農水省の疫学調査の中間整理がでました。長文ですが、全文を掲載します。読みやすくするために行間をあけてあります。
口蹄疫の疫学調査に係る中間的整理(概要)
1 口蹄疫発生の概要
・4月20日に宮崎県内の牛飼養農場において確認された口蹄疫については、川南地区を中心に発生数が増加し、えびの市等の遠隔地での発生も含め、7月4日の発生までに292例が確認された。
・今回の発生に対しては、移動制限や殺処分を中心とした防疫措置に加え5月22日から川南地区及びその周辺地域で、ワクチン接種及び接種家畜の殺処分を行った。7月5日までに発生及びワクチン接種に係る家畜の殺処分が終了し、7月27日に今回の発生に係る全ての移動制限等が解除された。
2 分離ウイルスの性状
分離された口蹄疫ウイルスの血清型はO 型で、今年香港、韓国、ロシアで分離された株と非常に近縁であった。また、今回の発生事例から、本ウイルスに感染した牛や豚は典型的な口蹄疫の症状を示すと考えられた。
3 侵入及び伝播経路
・これまでに得られた情報から推定される最も早い感染例では、3月中旬において既に口蹄疫ウイルスが侵入していたと考えられるが、現時点では、わが国への口蹄疫ウイルスが侵入した経路を特定するに至っていない。今後、初期の発生事例を中心にアジア地域からの人や物の動きについて、更なる情報収集を進めていくことが必要である。
・今回の発生において感染が拡大した要因として、初発事例の確認が遅れたことにより移動制限が開始された4月20日の時点で既に10農場以上にウイルスが侵入していたこと、発生農場で感染動物の殺処分が遅れたこと、農場の密集地帯で発生したことなどが考えられる。また、一部の発生農場(30農場)においては抗体検査で高い抗体価を示す個体が認められたことから、結果として異常畜の発見に遅れがあったことも示唆された。
・農場間の伝播には人、物、車両の移動が関与したこと、発生農場から飛沫核等によって近隣の農場へ伝播したことが考えられる。特にえびの市での発生やワクチン接種区域外である西都市や日向市での発生には家畜運搬車両や飼料運搬車両が係わった可能性がある。
4 今後の疫学調査の課題
海外からの侵入経路に加え、初期の発生事例から他の農場への伝播経路や、他の農場に比べてバイオセキュリティが高いとされる農場への侵入経路等の解明に係る疫学調査を継続する必要がある。
5 今後の防疫対策への提言
アジア地域では口蹄疫が常在している国が多く、我が国では常に口蹄疫侵入の危険性に曝されていることから、今後の我が国の口蹄疫対策を改善していく上で、検討を要する点について、以下に記載する。
・アジア地域を中心に海外の発生状況を常に把握し、口蹄疫の侵入防止を徹底すること。
・踏み込み消毒槽、動力噴霧器並びに専用の作業着及び長靴の未設置など農場レベルでのバイオセキュリティが概して低いことから、今後はその強化が必要であること。
・飼料や家畜の運搬などの流通業者を含む農場間を移動する畜産関係者の衛生対策を強化すること。
・迅速な伝染病摘発のために、農家をはじめとする畜産関係者に対して口蹄疫などの重要家畜伝染病の周知を図ること。また、家畜保健衛生所の職員を含む獣医師を対象とした口蹄疫等に関する教育研修を実施し、本病等の的確かつ迅速な診断を確保すること。
・口蹄疫対策の実効性を点検し、埋却地の確保や簡易診断キットなど迅速な診断体制等必要な体制の整備に努めること。
・感染源及び感染経路の徹底的な究明は、防疫措置と併行し、発生直後から詳細な疫学調査を行うこと。
口蹄疫の疫学調査に係る中間的整理
平成22年8月25日
口蹄疫疫学調査チーム
1 口蹄疫発生の概要
○ 4月20日に宮崎県内の牛飼養農場において確認された口蹄疫については、川南町・都農町を中心に発生数が増加し、えびの市等の遠隔地での発生も含め、7月4日の発生までに292例が確認された。
