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2010年8月16日 (月)

宮崎口蹄疫事件 その74  埋却地問題の壁と特別措置法

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アキアカネが飛び始めています。この赤トンボが飛ぶようになるとなんとはなしに秋風を感じます。ただし、言うまでもありませんがまだお天気は煮えたぎっていて、昨日などは36度でしたが。

さて、前から気になっていたことのひとつに埋却地問題がありました。牛、豚といった大型家畜を埋却するには大変な面積が必要です。これを当事者が自分の私有地に埋却する以外に方法はあるのだろうかという疑問でした。

宮崎県の処分の遅れには色々な原因がありますが、そのひとつには絶対的に埋却地が足りないという問題もあったはずです。

高市早苗議員が見つけ出した山田副大臣(当時現地対策本部長)と地元町村との交渉の記録があります。(5/26早苗コラムより引用)

「口蹄疫・現地対策本部(日報)」
 5月18日
 ■新富町議長「豚・肥育牛中心の畜産団地なので、埋却地は容易には見当た
 らない」
 ■山田副大臣「土地は国で買い上げるとしても見当たらないか。県有地、国
 有地はないのか」
 ■町長「ない」
 ■副大臣「1年間の補償をすれば売ってくれるのか」
 ■町議長「来年以降の生計を失うので、売却側は迷うだろう」
 ■補佐官「しかし埋めなければ先に進まない。国が買い上げる場所は1つも
 ないのか」
 ■副町長「1年間の補償をして、来年度以降の代替農地があれば、可能かも
 しれない。しかし、補償をしっかり国が支えて欲しい」
(引用終了)

これを読むと、国が乗り出しても地元は「土地を売らない」様子がくっきりと描き出されています。応援に駆けつけた全国の家保やボランティアの獣医師も、処分ができないために待機を余儀なくされたという話も伝わっています。

この埋却用地に対する地元の拒否反応は、予想された反応でした。いかに消毒液や石灰をかけられたとしても、家畜運搬車両や防疫関係車両がウイルスを持ち込むこともありえます。

ウイルス汚染した患畜が英国のように焼却されないために、シート一枚を穴の底に敷いて埋められるわけですから、シートが破損すれば地下水にウイルスが漏れだし、一帯の水系を汚染する可能性も否定できません。

また、いったん患畜が埋められてしまえば、ほぼ買い手がつかない土地になります。埋められた一角をもっているだけで、その人の農地は現実には流動性がほぼなくなるわけです。

近隣も自分の土地の価値が下がるので(農家は非常にそれに敏感ですが)、隣地に埋却地が来ることを嫌がってなかなか了解を与えません。

これは私の地元でもそうで、茨城トリインフルエンザ事件で埋却処分した土地は二度と買う者が現れない地になっています。わが県は比較的早期に自衛隊が投入され、地元建設業組合が埋却作業に加わったのですか、それでも用地問題がネックでした。

関西のトリインフルを発生させて、気の毒にも経営者夫婦が自殺された養鶏場はいまでも廃墟のままとなっているそうです。

また、農水省は「1年間の補償をしてもだめなのか」ともちかけていますが、地元は「それ以降の生計がなくなる。代替農地が必要だ」と述べています。

しかし、現実にはそうそう簡単に代替地は見つからなかったと思われます。これも私の地元で県の複合団地建設があった折の代替農地騒動を思い出します。代替農地がそうとう面積必要だとわかった瞬間、農地価格はハネ上がります。

売り買いに税金がかからない公的買収だと通常の5、6倍の価格が平気でついてしまうことでしょう。今までの反あたりいくらから、坪あたりいくらの宅地並の世界になるわけです。

5月中旬の宮崎県でなぜ処分が滞ったのかの原因がこれで判ります。宮崎県は埋却地確保の予算がスッカラカンになっており、国が買収に乗り出してもそもそも「売らない」という地元側の硬い意志が出てきたからです。

