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宮崎口蹄疫事件 その78 殺処分を委託業務解釈することから見えてきたもの

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今回の宮崎口蹄疫事件がどうしてこんな感染爆発をしてしまったのか、を知る上でいくつかの原因があります。

今日はこの初動制圧の失敗の原因のひとつにあげられている殺処分の遅れをみてみましょう。この間、非常に専門的知見がたくさん寄せられてとても勉強になりました。このブログは私が教えてもらうためにあるようなもんですな。

この処分遅滞問題は埋却地の絶対的不足と相まって、感染拡大の引き金になってしまいました。

患畜として処分を決めた家畜が、処分仕切れないまま数万頭という単位で滞留し、そこから膨大なウイルスが放散されて、地域の汚染濃度を濃くしていき、いっそう感染が加速していくという悪循環でした。

その上、先だってふれたように、5月下旬以降はその処分しきれない待機患畜の上にワクチンを打った後の処分予定16万頭が更に積み重なるという二重の泥沼を引き起こしてしまいました。

この原因のひとつに、家畜伝染予防法(家伝法)の読み間違いによる家保獣医師を殺処分にのみ動員したことが上げられます。家伝法16条にはこうあります。

第16条 家畜の所有者は、家畜防疫員の指示に従い、直ちに当該の家畜を殺さねばならない
一、(略)口蹄疫
二、(略)口蹄疫の(略)疑似患畜
三、 家畜防疫員は、(略)緊急の必要がある時は、同項の指示に代えて、自らこれを殺すことができる。

この家伝法第16条は読み間違える余地なく、「処分は家畜所有者の義務だ」と解釈できます。ですから家畜所有者が業務委託すれば、委託作業は誰でも請け負うことが可能です。獣医師免許を所持することなど要件のどこにも書かれていないからです。

となれば、あくまでも法律解釈上は、獣医師法に基づいて家畜防疫員(家保獣医師)の診断と指示を受け、家畜所有者から受託されさえすれば、家保の獣医師でなくとも、受精師でも、いや建設作業員でも、自衛隊員でも可能だということになります。

もちろん現実には、大型家畜である牛、豚を暴れさせないようにして、苦しまさせずに静かに処分することは一定の扱った経験と訓練が必要です。

これはやってみればすぐにわかります。この私などは研修生時代、何度牛の左足後ろ蹴りを食らってアバラにヒビを入れられたことか。はたまた哀れ、発情した種雄豚の下敷きになって牙にかかって死ぬのかと観念したことも幾度か。雄豚に殺されていたら、親が情けなくて泣いただろうな(苦笑)。まさに豚児。

家保の獣医師といえど、新米の医師など大型家畜には触ったことが少ししかありません。今どき大型家畜を扱う獣医師を志願する若者は希少価値で、だいたいは犬猫ペットコースに行ってしまうそうです。

それを家保の獣医師のみに処分をさせたのですから、処分に著しい遅滞が生じて当然でした。また全国の家保から緊急動員された獣医師やボランティアの獣医師も同様に処分に駆り出されました。

家保獣医師は、獣医師にしか出来ない発生農場からの感染拡大を調べる発生動向調査や、どこから侵入したのかを調べる遡及調査などに専念すべきでした。

処分方法は、その状況と条件に応じて、鎮静剤を与えて(獣医師免許必要)からの静脈注射でも、電殺でもよし、今回もとられたようにトラックで集めて、ブルーシートを被せて包み込み、催眠性毒ガスを注入することもできるでしょう。

いずれにせよ、むごいことです。人間の都合で殺される家畜に対してはとうぜんのこととして、殺す側の人たちも敬意をもって遇せられる仕組みを作らねばなりません。

さて、今私が述べたことはすべて家伝法第16条の法律解釈上そう言えるということに過ぎません。現実には、家伝法の法律解釈は無視され、長年の農水省の防疫指導(農林水産省令)が存在します。これは、家伝法や防疫指針にくどいように書かれ、農水省に速やかに報告し、速やかに指示を仰ぐ必要があります。

これは家伝法第5条をみれば理解できます。

第5条 都道府県知事は農林水産省令の定めるところにより、家畜又はその死体の所有者に対し、家畜又はその死体について、家畜伝染病又は届出伝染病の発生を予防し、又はその発生を予察するため必要があるときは、その発生の状況及び動向を把握するための家畜防疫員の検査を受けるべき旨を命ずることができる。

