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2010年8月

2010年8月31日 (火)

宮崎口蹄疫事件 その88   緊急ワクチン接種と殺処分を検証する

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ようやく8割がた復旧しました。cowboyさん、アドバイスありがとうございます。結局古いキーボードを押入れから引っ張りだしていじくって使っています。

さて、終結宣言も出て、家畜市場も再開されひとくぎりが着きました。もちろん、再建の道はまだまだですが、ここの時点でいくつか私の心にひっかかったてきたが、状況の急展開の中で埋もれていったことを少しずつ取り上げていきたいと思います。

まずは、殺処分です。今回のやりきれなさは、いうまでもなく30万頭頭弱の家畜が殺されていったことでした。これは宮崎県民の精神にも゛肉体にも傷を残し続けることでしょう。

私は殺処分について意見が変化しました。ブレたと言われればそれまでですが、当初の私は殺処分について懐疑的でした。

それがパンデミックの様相をもつに至って私の中で、殺処分やむなし、やる以上は防疫原則に忠実に徹底して実施せねばならないというふうに変化していきます。

なんとはなしに変身したというより、わかっていて意識的に変化しました。この「変化」をしっかりと自分自身で検証してみたいとかねがね思ってきていました。しかし状況が展開する中では極度に選択肢は限られてしまうので、ひと区切りするまで待っていたわけです。

私の持っていた「殺処分懐疑」を少し説明するとしましょう。まず、私は初動における殺処分まで反対していたわけではありません。感染が確認されれば、患畜、疑似患畜を数十時間以内に殺処分せねば、感染を止めることは不可能です。これは口蹄疫防疫のイロハのイで懐疑の入り込む余地はありません。

問題はそこからです。その最初の初動制圧が破綻した場合です。初動がうまくいき感染が初発の発生点から限られた狭い範囲内で治まっていれば、殺された家畜も浮かばれようものです。

しかしこの発生確認と同時に半径10㎞と切ってしまい、実際の感染ルートや飛び火の状況を血清検査もなしで処分対象とすることではないはずです。

つまり、科学的な根拠に基づいて殺処分はなされるべきであり、半径10キロ以内はすべて感染している、が故に殺処分確定というのは、いくらなんでも科学とは無縁な野蛮なものに思われます。

家畜の殺処分は家畜のみならず、畜産農家にとっては死刑宣告に等しい重大な宣告であり、軽々に状況に押し流されて決定すべきことではありません。

念のためにお断りしますが、今回の事件において「こうすべきだった」という結果論をくどくどと言うつもりはありません。今回発生点からの発生動向調査がなされなかったことに対して、いまさらながら非を鳴らす気もありません。

一言で言えば、防疫現場も県対策本部もそして国さえも、皆ありえざる状況にパニックだったのです。国の報告書を読むと粛々と防疫に勉めましたという感じですがとんでもない。国には情報が上がらず、県段階では何なんだかわからない、誰も状況に先んじた意思決定ができない、ということだったに過ぎません。

4月中の「殺処分は財産権のうえからも簡単にできない」という赤松前農相の方針は県も同じであり、第10例の県畜産試験場の豚感染の爆発をみるまで、殺処分に対して躊躇し続けていました。

しかし、これが致命的な判断ミスとなり、豚感染によって増幅したウイルスは一挙に川南地区をなめつくし、国道10号線に沿って感染拡大していきます。

私は今になると、この「躊躇」を甘い判断だったと一刀で切り捨てる気にはなりません。それは現場を預かっている立場の人間にしてみればありえる躊躇でした。現場農家の重さを知れば簡単な意思決定ができなかったのです。

ただし、今後にまた必ず来るであろう口蹄疫の大流行に対して、このような意思決定の遅れと躊躇を再現してはなりません。

話を戻します。口蹄疫初動制圧が失敗に終わった後は、緊急ワクチンしか方法はありませんでした。このことは私は4月段階から主張してきました。
これは私自身、ニューカッスル病(ND)という強い感染力を持つ鶏伝染病の大流行時に、不活化ワクチンの緊急接種を武器として防衛に成功した経験が実際にあったからです。

私は4月段階で緊急ワクチンを投入すべきだと思っていました。そして緊急的なワクチン投入と、血清検査の併用で、殺処分の範囲を極小化するべきだと考えていました。

そして当時の私は(といってもたかだか4カ月前ですが)、「清浄国からの離脱も視野にいれよ」と主張しました。清浄国という前提をはずして考えたらどうかと思ったのです。

この緊急ワクチン接種⇒清浄国離脱という考えは、今になって振り返ると結論が飛躍しています。緊急ワクチンを接種して、殺処分を極小化し、なおかつ口蹄疫清浄化へのルートを探るべきでした。

清浄国復帰と立てるからたいへんなのであり、それをを離脱してしまえば、口蹄疫は一定の時間で自然治癒してしまいます。とうぜん痩せて商品価値が下がりますが、殺すよりましでしょう。

ただし、ご承知のように、いったん清浄国を離脱してしまえばOIE(国際獣疫事務局)のコード8.5.8で牛豚の輸出入が大きな制限を受けます。現実にはありえない選択でした。これについては後述することにします。

ですから今私は、血清検査⇒緊急ワクチン⇒殺処分極小化⇒清浄国復帰のルートを探るべきではないかと思っています。

たしかにOIE陸生動物規約では、口蹄疫清浄国の復帰に対して、感染した牛の摘発した後の殺処分と血清検査を求めています。

しかし、同時に緊急ワクチンを接種した場合には殺処分されてから3カ月間か、あるいは、ワクチン接種をしてなおかつ殺処分しない場合でも、その接種群の血清検査(FMDV非構造蛋白に対する抗体を検出する血清学的発生動向調査)を実施して感染していないことを証明できれば、6カ月後に口蹄疫清浄国復帰を申請できます。

なにがなんでもワクチン接種⇒殺処分だけが清浄国復帰へのルートではなかったのです。

このことは、ELA(欧州家畜協会)が7月10日に、「大量の殺処分によらず、迅速な遺伝子検査と、ワクチン併用」を促す文書を農水省消費安全局に送付していることからも、一定の国際的なコンセンサスではないかと思われます。

この問題については次回も続けます。

2010年8月30日 (月)

宮崎口蹄疫事件 その87 資料 農水省・本年における口蹄疫の発生状況等について

012

宮崎の皆様。終結宣言に続き、待ち望んだ高千穂家畜市場が再開しました。
おめでとうございます!心から祝福いたましす。
まだつらい復興の日々は続くかもしれませんが、私たちは応援し続けます。
ガンバレ、宮崎!すごいぞ、宮崎!強いぞ、宮崎!

さて、私の方はあいかわらず、キーボードが半身不随です。ほとんどの操作をマウスでやっている次第で、いや参り参った。長文は書けなくなりました。ハマダの長い駄文を読まなくて済んだ、バンザーイと喜ばれている人も多いことでしょう。

よい機会ですので少しの間、資料を掲載いたします。ちょうど、農水省が総括文書を発表している時期にあたっています。

農水省の第1回 口蹄疫対策検証委員会が始まりました。本日アップしたのは、そこで配布された文書です。
さすが弁護士や消費者代表まで集めての検証委員会です。口蹄疫はなんぞやから始まり、国の役割、時系列のトピックなど、実にわかりやすいテキストとなっています。なにか、大学1年生のための教科書みたいです。

ただし、疫学チーム中間報告と違って疫学報告はほぼなく、初発への侵入ルート、感染拡大は中学生の夏休み自由研究のほうがましなレベルです。ただし、国道10号が拡大のハブになったことは明言しています。

読みやすくするために行間をあけてあります。 図表は省力してありますが、文言は転載いたしました。では、農水省の自己保身と真相迷宮化のための霞が関官僚文学をお楽しみください。

           第1回口蹄疫対策検証委員会配布資料

                                                  日時:平成22年8月5日(木)17:00~19:00
                                                  場所:農林水産省 第1特別会議室

                   本年における口蹄疫の発生状況等について

Ⅰ発生の概要

口蹄疫について

○口蹄疫とは、口蹄疫ウイルスにより、牛・豚などの偶蹄類が感染する伝染病。O型やA型などの様々なタイプ(7種類)があるが、全て同様の症状を示す。
○感染畜の肉等が市場に出回ることはないが、感染畜の肉や牛乳を摂取しても人体には影響ない。
○発症すると、牛・豚等の口や蹄に水疱(水ぶくれ)等の症状を示し、致死率は成畜で数%だが、感染力・伝播力が強く、産業動物の生産性を低下。
○家畜伝染病予防法において「法定伝染病」に指定し、患畜・疑似患畜は、殺処分を義務付け

家畜の感染症に関する国際機関であるOIE(国際獣疫事務局)が最も警戒する感染症の1つ

口蹄疫は、
・感染力・伝播力が非常に強い
・有効な治療法がない

・強い感染力(ウイルス10個で感染)
・非常に長い生存期間(数週間~数ヶ月←他のウイルスでは数時間~数日)
・広範な伝播力(人、物、風等を介して)


感染した家畜の摘発・淘汰による処分が、本病の清浄化のための国際的原則

我が国における過去の発生

①明治41年(1908年)②平成12年(2000年)③平成22年(2010年)

世界における口蹄疫の状況

【中国】
各地で断続的に発生(A,O型)

【韓国】
①2010年1月~3月(A型):約6千頭処分
②2010年4月~6月(O型):約5万頭処分

【台湾】
①2010年2月(O型)
②2010年6月(O型

【香港】①2010年2月(O型)②2010年3月(O型)

※欧州、北米、豪州等は、ワクチン接種によらず、清浄性を維持する方針
※南米諸国は、ワクチン接種により清浄化を目指す方針

本年の宮崎県における発生及び対応状況について

○ 4月20日、宮崎県において我が国で10年振りに口蹄疫が発生(292戸、211,608頭で発生)。
○ 各県の獣医師や自衛隊、警察を派遣し、移動制限や感染家畜の処分、消毒等の防疫措置を
実施したものの、宮崎県東部において局地的に感染が急速に拡大。

発生からの対応状況

4月20日宮崎県で10年ぶりに
口蹄疫が発生
5月19日政府対策本部において
ワクチン接種の実施を決定
6月4日口蹄疫対策特別措置法施行
7月18日ワクチン接種地域の
移動制限が解除
発生からの対応状況
熊本県
鹿児島県
20km

我が国で初めての緊急ワクチン接種について
○宮崎県東部における感染の急速な拡大に対応するため、我が国で初めての緊急ワクチン接
種を実施(ワクチンを接種し処分:76,756頭)。
○この結果、口蹄疫の発生は減尐し、7月4日以来発生は確認されず、7月27日に全ての移動制限を解除済。

口蹄疫発生による農家や地域等への影響と支援措置

○発生農場等に加え周辺の畜産農家の経営や畜産物の輸出にも大きな影響。
○地域の観光産業や流通業界等にも大きな影響。
○発生農場・ワクチン接種農場をはじめ、畜産業以外の産業にも支援。

農家や地域への影響

○発生農場等における全ての家畜の処分
○新たな家畜の導入ができない
○周辺農家や近隣県における影響
●近隣県における家畜市場の閉鎖
●畜産物の輸出停止など
○地域の社会経済への影響
●地元商店街の売り上げ減尐
●イベント等の自粛
●流通業界や観光産業への影響など

支援措置

○発生農場・ワクチン接種農場への支援
●家畜の評価額の全額を交付
●経営再開支援金(飼料代、人件費)
○周辺農場や近隣県への支援
●家畜市場等の閉鎖により、家畜を出荷できなかった農家に対し、その間の飼料代等を助成など
○地域経済等への支援
●①低利融資②雇用主への賃金助成、
③租税、社会保険料の納付猶予など

Ⅱ発生前の防疫体制

我が国の家畜衛生体制について

○国の役割
①国内の家畜防疫に関する企画、調整、指導等を実施。
②動物検疫所を設置し、国際機関とも連携して輸出入検疫を実施。
③国は家畜保健衛生所の整備支援、職員の講習等を実施。
○都道府県の役割
家畜防疫の第一線の機関として家畜保健衛生所を設置し、防疫対策を実施。

家畜伝染病予防法における国と県の役割分担について

○家畜伝染病予防法に基づき、国は、
①科学的知見を踏まえた防疫指針の策定。
②都道府県の実施する防疫措置に要する費用の負担や生産者に殺処分家畜の手当金等の交付。
③家畜伝染病の侵入防止のための水際検疫を実施。
また、発生時には、殺処分等を行う獣医師の派遣、防疫資材の供給を実施。
○都道府県は、防疫指針に基づき、地域の実情を踏まえつつ、家畜伝染病の発生予防まん延防止を実施。

我が国周辺地域における発生と対応【水際】

動物検疫所での対応状況
1.発生国からの牛・豚等の偶蹄類動物や畜産物の輸入禁止
2.空海港における入国時の旅客の靴底消毒及び車両の消毒
3.発生国からの畜産物の持ち込みを防止するための広報・周知活動
○指定する施設で加熱処理された物(加熱処理肉、加熱消毒稲わら等)に限り輸入を許可。
○空港において検疫探知犬を導入し、違法持ち込みを防止。

我が国周辺地域における発生と対応【国内】

○我が国周辺地域における発生を受け、平成21年2月、22年1月及び4月、都道府県に対し、口蹄疫の発生状況及び注意喚起のための通知等を発出。
○また、埋却地の確保については、平成16年に策定された防疫指針において、都道府県は家畜所有者が努めるよう指導・助言を行うこととしたほか、21年8月31日、22年4月5日には、各都道府県に対して口蹄疫等が発生した際の埋却地等の確保を要請。

海外での口蹄疫発生時の注意喚起
都道府県や畜産団体に対して、①発生国の畜産農家への訪問の自粛、②飼養家畜の
臨床症状等の的確な観察、③飼養衛生管理の徹底等、防疫対策に万全を期するよう、
関係者に周知するよう依頼。
【発出時期】
平成21年2月19日(台湾での口蹄疫の発生)
平成22年1月7日(韓国での口蹄疫(A型)の発生)
平成22年4月9日(韓国での口蹄疫(O型)の発生)

Ⅲ発生後の経緯政府の対応
宮崎県の対応
4月20日 宮崎県口蹄疫防疫対策本部設置

5月10日 赤松大臣と宮崎県庁との意見交換

13日 県種雄牛の移動制限区域外への搬出

18日口蹄疫」非常事態宣言

21日 知事記者会見 ワクチン接種の実施を表明 

6月4日 えびの市地域の移動制限等解除

13日 尾八重地域の移動制限解除

24日 疑似患畜全頭の殺処分終了

29日 ワクチン接種家畜全頭の殺処分終了口蹄疫」非常事態宣言の一部解除

7月2日 都城市地域の移動制限等解除

3日 日向市地域の移動制限等解除

6日 西都市地域の移動制限等解除

8日 国富町地域の移動制限等解除

16日 児湯地域の移動制限等解除
(ワクチン非接種農家地域を除く)

17日 民間種雄牛の殺処分を実施

18日 ワクチン非接種農家地域の移動制限解除

27日 宮崎市地域の移動制限等解除

27日 「口蹄疫」非常事態宣言の全面解除

政府の対応

4月20日 口蹄疫防疫対策本部設置

26日 口蹄疫疫学調査チーム設置

28日 牛豚等疾病小委員会開 4/28えびの市

5月1日 自衛隊派遣

10日 赤松大臣と宮崎県庁との意見交換

17日 政府口蹄疫対策本部及び現地対策本部設置

18日 牛豚等疾病小委員会開催

19日 ワクチン接種の実施を決定 政府対策本部にて

21日 県種雄牛一頭の感染確認

31日 ワクチン接種地域内における臨床症状による疑似患畜判定導入

6月4日 特措法及び政省令の公布・施行

13日 牛豚等疾病小委員会開催

6/9都城市、6/10西都市、
6/11日向市、宮崎市

22日 現地調査チーム設置

24日 口蹄疫防疫措置実施マニュアル公表

7月1日 排泄物等の処理に係る通知を発出

16日 家畜の再導入に係る通知を発出

初動対応について(4/20)

○4月20日の発生確認後直ちに、農水大臣を本部長とする口蹄疫防疫対策本部を開催。
○発生農場を中心とする移動制限の設定、消毒ポイントの設置、当該農場の殺処分を実施。
○同日、牛豚等疾病小委員会を開催。

第1回口蹄疫防疫対策本部
牛豚等疾病小委概要
・発生農場の飼養牛全頭を疑似患畜とし、殺処分等の防疫措置を行うことは適切。
・防疫指針の規定どおり、移動制限(半径10km)、搬出制限(半径20km)を設定することは妥当。
・症状が確認された4月9日から1週間程度さかのぼり疫学調査を実施することが重要。
・全国の農場の監視強化、衛生管理の徹底を指導すべき
・ウイルスの性状については近隣諸国と情報交換を行い、防疫対応に活用すべき。
・口蹄疫疫学調査チームを速やかに設置し、感染経路の調査を行うことが重要。

①当該農場の飼養牛の殺処分、移動制限区域の設定等
の必要な防疫措置を実施すること。
②都道府県に対し、農場への緊急調査の実施、本病の
早期発見・早期通報の徹底について通知すること。
③消費者や流通業者へ正確な情報を提供すること。
④調査チームを立ち上げ、感染経路の究明を行うこと。

初動対応
・移動制限・搬出制限区域の設定
・疑似患畜の殺処分・埋却
・消毒ポイントの設置(4ヶ所)
・農水省から防疫専門家を現地に派遣
→現地において、指導・連絡調整
・発生農場から半径3.5kmの周辺農場の緊急調査を実施
・疫学関連農場の調査を実施
口蹄疫防疫指針に基づき対応

豚における発生について(4月下旬)

○ 豚での初の発生確認(県畜産試験場、4/28)、移動制限区域外のえびの市での発生確認(4/28)。
○ 大規模牛肥育農場(700~1000頭規模)での発生により殺処分に遅れ(確認から4~7日を要する)。
○ 九州農政局又は本省幹部を現地に常駐させ陣頭指揮。また、都道府県、動物検疫所等から獣医師を派遣。
○ 牛豚小委では、疫学関連が不明な遠隔地での続発等が認められた場合は、制限区域の拡大等のあらたな防疫対策を検討すべきとの意見。発生状況の変化
①豚、②移動制限区域外、③大規模牛肥育農場での発生

発生の拡大について(5月上旬)

○川南町を中心に国道10号沿い等、道路沿いに感染が面的広がり。
○大規模養豚場での発生確認(約1万6千頭、5/4)、自衛隊への災害派遣要請(5/1)。
○処分・埋却が遅れ、処分待ちの頭数が急増。

感染農場急増【疑似患畜頭数】

4/20: 1例(16頭)


4/28: 10例(2,893頭)

5/6 : 35例(47,556頭)

5/10:67例(76,852頭)

埋却地確保遅れ

・畜産密集地帯
・大規模農場での発生
・周辺住民の理解
・地質の問題(地下水など)
・人員不足(リーダー、作業員)

処分待ち頭数急増

ウイルスを排出→ 新たな感染源

牛豚等疾病小委概要(5/6)
・移動制限区域(2か所)の概ね3km 以内に収まっており、風による広範囲なウイルスの拡散は考えにくい。
・人や車両等による伝播が否定できないことから、あらゆる可能性を想定し、引き続き厳格な消毒や農場内への出入りの制限を実施すべき。
・現行の発生農場での迅速な殺処分、埋却等による防疫措置を徹底すべきである。

ワクチン接種区域内のふん尿等の処理について

○川南町を中心とするワクチン接種区域内において、疑似患畜・ワクチン接種家畜の糞尿等を全て埋却する土地の調達は困難であったため、未処理の糞尿等が各農家に残存。
○残存した糞尿中にはウイルスが残存している可能性があるため、たい肥化を基本とする発酵・消毒によりウイルスを不活化させ、たい肥として利用する方針。
○よって、ワクチン接種区域においては、移動制限が解除された後も、畜舎の消毒に加え、糞尿等の処理が終了するまで、家畜の再導入は行わないこととしている。

当該地域内の糞尿処理の考え方について

口蹄疫ウイルスは熱に弱い(50℃以上で速やかに感染性を消失

糞尿のたい肥化による消毒は非常に有効
(60~70℃まで上昇)

切り返し(撹拌)時や運搬時にウイルス飛散のリスク

20℃条件下においても一定期間を置けばウイルスを不活化可能

たい肥化前に一定期間シート等で被覆し静置

宮崎の平均気温7月:26.2℃8月:26.8℃ ※発生農場は42日間ワクチン接種農場は7日間以上

一定期間、静置後にたい肥化し、利用

糞尿処理の推奨される手法
・農場内でシート等で被覆し、42日間経過した上で、たい肥化による加熱処理。

飼料・敷料等の処理
・畜舎内の物は原則たい肥化、それ以外は消毒の上、再利用。

各農家等への対応家が応対する家が応対する相談窓口(専用ダイヤル)を設置。
・県、市町村、JA等の畜産を指導する立場にある職員100名以上を対象に説明会を開催相談窓口(専用ダイヤル)を設置。

Ⅳ疫学調査の進捗状況

初発農場等について

○口蹄疫のウイルスの侵入が最も早かった農場は、6例目に発生が確認された都農町の農場であり、その時期は3月中旬頃と推定。
○1例目の発生が確認された4月20日の時点では、尐なくとも10農場以上にウイルスが侵入していたと推察。
○我が国への侵入経路の特定は現時点では困難。

ウイルスの遺伝子型

韓国
99.22%
一致
98.59%
一致

アジア地域から人
あるいは物の移動
等に伴って侵入

3月中旬
都農町
アジア地域から人
あるいは物の移動
等に伴って侵入
3月中旬
川南町
4月20日
尐なくとも10戸以上
にウイルス侵入

6例目農場における発生確認の経緯

①3月26日、発熱、乳量低下が見られたため、獣医師が診療。同30日には同様な症状を示す牛が増加したことから、獣医師から家畜保健衛生所へ通報。
②3月31日、家保が立入検査を実施し、上記症状及び下痢を認め、ウイルス(4種類)、細菌、寄生虫を検査し、陰性を確認。
③4月21日、第1例目の疫学関連農場であったことから検査したところ、3月31日の検体で口蹄疫の陽性を確認。

第2回口蹄疫防疫対策本部(4/28)
① 宮崎県に加え、隣接県全域での全額国庫負担による消毒薬散布
② 殺処分等の防疫措置を支援する獣医師などの増員
等を決定

感染拡大要因について

○ 川南町を中心とする地域において、感染が拡大した要因としては、人や物、車両の動き
が関与したことに加え、感染の拡大に伴い飛沫核※等による近隣伝播も発生したと考えら
れる。
なお、これまでの検査結果からは、野生動物(イノシシ、シカ等)が本病の伝播に重要
な役割を果たしたとは考えにくい。

川南町を中心とする地域における
感染拡大のイメージ

人や車両を介して感染が拡大

近隣伝播
・人、車両、物
・野生動物(ネズミ、ハエ、カラス等)
・飛沫  ※ 飛沫核とは、ウイルスを含む微尐な粒子で、風により運ばれるが、1km以上
飛散することはない。