○ 今回の発生に対しては、移動制限や殺処分を中心とした防疫措置に加え、5月22日から川南地区及びその周辺地域で、ワクチン接種及び接種家畜の殺処分を行った。7月5日までに全ての家畜の殺処分が終了し(民間種雄牛については7月17日に殺処分)、7月27日に今回の発生に係る全ての移動制限が解除された。
今回の宮崎県での口蹄疫の発生は、2000年3月に同じく宮崎県で発生が確認されて以来、10年ぶりの発生であった。今回の発生の中心地であった宮崎県川南町は日向灘に面した宮崎県のほぼ中央に位置し、畜産を中心とした全国でも有数の農業生産地域である。畜産農家戸数は348戸で、牛飼養農家と豚飼養農家が密集する県内でも主要な畜産地帯であった。
今回の口蹄疫の発生(「発生」とは「患畜又は疑似患畜の発生」とする。)は、4月20日、都農町の牛飼養農場において初めて確認された。第1例目の確認後、直ちに周辺地域の移動制限、発生農場での殺処分などの防疫措置が実施されたが、川南及び都農地区の農場において、連続的に発生が確認された。4月28日には豚で初めての発生が確認され、その後川南地区での発生を中心に発生件数が増加していった。発生件数の増加に伴い、埋却地の確保が難航し、発生農場での殺処分及び埋却などが滞ったことから、発生地域も高鍋町、新富町、西都市、木城町へと拡大する傾向が見られた。
このため、5月22日から移動制限区域内で飼養されていたすべての偶蹄類家畜に対してワクチン接種が行われた。その後、ワクチン接種区域内での発生件数は減少し、6月12日の発生を最後に新たな発生は認められなかった。
川南及び都農地区周辺での発生のほか、4月28日に、えびの市内の牛飼養農場で発生が確認された。その後、5月13日までに周辺地域において豚飼養農場1件、牛飼養農場2件で発生が確認された。
この4件以降の発生は確認されず、周辺農場の検査で清浄性が確認されたことから、6月4日をもって、当該地域の移動制限は解除された。
ワクチン接種区域の外側においては、6月9日から7月5日にかけて、都城市、日向市、宮崎市、西都市、国富町で発生が確認された。その後西都市では最終的に1件の続発、宮崎市では2件の続発が確認されたが、その他の地域では1件のみの発生で終息し、新たな発生は認められなかった。その後順次清浄性確認検査が実施され、7月27日までにこれらの発生に伴う全ての移動制限が解除された。
宮崎県内において4月20日に第1例目が確認されて以降、6月30日にワクチン接種家畜の殺処分、7月5日に疑似患畜の殺処分がそれぞれ終了し、7月27日までに全ての移動制限が解除された。発生は宮崎県内にとどまり、他の都道府県へ感染が拡大することはなかったが、この3ヶ月余りの間に感染動物が摘発された農場は、牛208戸、水牛1戸、豚86戸、めん羊1戸、山羊8戸の計292戸(複数の畜種を飼養する農家があるため合計数は一致しない。)であった。発生農場において処分された動物は牛37,412 頭、水牛42 頭、豚174,132 頭、めん羊8頭、山羊14頭であり、発生地域においてワクチン接種後処分された動物も含めると、今回の口蹄疫の発生に伴って処分された動物の総頭数は牛68,266 頭、豚220,034 頭、その他343 頭に及んだ。
2 分離ウイルスの性状
○ 分離された口蹄疫ウイルスの血清型はO 型で、今年香港、韓国、ロシアで分離された株と非常に近縁であった。
○ 今回の発生事例から、本ウイルスに感染した牛や豚は典型的な口蹄疫の症状を示すと考えられた。
(1)海外分離株との相同性
今回、宮崎県で分離されたウイルスは血清型がO 型に属するウイルスであった。
