宮崎口蹄疫事件 その76 自治体は自衛隊と事前協力体制を作っておくべきだ
皆様、たくさんのコメントをありがとうございました。気力が湧いてきました。
私のブログの口蹄疫シリーズの意味があるとすれば、いわば蝋燭の灯を絶やさないようなことではないでしょうか。蝋燭のようにたいして明るくもなく、たいした専門的知見があるわけでもありませんが、その一角を照らすことで同じ意志を持つ人たちの依代がわりになれば嬉しく思います。
今日は自衛隊の災害派遣についてみてみましょう。
[引用開始]
口蹄疫・都城市民、陸上自衛隊を慰労 88日間の活動に感謝
(毎日新聞8月1日)
口蹄疫防疫のための災害派遣活動を終了した陸上自衛隊都城駐屯地の隊員を慰労する会が30日、都城市のホテルであった。市民ら約160人が5月1日から88日間に及んだ活動に感謝し、労をねぎらった。
駐屯地の幹部約20人が出席。発起人代表の岡崎誠・市自衛隊協力会副会長が「困難な作業に黙々と取り組み、感銘を受けた。心から感謝します」とあいさつ。九鬼東一・第43普通科連隊長兼都城駐屯地司令は「国家、県の未曽有の大災害だった。早期復興を祈念する」と述べた。
都城駐屯地は県の災害派遣要請を受け、7月27日までに延べ約2万人の隊員を派遣。家畜の殺処分、埋却、ふん尿処理などの支援に当たった。
[引用終了]
テレビニュースでも見ましたが、「災害派遣」の垂れ幕を出した陸自の最後のトラックが町を去って行く時、多くの市民が頭を下げて手を振っていました。これとまったく同じ姿は5年前の茨城トリインフル事件でもみられた光景です。
実に88日間、延べ2万余の大規模出動でした。酷暑の中、ほんとうに献身的な活動でした。出動した都城第41普通科連隊の隊員の大半は宮崎出身の若者たちであり、彼らはみごとに故郷を守りきったのです。
さて、私は口蹄疫対策において、その準備段階から自衛隊との協同体制を準備しておくべきだと考えています。他の大規模災害である地震や洪水などでは平時から自治体との調整や訓練がなされてきています。
特に阪神大震災の知事の要請の遅れによる自衛隊投入のタイムロスの苦い教訓から、今や協同体制づくりが一般的となってきています。
自衛隊は日本で唯一の完結した編成を持つ大規模集団です。ここで言う「完結した」という意味は、部隊編成、補給体制、通信体制、医療体制がすべて自前でワンセット完結できているということです。
自衛隊にやや似た組織として警察や消防がありますが、この両組織は自前の完結性を備えていません。(あと海保には完結性がありますが、なにぶん海上ですから今回は除きます)
あんがい見逃されていますが、毎日数百人からのサポートを準備するということは大変なことです。ほかに出動している防疫関係者やボランティアまで含めると、たぶん約300人以上が現場にいたはずですから、各地の現場の裏方さんは大変なご苦労だったと思います。
現場までの移動、防護衣やゴム長、スコップ、動力噴霧機、石灰、消毒液などの防疫装備の調達、昼食の賄い、スタッフの健康管理、帰りの便の調達・・・気が遠くなるような分量です。
茨城トリインフル事件の時に私も目撃しましたが、このような時に自衛隊の自前の完結性がものを言います。なにせ、自分たちでトラックでやって来て、重機まで自分でトレーラーで搬入してしまい、オペレーターから作業員まですべて自前でやってしまうのですからスゴイ。ついでに昼飯も自前でまかなってしまうのもスゴイ。
地元としてはほぼ一切のサポートの準備がいらない集団、それが自衛隊なのです。この地元の負担がかぎりなく少ないということが、災害時に大きな意味を持ちます。このような強力な集団が毎日200名、88日間も現場で活動したのです。その威力を私たちは再認識しなければなりません。
ただし、自衛隊は便利屋ではありません。いきなり困ったから人を出せと言われても弱るケースもあるでしょう。今回は幸か不幸か、口蹄疫発生・確定から出動要請まで10日間ていどのブランクがありましたので、自衛隊側は事前の調査をすることがあるていど可能だったようです。
私はかねてから述べていますように、家畜保健衛生所(家保)の獣医師は、家畜防疫員として、家畜を診断し、検体を採集し、殺処分に必要な診断書を作り、指示書を書くことなどの獣医師でしかできないことに徹するべきだと思っています。
