日 (水) 12時17分
全くの一般人様。ありがとうございます。目視検査のみでした。修正しました。
投稿: 濱田 | 2010年7月14日 (水) 12時49分
種牛のことは、どちらが正しいか判りません。 ワクチンを受けない農家が出てくるのは、こういう問題よりも、ワクチン接種農家に対する補償のほうが大きいのかなと思います。
個人的には、ワクチン接種農家には、手厚い補償をしてほしいと思います。
大臣のほうが、口蹄疫の怖さを最初から、知ってるとは思います。前大臣の外遊中に地元の後援者達に、南九州には行くのは自粛するように、言ってたくらいですから。 知ってて、副大臣の時に何もしない人ですから、信用出来ない気持ちで当然だと思います。
投稿: リファール | 2010年7月14日 (水) 12時56分
すいません。今の拒否されてる農家のかたは、補償で揉めてるわけではないのです。私利私欲じゃないから、余計難しい。
私のコメントがそうとられたら、いけないので追加しておきます。
投稿: リファール | 2010年7月14日 (水) 13時48分
はじめまして、今回の種牛の件は濱田様のおっしゃるとおり、「是々非々としかいいようのない対立」だと私も思っています。
知事が政治パフォーマンスしているようにも見える人が居られると思いますが、私は苦肉の策と思っています。
血液検査すらしてくれない国の体制、殺処分=移動制限解除というある種の兵糧攻めに対する反撃、世論を動かす為なのではないかな?
まだ制限解除早いと思っている人にとってはある意味朗報?ともいえる状況だとも思えますし、死活問題となる方々にとっては冗談じゃない!と思える状況だとも思えます。
畜産にも宮崎にもなんの関係のない私が口を出すのも気がひけてますが、こういう消費者もいるのだと思って読んでいただけたらありがたいです。
投稿: 消費者A | 2010年7月14日 (水) 14時38分
今となっては悩ましい課題であり、濱田様が仰る通り、是々非々の感じですが、元を正せば知事が国益より県益を優先し特例を認めた事です。(6頭以外の49頭の殺処分保留も含めて)当然その申し出を許可した国にも責任はあります。
関連団体からの強い要請がなされたことにより、決断した事だとは思いますが、結果としてこの決断が尾を引くこととなりました。以前もコメントしましたが、ダブルスタンダードは、このような伝染病には絶対にそぐわないと思います。
優秀な遺伝子を作り種牛として一人前になるまで何年もかかり、一朝一夕で出来るものでは無い事は、関係者なら誰でも理解している事ですが、その事と感染拡大を防止する事とは別次元の話です。
仮に移動させた種牛が後日新たな感染を起こし、ほかに飛び火したとしたら誰がどんな責任を取るのでしょうか?その時もしも感染経路が判明し、移動させた種牛が原因と特定された場合、私なら宮崎県及び国に損害賠償請求します。(感染経路はBSEもそうですが正式には公表しないでしょうが)
育種改良は時間がかかる・・と言いましたが、今は受精卵移植など技術は進んでいますし、宮崎県の遺伝子は国中に散らばっています。全国の肉牛生産者が支援すれば、仮に100年掛って今の宮崎牛の資質が確立したとしても戻す事は短期間で可能です。
別な言い方をすれば、仮に宮崎の種牛が100点だったとすれば、98点や97点の種牛は沢山います。「宮崎の種牛を殺す事は国家的損失」と言い切った知事のその点においては、県外の関係者にしてみれば「おごり」的発言として受け止めた人も多いと思います。
特措法が出来る前までの国や県の権限や責任の所在はありますが、お互いになすりあいをしていても前へは進みません。
時間を遡る事は出来ず、事実は事実として受け止めなければなりません。
特例も返上し、ゼロからの再出発・・・・これしか手は無いのではないでしょうか?
若い種牛もいるので、全くのゼロからでは無いですから・・・・
繰り返しのコメントは叱られそうですが、何を優先するか・・・ではないでしょうか?
被害を受けられた方には酷な言い方になってしまいましたが、ある種の潔さも必要だと思っています。
当然国など行政から再建のために十分な補償や支援が為される事が前提の話です。
投稿: 北海道 | 2010年7月14日 (水) 16時10分
今回の種牛問題の発端は、北海道様の言われる通り、特例が認められた事であるのは間違いないです。
そもそも何故種牛だけが特別なのか?県の主張を借りれば、種牛造成に時間がかかり、現在の優秀な宮崎の種牛(何が優秀なのか良く判らないが)をまた作り出すのに大変である。今後宮崎の畜産を復興するのに重要である。ま、こう言った主張だったと思います。
その中に、全国のブランド牛を支えているのは宮崎の種牛だみたいな論調もありましたが。
では、種牛はどのように生まれたのでしょう?まさか、種牛から種牛が生まれた訳ではないですよね。
優秀な種牛の精液を同じく優秀な母牛に受精して初めて、優秀な種牛候補が生まれるのではないでしょうか?話が少しそれますが、最近、関東の市場で300万以上の値段がついたメス牛がセリ落とされたニュースがありました。その牛の母牛だったか、祖母牛だったか、記憶が定かではありませんが、そのメス牛は、何頭もの種牛を生んでいます。また、今回有名になった「安平」の母牛は、「福桜」と言う種牛も生んでいます。つまり、種牛だけが優秀でも母牛が優秀でなければ意味がないと言うことです。今回、口蹄疫で、それらの優秀な母牛が処分されました。
北海道様の言われるとおり、宮崎由来の種牛は全国に存在します。
県が県産種牛に何故こだわるか?