しかし、後か後から山のように患畜が発生していきました。その状況は下図の発生頭数と処分頭数を比較した図をご覧ください。
(出典・鹿大岡本教授による)

Photo これを見ると5月6日に発生した豚の処分を実に10日前後遅れで処分している様が見て取れます。殺処分は数時間以内、遅くとも3日以内が防疫の原則ですからとてつもない遅滞といえます。

豚はご承知のように最大3千倍にウイルスを拡大濃縮して放散しますから、豚の処分が遅れ続ける限り、感染拡大は止まるはずがないことになります。

しかし、埋却地買収が壁に突き当たり、処分の先行きがまったく読めなくなりました。この5月中旬の時点になって、4月26日の県議会で知事自らが自衛隊の出動を拒否してしまったことが響いてきたためです。

4月28日の川南の県畜産試験場の豚が発症した段階で、自衛隊(都城駐屯地)の持つ重機とすぐれたマンパワーを処分と埋却任務で集中的に投入しておけば、5月に入っての感染拡大はかなり抑えられたと思われます。

これをこともあろうに、出動要請の権限を持つ知事自らが拒否してしまったことは悔やまれます。また、防衛大臣や山田副大臣も強力に知事に働きかけるべきでした。しかしこちらもわれ関せずを決め込み、初期制圧の可能性は完全に消えたのでした。

そして、国はこのタイミングを見計らったかのようにワクチン接種することを方針化して、宮崎県に降ろしたのでした。これが5月18日の疾病小委員会の「発生農場から10㎞以内をワクチン接種して殺処分」という新方針でした。

これはかねてからの農水省の規定方針であったとみえて、いちおう疾病小委員会に答申させた形にはなっていますが、翌日の19日には農水省が了承、なんと20日夜にはワクチンの現物が宮崎県に到着するという手回しのよさでした。かねてからの準備なくしてはありえない速さです。

このワクチン接種方針とワンセットになったのが口蹄疫特別措置法です。特別措置法の要点は、「予防的殺処分を国が強制的にできる」ことに尽きます。そのための補償や埋却地買収なども書かれてはいますが、内容をよく読めば「国と地方自治体が責任をもってやる」という曖昧な表現にとどまっています。この曖昧さが後に宮崎県と国の確執を呼びます。

それはさておき、この特別措置法の成立によりl国は家伝法の欠陥から生じた殺処分命令を地方自治体首長が命じる(*ほんとうは違いますが)状態から、それを剥奪して国の側に持ってくることが可能となりました。

この新方針に従わざるを得なかったとはいえ、宮崎県側のショックは大きかったと思われます。なぜなら、それでなくとも壁に突き当たっている埋却地が、更にワクチン接種・殺処分方針により膨大な数に膨れ上がることが目に見えていたからです。

国は県が埋却地でニッチもサッチもいかないことを重々知りながらワクチン方針を事実上強制してきたことになります。知事が怒り狂う心情も理解できます。

このような一連の流れと、県の対策会議内容が国に筒抜けになっていることが発覚し、県知事は国への不信を募らせたのでした。

■写真 アキアカネ。だんだん色が鮮明な赤になっていきます。

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コメント

心が痛いです。

埋却地確保問題で以前私がコメント欄に投稿した話ですが、
「ゴミ焼却施設で処理」って無理なんでしょうか?

豚や牛をゴミ扱いすんな!暴論だ!
という批判は覚悟の上です。
後顧の憂いで大変な思い(農場主が自殺するなんて…)をするなら、そして埋却地のその後の実態を考えるなら…