今回の口蹄疫ウイルスの侵入ルート、拡散ルートが確定できないひとつの理由は、発生点での発生動向調査、侵入ルートの遡及調査が徹底していなかったからです。有体に言えば、あまりの拡大の速度の速さにそれどころではなかったというのが実態ではなかったでしょうか。
そのウイルス拡大の速度に追いつけない理由のひとつに、殺処分に家保の獣医師(家畜防疫員)を全面的に投入してしまったことが上げられています。
これは宮崎県の判断ミスだと鹿児島大学・岡本嘉六教授は指摘しますが、他の自治体においても同様の方針である以上、宮崎にのみ限った独自判断ではなく、国の防疫指導上の問題が問われるべきです。
私は殺処分に自衛隊を投入すべきであると思います。それは、処分工程やその後の埋却処理まで含めてもっとも能率よく、自前で完結して対処できる能力を有する集団が、ほかならぬ自衛隊だからです。
その上、自衛隊は全国各県にかならず駐屯しています。そして普通科連隊には必ず重機を備えた施設中隊が付属しています。しかもバリバリの訓練を日々行っている郷土出身の若者集団です。こんな優れた集団を使わないテはありません。
それが可能となるための必要な法整備や、困ったから災害派遣という苦し紛れではなく、事前からあらかじめ自治体と地元自衛隊が口蹄疫対処の協議をし、訓練をしておくことが必要なのではないでしょうか。
ところで、やっぱり知事が自衛隊の出動終了式典に出なかったのはよくないと思いますよ。万端繰り合わせて出席し、郷土を守った若者たちに礼を尽くすべきでした。
■ この角度で撮られるとはスキありすぎ。
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イザという時(「有事」とか言うとなんか違うっぽい)の備えとして、自衛隊と自治体が様々な災害発生予測をして協力体制にあることは重要だと思います。
防衛大綱や予算の関係で冷遇されがちな陸上自衛隊ですが、
身の回りで実際に災害に見舞われた場合に助けになるのは、やはり陸自です。
今回の自衛隊の災害派遣で活躍された隊員の皆様に敬意を表します。
投稿: 山形 | 2010年8月19日 (木) 08時46分
おはようございます。
濱田様が仰る通り、自治体と自衛隊の協力体制を日ごろから構築しておく事は重要だとつくづく感じさせられた今回の事象でした。
特に私の住む十勝も、家畜は多いですしまた、地震も多発地帯であります。
平成15年の十勝沖地震時には、自衛隊の災害派遣がなされ、住民の水確保に機動力を発揮していました。
(私は家畜の水確保に奔走していましたが・・・)
町行政と口蹄疫発生時のマニュアル作りを行っていますが、自衛隊の派遣についてはまだ協議していませんでした。今週は出張で地元にいませんが、来週早々にも協議したいと思っています。
協議の中で、広い北海道十勝と言えども、埋却地の確保が課題になりそうです。
一戸一戸シミュレートすると、水源に近いとか、4メートル以上掘削すると水が湧いてくるとか、川に近い等々改めて考えると難しい事が分かりました。
近距離の移動を含めて検討しているところです。
濱田様今後ともご示唆いただきたいと思っています。
投稿: 北海道 | 2010年8月19日 (木) 09時29分
未だ、解りませんが、
1)と殺行為が、獣医でなければ、ならない法的根拠。(と畜員でも、所有者である家畜農家でも良いのでは?)静脈注射薬殺くらいが、獣医さんの範疇かと思います。と殺方法は、いろいろありますし。
2)検体採取が、家畜防疫員でなければ、ならない理由。採取マニュアルに、沿って採取するだけなので、民間獣医、応援獣医さんでも、良いのでは?
3)血液血清検体のみを、優先して、スワブ検体、デジタル写真など、なぜ、有効に使わないのでしょう。
極端な話、デジタル写真などはいくら撮っても、検査予算の圧迫にはなりませんし。なぜ、すべてのデータが揃わないなら、写真撮影さえも、あきらめてしまうのか?
4)検体採取して、ひとまず保存し、後日、分析する手法を部分的に取り入れない理由は?
5)自衛隊派遣要請は、知事しか出来ないの?
せめて、県内の自衛隊くらいは、自治体の首長で要請できないのでしょうか?
6)県外から応援に来た家畜防疫員は、正しい口蹄疫の情報を得られたのでしょうか?早朝から、現場に派遣され、すぐさま、作業しないといけない中、コミュニケーション不足は、無かったの?
