宮崎口蹄疫事件 その48 パンデミック激甚災害の補償をめぐって
ブログ主宰者として言うのはナンですが、昨日の補償金のコメントはとても勉強になりました。非常に高い水準の議論をしていらっしゃると思います。
私としては、shum34氏のご意見に近いかな。
わが国が英国緊急対策をモデル直輸入するのが難しいひとつの理由は、わが国独特の共済制度にもあるようです。
結論から言えば、私は共済制度は使うべきではない思います。「平時」の疾病、台風や水害などの被害の補償と、今回のようなパンデミックとなった「非常時」の激甚災害の救済とは次元が違うと思えるからです。
今回のようなケースに共済を使えば制度そのものの財政的破綻を免れません。先だっての養鶏の飼料安定基金のように国家からの補助金導入なくしては、共済制度そのものが持たないでしょう。
また、共済加盟農家と非加盟農家の差をどうするのかという問題もあります。わが地域はJAの組織率が農家戸数の3分の1しかないJA弱体地域で、その代わりに各種の独立系団体が林立しているという一風変わった地域です。
私自身ある独立系農業団体の代表理事をしていましたが、JA系ではまず考えられないでしょうが、共済加盟率ゼロでした(←いいのか、おい)。これは極端な例としても、非加盟であろうとなかろうと、今回のようなケースに遭遇するわけですから、そのあたりの平等性をどのように確保するのかは問題となるでしょう。
また、今回のようなパンデミック「非常時」の国家による防疫作戦I上の処分と、共済が想定している「平時」とは次元が違うことです。あくまでも、国家が一元的な責任を持った伝染病制圧のための処分であり、それに対して国家が補償を用意するのは当然の筋道です。
国内法上は家伝法、国際的にはOIE「陸生動物衛生規約」・国際条約によって定められた防疫作戦上に生じた処分を、「平時」の共済で補償していくのはおかしいと思います。
処分においても、発症したか、陽性反応が出て処分するのか、あるいは処分圏内にかかって処分対象となってしまった非感染陰性個体なのか、はたまた、ワクチンの予防的接種による処分なのかの差もありえると思われます。
このような共済加盟、非加盟、あるいは、処分状況の立場の差などの不均等を是正する意味でも、一律に国家による補償をあらかじめ準備しておき、処分と同時に補償金が支払われ、再建にかかる資金が提示される平時からの制度作りが必要だと思います。
大事なことは、「数時間以内で初動制圧する」ためにどうするのか、という演繹的な思考です。
さて話は変わりますが、私有の種牛でやはりもめていますね。やれやれ、やはり出ましたか・・・。必ず出ると思った。県知事が県所有の種牛を国との交渉の材料に使った前例を、農家は見ているのです。当時の県知事の論法そのものを、この種牛農家も利用しています。
私も北海道様とまったく同意見です。このような前例が認められてしまえば、防疫上の処分が条件闘争の場になってしまいます。条件を個々が争って異議を唱え始めたら復興の場はたちまち生臭い修羅場になり、再建が長引きいてしまいます。
県知事の不眠不休の戦いには賛辞を惜しみませんが、彼の過剰な「政治性」というか、政治的駆け引き好きのとんだツケが回ってきたようです。防疫作戦で二重規範はありええません。ディープインパクトだろうと、ロバだろうが(ウマは偶蹄類ではありませんが)平等に取り扱われなければ、防疫作戦は不可能です。
「日本農業新聞」7月7日によると、山田大臣(←いしいひさいちの漫画に出そうな名ですね)が「支援チーム」構想を打ち出しました。けっこうイイ線行っているような、ダメなような。わかっているような、わかってないような。
まぁ、その批評は長くなりそうなので明日にでもしましょうか。
■写真 私が大好きなムラサキツユクサです。
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コメント
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宮崎・口蹄疫被害の真実[チャンネル桜H22/7/3]
http://www.youtube.com/watch?v=FFmb9dzDPq0
http://www.youtube.com/watch?v=eclxx6Y4Wio
http://www.youtube.com/watch?v=oTYSiJWGexA
http://www.youtube.com/watch?v=DhV0AHREHMo
①②殺処分後の現地取材レポート・農家取材
③旬刊宮崎取締役に聞く
④江藤拓(自民党)衆議院議員に聞く
投稿: 一読者 | 2010年7月 8日 (木) 10時36分