動物衛生研究所で決定したVP 1遺伝子領域の塩基配列を英国口蹄疫リファレンスラボラトリーに送り、その塩基配列を海外で分離された株と比較解析した。その結果、本年2月及び3月に香港で、4月に韓国で、7月にロシア(中国国境付近)で分離された株との相同率がそれぞれ99.22 %、98.59 %、98.9 %を示し、これらの株と極めて近縁であることが明らかとなった。
(2)病原性
一般に、牛や豚が口蹄疫ウイルスに感染すると、食欲不振や発熱に続いて、口腔内や蹄に水疱やびらんを形成し、牛では流涎、豚では跛行によって気づくことが多いと言われる。今回の発生事例においても、牛飼養農場では泡沫状の流涎、口蓋舌、鼻部のびらん又は潰瘍が、また、豚飼養農場においては、跛行や起立不能を伴う蹄部のびらん又は潰瘍、鼻鏡部の水疱、乳房のびらん又は痂皮が認められた。
分離ウイルスの病原性の詳細については、今後、潜伏期間、ウイルス排出量及び症状の経過等を調べる動物実験の結果を待つ必要があるが、発生事例で見られた臨床症状から、本ウイルスに感染した牛及び豚は典型的な口蹄疫の症状を示すと考えられた。
以下に、今回の発生例で認められた主な症状を示す。
*写真略
3 侵入及び伝播経路
○ これまでに得られた情報から推定される最も早い感染例では、3月中旬において既に口蹄疫ウイルスが侵入していたと考えられるが、現時点では、我が国への口蹄疫ウイルスが侵入した経路を特定するに至っていない。今後、初期の発生事例を中心にアジア地域からの人や物の動きについて、更なる情報収集を進めていくこと
が必要である。
○ 今回の発生において感染が拡大した要因として、結果として初発事例の確認が遅れたことにより移動制限が開始された4月20日の時点で既に10農場以上にウイルスが侵入していたこと、発生農場で感染動物の殺処分が遅れたこと、農場の密集地帯で発生したことなどが考えられる。
また、一部の発生農場(30農場)においては抗体検査で高い抗体価を示す個体が認められたことから、結果として異常畜の発見に遅れがあったことも示唆された。
○ 農場間の伝播には人、物、車両の移動が関与したこと、発生農場から飛沫核等によって近隣の農場へ伝播したことが考えられる。特にえびの市での発生やワクチン接種区域外である西都市や日向市での発生には家畜運搬車両や飼料運搬車両が係わった可能性がある。
(1)初期の発生事例と侵入経路について
① これまでに得られた現地調査及び抗体検査の結果等を分析した結果、最も早い時期に発症が見られた6例目の農場(注・水牛農場を指す)における発生の経緯は以下のとおりである。
3月26日:搾乳牛2頭に発熱、乳量低下が見られたことから獣医師が診療。その後数日間に、同一の症状を呈する牛が増加。
3月30日:異状が9頭で認められたため、獣医師が家畜保健衛生所に通報。
3月31日:家畜保健衛生所が立入。症状は発熱、乳量低下であり口蹄疫を疑う症状は認めず、畜主・獣医師からの報告もなかったことから、3頭の血液、鼻腔スワブ、糞便を採取し、ウイルス・細菌・寄生虫検査を実施。
4月5日:家畜保健衛生所が獣医師から「ほとんどの牛が解熱したが、一部の牛の乳房に痂皮。アレルギーを疑っている」と聴取。
4月14日:家畜保健衛生所が再度立入。3月31日に採血した3頭のうち1頭から再び採血。子牛にも流涎、発熱。回復した牛もいるが、乳質低下(脂肪分減少)、被毛粗剛も見られた。
4月21日:4月20日に発生が確認された1例目の農場との関連農場であることから、宮崎県庁疫学班が立入調査。全頭回復し症状が見られないが、3月31日の聴き取り内容と一部異なる内容(3月末には流涎、口内炎、足に異常(跛行を呈している)、乳房の皮膚がめくれている牛がいた)があり、過去に口蹄疫を疑う症状があった可能性が認められた。
4月22日:家畜保健衛生所が立入調査。臨床的に異状はなし。検体を採取。3月31日に採取した検査材料を用いた遺伝子検査で、口蹄疫ウイルスの遺伝子が検出されている。