「都道府県知事は」が主語でありながら、「農林水産省令の定めるところにより」という文言で、その上位概念を存在させています。良くない法律文言の書き方ですな。こういう書き方をするから恣意的な解釈が生まれるのです。

それはさておき、さしずめ本店が農水省、支店が県(知事)、出張所が地域家保といったところでしょうか。つまり三重の塔よろしく、家畜所有者は家保に、家保は県に、県は農水省に報告して、農水省令に従って指示を仰ぐ縦割り関係にあるわけです。これが実態です。

ちょっと待てよ、これですと家畜所有者(農家)がいない!すると農水省にとっては番外か(笑)。そう、農水省にとっては家伝法上は処分は「家畜所有者の義務」として書いておき、事実、法解釈上は家畜所有者の委託業務が可能でありながら、現実には農家委託など視野に入っていないようです

まさに官尊民卑。中央集権。農水省は法定委託業務として県に防疫を丸投げしているわけですから、失敗すれば「県知事が悪いといわんばかりの切り捨て方ができます。実際に赤松前農相はそのような発言をしています。

カネも出さない、ヒトも出さないが、口だけは出す。なんという国にとって都合のいい構造であることか!こんなことをするから種牛問題で県にリベンジされるのです。

たかだか処分を誰がするのかという極小から見ても、このようなゆがみが見えてきました。家伝法を改正することは、枝葉の修正にとどまらず、このようなゆがみ全体を洗い直していかねばなりません。

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口蹄疫問題」カテゴリの記事

コメント

なんと言うか…
良くも悪くも法解釈の曖昧さなのか、頭痛いなぁ。
国も遅ればせながら金は出したわけだけど、釈然としないですね。
委託業務というか「ヤバいかも…じゃあいつでも丸投げでOK!」って感じで。

一方で今の政権と日銀の無能(もちろんそれだけじゃないけど)のおかげで、大手スーパーで「円高還元食肉フェア」で消費者が喜んでる姿を報道されてます。
もちろん安いのは嬉しいかぎりですが、ホントにこれでいいのか?と強い疑問を持ってます。

過去ログの綺麗なタテハチョウの写真見ました。
こちらでは最近めっきり減りました。
かつて庭や公園で地味ながら普通にいたイチモンジセセリ(あの蝶蝶っぽくない4枚デルタ翼の感じがカッコイイ!)なんか、すっかりいなくなっちゃった…。
ウチの前の小さな公園じゃ、20年前は死にかけたクジャクチョウが地面で力無くパタパタやってるのをよく見たんですが、全くいなくなりました。
「ギフチョウ」や「チョウセンアカシジミ」は保護運動がされて報道もされてるんですけどねぇ…。

テーマ外れ話題の長文失礼しました。

投稿: 山形 | 2010年8月21日 (土) 11時12分

このことは、あいまいさを論ずるより、家畜防疫員以外殺しては駄目です。など、限定的に、明文化するように、国に迫った方が、良いです。(今回の実例を根拠として)

そう迫ることにより、本質が見えてきますので。。

解釈論は、時の政府が、自由に解釈しますから。。

投稿: りぼん。 | 2010年8月21日 (土) 12時54分

家伝法だけが、知事の責務だけではありません。 伝染病の基本になる法律は。

趣旨は、「伝染病の防御の機を失せず病毒の襲来を防ぎ、病勢の頓挫を期すべく、予防上至上の効果を収むべきを信ずる。」

伝染病予防法
(明治三十年四月一日法律第三十六号)
明治三十年五月一日
平成六年七月一日法律第八四号


1条4項
都道府県知事ハ第二項ノ規定ニヨリ予防方法ヲ施行スル必要アリト認ムル伝染病発生シタルトキハ其ノ性状ヲ記シ且此ノ法律中其ノ適用スベキ規定及此ノ法律ヲ適用スベキ地域ニ関スル意見ヲ付シ厚生大臣ニ報告スベシ


にあります。 日本人なら多くが知っていたものと思います。

知事には、現地最高司令官としての権限が与えられています。
予防接種法もしかり。

 医師たちは、これは人権侵害であることから、改正を働きかけて、感染症法になります。 

現地疫学調査専門家養成も、堺のO-157がきっかけで、作られる事になります。

家伝法第五条に関する事は、感染症法15条にあり、2項には大臣の代執行ができるように成ってます。

、「農林水産省令の定めるところにより」
は、憲法>法令>政令>省令>通知=条例>通達と、厳守しなければならない法の順位があり、すべての国民が遵守の必要があります。