ものすごく心が痛いことですが、実現性があるか判りませんが、検討されてしかるべきことと考えます。

毎年数十万頭を処理する公的ペット斎場が、ゴミ処理場にあるのは普通のことですし。祭壇があるか無いかだけの違いという現実。

真面目に検討されていいことだと思います。

気を悪くされた畜産家の皆さん、すいませんですm(__)m。

埋設地の確保についてですが、土地があっても、近隣の住民全員の承認がないとダメなのです。
あとは、土地の状態というのもあります。例え、土地があったとしても色々な条件をクリアしないといけない。畜産農家や関係者は本当に大変だったと言っています。埋設地の件で、近隣住民とケンカになったり、仲が悪くなったという方も実際にいらっしゃるようですね。
知事が4月26日に出動拒否したのは、出動を依頼しても、土地がなかなか見つからない状態では意味がないと考えたのでしょうかね・・・?
>山形さま
イギリスの時は、焼却処分してましたよね。なので、私も可能なのでは?と思ってましたが、旦那の話によると、法律で焼却処分が出来ない為、埋設しか方法が無いという事でした。どうやら、環境問題(煙やニオイ等)があるからのようです。
昨日の、宮崎ローカルでの討論番組(討論と言えるモノではありませんでしたが)でも、農家の方が焼却処分も出来るよう法改正が必要ではとおっしゃってました。

はま子様

ご意見ありがとうございます。
法の壁ってやつですかねえ。

●環境問題に関しては、
ゴミ焼却場の近年のダイオキシン汚染騒動→800℃以上の高温で焼却することによってクリアできる。
●(人の)火葬場移転問題→私の自治体でも問題になりましたが、「近所にあるのはイヤだ」と反対運動があっただけで、実際に元の場所で最新設備(無煙ロースターってやつです)に更新されて20年もたってみると市街地でも全くニオイの問題は無い。
私も家族3人焼きました。
感情論が一番の問題かもしれません。
山形市(と周辺市町村)でもゴミ焼却場の移転問題がこじれて、移転計画が頓挫してます。
一応公募で募ったはずの場所が山の中で、実は地権者と市がベッタリだったり、反対派が一部の土地を買い取ったまま話が強行されて裁判になったり…。
そりゃ、自分の家の近くだったら誰でも嫌でしょう。私だってゴミ収集車が毎日側を走られたら嫌です。
いまだに老朽化した焼却場をダマシダマシ使ってるのが現状です。現地住民の抗議の幟が並んでいます。

でも、どうしても必要な施設です。だからこそ輸送環境・効率面からも市街地に近い場所が理想です。
そして、ダイオキシン対策で各地の焼却炉を更新する際に処理量の大小で国からのバラマキ補助金が出るか出ないかで過大な見積りをして大型炉を導入したものの、燃やすゴミが無くて重油を焚いて維持しているバカな自治体も多いのです。(地元民が誰も利用しないようなガラガラの温水プール等を併設して作ったりしてるところも。)

さて口蹄疫患畜の場合は、輸送経路の防疫・安全性対策が第一になりますが、発生~輸送決定時に素早く消毒ポイントを設置すれば、しっかり可能であると考えます。

必要なら隣県からも受け入れ可能な施設は沢山あるはずですよ!

いずれにしても、せっかく政権交代した現在政権党の民主が(私はキライですが)、政権交代ならではの話題で議題の遡上に上げて徹底議論して欲しいと思ってます。
全国レベルのシミュレーションとして、「どこで1日何万頭の焼却処理が可能」といったことは把握すべきです。一般家庭ゴミに優先して処理できる量もふくめて。
賢い小さな自治体では「補助金なんかいらん!必要最低限サイズで焼却炉更新する。後はゴミ減量とリサイクルで対処する」という気骨のあるところもありますから。

で、更新中の施設談合でカルテル過払い金返還裁判なども起きており、なんかグチャグチャなのが現実に起きていることなのです。

いつも、読ませて頂いてます。
知事は、5月1日に自衛隊の災害派遣要請をされてますが、それまでの経緯の中で一度は派遣受け入れを断ったということでしょうか?
記事を読んでいろいろ探しましたが、自分の探せる範囲では、そういった内容の記事にぶつからず、質問をさせて頂きました。