国道10号線

資料2本年における口蹄疫の発生状況等について

http://www.maff.go.jp/j/syouan/soumu/pdf/1-siryo2.pdf

        口蹄疫対策検証委員会 委員名簿

NHK解説委員 おお合せ瀬ひろき宏毅
全国消費者団体連絡会前事務局長 かんだ神田としこ敏子
弁護士 ごうはら郷原のぶお信郎
(独)農業・食品産業技術総合研究機構
動物衛生研究所 研究管理監 さかもと坂本けんいち研一
(OIE科学委員会委員)
北海道農政部食の安全推進局畜産振興課長 つかだ塚田よしや善也
自治医科大学教授 なかむら中村よしかず好一
東京大学大学院農学生命科学研究科教授 まなべ眞鍋 のぼる昇
帝京科学大学生命環境学部教授 むらかみ村上ようすけ洋介
日本獣医師会会長 やまね山根よしひさ義http://www.maff.go.jp/j/syouan/soumu/pdf/meibo.pdf

                   

2010年8月29日 (日)

宮崎口蹄疫事件 その86  疫学調査への疑問 本日資料のみ

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熱波のせいかパソコンが不調です。先週から変だったキーボードが完全におかしくなって、シュールなことを打ちます。

時折、今のようにマトモになるのですが、すぐにすねる、泣く、わめくです。復旧に勉めますが復調するまでちょっとかかるかもしれません。

というわけで、本日は疫学調査周辺の資料記事を論評なしで掲載するに止めます。

最初の毎日新聞宮崎支局の石田記者記事は、足で書いた記者魂のある内容です。ぜひご一読ください。

2番目は、第6例の水牛農場のHP「チーロエスポージト」からのものです。行間に疫学調査へのいいようのない怒りがにじんでいます。

■[毎日新聞(2010年8月8日)より以下引用。

 現場発:口蹄疫調査に農家不信 感染経路不明 なぜ「初発」特定

 宮崎県で牛や豚などの家畜約29万頭を殺処分に追い込んだ家畜伝染病・口蹄 疫(こうていえき)は、県が27日に終息宣言する見通しだが、感染ルートの 解明には至っていない。感染の経緯を調べる農林水産省の疫学調査チームは 7月23日、第4回の検討会で初発事例を具体的に示しながらも「ウイルス侵入 経路の特定は困難」とした。初発とされた農家らは「まともに当事者の話を 聞かずに結論を出してほしくない」と戸惑い、不信感を募らせている。【石田宗久】

 初発とされた都農町の竹島英俊さん(37)はイタリアでチーズ作りを学び 3年前、移住した。水牛約40頭を飼い、未明に 搾った乳を東京のレストラン に届ける日々は、口蹄疫で絶たれた。

 3月末、元気のない水牛を かかりつけ獣医師は風邪と疑った。獣医師が保管 していた検体で4月23日、6例目と確認。疫学チームは「ウイルス侵入は最も 早い3月中旬と推察される」とした。

 口蹄疫は今年に入り韓国や台湾で流行していた。竹島さんは調査で、渡航歴 などを質問されたが、「パスポート提示さえ求められなかった。こんな調査 じゃ納得できない」と怒る。一日のほとんどを農場内で過ごし、観光客も原 則として受け入れていない。「なぜ感染したのか。殺された動物のためにも 徹底的に調べてほしい」と強く求める。

 「水牛から人を介して広がったのなら、まず発症するのはうちのはず。なぜ 何も話を聞きに来ない?」4月23日に5例目と確認された川南町の森木清美さん(61)は首をかしげる。竹島さんの農場を手伝う親族が連日、お茶を飲む ため家に立ち寄っていたからだ。牛75頭の中に発熱を確認したのは22日朝。

 「ウイルスがどこから来たのか。はっきりしなければ怖くて経営再開できな い」

 疫学チームは、3月下旬にウイルスが侵入したと みられる農場に1、7例目を挙げた。4月20日に確認された1例目の黒木保行さん(59)方は竹島さんの農場から約500メートル。黒木さんは月2回、竹島さん方に都農町の広報誌を届けていた。

 黒木さん方から約3キロ離れた2~5例目と7例目の農場は百~数百メートル内にある。7例目は全国に和牛牧場を展開する畜産会社の農場で、約700頭を飼育。4月24日に症状を確認し 通報したが、地元旬刊紙が「感染を隠ぺい」と報じ、会社側は 名誉棄損で提訴した。代理人は「4月18日に風邪を疑い投薬し、19日に治った。専属獣医師の判断で経過観察していた」と疑惑を全面否定する。

 疫学調査チーム長の津田知幸・動物衛生研究所企画管理部長は、ウイルス侵
 入時期の根拠を「症状の写真や抗体検査の結果から推定した」と説明する。
 ウイルスの潜伏期間を約1週間、感染の痕跡を示す抗体ができるまでを約2週
 間などとして逆算したという。

 チームは来月にも中間報告を取りまとめる方針。津田チーム長は「感染時期
 の推定は今までのデータが基であり、データが足りなければさらに聞き取り
 が必要」と、追加調査の可能性を認める。

 動衛研勤務経験のある白井淳資・東京農工大教授(獣医伝染病学)の話。疫学調査チームは、なぜ初発を水牛農家と発表できたのか不思議だ。あくま でも得られた検体のみを分析し、判断した結果にすぎない。ウイルスの侵入が3中旬なら、1例目以前に感染が見過ごされた家畜がいたかもしれない。もし水牛農家が初発とすれば、どのようにウイルスが侵入したのか、徹底的な聞き取りなどの調査で侵入ルートを解明しなければ意味がない。

[毎日新聞記事 引用終了]

■以下、水牛農場HP「チーロ・エスポジートlからの転載です。http://www.caseificio.jp/index.html

[水牛農場HP引用開始]

8月3日に疫学調査チームの一部が川南町に来て、数戸の初期被害農家や関係 者(獣医師他)を混ぜ意見交換会のようなものを開催しました。そのなかで、 調査の仕組みも分かりました。

(1)県が主体になり(その地で仕事をしているので当然)被害の農家への聞き取り調査。
(2)疫学調査チーム内の現地調査チームが調査するべき【キー】と考える農場の聞き取り調査。
(3)その内容を疫学調査チームに上げて、その情報を元に検討会を開催して発表する。
  
 という流れです

 農家「私達のとこには調査が来てないよ。なぜ農家の生の意見を聞かないのか? たとえば 大規模農場は 現場で作業をしていた人間から話を聞いたのか?」
 疫学調査チーム「いや、聞いてません。関係者です。」
 農家「、、、って関係者って誰よ?」
 疫学調査チーム「関係者です。」

 仕組みでは、東京での検討会は現地からの【聞き取り情報】を元に【発表】 があります。動物達から遠いはずの【マスコミ】が報道すれば【認めるそして発表する】という流れ、

県にも国にも、すごく【壁】が感じられ、疲 れました。疫学調査チームと農家の話し合いの中で獣医師からの質問は【抗体値】やど のように【ウイルスの侵入時期】を特定したの など参考になりました。

 ウイルスの侵入時期を判断しているのは、【サンプルからの抗体値】と【臨 床症状】からだそうです。臨床症状とは【その時の牛の見た目】です。そし て【抗体値】の情報開示は本人にも出来ないとのこと。水牛は【3月中旬】 そして1例目(16頭)と7例目(725頭)は【3月下旬】のウイルスの侵入が【公式 見解です】と言っていました

【症状が出たと報告があった日を発症日】と疫学調査の基準にしたり、【検体は症状のある牛(発症直後)から採取】とありがたいことに農家を信用してくれて、【他の農場が出るまで黙っていた】とか【もう治っている牛がいるのではないか】という考えはしないようです

 1例目と7例目はウイルスの侵入は同時期と発表 家畜保健所への通報も同時期か、、、、規模に応じて検体の数も変えるべきだったな、、、、
 「仮に 既に治っている 牛から検体を取っていたら、侵入時期は早まりますか?」
 「そうなります。」

[2010 .8. 5]

色々な噂がありますが
汚染国(口蹄疫が発生、蔓延している地域)からの人間が牧場で働いていたりしたら感染源となる可能性は高いと思います、視察団とかも。

日本よりも物価が安い地域から来ているとしたら【日本に来てから色々な物(作業着、長靴他)を買い揃えよう】 とは思わないはず。持ってくるか送ってもらうはずだからです。

驚くほど、当牧場に外国から研修生や視察団などが来たと浸透していますが【ありません】ので それについては8月中になんとかします。

もう二度と口蹄疫を発生させないようにするには【原因】を知り、対策をすることが大事です。
日本は島国ですからできるはず。(8.8)

[水牛農場HP 引用終了]

■写真 沖縄のヤチムン。

2010年8月28日 (土)

宮崎口蹄疫維持権 その85  農水省「口蹄疫の疫学調査に係る中間的整理(概要)」全文

025

農水省の疫学調査の中間整理がでました。長文ですが、全文を掲載します。読みやすくするために行間をあけてあります。

           口蹄疫の疫学調査に係る中間的整理(概要)
1 口蹄疫発生の概要

・4月20日に宮崎県内の牛飼養農場において確認された口蹄疫については、川南地区を中心に発生数が増加し、えびの市等の遠隔地での発生も含め、7月4日の発生までに292例が確認された。

・今回の発生に対しては、移動制限や殺処分を中心とした防疫措置に加え5月22日から川南地区及びその周辺地域で、ワクチン接種及び接種家畜の殺処分を行った。7月5日までに発生及びワクチン接種に係る家畜の殺処分が終了し、7月27日に今回の発生に係る全ての移動制限等が解除された。

2 分離ウイルスの性状
分離された口蹄疫ウイルスの血清型はO 型で、今年香港、韓国、ロシアで分離された株と非常に近縁であった。また、今回の発生事例から、本ウイルスに感染した牛や豚は典型的な口蹄疫の症状を示すと考えられた。

3 侵入及び伝播経路
・これまでに得られた情報から推定される最も早い感染例では、3月中旬において既に口蹄疫ウイルスが侵入していたと考えられるが、現時点では、わが国への口蹄疫ウイルスが侵入した経路を特定するに至っていない。今後、初期の発生事例を中心にアジア地域からの人や物の動きについて、更なる情報収集を進めていくことが必要である。

・今回の発生において感染が拡大した要因として、初発事例の確認が遅れたことにより移動制限が開始された4月20日の時点で既に10農場以上にウイルスが侵入していたこと、発生農場で感染動物の殺処分が遅れたこと、農場の密集地帯で発生したことなどが考えられる。また、一部の発生農場(30農場)においては抗体検査で高い抗体価を示す個体が認められたことから、結果として異常畜の発見に遅れがあったことも示唆された。

・農場間の伝播には人、物、車両の移動が関与したこと、発生農場から飛沫核等によって近隣の農場へ伝播したことが考えられる。特にえびの市での発生やワクチン接種区域外である西都市や日向市での発生には家畜運搬車両や飼料運搬車両が係わった可能性がある。

4 今後の疫学調査の課題
海外からの侵入経路に加え、初期の発生事例から他の農場への伝播経路や、他の農場に比べてバイオセキュリティが高いとされる農場への侵入経路等の解明に係る疫学調査を継続する必要がある。

5 今後の防疫対策への提言
アジア地域では口蹄疫が常在している国が多く、我が国では常に口蹄疫侵入の危険性に曝されていることから、今後の我が国の口蹄疫対策を改善していく上で、検討を要する点について、以下に記載する。

・アジア地域を中心に海外の発生状況を常に把握し、口蹄疫の侵入防止を徹底すること。

・踏み込み消毒槽、動力噴霧器並びに専用の作業着及び長靴の未設置など農場レベルでのバイオセキュリティが概して低いことから、今後はその強化が必要であること。

・飼料や家畜の運搬などの流通業者を含む農場間を移動する畜産関係者の衛生対策を強化すること。

・迅速な伝染病摘発のために、農家をはじめとする畜産関係者に対して口蹄疫などの重要家畜伝染病の周知を図ること。また、家畜保健衛生所の職員を含む獣医師を対象とした口蹄疫等に関する教育研修を実施し、本病等の的確かつ迅速な診断を確保すること。

・口蹄疫対策の実効性を点検し、埋却地の確保や簡易診断キットなど迅速な診断体制等必要な体制の整備に努めること。

・感染源及び感染経路の徹底的な究明は、防疫措置と併行し、発生直後から詳細な疫学調査を行うこと。

          口蹄疫の疫学調査に係る中間的整理
                                     平成22年8月25日
                                     口蹄疫疫学調査チーム

1 口蹄疫発生の概要
○ 4月20日に宮崎県内の牛飼養農場において確認された口蹄疫については、川南町・都農町を中心に発生数が増加し、えびの市等の遠隔地での発生も含め、7月4日の発生までに292例が確認された。

○ 今回の発生に対しては、移動制限や殺処分を中心とした防疫措置に加え、5月22日から川南地区及びその周辺地域で、ワクチン接種及び接種家畜の殺処分を行った。7月5日までに全ての家畜の殺処分が終了し(民間種雄牛については7月17日に殺処分)、7月27日に今回の発生に係る全ての移動制限が解除された。

今回の宮崎県での口蹄疫の発生は、2000年3月に同じく宮崎県で発生が確認されて以来、10年ぶりの発生であった。今回の発生の中心地であった宮崎県川南町は日向灘に面した宮崎県のほぼ中央に位置し、畜産を中心とした全国でも有数の農業生産地域である。畜産農家戸数は348戸で、牛飼養農家と豚飼養農家が密集する県内でも主要な畜産地帯であった。

今回の口蹄疫の発生(「発生」とは「患畜又は疑似患畜の発生」とする。)は、4月20日、都農町の牛飼養農場において初めて確認された。第1例目の確認後、直ちに周辺地域の移動制限、発生農場での殺処分などの防疫措置が実施されたが、川南及び都農地区の農場において、連続的に発生が確認された。4月28日には豚で初めての発生が確認され、その後川南地区での発生を中心に発生件数が増加していった。発生件数の増加に伴い、埋却地の確保が難航し、発生農場での殺処分及び埋却などが滞ったことから、発生地域も高鍋町、新富町、西都市、木城町へと拡大する傾向が見られた。

このため、5月22日から移動制限区域内で飼養されていたすべての偶蹄類家畜に対してワクチン接種が行われた。その後、ワクチン接種区域内での発生件数は減少し、6月12日の発生を最後に新たな発生は認められなかった。

川南及び都農地区周辺での発生のほか、4月28日に、えびの市内の牛飼養農場で発生が確認された。その後、5月13日までに周辺地域において豚飼養農場1件、牛飼養農場2件で発生が確認された。

この4件以降の発生は確認されず、周辺農場の検査で清浄性が確認されたことから、6月4日をもって、当該地域の移動制限は解除された。

ワクチン接種区域の外側においては、6月9日から7月5日にかけて、都城市、日向市、宮崎市、西都市、国富町で発生が確認された。その後西都市では最終的に1件の続発、宮崎市では2件の続発が確認されたが、その他の地域では1件のみの発生で終息し、新たな発生は認められなかった。その後順次清浄性確認検査が実施され、7月27日までにこれらの発生に伴う全ての移動制限が解除された。

宮崎県内において4月20日に第1例目が確認されて以降、6月30日にワクチン接種家畜の殺処分、7月5日に疑似患畜の殺処分がそれぞれ終了し、7月27日までに全ての移動制限が解除された。発生は宮崎県内にとどまり、他の都道府県へ感染が拡大することはなかったが、この3ヶ月余りの間に感染動物が摘発された農場は、牛208戸、水牛1戸、豚86戸、めん羊1戸、山羊8戸の計292戸(複数の畜種を飼養する農家があるため合計数は一致しない。)であった。発生農場において処分された動物は牛37,412 頭、水牛42 頭、豚174,132 頭、めん羊8頭、山羊14頭であり、発生地域においてワクチン接種後処分された動物も含めると、今回の口蹄疫の発生に伴って処分された動物の総頭数は牛68,266 頭、豚220,034 頭、その他343 頭に及んだ。

2 分離ウイルスの性状
○ 分離された口蹄疫ウイルスの血清型はO 型で、今年香港、韓国、ロシアで分離された株と非常に近縁であった。
○ 今回の発生事例から、本ウイルスに感染した牛や豚は典型的な口蹄疫の症状を示すと考えられた。

(1)海外分離株との相同性
今回、宮崎県で分離されたウイルスは血清型がO 型に属するウイルスであった。
動物衛生研究所で決定したVP 1遺伝子領域の塩基配列を英国口蹄疫リファレンスラボラトリーに送り、その塩基配列を海外で分離された株と比較解析した。その結果、本年2月及び3月に香港で、4月に韓国で、7月にロシア(中国国境付近)で分離された株との相同率がそれぞれ99.22 %、98.59 %、98.9 %を示し、これらの株と極めて近縁であることが明らかとなった。

(2)病原性
一般に、牛や豚が口蹄疫ウイルスに感染すると、食欲不振や発熱に続いて、口腔内や蹄に水疱やびらんを形成し、牛では流涎、豚では跛行によって気づくことが多いと言われる。今回の発生事例においても、牛飼養農場では泡沫状の流涎、口蓋舌、鼻部のびらん又は潰瘍が、また、豚飼養農場においては、跛行や起立不能を伴う蹄部のびらん又は潰瘍、鼻鏡部の水疱、乳房のびらん又は痂皮が認められた。

分離ウイルスの病原性の詳細については、今後、潜伏期間、ウイルス排出量及び症状の経過等を調べる動物実験の結果を待つ必要があるが、発生事例で見られた臨床症状から、本ウイルスに感染した牛及び豚は典型的な口蹄疫の症状を示すと考えられた。
以下に、今回の発生例で認められた主な症状を示す。
*写真略

3 侵入及び伝播経路
○ これまでに得られた情報から推定される最も早い感染例では、3月中旬において既に口蹄疫ウイルスが侵入していたと考えられるが、現時点では、我が国への口蹄疫ウイルスが侵入した経路を特定するに至っていない。今後、初期の発生事例を中心にアジア地域からの人や物の動きについて、更なる情報収集を進めていくこと
が必要である。

○ 今回の発生において感染が拡大した要因として、結果として初発事例の確認が遅れたことにより移動制限が開始された4月20日の時点で既に10農場以上にウイルスが侵入していたこと、発生農場で感染動物の殺処分が遅れたこと、農場の密集地帯で発生したことなどが考えられる。

また、一部の発生農場(30農場)においては抗体検査で高い抗体価を示す個体が認められたことから、結果として異常畜の発見に遅れがあったことも示唆された。

○ 農場間の伝播には人、物、車両の移動が関与したこと、発生農場から飛沫核等によって近隣の農場へ伝播したことが考えられる。特にえびの市での発生やワクチン接種区域外である西都市や日向市での発生には家畜運搬車両や飼料運搬車両が係わった可能性がある。

(1)初期の発生事例と侵入経路について
① これまでに得られた現地調査及び抗体検査の結果等を分析した結果、最も早い時期に発症が見られた6例目の農場(注・水牛農場を指す)における発生の経緯は以下のとおりである。

3月26日:搾乳牛2頭に発熱、乳量低下が見られたことから獣医師が診療。その後数日間に、同一の症状を呈する牛が増加。
3月30日:異状が9頭で認められたため、獣医師が家畜保健衛生所に通報。
3月31日:家畜保健衛生所が立入。症状は発熱、乳量低下であり口蹄疫を疑う症状は認めず、畜主・獣医師からの報告もなかったことから、3頭の血液、鼻腔スワブ、糞便を採取し、ウイルス・細菌・寄生虫検査を実施。
4月5日:家畜保健衛生所が獣医師から「ほとんどの牛が解熱したが、一部の牛の乳房に痂皮。アレルギーを疑っている」と聴取。
4月14日:家畜保健衛生所が再度立入。3月31日に採血した3頭のうち1頭から再び採血。子牛にも流涎、発熱。回復した牛もいるが、乳質低下(脂肪分減少)、被毛粗剛も見られた。
4月21日:4月20日に発生が確認された1例目の農場との関連農場であることから、宮崎県庁疫学班が立入調査。全頭回復し症状が見られないが、3月31日の聴き取り内容と一部異なる内容(3月末には流涎、口内炎、足に異常(跛行を呈している)、乳房の皮膚がめくれている牛がいた)があり、過去に口蹄疫を疑う症状があった可能性が認められた。
4月22日:家畜保健衛生所が立入調査。臨床的に異状はなし。検体を採取。3月31日に採取した検査材料を用いた遺伝子検査で、口蹄疫ウイルスの遺伝子が検出されている。

これらを考慮すると、この農場へは3月中旬にウイルスが侵入したものと推定される。4月上旬頃にはこの農場に加え以下に述べるとおり、他の2農場(1 例目と7 例目)においても口蹄疫ウイルスに感染・発症した動物が存在したと推定され、結果的にこれ
らの初発農場の確認が遅れたことがその後の感染拡大の要因になったも
のと考えられた。

② また、1例目の農場における発生の経緯は、
4月7日:発熱(40.3 度)でえさを食べないと獣医師に往診依頼。当該牛は流涎、
活力なく震えている状態。口腔内には異常はなし。
4月8日:熱は平熱だが流涎もあり、リンパ節が腫れていたため、抗生物質を投与。
4月9日:熱は平熱だが、食欲不振、涎を流すということで口腔内を確認。上唇基部に潰瘍、舌先端部に表皮の脱落を確認。獣医師から口蹄疫の可能性も否定できないとの通報を受けて家畜保健衛生所が立入。全頭を確認したが、病変が口腔内であり1頭だけであったとから経過観察。
4月16日:他の牛で発熱(39.3 度)し、涎を流してえさを食べない牛がいるとの往診依頼が獣医師にあり、当該牛の舌と歯床板にびらんを確認。他にえさは食べているが流涎の牛を確認したが、その牛の口腔内に異常はなし。獣医師が家畜保健衛生所に通報。
4月16日:16日に流涎だけの牛がえさを食べなくなり、発熱(41.5 度)もあるため往診依頼。獣医師の往診時には、家畜保健衛生所は立入を済ませており、2頭ともびらんを確認。口蹄疫以外のウイルス性疾患検査のために家畜保健衛生所が検体を採取。
4月19日:ブルータング、牛パラインフルエンザ、牛ウイルス性下痢、牛伝染性鼻気管炎、イバラキ病について、家畜保健衛生所による検査結果が陰性。口蹄疫を疑い、午後から家畜保健衛生所が再度立入し全頭分の検体を採取。新たに別の同居牛1頭にびらんを確認。
となっている。

③ さらに、7例目の農場(注・安愚楽農場を指す)における発生の経緯は4月8日頃:道路側牛舎に食欲不振。(9日以降多頭数に食欲不振改善薬を投与)
4月13日:食肉処理施設に出荷。当該農場で9頭積載後、同一車両で9例目農場(えびの市)で3頭積載。
4月22日午前:同牛舎にて発熱、微熱、食欲が落ちた10数頭に流涎、その後にびらんを確認。
4月24日:本社の了解を得て家畜保健衛生所に通報しようとしたところ、家畜保健衛生所から農場に立入検査の連絡(2例目と飼料運搬車を介した疫学関連農場だったため。)があり、異常牛について通報。午前に立入検査。3棟とも流涎を示す牛が所々見られた。鼻腔・鼻鏡の潰瘍・びらん、舌の粘膜剥離を確認した5頭について、血清及びスワブを採材。蹄に異常なし。
となっている。