真面目に真摯に口蹄疫と取り組んでいらっしゃって、いつも参考にさせて頂いています。
http://kimuramoriyo.blogspot.com/2010/07/vol6.html
これなんて、面白い記事ですよね。
投稿: みき | 2010年7月 8日 (木) 11時08分
今回のような口蹄疫被害は、農業共済制度適用はそぐわないもので、濱田様のご意見通りと思います。
共済制度自体、平時での疾病や事故に(治療等)に対する補償(と言うより「補填」)を主目的に運営されているものですから、激甚災害的なものを補償するものでは無いし、実行すれば破綻は火を見るより明らかです。国によりしっかりと補償や支援がなされるべきものです。初期対応のミスやその他埋却場所など、地域的な問題はあったにせよ、結果として27万頭を超える家畜の処分をしなければならなくなったのですから、地域の様々な人たちの生活がこれからも継続出来る様な手立てを期待している所です。
話は変わりますが、2~3日前のコメントに「消石灰」と「生石灰」は違う・・・とありましたが、どちらも基本的には同じです。
「生石灰」を水処理したものが「消石灰」となりますが、水処理する段階で発熱しますので、取扱いには十分注意する必要があります。
生石灰には「粉状」のものと「粒状」のものがありますが、「粉状」のものは「動物医薬品」の扱いとなり、「粒状」は一般肥料扱いとなりますので、粉状生石灰を販売するには、動物医薬品販売の許可を受けなければ取り扱う事が出来ません。物は同じでも形状によって、取扱いが変わりますので、この点も注意が必要です。参考まで・・・・・
投稿: 北海道 | 2010年7月 8日 (木) 11時23分
みき様。コメントありがとうございます。木村盛世氏の論説は新型インフルエンザの時から拝見させていただいております。彼女は現役厚生省官僚でありながら、新型インフルの水際作戦を痛烈に批判してきた硬骨の人です。
私も、木村さんのご紹介の記事のと同様に、処分による初期制圧こそもっとも人道的な方法ではないかと思っています。
実は、私も初期は今と違って、ワクチンを使って防ぎ、清浄国から離脱するという考え方でした。このブログの宮崎口蹄疫事件シリーズの初めの論調はそうでした。
しかし、この巨大な伝染病の爆発を見て、むしろ初期の数十時間で制圧しきることこそが、もっとも家畜にも農家にもヒューマンなやり方であると思うようになりました。
農家サイドからの私のような防疫指針をめぐる発信は少ないので、がんばっていきたいと思っております。二度と宮崎のような地獄を再現させないために、よろしくお願いします。
投稿: ありんくりん | 2010年7月 8日 (木) 12時10分
生石灰と消石灰の違いについて私の前のコメントは舌足らずでした。物理的な性質が異なり、取り扱い方が違うという意味です。「生」の方は水を吸って熱が出る、場合によっては発火する危険物です。水を吸った後が「消」になります。
>県知事の不眠不休の戦い
これを読んで、思わず笑ってしまいました。連休中に2度も県外出張して講演会、しかもお笑いをやっていました。そのほか、発生確定直後に「ピンチをチャンスに」と言って県外でPR活動とテレビ出演まで行い、今回の一部解除で県外活動を再開し、大雨被害の時も県外でした。県民相手には上手に立ち回っているような風ですが、現地対策本部長の職責をきちんとやれないままに国の対策本部が現地に出張ることになりました。それでも、擁護する人が大勢いるらしいので、テレビと芸は恐ろしいものと思っています。
ムラサキツユクサ、私もとても好きな花です。
投稿: beachmollusc | 2010年7月 8日 (木) 17時51分
今回のような口蹄疫には、共済制度はやはり不適でしょうか?
共済掛金の中には、伝染病等が発生した時に支払う為の原資となる部分があります(丙の部分)。
つまり、共済加入農家は、日ごろから伝染病等に対する備えをしている訳です。
また、悪性伝染病防疫互助事業(これは、いわゆる防疫基金とは違うのかな?)などのように、伝染病に備えている農家も居たのかもしれません。
人間の保険に例えるのは間違いかもしれませんが、常日ごろから備えていた人達と、経済的理由はあれ、備えていなかった人達が、同一基準、同一評価として補償されている訳で、やはり不公平感は、残るのではないかと考えます。従来の家伝法では、5分の4を国が5分の1を共済が補てんするような仕組みになっていたような気がします(うろ覚えですみません)。
今回、あまりの感染拡大に、ワクチンを使用することになり、その補償の段階で、いわゆる「81」の数字が一人歩きして、既存の制度との整合性が壊れてしまった訳で、やはり、今後(特に参院選後)早急に、国会による審議が必要なのではないでしょうか?