これら疑問に思ってますが。
投稿: りぼん。 | 2010年8月19日 (木) 09時57分
都城の普通科連隊の皆様には、本当に感謝です。
現場での作業が過酷であったのははもちろん、
都城にウィルスを持ち帰らないよう細心の
注意をされたとのこと、その真摯な態度に
頭が下がります。
投稿: やごろうドン | 2010年8月19日 (木) 10時04分
私も山形さま、やごろろドンさま同様、自衛隊員の皆様に感謝の気持ちでいっぱいです。
自衛隊の皆様も暑い中で、防疫の服を着ての作業は本当に大変だろうなと思いながら、見ていました。
自衛隊の皆様のおかげで、家畜の埋設作業や消毒ポイントでの作業もはかどりましたしね。
濱田さまがおっしゃる様に、私も自衛隊との協力体制って重要だなと思います。
投稿: はま子 | 2010年8月19日 (木) 10時23分
今回のように、多数の家畜をいっぺんに処分する際には、自衛隊のような機動力は、本当に大事だと思います。今回の自衛隊の皆様の働きには、本当に頭がさがります。
ただ、まだ、初期の段階や、それほど頭数が多くない場合などは、やはり、地元の土木関係者に協力を要請するほうが、時間的にも素早いのではないかと思います。それらの事も勘案して、どの段階で自衛隊に応援要請をするのかとかも、事前にシュミレーションしておくのがよいのではないでしょうか?
一つ、気になりましたのが、家保職員(家畜防疫員)を発生動向調査や、遡及調査に専念させ、殺処分に自衛隊の関与をとのことですが、その殺処分の方法は、銃殺ということでしょうか?豚はガスと言う方法がありますが、牛は、どうしても薬剤を静脈注射する方法が、一番動物の福祉の観点からも良いのではないかと思います。そうなると、やはり、獣医師の関与が必要になるのではないかと思うのですが。
ただ、獣医師も家保などのような行政職員ではなく、NOSAI団体や、開業されている臨床獣医師の方が動物の扱いにもなれており、処分のスピードも速くなるのではないかと思います。それらについても、今後協力体制の構築が必要な気がします。
長文、失礼しました。
投稿: 一宮崎人 | 2010年8月19日 (木) 15時48分
獣医にしか出来ない、と主張するのは、多分薬事法による「薬殺時の要資格要件」なんだと思います。そんな事を書いている所があったので。
でも、殺処分手段を家伝法では限定していないし、豚に至っては電殺なんてテクニックのいる事もやってますから、「牛は薬殺するのが当たり前→薬殺は獣医→獣医じゃないと殺処分出来ない」という間違った思考回路があったのではないかと。
投稿: 通りすがり | 2010年8月19日 (木) 16時19分
消毒薬、バコマで、薬殺にこだわったのは、埋却後のウイルス死滅効果があると考えているからなのでしょうか?
豚は、電殺、ガス殺もしましたよね。鎮静剤使用など、複合的に、使っているので、現場作業者しか、具体的方法が、見えてこないのですが。。
これらのことも、見えてくれば、自衛隊さんでの、一貫作業が可能かも、見えてくると思います。
投稿: りぼん。 | 2010年8月19日 (木) 20時40分
家伝法の解釈では、家畜所有者が殺処分の義務を負いますが、従業員でも委託受けた助っ人でもできます。
つまり、所有者による業務命令・業務委託。
あくまで解釈です。
また、殺処分方法の指定はありませんから、どの方法をとるかも処分を行う者が取り得る方法でOK。
ただし動物医薬品を用いる場合は、投与や処方に当たっては獣医師が診断する必要があります…獣医師法。
鎮静剤も獣医師の処方で使えると解釈できます。
ですから、獣医師でなけれできないというのは、法解釈の不十分さから出たと思われます。
パコマ使用の理由は、即効的に効く、価格が安い、使い残しても安全、量が少なくて済む…親豚で5~10CCくらいあれば十分\…など。
雄豚は危険防止から鎮静剤投与から電殺。
牛も危険防止から鎮静剤にパコマ
電殺機は台数が少なく、また連続使用では故障するため、薬殺と併用されたとのこと。
子豚は静注が困難で頭数が多いため、ガス殺とのこと。
投稿: 現役養豚家 | 2010年8月19日 (木) 21時42分
実際、家保の獣医さんでは、種豚の首大動脈に、注射するのは、得意でないから、養豚農家さんの方が、上手で、手早いかもしれません。
子豚は、血管が、うまくみつからないでしょうね。
だから、獣医師は、立ち会うけど、実務は、実際に出来る人が、やっていただく方法で、良いのでは?