④ これまでの初期の発生事例(3農場)に関する調査において、3農場のうちの1農場(1例目)で3月中旬まで中国産稲わらを使用していたことが確認されている。
これらは輸入前に加熱処理が行われており、また、同様に中国産稲わらを与えていた多くの農場では発生が確認されておらず、中国産稲わらが感染源となった可能性は極めて低いと考えられる。

その他口蹄疫発生国からの飼料や物品の持ち込み、発生国への渡航、発生国からの訪問者の受け入れなど、これまで海外からの直接的な口蹄疫の侵入要因は確認されていない。

今回の発生に関わるウイルスが、本年の香港、韓国及びロシアでの発生時に分離された株と近縁であることを考慮すると、ウイルスはアジア地域から人あるいは物の移動等に伴って我が国へ侵入した可能性が高いと考えられるが、現時点ではその経路を特定するに至っていない。今後、初期の発生事例を中心にアジア地域からの人や物の動きについて更なる情報収集を進めていくことが必要である。

(2)感染拡大要因について
① 川南及び都農地区
これまでに得られた情報の分析結果から、移動制限が開始された4月20日の時点で、少なくとも10農場以上に口蹄疫ウイルスが侵入していたと考えられた。また、感染拡大の一因として、異常畜発見に遅れがあったことも示唆された。

今回の発生の中心となった川南地区では牛飼養農場と豚飼養農場が混在し、宮崎県内でも特に農場が密集している地域であり、感染農場から周辺の農場に伝播しやすい状況
にあったと考えられる。

感染後のウイルスの排泄量が牛のそれと比較して約1,000倍と言われている豚への感染が10、12及び13例目の農場で確認されたが、このうち10例目の農場(注・県畜産試験場のこと)については、一般的な農場に比べバイオセキュリティが高いとされる農場であったが、一方で、口蹄疫発生前にはシャワーイン・シャワーアウトの実施が外来者に限られていたこと、豚を移動させる際に豚舎の外周を歩かせていたことなど、病原体の侵入防止対策が不十分であった点も認められており、こうしたことも農場への侵入要因の一つと考えられる。

さらに、発生件数の増加に伴い、発生農場における殺処分・埋却が滞ったため、多くの感染動物が環境中にウイルスを排出する状態が続いたことも感染拡大の大きな要因と考えられる。

② えびの市
えびの市における初発例(9例目)は川南町の7例目と関連農場であり、同一の家畜運搬車両が両農場に入場していることが確認されおり、これがウイルスの伝播に関与した可能性がある。

③ ワクチン接種区域外
・西都市(283例目)及び日向市(284例目)については、児湯地区の発生場と同じ飼料運搬会社の人・車両が、その発生農場への運搬と同日または連続した日に使用されていたことが確認されていることから、この車両によりウイルスが伝播し、感染した可能性がある。
・西都市内の発生農場間(283例目と289例目)で、それぞれの農場から牛を出荷する際、同一車両が使用された例が確認されていることから、当該運搬車両を介してウイルスが伝播し、感染の原因となった可能性が高い。
・宮崎市内の3農場(285例目、291例目及び292例目)の発生については、当該3農場は同一地区に存在し、農場間の距離が数百メートル程度であることから、飛沫核による近隣伝搬の可能性を否定できない。

(3)農場間の伝播要因について
① 人及び車両による伝播
前述のとおり、口蹄疫の発生が確認される以前に10農場以上にウイルスが侵入していたと推定されるが、これらの感染農場間の伝播は、家畜、たい肥、飼料又はその他の畜産資材の運搬、従業員の移動などに伴う人や車両の動きによって伝播したことが疑われた。また、移動制限実施後においても、飼料や家畜などの運搬に伴う人や車両の動きが感染拡大に関与した可能性が考えられる。

② 近隣農場への伝播
口蹄疫に感染した牛や豚は呼気中や糞尿中に大量のウイルスを排出するため、周辺環境がウイルスで汚染されることが知られている。川南地区を中心とする発生地域では、多くの発生農場で感染動物を殺処分するまでに長い時間を要したため、これらの農場内及びその周辺環境が大量のウイルスにより汚染されていたと考えられる。これらのウイルスが飛沫核として飛散し、また、共通の道路の利用、昆虫や小動物などによる機械的伝播など不特定の経路を介して周辺農場に拡がった可能性が考えられる。

③ 野生偶蹄類動物による伝播の可能性
宮崎県中部の山間部には野生のシカ、カモシカ、イノシシが生息していることが知られている。これまで、これらの野生動物14頭について遺伝子検査を実施した結果(8月19日現在)、全て陰性であった。今回の発生農場の多くは平野部に位置しており、野生動物が感染拡大において重要な役割を担ったとは考えにくい。しかしながら、一部の発生は山間部の農場においても見られており、野生動物の感染状況については更なる調査が必要である。

4 今後の疫学調査の課題
○ 海外からの侵入経路に加え、初期の発生事例から他の農場への伝播経路やバイオセキュリティが高いとされる農場への侵入経路等の解明に係る疫学調査を継続する必要がある。
我が国への口蹄疫ウイルスの侵入経路については、現時点で特定するに至っていないが、引き続き海外からの侵入経路に関する調査を進めることとする。また、初期の発生事例から他の農場への伝播経路や、他の農場に比べてバイオセキュリティが高いとされる農場への伝播経路等の解明に係る疫学調査について、調査を継続し、今後の防疫対応に万全を期すよう、更に検討を進める必要があると考える。

5 今後の防疫対策への提言
○ アジア地域を中心に海外の発生状況を常に把握し、口蹄疫の侵入防止を徹底すること。
○ 踏み込み消毒槽、動力噴霧器並びに専用の作業着及び長靴の未設置など農場レベ
ルでのバイオセキュリティが概して低いことから、今後はその強化が必要であること。
○ 飼料や家畜の運搬などの流通業者を含む農場間を移動する畜産関係者の衛生対策を強化すること。
○ 迅速な伝染病摘発のために、農家をはじめとする畜産関係者に対して口蹄疫などの重要家畜伝染病の周知を図ること。また、獣医師を対象とした教育研修を実施し、伝染病の的確かつ迅速な診断を確保すること。
○ 口蹄疫対策の実効性を点検し、埋却地の確保や簡易診断キットなど迅速な診断体制等必要な体制の整備に努めること。
○ 感染源及び感染経路の徹底的な究明は、防疫措置と併行し、発生直後から詳細な疫学調査を行うこと。
我が国で発生した口蹄疫の原因ウイルスは、今年になってアジア地域で分離されたウイルスと近縁であったことから、これらの地域で流行しているウイルスが何らかの経路で我が国に侵入したものと考えられた。今回の発生に関して、宮崎県、農林水産省、現地調査チーム等によって調査が進められてきたが、これまでのところ口蹄疫が国内へ侵入した経路を特定することはできていない。

しかしながら、アジア地域では口蹄疫が常在している国が多く、また、近年、人と物の国際移動が短時間で可能となり、活発化していることを考えれば、我が国は常に口蹄疫侵入の危険性にさらされていると言っても過言ではない。このため、今回の発生経過を詳細に分析し、侵入要因のみならず感染拡大要因も含めて検討することは、今後の我が国の口蹄疫対策を改善していく上で重要である。これまで調査した結果から考察された、検討を要する点について以下に記載するが、まだ不十分なところもあるため、今後も調査を継続し、更なる検討を進める必要があると考える。

(1)アジア地域を中心に海外の口蹄疫発生状況を常に収集し、リスクに応じた適切な対策を講じることにより、引き続き海外からの侵入防止を徹底する必要がある。

(2)今回の発生農場においては、踏み込み消毒槽、動力噴霧器並びに専用の作業着及び長靴の未設置など概してバイオセキュリティーの低い状況が確認された。口蹄疫に限らず農場内の家畜を伝染病から守るためには、常日頃からの飼養衛生管理を徹底し、専用の長靴や作業着を着用し消毒を徹底するなど疾病の侵入防止対策を強化する必要がある。

(3)家畜、死亡畜、飼料、敷料などに関わる流通関係業者において、農場間移動に際して消毒が不十分であったなど一部衛生対策の不徹底が見られた。農場の飼養者以外の畜産関係者も含め農場間での物や人の移動は家畜伝染病のまん延に重要な役割を果たすことを理解の上、必要な防疫対策を常日頃から実施する必要がある。

(4)一部の発生農場(30農場)においては、高い抗体価を示す個体が認められたことから、結果として異常畜の発見に遅れがあったことが示唆された。口蹄疫の迅速な摘発は最も優れた防疫対策の一つであり、日頃より飼養家畜の健康観察に努めるとともに、異常を確認した際は直ちに獣医師・家畜保健衛生所に通報すべきである。

今回の発生を踏まえ、全国において口蹄疫をはじめとする家畜伝染病に関する知識の普及・啓発を、家畜の飼養者のみならず、広く流通業者や畜産関係者等に図るべきである。また、家畜保健衛生所の職員を含む獣医師を対象とした口蹄疫等に関する教育研修を実施し、家畜伝染病の的確かつ迅速な診断を確保すること。

(5)今回の発生において、埋却場所の確保など迅速な家畜の処分に必要な対応ができなかったことも感染拡大の大きな要因になっていることから、基本的に都道府県や市町村は、地域の実情に応じて迅速な早期殺処分・埋却を実施するための埋却地の確保を調整する必要がある。また、口蹄疫発生時の危機管理対応として、簡易診断キットなど迅速な診断体制の整備や消毒ポイントの設置など発生現場における迅速な防疫活動の実効性について点検し、必要な体制の構築に努める必要がある。

(6)発生当初のまん延防止のための疫学調査については、全発生農場に対して、発生直後に家畜の入出履歴等の調査が行われていた。しかしながら、感染源や感染経路の究明に活用する観点からの詳細な調査については、防疫措置を優先し、防疫措置が終了した後に開始したことから、疫学調査の開始が遅れたことは否めない。

徹底的な感染源及び感染経路の究明に当たっては、発生直後から速やかに疫学調査を開始することが望ましく、今後は防疫措置と併行し、まん延防止に十分配慮しつつ発生後から直ちに詳細な疫学調査を行うべきである。なお、農家においては通常、人や物の出入りに関する記録がほとんど行われておらず、疫学調査を実施する上での問題となったことから、今後そのあり方が検討されることが望ましい。

資料1
海外での発生状況
2010年に入ってからの近隣諸国の発生状況は7月29日現在、以下のとおり。
①香港:O型が2月に豚飼養農家3件で発生
②韓国:A 型が1月から3月までに牛6件、鹿1件で発生。また、O 型が4月から6
月までに牛8件(うち1件は山羊も飼養)、豚4件、猪1件で発生
③台湾:O型が2月及び6月に豚飼養農家で、それぞれ1件発生
④中国:O型及びA 型が各地域で散発
⑤モンゴル:O 型が4月から6月までに3件で発生
⑥ロシア:O 型が7月に1件で発生

                                    (「中間整理」終了)

原文はこちらからご覧ください。http://www.maff.go.jp/j/press/syouan/douei/pdf/100825_1-01.pdf

付録

口蹄疫疫学調査チーム第4回検討会 名簿

 

【委員】

明石博臣 (国)東京大学大学院農学生命科学研究科教授

黒木昭浩 宮崎県延岡家畜保健衛生所衛生課主幹

末吉益雄 (国)宮崎県農学部獣医学科准教授

○ 津田知幸 (独)農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所企画管理部長

筒井俊之 (独)農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所疫学研究チーム長

森田哲夫 (国)宮崎大学農学部畜産草地科学科准教授

 

【オブザーバー】

呉 克昌  (有)バリューファーム・コンサルティング

小 泉透  (独)森林総合研究所野生動物領域長

<口蹄疫疫学調査チーム検討会  開催実績>
   第1回検討会:4月29日
   第2回検討会:6月7日
   第3回検討会:6月24日
   第4回検討会:7月23日
   第5回検討会(第15回牛豚等疾病小委員会との合同開催):8月24日

消費・安全局動物衛生課
担当者:伏見、嶋﨑
代表:03-3502-8111(内線4582)
ダイヤルイン:03-3502-8292
FAX:03-3502-3385

http://www.maff.go.jp/j/press/syouan/douei/100825_1.html

2010年8月27日 (金)

宮崎口蹄疫事件 その84  ウイルス汚染された可能性のある堆肥の処理について再考する

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小沢氏が出馬するそうです。農水大臣の山田氏も、現地対策本部(副大臣)の篠原氏も小沢氏に近い立場ですから、なにかの影響はでるかもしれません。いずれにせよ、山田氏は口蹄疫対策の継続性から見ても再任でしょうが。

県の、口蹄疫にウイルス汚染された可能性のある堆肥野処分方法で「りぼん」様のご意見を再度承って再考しました。貴重な情報とご意見を提供いただいた「りぼん」様に感謝します。

なるほど、7月25日の時点で県は発症農家21軒、ワクチン接種農家 1,018軒。合計1,239軒で60℃達成が不可能と知っていて、8月3日の一斉切り返しを命じた・・・か。

そこで、前々回うっかり見落としていたファイルをひとつアップします。
宮崎県が
家畜排せつ物の発酵消毒処理についてで事細かに図入りで解説をしたものです。このファイルの中に「りぼん」様もご指摘の「夏場であれば、40日間で1万分の1以下に低下」という部分があります。皆様もなかなか興味深い文書なので一度ご覧ください。http://www.pref.miyazaki.lg.jp/parts/000144602.pdf

この中で「20℃で90%が不活化する」とも記しています。言い換えれば、20℃という発酵前の温度では、10%が残存するということになります。

そしてもうひとつよく県の考えを理解できないのが、下段の「たい肥のリスク」というフロー図です。切り返し・発酵⇒運搬の工程の途中に「畜舎内のウイルスが付着?」という吹き出しがあります。

え?宮崎県はこの切り返しの過程で畜舎内のウイルスが付着する可能性があることを知っていてやらせているの!?

もし仮に、堆肥中にウイルスが残存していた場合ですが、それは切り返しのたびに周辺に散乱していきます。常識です。作業に使うタイヤシャボはバケットで切り返すたびに付近に敷料の藁をまき散らすからです。これにウイルスが付着していて、しかも畜舎内部にウイルスが残存していた場合、家畜の体内を媒介とせずに、一種の相乗効果のようなものが生まれることもありえそうです。

もう一カ所運搬⇒施肥のところにも、「運搬中にウイルスが付着?」という吹き出しもついています。なにかオイオイといったかんじですが、これは運搬車両のウイルス残存を考慮しているのでしょうか。

私の勘違いかもしれませんが、県は2カ所の堆肥処分の工程で、「ウイルスが付着する」可能性をあらかじめ認めていることになります

また、この県のファイルの温度帯の図表にも記されているように、61℃以上ならば30秒で瞬殺されてしまいますが、49℃では1時間殺菌されません。

次に、県は60℃で処理を命じた時にどのようにその温度を測定することを考えたのかです。これもこのファイルに載っています。「家畜防疫員が確認する」とあります。写真では堆肥表層部を計っているようです。

通常私たち農家がする場合には、堆肥表面と内部を棒温度計(30㎝くらいの棒状の温度計)を数カ所に差し込んで計測します。これは堆肥と深部がそうな温度差があるからです。深部は発酵が盛んですが、表層部は発酵が止まって温度が下がっています。

この県の写真は模擬的なものだとは思いますが、この計測方法ですと正確には測定できません。「りぼん」様の懸念する「60℃もあれば40℃のところもあるのではないか」という危惧はありえることです。

県には当初、ふたつの選択肢があったと思います。つまり、ひとつは汚染可能性がある堆肥を汚染物質として除去するという考え方です。しかし、これは宮崎県自身が認めるように埋設場所がないために特例とされました。

いまひとつの道もふたつあって、61℃以上で処理するか、あるいはそれ以下の40~50℃温度帯で最低1~7時間発酵熱をかけ続ける方法です。この選択ができたにもかかわらず、県はより安全ではあるが、現実化が困難な前者を選んだわけです。

しかし、現実にはやってみるとご承知の結果で約半分しか60℃以上にあがらなかったわけです。これが7月25日の時点です。

目標温度に上がらないとわかったにも関わらず県はこの60℃以上方針を変えないで規定方針(7月16日発布)どおりに8月3日から堆肥一斉切り返しを開始します。それについてはこちらをご覧ください。汚染物品(たい肥など)処理に関するヘルプデスクの設置についてhttp://www.pref.miyazaki.lg.jp/parts/000143644.pdf

う~ん、確かに県の対応は理解に苦しみますねぇ。7月25日の時点でスパッと60℃方針を捨てて、49℃方針にするべきでした。結果論ですが、8月27日の終息宣言という日程目標を後にズラしてしまうても、当初にはありえたのです。

官僚機構の融通性のなさと言ってしまえば一言ですが、規定方針が不可能とわかった時点で切り換えれば、傷は浅かったのです。ほぼ1カ月間丸々ありますからね。

しかし、それを終息宣言日程の間際の8月下旬になって49℃への戦術ダウンをあたふたとしたわけですから、やはり県の判断の後手後手は指摘されてもいたしかたがないところでしょう。

県にはもっとも望ましい埋却方針が物理的にとれなっかたこと、堆肥が通常なら問題なく上がるはずの61℃以上に石灰の大量投入による強アルカリ化のためになかなか達しなかったこと、という気の毒な面があります。

しかし一方、県はこの口蹄疫事件で求められた「判断の迅速性」という教訓をまだ活かしきっていないような気がします。

■写真 村の床屋。扉の上には藤がからまっていて、花の季節には薄紫の藤の房がたわわに店頭を飾ります。

2010年8月26日 (木)

宮崎口蹄疫事件 その82  終結宣言にあたって  宮崎で起きた事件の真相は宮崎県民が簡明するしかない

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終結宣言が間近に迫りました。まさに待ち望んだ日です。他県の私たちですら祝杯を上げたい日が来ました。現地の皆様の喜びはいかばかりでしょうか。心からおめでとうを申し述べます。

しかし一方この宮崎口蹄疫事件は、早くも迷宮入りの様相をみせています。これだけの被害が出て、これだけ沢山の涙と命が流れました。しかし何もわかっていないことばかりです。

最大の迷宮は、いったいどこから口蹄疫ウイルスが宮崎に侵入したのかです。突如宮崎の地に湧きだしたはずもないのに、未だわかりません。

いやそもそも、どうして第6例が初発とされたのでしょうか?疫学的にそれ以上に遡れなかったからだけでしょうか。

ならばどうしてその初発への侵入経路を特定できないのでしょうか。第6例は曲がりくねった山道を辿った奥にあります。雑誌で紹介されたとはいえ、観光客がひんぱんに出入りするような場所ではありません。

まして外国人ならばなおのことです。外国人といってもウイルス株から特定できます。中国、香港、韓国のいずれかしかないからです。

別に警察でなくとも、第6例へのこの3カ国の渡航記録を調べればわかるはずです。あるいは逆に第6例の人が日本から行ったかです。これもパスポートを見せてもらえればいいだけです。

器材の輸入や輸入飼料用ワラならばもっと簡単にわかります。輸入業者を調べて、同じものを輸入した場所で、発生したかどうかを調べればその可能性は消えます。現実にしていないので、器材や藁ということはありえません。

なぜこんな初歩の初歩と言える「捜査」というのもおこがましいようなことができないでいるのでしょうか?

そして第7例の大規模農場にはどこから入り、どのような経路で持ち出されて拡散していったのでしょうか?