投稿: omizo | 2010年8月21日 (土) 13時47分

殺は獣医師しかできない。は、質問主意書にて、国会議員よりなされれば、回答があります。薬事法以外での殺処置は法的に置いて。

投稿: omizo | 2010年8月21日 (土) 13時53分

濱田様
ご無沙汰してしまってます。
進んでいる事
①8月27日までに堆肥の発酵処理を必死に進めています。副資材(鶏糞)の協会同士の協力によりまとまった量が提供される事になりました。
来週より川南地区へ他地区より作業応援も集中的に投入されますので、メドが付いて来ました。
②安愚楽牧場の訴訟、宮崎地裁で20日から始まっています。謝罪広告と慰謝料500蔓延を求めて。紙面掲載された企業側が事実誤認を訴えた点については旬刊宮崎側は事実誤認を全面否定。
拡大ルートの解明にも繋がるポイントです。

進んでいない事
①1例目の侵入ルートの調査。韓国側へ問い合わせ裏付け。畜産関係者以外にも近所に人はいますので、効いてみると良いでしょう。何もなければ侵入するはずがないのがウイルス。
②使用されていない稲わら説(飼料)も出されてきています。

今回は10年前と同じうやむやにはさせない、という意見多数。(再発防止)

投稿: みやざき甲斐 | 2010年8月21日 (土) 16時25分

②使用されていない稲わら説(飼料)も出されてきています。>>>>>これについては、根拠がないです。1月の時点で、韓国からの稲わらは、輸出入ストップです。当時は、A型。
韓国O型と日本のO型は、発生が、ほぼ合い前後しています。

科学的には、韓国稲わら説は、無理があります。
中国稲わら説も、指定工場からの輸入しか認められていませんので、根拠が薄いと思います。

もちろん、稲わらが原因とすると、もっと、明確に、発生農場がわかるはず。

http://www.geocities.jp/enelizer3/

ここに、松井さんと言う方が、生石灰で、堆肥を作る実践記があります。参考になりますか?

投稿: りぼん。 | 2010年8月21日 (土) 17時15分

個人的には、感染ルートの調査はほぼ不可能でしょう。 思い当たるところはありますが、検体も保存されていますし、3ABCで検出できるかの量の問題が残りますが。 農水ではないのでやらないでしょう。

 人なら、香港、香港周辺中国へ行ったものを、確認した方がまだ確率はあります。 塩基が、中国はOIEに出してませんから不明です。また、大連積み出し分は、農水の審査官つきですし、わら育成地域でのFMD発生はないです。  畳用がとの話も出てますが、積み出しが同じですから。殺菌済みです。

 堆肥化への問題は深刻と聞きいています。 消石灰が混入していますし、醗酵温度が60℃まで、均一になり難いとの声も上がっていますし。 消石灰を多く投入での方法は、どうなりましょう。 

また、補償金の話は進んで下りますでしょうか。
 

投稿: omizo | 2010年8月21日 (土) 19時37分

>みやざき甲斐さん:16時25分

にある「松井」です。失礼します。ご覧いただきありがとうございます。

「生石灰で堆肥」ではなくて、「生石灰で、家畜糞尿を殺菌して、農業資材」となります。
原料の糞尿を水分90%程度の泥状にして、10~15%の生石灰を加え10分程の撹拌で殺菌が完了します。その後は床に展開して通風乾燥して固体粉末とします。
強いアルカリ液に長時間浸漬され、菌類、ウイルスなど生命体は一切死滅します。タンパク質、核酸、生体膜が低分子量化されます。蟻酸、酢酸、プロピオン酸等のカルシウム塩が生成物です。
ただ、糞尿に含まれているミネラルは全部残ります。
繊維はそのままです。
畜産の売上の半分程度が糞尿処理費になり、しかし、些少の利益を乗せて販売されています。処理費の人件費を含めて、畜産の負担はありません。
それで、30年ほど前から続き、今、数千haで利用されています。この生産者が栽培するほとんどの品目に利用されています。
この資材の利用を前提に栽培を組み立てているからです。
糞尿の有機炭素がそっくり残っていますので、後は、NPKの化成肥料で施肥設計します。
堆肥と言っていいのか判りません。ただ、土壌化利用資材と大きく印刷してます。
個人的には「COH肥料」「炭素肥料」「エネルギー肥料」というものと考えています。言い換えれば、光合成産物を根から吸収させていると考えています。