後半は、埋却地へ生きたまま誘導して、ガス殺した豚も、あったようですね。
これなら、だれでも、できそうですが。。
投稿: りぼん。 | 2010年8月19日 (木) 23時39分
おはようございます。
濱田様の記事と若干ずれるのですが、私が今一番心配しているのが「糞尿」の処理です。
1週間後の27日頃に処理が終了し、宮崎県では終息宣言がなされるやに聞いておりますが・・・
①発生農場の糞尿処理についてはかなり万全の対応が為されているものと推察します。
②ワクチン接種後殺処分家畜の糞尿についても、①のようにきちんと処理されているのか不安。
③ワクチン接種後殺処分家畜は全てが非感染畜だったのか?その中に発症或いは潜伏状態だった家畜が存在しなかったのか?そんな可能性を考慮した上で、糞尿処理を行ったのか?
③肥育牛の糞尿については、敷き藁も混入している為発酵熱は上がりやすいが、特に豚や乳牛でフリーストールパーラーシステムの酪農家の糞尿は、ベタベタで発酵させるにはかなりの副資材(水分調整剤)が必要であり、ウイルスを死滅させるだけの熱が確保されるか不安。
④糞尿にはかなりの石灰が混じっており、発酵が進むのかどうか・
⑤一旦終息宣言が出され、安心した段階で、糞尿が原因で再発しないか?
等々心配な点があります。
県内県外問わず不安を払拭するように情報の公開を切に望むところです。
投稿: 北海道 | 2010年8月20日 (金) 08時39分
えびののCowboyです。
えびの市にも駐屯地があるのですが、不用不急の外出を制限されていたせいもあるかもしれませんが、ここえびの市では、一切、自衛官(災害派遣の)は見かけませんでした。私は、当初から、知事や市長にメールで、「消毒作業を自衛官にやってもらいたい。市役所職員やJA職員が夜中までやるのは、おかしい。制服を着た人間(権力の象徴として)が行ったほうが、消毒を拒否する人間はいなくなるはず。」と訴えましたが、何の反応もありませんでした。私は、今でも、埋却処分だけでなく、消毒ポイントにおける作業は、自衛官が24時間、行うべきだと考えます。
殺処分の話になっていますが、肥育牛は1トン近いものも珍しくなく、いくら屈強でも自衛官だけでは到底無理だと思います。牛の扱いに恐ろしく精通した自衛官なら別ですが。パコマの静注は、よく、牛の安楽死でも使われますから、現役養豚家さんが言われるように、即効性・経済性・環境問題を考えれば、ベストだと思います。ただ、これを自衛官にさせるというのは、難しいかもしれません。皮下注、筋注なら、誰でもできますが、静注は訓練が必要だと思います。
獣医師に殺処分をさせない方が良いとの意見もあるようですが、少なくとも、死亡確認は獣医師の仕事なのではないでしょうか。今回は、よく分かりませんが、家畜共済金の支払い云々に関しては、獣医師の確認が必要です。国の補償金に関しては、どうか分かりませんが。
やはり、殺処分の場には、獣医師が必要だと思います。実作業をする必要はないかもしれませんが。
投稿: Cowboy | 2010年8月20日 (金) 12時20分
こんにちは。
私も、濱田様と皆様と同じ様に自衛隊さんの活躍に感謝している者の一人です。とても頭が下がります。
しかし、知事に対しては違う感想を持ちました。
知事は7月26日付のブログにて早早に感謝の言葉を記されてます。
『発生から本日までの約3ヶ月にわたり、関係各位の方々、発生農家さん、周辺住民の方々、県内は勿論、県外から応援を頂いた家畜防疫員を始めとする国・県・市町村職員の皆様、農業関係組織・団体の皆様、自衛隊・警察、地元建設業、ボランティアの方々等、本当に様々な方々に、懸命の防疫作業や蔓延防止対策に尽力して頂きました。それらの多大なるご支援やご協力、ご尽力のお陰をもちまして、ようやくこの日を迎えることが出来ました。本当に有り難うございました。』
慰労会に出席することだけが感謝の意を表す場ではないと思うのです。
また、知事が言われているように自衛隊さん以外の協力もそれぞれに貴重で、出来ることなら、それぞれの皆様に感謝の言葉を『直接に』伝えたいというのが知事の気持ちではないでしょうか?
報道されないところでも、何かの機会の際には感謝の気持ちを伝えていらっしゃるとも想像するのですが如何でしょう?
長くなり、すみませんが、
あと、殺処分が遅れた一番の原因は埋却地が確保できなかったことだと思います。。
『自衛隊さんへの要請の遅れ』や『殺処分の方法』は今後の課題として語られるのであれば納得できますが、『殺処分の遅れ』という大事なポイントで知事の責任を問われるのは違うように思いました。
濱田様はご謙遜されてますが、このブログの読者は多く濱田様の意見の影響力も大きいと思いますので、生意気ながら意見させて頂きました。
投稿: しま | 2010年8月20日 (金) 12時45分