第10例の県畜産試験場も同様です。このような感染ハブがを果たしてしまった農場の真相究明は未だ手つかずです。

農水省疫学調査チームの報告書は、新たな情報が皆無なばかりか、「可能性がある」ずくめでした。疫学の世界は知りませんが、この世の中では「可能性がある」とは「ない」と限りなく同一です。街の興信所に依頼してももっとましなものを作ります。

県知事は解明を約束しました。ブログ記事を見て大いに期待したいと思います。宮崎で起きた事件は宮崎県民自身が解決せねばならないからです。

宮崎県民がみずからの手でこの不条理を解きあかしていかねば誰がやりますか?他県の人間がしますか?それはできません。私たちは手助けするだけのしょせん応援団にすぎないからです。

それはほんとうに苦しんで、苦しんで、血の涙を流した人たちがやるべきです。今でも死んでいった、いや正確に書きましょう、殺されていった無辜の家畜にお線香を手向ける人たちこそがすべきです。牛にわが子のように名をつける人たちがすべきです。

今なお残された汚染堆肥の山と格闘している人たちがすべきです。空の畜舎を毎朝見ねばならない被災者がすべきです。入金のない帳簿を毎月見つめねばならない農家がすべきです。

他県に行けばウイルスを持って来たように扱われ、公共施設を使うことも許されず、行事も開けず、高校野球に出場したわが子の応援にも行けない哀しさと屈辱を呑んだ宮崎県民自身がその手で解明すべきです。

「なぜなんだ、どうして私たちはこんな仕打ちを受けねばならないのだ!」と一度でも胸の中で叫んだ人たちがすべきです。

世の中には水に流していいことと悪いことがあります。この宮崎口蹄疫事件は絶対に水に流してはならない事件のはずです。他県の応援団のひとりとして、心から宮崎の再建を祈ったひとりとしてお願いします。終結宣言の日は、あらたな真相究明の第一日としましょう。

2010年8月25日 (水)

宮崎口蹄疫事件 その82  堆肥処分温度の引き下げ問題について

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堆肥処分温度に関してコメント欄で議論が盛り上がっています。宮崎県が温度が61°から49°に基準緩和された「裏事情」が 公開されています。

糞尿の堆肥化の設定発酵温度基準が、「科学的には60度未満でも一定時間経過すれば無害化できるデータを持っていながら、
(1)55度以上で2分間維持(2)49度以上で1時間維持で、大丈夫と言う情報を、動物衛生研究所から得ていた」と言う事実を知りながら、農家の「気の弛み」を警戒して農家にあえてそのことを知らせなかった、ということを指摘していらっしゃいます。

ではこれに関してのデータを見てみましょう。
まずFAO(2002年4月)の「FMD」からです。

物理的および化学的処理に対する抵抗性

温度: 冷蔵と凍結によって保存され、50°C以上の温度で徐々に不活化される。

pH: pH 6.0未満またはpH9.0以上で不活化される。

消毒剤: 水酸化ナトリウム(2%)、炭酸ナトリウム(4%)、クエン酸(0.2%)によって不活化される。ヨード消毒剤、4級アンモニウム塩、次亜塩素酸塩、フェノールに抵抗性であり、とくに有機物存在下では無効。

生存: 中性のリンパ節、骨髄で生残し、pH 6.0未満の死体硬直後の筋肉では死滅する。飼料や環境では1か月まで生残可能だが、温度とpH条件に左右される

続いて動物衛生研究所九州支所のデーターでは、以下です。

堆肥(牛)

いろいろな状態が考えられる

液状、12-22

液状(凍結)、0℃以下

1週

24週

6週

180日

 

Moderate(やや危険)

High

High

High

http://www.sat.affrc.go.jp/sishocho/Ogawa/ekigaku/shiryou.htm

また、英国の文献PHYSICAL SUSCEPTIBILITY with literature reports for Foot and Mouth Disease Virusを岡本嘉六先生が訳出していらっしゃいますので転載いたします。(*赤字青字は原文ママ)

物理的抵抗性に関する口蹄疫ウイルスの文献報告

温度

  低温に対して比較的抵抗性:低温条件では最も長く生存

  生肉中では長期間生存でき、とくに、急速凍結された場合に肉中で酸の酸性が行われないため長期に及ぶ。

  温度に対する抵抗性はウイルス株によって異なる

  熱に対しては比較的感受性

  最適なpH (7.2 - 7.6)条件で口蹄疫ウイルスは、4°C1年間、22°C810週間37°C10日間、56°C30分未満、生存することが記録されている。

  61 °C3秒、55 °C20秒、49 °C1時間43 °C7時間、37 °C21時間、20 °C11日間4 °C18週間の条件があれば、ウイルスの90%が不活化する。

  大半のウイルス株を殺滅するのに、56 °C30分で十分である。

  懸濁液では、37°Cで最長10日間、22°C 810週間4°C1年以上、凍結温度以下では「ほぼ無期限」に感染性を失わない。

  ウイルスの一部は、55 °C および 61 °Cの加熱による不活化が期待される時間では、生残することがある。

  ある場合には、予想外に加熱後も感染性が残ることがあり、たとえば、80°C6時間。この場合でも、引き続き85°C6時間加熱後には感染性がみられなかった。

  組織外のウイルスは煮沸によって殺滅される。高圧滅菌は、殺菌目的で使用する場合により効果的である。

  溶液中の口蹄疫ウイルスが紙やカバー・スリップなどの表面で乾燥した場合、懸濁液中のタンパクの濃縮によって保護され、懸濁液中のウイルスが殺滅される温度では生き残ることがある。懸濁液中のウイルスは、37 °C7日間、50 °C2日間、80 °C3.75分間処理することによって感染性がなくなる(細胞培養液の接種による)。カバー・スリップ上で風乾させたウイルス懸濁液は、力価が乾燥後に低くなるが、その程度は血清型によって異なり、A型はO型、C型、 Asia-1型より安定していたが、37 °C14日間、50 °C2日間、80 °C1時間の加熱では、4血清型の内3血清型が完全には不活化されなかった。

  粘液や糞便によって保護された、ならびに、強い日差しが遮られた場合に、口蹄疫ウイルスは通常の気温では比較的熱に安定である。

  感染した乳腺からウイルスが排出される際に乳ミセルと脂肪滴に包まれるために、乳中のウイルスは加熱に対して保護され、ウイルスの一部は72°C15秒間の殺菌、さらには、88°C50秒間の加熱後にも生残していた。

  連続殺菌における米国FDA の乳殺菌法(Pasteurized Milk Ordinance)に指定された72°C15秒間の高温殺菌(HTST)は、スキムミルクや全乳中で1000000分の1までウイルス生残量を減らすことが細胞培養法によって分かったが、去勢牛への接種試験において残ったウイルスの感染性が確認された。乳の加熱時間を36秒に延長、または、80 °C95 °Cに温度を上げたが、全乳を去勢牛に接種すると感染性のあるウイルスが完全には殺滅されていないことが判明した。

私は処分温度を県が61°から指示したことにはなんの不思議も感じていません。畜産農家の心理をお考えください。畜産農家が40°~50°発酵でよしとされた場合、61°以上を選択することはありえません。

だってたいへんですからね。理由はそれだけです。仮に61°で3秒とわかっていても、技術的に困難だということも含めてですがやらないでしょう。事実61°以上処理では19日までに達成率22%というヒサンな結果になりました。

農家は経験から予測できるので、大半は低温発酵を選択します。現在の宮崎被災農家には、この酷暑の中でそのていどの残された余力はないのです。

では一方、それが防疫上考えて万全かといえば、動物衛生研究所九州支社が言うように「堆肥中では色々な条件が考えられる」わけで、はなはだ不安定、かつ、不確実です。研究所がこう言う以上に、農家の現場ほど千差万別なものはこの世の中に少ないほどです。

ならば県行政が61°以上を指示するのはあたりまえで、清浄国復帰への道筋で万が一にでも農場現場こウイルスが残存すれば、また新たな感染の火種となるのでそのような指示を出したと思われます。これに関しては政治的な思惑はないと思います。

ご指摘のように27日の宮崎県「終息宣言」を61°処理では達成不可能とみたということとの関わりもあるとは思いますが、初めから畜産農家に「知っていて教えない」ようないわば「たぶらかす」意図があったとは私には思えません。

整理すれば、県はたしかに40°~50°の温度帯で発酵処理することで、ウイルスが死滅することはNZの研究報告や宮崎大の後藤義孝先生の研究を見て知っていました。
しかし、40~50発酵では条件次第で時間がかかりすぎるということ、また不確実性が高いので、ウイルス処理終了時期を読めないということで61°以上の処理を命じました。

現実に農家でやってみると、想定外の出来事が起きました。大量に混入した石灰によってphが強アルカリに変化しており、微生物が死滅したために61°以上の発酵温度に達することが難しかったのです。

そこで農水省とも話し合って、40°~50°の処理温度帯の上限温度49°以上に設定し直したということでないでしょうか。

県が当初高い温度設定を命じたのは防疫上当然の考え方であり、それが現場で難しかった以上その変更をするのもまた当然の話です。

とまぁこれだけの話と言えばこれだけで、特に県に政治的な裏があってのことではない気がしますが、いかがでしょうか。

■写真 アマガエルは暑さと雨の少なさでめっきり減りました。朝露を狙ってまったりとした時を過ごしにきます。

2010年8月24日 (火)

宮崎口蹄疫事件 その81  防疫作戦は国に一元化されるべきだ

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まさに酷暑です。わが県でもかなりの数の家畜が死んでいます。特に出荷を目前とした体重の乗り切ったものから死んでいくので、農家にとって打撃は深刻です。わが農場も成績がガタガタになりました。

しかし、このように嘆く家畜がいるのは幸福であると自分に言い聞かせています。主を失った空の畜舎の堆肥処理ほどつらい仕事はないはずですから。

さて、私は何度も言って恐縮なのですが、5年前に茨城トリインフルエンザの被災地にいました。ですから、家畜防疫員、つまり家保の獣医師がどのように現実に移動制限区域の線を引いていくのかを実際に目の当たりにしています。

私の農場の聞き取りの内容は、たしかこんなものでした。農場の出入りの記録、出入り関係車両、私がでかけた外部の同業者との接触、渡航についてや外国人労働者にもふれられていたような気がします。今思うと、遡及調査をされていたんですね。

その後に、血清検査をされ、スワブや肛門から検体を採っていきました。後日にも何度か採取されました。

このような発生動向調査(サーベイランス)の上に立って、農家の位置関係や地形、行政区までを配慮して、精密な線を引いていきました。後にそれに携わった獣医師が、「いいかげんな線は引けないよ。我々の線ひとつで農家の運命を左右するんだから」と言っていたことを思い出します。

私が宮崎県の防疫体制にかすかな違和感を持ち出したのは、発生地点からコンパスでぐるりと半径10キロの輪を描くことを見てからでした。当初これは新聞報道だから模式化されているのだろうくらいに思っていました。ところがそうではありませんでした。

なんとあれだけ強力な感染力を持つ口蹄疫に対して、発生動向調査はほとんどなされていなかったのです。ですからどこまで感染が進んでいるのか、どこに飛び火しているのか、いないのか、侵入ルートはどこか、という防疫戦略を策定するイロハのイである情報収集と情勢分析が欠落したまま感染が深刻化していったようなのです。

この信じられない状況は、今回の口蹄疫の感染力が極めて強力であることが前提ですが、それだけにとどまらず家畜防疫員(家保獣医師)がすべて殺処分に投入されてしまったことにありました。

それがなぜかということは、このブログの読者にはよくお分かりの家伝法第16条の解釈にありました。そしてこの条文を「獣医師のみが処分できる」とする解釈は、別に宮崎県独自の見解ではなく、すべての都道府県共通の理解であったことが後に解ります。このことについては先日ふれましたので、ここまでとしましょう。

ところで、もうひとつの感染拡大の原因は、初動における消毒ポイントの不足でした。なんと県が設置したのはわずか4カ所で、しかも家畜専用車両のみが対象でした。夜間は無制限でした。

ところが感染は幹線沿いに拡大を続けていきます。都城市が感染を1カ所にくい止められたのは、市が4月22日から独自の消毒ポイントを9カ所、市内で感染を見たあとには更に4カ所、対象は全車両としたことにあります。有名なえびの市も同様の徹底した消毒と、車両制限をかけています。

これは自治体が管理する県道や市道のみならず、国道でも同様な措置がとられるべきでした。ところが県東部でもっとも交通量が多い川南町を貫く国道10号線は、GW中という感染まっさかりにひとつの消毒ポイントもなく、なんの車両制限も加えられていませんでした。信じがたいことです。

家伝法第15条には県の権限がこのように印されています。
家伝法第15条 (通行の制限または遮断)
都道府県知事または市町村長は、家畜伝染病の蔓延を防止するために緊急の必要があるときは、政令で決める手続きに従い、72時間を超えない範囲において期間を定め、(略)口蹄疫(略)の患畜又は疑似患畜の現在の場所(略)、(または汚染した恐れのある度所を含む)とその他の場所との通行を制限し、または遮断できる

同様に「口蹄疫に関する特定家畜伝染病防疫指針」にも通行の制限が記されています。この中には以下のような内容も含まれています。
家畜伝染病防疫指針 
ウ 通勤、通学、医療、生活必需品確保、郵便等のための通行は(略)、適当な消毒を行った上でを除き、不要不急の通行を禁止する

注意してほしいのは、この家伝法条文や防疫指針の移動制限条項には、国道、県道の区別がないことです。つまり、自治体の判断ひとつで、国道まで含めた一般車両を一定期間(72時間以内)の車両通行の遮断、移動制限が可能なのです。あくまで条文上は、ですが。

では、現実に地方自治体が国道10号線の遮断まで含んだ移動制限が出来るのかといえば、出来ません。これは国交省の管轄だからです。今回、前原大臣はまったくわれ関せずのようですが、いかがなものでしょうか。

前原さんはさておき、殺処分と同様に家伝法に書かれている地方自治体の諸権限は、現実には行使出来ません。これも宮崎県だけのことではなく、全国共通です。

これが私の言っている防疫の「主語」の二重性です。ここで勘違いしていただきたくないのですが、私はこう言ったからといって「主語」を地方自治体が持つべきだと主張しているわけではありません。また、先日紹介しました地方自治法の存在が問題だと思っているわけでもありません。まして地方分権の強化を主張しているのでもありません。

失礼ながら、鹿児島に6カ所、熊本県に5カ所ある家保がわずか3カ所しかない宮崎県には不可能です。

むしろ真逆です。今の疲弊した財政構造が宿痾となった地方自治体にはそのような余力はありません。口蹄疫のような広域にまたがる悪性海外伝染病を、地方自治体が独力で制圧することは不可能に等しいことです。

私は初動の責任を一元化して国が持つべきであると考えています。したがって、初動制圧数十時間以内の達成を可能とするための諸準備、備蓄、訓練、施設、財政、人員確保などは、国が主管し、責任を持つべきだと思います。

そしてこの緊急事態の司令官たる位置には、獣医師が立つべきであると思います。もちろん形式的な最終責任者は農水大臣と首相になりますが、防疫作戦のトップにはFAOの言う「首席防疫官」(CVO)が座るべきです

さもないと、本来は防疫の専門家がなすべき判断を、まったくの素人である政治家が、みずからの党利党略で左右してしまうことになります。「第2の赤松」はもう二度と見たくありません。

コメントにもありました「家畜防疫庁」のような専門の国家防疫機関が創設されれば非常に頼もしいことです。そのためにも、どこで過ったのかの原因を根気よく探っていく努力を続けなければなりません。

■写真 炎天下の中実り始めた石榴(ざくろ)。 

2010年8月23日 (月)

宮崎口蹄疫事件 その80   なぜ宮崎の処理堆肥が温度が上がらないのか不思議です

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「みやざき甲斐」さんの元気な声が聞けて嬉しい限りです。糞尿の堆肥処理でご苦労されているご様子です。

「西日本新聞」8月21日にも記事があります。やや長いですが全文を引用します。

宮崎県の家畜伝染病「口蹄疫(こうていえき)」で、終息への最後のハードルとなる、処分家畜のふん尿の堆肥(たいひ)化処理が難航している。国と県はウイルスを死滅させるための基準を「発酵温度60度以上」としたが、水分調整などがうまくいかず、60度に届かない農場が続出しているためだ。27日に予定されている終息宣言を視野に基準緩和を求める声も上がり、東国原英夫知事は難しい判断を迫られている。

 ワクチン接種で約200頭を処分した川南町の繁殖牛農場。空っぽのままの畜舎で、経営者の男性(55)は堆肥をかき混ぜて発酵を促す「切り返し」を3回も行った。

 この農場の繁殖牛のえさはカロリーの低い草。肥育牛に与える穀物と比べてふん尿の発酵温度を上げにくいため、もみ殻や酒かすを混ぜて調整したが、55度が限界だった。約600平方メートルの堆肥舎は高さ2・5メートルほどまで埋まり、切り返しの作業場所にも不足する。「ウイルスが生きていれば牛の犠牲が無駄になる。ぎりぎりまで頑張りたいが…」と不安をのぞかせた。

 町農林水産課のまとめでは、60度以上を達成した対象農場は牛と豚を合わせて約22%(19日現在)にとどまる。民主党の口蹄疫対策ワーキングチームが関係自治体に17日行ったヒアリングでも、「資材も人手も足りず、27日までの完了は厳しい」との訴えが相次いだ。

   ■   ■

 県が「60度以上」にこだわる理由はこうだ。農水省が基礎資料とするニュージーランドの研究報告では、口蹄疫ウイルスは常温でも時間の経過とともに不活化(死滅)するが、61度なら数分間で感染力を失うためだ。

 堆肥化は、見えないウイルスとの戦いの仕上げ。基準緩和の要望がある一方で、「少しでも安全な状態で飼育を再開したい」(川南町の繁殖牛農家女性)と、処理徹底を求める声も少なくない。

 県内では「27日」を前提に、月末から観光イベントや復興記念行事がめじろ押し。終息宣言がずれ込めば、県とJAグループの生産者総決起大会(28日)、家畜競り市再開(29日から)などへの影響は必至だ。

   ■   ■

 東国原知事は、22日前後に対応を決める考えだが、県畜産課は「状況を考えると27日は最優先課題。予定通りやるしかない」。このため農場を巡回する職員を増加、作業の支援を強化している。

 宮崎大農学部の後藤義孝教授(家畜微生物学)は「60度はウイルスの感染力を確実になくせる温度。実際は40-50度でも時間をかけて発酵させればクリアできるはずだが、保証するデータは乏しい」と指摘する。

 このため、感染拡大防止を目的に国内では動物衛生研究所(茨城県つくば市)以外に口蹄疫研究ができない現状に疑問を投げ掛け、「国は保有するデータを、感染力をなくす温度の研究に生かすべきだ」と訴えている。

=2010/08/21付 西日本新聞朝刊=

正直言って、60度が宮崎大学後藤先生もおっしゃる口蹄疫ウイルス死滅温度であることはわかりますが、なぜ60度に上がらないで苦労しているのか理解に苦しみます。

私たちの堆肥センターで今まで温度が60度以上でなかった経験はありません。牛堆肥は敷料が大量にあるので、発酵が遅れるのはありそうなことです。しかし、水分をやや多めにやり、切り返しをひんぱんにする、エアレーションを強めにかける、あるいは発酵菌を散布するなどの調整で解決できるはずだと思うのですが。

*追記と「りぼん」様のコメントを参照のこと。

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上は私の所属する有機農業団体の堆肥センターの写真ですが、堆肥温度60度以上は切り返しにより最低2回以上おこなっています。これはホウセン菌、枯草菌などの有用微生物を活性化させ支配させるるために、まず害となる菌を死滅させる必要があるからです。

ウイスルは強力な伝染性を持っていますが、生存できる条件が限られています。phを変化させるか、温度を上げてやればいいのです。強アルカリにするか、60度以上にすればいいわけです。

だから酢の散布や、品温の加熱で防ぐことができます。もちろん口蹄疫ウイルスも60度以上で死滅します。やっかいだったのは高温高圧下で生存できるBSEです。「北海道」様はお詳しいですよね。

さて、初期の堆肥においてはさまざまな微生物や、ときにはウイルス類がモーレツに跋扈している状態です。戦国状態と言ってもいいでしょう。微生物は堆肥内部の豊富な栄養と水分により、互いにコロニーを作り、食い合いをします。実に不安定な微生物環境だといえます。

この状態を安定させて、人間にとって有効な発酵に持ち込むために必要なことが温度管理と水分調整です。発酵をを均一に進めるために、堆肥温度が内部と外部表面で均一になるようにします。そのために天地返し(切り返し)をバケット車(写真右の車両)で行います。

同時に、この写真では見えませんが、床に設置したエアレーション装置から空気を強制的に送り込んで微生物を活性化しています。このエアレーションは初期に活躍する好気性菌を活発化するためで、60度を数回上昇させた後には停止します。めったにしませんが、エアレーションのチューブを堆肥内部に挿入する場合もあります。

安定した状態になれば、温度は急速に下がっていき、芳香ともいえる香りが立ち込めます。出来不出来は、この香りで判断するのがいちばんです。失敗した堆肥はえてしてグチッグチョで、なんとも言えぬ悪臭を発しますので、容易に判ります。「発酵と腐敗は紙一重」とは、私の堆肥の師匠のお言葉です。

私たちはこの方法で約4カ月以上かけて堆肥を作ります。今話題となっている石灰類にはカキガラを使用しています。これは分解が遅く、カルシウム分のみならず各種のミネラルを供給できるからです。

動物性チッソとしては平飼養鶏の鶏糞を使っています。動物性チッソがなくとも堆肥は出来ますが、非常にチッソ分が低いものとなります。

ところで生石灰ですが、私にもその禁止の理由がのみこめません。私は堆肥作りに使ったことはありませんが、たぶん「りぼん」様もおっしゃるようにかなりの高温になるはずです。大量に使用している場合、堆肥のphがアルカリに傾きすぎているので、phを測定しながら修正をかける必要がでるでしょう。

「松井」様もおっしゃるように生石灰といっても色々の品位がありますので、私にもよくわかりません。

また、ひんぱんに堆肥の品温とph値を表面と内部(特に内部)で測定し、グラフに記していかねばなりません。特に大量の堆肥を作る場合や、新しい素材を使った場合、あるいは馴れない人が作る場合にはこれを怠るとひどいことになります。

宮崎県ではこのほかに、ウイルス測定も定期的にやるべきでしょう。ウイルスが残っていては話にならないので、とうぜん家保がやっていると思いますが。

宮崎現地の皆様、酷暑の中大変な作業が続きますが、お体をご自愛下さい。

■追記 「りぼん」様よりコメントで、温度が上がらないのは消毒用石灰が大量に入っているために強アルカリになっているためとご教示いただきました。なるほどph8~9ではきついな。生石灰についても同感です。いつもありがとうございました。

■写真 ヒルガオとハチ。ハチもばてているようです。

2010年8月22日 (日)

宮崎口蹄疫事件 その79   ふたつある防疫の「主語」

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「主語}をしっかりとしなければならないと思っています。

「主語」とは、「誰が」、「何をする」のかで最初に問われる問題です。ここが曖昧になっていると、必ず混乱が生じてしまいます。昨日みた家伝法第5条など、この「主語」がよくわからない法律的悪文となっています。

もう一回引用してみましょう。

家伝法第5条 都道府県知事は農林水産省令の定めるところにより、家畜又はその死体の所有者に対し、家畜又はその死体について、家畜伝染病又は届出伝染病の発生を予防し、又はその発生を予察するため必要があるときは、その発生の状況及び動向を把握するための家畜防疫員の検査を受けるべき旨を命ずることができる。

この法律文言の主語は明らかに「都道府県知事」です。しかし、この主語に対して覆い被さるようにして、「農林水産省令の定めるところにより」という文言が入ってきます。

書き直すとこのようになります。「農林水産省令の定めるところにより、都道府県知事は」、何々を命じることができるということになります。

要するに、「都道府県知事」は「農林水産省令」に従って行政執行しなさいということです。これは地方自治法に規定されています。

地方自治法第十一章 国と普通地方公共団体との関係及び普通地方公共団体相互間の関係

第二百四十五条  本章において「普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与」とは、普通地方公共団体の事務の処理に関し、国の行政機関又は都道府県の機関が行う次に掲げる行為をいう。 

ニ 同意

ホ 許可、認可又は承認

ヘ 指示

ト 代執行

この地方自治法第245条のトこそが、民間種牛問題が宮崎県とこじれた時に山田大臣がチラつかせた伝家の宝刀の「代執行」でした。

その伝家の宝刀を抜く前に、国が自治体に対して「関与できる行為」がこの第241条です。同意、許可、承認、指示です。

私が難渋なこの法律を引用したのは、「解りにくさ」を知って頂きたいからです。私は、この国と県の二重底のような構造が、口蹄疫の初動という緊急事態に混乱を招き、感染拡大のピークであった5月中旬に畜産事業団の種牛問題を引き起こし、それだけにとどまらず、制限解除の局面で再度民間種牛問題として再燃した遠因だと思っています。

日本の現行の口蹄疫防疫体制は、「主語」が都道府県知事にあるかのように見えながら、実は農水省にお伺いをたて、同意をもらい、許可を得て、承認してもらい、意見が別れる場合には国が地方自治体に代わって代執行するシステムなのです。

家伝法の第16条の文言のみを見ると、家畜所有者の義務ですから、それに処分を命じる家畜防疫員(家保獣医師)の責任者たる県知事に最終的な権限があるようにみえます。

しかし、農林水産省からすれば、自治体に対して地方自治法を根拠にして、指示を仰ぐことを要求し、イヤダと言い張るならば代執行をかけることすら可能です。

まるでカメレオンです。どうとでも読めます。だから、民間種牛問題の時に知事は前者を根拠にし、農水大臣は後者に依拠しました。

たぶん法律論争に及んだら農水大臣に軍配が上がったでしょう。しかし、勝ち負けではなく、こんな巨大伝染病が燃え盛っている時に、言い換えれば、寸刻を争って対策をたてねばならない時期に、その指揮命令系統が二重に存在すること、それ自体が大きな問題ではないでしょうか。

解釈次第ではどちらでも読めるという「主語」不在の法律ほど、非常事態にふさわしくないものはありません

2010年8月21日 (土)

