宮崎口蹄疫事件 その64 ウイルス・テロ説を考える
この宮崎口蹄疫事件を振り返ると、口蹄疫ウイルステロ説が一部のネット界では定説のようになっていることに気がつきます。
ひとつのウイルス・テロ説の流れは、東アジアのいずれかの国によるテロ陰謀説で、かなりぶっ飛んでいる印象を拭えません。
そしていまひとつのウイルステロ説の流れは、今回のような悪性海外伝染病に対して、弥縫的な対策を繰り返すのではなく、国家的な危機管理体制を作るべきだという考えの中から出てきています。
たとえば英国や韓国での口蹄疫緊急対策は、ロンドン地下鉄テロや9・11同時テロとまったく同様な位置づけで、口蹄疫を捉えています。この基本方針は、世界的には珍しくない考えで、むしろ主流なのではないかと思われます。
WHOは「食品テロリストの脅威」という文書の中で、水道や食品の中にウイルスを混入させるテロリストに対して警鐘を鳴らしています。米国のUSDA(米国農務省)は、国内に口蹄疫ウイルスを散布されたケースを前提にして全国に、口蹄疫診断施設を設けました。
また国際的な口蹄疫情報センターとして、USDAは「世界口蹄疫研究同盟」(Global Foot &Mouse Disease Research Al liance )を設立しました。この世界的ネットは米国を中心として英国などの欧州諸国、そして韓国などが含まれています。口蹄疫に対する世界的な安全保障体制の前段の国際的研究情報体制と考えていいでしょう。
そしてその口蹄疫診断施設の中核として、USDAはDHS(化粧品メーカーではなくて米国国土安全保障省)と共同で「プラム島動物疾病センター」Plum Island Animal Disease Centerを立ち上げています。この研究施設の主な研究対象は口蹄疫です。ここで農務省はともかくとして、大規模災害やテロに対する国家緊急組織であるDHSが出ばってくることに注目してください。
これは明確に農業テロを想定していることを意味します。
ではなぜ、口蹄疫なのか?それは口蹄疫が「貧者の核爆弾」だからです。簡単に入手でき、簡単に国境を超えことができ、簡単に相手国で散布が可能なウイルス兵器は、口蹄疫がもってこいだからにほかなりません。
これが冷戦期のような天然痘、ペストなどとなると持ち込むテロリストの側にもそうとうな覚悟と安全措置が要求されます。下手をすれば自分もおっ死んでしまいますものね。しかし、口蹄疫は、人体には無害ですし、安直にウイルス株を採取できる非清浄国はゴロゴロしています。
また口蹄疫は防ぐ立場になると大変な防疫体制と診断研究施設(が必要となりますが、テロ兵器として増殖させるとなると特殊な研究施設は要りません。発生地で患畜からもらえばいいだけです。
そして実行も、口蹄疫ウイルスをたっぷりまぶした靴を履いて入国するだけでいいのですから、こんな安直かつ安価なテロの方法はありません。しかも、国境検疫で見つかっても、爆弾などと違って知らぬ存ぜぬを通せてしまいます。
この口蹄疫ウイルスを相手国の農業の中心部にバラまけば、大きな経済的なダメージを与えられますし、一時的に行政や交通網を麻痺させることも可能となります。そしてなにより社会不安や政府への不信を醸成することができます。
防疫に失敗して全国に飛び火させれば、国家経済に打撃を与えることも可能です。事実、5月中旬わが国はこの状況の淵にいました。
さて、口蹄疫ウイルスの採取は簡単だと書きました。東アジアではなんといっても中国という世界最大の非清浄国があり、北朝鮮は言うも愚かです。しかもご丁寧にも、「人民戦争」という非正規戦(ゲリラ戦)が伝統的に大好きなお国柄ときています。
こんな国に周りをズラリと囲まれて、韓国が米国と口蹄疫の国際的安全保障体制である世界口蹄疫研究同盟に加盟して、有力な一角を担っているのは当然すぎるほど当然なことです。日本がのんきなのです。
このシリーズの英国の口蹄疫緊急対策で、デフラ(英国農務省)が初動において直ちに閣僚、関係省庁と情報と指令を共有する緊急対応体制を構築し、初動制圧チームを数時間以内に現地に投入できる体制を持つことを見てきました。
家伝法の改正がなされるようですが、このような包括的な国家危機管理体制を作る意志がなければ単なる対症療法に終わることでしょう。
次回は、現実に今回の事件が人為的なウイルステロであったかを考えてみましょう。
■写真 私の村は「弐湖の邦」といって、ぜいたくにもふたつの大きな湖にはさまれた湖岸にあります。この写真は霞ヶ浦ではなく北浦の湖ほうですが、わが地元では北浦は北浦、霞ヶ浦のほうは「西浦」と呼んだりします。
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コメント
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ネットで先行しがちな安易な『陰謀論』は危険だと思います。
ただし、しっかりと検証はされるべきだと。
なんか昔からある中世ヨーロッパを描いた漫画の「水源に毒を入れて、街全滅」と同じというか、人類って進歩しないのか…と。
まあ、数十年前の旧日本軍でもアメリカ本土に決死隊を潜入させて、ロサンゼルスに細菌をばら蒔く計画なんてのもあったりしましたが…。
投稿: 山形 | 2010年8月 2日 (月) 08時13分
杞憂かもしれませんが
このように一種の方法を克明に
書くことは畜産農家として不安になります。
少し表現や内容を考慮いただけませんか?