投稿: 一宮崎人 | 2010年7月 8日 (木) 18時30分
消石灰と生石灰の件了解しました。
補償の件は宮崎人様の仰る通りで、共済は国の補償の補てんをすることになります。ヨーネ病に罹患した時も同様な対応となります。今回は、初めてワクチン接種後の殺処分を行いました。それがややこしい対応を迫られる事になったと思います。一時期の感染拡大状況からワクチン接種も已む無し・・・となりましたが、今まで経験のない対応ですから、農家の説得の為にある程度の条件を示す必要があったと思います。
落とし所を誤ると今後に大きな禍根を残すことになりますので、行政、農業団体、農業者が膝を交えて、お互いに譲れるところは譲りながら・・・(歩み寄り?)しないと時間ばかりが掛り、先が見えるのが、より遠のく可能性があります。良い知恵と言うか提案は持ち合わせていません。話し合いしかないのかな?と思います。
非常時に対する備え・・・・に関して全くその通りです。中身は違いますが、真面目にコツコツと年金を払っていた人が、受給出来るようになったら、年金も払わず受給資格も無い為に、生活保護を受けている人より少ない金額の年金しか受け取れない・・・なんて話も時々テレビで見ています。不合理な事が当たり前の様になっているのは、世の中何か間違っている・・・と思うのは私だけなのでしょうか?今回の補償や互助会の話を考えていたら、余計な事を考えてしまいました。
投稿: 北海道 | 2010年7月 8日 (木) 21時46分
共済制度が適不適ではなく、現行のNOSAI制度が農業災害補償法通りに履行されているだけです。
入るのであれば皆加入が求められますが、評価額選択は任意。
評価を下げれば掛け金も下がりますが、補填は評価額の範囲内。
今回は、家伝法に基づく手当金が、支払い共済金を補填する形。
加入時の評価額が手当金を下回っていれば、共済金としては支払われません。
これは平時でも、残存物価格として適用されています。
わかりやすく言えば、廃用屠畜して肉代が評価額より高ければ、支払い共済金は発生しません。
家畜共済はNOSAI制度全体の一部ですし、死廃共済だけでなく、日常診療・損害防止事業を含みます。
NOSAI制度はあくまでも組合員のための制度ですが、掛け金の半分は税金です。
加入した時点で、国民の支援を受けています。
今回の事例は、家畜共済加入者を含む「国民」の生活を守るための措置。
震災の時の国の対応に比べたら、良くやってくれていると思いませんか?
投稿: shum34 | 2010年7月 9日 (金) 00時01分
はじめまして。
木村氏は、公衆衛生関係から言わしてもらえば、自己のもろもろな、不満を、新型インフルエンザを利用しただけです(水際作戦がざるは正論ですが、厚労省の症例定義のザルは、批判していないです)。他にも、公衆衛生的には、???の発言もありますし。氏は内科医ですが、タミフルの発言は、産科医から反発が出てます。
今回の発言も、OIE、FAO,SPS,WTOを無視した発言です。氏の動言には、注意を。
現政府は
http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g15901025.htm
廃案
http://www.dpj.or.jp/news/?num=459
http://www.dpj.or.jp/news/?num=464
を、主張しておりましたので、補償、債権は、やっていただけるでしょ。
投稿: omizo | 2010年7月 9日 (金) 01時39分
宮崎県における口蹄疫の発生とNOSAIの対応
鬼丸 利久
日本獣医師会雑誌 53(12), 878-881, 2000-12
論文検索で上のようなタイトルを見つけていますが、閲覧有料の内容は見ていません。前回の口蹄疫で実績があるわけですね。
今回は地域限定パンデミックとなって事情が異なるわけですが、少なくとも前回の事例を参照してみることに意味があるかもしれません。医学関係の方はオンラインで閲覧できるはずですから、教えていただけませんか。
ついでに、NOSAIという雑誌には有害鳥獣駆除関係の記事がたくさんあります。鳥獣被害は「農業災害?」なのか、と認識を改めました。NOSAIは農済でしょうか、それとも農災でしょうか(冗談です)。農業関係の部外者にとって、このようなNOSAIという仕組みの存在は新鮮な驚き、つまり国民一般には制度とその役割が周知されないで税金が投入されているということか。日本の農家収入の7割(か8割だったか)が直接・間接の補助金であるというOECD報告を見たような気がしますが、NOSAIもその一つと理解してよいのでしょうね。
投稿: beachmollusc | 2010年7月 9日 (金) 07時54分