宮崎口蹄疫事件 その78 殺処分を委託業務解釈することから見えてきたもの

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今回の宮崎口蹄疫事件がどうしてこんな感染爆発をしてしまったのか、を知る上でいくつかの原因があります。

今日はこの初動制圧の失敗の原因のひとつにあげられている殺処分の遅れをみてみましょう。この間、非常に専門的知見がたくさん寄せられてとても勉強になりました。このブログは私が教えてもらうためにあるようなもんですな。

この処分遅滞問題は埋却地の絶対的不足と相まって、感染拡大の引き金になってしまいました。

患畜として処分を決めた家畜が、処分仕切れないまま数万頭という単位で滞留し、そこから膨大なウイルスが放散されて、地域の汚染濃度を濃くしていき、いっそう感染が加速していくという悪循環でした。

その上、先だってふれたように、5月下旬以降はその処分しきれない待機患畜の上にワクチンを打った後の処分予定16万頭が更に積み重なるという二重の泥沼を引き起こしてしまいました。

この原因のひとつに、家畜伝染予防法(家伝法)の読み間違いによる家保獣医師を殺処分にのみ動員したことが上げられます。家伝法16条にはこうあります。

第16条 家畜の所有者は、家畜防疫員の指示に従い、直ちに当該の家畜を殺さねばならない
一、(略)口蹄疫
二、(略)口蹄疫の(略)疑似患畜
三、 家畜防疫員は、(略)緊急の必要がある時は、同項の指示に代えて、自らこれを殺すことができる。

この家伝法第16条は読み間違える余地なく、「処分は家畜所有者の義務だ」と解釈できます。ですから家畜所有者が業務委託すれば、委託作業は誰でも請け負うことが可能です。獣医師免許を所持することなど要件のどこにも書かれていないからです。

となれば、あくまでも法律解釈上は、獣医師法に基づいて家畜防疫員(家保獣医師)の診断と指示を受け、家畜所有者から受託されさえすれば、家保の獣医師でなくとも、受精師でも、いや建設作業員でも、自衛隊員でも可能だということになります。

もちろん現実には、大型家畜である牛、豚を暴れさせないようにして、苦しまさせずに静かに処分することは一定の扱った経験と訓練が必要です。

これはやってみればすぐにわかります。この私などは研修生時代、何度牛の左足後ろ蹴りを食らってアバラにヒビを入れられたことか。はたまた哀れ、発情した種雄豚の下敷きになって牙にかかって死ぬのかと観念したことも幾度か。雄豚に殺されていたら、親が情けなくて泣いただろうな(苦笑)。まさに豚児。

家保の獣医師といえど、新米の医師など大型家畜には触ったことが少ししかありません。今どき大型家畜を扱う獣医師を志願する若者は希少価値で、だいたいは犬猫ペットコースに行ってしまうそうです。

それを家保の獣医師のみに処分をさせたのですから、処分に著しい遅滞が生じて当然でした。また全国の家保から緊急動員された獣医師やボランティアの獣医師も同様に処分に駆り出されました。

家保獣医師は、獣医師にしか出来ない発生農場からの感染拡大を調べる発生動向調査や、どこから侵入したのかを調べる遡及調査などに専念すべきでした。

処分方法は、その状況と条件に応じて、鎮静剤を与えて(獣医師免許必要)からの静脈注射でも、電殺でもよし、今回もとられたようにトラックで集めて、ブルーシートを被せて包み込み、催眠性毒ガスを注入することもできるでしょう。

いずれにせよ、むごいことです。人間の都合で殺される家畜に対してはとうぜんのこととして、殺す側の人たちも敬意をもって遇せられる仕組みを作らねばなりません。

さて、今私が述べたことはすべて家伝法第16条の法律解釈上そう言えるということに過ぎません。現実には、家伝法の法律解釈は無視され、長年の農水省の防疫指導(農林水産省令)が存在します。これは、家伝法や防疫指針にくどいように書かれ、農水省に速やかに報告し、速やかに指示を仰ぐ必要があります。

これは家伝法第5条をみれば理解できます。

第5条 都道府県知事は農林水産省令の定めるところにより、家畜又はその死体の所有者に対し、家畜又はその死体について、家畜伝染病又は届出伝染病の発生を予防し、又はその発生を予察するため必要があるときは、その発生の状況及び動向を把握するための家畜防疫員の検査を受けるべき旨を命ずることができる。

「都道府県知事は」が主語でありながら、「農林水産省令の定めるところにより」という文言で、その上位概念を存在させています。良くない法律文言の書き方ですな。こういう書き方をするから恣意的な解釈が生まれるのです。

それはさておき、さしずめ本店が農水省、支店が県(知事)、出張所が地域家保といったところでしょうか。つまり三重の塔よろしく、家畜所有者は家保に、家保は県に、県は農水省に報告して、農水省令に従って指示を仰ぐ縦割り関係にあるわけです。これが実態です。

ちょっと待てよ、これですと家畜所有者(農家)がいない!すると農水省にとっては番外か(笑)。そう、農水省にとっては家伝法上は処分は「家畜所有者の義務」として書いておき、事実、法解釈上は家畜所有者の委託業務が可能でありながら、現実には農家委託など視野に入っていないようです

まさに官尊民卑。中央集権。農水省は法定委託業務として県に防疫を丸投げしているわけですから、失敗すれば「県知事が悪いといわんばかりの切り捨て方ができます。実際に赤松前農相はそのような発言をしています。

カネも出さない、ヒトも出さないが、口だけは出す。なんという国にとって都合のいい構造であることか!こんなことをするから種牛問題で県にリベンジされるのです。

たかだか処分を誰がするのかという極小から見ても、このようなゆがみが見えてきました。家伝法を改正することは、枝葉の修正にとどまらず、このようなゆがみ全体を洗い直していかねばなりません。

2010年8月20日 (金)

宮崎口蹄疫事件 その77   種牛候補牛移動を再検証してみよう

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コメントのご質問(doll24さん)に種牛候補牛16頭の移動について、「高速のインター前のポイントを通過したのではないか。だとすれば、県の背信行為ではないのではないだろうか」というものがありましたので、判る範囲でお答えいたします。

まず、高速インター前に設置されているのは簡易消毒マットです。消毒マットとはスポンジに消毒液をしみ込ませただけのもので、動力噴霧器やプール式の消毒と比べて効果の低い簡易型にすぎません。

一度通過してみると判りますが、タイヤのみの消毒しかできません。家畜移動車両の汚染拡大の可能性は、一般乗用車と違いタイヤのみならず、車体のアオリ、幌、ボンネット、ルーフ、車体裏側などの車体部分にまで及びます。可能ならば、家畜が積んである荷台の床も消毒すべきです。

運転席内部のハンドルや床なども消毒することがベストです。たぶん簡易型消毒マットではこれらはまったくされなかったと思われます。

次に移動時に設置されていたかですが、現在情報を取っていますが、現時点では確認がとれていません。つまり「設置されていたかもしれないし、されていなかったかもしれない」わけです。

「みやざき甲斐」さんの情報提供の裏をとらずに「設置されていた」ような表現をとってしまったのは迂闊であったかもしれません。

第3に種牛候補牛の移動ルートを考えてみましょう。お手許にグーグルがあれば便利です。

細島港から、国道10号線、門川から国道388号に入り、県道20号で北上し、そこから六峰街道に抜けています。ちなみに、門川の国道入り口には、5月20日に町営の消毒ポイントが設置されました。これはお分かりのように移動が終わった後です。

そしてなにより、この六峰街道は林道です。なぜあえて林道を使ったのかが大いに気になるところです。

そしてこの林道を使い、途中から日之影の星雲橋近くの国道218号に出るルートを使ったので、一度も公的な消毒ポイントは通過せずに済みました。

第4に、「一宮崎人」さんもご指摘のように、高千穂側は当時まだ非汚染区であり、自主的な消毒ポイントが作られていました。このポイントは動力噴霧器を使っての本格的消毒ポイントですので、これをスルーしたとすれば疑問に感じざるを得ません。

非汚染区にその消毒ポイントを通過せずに候補牛を移動することは、やはり非常識だとそしられてもいたしかたないと思われます。

最後に、改めてなぜ消毒ポイントを通過しなかったのかですが、陰謀めいた理由ではなく、単純に公設消毒ポイントを通過するたびに係員に荷台を点検されるのを嫌ったのではないでしょうか。

つまり、すぐに消毒ポイントで積み荷が牛だとバレてしまうわけですから、その都度「これは県有の種牛で、移動をしているのだ」と説明せねばならないわけです。事前通報をもらっていない係員の自治体職員(特に地元自治体職員)が疑問を持ってしまうのは、畜産事業団としても嫌だったのでしょうね。

というわけで、私としては畜産事業団という公共団体が、この口蹄疫感染がパンデミックのピークを迎えようという時期に行うにはあまりに軽率な、大きな疑問が残る行為だったという結論には変化ありません。

なお蛇足ですが、この種牛候補牛の移動には知事は関与していないというのが私の意見です。

このような回答でよろしいでしょうか。ご質問ありがとうございました。

2010年8月19日 (木)

宮崎口蹄疫事件 その76  自治体は自衛隊と事前協力体制を作っておくべきだ

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皆様、たくさんのコメントをありがとうございました。気力が湧いてきました。

私のブログの口蹄疫シリーズの意味があるとすれば、いわば蝋燭の灯を絶やさないようなことではないでしょうか。蝋燭のようにたいして明るくもなく、たいした専門的知見があるわけでもありませんが、その一角を照らすことで同じ意志を持つ人たちの依代がわりになれば嬉しく思います。

今日は自衛隊の災害派遣についてみてみましょう。
[引用開始]

口蹄疫・都城市民、陸上自衛隊を慰労 88日間の活動に感謝 
(毎日新聞8月1日)

口蹄疫防疫のための災害派遣活動を終了した陸上自衛隊都城駐屯地の隊員を慰労する会が30日、都城市のホテルであった。市民ら約160人が5月1日から88日間に及んだ活動に感謝し、労をねぎらった。

 駐屯地の幹部約20人が出席。発起人代表の岡崎誠・市自衛隊協力会副会長が「困難な作業に黙々と取り組み、感銘を受けた。心から感謝します」とあいさつ。九鬼東一・第43普通科連隊長兼都城駐屯地司令は「国家、県の未曽有の大災害だった。早期復興を祈念する」と述べた。

 都城駐屯地は県の災害派遣要請を受け、7月27日までに延べ約2万人の隊員を派遣。家畜の殺処分、埋却、ふん尿処理などの支援に当たった。
[引用終了]

テレビニュースでも見ましたが、「災害派遣」の垂れ幕を出した陸自の最後のトラックが町を去って行く時、多くの市民が頭を下げて手を振っていました。これとまったく同じ姿は5年前の茨城トリインフル事件でもみられた光景です。

実に88日間、延べ2万余の大規模出動でした。酷暑の中、ほんとうに献身的な活動でした。出動した都城第41普通科連隊の隊員の大半は宮崎出身の若者たちであり、彼らはみごとに故郷を守りきったのです。

さて、私は口蹄疫対策において、その準備段階から自衛隊との協同体制を準備しておくべきだと考えています。他の大規模災害である地震や洪水などでは平時から自治体との調整や訓練がなされてきています。

特に阪神大震災の知事の要請の遅れによる自衛隊投入のタイムロスの苦い教訓から、今や協同体制づくりが一般的となってきています。

自衛隊は日本で唯一の完結した編成を持つ大規模集団です。ここで言う「完結した」という意味は、部隊編成、補給体制、通信体制、医療体制がすべて自前でワンセット完結できているということです

自衛隊にやや似た組織として警察や消防がありますが、この両組織は自前の完結性を備えていません。(あと海保には完結性がありますが、なにぶん海上ですから今回は除きます)

あんがい見逃されていますが、毎日数百人からのサポートを準備するということは大変なことです。ほかに出動している防疫関係者やボランティアまで含めると、たぶん約300人以上が現場にいたはずですから、各地の現場の裏方さんは大変なご苦労だったと思います。

現場までの移動、防護衣やゴム長、スコップ、動力噴霧機、石灰、消毒液などの防疫装備の調達、昼食の賄い、スタッフの健康管理、帰りの便の調達・・・気が遠くなるような分量です。

茨城トリインフル事件の時に私も目撃しましたが、このような時に自衛隊の自前の完結性がものを言います。なにせ、自分たちでトラックでやって来て、重機まで自分でトレーラーで搬入してしまい、オペレーターから作業員まですべて自前でやってしまうのですからスゴイ。ついでに昼飯も自前でまかなってしまうのもスゴイ。

地元としてはほぼ一切のサポートの準備がいらない集団、それが自衛隊なのです。この地元の負担がかぎりなく少ないということが、災害時に大きな意味を持ちます。このような強力な集団が毎日200名、88日間も現場で活動したのです。その威力を私たちは再認識しなければなりません。

ただし、自衛隊は便利屋ではありません。いきなり困ったから人を出せと言われても弱るケースもあるでしょう。今回は幸か不幸か、口蹄疫発生・確定から出動要請まで10日間ていどのブランクがありましたので、自衛隊側は事前の調査をすることがあるていど可能だったようです。

私はかねてから述べていますように、家畜保健衛生所(家保)の獣医師は、家畜防疫員として、家畜を診断し、検体を採集し、殺処分に必要な診断書を作り、指示書を書くことなどの獣医師でしかできないことに徹するべきだと思っています。

今回の口蹄疫ウイルスの侵入ルート、拡散ルートが確定できないひとつの理由は、発生点での発生動向調査、侵入ルートの遡及調査が徹底していなかったからです。有体に言えば、あまりの拡大の速度の速さにそれどころではなかったというのが実態ではなかったでしょうか。

そのウイルス拡大の速度に追いつけない理由のひとつに、殺処分に家保の獣医師(家畜防疫員)を全面的に投入してしまったことが上げられています。

これは宮崎県の判断ミスだと鹿児島大学・岡本嘉六教授は指摘しますが、他の自治体においても同様の方針である以上、宮崎にのみ限った独自判断ではなく、国の防疫指導上の問題が問われるべきです。

私は殺処分に自衛隊を投入すべきであると思います。それは、処分工程やその後の埋却処理まで含めてもっとも能率よく、自前で完結して対処できる能力を有する集団が、ほかならぬ自衛隊だからです

その上、自衛隊は全国各県にかならず駐屯しています。そして普通科連隊には必ず重機を備えた施設中隊が付属しています。しかもバリバリの訓練を日々行っている郷土出身の若者集団です。こんな優れた集団を使わないテはありません。

それが可能となるための必要な法整備や、困ったから災害派遣という苦し紛れではなく、事前からあらかじめ自治体と地元自衛隊が口蹄疫対処の協議をし、訓練をしておくことが必要なのではないでしょうか。

ところで、やっぱり知事が自衛隊の出動終了式典に出なかったのはよくないと思いますよ。万端繰り合わせて出席し、郷土を守った若者たちに礼を尽くすべきでした。

■ この角度で撮られるとはスキありすぎ。

2010年8月18日 (水)

コメント削除の理由について

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時々、どうしてこの宮崎口蹄疫などという事実が確定されておらず、それ故に、入り組んだ利害があり、感情が錯綜することに首を突っ込んだのかと後悔することがあります。

この口蹄疫シリーズを書き始めて、すでに2カ所から法的措置をちらつかされ、要求通り内容を修正せざるを得ませんでした。

国は真実を語りません。マスコミはとっくに飽きてしまいました。かつてあれほど花盛りだったブログ界も、民主党叩きが一段落すれば忘れ去ってしまいました。

こんな中で、単なる民間人の私でも集めた資料や情報はかなりの量に登りますが、その半分も活字化できないでいます。現地からメールの形で寄せられた情報はかなりの数ありますが、大部分が「書かないでほしい」という添え書きが付いていました。

その中にはウイルスの宮崎県への侵入ルートに関する決定的とも言える関係者からの情報も含まれていました。

また、先日公開した種牛候補牛の移動は、ある勇気ある関係者からのメールによる投稿がソースです。これに関してもその方に了解をとった上で、身元が特定できないように細心の注意をし、情報の半分以上はあえて活字化しませんでした。この書かなかった部分のほうが別の意味で衝撃的内容でしたが、内部告発者の特定ができてしまいました。

私がブンヤだったらたぶん書いていたでしょう。私がそうしないのは、私が同じ苦しい体験をした茨城トリインフル事件被災地の生産者だったからです。被災地の口惜しさや哀しさ、怒りを共有できると思っていました。今はその自信がぐらつきかけています。

・・・そのようなわけで、ほんとうにたまにですが、無力感と焦燥感にさいなまれます。

さて愚痴はさておき、私のコメント欄はたぶん他のブログより厳しいルールを作りました。今回削除対象としたことに疑問が上がっていますが、それは当該のコメントが「デマの原因となる」という侮辱的表現をしたからです。

「デマの原因」という無礼極まる表現を使用したことは私の許容の範囲を超えます。言っていいことと悪いことがあります。

「都農を中心にして」という部分が誤りだそうですが、たしかに川南も4月中の感染地に入っています。そんなことは口蹄疫を調べる者にとっては常識の範疇で、この段階では牛のみの感染にとどまっています。私は川南の豚に感染拡大することの重要性を書く文脈の中でそう表現しました。ですから「都農を中心として」という表現にしてあります。

これを揚げ足をとるかのように、全体の文脈を見ることなくその「都農」という部分のみ取り上げて「デマの原因」とまで言う神経が私には理解できません。

もしその部分が正確さを欠く、誤読の原因となるというならば、「都農と川南を中心としてが正しいと思います。修正したほうがいいのではないでしょうか」とおだやかに書けばよいだけです。

「マップを書いてみろ。デマの原因になる」とはなんたる他人を馬鹿にした言いぐさでしょうか。私は怒りに震えました。

デマとは意識的にウソを書くことです。私がいつデマを宮崎県に対してしましたか!冗談ではない。宮崎県民、特に被災地生産者に対しては誠心誠意を尽くしているつもりです。間違っていたことはあっても「デマ」を流したことなど一回もありません。今まで、誤りの指摘に対しては、その都度間違っていたことを記して修正をしてきました。

第一、宮崎に対するデマを言い散らしたくて毎日2時間もかけて75回も口蹄疫を書き続けられますか!私のブログは膨大なコメントが来るブログではなく、吹けば飛ぶようなブログです。

コメントは宝物のように思って、じっくり読ましていただいています。勉強になるコメントにいつも教えられています。励ましの声をいただくと、プリントアウトして壁に貼っておきたくなります。しかし昨日は情けなくて悔し涙が出ました。

「デマの原因」とまで言われた以上、その部分を修正し、「書いてみろ」とまで馬鹿にされた感染マップも添えました。早朝にアップした版と異なるのはそのような理由です。

■写真 湖の祠。

2010年8月17日 (火)

宮崎口蹄疫事件 その75     なぜ自衛隊出動要請が遅れたのか?

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色々なご意見をありがとうございます。

まずは「しま」様。私のソースは当時の宮崎県議会議事録と、「テーミス」(会員制情報誌)です。おっしゃられて探しているのですが、議事録がなぜか出てきません。判り次第アップします。

さて、「しま」様がおっしゃるように5月1日に都城駐屯の第41普通科連隊、第376施設中隊に要請をしていますから、4月26日に自衛隊出動要請の意志がないと答えてから4日後となります。このわずか4日間になにが起きたのかです。

もっとも重要な出来事は、川南町にある県畜産試験場の豚の感染爆発でした。これが感染拡大の引き金となりました。

畜産試験場での感染爆発は、直後にたちまち豚が飛び火します。まず4月30日から5月5日のわずか6日間に、川南の農家の第12例、13、14、16、18、19、20、そして第21例と川南町をなめるように連続感染していきます。

この事態と、それすら処分しきれない状況が知事に自衛隊派遣要請を決意させたのだと思います。

4月26日の要請をしないと県議会で答えた時点で、知事は自衛隊なしでも抑え込めると思っていたのだと思われます。この時点では制圧に自信があるという受け答えもしています。

この知事の楽観的認識はなにが原因なのでしょうか?
まず、当時はまだ症例自体が少なかったのです。と言っても、すでに4月26日段階では、第6例(水牛農場・後に初発と認定)が確認され、殺処分予定が1108頭となっています。

たしかにこの時点ですでに国内最大の発生状況でしたが、この2日後の28日に赤松前農相が外遊してしまったことに現れるように、「いまの体制のまま充分に抑え込める」という認識を県も国も持っていたと思われます。

脱線しますが、当時前農相の不要不急の外遊には批判が集中しました。私も唖然とした記憶があります。しかし、今になってみると、逆に言えばですが、農相を「行かせてしまった」農水省消費・安全局の誤判断が裏にあるわけです。

そしてさらにはこの農水省に県からの情報がどのように伝わっていたのか、いなかったのかも問われるところでしょう。それを延長すれば、知事に県官僚からどのような情報が伝わっていたのか、いなかったのかも検証の視野に入れていかねばなりません。

個人的資質、能力で裁断するにはこの悲劇的事件はあまりにも巨大すぎます。赤松氏や東国原氏、山田氏といういわばキャラ立ちした人々に眼を奪われすぎずに事件全体を見ようと、私はこのところ心がけている次第です。

それはさておき、しかし実は疫学調査チーム報告概要にあるように4月20日の口蹄疫確定以前に、すでにウイルスが各方面に持ち出されており、「10例はすでに感染していた」のでした。

農水省消費・安全局動物衛生課の伊藤和夫課長補佐はこのことについて、「今回のウイルスの力は恐ろしく強い。また牛から豚へ感染拡大したことが大きかった」と答えています。

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つまりまとめるとこうです。すでに4月26日段階で、おそらくは10数例以上の発症、ないしは潜伏期間の家畜がおり、かなりのウイルス拡散と濃度上昇がある素地の上に、とうとう4月28日には県畜産試験場の豚に引火してしまい大爆発をきたし、川南町という畜産密度が全国有数に高い火薬庫への誘爆が始まった、ということに思われます。

まさに防疫陣にとってこれは、あれよあれよという急展開だったに違いありません。それは上図の「口蹄疫発生マップ・戸数の推移」(出典・鹿大岡本教授による)をご覧いただければ一目でご理解頂けるはずです。5月6日を境にして、まさに45度の角度で感染が激増していくのがわかります。しかもその感染の主力は、感染力が牛よりはるかに強力な豚でした。

4月26日とは、このような感染爆発がその兆候を見せながらも、まだコントロールが可能だとおもわせたギリギリの時点であったのです。これには、安易な状況判断と書けば一刀両断ですが、自衛隊に災害派遣要請をするとなると大事になり社会的な不安に結びつく、宮崎牛に風評被害が出はしまいかなどの危惧が決断を鈍らせたのではないでしょうか。

一方、埋却地問題は5月6日以降鮮明になります。5月10日に初めての宮崎県入りをした(!)赤松前農相は、地元農業関係者の「農家が自分で埋める場所ができなくなっている。県試験場や国有林を開放してほしい」という必死の訴えに対して、にべもなく「権限の問題。すべて国が出来ないのが宿命」と答えています。