これらを考慮すると、この農場へは3月中旬にウイルスが侵入したものと推定される。4月上旬頃にはこの農場に加え以下に述べるとおり、他の2農場(1 例目と7 例目)においても口蹄疫ウイルスに感染・発症した動物が存在したと推定され、結果的にこれ
らの初発農場の確認が遅れたことがその後の感染拡大の要因になったも
のと考えられた。
② また、1例目の農場における発生の経緯は、
4月7日:発熱(40.3 度)でえさを食べないと獣医師に往診依頼。当該牛は流涎、
活力なく震えている状態。口腔内には異常はなし。
4月8日:熱は平熱だが流涎もあり、リンパ節が腫れていたため、抗生物質を投与。
4月9日:熱は平熱だが、食欲不振、涎を流すということで口腔内を確認。上唇基部に潰瘍、舌先端部に表皮の脱落を確認。獣医師から口蹄疫の可能性も否定できないとの通報を受けて家畜保健衛生所が立入。全頭を確認したが、病変が口腔内であり1頭だけであったとから経過観察。
4月16日:他の牛で発熱(39.3 度)し、涎を流してえさを食べない牛がいるとの往診依頼が獣医師にあり、当該牛の舌と歯床板にびらんを確認。他にえさは食べているが流涎の牛を確認したが、その牛の口腔内に異常はなし。獣医師が家畜保健衛生所に通報。
4月16日:16日に流涎だけの牛がえさを食べなくなり、発熱(41.5 度)もあるため往診依頼。獣医師の往診時には、家畜保健衛生所は立入を済ませており、2頭ともびらんを確認。口蹄疫以外のウイルス性疾患検査のために家畜保健衛生所が検体を採取。
4月19日:ブルータング、牛パラインフルエンザ、牛ウイルス性下痢、牛伝染性鼻気管炎、イバラキ病について、家畜保健衛生所による検査結果が陰性。口蹄疫を疑い、午後から家畜保健衛生所が再度立入し全頭分の検体を採取。新たに別の同居牛1頭にびらんを確認。
となっている。
③ さらに、7例目の農場(注・安愚楽農場を指す)における発生の経緯は4月8日頃:道路側牛舎に食欲不振。(9日以降多頭数に食欲不振改善薬を投与)
4月13日:食肉処理施設に出荷。当該農場で9頭積載後、同一車両で9例目農場(えびの市)で3頭積載。
4月22日午前:同牛舎にて発熱、微熱、食欲が落ちた10数頭に流涎、その後にびらんを確認。
4月24日:本社の了解を得て家畜保健衛生所に通報しようとしたところ、家畜保健衛生所から農場に立入検査の連絡(2例目と飼料運搬車を介した疫学関連農場だったため。)があり、異常牛について通報。午前に立入検査。3棟とも流涎を示す牛が所々見られた。鼻腔・鼻鏡の潰瘍・びらん、舌の粘膜剥離を確認した5頭について、血清及びスワブを採材。蹄に異常なし。
となっている。
④ これまでの初期の発生事例(3農場)に関する調査において、3農場のうちの1農場(1例目)で3月中旬まで中国産稲わらを使用していたことが確認されている。
これらは輸入前に加熱処理が行われており、また、同様に中国産稲わらを与えていた多くの農場では発生が確認されておらず、中国産稲わらが感染源となった可能性は極めて低いと考えられる。
その他口蹄疫発生国からの飼料や物品の持ち込み、発生国への渡航、発生国からの訪問者の受け入れなど、これまで海外からの直接的な口蹄疫の侵入要因は確認されていない。
今回の発生に関わるウイルスが、本年の香港、韓国及びロシアでの発生時に分離された株と近縁であることを考慮すると、ウイルスはアジア地域から人あるいは物の移動等に伴って我が国へ侵入した可能性が高いと考えられるが、現時点ではその経路を特定するに至っていない。今後、初期の発生事例を中心にアジア地域からの人や物の動きについて更なる情報収集を進めていくことが必要である。
(2)感染拡大要因について
① 川南及び都農地区