投稿: 通りすがり | 2010年8月 2日 (月) 10時23分
今月中に、宮崎の検証中間報告が、農水省から発表になると思います。
旧日本軍は、中国で、細菌兵器人体実験をした訳ですし、地下鉄サリン事件もあった訳ですので、今回の宮崎が、テロかどうかは、別として、テロ対策は、必要と思います。
ただ、農水省が、その先頭に立って、行動するかと言うと、否定的かも知れません。
投稿: りぼん。 | 2010年8月 2日 (月) 10時24分
感染ルート解明にあたって、農水省がアングラ牧場にいたアジア系従業員を調べないのはなぜでしょうかねぇ?
投稿: マキ | 2010年8月 2日 (月) 10時39分
やっぱり、公安が担当になるんでしょうか。
投稿: 下請です | 2010年8月 2日 (月) 10時40分
公安と宮崎県警が、管総理あてにレポートを提出したが、総理に一蹴されたと言う記事を、どこかのブログでみました。
真偽不明です。
テロは無くても、これだけの被害を出す事が今回明らかになった訳ですから、諸外国並みの対策を講じる組織を作ることは、絶対必要であります。
投稿: 一宮崎人 | 2010年8月 2日 (月) 13時02分
農水省はアングラ牧場を野放しにする気でしょうかね?
病牛が多いのは有名だし、どれだけいい加減か色々情報が入ってくる。
。
本社のある那須では、一年以内に食肉センターが何度も不祥事起こしてニュースになっているから、それを含めるとさらに気持ち悪い。
感染拡大させたのは川南のアングラ牧場だろ。
テロはありえないと思う。
投稿: マキ | 2010年8月 2日 (月) 13時58分
種付け再開は制限期間中自粛されていたので、素直に喜ばしい面もあると思います。和牛の生産はお互いの信頼関係が大事だと思います。
4月20日の移動制限で事業団に保管されていたボンベは家伝法にのっとって移動制限、また感染していなかった特例種牛からも勿論採取されていません、と事業団も説明しています。
今再開で供給されている特例牛からのストローはそれ以前に採取され、供給の為受精師の手元や各地JAに保管されていた物が配布されている、はずです。
ただOIEの定める基準に違反しないかどうかは初発を3月31日採取のスワブから遡っただけで、公式見解を出してしまっていますのでどの時期のストローまでが国際的にも安全と認められるか分からない状況だと思います。今後ウイルスの遺伝子検査の結果も調査が進んで、感染時期の解明が進めばまた状況(日付け)が変わるかもしれませんし・・・。
何よりこれを機会に事業団の中身について透明性を持たせる良い機会だと捉えてほしいものです。内部留保を再建に生かしては、と思っています。
西都で生き残っていた大規模牧場からの異常な出荷ペースも続いていて、それも8月10日には終わりそうです。通常3日に15頭ほどのはずなのですが毎日。
7,8例目が申告してきた後、立ち入りしてみると農場全体を隔離出来ないか検討する程、「蔓延」するまで放置していた会社、それに獣医師は気付かなかったで済むのでしょうか。
トレサビで消費者も10ケタ番号で農場名、住所を確認し、信頼できる農場のお肉を購入する自衛策が必要だと痛感しています。
投稿: みやざき甲斐 | 2010年8月 2日 (月) 23時32分
みやざき甲斐様
高鍋の事業団に保存されていたストローが8月になって配布されています。
各地区に保存されていたものでない、高鍋の事業団に保存されていたものです。
事業団は発生農場ではありませんか?その農場のものは全て防疫処置を講じなければならないのでは?ストローはどのような防疫処置が施され、安全であると誰が担保したのですか?何も情報がないのですが?
投稿: 一宮崎人 | 2010年8月 3日 (火) 00時04分
一宮崎人様
コメントの件ですが、高鍋事業団からの配布はどこの地区でしょうか?地区で差が出ているのか・・・。
発生農場として発症する前に移動してしまった事になりますね。
教えていただけますか?
投稿: みやざき甲斐 | 2010年8月 3日 (火) 00時18分
事業団に問い合わせるのが一番正確かと。
私が電話で聞いた内容ですが
「すでに配布を再開した」
「高鍋から出している」
との答え。
肝心の事業団保管分かどうかは聞き忘れ。
ただ、高鍋から出しているとの答えですが
「分散保管してあった物かもしれません」
が、常識で考えても今の時期にあそこに戻すことはしないでしょうし、そもそも、持ち出す暇も無ければ
大量のストローを受け入れる準備もできなかったでしょう。
投稿: 現役養豚家 | 2010年8月 3日 (火) 00時49分
現役養豚家様
おはようございます。
一宮崎人さまがかなり具体的にご存知みたいですのでコメントを待ちたい所です。
事業団も日常的に配布するために常日頃から一定量は各地(高鍋内)にストックするのが普通です。(事業団で発症したから移動した、という事では有りません)
これを機会に閉鎖的体質を改善されると良いのですが。でないと宮崎全体の信頼に関わります。
投稿: みやざき甲斐 | 2010年8月 3日 (火) 06時59分
みやざき甲斐様
県北地区では、いち早く受精が再開しましたので、事業団保管分の配布が始まっています。
8月からの配布だそうです。
投稿: 一宮崎人 | 2010年8月 3日 (火) 09時02分
一宮崎人様
コメントありがとうございます。県北での配布は事業団がどこに保管していたタンクかで事情は変わりますね。農家側の自衛策として、ストローの識別票は保管されると後で問い合わせなどしたり、されたりする時に役に立つと思います。
貴重なコメントありがとうございます
投稿: みやざき甲斐 | 2010年8月 3日 (火) 21時25分