国は埋却地問題の切羽詰まった実情をまったく理解しておらず、なにかこのことで県を支援しようという意志すら欠落していたことがわかります。失政といわれてもいたしかたがないことです。

このように国は県への埋却地問題への支援をしないままに県は5月中旬に完全なデッドロックに乗り上げます。これに対して知事が国との補償金交渉を不必要に長引かせたからであるという鹿大岡本嘉六教授の批判もあります。

その指摘は事実かもしれませんが、当時の宮崎県の現状として「埋却地が圧倒的に不足していた」ことを忘れてはならないでしょう。

ともかく「りぼん」様もおっしゃるように30万頭を24時間以内に処理するのはまったく不可能です。今後も、あらかじめ地方自治体が30万頭規模を想定しての埋却地の準備をすることも現実的ではありません。とてもではないが、地方財政が持ちません。

同様に消毒ポイントの設置も全県的に網羅することは不可能です。いただいたコメントにありましたように常時相当な数のスタッフを張り付けねばならない以上、おのずと地方自治体には限界があります。

ですから、あたりまえのことを言うなといわれそうですが、処分の単位が最悪でも100頭単位の内に処分を完了し、埋却するしか方法はないのです。

口蹄疫対策は改めて基本に戻って考えねばなりません。30万頭が処分対象になった状況から、いったん目を移して「そうならないための」方策を再構築せねばなりません。

■ 写真 カブトムシです。

■追記 最近、ごくまれにですが非常に無礼なコメントが見られます。みずからのみが正しいと言わんばかりに宮崎県人を無礼な表現でくさしてみせたり、記事内容を根拠も示さずにデマよばわりするものです。このようなコメントは即時削除対象となります。

2010年8月16日 (月)

宮崎口蹄疫事件 その74  埋却地問題の壁と特別措置法

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アキアカネが飛び始めています。この赤トンボが飛ぶようになるとなんとはなしに秋風を感じます。ただし、言うまでもありませんがまだお天気は煮えたぎっていて、昨日などは36度でしたが。

さて、前から気になっていたことのひとつに埋却地問題がありました。牛、豚といった大型家畜を埋却するには大変な面積が必要です。これを当事者が自分の私有地に埋却する以外に方法はあるのだろうかという疑問でした。

宮崎県の処分の遅れには色々な原因がありますが、そのひとつには絶対的に埋却地が足りないという問題もあったはずです。

高市早苗議員が見つけ出した山田副大臣(当時現地対策本部長)と地元町村との交渉の記録があります。(5/26早苗コラムより引用)

「口蹄疫・現地対策本部(日報)」
 5月18日
 ■新富町議長「豚・肥育牛中心の畜産団地なので、埋却地は容易には見当た
 らない」
 ■山田副大臣「土地は国で買い上げるとしても見当たらないか。県有地、国
 有地はないのか」
 ■町長「ない」
 ■副大臣「1年間の補償をすれば売ってくれるのか」
 ■町議長「来年以降の生計を失うので、売却側は迷うだろう」
 ■補佐官「しかし埋めなければ先に進まない。国が買い上げる場所は1つも
 ないのか」
 ■副町長「1年間の補償をして、来年度以降の代替農地があれば、可能かも
 しれない。しかし、補償をしっかり国が支えて欲しい」
(引用終了)

これを読むと、国が乗り出しても地元は「土地を売らない」様子がくっきりと描き出されています。応援に駆けつけた全国の家保やボランティアの獣医師も、処分ができないために待機を余儀なくされたという話も伝わっています。

この埋却用地に対する地元の拒否反応は、予想された反応でした。いかに消毒液や石灰をかけられたとしても、家畜運搬車両や防疫関係車両がウイルスを持ち込むこともありえます。

ウイルス汚染した患畜が英国のように焼却されないために、シート一枚を穴の底に敷いて埋められるわけですから、シートが破損すれば地下水にウイルスが漏れだし、一帯の水系を汚染する可能性も否定できません。

また、いったん患畜が埋められてしまえば、ほぼ買い手がつかない土地になります。埋められた一角をもっているだけで、その人の農地は現実には流動性がほぼなくなるわけです。

近隣も自分の土地の価値が下がるので(農家は非常にそれに敏感ですが)、隣地に埋却地が来ることを嫌がってなかなか了解を与えません。

これは私の地元でもそうで、茨城トリインフルエンザ事件で埋却処分した土地は二度と買う者が現れない地になっています。わが県は比較的早期に自衛隊が投入され、地元建設業組合が埋却作業に加わったのですか、それでも用地問題がネックでした。

関西のトリインフルを発生させて、気の毒にも経営者夫婦が自殺された養鶏場はいまでも廃墟のままとなっているそうです。

また、農水省は「1年間の補償をしてもだめなのか」ともちかけていますが、地元は「それ以降の生計がなくなる。代替農地が必要だ」と述べています。

しかし、現実にはそうそう簡単に代替地は見つからなかったと思われます。これも私の地元で県の複合団地建設があった折の代替農地騒動を思い出します。代替農地がそうとう面積必要だとわかった瞬間、農地価格はハネ上がります。

売り買いに税金がかからない公的買収だと通常の5、6倍の価格が平気でついてしまうことでしょう。今までの反あたりいくらから、坪あたりいくらの宅地並の世界になるわけです。

5月中旬の宮崎県でなぜ処分が滞ったのかの原因がこれで判ります。宮崎県は埋却地確保の予算がスッカラカンになっており、国が買収に乗り出してもそもそも「売らない」という地元側の硬い意志が出てきたからです。

しかし、後か後から山のように患畜が発生していきました。その状況は下図の発生頭数と処分頭数を比較した図をご覧ください。
(出典・鹿大岡本教授による)

Photo これを見ると5月6日に発生した豚の処分を実に10日前後遅れで処分している様が見て取れます。殺処分は数時間以内、遅くとも3日以内が防疫の原則ですからとてつもない遅滞といえます。

豚はご承知のように最大3千倍にウイルスを拡大濃縮して放散しますから、豚の処分が遅れ続ける限り、感染拡大は止まるはずがないことになります。

しかし、埋却地買収が壁に突き当たり、処分の先行きがまったく読めなくなりました。この5月中旬の時点になって、4月26日の県議会で知事自らが自衛隊の出動を拒否してしまったことが響いてきたためです。

4月28日の川南の県畜産試験場の豚が発症した段階で、自衛隊(都城駐屯地)の持つ重機とすぐれたマンパワーを処分と埋却任務で集中的に投入しておけば、5月に入っての感染拡大はかなり抑えられたと思われます。

これをこともあろうに、出動要請の権限を持つ知事自らが拒否してしまったことは悔やまれます。また、防衛大臣や山田副大臣も強力に知事に働きかけるべきでした。しかしこちらもわれ関せずを決め込み、初期制圧の可能性は完全に消えたのでした。

そして、国はこのタイミングを見計らったかのようにワクチン接種することを方針化して、宮崎県に降ろしたのでした。これが5月18日の疾病小委員会の「発生農場から10㎞以内をワクチン接種して殺処分」という新方針でした。

これはかねてからの農水省の規定方針であったとみえて、いちおう疾病小委員会に答申させた形にはなっていますが、翌日の19日には農水省が了承、なんと20日夜にはワクチンの現物が宮崎県に到着するという手回しのよさでした。かねてからの準備なくしてはありえない速さです。

このワクチン接種方針とワンセットになったのが口蹄疫特別措置法です。特別措置法の要点は、「予防的殺処分を国が強制的にできる」ことに尽きます。そのための補償や埋却地買収なども書かれてはいますが、内容をよく読めば「国と地方自治体が責任をもってやる」という曖昧な表現にとどまっています。この曖昧さが後に宮崎県と国の確執を呼びます。

それはさておき、この特別措置法の成立によりl国は家伝法の欠陥から生じた殺処分命令を地方自治体首長が命じる(*ほんとうは違いますが)状態から、それを剥奪して国の側に持ってくることが可能となりました。

この新方針に従わざるを得なかったとはいえ、宮崎県側のショックは大きかったと思われます。なぜなら、それでなくとも壁に突き当たっている埋却地が、更にワクチン接種・殺処分方針により膨大な数に膨れ上がることが目に見えていたからです。

国は県が埋却地でニッチもサッチもいかないことを重々知りながらワクチン方針を事実上強制してきたことになります。知事が怒り狂う心情も理解できます。

このような一連の流れと、県の対策会議内容が国に筒抜けになっていることが発覚し、県知事は国への不信を募らせたのでした。

■写真 アキアカネ。だんだん色が鮮明な赤になっていきます。

2010年8月15日 (日)

湖岸地帯の「のっこみ」文化

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「のっこみ」という言葉をご存じだろうか?茨城弁なのか、普通に使われる言葉なのかは知らない。私の住む湖岸地方ではただ「のっこみ」と呼ぶ。

湖は昔、といってもそう大昔ではなくたかだか30年ていど前だが、コンクリート護岸などという無粋なものはなかった。今は周囲250キロの湖はくまなくコンクリートで護岸されて、道路になってしまった。

今も昔もかわらずに、湖のほとりはだいたいが水田となっている。それはそうであろう。水を満々と湛えた湖の側から、人は田んぼづくりをおこなっていったのだから。

そしてやがて米作りは川沿に沿って拡がり、そして里山の内懐の褶曲のひとつひとつにも谷津田を作るようになっていった。何百年、いや千年単位の百姓が作り出した風景だ。

さて、「のっこみ」とはこんなコンクリートが湖とその周辺を覆っていなかった時代のものである。湖の淡水は周辺の乾いた岸辺や水田との間に中間域を作った。淡水は出入り自由であるので、それに乗って浅瀬に住む魚やドジョウ、ウナギが沢山住んでいた。

春ともなるとこのような浅瀬の岸辺のヨシやマコモなどの草むらには、魚が稚魚を産み、水鳥が巣を作った。湖に住む大部分の生き物にとって、この岸辺こそがつがいを作って巣を作り、子を育て、餌を採って暮らす豊かな地だった。

湖の周辺に棲息するヒト科のオスにとっても事情はまったく同じであった。春ともなればつがいをつくるべく湖岸で奮闘し、採餌行動も盛んに行われた。生物多様性だなどと堅苦しいことを言わなくとも、魚も水鳥もそしてヒトも考えることは一緒なのである。

私の村の友人は、子供の時にこの「のっこみ」で大いに遊んだそうである。夏休みともなれば、ドリルなどやらずに兄貴とウナギ採りのヤナなど作って仕掛けておく。夜になると、オデコに手拭いを巻き、「八墓村」よろしく懐中電灯を指し、照らされた顔がコワイので手に持ち替え、オヤジの地下足袋をくすねて「のっこみ」に出撃した。

そして安眠をむさぼっている泰平の魚を手編みですくうのである。懐中電灯を点けすぎると「魚を脅す」と兄貴に怒られ、近くで水鳥がギャーと警戒の声をあげればびびり、忍び足で沼地を歩くものだからコケると頭から泥だらけになった。

しこたま獲った帰り道に、しかけておいたヤナを点検してウナギがかかっていないかを調べる。ウナギは食べずに、近所の料理屋に持っていくとそれなりの値段で買い上げてくれるのでいいこずかいになった。

このよい子たちにはめいめい秘密のポイントがあり、これさえはずさなければ入れ食い状態だったそうである。魚からすれば夜盗に襲われたようなもかもしれない。

しかし、コンクリート護岸になってからこの「のっこみ」が激減したために、この湖岸の男の「夜の娯楽」は壊滅状態だ。私が知っている「のっこみ」のプリンスは、今や水上バイクでブンブン湖上を爆走している始末。コンクリートで固められた湖岸は、生物種多様性の消滅だけでなく、湖の辺に住む男の民俗の継承すら潰してしまったようだ。

文末ですが、先の大戦において犠牲になられた約310万人の同胞の霊に深く哀悼の意を捧げます。合掌そして感謝。

■写真 朝もやの霞ヶ浦。われながら印象派のできそこないのような絵である。

■蛇足的追記 私はなぜか軽い話題は「である」調で、重い話題は「です」調です。なぜなのかは私自身がわかりません。普通は逆な感じもしますが。ま、どうでもいいか。

2010年8月14日 (土)

宮崎口蹄疫事件 その73  知事は種牛候補牛の移動を知っていたか?

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いただいたコメントで、「種牛候補牛16頭の移動を知事は知っていたのだろうか?」との疑問が、私の頭にこの何日かピトっとへばりついて離れません。暑いのに困ったことです。

あれこれ考えてみたのですが、結論から言えば「たぶん知らなかった」であろうと思います。

初めは「知っていたんじゃないかな」と思っていました。というかむしろ、知事の指示がなければあんな隠密的移動は可能ではない、と思っていました。なにせいかに候補であろうとも、そのときに世間を騒がせて、国と大喧嘩をしている真っ最中の種牛ですからね。

また、その段階で残っていた種牛は、6頭+候補牛16頭の22頭だったわけですから、たしかに「宮崎種牛を守れ」という知事のアピール度は弱くなることはたしかです。そんなことで、たぶん「知っていたであろう」と考えていたわけです。

しかし、昨日あたりにハタと思い返しました。いや、違うのではないか、と。
知事がこんな危険なことをするだろうか、と思い当たったのです。市町村からの抗議はこなかったようですが、隣県の鹿児島などは事前通告なしに志布志など使おうものなら怒り狂ったと思われます。

それでなくとも隣県との関係は最悪とまでいわないにせよ、かなり緊張していました。鹿児島県からすれば、同情もさることながらありえない防疫の遅れが隣県であるだけに目立っていたはずです。

志布志には大きな飼料基地がありますから、宮崎県から飼料運搬車が頻繁に越境してきます。今に至るも消毒ポイント通過証明書にスタンプがないと入場できません。きっとえびの市まで来た時には、鹿児島県対策本部にはレッドアラートが赤々と点ったことでしょう。官民ともいつ口蹄疫ウイルスが越境してきても不思議がない、そのような張りつめた雰囲気であったと思われます。

この鹿児島県と同じ「空気」はまちがいなく非汚染地域の自治体にもあったはずです。その中で、かなりの距離を消毒ポイントも高速道路高原インターのポイント一カ所のみでパスしていく計画を知事が事前に知っていて、承認するでしょうか。

あまりに危険に過ぎます。もしなんらかのことが起きた場合、知事は国という正面の「敵」だけではなく、足元の自治体からの信頼を一挙に失いかねません。

一方寄せられたコメントを読みますと、「無事に通過しましした」というエリア放送があった自治体もあったようですから、誰からのどのような連絡か判りませんがある程度の通過情報はあったと思われます。

私は知事にも事後報告ではなかったのかと推測します。万が一、種牛候補牛の移動車列が事故を起こした場合、知事は辞任に追い込まれかねないことになるからです。知事がこの時期に、そのようなことを隠密的にせねばならない強い動機が見当たりません。

私は畜産事業団の一握りの高級幹部が策定したことではないかと思います。彼らが企画し、たぶん直前になって通過自治体に電話連絡を入れ、事後に知事に「念のために候補牛も移動しておきました。制限区域外でのことなので法的に問題はないはずですから、ご安心下さい」というような報告をしたのではないでしょうか。

知事に県官僚たちから的確な情報伝達がされていたかどうか、そのパイプがきっちりと機能していたのか、その上に立っての知事の判断だったのかなどが問われたのが、今回の宮崎口蹄疫事件なのです。

もちろん真相は藪の中です。したがって私の見方も推測の域をでません。憶測で書くなと言われたこともありましたが、県自らが今回の口蹄疫事件調査報告書を公表する時まで、私たちは手探りで事実の小石を積み上げ、自らの頭で闇を晴らしていくしかないのです。

■写真 バックの色を変えてみました。やや不気味かも。

2010年8月13日 (金)

オジィ自慢の芋焼酎

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わが村の飲んだくれのジジィは昔、ハッパで漁をしたことがあるというのが「自慢」(になるかよ)だ。今やったらとうぜん手が後ろに廻る、いや、当時でも廻る。

 このジジィ・・おじいさんというにはあまりにアクが強いので「ジジィ」ということにするが・・の趣味は密造酒だ。密造酒にはうるさい。これまた、当然のことながら違法である。
 
 酔っぱらった(1年中だが)ジジィに、間違って密造酒のウンチクをタレさせようものなら、確実に2時間はつきあわされるはめとなる。芋はあまり甘くないほうがいいだとか、(これは別な密造家と意見が分かれるのだが)、蒸し時間は何分だとか、舟という道具で絞って、露にして、冷やして焼酎瓶に詰めてと、まるで「夏子の酒」の杜氏のようだ。
 ジジィに言わせると、今時の芋焼酎など、ちゃんちゃら可笑しいそうだ。先日、銘酒「富乃宝山」を手土産にもって行ったが、「ナンダ、この水みたいのは」と言う。ジジィ、これが今の芋焼酎の主流なんだゾ、と教えてやっても言うことを聞かない。
 ジジィに言わせると、芋焼酎というのはガツンっと来る香りがあって、呑むとブワーっとならないとだめだそうだ。栓を開けると部屋の中に焼酎のあの香り、というかニオイが立ち込めて、女衆は鼻をつまんで皆逃げ出す、子供はおびえて泣く、というのが芋焼酎の大道だそうである。
 つまみはそこらに生えている行者大蒜か、キュウリと自家製味噌でもあれば充分。ハムなど持っていこうものなら、「こたらものは合わん。酒の味がわからなくなる」と口にしない。なければ、味噌と塩だけでよさそうだ。実にハードボイルドである。
 密造酒は、かつて私も作ったことがある。コシヒカリの新米を使った。湧かない(発酵しない)ので、イーストをぶち込んだ。ものすごい味のドブロクになってしまった。ジジィにこの話しをすると、歯のない口でギャハギャハと大笑いされてしまった。
 「新米を使う根性が悪い。新米が出来たら、余った古米で作る。麴はまじめにたてろ。麴がすべてだ」そうである。まことにごもっとも。
 今は買ったほうが安いので情けないことに、熊五郎のダブルボトルなどを呑んでいるが、ほんとうはかつて作ったイモ密造酒のほうが好きなようだ。

 

2010年8月12日 (木)

宮崎口蹄疫事件 その72    県は民間の模範であらねばならない

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色々なコメントをありがとうございました。

私としては、種牛候補牛16頭の移動が報道がされたかどうかは、現地メディアのエリア放送の中のことですので確認しようがありません。ですから、私としては「あった」としても、それが事前なのか事後なのかが気になるところです。

事前に報道されていれば事はシンプルであったと思います。通過を受け入れる市町村も、ましてや、もし志布志という隣県にまで越境することが「事前に」報道されていれば、鹿児島県は断固拒否の態度をとったでしょうから。

事後に公表となると、既に通過されてしまった市町村は、正直言って「冗談じゃない」と思うでしょう。事前に告知して、通過自治体と協議を重ね、消毒ポイントを通過して、それを確証する追加報道をされながら移動することと、事後に「既に移動しました」ではそうとうに意味が違ってきます。

事実、通過自治体は私が調べた限りでは、どこも聞かされていなかったと思われます。ですから目立つ街道沿いを行くのではなく、あえて裏道を通過したのではないでしょうか。結果として、公設消毒ポイントを通過できなかったのだと思います。

移動に携わった県事業団職員には獣医師も含まれていたはずですから、消毒ポイントを通過せずに移動することのまずさは重々判っていたと思われます。判っていたから、種牛6頭の移動に際しては、県警のパトカーも付いて消毒ポイントを抜けながら移動しました。

この種牛6頭と同様な条件にあるはずの種牛候補牛16頭を、なぜ同一の条件で移動しなかったのでしょうか。しなかったから、おかしなことになりました。

これでは県は自治体に対して都合の悪いことは言わないことになりかねず、地方自治の精神といいますか、ルールの上ではいかがなものでしょうか。

また、「移動制限区域外だから法律違反ではない」というご意見もありましたが、気持ちとしては判りますが、そのような論法を一回とると、違法でなければなんでも出来るということになりかねません。

当時の5月中旬の宮崎県の状況は、感染拡大に歯止めがきかず、まさにパンデミックそのものの状況でした。それに対しての防疫は、埋却地の補償交渉問題が難航して、処分がとうてい追いつかないために、待機患畜が恐ろしい勢いで積み上がっていく状況でした。

この時期こそ、県は一丸となって団結しなければなりませんでした。そして知事はその「団結の中心」として素晴らしい仕事をしたと思っています。だからなおさら、高い水準のモラルが要求されるのです。

県がみずから模範たることを放棄して、違法でなければなんでもしていい、事前告知も地元自治体にしなくてもよい、自らが定めた消毒ポイントも通過しなくともよい、マスコミには知らせない、事後に知らせる、ほんとうにこれでいいのでしょうか?