これまでに得られた情報の分析結果から、移動制限が開始された4月20日の時点で、少なくとも10農場以上に口蹄疫ウイルスが侵入していたと考えられた。また、感染拡大の一因として、異常畜発見に遅れがあったことも示唆された。
今回の発生の中心となった川南地区では牛飼養農場と豚飼養農場が混在し、宮崎県内でも特に農場が密集している地域であり、感染農場から周辺の農場に伝播しやすい状況
にあったと考えられる。
感染後のウイルスの排泄量が牛のそれと比較して約1,000倍と言われている豚への感染が10、12及び13例目の農場で確認されたが、このうち10例目の農場(注・県畜産試験場のこと)については、一般的な農場に比べバイオセキュリティが高いとされる農場であったが、一方で、口蹄疫発生前にはシャワーイン・シャワーアウトの実施が外来者に限られていたこと、豚を移動させる際に豚舎の外周を歩かせていたことなど、病原体の侵入防止対策が不十分であった点も認められており、こうしたことも農場への侵入要因の一つと考えられる。
さらに、発生件数の増加に伴い、発生農場における殺処分・埋却が滞ったため、多くの感染動物が環境中にウイルスを排出する状態が続いたことも感染拡大の大きな要因と考えられる。
② えびの市
えびの市における初発例(9例目)は川南町の7例目と関連農場であり、同一の家畜運搬車両が両農場に入場していることが確認されおり、これがウイルスの伝播に関与した可能性がある。
③ ワクチン接種区域外
・西都市(283例目)及び日向市(284例目)については、児湯地区の発生場と同じ飼料運搬会社の人・車両が、その発生農場への運搬と同日または連続した日に使用されていたことが確認されていることから、この車両によりウイルスが伝播し、感染した可能性がある。
・西都市内の発生農場間(283例目と289例目)で、それぞれの農場から牛を出荷する際、同一車両が使用された例が確認されていることから、当該運搬車両を介してウイルスが伝播し、感染の原因となった可能性が高い。
・宮崎市内の3農場(285例目、291例目及び292例目)の発生については、当該3農場は同一地区に存在し、農場間の距離が数百メートル程度であることから、飛沫核による近隣伝搬の可能性を否定できない。
(3)農場間の伝播要因について
① 人及び車両による伝播
前述のとおり、口蹄疫の発生が確認される以前に10農場以上にウイルスが侵入していたと推定されるが、これらの感染農場間の伝播は、家畜、たい肥、飼料又はその他の畜産資材の運搬、従業員の移動などに伴う人や車両の動きによって伝播したことが疑われた。また、移動制限実施後においても、飼料や家畜などの運搬に伴う人や車両の動きが感染拡大に関与した可能性が考えられる。
② 近隣農場への伝播
口蹄疫に感染した牛や豚は呼気中や糞尿中に大量のウイルスを排出するため、周辺環境がウイルスで汚染されることが知られている。川南地区を中心とする発生地域では、多くの発生農場で感染動物を殺処分するまでに長い時間を要したため、これらの農場内及びその周辺環境が大量のウイルスにより汚染されていたと考えられる。これらのウイルスが飛沫核として飛散し、また、共通の道路の利用、昆虫や小動物などによる機械的伝播など不特定の経路を介して周辺農場に拡がった可能性が考えられる。
③ 野生偶蹄類動物による伝播の可能性
宮崎県中部の山間部には野生のシカ、カモシカ、イノシシが生息していることが知られている。これまで、これらの野生動物14頭について遺伝子検査を実施した結果(8月19日現在)、全て陰性であった。今回の発生農場の多くは平野部に位置しており、野生動物が感染拡大において重要な役割を担ったとは考えにくい。しかしながら、一部の発生は山間部の農場においても見られており、野生動物の感染状況については更なる調査が必要である。