それは、宮崎における利権(表現が適切ではないかもしてません。)と非常に関係あるように思います。
その中で、表に出ない所で色々な駆け引きがなされ、結果として特例になった訳で、知事はその矢面にたたされているに過ぎないと思います。
県の責任者である以上、知事の言動はとても重要ですし、それに対する責任も存在すると思いますが、表にでない部分がある事も勘案くださるとありがたいです。
投稿: 一宮崎人 | 2010年7月14日 (水) 17時31分
昨日も大臣と知事の溝は変わらず、しかし国としての強制処分は「先送り」となりました。
大臣としても厳しい判断なので迷ったのか、「自分が悪者になりたくない」から、振り上げた拳を下ろせずに躊躇しているのか…。
外遊から帰ってきて「さっさと殺しておけば…フフフッ」などと口走らないだけ、前任者よりかマシですが。
①嵐が去った今、実際に罹患してないんだから生かしておいていいじゃないか、という意見は最もな話だと思います。
誰も損はしません。
②しかし他は皆涙を飲んで殺したのに、例外を認めるなんて馬鹿馬鹿しい。
今後の発生時の対応や清浄国復帰の問題もありますが、
結局はこの対立軸なんですよね。
絶対の善悪では判断できかねます(そんなものがあるのか分かりませんが)。
生き物を無益に殺していいのか?しかしながら、牛は家畜であり食料・経済動物である。
という畜産業の根幹がシンプルに現れた問題だと思います。
結局のところ、残酷でも以後の利益・国益で判断するしかないでしょう。
これからも動向に注目します。
投稿: 山形 | 2010年7月15日 (木) 07時04分
濱田様 北海道様
今回とても色々な事が起こっています。考えてもまとまらないのですがコメントさせて下さい。
種牛の件は宮崎県民として、これでいいのか?という気持ちです。家伝法律の細則は今の実情にそぐわない所が有るのは濱田さんが丁寧に検証なさっている通りだと思います。でもこの恐ろしいウイルスへの法律の考え方の根本は間違っていないと思います。その恐ろしさを肌で感じている一般農家はみな全頭殺処分や、蔓延を宮崎で食い止める為にワクチン接種を受け入れたんだと思います。法律に従う、という歯止めが有ったから受け入れたんだと思います。
混乱の元凶は宮崎県改良事業団(県)が10年前の口蹄疫発生を経験しながら、10年前は「種牛に感染したら終わりだ。移動だ」と大騒ぎしながらそのまま何も変えず1ケ所に集約したまま、閉鎖的体制を維持(精液ストロー提供を設立時の出資者の人工受精師だけでの受精体制維持。更新も116名での世襲のみ。116名は農家から見れば神様で、さまざまな「支持者名簿」を集める時に威力を発揮。)して来た為に起こっただけです。宮崎の関係者も黙っていますが、種牛は高千穂にも16頭移動させて存在しています。
赤松前大臣が受け入れた県種牛の特例は今後も第二の薦田さんを生む引き金になるのではないかと思います。薦田さんにも口蹄疫発生中に非難される行動も有りました。でも語り出したら3時間は止まらない牛への愛情は本物です。ワクチン接種拒否の時から「無償で県に提供しても良い」と言われていましたが、知事側に県の種牛は「民間の牛とは別、県の牛は能力も高く、税金をつぎ込んでいる」、と切り捨てていました。本人は本当に自分の孫の様に牛を可愛がっているだけです。7月になって宮崎県家畜改良事業団(県)の6頭の特例を知事と一緒に国へ嘆願した畜連O参事が「あそこは殺さないといけない」と発言した事が耳に入り、態度を硬化させ、県への訴訟を決意。訴訟されると県側の敗訴の可能性が高いのと制限解除をとにかく急ぎたい知事側が、息子さんが県側に話した「県に無償譲渡案」を都合よく解釈し、知事も態度豹変し、またもや特例を主張し駆け引きしています。本心から薦田さんの牛を県が必要としているのでは有りません。知事と県のその場限りのアドリブです。 殺処分やワクチン接種を受け入れて全国への感染の防波堤になったのも、早期に洗浄国への復帰を目指す為だと思います。その復帰手続きに支障をきたす事を県自身がして良いのでしょうか。種牛も制限区域設定中のウイルス蔓延地域からの移動、その移動中に消毒不徹底・分離不徹底(トラック2台で6頭移動)、同一牛舎に入れてコンパネでし切っただけで、後の忠富士発症により残り5頭もウイルス接触したのは間違いなく、今の検査では検出不可能な細胞レベルの感染が起こっている可能性は無いのでしょうか?確かめようがないから白と判断して良いのか、その精液を使って子牛を生産し、全国に販売する事が宮崎の畜産の為になるのでしょうか?そんなに心配してどうする、という思いも有るのですがこのウイルスにはもしかして、という甘い考えは通じないと思っています。
投稿: みやざき甲斐 | 2010年7月16日 (金) 00時26分