県がこのようなふるまいをして、どうして民間が言うことを聞きますか。「団結」を呼びかける側が、違法行為すれすれのことをしてどうなります?民間が「県があんなことをしているんだから、オレもちっとはいいだろう」、そうなりませんか。

おかしな牛を発見しても、家保に報告する前にいち早く別の移動制限区域外に裏道を通って運び出せばいいとなりませんか。

県がやったことを、民間がそのまま模倣し始めたら、防疫体制など穴だらけです。地元なら消毒ポイントを通らない抜け道などいくらでも知っています。仮に他の牛に感染していたとしても潜伏期間中ならば判りはしません。

こんなことを我も我もと我が身かわいさでやったら、どうなりますか?!破滅です。まさに破滅です。今頃日本全国が口蹄疫で支配されてしまっていたことでしょう。

私は宮崎県東部地域のみで感染が止まったのは、宮崎県農家のモラルが非常に高かったからだと思っています。

モラルとは、法律を犯さないことだけではありません。「ほかの人を思う心」です。そのことに県外畜産農家として心から感謝しています。まさに宮崎県民は、身をもって多大な犠牲を払って口蹄疫を宮崎でくい止めたのです。

だからこそ私は宮崎県農民と同じモラルの高さを、県にも要求しただけにすぎません。

お盆の季節です。多くの死んでいった家畜の霊が、生まれ育った村へと還ってきますように。

■写真 色づき始めたホオズキ。

2010年8月11日 (水)

宮崎口蹄疫事件 その71  県事業団、謎の種牛16頭の隠密移動

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県事業団や県畜産試験場は、県営の指導的団体であるのに、感染侵入を許してしまいました。ほんとうは初発もさることながら、このような本来もっとも高いウイルス・セキュリティを持っているべき両団体が、片や感染拡大のハブとなり、片や貴重な種牛にまで感染させるという大失態を演じてしまいました。

あの忠富士など事業団の種牛6頭は、特例措置ということでものものしい警備のもとに移動していった光景を覚えていらっしゃると思います。宮崎県警のパトカーが先導していましたね。

あの特例措置自体が、宮崎県知事の家伝法に対する対決の始まりでした。家伝法は本来、国から県地方公共団体に対する法定受託事務ですが、このように受託事務を請け負った自治体が国の意志に逆らうという事態は想定されていませんでした。

たぶん家伝法が施行されて初めての「あってはならない事態」だったと思われます。このあたりからそれまで隠然として存在してきた、国と県の確執はモロに表面化していくことになります。

火が燃え盛る火事現場で、消防隊が内ゲバを始めたようなものです。

さて、この特例措置で種牛6頭が移動し、また49頭の延命が大きなニュースで全国に流れる中で、もうひとつの事態が進行していました。

それは種牛候補牛16頭が秘かに宮崎県内を移動していたことです。5月16日に高原町を出て、高速高原インターに乗り宮崎港に向かい、船に乗り換え、日向港から高千穂に向かいました。

この移動ルートには、宮崎市、都城市があります。ここで県と地元自治体が設けた消毒ポイントを果たして通過しているのかが問題になります。一説によれば、日向港からの移動ルートは、マスコミなどの眼を逃れるような裏道を辿るもので、公的消毒ポイントが意識的にはずされていた可能性があります。

まさかと思いますが、この両市はこの移動の後日に感染が発生しています。因果関係はなんとも言えませんが、気になるところではあります。

私には時々、県知事の言動がわからなくなる時があります。全国マスコミにはこの種牛6頭が処分されれば、宮崎牛の血統が途絶えてしまうという言い方を知事はしていました。

しかし現実には、種牛候補牛16頭がおり、それを隠密で移動していたことが真実だとすれば、知事の言説はにわかに信憑性が揺らぐことになります。国民は知事の声に応えるようにして「宮崎牛の種牛を守れ、国は冷血だ」という方向で世論形成されており、延命嘆願署名運動も起きました。

それは、悲劇の宮崎県の復興を約束するはずの種牛までもが、殺されてよいのかという国民的な憤りだったと思います。知事は、国に対して法定受託事務を請け負っている責任者とは思えない調子で、「融通が効かない。硬直している」という批判を連日投げつけていました。

これに屈するようにして赤松前大臣が特例許可をすることにまで発展しました。たぶん政府内部では、後の言動から見て山田現地本部長(当時副大臣)は強硬に反対をしたことが憶測されます。

国としては「あってはならない事態」をこのまま放置していけば、ワクチン接種地帯の対応で、「第2、第3の特例」を生むことなるという強い危惧があったはずです。

行政業務において、とうぜんのこととして前例がいったん出来てしまえば、それを覆すのは非常に難しく、新たな事態を拘束する「前例」として確固として踏襲され続けるからです。

事実、薦田さん所有の民間種牛問題という形で、その危惧は爆発し、国と県が和解することすら難しい対立へと導いていくことになります。

この導火線に種牛6頭の特例と、その陰で進行していた16頭の種牛候補牛の隠密移動を重ね合わせると、県知事の意図が見え隠れします。つまり、種牛6頭の延命を強調するために、あえて実は存在している16頭の種牛候補とその移動を秘匿したようにみえるのです。

この事実が公表されたのは、46頭の処分が決まってからでした。

■写真 霞ヶ浦の夜景。

2010年8月10日 (火)

蓮の華が咲きました  水鳥と人間様の隠れたバトル

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蓮の花がポンと咲き始めました。咲く時にポンっというそうですが、聞いたことはありません。一日にいくつも咲くので、ほんとうにポンっというなぱ、蓮田はポンポン景気のいい音で満たされていることでしょう。

蓮の田んぼの床土は、焼く前の粘土の器のようになっています。肌理の細かい粘土を練って練って作り上げた巨大な器です。肌理が粗いと、てきめんに蓮が上から押し潰したような歪な形になるそうです。楕円形ですね。よく練られた床土は、伸びやかに蓮の地下茎が伸びていくので、綺麗な円形に近い形になります。

私の村は湖にはさまれているので、北浦と霞ヶ浦の両方から水鳥がお越しになります。彼らはこの蓮がお好きとみえて、特に出始めた芽を珍味じゃとばかりにつついて食べてしまいます。

芽を食べられれば、人間様は困りますからあのてこのてで防ごうと知恵比べとなります。まずは昔懐かしき案山子ですね。今どきの水田で案山子が見られるというのは、蓮田くらいなものでしょうか。

あんがい初めは水鳥もダマされるようです。しかし、すぐに憎たらしくも、案山子の肩に止まったりするようになります。糞までかけるヤローもいます。

そこでお次は、テープです。キラキラ光る金属テープを田んぼの左右から掛け渡すわけです。あんまり見よいものではなくて、せっかくの美しい蓮の田んぼが、テカテカと光るテープでラッピング(はオーバーか)されます。

これをやられると水鳥はうまくスッポリと入っても、飛び立つ時に羽根がひっかかるとみえて不満げなギャーという声を上げて通過することになります。

これで一安心かと思うとこれが甘い。テープはひらひらと軽いので、強風ですぐによれたり、吹き寄せられて塊になったりするのですな。サッカー風にいえばスペースができるわけです。

このスペースを、戦術眼が異常にいい水鳥が見逃すはずがありません。そこからフワリと見事な着地を決めて蓮の芽ランチをお召し上がりになります。やれやれ。

そこで人間様デフェンダーはまた張り直して、吹き寄せられ、また張っては・・・ああどこまで続く水鳥とのバトル。

まぁ、農薬一発かければと思うんでしょうが、確かに農薬をかけられた蓮は水鳥は食べようともしません。では、これでいいのかといえば、農薬は田んぼの中のニュニニュルの微小生物(←ミミズともいうね)を殺してしまうので、今度は床土がカチカチになりかねません。

すると蓮が押しつぶされたようになり商品価値が下がってしまいます。で、そうも農薬に頼れないので、案山子をつくり、人によっては怖そうなお面まで被せ、息子がヤンキーやっていた頃のバイクメットまで乗せ・・・ああ涙ぐましい。

そろそろ村の人口が増えるお盆となります。夜は湖の花火。そしてあちらこちらで開かれる夏祭。奉納相撲。字で競う山車。

日本の夏は田舎がいちばんです。川南の村でも今年は夏祭があるのでしょうか。

2010年8月 9日 (月)

宮崎口蹄疫事件 その70  大規模農場の数々の「可能性」について

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コメント欄のご指摘をいただいて訂正をいたします。

前回記事の「事実、後にえびの市に移動したことは疫学チームにより公表されていますが」の部分は正確ではありませんので、訂正いたします。

[以下引用]

6/8 宮崎日日新聞
終了後に同事務所で会見した津田チーム長は「(家畜運搬車両が)川南町の農場で牛を積み、関連があるえびの市の牧場でもさらに牛を積み込んで、食肉処理場へ出荷していた。そういった運搬車の利用があった。時期的にも一番疑われる」として、農場間を行き来した車両が感染を飛び火させた可能性が高いことを示した。

農水省 口蹄疫疫学調査チーム第4回検討会概要
3 感染拡大要因について
車両(家畜や飼料の運搬車の畜産関係車両):えびの市での発生事例については、川南町の関連農場から出発した家畜運搬車両等が関連していた可能性があり、

[引用終了]
失礼をいたしました。正確ににはこのようなことしか農水省疫学調査チームは言っておりません。したがいまして、以下のように訂正いたします。

えびの市への感染拡大は関連農場である川南町の大規模農場から出発した家畜運搬車両が関係していた可能性がある

この川南町の大規模農場から、えびの市の系列農場へと向かった家畜運搬車両が単なる「空気」を運んでいたこともありえますので、私の「家畜を移動した」という表現は適切ではありませんので訂正いたします。

それもあくまで「可能性」としか農水省は公表していない以上、えびの市には別なルートで飛び火した可能性も理論的にはありえることになります。

農水省の疫学報告は常にこのような「可能性」という言葉で、結論を先延ばしにしており、このような言い方が修正されないかぎり私たちも同様な表現にとどまります。

現在の家伝法においては、農水省疫学調査チームはいかなる捜査権限も持っていません。ですから、強制性をもった農場調査を行うことはできません。立ち入り調査は任意でしかなく、遡及調査はただ「聞く」だけに限定されいます。

車両の移動を調べるために必須である車両運用日誌や、作業日誌、あるいは家畜の移動を調査するトレサビリティ関係書類などは任意で見せてくれることを「お願い」できても、それを証拠物件としての押収することは、現行法では不可能です。

したがって、物証が存在するはずがなく、あるのは単なる「疫学的」な、しかも単なる「可能性」でしかありません。要するに農水省疫学調査チームは、国家のもっとも権威ある調査であり、事実認定に等しいことを行いながらも「なにも言っていない」ことに等しいわけです。

一般社会の通念ではこのような「可能性」だらけの報告書を書けば相手にされませんが、こと家畜伝染病調査における国家調査ではこれが常識のようです。

前々から指摘しているようにこのような曖昧で無力な国の調査が、かえって「うわさ」による風聞を増長させてしまっています。うわさはあくまでも出所不明ですが、それが国家が否定しないままに一人歩きしてしまっています。

なにが正しく、なにが誤った情報なのかを峻別することから遠ざけてしまっているのは、他ならぬ国家なのです。

たしかに、この大規模農場はコメント欄の別のご意見のように「感染させられた被害者」である側面もあります。しかし、この大規模農場の届け出の6日間の遅滞により(これは「可能性」ではなく事実認定済)、感染拡大が大きく進行してしまったことはたしかであると思われます。いやもとい、「感染拡大してしまった可能性」があります。

またいかに「空気」しか運んでいなかったとしても、えびの市というクリーン地帯に汚染車両の「可能性」がある運搬車両をうつかにも移動してしまい、その車両を介して口蹄疫ウイルスが拡大した「可能性」があります。

そしてこれらの「可能性」が事実ならば、大規模農場の反社会性の「可能性」を指摘されてもやむを得ないことだと私は考えます。

私のブログは光栄にも2chの口蹄疫スレに貼られているそうなので、今後注意することにいたします。ご指摘ありがとうございました。

■ 写真 お盆の村のお墓。百日紅が満開です。眠るなら、こういう田んぼと川を見わたせる小高い丘がいいですね。


2010年8月 8日 (日)

ある友人との会話

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先日、私の友人と話す機会がありました。

「いや、すっかり君のブログは変わったね。読者がまったく変化しちゃったんじゃないの?」と彼。

「口蹄疫一色でもう3カ月近いからね・・・。寂しいことに、昔の常連投稿者の人はほとんどみられなくなったよ。葦原微風さんのコメントをいただいた時は嬉しかった。その代わりこの口蹄疫を許さないと思っている人たちばかりになったようだ。読者層が完全に入れ替ってしまったのだろうね」

「昔のような、と言ってもまだ3年目か・・・村の話とか農業や沖縄の話はもう書かない気なの。あれはあれでそれなりに評判がよかったじゃない」

「いや、そっちも書きたいんだが、口蹄疫シリーズで手一杯で、頭がそちらにいかない。あまり器用なタイプじゃないんだ私は」

「ふーん、じゃあまだまだ続くんだ。君は茨城インフルの時もしつこかったからな。メルマガを130号くらいまで送りつけまくったもんね」

「ああ、その時にブログがあったらあんなメルマガなんてややっこしいことしなかったが。ただメルマガだと言いたいことは言える。伏せ字なし。ズバズバ言いたいことを言えたが、今回は正直きつい」

「けっこう言いたい放題に見えるけど」

「いや、とんでもない。配慮と抑制の塊だよ。蓄えている情報の十分の一ていどしか書けないんだ。裁判対応しながら文章を書くという初めての経験をしているよ。だから自分で読み直しても歯がゆいことばかりだ。我ながら情けない。口惜しい思いの毎日だ」

「ということは裁判で訴えられる心配しているの?」

「ああしている。行政は訴えてこないが私企業は容赦なくしてくる。行政は公共性があるので、国民からの批判を前提にしているが、私企業はそうではない。名誉棄損という曖昧模糊とした法概念で攻めてくる」

「名誉棄損なんか拡大解釈がいくらでもできるからね」

「そうだ。気にくわない記事をみつけたら、法的対応をちらつかせて削除要求するだけでいい。それだけでこちらは正直に言ってどうしようかと大いに悩む。悩んで筆が鈍る。宮崎地裁に呼び出されたら、家内とたった2人でやっているような私の小さい農場はめちゃくちゃだなんて余計なことをつい考えてしまう。正直に言って、こんな重苦しい気分でブログを書いているのは初めての経験だよ」

「こらこら、弱音をこいてるんじゃない。しかし普天間基地じゃないが、まさに抑止効果だな。そう言えば二階堂さんとかいうもの書きがあの大規模農場から訴えられるという話を聞いたが」

「二階堂さんの記事は私も読んだが、話にならないレベルだ。訴えられたら負けるんじゃないかな。せめて私か、現役養豚家さんのブログを読んでから書け。しかし、訴えられればプロのもの書きにとってはある意味、宣伝になるという計算がある。しかし、私たち農家はそうはいかない」

「今後どうするつもりなんだ」

「さぁ、問題がぜんぜん片づいてないからな。真相は闇の中にいっそう深く入っていくばかりだ。県はたぶん調査を、国の疫学報告で代行してしまいそうな雰囲気だ。独自調査してほしいのだが」

「国が調査委員会を作ると言っているが」

そろそろ始まっているが、どんなもんか。期待はしている。しかし肝心の国民の関心が急速に衰えているほうが心配だ。もう国民の大部分は口蹄疫事件は終わったと思っているだろう。そういうマスコミ論調だしね。しかし、真相究明は早い時期にやらないと風化していってしまう」

「国民の関心が薄れて、真相は闇の中へと消えていくか・・・」

「そうだ。そして家伝法も小手先だけの改善を施されてなんとなく終わっていく」

「そんなことにさせちゃいけないよな。君も口蹄疫シリーズを百回まで頑張れよ」

「ありがとう。私はたいした力はないし、百回まで行くかどうかわからないが、少しでも口蹄疫の闇を明らかにしたい。そうでもないと殺されていった家畜や農家の涙がほんとうに無駄になってしまうから。ほんとうにそう思っている」

■写真 わが村の稲。昨日撮影。今年は前半の不良気味をかんぜんに持ち直しました。

2010年8月 7日 (土)

宮崎口蹄疫事件 その69  「大規模農場」で起きたこと

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「大規模農場」の謎は、通常では考えにくいことが相次いでいるからです。

まず第1の謎は、獣医師が4月18日に発症を知りながら、感染が複数頭になった4月22日まで口蹄疫という疑いをもたなかったとされていることです。

そう言っているのですから、そうなのかとしか言いようがありませんが、20日に口蹄疫を公式に県は確定していますし、それまでに疑わしき症例は疫学チームの概要でも10例近く出ていたはずでず。

公式に確定されていて、しかも地元で10例以上の発生を見ていて気がつかないということになりますね。よほど使えない獣医師だったと見えます。公式確定を出た後も、涎が出て、口のただれがあり、なおかつ複数頭に感染が拡大していても「口蹄疫だったとは思わなかった」とは、ほんとうに獣医師免許を持った人なのでしょうか?

しかしこの獣医師は、地元の獣医師でも家保の獣医師でもなく、社員寮に住むお抱え獣医師(社員獣医師)であることです。一般的な話ですが、お抱え獣医師は非常に特殊な思考形態を持ちます。会社の利益を最優先することです。

普通の獣医師は、なにか症状が出てから往診で農場を訪れますが、お抱え獣医師は農場に常駐しています。そして常に家畜を見て、それに応じてワクチネーションや投薬を計画して、実施します。農場にいることすら少ないオーナーや、入れ替わりの激しい現場労働者に代わって、家畜の健康管理をするのがその仕事です。

作業日報は農場長がするでしょうが、細かな衛生管理記録や投薬記録を作る立場です。にもかかわらず、たぶん大規模に蔓延していたであろう4月20日以降に、口蹄疫が自分の農場のある地域で発生したにもかかわらず、その疑いを持たなかったわけです。

「大規模農場」の言い分をそのまま受け取るとそのようなことになります。つまり、獣医師は届け出義務違反ではなく、単なる診断もできない無能な医師であった。これは獣医師としては二度と世に出られないことですが、なんの罪にもなりません。

なぜなら、届け出義務違反は立派な家畜伝染予防法や獣医師法違反ですが、「わからなかった」のは無能だったことを証明しているだけの話ですから。

お抱え弁護士がそう主張するのですから、それを疑う理由はありません。たぶん意図的隠蔽をしたのではないということです。

意図的隠蔽とは、18日に発症してからの6日間の間に何かしらの工作をすることですが、たとえば、発症が疑われるような牛を、立ち入り検査が来る前に他の系列の農場に移動させてしまうことなども可能性としてはありえます。

事実、後にえびの市に移動したことは疫学チームにより公表されていますが、これはあくまでも例外であって、当初の事例ではそんな意図はなかったことになります。そうお抱え弁護士が言う以上疑ってはなりません。

また「大型農場」が、出資を一般から募って収益を還元する特殊な経営形態ですので、自分のところの衛生管理ミスが疑われることによる処分は望ましくないということもあるかもしれません。しかし、これも「知らなかった」ことが原因だとお抱え弁護士が主張する以上、ありえません。

後は単純なパニックであったということも考えられます。この時期、宮崎県も含めて完全なパニック症状を呈しています。正常時にできるな判断ができずに、ズルズルと混乱を深めていく時期でした。

このミニ版が「大規模農場」の内幕で繰り広げられていたことは考えられます。ここのオーナー社長は、この事件の当初よりどこかに行ってしまい、お抱え弁護士がマスコミ対応するような、社会的な責任感の乏しさと、危機管理のなさを露呈していました。これは誹謗ではなく事実です。

このようなトップが不在で大規模パニックに突入した場合、その指揮を誰が取るのか、農場長か、防疫責任者たる獣医師なのかで混乱を来したことは憶測できます。

このような大規模伝染病が侵入した場合は、文句なくその職制の序列を通り越して獣医師が指揮に立つ権限を車内規約等で持たねばなりません。「大規模農場」の社内規約は知る由もありませんが、たぶん平時において危機管理が徹底していなかったと思われます。

そこで、参考になるのが、もう少し後の同系列高鍋で起きた5月21日の口蹄疫発症時の顛末です。朝に発症を見ながら、主任が朝ミーティングで「発症した」発表したその夕方に、今度は「なかった」と訂正するという文字どおりの朝令暮改です。(「宮崎日日新聞」8/6による)

まさに危機管理も、指揮管理すら疑われるテンヤワンヤの騒ぎです。これと同じことが起きていたのだと思われます。あんがい裏目読みより、このあたりが正解なのかもしれませんが、なんともいえません。だから「謎」なのです。

■写真わが村のハス池と民家。景観作物ではないのですか、ハスの花の咲く時期にはえも言われぬ極楽的風景となります。わが村は土浦に並ぶハスの産地です。

2010年8月 6日 (金)

宮崎口蹄疫事件 その68 「大規模農場」の謎

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7月19日の「宮崎日日新聞」の報道が、「大規模農場」報道の始まりでした。そこにはこのように報道されていました。記事をもとにして、この「大規模農場」を時系列で追うとこうなります。

■①4日18日に川南町の「大規模農場」で牛数頭によだれの症状を発見。獣医師(社員獣医師)は風邪を疑い、抗生物質を投与。

■②4月20日。県が口蹄疫と確定。

■③4月22日。「大規模農場」で、牛の舌のただれなどの症状が見つかる。

■④4月24日。更に2頭で同様の症状が見つかる。涎がおおくなったので、県家保に通報。

■⑤4月25日。「大規模農場」農牛の遺伝子検査で陽性判明。

■⑥5月23日。ワクチン接種。

■⑦5月28日。えびの市にある系列農場で疑い例。

■⑧6月7日。農水省疫学調査チームが、「大規模農場」とえびの市の関連農場について「家畜運搬車などを通じて感染が飛び火した可能性」との見解を公表。

この「宮崎日日新聞」報道でわかることは、4月18日に牛のよだれなどの症状を社員獣医師が発見したのだが口蹄疫だと判らずに、遅れること6日たって県に通報したとのことです。

4月20日以前は、他の病気の症状と判定がつかなかったという弁解をこれを発表した「大規模農場」顧問弁護士はしています。しかし、発症が複数頭いたことから伝染病であることは疑いようがなく、なぜ4月18日、遅くとも4月22日の時点で県家保に通報しなかったのでしょうか。

実際の通報は口蹄疫確定以降の4月24日にしており、確定から実に4日間たっての通報となります。この「大規模農場」は地元紙によれば牛700頭を飼育するきわめて大きな農場です。

とするなら、感染力のきわめて大きな今回の口蹄疫ウイルスは数日間でこの「大規模農場」を席巻し、多数の患畜が出ていた可能性があります。

そしてそのような感染拡大する状況下でありながら、「大規模農場」は、えびの市の系列農場に家畜を移動して、えびの市にまで感染を拡げてしまいました。これは推測ではなく、農水省疫学チームの公表見解です。

これらの6日間もの届け出義務違反と、不可解なえびの市への家畜移動は、単に道義上の問題にとどまらず、家伝法はもはより獣医師法に照らしても大きな疑問が残ります。

そして最新の追加報道が以下です。

宮崎日日新聞(8月5日朝刊より)
 経営会社の関係者によると、高鍋町の大規模農場で5月21日朝、牛舎の見回りをしていた農場主任らが大量のよだれを出している牛数頭を発見。この牛舎では直後に従業員の出入りが禁止された。

 昼頃開かれた従業員のミーティングでは、もう一人の主任が「口蹄疫が発生した」と発言。しかし、同日夕方のミーティングで「間違いだった」と否定したという。
 同農場ではその後、5月23日にワクチン接種を実施。県によると、農場側が牛の異常を家畜保健衛生所に届け出たのは25日で、翌26日に遺伝子検査で3頭が陽性となった。

さて、今回「みやざき甲斐」さんが新たにコメント欄に提出した疑問は以下です。
■① 同じ時期に「大規模農場」は。3農場ともワクチン接種が避けられない状態になるまで申告をせずにいた。

■② 6月24日から埋却処理に立ち入った時には3農場で200頭以上頭数が合わず。耳標番号も死亡したはずの牛が生きていたり、ここにはいないはずの牛がいたりしていた。

■③ 5月末の発覚以降、飼料給与を絞ったために6月24日の埋却処理に立ち入った時に、死亡した子牛も多数みられて、農場に患畜の死体が積み上げられた状態だった。

■④ 51あるパドックのうち15パドックしか県の立ち入り検査をうけなかった。採血検査も100頭(*「大規模農場」は700頭規模)のみだった。

■⑤ 処分を免れた西都の系列農場から、制限解除以降名古屋に出荷されている。20カ月令の若い牛をなぜ出荷を急ぐのか。

■⑥ 以上から家伝法違反・獣医師法違反(知ってて届出義務違反)、トレサビ法違反(耳番号)、出資法違反(オーナーへの虚偽報告…牛の居場所)。このように家伝法に違反した農場に補償金はおりるのか?