4 今後の疫学調査の課題
○ 海外からの侵入経路に加え、初期の発生事例から他の農場への伝播経路やバイオセキュリティが高いとされる農場への侵入経路等の解明に係る疫学調査を継続する必要がある。
我が国への口蹄疫ウイルスの侵入経路については、現時点で特定するに至っていないが、引き続き海外からの侵入経路に関する調査を進めることとする。また、初期の発生事例から他の農場への伝播経路や、他の農場に比べてバイオセキュリティが高いとされる農場への伝播経路等の解明に係る疫学調査について、調査を継続し、今後の防疫対応に万全を期すよう、更に検討を進める必要があると考える。
5 今後の防疫対策への提言
○ アジア地域を中心に海外の発生状況を常に把握し、口蹄疫の侵入防止を徹底すること。
○ 踏み込み消毒槽、動力噴霧器並びに専用の作業着及び長靴の未設置など農場レベ
ルでのバイオセキュリティが概して低いことから、今後はその強化が必要であること。
○ 飼料や家畜の運搬などの流通業者を含む農場間を移動する畜産関係者の衛生対策を強化すること。
○ 迅速な伝染病摘発のために、農家をはじめとする畜産関係者に対して口蹄疫などの重要家畜伝染病の周知を図ること。また、獣医師を対象とした教育研修を実施し、伝染病の的確かつ迅速な診断を確保すること。
○ 口蹄疫対策の実効性を点検し、埋却地の確保や簡易診断キットなど迅速な診断体制等必要な体制の整備に努めること。
○ 感染源及び感染経路の徹底的な究明は、防疫措置と併行し、発生直後から詳細な疫学調査を行うこと。
我が国で発生した口蹄疫の原因ウイルスは、今年になってアジア地域で分離されたウイルスと近縁であったことから、これらの地域で流行しているウイルスが何らかの経路で我が国に侵入したものと考えられた。今回の発生に関して、宮崎県、農林水産省、現地調査チーム等によって調査が進められてきたが、これまでのところ口蹄疫が国内へ侵入した経路を特定することはできていない。
しかしながら、アジア地域では口蹄疫が常在している国が多く、また、近年、人と物の国際移動が短時間で可能となり、活発化していることを考えれば、我が国は常に口蹄疫侵入の危険性にさらされていると言っても過言ではない。このため、今回の発生経過を詳細に分析し、侵入要因のみならず感染拡大要因も含めて検討することは、今後の我が国の口蹄疫対策を改善していく上で重要である。これまで調査した結果から考察された、検討を要する点について以下に記載するが、まだ不十分なところもあるため、今後も調査を継続し、更なる検討を進める必要があると考える。
(1)アジア地域を中心に海外の口蹄疫発生状況を常に収集し、リスクに応じた適切な対策を講じることにより、引き続き海外からの侵入防止を徹底する必要がある。
(2)今回の発生農場においては、踏み込み消毒槽、動力噴霧器並びに専用の作業着及び長靴の未設置など概してバイオセキュリティーの低い状況が確認された。口蹄疫に限らず農場内の家畜を伝染病から守るためには、常日頃からの飼養衛生管理を徹底し、専用の長靴や作業着を着用し消毒を徹底するなど疾病の侵入防止対策を強化する必要がある。
(3)家畜、死亡畜、飼料、敷料などに関わる流通関係業者において、農場間移動に際して消毒が不十分であったなど一部衛生対策の不徹底が見られた。農場の飼養者以外の畜産関係者も含め農場間での物や人の移動は家畜伝染病のまん延に重要な役割を果たすことを理解の上、必要な防疫対策を常日頃から実施する必要がある。
(4)一部の発生農場(30農場)においては、高い抗体価を示す個体が認められたことから、結果として異常畜の発見に遅れがあったことが示唆された。口蹄疫の迅速な摘発は最も優れた防疫対策の一つであり、日頃より飼養家畜の健康観察に努めるとともに、異常を確認した際は直ちに獣医師・家畜保健衛生所に通報すべきである。