■ ごみ焼却場や化製場が、たまたま近くにあれば、利用も可能だと思いますが、感染農場から離れたところにあれば、患畜を運ぶことによって、感染を広げてしまう可能性があります。
  また、人間の10倍以上の体重の成牛は、中まで火が通るのにかなりの燃料と時間が必要でしょう。炉の構造も、そんなものを焼くことは想定していないでしょうし、そんなものを焼いた経験もなければ、炉の運転も難しいかもしれません。

■ 家畜の死体は、法的には産業廃棄物なので、廃棄物処理法の制約を受けます。野焼きが出来ない理由や、埋却に際して近隣の同意が必要な理由がここにあります。
  但し、家畜伝染病予防法は、廃棄物処理法よりも上位なので、どうしても、と言う場合は、廃棄物処理法を無視して処理することも不可能ではないようです。
  とはいえ、現実問題として、イギリスの場合はいざ知らず、隣家までの距離がさほどなければ、野焼きを行うのも困難でしょう。

■ 今回は、なるべく感染農場の近くで埋却場を用意する、という原則に縛られたため、埋却場の準備はたいへん遅れてしまいました。あくまで私見ですが、ある程度感染が広がってしまったら、患畜を移動して、共同埋却場で処分してもよかったのでは、と思っています。

■ ついでに書きますが、ダイオキシン問題が大きく報道されたときに、焼却炉が悪者にされてしまいましたが、その後の調査では、日本でダイオキシンの汚染が最も激しかったのは1960-1970年代にかけてで、そのかなりの部分は農薬起源と推定されています。また、現在、日本の環境中にあるダイオキシンも、そのころに由来するものが大半だと推定されています。このことは小さくしか報道されていませんので、一般の方にどれだけ知られているか判りませんが…。

焼却処分するには、牛1頭入る大きさの炉が必要です。化製場法による死亡獣畜処分場くらいしか、この大きさの炉は、ないでしょう。現地、宮崎で、移動制限区域内には、炉が無かったので、まずは、無理でした。また、人間でも、1時間以上火葬に時間が掛かりますので、牛となると、時間がかかりすぎて、24時間以内に処分するのは、難しいでしょう。

現場は、とても、英国のように、野焼きが出来る環境ではないですし。

近年、建設された炉であれば、ダイオキシン問題は、クリアーしてますが、数十億のお金が、炉の建設費用にかかりますので、埋却が、一番てっとり早いと思います。

燃やすゴミが無くて重油を焚いて維持しているバカな自治体も多いのです>>>>これは、周辺自治体と共同して、利用すれば、維持費は、圧縮できるはずです。
現に、複数の自治体で、広域処分場を運営しているところは、多いです。

産業廃棄物処理法。化製場法関係ですので、結構、法的にも、クリアーすべき問題は、多いでしょう。

いずれにせよ。30万頭の発生24時間以内の火葬は、ほぼ無理です。

山形さま
口蹄疫に感染した家畜の殺処分の方法については、これからも議論が必要になりそうですね。
他の皆様が書かれているように、色々な問題がありますしね。難しいですね。
コンタンさま
>あくまで私見ですが、ある程度感染が広がってしまったら、患畜を移動して、共同埋却場で処分してもよかったのでは、と思っています。
感染が拡がってしまってからは、知事が大臣と話し合い、国の承認をもらい、埋設現場まで牛や豚を連れていき、そこで殺処分して埋設という形を取っていました。そうしないと、ワクチン接種分の殺処分もあり、殺処分と埋設が追いつかないという現状でした。
埋設作業にかり出された旦那は、目の前で殺処分されて埋められていくのを見るのは辛かった。もう、二度とやりたくないって言ってました。

そうでしたね。

穴掘って、そこへ、豚さんを誘導して、ブルーシートで、覆って、ガスで、窒息死という方が、時間的に、スムーズかもです。

ワクチン接種地域は、周辺に家畜が居なくなるので、生きたまま、埋却地へ誘導しても、大差ないかもしれませんね。

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