また「りぼん」様より以下の情報提供がありました。ありがとうございました。
■① 制限解除後の「大規模農場」からの出荷は、都城からなのか、西都なのかは、名古屋市食肉衛生検査所からの情報ではわからない。

■② ただし、宮崎県産のと畜量は、4月20日以降、移動制限全面解除までは減ったが、現在は4月以前に戻っている。

■③ と畜場では、口蹄疫は目視検査しかしないので、症状が出て居なければそのまま流通する。

以上の数々の謎は、県の調査待ちです。残念ですが、今の県の調査姿勢では、多くを望めないでしょう。
私のブログでも新聞報道がなされるまでは記事化できませんでしたし、現在に至るも顧問弁護士を抱えた「大規模農場」に対しては名誉棄損訴訟を避ける範囲を超えられない制約下にあります。

ただしコメント欄はブログ記事とは違い、一種の掲示板ですので、私の法的責任の外にあります。根拠のない風評や誹謗中傷、名誉棄損的コメントは私が管理者として適時削除しております。

宮崎県口蹄疫事件について情報や知見をお持ちの方は奮ってコメントをお寄せください。心よりお待ちしています。

■写真 村の道祖神。

 

2010年8月 5日 (木)

宮崎口蹄疫事件 その67  「みやざき甲斐」さんの重要なレポート

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「みやざき甲斐」さんから重要なコメントを頂戴しました。内容に鑑みて全文を再掲載いたします。

[以下引用]

水牛農場が当初6例目からいきなり1例目に遡った経緯。農場側も獣医師も正直に調べてくれ、と訴えていたのに。
・3月31日採材:スワブ採材と採血検体
・3月31日の一例目発症と確定さかのぼった検査結果はスワブのみ。(県が報道陣へもコメント)
・なぜここだけ「侵入が3月中旬だった」と疫学調査チームは断定出来たのか。安愚楽牧場の遺伝子解析はどうなったでしょうか。水牛農場での3月31日の抗体検査のデータはいつ判明し、どこに行ったのか?

 宮崎のほかの地域でも「水牛が持っていた」「研修生を入れていたのを隠していたから蔓延させた」と結論しつつ有ります。
 日本でここでしか触れられなかったモッツアレラチーズを身体一つで作り上げてきた農家さんでした。県も視察するルートに組み入れていた様な農場です。今までとは手のひらを返した様な。県も知事も何も擁護する姿勢がなく、国の疫学チームの結論をそのままにしています。

地元でも、ネットでも奇妙に具体的に流れる噂。本人が、地元への配慮でやんわり否定されるだけにされていて。何も反論なされないので県内でも他の地域でも感染した水牛を持ち込んだ、という話さえ定着しつつあります。
そこへ国の疫学調査の発表内容です。

 本当は「大規模農場」で部外者からの発生申告で、発覚した時の遺伝子検査が解明のカギだと思います。(ここの大規模農場と水牛農場の飼料業者は共通しています。)
ブルーシートでウイルス隔離出来ないか検討する程の発症頭数。その時の採血からの遺伝子検査内容を発表せず、水牛農場のみを強調する国の姿勢、それに同調すらしている県の姿勢を疑問に思います。

 飛び火発生の時に細かく業者や農家を回った様に、今回も安愚楽牧場に関係する業者、獣医師、初発10件の農家全てを回ることを期待していました。意図的に調査チームの立ち入りポイントを決めている気がします。
 飛び火発祥の時も協力運送業者のせいにされかかっていました。それに打ち勝ったのも本人達の反論のおかげでした。再度疫学調査もやり直していました。

 担当獣医師の方も実名で取材に応じられて、勇気ある発信をなさっています。10年前の宮崎での口蹄疫で、発生をすぐに疑って検査を依頼された獣医師さんは、地元ですら「なんであんな大げさになる様に検査させたんだ」と非難されていました。あの時も県が主体的に初発についての具体的調査結果を公表しなかった事が影響し、やり場のない力が獣医師さんへ向かった様な感じでした。
 
 本来は初発でなかった可能性がまだ残っている農家を意図的に初発にしてしまう事になれば、今後もいよいよ感染疑いの農場が申告しにくくなってしまう事を危惧しています。

[引用終了]


このブログにお越しの方はご承知でしょうが、「みやざき甲斐」さんは地元で発生当初より、被災農家に対して献身的に地元を元気づけ支援をし続けた人です。私は氏のこの2カ月間の誠意溢れる人柄と活動を熟知しています。

また、コメントされる膨大な情報もネットから探してきたものは一切なく、自らが現地に出向き現地の人たちから直接に得たいわば「脚で稼いだ情報」で、非常に信頼性が高い内容でした。

今回のこの頂いた情報もそのひとつの集約点とでも言うべき内容です。何回にわけて考えていきたいと思います。

内容的には多岐にわたっており、整理をすれば以下になるかと思います。
■① 3月31日の水牛農場のスワブ採材と血清検査において、検査結果の公表がなぜかスワブのみで、血清検査が公表されていないこと。それにもかかわらず、疫学調査チームが「侵入は3月中旬」と断定し得たのか。

■②「大規模農場」と水牛農場との飼料配送会社のつながりの可能性。

■③「大規模農場」における疫学検査で、非常に大量の発生をみたにもかかわらず、遺伝子検査の結果を公表しない国と県の姿勢。

■④「大規模農場」からの感染拡大の疫学調査が徹底されておらず、恣意的に選択されている可能性。

■⑤水牛農場が実は初発ではない場合の可能性。

先日来、私は今回の事件が中途半端な疫学報告が、かえって宮崎県内の「噂」を固定してしまう危険を指摘し続けてきました。

また3月31日の疫学調査も水牛農場では、スワブと血清検査が同時に行われているにもかかわらず、スワブのみしか発表されないために過去に抗体が上がっていたのか不明瞭なまま「3月中旬」にまで遡って初発農場とされているいきさつの不透明さがあります。

なぜ「3月中旬」が初発なのかは、初発農場を確定する上できわめて重要である証拠なのにもかかわらず、その決定的とも言える疫学証拠が開示されていません。

また同様に、感染拡大をえびの市にまで拡げた安愚楽3農場の検査方法が非常に不徹底であり、恣意的であることも指摘されてきました。

今回の宮崎口蹄疫事件においては、家畜防疫員が殺処分に駆り出されてしまったために発生動向調査がほとんどされないという異常事態が前提としてあり、その結果が初発とされた水牛農場での検査結果の不透明さや、感染拡大のハブとなったと思われる安愚楽農場での恣意的な検体選択などにも現れています。

このような不透明かつ不徹底な調査がまかり通って真相解決を歪めています。困った現象です。

次回よりもう少し細かく検証いたします。

2010年8月 4日 (水)

宮崎口蹄疫事件 その66   官僚の伝統芸のスゴサとは

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人を殺すにゃ刃物はいらない。「噂」を立てて、じっくり待てばいい。そんなやり方が今のお国のやり方のようだ。あ、もちろん口蹄疫の話だ。それと今日は文体を崩すんで、いつもの端正な(笑)文体の方に馴れている方ごめんなさい。

疫学調査チーム第4回報告書概要という長ったらしい(これでもはしょってある)モノが出て、どひゃと気が抜けた。ああ、そう言う古典的生殺し術でやる気なのね。またなのねぇ~!とビンテージ武井(だったっけ)のように叫びたくなった。

よくやるテだよ、官僚が。第6例までは疫学的に逃げようがないから初発と確定した、と。

第6例初発と書いたら、ここが日本の感染ルーツのどん詰まりなんだから、「ここに初めに外国から入りました」とお国は言っているわけだ。なら、もうここから遡及するしかないわけっすよ。

え、宮崎県へのアジアからの観光客ルートもあるっしょって。ないよ。だって、なら中国人観光客なんかわが茨城空港からわらわらとウンカのように来てるもん。韓国とも上海とも直行便ある。これがなんと往復4千円だぜ。関係ないか。

でもわが県は今のところ大丈夫らしい。観光客なら、もう全国アッチコッチで出てるよな。

輸入器材は感染可能性としては残るが、調べれば特定なんか簡単だ。ならもう「人」しか残らないよな。

そして概要をよく読むと、「分離されたウイルスは今年に入って、韓国、香港で確認されたウイルスと遺伝子配列がきわめて近似している」と言っている。なにかもったいぶった言い方だが、気をつけてほしいのは、「韓国、香港」とあってあの中国がないことだ。

このような疫学報告書は必ず重箱の隅をつついたような書き方をする。可能性を列挙する。めまいがするほど呪文のような専門用語を羅列してズラズラ書く。だから概要に中国が「ない」ことは、疫学チームが中国からの感染ルートは「ない」と思っていることだと私は思うよ。

同じ理由で中国からの輸入藁もなし。ここからだったら全国に出てる。概要にもスッパリ否定してある。

となると、疫学チームの概要は、そこはかとなくひとつの方向を見ろと言っているのがわかる第6例が初発だと、そして韓国か香港から侵入した、と。私たちには常識の範疇だが、そうお国も言っているんだろうな。

これを読む者はとうぜんこう思うわな。「第6例に韓国、香港から侵入した」って。そう明らかに書いていないが、そうとしか読み取りようがないじゃないか。いちおう香港って書いてはあるが、これは疫学上の可能性で、実際は第6例と結ぶ線がないのは周知の事実だから、「韓国から第6例に(人を媒介にして)入った」と言ってるのも同然だ。

そしてそこで出てくるのが、巷間の「噂」、ルーマーだ。今、これには触れたくない。誰が発信源で、誰が流したか判らないがひとり歩きする。まだ状況がホットだから真実と悪意のうわさを分別できるし、この私もせっせとやってはいるが、やがて半年、一年たてば噂は有象無象が合体した「事実」とやらになっていくんだろう

だから今私が問題としたいのは、お国のやり口だ。ここまで書いて寸止めにしたその方法のえげつなさだ。

なぜか?たぶんなんかお国に痛いハラでもあるんじゃない?それ以上概要で書くと我が身可愛さの権化である官僚の責任問題に飛び火するようなナニカが。

だからここで寸止め、生殺しにした。お後は巷間の「うわさ」にお任せしますってね。皆さんご承知の「うわさ」については、お国は否定も肯定もしませんよ。想像して下さいね、というわけだ

そんなことを匂わせれば口さがない連中は活気づく。そしていつの間にか噂が「歴史」になってしまうという寸法だ。

なんてインケンなんだ。自分の責任も逃げられて、しかも自分はそんなこと言ってないとシラばっくれることもできる。ほとんど芸術的だね。官僚の伝統芸だ。

しかしこんな幕引きで本当にいいんだろうか。ほんとうにいやな夏だ。

2010年8月 3日 (火)

宮崎口蹄疫事件 その65  宮崎事件をウイルス・テロだとする説は迷惑だ

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私はウイルス・テロというのは大いにありえる侵入ルートだと思っています。しかし、このことがわが国政府で真剣に考慮された節はありません。あくまでも口蹄疫は農業問題、農水省管轄下という切り取られ方をしています。

それではなぜ、英国の口蹄疫緊急対策で、DEFLA(デフラ・英国農務省)が中心となって警察や外務省、英軍にまで対策チームの連絡官の派遣要請するのでしょうか?

理由が単なる口蹄疫の外国発生状況の提供ならば、FAOやOIEの窓口であるDEFLAが押えているはずですし、同じく外国への発生通告ならばなにも外務省や警察関係までも必要としないでしょう。

このように消去法的に考えていくと、DEFLAは口蹄疫がウイルス・テロであった場合も念頭に置いて対策をたてていると考えられます。ましてや、全世界のテロリストの主目標である米国のUSDA(米国農務省)に至っておやです。

危機管理の鉄則は「最悪の事態を想定せよ」です。日本の家伝法や防疫指針の精神は逆に「すべての関係者が法律を遵守すること」を前提にたてられています。届け出義務にしてもしかり、殺処分命令にしかり。一切が善意の人たちばかりであることをあたりまえに考えて対策を立てています。

初めからそのような法律を遵守する気持ちがない者、つまりデロリストのように意図的にウイルスを持ち込もうとする人達に対してはまったく想定すらされていません。よくも悪しくもあまりにも「日本的」です。

テロリストは皆んな工作船でしか来ないのでしょうか。原発や軍事目標しか狙わないのでしょうか。たぶん、好むと好まざるとに関わらず、9・11同時テロ以降の世界は、もはやそのような時代ではなくなってきているような気がいたします。

少なくとも英国、米国、欧州各国、韓国など諸外国はそう考えておらず、口蹄疫緊急対策を立案しています。だから、口蹄疫緊急対策が対テロ防衛と酷似しているのです。

では、このように書いたからといって、今回の宮崎県の口蹄疫発生がウイルス・テロであったかというと、私は大いに疑問だと思っています。

一部のネット界では「定説」の観すらあるウイルス・テロ説はこんなストーリーです。まず東アジア某国、はっきり言えば韓国が主犯とされているようです。というよりか、初めから「犯人」は決まっていて、それに合うようにストーリーを作り出していると言ったほうがいいでしょう。

まず、宮崎県種牛の精液盗難事件をI強引に結びつけます。この動機は韓国が優秀な宮崎牛の血をほしかったからだとされます。しかし、宮崎牛は確かに日本屈指の優秀な品種ですが、しょせんはと言ってはなんですが交配種です。ほんとうに盗むならば、日本の黒毛和牛の元祖である関西の某系統ではないでしょうか。

そしてどんどんこのストーリーは飛躍していき、盗んだ宮崎牛のオリジナルに打撃を与えようととして、ウイルスを持たせて第6例に行かせ、それに民主党議員も絡まった、というふうに展開していくわけです。

典型的なトンデモ陰謀論です。このテが好きな人は多いのですよね(ため息)。有名なものには、9・11同時テロが米国の自作自演であったとか、果ては米国のアポロ11号の月着陸はなかっただとか(爆笑)。
まぁトンデモ話として聞いている分には反論する気持ちすら起きないのですが、こと私たちが真剣に考えている口蹄疫事件にまで、こんなトンデモ陰謀論を吹っ掛けられると迷惑千万です。

簡単に検証してみます。まず、3月に第6例に韓国から訪問団が来たことは事実は当事者から反論されています。また彼らがウイルスを持ち込んだというのならば、その時の韓国のウイルス株はA型でした。

しかしご承知のように宮崎県で発生したウイルス・タイプはO型です。それは3月に東アジアのウイルスがA型からO 型にシフトしているからです。ですから、韓国から第6例が持ち込まれたのならば、A型でなければなりません(これに関しても異説があります)。

ここで既に韓国ウイルス・テロ説の大前提は崩壊しました。実はこのウイルス・シフトは頭が痛い問題で。初発の第6例の侵入ルートをめぐってはまだまだ解き明かされていない謎が沢山あるのですが、このトンデモ陰謀論はそんなレベルではなくて、単純に韓国から訪問団が来たろう、彼らが持って来たに違いないというお粗末なレベルの話です。

そもそも動機が判りません。種牛の精液などは合法的に入手する方法がなにかしらあるはずで、こんな大規模ウイルス・テロをしてまでやるようなこととはとうてい思えません。

またこんな燐国でウイルステロをやったら、自分もとばっちりを受けてしまいます。韓国では去年の冬からずっと発生が小規模ながら続いており、3月に発生、4月に鎮火、5月に再発生と、発生と鎮火をくりかえしています。こんな不安定な状況で海峡を超えて飛び火する可能性がある燐国で、わざわざこんな大規模ウイルステロをするはずもありません。自分たちの防疫がかえって大変になるだけですから。

となると「誰が」という犯行主体となりますが、下手をすれば自分にも飛び火する可能性がある畜産業界人がするはずもありません。得られる利得より、失う危険のほうが大きいからです。

ならば国家となると、もっとありえないでしょう。それは国家テロほど割に合わないリスキーなものはないからです。かつてのリビアのパンアメ機爆破テロや、北朝鮮のラングーン事件や大韓航空機爆破など、すべてが白日にさらされています。

口蹄疫ウイルス・テロにおいてももし発覚した場合、政権が潰れるていどでは済まず、深刻な韓国の孤立を来すはずです。FAO、OIE、あるいは口蹄疫研究国際同盟からの永久追放、安保理非難決議などが加えられるかもしれません。
最悪の場合、米国によるテロ国家指定と米韓同盟の危機にまで発展します。そんなわかりきった愚行を、宮崎種牛の精液をほしいばかりにするでしょうか。常識で考えてほしいものです。

要するに、韓国ウイルス・テロ説はまったくの妄想にすぎません。しかし、だからと言ってウイルス・テロの可能性は口蹄疫緊急対策の中のひとつの柱とすべきことにはかわりありません。

たとえば空港や港の防疫の徹底をするだけでも違います。宮崎県やわが茨城県には空港から直接に大量の中国人、韓国人観光客が訪れています。空港に踏み込み消毒マット設置を義務化し、消毒ブースを設置,するだけでも状況は大きく改善するはずです。

また畜産関係での外国人労働者の登録義務づけも必要となるでしょう。特に農場レベルでの外国からの来訪者名簿と家保への定期的提出義務づけは必須です。

つまりは、仮に口蹄疫がウイルス・テロであったとしても私たちはやることは同じだと心しましょう。数時間以内に初動制圧が可能となる包括的緊急対策があれば少しも怖くないのです。

このような抜本的なことに眼を向けずに、隣国への反感のみを煽ることを目的とするトンデモ陰謀論は、その意味でも危険だと私は思います。口蹄疫に関して必要なことは、東アジアでの国際的防疫体制作りであって、憎悪を煽ることではないはずですから。

■写真 月見草。咲き始めの薄桃色。

2010年8月 2日 (月)

宮崎口蹄疫事件 その64  ウイルス・テロ説を考える

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この宮崎口蹄疫事件を振り返ると、口蹄疫ウイルステロ説が一部のネット界では定説のようになっていることに気がつきます。

ひとつのウイルス・テロ説の流れは、東アジアのいずれかの国によるテロ陰謀説で、かなりぶっ飛んでいる印象を拭えません。

そしていまひとつのウイルステロ説の流れは、今回のような悪性海外伝染病に対して、弥縫的な対策を繰り返すのではなく、国家的な危機管理体制を作るべきだという考えの中から出てきています。

たとえば英国や韓国での口蹄疫緊急対策は、ロンドン地下鉄テロや9・11同時テロとまったく同様な位置づけで、口蹄疫を捉えています。この基本方針は、世界的には珍しくない考えで、むしろ主流なのではないかと思われます。

WHOは「食品テロリストの脅威」という文書の中で、水道や食品の中にウイルスを混入させるテロリストに対して警鐘を鳴らしています。米国のUSDA(米国農務省)は、国内に口蹄疫ウイルスを散布されたケースを前提にして全国に、口蹄疫診断施設を設けました。

また国際的な口蹄疫情報センターとして、USDAは「世界口蹄疫研究同盟」(Global Foot &Mouse Disease Research  Al liance  )を設立しました。この世界的ネットは米国を中心として英国などの欧州諸国、そして韓国などが含まれています。口蹄疫に対する世界的な安全保障体制の前段の国際的研究情報体制と考えていいでしょう。

そしてその口蹄疫診断施設の中核として、USDAはDHS(化粧品メーカーではなくて米国国土安全保障省)と共同で「プラム島動物疾病センター」Plum Island Animal Disease Centerを立ち上げています。この研究施設の主な研究対象は口蹄疫です。ここで農務省はともかくとして、大規模災害やテロに対する国家緊急組織であるDHSが出ばってくることに注目してください。

これは明確に農業テロを想定していることを意味します。
ではなぜ、口蹄疫なのか?それは口蹄疫が「貧者の核爆弾」だからです。簡単に入手でき、簡単に国境を超えことができ、簡単に相手国で散布が可能なウイルス兵器は、口蹄疫がもってこいだからにほかなりません。

これが冷戦期のような天然痘、ペストなどとなると持ち込むテロリストの側にもそうとうな覚悟と安全措置が要求されます。下手をすれば自分もおっ死んでしまいますものね。しかし、口蹄疫は、人体には無害ですし、安直にウイルス株を採取できる非清浄国はゴロゴロしています。

また口蹄疫は防ぐ立場になると大変な防疫体制と診断研究施設(が必要となりますが、テロ兵器として増殖させるとなると特殊な研究施設は要りません。発生地で患畜からもらえばいいだけです。

そして実行も、口蹄疫ウイルスをたっぷりまぶした靴を履いて入国するだけでいいのですから、こんな安直かつ安価なテロの方法はありません。しかも、国境検疫で見つかっても、爆弾などと違って知らぬ存ぜぬを通せてしまいます。

この口蹄疫ウイルスを相手国の農業の中心部にバラまけば、大きな経済的なダメージを与えられますし、一時的に行政や交通網を麻痺させることも可能となります。そしてなにより社会不安や政府への不信を醸成することができます。

防疫に失敗して全国に飛び火させれば、国家経済に打撃を与えることも可能です。事実、5月中旬わが国はこの状況の淵にいました。

さて、口蹄疫ウイルスの採取は簡単だと書きました。東アジアではなんといっても中国という世界最大の非清浄国があり、北朝鮮は言うも愚かです。しかもご丁寧にも、「人民戦争」という非正規戦(ゲリラ戦)が伝統的に大好きなお国柄ときています。

こんな国に周りをズラリと囲まれて、韓国が米国と口蹄疫の国際的安全保障体制である世界口蹄疫研究同盟に加盟して、有力な一角を担っているのは当然すぎるほど当然なことです。日本がのんきなのです。

このシリーズの英国の口蹄疫緊急対策で、デフラ(英国農務省)が初動において直ちに閣僚、関係省庁と情報と指令を共有する緊急対応体制を構築し、初動制圧チームを数時間以内に現地に投入できる体制を持つことを見てきました。

家伝法の改正がなされるようですが、このような包括的な国家危機管理体制を作る意志がなければ単なる対症療法に終わることでしょう。

次回は、現実に今回の事件が人為的なウイルステロであったかを考えてみましょう。

■写真  私の村は「弐湖の邦」といって、ぜいたくにもふたつの大きな湖にはさまれた湖岸にあります。この写真は霞ヶ浦ではなく北浦の湖ほうですが、わが地元では北浦は北浦、霞ヶ浦のほうは「西浦」と呼んだりします。

2010年8月 1日 (日)

宮崎口蹄疫事件 その63   鹿児島側消毒ポインの写真

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本日は「みやざき甲斐」さんの送って頂いた情報をアップします。彼は実にたんねんに宮崎県内の被災地を自分の足で調査し続けている尊敬すべき方です。農水省の疫学チームに彼のような人がいれば、あんなハンチクな報告書は出なかったと思います。

まず、最初の写真は鹿児島県菱刈の消毒ポイントです。通過義務づけポイントで、ここで消毒を受けて、2番目の写真にある証明書にスタンプを押されます。撮影日は昨日の7月30日ですが、この写真でわかるように鹿児島は今までと変わらない厳しい防疫体制を敷き続けていることが判ります。

鹿児島県内には、飼料工場やと場もあり、宮崎県からの畜産関係車両も多く越境しています。2カ所の消毒ポイントを通過して、スタンプを押してもらえないとこれらの工場に入場できない仕組みになっているそうです。

Photo 

3番目は同じく菱刈の車両用消毒マットです。

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4番目は高鍋のローソンの全車両消毒ポイントです。ローソンのような一般車両が集まりやすく、駐車場が広い場所に置いてあるのは大変にユニークで有効な方法だと思います

Photo_3

「みやざき甲斐」さま、ありがとうございました。今後もよろしくお願いいたします。

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