今回の発生を踏まえ、全国において口蹄疫をはじめとする家畜伝染病に関する知識の普及・啓発を、家畜の飼養者のみならず、広く流通業者や畜産関係者等に図るべきである。また、家畜保健衛生所の職員を含む獣医師を対象とした口蹄疫等に関する教育研修を実施し、家畜伝染病の的確かつ迅速な診断を確保すること。
(5)今回の発生において、埋却場所の確保など迅速な家畜の処分に必要な対応ができなかったことも感染拡大の大きな要因になっていることから、基本的に都道府県や市町村は、地域の実情に応じて迅速な早期殺処分・埋却を実施するための埋却地の確保を調整する必要がある。また、口蹄疫発生時の危機管理対応として、簡易診断キットなど迅速な診断体制の整備や消毒ポイントの設置など発生現場における迅速な防疫活動の実効性について点検し、必要な体制の構築に努める必要がある。
(6)発生当初のまん延防止のための疫学調査については、全発生農場に対して、発生直後に家畜の入出履歴等の調査が行われていた。しかしながら、感染源や感染経路の究明に活用する観点からの詳細な調査については、防疫措置を優先し、防疫措置が終了した後に開始したことから、疫学調査の開始が遅れたことは否めない。
徹底的な感染源及び感染経路の究明に当たっては、発生直後から速やかに疫学調査を開始することが望ましく、今後は防疫措置と併行し、まん延防止に十分配慮しつつ発生後から直ちに詳細な疫学調査を行うべきである。なお、農家においては通常、人や物の出入りに関する記録がほとんど行われておらず、疫学調査を実施する上での問題となったことから、今後そのあり方が検討されることが望ましい。
資料1
海外での発生状況
2010年に入ってからの近隣諸国の発生状況は7月29日現在、以下のとおり。
①香港:O型が2月に豚飼養農家3件で発生
②韓国:A 型が1月から3月までに牛6件、鹿1件で発生。また、O 型が4月から6
月までに牛8件(うち1件は山羊も飼養)、豚4件、猪1件で発生
③台湾:O型が2月及び6月に豚飼養農家で、それぞれ1件発生
④中国:O型及びA 型が各地域で散発
⑤モンゴル:O 型が4月から6月までに3件で発生
⑥ロシア:O 型が7月に1件で発生
(「中間整理」終了)
原文はこちらからご覧ください。http://www.maff.go.jp/j/press/syouan/douei/pdf/100825_1-01.pdf
付録
口蹄疫疫学調査チーム第4回検討会 名簿
【委員】
明石博臣 (国)東京大学大学院農学生命科学研究科教授
黒木昭浩 宮崎県延岡家畜保健衛生所衛生課主幹
末吉益雄 (国)宮崎県農学部獣医学科准教授
○ 津田知幸 (独)農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所企画管理部長
筒井俊之 (独)農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所疫学研究チーム長
森田哲夫 (国)宮崎大学農学部畜産草地科学科准教授
【オブザーバー】
呉 克昌 (有)バリューファーム・コンサルティング
小 泉透 (独)森林総合研究所野生動物領域長
<口蹄疫疫学調査チーム検討会 開催実績>
第1回検討会:4月29日
第2回検討会:6月7日
第3回検討会:6月24日
第4回検討会:7月23日
第5回検討会(第15回牛豚等疾病小委員会との合同開催):8月24日
消費・安全局動物衛生課
担当者:伏見、嶋﨑
代表:03-3502-8111(内線4582)
ダイヤルイン:03-3502-8292
FAX:03-3502-3385
http://www.maff.go.jp/j/press/syouan/douei/100825_1.html