この場をかりて、紹介させていただきました。
ありがとうございます。

投稿: ツイッターの旅人 | 2010年8月21日 (土) 20時26分

りぼん様
ご提示ありがとうございます。少し時間が不足するのが残念ですが、今後の進む道の一つとしては検討されるべき方法です。生石灰は初期に扱いが悪く、発熱するから禁止、になってしまいました・・・。
 また「高品質」韓国稲わらに関しては1月の最終通関分までは流通しています。それをこじつけるには無理が有りますが。
 扱っていた運輸兼業者はかなり共通してしていますので初発での感染ルートでは有りません。その後の感染ルートの一つとしては有り得ますが。(軒先までの乗り入れ)
県施設への視察と○牛農場への技術目的(否定されたのは研修目的、研修JICAルートではなく)。予算執行していますのでそちらから後日明らかになるでしょう。
聞かれる内容がずれているからはっきり否定できていますが…。議員さんも一息はついたかもしれませんが、関係人員の多さから綻ぶかと思っています。
 また事業団関係の○藤議員の秘書が大規模農場の用地不足の為だけに動き回ったり。父親が誘致したしがらみを捨てきれず。

江藤議員さま、最も助けを必要とする一般農家には堆肥処理にしても丸投げしているのをどう感じますか?
利害のある大規模農場だけフォローしてはいかんでしょう…。

 飼料用に収穫したサイレージを泣く泣く堆肥に鋤き込んだり、焼酎かすを購入したりして必死に温度を上げています。県・国からは「60度に上げなさい」だけで。ではどうやって上げるんでしょうか…。

宮崎家保も温度測定ポイントを「きちんと」設定して下さい。広い面積なんですから。
そして堆肥からのウイルス検査の結果をきちんと反映して対策を考えて下さい。

投稿: みやざき甲斐 | 2010年8月22日 (日) 14時47分

生石灰は初期に扱いが悪く、発熱するから禁止、になってしまいました・>>>>発熱するから、ウイルス不活化に役立つのですが。。

ウイルス不活化には、PH調整か、高温処理しかないのですから。。

禁止の意味、わかりません。消防署も許可してますし。。

消石灰が混ざっていては、発酵菌が死滅するので、発酵温度が上がる訳がないです。
生石灰の反応熱を使うのが、なぜ、いけないのでしょう。とにかく、ウイルスを殺さないと、作業が出来ないでしょう。

国、県、JA、何考えているのか?農業ど素人でも、おかしいって、わかるのに。。

投稿: りぼん。 | 2010年8月22日 (日) 18時18分

>リボン様、みやざき甲斐さま、

お名前を取り違えて、大変申し訳ありません。
生石灰のことで、松井です。

30年前、国・県・市の補助金を受けて糞尿の生石灰処理が始まったと承知しています。稼働してから存在を知りました。今も各地で稼働しています。
糞尿が10分ほどで殺菌され、その残渣がほ場還元され、施用効果があるためか、処理費を十二分に充当する価格で購入され、リピータとなっています。
畜産売上の半分にもなる処理費を回収しているのは驚異ですが、それを許可した先人の働きに感謝する者です。

口蹄疫は4月に現実のものと知りましたが、この方法が利用されていれば、広がらなかったと感じます。そして、糞尿の完全殺菌では何も負担にはならないのですから。先人の心意気が活かせなかったと思います。

なお、生石灰処理の生石灰は、市中に流通する品位と違います。完璧に生石灰で、市中のものは空気中の水分と炭酸ガスで表面に被膜ができていて、全く異なる反応になります。良品は、全体が滑らかなスラリです。普通の生石灰では、糞尿と生石灰とがまじりあっているだけです。普通の生石灰を使用して失敗する事例は沢山あったようです。後者の処理物をほ場に利用すると、結果は使用しない方が良いくらいです。

なお、生石灰の値段より、生成物の固体粉末が高額で流通しています。それで、生石灰を大量に入れて、生成量を増やし、また、水分蒸発を軽減しようとする考えも生まれます。そのような処理設備も提案され、大量の生石灰を投入する方式もあります。それは、エッセンスが希釈され、耕地に良い影響はないと思います。私はそのような体験がないので判りませんが。

ただ、適正に運用されているものは、収量も増え、食味も改善され、牛蒡・長いもの連作障害も抑え込み、具合が良いです。指導員の緻密な検討の結果、牛蒡、長いもの連作ができるようになったのは、生産者には朗報です。巨大な円盤で深く耕す作物では、4年も機械が遊ぶのは困ります。

30年前に補助金物件としてくれた先人の先見の明に感謝する者です。それを止める、というのは常識では信じられないことです。

投稿: 松井 | 2010年8月22日 (日) 21時43分

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